澤菴和尚法語

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澤菴和尚
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タクアンオショウホウゴ
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澤庵和尚法語 ■ 沢庵和尚法語 目録 天地之部 いんやう 気 陰陽 理 どぎやうはいぶんのづ 五行配分之図 ばんぶつ 万物 にんじんのぶ 人身之部 に 性心気 識 識意情 機心機之図 しんじん 神仏神 しやうぢきかうべ 神は正直の首にやどる ある 神に二つ有事 一には明神 一には邪神 しやうちき 正直といふ事 七 天地之部 天地の間に一つの理といふ物あり。此理感じ 動て気といふ物に変じ候。変ずるといふ糸 松に風が来りて聲のするごとく也給は水と 浪とのごとし若勤は浪と成なり。気一度動 ひて一度は静りと。其静るを陰と申なり静り て又動き候を陽と申也此陰陽か五つに 別て木火土金水の五つとなり。此五つか和合 して人と成。鳥獣草木万の物となり候是 を押込て万物と申也。一理。一気○陰陽五行器 物とわかち。又万物か有通しには無物なれば人も 死草木も枯候へは変じて無なり本の五行 に帰り。五行は陰陽にかへり陰陽は一気にかへ り一気又一理に極り候極りて又始り候へは。 を限り共。何を始共申がたき子細にて候是は先天 地の間の事にても人身に是をつゞめて作り出し たる身の内にて候。蟻程の小成由と思へ共。 廣き天地のつもりに少しもかわらず候。まし て人間牛馬寺との類。皆天地をつゞめて作りた 一る物にて候へは合て天地に少しもちがひなく候。 九つ入子の鉢をまはすごとく。外の大き成鉢か まはれは内の小き八ツの鉢も皆付てまわる 如く人と天地と一つに廻り候へ共の人はそれ共し らずして居申候也。然により。春は人の心も春 に成。秋は人の心も秋に成。空曇ば人の 気もくもり。空晴れは人の気もはるゝ也 理天地の間に一つの理と申物の候。此理と申は。 無形して空成物也空成故に目に見へず候天 地の間に満々とみちて。いたらぬ所も無候魚の 目に水見得す人の目に空見へずと申事の候 水か満々とたゝへてあり其中に魚がをよ ぎまわれ共魚の目に水か見へず候しかも 其水か変じて其魚と成。鮫肉骨はらわ た。瓦ひれ皆水にて作り出して水の中に居 れ共水を見ざる也。人も空にて作り出して 空の中に居ても。空は目に見えぬものにて候 空なれは目に見えず。みえねば偏に無物と思ふ 人あり愚成事也綻ば風は無レ形空なれ共無物と はいわれず候有物なれば来りて松の木末をな 羅し候是無レ形しても有しるし也。此理と申物は 形なけれ共。明々として有物也。心法を悟人は 是を見えの眼とて。心に眼有。心の眼にて みるを観と申也。観念から見る事にて候 人は皆眼二つ有悟ぬれは眼三つ有心に一つの 眼なくては難見所は見出されず候。鶏に有二三 足一と申事の候。なぜになれば。二ツの足にて立て 居る物ならば死たる鶏も立てなるべけれ共 死した鶏は立ていられざるなり。身の内に ど一つの足なくては。たつ事ならす候ほどに。 鶏に三足ありと申候。二つの眼は。生れ子も 物を見る事にては。色形もなき物を見るは 心の眼と云物なくては見られざるなり。心の眼 を開か詮なる事に候たまごに毛ありとも 申候いまたあらはれぬ所に。道理がそなはり て有故に。あらはるべき時にあらわれ出る也 いまだあらはれざる時を見るは心の眼也又かやうの 理を能とく人はあれ共けれは七つ八つになか子 があはれなる謡をうたひ能をして。見聞人は 泣共我泣事もしらざるたぐひ也。口にとき 心に知たる人は。万にちがひ候。はしるし。其 身に見え候。かくされぬ事にて候其身の行。 口とかはり候。口に道をときて。身に行なく止 道しりたるにてはなく候。道に叶事は古今成 がたき事にて候 気合に書付候一ツの理と申物が勤て気と成 候此気も又かたちなし理と同様成事ながら。前 の理と申は。給ば水の浪なき時のごとく也大海に 水の満々とたゝへたる様也。又此気は。大浪小浪の 立て海の面いそがはしく成たるかごとく也気は 形なけれ共歴々として有しるしには気がうご けば風が吹也。人のつよく走りて気かうこ けは。息がつよく成ことくなり人の息は気の 勤勢なり。形なければ。何もなしと思ふはお ろか也春は気の動初なる故に風は専春吹物 なり。春風力のことしと申句も有也然ば理は 大地の間にのびて。満くてのぼりもくだりも せず。敷も集りもせず。此気は動により。上り 下り。集り散さま〴〵に変ずる物なり商をふ らし。風をおどろかし。火を起し。水を生じかみ なり雷色々の事をなすは。唯一気の所為 なり此気のいたらぬ所もなし。火の内。水の そこ。金石土尾の内へも通るなり粟一粒の内 にも入大盤石の内へも通り候員一つの内にも満 桶甕の内にも満くて有也去しるしには桶の 内のそこにおきをのりにて付て是を水の上 にふせてまつすぐに水の内へ押込に桶の内 へ水不入して火がきえざるなり。是は桶の内に も気が一盃満て有故に。内がふさがりて水 の可入所なし桶の内は。何もなく空なれども 気の有せうこなり。少し成とも桶がゆがみ かたむきてあくかたあれば。あきたる方より。気 が出るによりて。水は気と入かはりて桶の 内へ水が入ほどに火がきゆる也○是気の物にみ ちて水をも入ざるしるし也○茶碗天目にて するもおなじ事なり。かゝる浅き童子の あそび事のやうなる事に。大道のしるべ } と成事おほし 言合に書付候一気うごひてしづまる時を 陰と申なり 陽右にある陰の。又動出る時を陽と申也。 一度勤き一度はしづまりとて。うごくを陽とし 閑成を陰として陰陽〳〵と互ひに動 しづまり候陰陽と申も。二つの名はありて 唯一気にて候。水と浪との心にて候一理。一 気。陰陽。有行と次第仕り候 五行木火土金水の五つなり蓮を五行と 申なり。右の陰陽を五つにわりたる物 にて候木と火とは陽にて候。木をば春に とり火をば夏にとり候。春は陽気がうごき 始める陽は火にて候木の内に火を含て夏 に至りて甚あつき時を火とさだめ候夏の 火は木より生ずる故に。春を木と定候。金水 是陰にあて候。心は先春の陽気は勤て上る 物なり。火の性は上る物なり。春から夏の終 りに至るまで陽気きわまりて早気が 秋は下へくだかなり花も春は木末にさき のぼれ共。極れば根にかへるなり。月日も 天の半へのぼれば。早西へ下るなり。河に住 魚まで春夏は河上へ向ふて居る。秋冬は 河しもへ向ふ也天地と付てまはる物なり。 夏の陽火。漸秋に成て下る時を金に取 なり。金は重き物也。重き物は下るなり。湯 はかるきもの成によりてのぼれ共陽も上 る程上りて老すれば重くなりて早下る なり。人の手よりて身の重く成位也。故に 秋を金に取なり方木きばみ落て根に かへり。気しづむ時を冬といひ。水にとり 候。水はくだりてひきゝ所にたまるものなれ ば一年のそこにて。是を水にとるなり 以上 タイヤ 不助 目一一七十九日 木材 春は木なり。木も朽はつれば土と成ほどに。 春のはてに十八日土がつかさどりて土用也 夏は火なり火も消て灰に成。灰は土となる 程に。夏のはてに。十八日土が司りて土用なり。 秋は金なり金もくさりて土へ帰る程に。 余のはてに十いる士がつかさどりて土用なり。 冬は水なり。水もかわきぬれば跡は土なり。冬 のはてに十八日土が司りて土用なり。木火金 水の四つ皆土より生ずるなり。木は勿論土より 生ず。火も土より生じたる。木から出れは是も 火の根本土に有なり富士浅間いづれも 大山などやけ候はつちの中に火有なり。歯 水は勿論土より出る也。かるがゆへに書は四季 にかゝりたる物にて一年に四土用有也○ 十八日つゝ四つにて合て七十二日。又木火金 水何も七十二日づゝにて合て三百六十日二 年の内を毘五行が司り候 万物と申に何れもこもり候人も鳥獣の 草木画けらに至るまで皆此内にこめて 数々の物は。一気よりはじまりわかれて。陰 陽となり。五行の木火土金水が和合してか 万づの物と成候。一類相続とて其一類〳〵 が相続で人は人の類馬牛は馬牛の類。むし けらは画けら。鳥けだものは其類〳〵相 続で生ずれ共。此陰陽五行にはづれたる 事なく候。これを本として。方物ある事 にて候変通有て葛古不レ窮 右は天地の間にて理気陰陽宮行方物。 始終を書付る 人身之部 性人の身に一つの性と申物の候。此性と申は 何ぞといへば天地の間に二つの理と云もの 有と口に書付候し其理人の身に請て は。性といひかへたるものにて候草の名も ごよろによりてかわりけり難波の芦は 伊勢の浜萩にて候然ば此性は色もな く形もなく空にして目にみえぬ物にて候 みえぬとてひとへに無物にてはなく候。形なき 故に空と申候。縦は。風はかたちなく目に 見えぬとて無物とはいかれず候吹来れば 松の木末をひゞかし候。此性も目に見えず。 願もなけれ共人は此性うごけは声をいだ しものをいひ。立居万の作所をし。動き はたらきする事。此性よりなすなり此性は人 にかぎらず鳥けだもの。むしけらまで おなじく請てかはらぬ物なり。指のさき爪 のはしまで。此性行渡りて有物なり。少し成 とも此性のなき所は身がなへてたゝぬ なり此身の主人なり。天に有ては理といひ 人にありては性といふ也 右に書付候性と申を。たとへて申さば 如鏡にて候。鏡に梅の花をさゝぐれば 梅がうつり竹をさらぐれば竹がうつる。か くのごとく性に何成ともむかへば向ふ物 がうつりて。則心と成なり。向ふ物に。此性 がうごくを。心と申候。天地の間にて理と 申其理のうごくを気といひ人の身に 有て性と申候其性の動くを心と申也 然れば天に有ては気といひ人に有て心 心といふとまづ心得らるべく候是によ りて易を天地の心と申なり易とは 何ぞと申せば。其の一気か陽とかわり。陰 とかはり候を易と名付申候易はかわると よみ申候。然れば易と申は。一気の異名に てくその易を天地の心と申時は気が天 地の心にて候。さあれば人の心を。天地に有 ては気と申候人に有ては則心と申候天地 にては理の動くを気と申人の身にて 性のうごくを心と申なり。理と性とは 所によりて名かはり気と心とは難波の 芦伊勢浜萩にて候。あらきとくはしきと 本末のかわりあるへしあらくいへば 気を心ともいひてたがふべからず。細に いふときは各別なり 気人の身に気と申物。心の外に有。こ れを何ぞといへば先根本の元気と申物 の候へその下にありて。捕て見れば常に をどり候気の源是なり此気のあふく 事。ふいがうの風のごとくなり。此気のあ ふくに。身の血か浪のたつことく。一すんづゝ 先へはこび廻り候是を脈と申也。此元気 がたへて動かねば。すなはち血こつてとゞま り。脈事へて人死するなり是によつて 人の死するをと気をうしなふと申也。此気は 生れ候時へそのをと申物候此へそのを より母の気を子に伝へる其気をへ その下に請とめておき候是か夜昼あ ふきて血をめぐらし。此身生て居申也。此 元気つくれば命絶候。此気が身の内を あまねく廻り候此気が心をのせて右へ成 共左りへなり共行なり。此気がうごきてつ よすぐれば心か此。気にひきづられて 物をしそこなひ。手に持たるものを打 落し足にふむものをふみはづしつま つきころびなどするなり心が気にしたが へばあし。気が心にしたがへはよし。給ば気 は悪人なり心は善人なり善人が悪人に ひかなれば悪し。悪人か善人にひかるれば よし。此気をよきほとにする事万の 道によろしきなり此元気うごひて血廻り 気と血とたゞしければ性存す性存すれば心 たゞし。しかれば心は性より出。性は血気の 間より出て。血気にのりて居るものなれ ば。気といふ。性といふ。心といふ。様々に かわれども。其源は一つ成としるべし 識誠と申は先始の一念なり赤き物成 とも。白き物なりともちやくと見て赤い よ白いよと見付たる時のはじめの一念 識と申なり。誠はしると読申候。ちやくと見て 赤白としつた計なり。いまだ分別の出 ぬ時なり前に聞も。鼻にかぐも。舌に あじはふるも身にふるゝも。おなじ心持也先 最初の一念なり是よりはじまりて色々 の事おこるなり此識のつぎにひ ふんべついで 意と申は右に申誠にはや分別の出 来たを意と申なり。はじめちやくと赤き 物を見て赤きとばかりみたは。初一念識 なり。しばらく見る内に。分別が生じて。此 赤きものは。躑躅に柘榴の花か。いや躑躅の 花じやとわきまへしる心を意と申候 見るより起り事も聞よりおこりたもあ れも同し事にて候。此意の心は当座 〳〵に付て出来心にて我身にそなはりた る本心をなやましけがす物なり此意の心 にひかれて我本心をけがしそこなふ物 なり此意の心を◦我本心と心得候はる盗 人をとらへて我子となしたるごとくなり。 我本心が此意にひきそこなわれぬやう にする事肝要なり此意は色にそ み香にめつる心なり 情是もこゝろと読なさけ共よみ申なり 此情の字は。時にあたり月花に向ひてすぎ にしことを思ひ出。うごくを情と申也。悦び かなしみ時うつり事去てよろこびかなしみ ともに跡もなくなれ共。此身に八識と申 事の候此弟は識にのこりとゞまりて。月老に むかふとき昔其人のかゝる事をいわれしは。一 身の一期はわすれがたきなどゝ思ふことが。我 身にかく動き出るなり。此動く心を情 と申なり。物にたとへていはゞ。根本の元 気は根なり臍の下にあり。性は竹なり心は 枝葉なり○元気のりて居るなり。識は風 が来りて葉のうごくなり。意は案が動ひて 聲の生ずるなり。其声も風が治まれば 正なり然れども又時としてそよくと 声のするは。情の心なり。本末始終あ れ共一物也 } 性よりをこる心に。二つのしやべつ有 事。水の物ひて浪と成ごとく性うごひ て心となるに心がこつになるなり。性より 生ずる心が。性の如くなれば聖人の心なり然り を性にそむひて魚気にしたがふ故に。 此心通人の心となるなり。験ば。正路正 直なる親のうみたる子が親にはにず して隣なる盗人なる心に似るがごとし 心は性の子なり。性は直なるものなり 直なる性にはにずして。まがりわたて しなる血気にしたがふなり性の直な といふは指を一つあぐれば一つとみる也 五つあぐれば五つと見るなり然ば性は正 直なり。しかるを。血気にしたがひて。一 つを二つなりとかすめ。善人を画きと 云などするは皆血気のわたくしなり。 性にしたがふて。性のごとく善をよきと し通きをあしきとするは◦定規をあ てゝ物をきることくなり性が定規也 血気にしたがふは定規なしに物を きるごとくなり。血気にまかする程に 直な事はなきなり } 我此桟大事の物なり先機といふはたと へ物なり機は把機とて家の戸にある具 るゝといふものなり。家よりくるゝをあけ て外へ人が出るに善所へ行も。あしき所へ 行も此くるゝを明る所に有なりこゝか ら別りて。二道になるちまたなり。我心 は善にも移り画にも移るものなり 善へやらんも。通へやらむも。気次第なり。 此気が心を善所へやらんと通き所へやら むと侭也。此気がゆるせば悪所へ心が行也。此気 が守りかためて悪所へやらねば善に行也此故 に気を機にたとへて気を機と云也心の善 所通所へ行戸口也。此戸より奥にては。心は 善にも通にもつかぬ也。戸口の気にて善心 悪心がさだまるなり給ばちいさき子が。 井のはたにをるをはしり出て。井へ つきはめんか。引のくむか。二つの善悪心 が善につくか画に付かの定る所を機と云 なり。くるゝといふものは戸の内に有 外から見えぬ物なり人の気も内に あれども善悪の心か外へあらはるゝ物 なり。此気をよく見付るが入事也 鈍なるものは。此機を得見ざるなり。さり ながら犬さへ人の機を能見るなり。 犬をおそろしがる機あれば。其まゝ おどすなり心となき人をば。しらぬ ふりにて通すなり。又うつかをふかす べき機があれば。やがて見て立のく也。 人として機を見ざるは愚なり。又つと 至りたる人の機は。微機とて。いかにもかす かにして。一切人にみられぬなり名人の 位なり天下にもよくおさまらん桟。み だれん気が有なり。此機は善悪治乱 の機なり。廣く天下の人の上にてみるべ し。去ながら天下の機は一人の機なり。一人 の桟が天下にあらはるゝなり。然間一人の 心は。手万人の心也といふ先言なり誠に 天下をしろしめす心は。やすからぬなり よき時は一人の心が天下にあらはれ。悪 時は一人の心が天下にあらはるべし。かた しかたし易きは。かずならぬ身なり 名主 此機大事なり。善へゆかんも爰 桟 悪 に有なり。心が外へ出て善をなさんも 悪をなさんも此機にあり此機に善も 悪も治らんも乱んも眞法のかちもまけ も。身をたてんも身をはたさんも手をあ げ手をひらき。太刀をあげ身をひらき。と びあがり走りかゝり横々のはたらきも。 此機より出て外にはたらくものなり。大 機大用とは此事なり。加様のだん〳〵を きわめつくしては。機を忘れきつて。何 事も我物になる位又至極の所なり 是を忘機と申なりわするゝきと読也 どこゝもとの田にむれいる雁白鳥な どがへがそばを通れ共たゝんとおもふ 事をわすれているなり此等を忘機と 申なり。人にをそるゝきをわすれたる なり 神神の字を伸なりと注をいたし候 のびたるを神と申なり。のぶるとは身の 内にのびひろごり。手足の指爪のはし まで。いたらぬ所もなく。いたりのひてある を神といふなり此神はさて何者そと深 く工夫して是よとみとゞけて。おもひ さだむる事なければ。言葉にとき 紙に書付候を見申分にては我物に成 申さず候。たとへばあまき物を甘と云 葉にとき紙に書付て。あまき道理が とくとしられず候直に甘物を口に入 る時はとかずして甘をしるがごとくに 工夫から知事にて候それによりて 禅宗には。ふ立文字と申て文字を立 ず。教外別伝とて。をしへの外伝の外 別の伝と申候。水を絵にかきてもひ やゝかならず。火を絵にかきてもあつ からず。水はかやうなるもの火はかやうなる ものと知計はしれとも。今二段のひやゝ かなるあたゝかなるといふ事は直に火 水にふれざれはしれぬごとく神ぞ 心ぞと申わけも。大方加様に書付申候 へばしれ申候へ共。とくとしれ申さぬ所 あるべく候。それは西談に申べく候神とは 此事よと悟候はねば。言得我がたき 物にて候先人の身に元気と申物の候と 右にくはしく書付申候此元気うごき 申ゆへに。つく息か口へ出申もつく息ば かりにて引息なければ人死する也。また 引息ばかりにてもつく息なければ死す るなり。此元気が。つく息引息ともに 出し入るなり此気にちがめぐり候気血の 二つを家として。此神此身に有て。此身の 主人なり。或は性。或は心とてそのわかち。す こしつくのかわり有といへども源一にて 候あさきたとへなれとも。道にあらざる 事天下に一つもなし。理は同し。たとへは 黒き砂糖より。白き砂糖が出候。白ざと うより。氷が出し。たとへば黒は気血。白は 性なり。水は神なり。又金銀銅鉄の四 種のかね。根本は唯一種なり。そゝひ出し 吹ぬきて其極上なるもの黄金なり。其 次は銀。其頭は銅。其次は鉄なり。銀銅 の方にも。よく吹ば黄金あり鉄の内にも 銀あり。かねのかず〳〵おほけれども皆一種 のものなり。根本をたゞせば土なり方物 一理と申て。様々の影あらはれ候へども。 陰陽の外へ出ず。此神は黄金のごとく也。 此神内に立て。外にいろ〳〵の妙をな すなり たいおなじうしてなことなり たいおなじ 躰は同事也 同躰異名也 神 廿六 人ごとの身の内に神有。愚痴の人はこの 神を情識にてくらまし。物毎の理に関 して。物ごとにとゞまりやしてのびす生 て居る時。物毎に心がとゞまりて聞け れば死して猶くらし。是を鬼といふ。明 君聖王。其外道明成人の果たまひた るを神と申候神は仲也とて。のびゝろご りて一所にとゞまらず。水の大海にの びひろごり。とけ通じて。障なきごとく にて文是は屈なりとて愚痴の魂はとゞ まり物にとゞまりて。本神にかへらずし て。物によりつくなり是を鬼道と申 なり。又鬼より人へかへるなり神にきせ さるなり。明君聖王道明なる人の魂 をば。まつり祝ひて明神と申也。生て ましませば。明君聖王とあふき果給へ は明神と申なり内に有と外に有と のかわりにて候。内にても外にても神は 同事にて候。五尺の身のうちにても神 明なり天地を宮として其地に有ても 一広がらず。五尺の身の内にてもせばから ず。目に入画の体にも神はまします。そ れとてもせばからず。宮室殿を高く 広くしても二尺二尺にしてもおなじ。 然ればよく得道したる人は。一問の家 一をもせばしと思はず。二十間に住ひて も住あまさず。是神の大小にかゝわら ざるがごとし。心がひろければ。家のちい さきをきらわず。心ひろければ。家をも 心の内へ入る也我に心を入る人はせば きをくるしむ也 神は正直の首にやどると申候は余所 よりかならず神のやうがう有て奢りた もふにあらず義心正直にして明なる時 は。我心則神にて候是を正直の首にや とると申なり神は直にしてすみたる 物なり。人の心はくねり濁候。正直なられば 神は有ながらかくれ申候間○神くらく候 正直なる時は心の水すみし。此時正直の かうべにやどると申儀にか。にごりたる水 にも。月のかげはさせ共。月かげはあらは れぬと同じ事に候。又空の雲霧も にごりにて候。雲霧があれば。月は有なか らくらく候此たとへのごとく心が濁り久が 神がくらく成。万のしわざ響く候なり。神も 仏も。悟れば我なり。道の明なる人は。生なが ら仏なり朋君聖王は生ながら神にて候 あひだ花しましましても神なり生て 道に闇宛ても闇故に。愚人の魂をば鬼と申 なり。神に二つ有事。一には。明君聖王の。 ては道明にして団をおさめ民をやすくし。 天下の者の父母とおもひ奉り。死し給ひ たるを神にあがめ申候。是は明神霊神 なり。ことに官位高き御神なるべし。一に 邪神と申べきは。生て人に恨ふかくいきど をりつよく。悪心など有人と其神のびずし て。物によりつき人にとりつきつかれたる 人は。男女によらず。物に狂人を角悩しわ ざわひたきによりて。此いかりをやめんとて 神にいわひ。官位などをくられて是に満 足して。いかりをやめたまふ事などあり。是 等は邪神にて候。酒の酔。狂人などを たらし候ごとくにて候。明君聖王などの上 にはかやうなるひけうる事は生ても死して もなく候間。誠の御神にはかやうの事も なく人へ。又神は左様にもなく候へ共。わきから 申なして。神に不足をかけ申事も御座候。 ひとへにまた人のいひなしとばかり心得た るもあしく候。北野の神。時平の大臣の 讒言によりて。あらひと神となり。様々あ れ給ひしゆへに。天神とあがめ給ひてよ り。いかりをやめられ候是等も邪神たる べく人。道有人なとが。か様に人に恨ふかく あらず悪心ををこし。其あたを報ぜんなど といふ心は小人にて候さりながら邪を正に ひるがへされ候へば。神は本にかへり申候間。 明神にても。天神にても候。其時のいかりも。 かならす菅家のいかりにてなくして時の 気の可レ為レ変候を。神と申なす時はそれ に成申候。又誠の神のいかりにてもこれ あるべくも。松山の神のいかりとげ給ずして あれ給ひしに。西行法師まふでゝ いにしへの玉のうてなのうちとても なからむのちは何にかはせむ と読しかばそのゝちあれたまはぬとなりか いかりも何ぞによりてとけぬれば跡は 水のとけたるごとくに色そのいかりが濁り くねりにて候あいだ。神はかくれ給ひて。明 神にてはなく。朝神通神にて候いかりほとけ 候へば。誠の神あらはれ候。住吉の明神の證 一宣に。我に無二奇特一以二無事一為二奇特一是等 真に奇特也。何事ぞ。一くせあらは奇持 にてはなしきどくなく。何事もなく無事 なるがきどく也人も誠の道に至りたる 人は。何の奇特もなく如何にも無事な物 なり。神変げに。奇特有さうなる気色 成人は。さまで可然人にはあらず。神には 奇特有物に。なしきつたる事さへ我無二奇 持一と。住吉は誠宣し給ふをなと大悪 事をくわたて画行身にあまり。難儀身 に過時神をたのみて其咎をちんし。首を きる刀をおらし。命を事すけ給ふやうなか 奇持はなきとなり。そこを我無二奇持一と誠 宣し給ふなり。只正路正直なる物を守 らんと神は宣。正直露にて道に叶ひ。心明なれ ば。我身則明神なり。我身明神なれば 我身を守り給ふほどに。神を外にたの まずとも。悪き事は有まじき故に。正直 の者を守らんと也。正直正路にさへあらば 神のまもり給ふ道理なり。北野の神詠に 心事にまことのみちにかなひなは いのらすとても神やまもらむ と此哥のごとくなり。然は神をあがめ。 宮室殿を立といふ事も。いらぬものとやぶる べし。神を神とし。仏を仏とする事は其 道理有事なり。我悪事をして。其各を ちんじ給はずは。いらぬ物と思ふは無理也 神仏はあがむる筋ありてあかむる物なり れん〳〵御合点まいるべく候万の事。す みやかには会得ならぬものなり 一正直といふ事。人の物をかくしとらす。偽り いわぬばかりを正直とは申さぬなり正はとつ こにも物の一盃有て。いたらぬ所もなきを 正と申なり。偏と申は一方にありて一方に は物のなく片ゆきのしたるを偏と申候然れ ば正と申は。九まがりの貝に入ても。水はいた らん所もなく至る物なり。其ことくに。心が かたゆきせずして。ひいき偏執といふ事も なく。心にわたくしあれば。私の所へ心か早臣 往するほどに。心の身一盃にのびゝろご りて有を正と申なり。直どは右へもかつて よらず。左へもよらず。少しなりともゆがみ たる所あれば。かたはらへよるほどに。いと をひきたるごとくなる心を直と申なり 正は横。直はたてを申たる言葉にて候。た つにもよこにも片往の無心を正直と申 一なり。直も正も。たつと横のかわりにてかた ゆかぬといふ事にて怠が如此候へば。別此 心が神にて候あいだ神は正直のかふべに やとり給ふと申にて候。此心か生て如此な れば生ながら神にて立らしてのちにも 此神を社壇宮の内へいわゐこめて貴み 申なり。今東照権現と崇申ごとくにて にや 此書者澤庵和尚作実 理学之捷径やな刊梓 寿之矣 正保三年丙戌朔月吉日 1013 廿一七ツ甲又十八日