朗読:麦と兵隊
- AI summary (β)
- 銃声が遠くで聞こえ、榴弾が頭上を通り過ぎる中、森に近づくと黒い影や馬が見えた。部落に入ると土の家が収容所として使われており、自動車隊のところで報道部の高橋少佐がいると聞いたが見つけられなかった。疲れていたので寝ることにし、壊れた懐中時計が5時14分で止まっていた。満員の部屋で寝台を見つけて横になり、家族に感謝の言葉をつぶやいた。眠れずにいると鶏のひなの鳴き声が聞こえ、手に触れると温かさが伝わり涙が出た。寒くなり牛小屋に移動し、遠くの銃声を聞きながら眠りについた。
- pid
- 3571580
- date
- 1940-02
- note
- デジタル変換後ノイズ除去 : 無, 商品番号 : 33658, 朗読
- year
- 1940
- genre
- 文学作品の朗読、解説
- creators
- 火野 葦平[作詞], 火野 葦平
- duration
- 199
- persName
- 火野 葦平
- publisher
- コロムビア(戦前)
銃声は豆を射るように聞こえるくらい離れた。
榴弾が時折蚊のような音を立てて頭上を通り過ぎる。
森に近づくと森の中に何人も黒い影が動くのが見え、
繋がれている馬の姿も見えた。
そこであった。ほとんど三キロも歩いたようである。
部落に入ると土の家を全部収容所に当てている。
自動車隊のところへ来て、
もしや報道部の自動車はいないかと思ったがいなかった。
部隊本部の自動車がいたので運転手に、
この自動車はいつ本部に追及するか、
帰るときには便乗させてほしいと言った。
するとその運転手は私の顔を見ていたが、
報道部の高橋少佐殿がここにおられますよと言った。
私は驚いて、どうしたのだと聞くと、
村官が逆襲を受けて危険だというので、
脇坂部隊の一部がこのトラックで救援隊として午後3時ごろ出発したのだが、
それと一緒に来られたのだと言った。
どこにおられるかと聞いたけれども、非常に心配されて、
あちらこちらされていたからどこにおられるかわからないという。
ぜひ会いたいと思い、私はそこら中を探してみたけれども、
どうしても見当たらなかった。
疲れていたし、夜が明ければ会えると思ったので、私は寝ることにした。
時間は何時ごろなのか全くわからなかった。
右のポケットに入れてあった懐中時計はどこでぶつかったのか。
ガラスがめちゃめちゃに壊れて、
短信が飛び、5時14分で止まっていた。
一緒に下がってきた兵隊のいるさっきの家に来てみると、
部屋は満員で、いびきが聞こえ、もうみんな眠っていた。
かすかな血の匂いがあった。
土の壁に白縄で張った寝台が立てかけてあったので、私はそれを担ぎ出した。
それを近くにいくつもあった箱の上に倒して、私はその上に寝転んだ。
久しぶりで横になったような気がした。
冷たい風がすっときて頬を流れた。
お父さん、お母さん、生きていました。
生きました。ありがとうございましたと言ってみた。
一面に曇っていた空はいつのまにか雲が切れてきて、
北方に向かって走り、月が出そうでありながらどうしても顔を出さなかった。
そうかと思うと暗くなってきて、雨がパラパラと落ちてきたりした。
いろいろな思いが巨大し、なかなか眠れないで寝返りを打っていると、
寝台の下でコトコトと音がしだした。
ネズミでもいるのかと思い、覗いてみたが暗くて何にも見えない。
すると笛を吹くような声がしきりにする。
私は手を伸ばして箱の中に差し込んだ。
柔らかい綿のようなものが手に触り、ピヨピヨピヨと鳴き声が激しくなった。
鶏のひなだ。たくさん入っている。
ふわふわと柔らかく手に触っていたが、
じっと手を入れていると明星しがたいぬくもりが私の手を伝ってきた。
私は妙に胸が痛くなってきて、急にタラタラと涙が流れた。
しばらくそこにいたけれども、寒くなってきたので牛小屋に入ろうと思って覗くと、
もう先客の兵隊が二人じんどっていてよく眠っている。
私は小屋の壁に高梁柄を立てかけて屋根を作り、高梁柄を敷いて入り込んだ。
遠くで銃声がしているのを聞いているうちに間もなく眠った。