スポーツ:忘れ得ぬ早慶戦の思い出(下)

Lyricist / composer / arranger / performer
宮武 三郎
Label
コロムビア(戦前)
Genre
文学作品以外の朗読、解説
Publication date
1931-05
Category (AI-assigned)
スポーツ
Keywords (AI-assigned)
野球選手, 試合, 応援歌, 痛み, 勝利
Notes
商品番号 : 26363, デジタル変換後ノイズ除去 : 無, スポーツ
スタンドから響く 赤基地にもいる者の応援歌が 夢の中の歌のように聞こえていました 涙が なんともわけのわからない涙が 胸をこみ上げてくるのを感じました しかしいつまでこうしていくわけにはいきません 私はまた心を引き締め ボールを握って何くそっとばかりオーバースローをしてみました お世田の人に宮崎の指輪 まだダメだと思われたくない痩せ我慢も 球を投げた瞬間 頭の芯に答えた 痛さぬ前には何にもなりませんでした 今日はとてもどうしようはダメだと 私は冷たくあきらめようとした時でした ふとベンチの方から私の方へ歩いてくる 小下さんの姿が見えました 私はハッとしました 小下さんは私の肩をポンと叩いて できるだけやってみろ 何大丈夫だよと言いました 私はやにわにベンチの方へ走っていました 走りながらオーバースウェーターをかなぐり捨てていました 指の痛いのも先ほどまでの憂鬱さも もう私の心の内にはありませんでした そうして私は完全とプレートに立ったのです けれどもお世田の第一打者水原君に 第一球を投げた時 指の痛さは実に逆上するぐらいでありました もう引っ込むことはできません 一回でも二回でも切り抜けなければならぬ 私は痛む薬指を使わないでボールをわしづかみにして 私としてはほとんど初めてのアンダースローを用いました すると投げられた水原君も 受け取った福島君も機嫌な顔をしました しかしどうやらこうやら一回は無事に切り上げました 確定その後も水原君と富永君とに 一アンダーを打たれただけで 7回まで投げ通し浜崎君に代わり 3対0でお世田に優勝することができました ゲームセットの選曲が二つあった時 ベンチにいた私は黙って涙を拭っていました スタンドに起こった応援団のカンコの歌 秋の夕日の中に茎ならの花を咲かした応援団の参照機が 涙に潤む私の目に映りました 私は何かしら清らかな清らかな感激に浸って日が遠くなりました 後で考えてみると私の急要索する足掴みのアンダースローは ちょうどナックルボールのような回転の少ない球になって かえって早稲田君の予期しない球となり成功したのだと思いました やればやれるものだそうです その経験が進む後の私のボール生活にどれほど有益だったか 静大で戦ったこの試合を思うと今でも強く感激せずにはおられません ご視聴ありがとうございました