門出八島
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安政
新板
門出八嶋
紫紫紫照氏の歌爾泉を
門出八嶋
以テ購入セル▽関博士
浦野亭吉氏藤蔵
さてもそのゝち。しやかにだいば有がうしにとうせき
あり。国にかうてきあらずんば名将のほまれなにを
もつてはあゝはれんざれば乱は太平のはじめぶんぶさ
かんの源うぢ、九郎御ざうしよしつねは。かねうつよし次
にしたがつてみちのくにげかうあり。ひでひかがしよ
じやうにてよりこもにくはゝり平家のぎやくとをしづ
めんため。おくぜい十まんよきをゐんぞつし御しんばつ
とぞきこへける。およそ三ぐんをつかさどる御きりやう。
天ねんそのこくそなはつてそなへぎやうれつかいたい鼓
しやう〴〵せい〳〵とてきんてつみななる御ぢん。おしぼくごぶせう
ふもかうへをたれ。草木もゑだをかたぶけり。爰にあれたる
わゞやがのきおくもくまなく見へ給へばろくしやくゆたか
の大男矢のねをとぎてかたへには。二八のむすめつゞりさ
す。はづのみずも。ゆびぬきも。手きゝ手の手もた
ゆしむさしばう弁けいきつと見てもんぐはいにつつこへけふわが
君の御しゆつぢん五十四ぐんのたみ百性かつかうゆ折からおさめ
すぎたるふるまひりよぐはい千万荘出て一礼せよと呼はれば
かの男くん〳〵とわゝひいやはやながいきすればあたらしい事をきく
主をもたぬいうにんなればわが君とあがめん人あめがしたに
はおほへずぐそくきたがこはくもなしたれにおそれてへちまのかは我なり
ほとけたうといなしだの三郎かつひらといふらふにん者。此女はわがいもと
身こそひんなれ今日迄人に礼せぬ此男と。両足ぐつとなけ出し
ひさをたゝいでゐたりけり。弁慶こゝへず。すねふみおらんとかけいつる。
幾経馬よりとんており。あゝしばらく〳〵。しだの三郎とは聞はよびし
げんしふだいのゆうしぞや。われこそよしともが八なんよ。西国へ同道
せん力をそへてゑさせよやひらにたのむことの給へばした兄弟走り
いで。さてはけんじの御すへかこ手をつかねて申せし。きことにけんじの
大将のたのむこの御ちやう。御ともゆべく候へ共。おやにて候しだの
兵衛御ちよしとも公につかへしな〳〵の高名おんしやうあるへだ所
にさんしやのわさにてほんりやうを召上れ候。ちゝがつね〳〵申せし
はげんじのしやうばつくゝきゆへざんしやはさかへちうしんはおころ
ふる。あゞうゝめしのよしともや。此うゝこはしそん迄。わするゝなと
申おきはゝ切ておはてし。おやの一こんこつずいにこたへもたされず斯
申とて神八まん平家にしたがふしよぞんなし。つちをなめみづを呑
こへしせんこそかう〳〵共義共が共ゆべし御いやうをそむ〳〵に
あらね共。御奉公は御めんあれこづりをたゞしはゞかりなくごそ申ける
義経しごくまし〳〵。じからば汝におとらぬぶしをたのんて恐させよ
した承はり。こゝに出羽のなにがしさとうしやうじと申者のせがれ
次佐忠信兄弟の内一人たのむこの給はゞよもいはいは候まじ
と云しやうすれば御大将其義なはへん兵をかめいかたおかむさしに
つけてさきへうたせ。さとうがたちのあんないには汝をいういんすべしとて
二手にわくるはたの手によろひのにしきにほはせてきうばのきこそみてさ
がりなれざる程にさとう共如忠信は此事を聞よりも。うれつやよしつね
の御ともし西国におもむき高名せんといため共。その内一にんと有
かゝは兄の火信御水をのでみ子も某はのはすまし。ゑゝいつきやうのふん
べつ給へぜひ参がのあらんとしだがいほりにあんなばし四郎兵衛右信おみま
ひゆといひ入るいもしのはや姫立出。兄上はよのね公の御ともし其かため
いふ忠信にごへになり。いや三郎殿に用はなし。御身にないてうをしらせ
申事の如一承れば兄次僧とは久しれずふうふのかたかひあたからぬ
中と聞て有。何とさうかといへば。はや姫かほをあかめ御存しの上はつみ申
さんやうもなし。はや七月の身もおもして此事があらはれしかいや〳〵さやう
の義てはなし。より公より兄弟の内大くせるべきとの仰に兄次信
いくさのともをのぞまる。あかぬわかれはふしの道ともおほさんが夜の口
から兄のあくしやう申にくき事ながら。こをよつく聞給へ。次次言上がたへ
のぼうなば国へはうちじにといつわり。京女のめかけをこしらへいくさは半
ふん色あそびとけらいしのぶの小太郎にだんかう有しをたしかに。夕しかれば
二せの御ちぎりすていれ給はんせうしさにそつとないせうをしかせ申
こゝはひらにとめ給へいくさのともには身のやぐふせうながらはて某が
参ふ立とぎかはになつてぞかたりける女心のはや姫なみたもむね
にたもちかねよくぞおしらせ忝なや。さやうの事を聞からはすがりても引出ぐ
め。西国へやりはせし。何とぞ次佐殿にあはせてたべと。なきければ。しからば京
あはせ申さん何かなしに取付てめつたむしやうになき給はゞいは木をわけ
ぬ次第思ひとまるはひつちやうぞたゞなき給へ〳〵とつれて宿所に三重
へりけりかくこはじらす。三郎兵衛次信うぢ神のやしろにまふでぬさ奉
らいはいしげんじの大将御しゆつぢんねがはく薬を御ともにぐせられしん力
をもめて高名しほまれをのこすくものうへなむやむらさき明神と
かんたんぐたくゆふたすきゆうにやさしき女のこへいがきの内より次侭
様〳〵とよひかくる。はつとおどろた何ものといへ。立出そでをひかゑ。
いや申おきづかひなものではなし。わゝたうしやのしんしよく行くるが
娘いく子と申ものなるが。御しやてい忠信さまと。しのびてあいに合
ぼれのしんぞいこさかはいさ。命もいそのかみをこへ入。山をへたてゝ物国幾経
様の御供を。のぞみ給ふと承る。上かたはぬ所尤もとなふ思はれて。はぢを六ねば
つうたゝずりんさふかきは生れた兄ごさまの御ぬけんにてとめまして給はら
ば。こんじやうごしやうの御じひと手を合せぞなげさける。次弦おり
にさいわいとおくたうつと〳〵さりながら右修久さかんにて兄がゐけんは聞
入ず。御身すがるてかきくときひたすらないてとめ給へたゞなき給へ〳〵
とおしゆる所へ忠信はや姫来りしがあれこそ兄よきよと二人の咄をめ
人くにかく置やあ兄じや人々忠侭かと。おひにしらぬあいさつは。おかしく
もまだしゆせうなりしはゝく有て次語。此度わが君西国の御供
兄弟の内一人との御ぢやう某居しろて高名すべきりうぐはんにさんけい
せしおりから汝は何とぞ来りしぞ忠信聞ていや〳〵此度は参候法申べし扨領
の身がうちじにせば。たれか家をつぎ申さん。惣て国をまもるは上左衛門
一きむしやのはたゝきは下たるものゝやくなればぜひ忠信か御ともとぞ申
ける次僧さゝもあへずおことがことばも一里有吉ながらそちはわかきもの
なればさねかたまらずむしやなればかれいくさおぼつかなし国に残つて大
母につかへよごんどは沢住むかはふずといへば。忠信さしよくをそんじあきの
このみなどにこそさねかたまるといふ事あれわかきものにてはれいく
さがなるまいとや。これせうぶはいうせうによるべからず兄とは生ぬへ共
はれいくさはあぶながのだゞ某を上せられよとゐざまふてこそ申ける次侭
はゝにすへかね。はれいくさあぶなしとは。扨は参おくびやうすべきものと思ふが
おゝおくびやうはめのまへ子次侭いよ〳〵しらを立おくびやうものゝ身なれば
油はなをもおくびやうなみなふこづがしけれど此忠信はおくひやうすべきは
だしなしきばんは国にほだされたてこそおくし給ふらめやいさうろたへ者
国に心がひかれんとは。わがおやは汝もおや。もつてはおなじ行になふ兄者人
おやにおやはかはらねど此忠侭はしだの三郎がいもしはや姫といふかだしかたぬ
といふ次僧はつと思へ共。さあらぬかはにて。ふゝそれはたか事身におほへなし
いへば忠信ふつとふき出し。ひつぢやうおぼへ候はぬかと姫の手を引いで
ける時次侭立てにげんとす。はや姫すがり引出やむ。忠信悦びそる五そこ
がなき所。なけ〳〵とよばはれば。西国へはなふりませぬとぞなき給ふ次
修せきめんしなが。いよ〳〵とよびければ。する〳〵とはつゝ出火住さまわゝはをすてゝ
西国へゆかんとはお心もかはりしかどうでもやかぬこすがりつく沢終そいやそこが
なき所。とや姫なけいくよなけと。兄弟かはにそでおほひ。はなにうぐひすほ
とゝぎず。一度にもつすがたかやたゞなけ〳〵とぞ計りなりかる所へちらのしやうし
君をぐぶししだもろ共来かるゝ兄弟おどろき二人の女をかくさんとす。あく
しばかくるしからずとおしとゞめ。しやうし申されけるは。やれ子どもよ。君を
御とも仕りこればくる事よの義でなし兄弟のうち一人たのみたきとの
仰をかうふる。弓矢のみやうがしやうしがおひのよろこびなり。兄か弟かい
づれかう成を参らせんとおもふ所に兄弟義をおもんじてあらそふ心てい。
しやうしが子どもはかうのもの。おゝたのもし〳〵とうれしなみだをなかざる。
さてなんしいはしのびづなをもつたるとや。なさけにまよふはよきつはものくせ
ぞかしふたりの女市よめにとり。子どもと思ひなぐさまば。しやうしは。老
のたのしみ給へ。此うへは兄弟ともに御とも申せと有ければ。比僧悦び
ていざむ心のゆくしさよ。しやうしかさねて申さるゝは。かれか兄弟公はかうに
てろやかきおひおものは。馬引給せてうちのつて敵にむかふ其時は。せんだ
万ぎにもおとらぬものにて候へ共。おさなきよる王をかたす。奉公の道を存
せずわが君へまかせ参らする。しやうじが心をさつし有て。御めをかけて召つ
かはれ下さるべし引まはしたべはうばいたち。扨まゝも今がおやこのわかれ也
父がけういんをたもつて君にふちう仕るなげふよりしてはしやうしをおやと思ふ
なくおやにも主にも若一人一命を奉り身はなきものと心へてよき敵と見る
ならばおしなかべてむずとくみくび乳名をあけね。じんぎをしらぬはいのしく
むしゆ兄は身をかいほうし。身は兄にそむくなよ引とも兄弟つれて引かく共
兄弟つれてかけ子兄をうたせて。国もとの父や母がこいしいとて。聞ひとり
かへいふと思ふな身をうたせて兄かへる。なおひたるおやさへ思ひ切。今をさ
かりのわかむしや共心を残すなげのかごでをまつごときはめいさぎよく
うちじにせば。いきておやこのだいめんより。なをもうれしかるべきとすゞしけに
はいさむれ共だすがらうごのおやとのわかれたへざる浅せきあへず。かく
いふふひんさゆへはなのやう成わかものを。しねとはさゝに思はぬと。御所
をも打わすれ。兄弟にすがり付しばしき又入なきゐたり御大将をはじめとし。
有あふ諸ふし一どうにそでをしほらぬ者はなし。しる所へいるまごありの武者所。
あんざいのだん正太郎うぢしけ。あはたゝしくはせさんじ扨も平家の一男君
はつかうのめしへ入を。四国やしまにたてこもり。いくさのようゐまつたいちうこな
候。へんしもはやく御出ちんしかるべく候と大いきついで申ける。はうぐはん聞召。
おゝ尤さぞあらん。去ながらいく万ぎこもる共物のかずとは思はぬなり。いか
にだん正。これなるものはさとうしやうしがしそく。三郎兵衛次第四郎兵衛忠
信といふ兄弟也。けうこう心を合せ。此度のかつやんいさぎよくはげむべしこ念
ごろにの給へは。たん正承はり。扨は聞へよびし御兄弟にてますよな。まこと
に御きのゝやうと申あつはれお侍候。たれで里はせいの多せうによらず只一心
のはげみ第一とかや申候。きでんたちはいまだふいくさにて此度がはじめなんかま
へて〳〵ふかくはじどり給ふな。さあれば若しの御ちじよくぞこ人もなげにぞ
やける。兄方むつとせきあげしが。おしづめ。かにも〳〵御仰のとく。われ〳〵兄弟はつゐて。かにも。
とやんはいかやうなはたらはけもかつてぞんぜず候。しかしながゝきせんのたずを以
てすいぶんはけみ申べしもし又いきのしだいによりさきがけいけどりふんどり高
名は仕りがちにて候る。かならず御きにかけられなこぞ申ける左。こそ申ける大
正きしよくをそんじやあ見弟。きのふけふ侍にまじわりせんぢやうにて高名
せんとや扨も口はてうほうなものいはれたり〳〵。よし〳〵いゝざるさきかけいた
さんより。只わがげぢにまかせられ。命大事にせゝれよかし。あしたゐけんは申
さぬとあだわらふてごそ申ける兄弟今はたまりかねおゝ此うへは何か
さてごへんのげぢにきかすべし御しゆつぢんのかといでなれば兵法けいこ
仕り。御でんじゆにあづからんいさ参りさふとたちに手をかけつめかける。
だん正もとびしたり。刀をぬかんとしけるとき。しだ史わつていこれ〳〵此けへ
参もひゆさんさいぜんよりのつめひらきみな君を大切に思はるゆへにて
有。侍たるものはさほどの心ならではせんぢやうへは出かたし。おくたのもし〳〵と
わざとざけうにはなして事ゆへなくしづめしは誠にふんにの侍也。はうぐん
御らんじしたがれうけん一々もつてしごくせりいかにさう方のもの共殿へて
いしゆを残すべからず。此度のしゆつぢんはよしつねが一生のはれ男ずい
ぶんはげめめん〳〵といさみにいさんでそれよりも。西国さてはつかう有
かど出めでたしせんしうらく。めてたかり共中〳〵申ばかりはなかりけり
第二
さるほどに九郎はうぐはん義経。よりとも郷の代くはんをかうむり一の谷
せめやぶり八嶋に御ぢんをめされけるおうしうぜい入正太郎うちしげは
さとう兄弟にゐしゆあ弔。我手のものを役所にあつめ。扨も此度げんじ
のせい我をはじめ大名小名れはおほき其よに。何をふそくにさとう兄弟
○筏侭シ
トテ有名
十九両丁
召出され。こゝにては次位かしこにては忠信と人もなげ成侍だて大将もめ
があかず見聞もむねん千方也何とぞひけつけのじめをとらせこごとはかば
打ころせきやつゝを一きとうせんと御頼あるうへにいらざる忠をはげみいぬ
ほねおつてたかにとゝれないくさせんよりさとう兄弟うつてとれとはまべ
をさして下りしはほうにそむきしみ童ふるまひ也。けに思ひてもお
もふにあかぬおや子の中。いだはしやさとうしやうし次信は小ざくうおどし
右信はふぢなはめのよろひつね〴〵このみしてにはかにおどさせしのぶの小
太郎同小二郎兄弟に取かたせ二人が方へおくらるゝおやの心ぞあはれなる
かすみと共にたつか弓。八鳴のいそにつきけるが。ぢん所〳〵を見わたせば。竹たば
らんぐいたきすてし所々のかり火もよるはもへびるはきへつゝうすけふか。しほやの
けふり立つぎはう二三里が其間。さかもききびしく引たればさとう殿の
御ぢん所は。いづくととはんたよろさへなみうちぎはにくる人をあまかと見ればさも
なくて。十六七の小わらはのこしにさびさびたる山がたな。さすがしなよくおとなひ
てあねとおぼしきふる袖に。もつもにあはぬあきなひやわらんぢうりには
おしかり。しのぶ兄弟是子共わらんぢかはんといへはいや是はむしやわ
んぢりよじんの御用にはたゝずといふふゝぢん所にあきなひするからは
あれに見へたるぢんやくはたれ〳〵としつつゝんあらましかたつてきかせよかし
やすき間の御事也。母日あきなひいたすゆへ御。ぢん所やく所は存したり。おしへ申
さんきゝ給へと。とうざいなんぼくゆびさして。ねんごろにこそかたりけれ
あれ〴〵ひがしのおのへより。みなみのおかの小松ばゝ。雪の山かとひだし
ろのまくを其まゝふもと川。からほりほつて高やぐら。風にうずまくしゝ
はたのかげにぐんびやうかぶとをならべよろひのそでをつゝねしは御大将の
御ほんぢん其はたもとにうちつゞきだきざくだきいね花うつぽ。なみにう
さぎのしるしこそがめゐかたおかいせするが。とつごにりんほう付たるは。
ひたちばうかいぞん。かねにさは右ともゑ。万どもゑ三つどもゑ。五ッわちかへいか
かりがね。七いだうぐを立たるは。大将のひざもとさらず。むさしぐうべんけい
のやくしよとこそはおしへけれ。まへはさかもきざゝとして。せいろうたかく
あけさせ。ようじんきびしきいきほひはさきての大将さゝきどの扨竹かき
におりきど打。ししばかりを立だるは。たもとのほろ大しやうくまがへどのゝ
ぢんしよなり。川ごへが物見のこや。私にかけたる。たいこかね。あけ行とこを
ほどろかす雪にあさ日。のしるしこぞ。いゝさ大将はたけ山。手ぜいは五千よ
きとかや。扨ひとへびしいれこひし。花びし松かわ三がいびしおかさはらの
一たう也。二ツ引の大まくは。平山のぢん所。おもだかはお山の一日い立なみ
はおくりたう。ほうでうはあとぞなへう。ちんきぢんはとひみうらひゝきあふ
ぎのはたをなびかせ。きばのむしや二三十。御ようしんとよばはつて
やく所〳〵をかけとをるは。さたけのなにがしこやめぐり。はまの手はかま
くらぜい。扨山のては都ぜい。かいだてもちだてめんとりばにつきならべ
かちむしやきばむしやゆづるをしめし。すはといかゑの内がけ出んけし。
さにて君をしゆごし給ひける。誠にゆゝしう候ひし。ころはやよひの
ぞゝながらあきに。さへたる月にほしちばの介の介のやくしよ也。しげめゆい
はゆふきの七郎きつかうはさはらの十郎。三本うちわうろこがた。風に
もまれてあがりふぢ。又さがりふぢあげはのてぶむざしぜいさがみぜい
一二のそなへと聞へける扨おくがたのぐん兵は。十万よきを二手にわけぢん
しよはおふてからめて。なかに立たるはたのもへ。雪おれ竹にむらすゞめて。
のじやうじが〽二人の子さしとう次信忠信は。日本ぶさうのつはものとてき
もみかたもかくれなし。其ほかうら〳〵山々も。皆白たへにしゝさきのむれ
ゐる松これはげんじのはたをなびかする。たせいはかぎつしられずと残す
おしへかたりけり。しのぶ兄弟手をうつて。扨もよくおぼへたる。我〳〵は
さとうまの口にん父。父ごのかたより御兄弟へ此よろひを参らせらる。
とてもの事にあんないしてくれぬかといへば。むすめ悦ぶいろ見へて。御
あんないもいたすべし。扨なれ〳〵しう候へ共。我〳〵は此あたりのかる人の
をと申ものゝ子共成が。源平の兵らんにてかりもかなはず。おやをやし
なふいとなみにならはぬわらんぢうつ候。あはれ故さまへ御奉公せさせ
てたべと。いひもあへぬにしのぶ兄弟。是はさいかひせんぢやうには一人もた
よりぞや。吉さう〳〵我々にまかせよ。よき奉公にきもいゝんとつれて
ちんしよに。そぎけりあくれば三月十八日。大将ぐんの御出立。あかぢ
のにしきのひたゝれむらさきすそごの御きせなが。あぶみふんばり
くらかさにつつ立あがり一ゐんの御つかひけんひいし五ゐのせう。源の義
経とたかゝに名のつてかせくる平家の兵せんを今や〳〵と待給ふ。
佐藤兵衛次信は父がおくりし小ざ郷おとし。わだがみたかにきながし。けさ迄
ちやくせしよろひをばわしのをに打きせて馬をのるすて御馬のまへに
畏る。大将。御らんしけれはいかにんか。いや是は次佐が第にて候御馬のさき
にてうちじにせさせまさんため召つれ候と申せば。はうぐはん重て。次僧が
弟は忠信ばかりとおぼへに。心へがだしとの給へば。次侍つつしんでさん。かれは
此へんのかりへわれを三郎と申もの。人と生れし思ひでに侍にまじはり
たきよし。かれがあねたつてなげき候ゆへ色しらぬあづまゑびすの次つめ心
ざしにほだされ兄弟のやくだく仕て候。あはれ御馬の口に召付られ候はゝ
給へがたく候はんと申上れば。義経ほとんどゑつき有。あつぱれきりやうの若者。
次佐はくはほう者あやかりたし。いかにも参召はひ弓取となすべきが
とてもの事のつゐでなれば。あねはとふぞ成まいかと。たはむれ給へはわしのを
はよろひの袖をかほにあて。はづかしさふ成むしやふりにてきもたちをばす
てぬべし。あんさいのだん正太郎こぢふかりつつと出次殿の御しや七はおち
かづきに成申さんやあ是は此比ぢんやにてわらんぢうつたるわつぱなるか
是がきでんの御しや七いか。はてよい弟をもたれたりけうこう我々もとい
になり。わゝんぢあつゝへ申べしぐんちうにもちゆるかゝは。日りも二百里もあゆ
まるゝよきわらんぢがもとめたし。あたひにはかまはず。はうばいの中なれば
五せん三せんはたゞもとゝせてやふはとさもにそいにぞ申ける次信むつと
せきあげしが。おゝやすい事〳〵去ながら。百里二百里はくわらんぢを。何の用
に入刀ふくがてんたり〳〵おくびやう風にさむけ立。大てきにおつ立られ本国へ
一とびににげゆくためのわらんぢか。おゝやすい事といへはたん正かさねて是か
何にもせよわがすねは人にかわつてたくまし。是に合てつくつてくれと。
どそくを次供がひざもとにふみ出す。次侭たちに手をかけほゝ見事な
だんぴらすね。此足にてにげたらば天ちくまでも一と。ひならん。やうのうぼ
ね切取てかたに合てつくらせんとたちをぬけばだん心もとびしたつ
てずはとぬくとひさきはたけ山弁けいなんどさうにすかり。これは
ふきつとしづむれ共。はなせ〳〵とねぢあふ所に。平家の名はせんこぎ
つれてときのこゑをぞ言言上にける其ひまにどしいくさもやう〳〵
おさめしづまりぬ。三人のつたるせうせんいそちかくこきよせ。大将ふなす
に立あかり一ほんしきぶきやうかづらはのしんまう九代のこういんのゝの
寺のりつねげんじの大将義経にげんざんのしるしに小兵ながらなかさしを
まいらせんうげて御らん候へと大おん上てぞ申さるゝはうぐはんぢんとうにこま
かけすへおものし〳〵のと殿の御ゆんぜいくはんとうまでもかくれなし。たゞなるに
かけとめて九郎がよろひのさねためしたり存る也こゝの程がしよもう
ざふとむねをたゝいての給へば。すはや源平両大将あん。ひはこゝぞとてき
みかたかへんをのんで見る所に。小ざくおとしにかけのこまみかたのぢんを
一もんじにのりわけて。やおもてにかけふさがつそも〳〵是はではの庄司が
我れうさとう三郎兵衛次佐とはわが事也。本国を出しかろめいは君
に奉り。かばねはやしまのきよこうにあたふ。のこの大矢を参心見ゆり。
ゑんまの快のくはんどうにうつたへんやつぶは君ととうぜんと。つるじつり
を三どなでにつことわふて待うけしはめをおどろかすありさまなりのり
つねはじんある大将。かんじてさすがはなちゑず。きく王しきつてすゝむ
れば。入げにもとやしはれけん。五人はりに十五そく。かゝりとつがひ引しぼり。
しばしかためてゑいやつと切つてはなせばあやまたず次侭がむないた
に。しふくらせめてはつしとあたり。ちけふがばつとたつ次終の天狗
つがひ。たうのやをはなさんひかんと。二三と四五としけれども。たましい
くゝみいきもきれゆんでのあぶみけはなつでめてへかつぱとおちけるむ
ざんなりけるしだびなり。きゝ王はくびとらんとおりたつ所に。忠信をる
かにはなつ矢が。ひだりのひざにずはと立どうどふすをのこのみ。舟
よりこびおるさゝ王がうはおびつかんでになぞこへなけ入給へば。大刀に打
付うれみぢんにくたけてしゝてんけり。これを見て平家の。いん兵ふねを
のりすてわれたきにと。心が人たつと打あがる。兄次侭かけうやうこ花語
まつさきかけければわしのを三郎しのぶ兄弟かれいにつゞいて。先して。死は
ものかけちがへ入ちがへもみにもふでぞ。ぞ。三重だがひけるいくさなかばに
むさしばう弁けいはくび二三十じゆすつなぎにて引ずりゑり。ゑり。
うたれしものゝついぜんにくびじゆずを思ひ立今少しざれば
ほうかに入て給はれと。長刀取のべ切てかゝればよせてはたつと引たり
ける。ゑ々しはい事ごしやうに何がおしのでと。にぐるてきをおひきはしね。い百
打くびとうぎりつゝぬき。むれたか松をたて子こに。おつかへしおひかじ。
かちだて〳〵きりまはるはすさましかりしみそいきほひ也なみにたゞよひかせし
もあへ人馬にせかれてしするもも有。かなはじと平家のせいとひのん〳〵舟
はおきくがはぢん所へさつと引弁けいは立かへり。うちこるくびをいなきそん〳〵。
おゝ是でこそじゆず一れん。百八ぽんなふつくんより。ごしやうが大事なむ
あみだなむあだ仏と念ぶつしほんぢんさてかへりける。あつばれいだてん
はくもん天せうき大臣しゝわうのあれたるすがたもかくゆらんと皆かん
第三
ぜぬものこそなかりけれ
かくてそのゞち。ゆふかすみやまのうらの松くらく。むれゐるかもめたち
さはぎとわさる舟のかぢの音。しん〳〵とてものさびしときの人もやさけ
ひもいてうつなみに引入て。うつりかはれるきやうかいは。あすの身のうへしはせし。
あはれのよはすおさつかぜいて。やかつちるも。心をいたくたねとなり。いと
ものすごきうゝはかな次がちうきん義経かんし思召今一どたいめんせばや。尋
来れと忠信仰をかうふりて。しのぶ兄弟さうにくし。なく〳〵御ぢんをいで
けるが。いざ立わかれ尋ねんと。しほやのつじよりしうじゆうは三方へこそは
三毛。別ればしまだよひやみのしほぐもり。からさびわさるはるのには。心ぞ秋
の夕成にすさきのだうの物東。むれ間松の小みなみ。おうしうのだとう
反やおはするか。次佐及やおはするかや。君よりの御いやうにて。弟の忠信が御
むかいに来りしとしづかによふでとおれ共こたふるものこそなかりければさ
は兄弟のれたりしに。こよひはじめてひとりゆくやしまのなみの
おと迄もきのふにかはる心して。なふ次信殿兄上と。よばんとすれどこ思
立ずみねにひゞぐば松のかぜとまやのかたにかすか成。手かひのゑの聞
ゆるをうれしやそれとはしりよればむれてともよふつまちどり。ばつと立ては
みだれ行うしろの山にこゑするは。しのぶがよばふこたまにて次第にて次郎とう
丸さふるものはなかりけり。今はちからもつき弓の時ゟかひなさにかけめぐり。
なふ兄上はおはせぬか。次侭殿つおはするかとこゑをはかりによび立へ〵又ふし
しづみなげきけりむざんにな次信はせいひやうにきう所をゐられ。大事
のいたでといひながらしにもやらず。かたわれにのたかげにたゞよひふして
ゐたりしが弟のこゑと聞からにやう〳〵にはひ出忠信と聞もうれしはしり
より。いまだぞんめいましますかとすがり付ていだきおこし。ひたいをおさへ御手
ひかにととひけれは今をかぎりの次侭は我身の事は扨置て。君はいかゞわたらせ
給ふぞや御身は手をもおはざるか。又かたは何ほどうたれしぞと。たへ行いきの下
にさへう。やれ身のごんとつたへぎくたにあはれなり忠信涙をおさへ君も我々
もつゝがなく。いくさはみかたのせうつなり。御供申せとの仰なり。ぐしまいら
せんといひければ。おゝうれし。さいごに着をはいし御前にてしすべきぞ。つれて参
れといふ所へしのぶ兄弟かけ来り。とかうしつらひすさきのだうのやぶれどに
次僧をいだきのせざきを忠信あとは思のぶがかきそへて。涙にしほれたど〳〵と
行やびかしのみに月はのくと。〵に。出にけりわれをの三郎は。次侭が心さし。ち
をこそわけね兄弟とむすぶゆかりの草のゑんしがいを取おきくびを歌に
わたさじせきくる涙もものゝふのやしまを尋めぐりしがおもてはちにそみ
うつぶしにふたる手おひの有けるを。是やはとよく見れば。かふとのしころますり
迄ちりつもりたるさくらき。まひの糸をうづみたる。涙にくもるほろ月。にさくらぞし
とかへて。これこそはす殿といだきついてぞ。のげだしが。此世ならぬ御どうおんだい
ごのおともと存すれ共高名もせずおくては世のしんとうも候へば。よきて
きとうちしにしやがておつ付奉らん。今よりは君なして。遥にかみせん我
すがたとさしぞへぬいてまへがみ切におしわつてふくませ。二世のちぎりのしかし
ぞと又さめ〴〵と。なきゐたり。か共しかてたん正太郎。源信をしろしうつふんを
はらさんとよはにまぎれてあるさしが。此ていをきつと見て。やあわのをな
君もの御ちやうには。沢信ふかねをおふたるよし。敵にくひをこゝれ見ぐる事に
しにをさせんより。ちゝきゝせくびうつて参れとの御事也そこ立のけ
とたちふる上る。わしのお手おひに立おほひ。あしばゝく〳〵〳〵〳〵おふたゝはかん
ひやうせよとことあるべけ。心をさらせよとは心へず。ことに忠信楽を
され。いこんふかききでんに仰付うれんやうなし。しがいはわれはわれるこへ
ば。扨は御ぢやうをかろんずるかいやさ何にもせよ次位かくび御入にはうた
せぬといふゑうあてめこゑやく者と打てかるをうければさん〴〵におつ立
是かへつてくびうられ得たしらず成にける。斗のおつゝいて立かへり。なむ三
ぼう敵にさへとらせぬくひみかたに思られし口かしさよせぬむくろをほう
むらんと引出とせばこはいかによろひに付たるさくらき。ばつとちつて小桜と
見べしはもとのみ山木や。くろかはおどしのよろひ也。そでじるしをちぎつてみれ
は。のこ及のちうどう。つくしの孫六やす国としるせり。ふゝ扨は沢紋にては
なかりしな。先かれとさて行しほやのかだへでいぞはけるすでにやはんの時
もすぎ。御ほんちんにはよふね諸奢れつだ有沢信がうぎのみいかゞなり
けるふびんやと。大将心をなやまし給ふ。所へきとう次信を召ぐせしとごん上
すれば。それこなたへとよせさせ給ひ。御ひざを枕とせさせ扨も〳〵もふ
便のものゝ有さまやいかに汝侭おとはよふねが命にかはりもはやしせと
思ひしにいきかは見たるうれしさよ。心にかゝる事はなきか。国もしへいふ事あらず
何事成共申かけ。諸侍はおはけれど。おや共子共某をちのしやうしが頼しゆへ
義経もけふれは命を二つもつたりしが。只今汝にわかれん事のびんなさよ
こ御ちぐるいで。あへがたきや有て次侭まなこをひかた。なごりおしげに御かほを
見あげ見おろし涙をながし。忝しといふこゑも。しごろにもつれかすか
なり。忠信涙にくれてゐたりしが。手おひに力をつけんため。ゑらいひなし次信
殿権五郎かけ正はとりのかみにまなこをゐられ。七日がうちにたうの矢をいかへし
しと承る。それほどにこそあらず共。などや御前にてへんたうはの給はぬぞ。忝
くも枕もとはさうでんのわか若ゆんではちぶめてはわだとひさきむさ
しぼう。かう申は弟の忠信にて候とこへどあらゝげいひければ次まくら
をもたげ。なんでう其かげ正におとるべきにあらね共。三国にかくれなきの
とのかみの太天をたゝなかにうけとめて。次信なればこそものをは申せけたき
みかたのめをさまし。しかもわが君の御ひざにてしする次信が。何に心が
ひかされて。いふへき事のあるべきぞや。御かいぢんの御供しておうしうに下かう
せば。次住てはわが君の御用にたち。源平のめをおころかしししたれば
ゆきおれ竹のたかさまの。世をはなけがせ。給ふなと。すいふんかう〳〵つくせよ
ゑかたみはひごろかきおきて。まもりぶくろに残せしそややれ忠信おとこは
たかきもいやしきも。わかきこて人ゆるさず。た合たはみれんのはしめとしれ
君にふちうそんするなはうばいたちにりよくはいをすなの中のかゝ。
せ身をつくしも。ひとりはたゝぬ世の中ぞかならず人にくまれな
やれさいしをもつね〴〵はふつつとおもひ切しかどおんあいのすてがた
さは。たゝ今のなつかしさ。次信ほとのものなれと。かねてかくこもさい都
にはかはる物とは今ぞしる。是もおことが手なんのため。語り。語り。
たへ入きなこの中ゟも。涙をしら〳〵とながし。いふべき事も是ばかり。
とま申てわが君さま是迄ぞ弟。ちふわざ及むさし殿はおはせぬ
は。忠信にめかけてたび給へ。なむや物方みだ如来と。手を含めをふさ
ぎおかべきはこゝのほど。三十三のきほろしも。やまのいそのなみのあは
きへてはかなく成にけり。忠信につと取つけば君をはしめ奉る。ぎんしう
しもべにいたる迄一どに是はとこべを上出しみなげくぞたうりなる判
ぐはん御渡の下よりも。すてはてし身もながらへて。あれば有へ世に
いかなれば。おしまるゝ身はとゞまらぬ。いか成ゑんにか主と成いか成者か
下へと成。かゝるあはれを見る事よちよともはしらね共兄畠殿かば
及。わかるゝもかくあん。いせもかならずしうじうぞと云哥も次
侭か。配いにすがらせ給ひければ。おにをあだむて弁けいもむせかへり〳〵。こへも。
おきずなけさける。かゝる所へだん正太郎あはたゝしくかけ来る。すは御大しこそ
出来候へ。そのおの三郎は次侭にはなれ。みかたに力なきゆへに平家へいうし
人と致候。貴しさいはたゞ今てきのしのびのもの参うらこめ候所に。久つて
末にてきたいをいたしすでにたちうちにおよひしをとかく切ぬけ敵はうち
とめ候と。いぜんのくびをさじ出す。今のおつゝいてしこうすれば。人〳〵
一どにはゝりと立わしのおをきまはす。三郎少もさはがす。いゝ是々御
さはぎ候な。まつたくさやうに候はず是あんさい。一疋の馬がくる人は千疋の
馬をくるはすとは御へんか事。某をざんするのみか。したる敵のくびれ
てしのびのものをうつたるとはいかに。だん正聞もあへず。しからば汝はてき
のくびれ某に何とてうつてかゝりしそ是二心のせることいへば一ざのうわし
のおいかにとつめかけける。わしのお渡をはら〳〵となり。申上るもかなしや
な。なさけなの兄の沢信かゆくゑを尋出るにぞ。心もみだれちかきにむ
もれしよろひを次侭がこざくらおこしとめも今みなげたしづみしおり
から。次侭がくびうてとの御ぢやう也とて。りふじんに切取て帰り候せう
こには其くびの口をわつて見給へびんのかみの候べしと。申もあへぬに
忠信にかわつて見て見てあれば一ふさのくろかみ給へ。弁けい物もいはすつつ
と立。あんざいかわたがみつかんで。ゑゝちくしやうおとりの悪人。もんどう
するもむやくのさたときとのそとへかりとなけ。あゝかまふな忠信がまふ
なわしのお先次信を弁けいか。為人だうして。くらせんとやがで。ころもを
ちやくしける。手つねをはじめ大名に名残なく。しがいに手をかけたまひ
ける。其時弁けいじゆすおしもみ汝くはんらいてつせきのごしごくらと
もいやちぐゝもいや。しゆかだうにとうつまし。うたれてしする平家のせい
とめいどにてもかつせんして。しやかみだのねふりをさまし。ゆきたいかたへ
つつこゆけと。だゝにしんごんくりかけ〳〵〳〵よみかけてのべにおくれる
はるのゆめ。さめての後のすゑの世辺ためしまれなるものゝふ
第四
やと皆かんぜぬ者こそなかりけれ
かくてそのゝぢ。さとうしやうじの御やかたへはなげきをしがり。忠信より
わざとたよりもせさりければしやうじ一けの人々はゆめにもかへと知給は
す。たいないにてわかれつる沢信が一子。たんじやうせしを次若と名付西国
よりのたよりをばあけぬくれぬと。まち給ふ兄弟はつね〳〵つくりには
をこのみしに。かいぢんせば見すべしとて。さま〴〵の木草をうへいはぐみ
ゆり水心をつくじ。かほのぬまよりふりよき松を見立させ。あまたの人
ぶもち来る。しやうじふうふ二人のよめ。にはにおりゐて見給へば。松の
ゑだらにそまりあけに成てみへければ。人々きにかけにんぶを召いか成事
こぞ仰ける。にんぶ承りさん候。いぜんはかろく見へしゆへにんぶふたりして持
ければ。ばつくんにおもくして取おとし。先のぶは何事なく次風がうたれてきず
をかうふりさん〳〵の事といふ。はや姫おどゐた。やあ何といふき。かゝりや。右
なをせよとありければ。はて何と御きゝなさるゝ。此松の木をれおとじ
さきのふは何事なく。次郎がうたれ候。さだめて命はあるまいと。物がいはせし
つしうらは後にぞ思ひあたりける。人々けうさめが風を見合。しばしことばも
なかりしがしやうしゑんを取かへ。おゝめてたしく。小松は平家の大将次佐がうつ
たるぞ。悦びのしゆゑんせんと。おくに立入給へども。はや姫なを
もおちつかず。しよせんわが兄のしたの三郎殿を頼み。此子をつれて
西国へ下らんと。たびのいとなみそこ〳〵に。次若をかきいだき兄のい外
りにしのびゆきとかくかたゝひ兄弟はざい国。かたへと申辛いでがるゝ。
なじみの雪のあけばのや月になごりて思ふにはさきにわがつまあと
におや。思びぎるせときゝぬせの。中に立たる身をづくしこの身を。
つくすあはれさよ。され共しだの二郎はいもうとにちからをそへ次若を
あいしては。めだにさめだらぜなにぎつとおいのとのねん〳〵ねこね。お
とせでおよれのゝへまいつ。行かだ。いづこめぐきのおかのくすはゝかぜ
さはぎうらみつわびつよの中のくはいろかへてあをばやま。ひく
まののべにたつしかも。つまこひかねてかへろとなくは真ほらしきおとこも
やうのころものせきかすみのせぎのなくべや忠うのばなまだき
ふぢちりて。はつほとゝぎすはつこゑを。とまやのけふり一すじをふた
いわりなるひ。たちおびとげてかたりし。むろことをあだになす
のゝはるのゆめ。さへつゝゆめのかよひぢを我になきそかなこその
せき。花のなごりの。あだか山たきつながればたけながにひ。きを風
にたゝませて。ひかもとゆひのくろかみ山。わけゆくすへはむさしの
くさにあこがれつゆにねて。給ふ。四五日めになれし。ふじさへあとにみ
かはの国ずきておはりのわたしぶねのりてはしりていせもはや。こま
いぬせきのぢざうだうにあい〳〵のつまさづくちかひくちすな
くちなばくちよわが中のこひはうづまぬつち山や。あふみのうみははるふ
けてみづのみどり。もかけうつる。しげりしみねは八わうじ。二十一しやの
神所ざるはさんわうまさるめでたき。御世のしるしは松もとの松は
するどくやなきははでにたけはしなへふしみのさと江口かんざきにの
みや。ゆふ日のにしきからくれないにゆくみづをぐう〳〵〳〵〳〵〳〵と
水くゝるかけひつたひのさとをこへ。川をこへつゝめこへて。たにをこへても
一のたに。又二のたに三のたにこゝも此たびつはものゝひやう。このつより
おひかせ。のふねはみつはのやしまのうゝ浦なみかけて。あしふけるしば
の。いほりにまつき給ふ。いほりのうちへ物やざんとあれは。あるしの女と
ほそをあけ。此所は深平のかつわんいまたおさまず。たこゝの人にはむさ
とやどはまいゝせす。いつかたよりととひければ。した聞てわれ〳〵はではの
国さとうがゆかりのもの。いゝさのしだい兄弟が有へさまきかまつくはる
〳〵のかり候といへば。かの女きゝもあへず。扨はさやうに候か。みつかゝは此所の
かり人。わしのおの三郎とやものゝあねなるが。次佐さまの御かけにて弟は源
氏の侍と成。御おんをうけしもの候。いくさはいまだおはねども。平家は大
かたほろひしよし。次佐さまの御事はのと及の矢にあたり。はて給ふとやう
んきゝしかど。女なればせんじやうへ出たる事も候はず。くはしくはぞんぜ
ぬなり。いざきのわしのおがちん所へともなひ。ちきにやうすをとひ
給へといへば。しだ悦び。しかゝば御とも申さんと。はや姫次君帰り
に残しかの女と打つれて。ちん中を。さしてぞいてきける。いたばしやな
はや姫は次道をかきいだき。あるしの女のものがたる。もし誠なばいかゞせん。あは。
いつわりなれかしとたよりまつまの侍どおく袖も心もくつをれてと
ろり〳〵のあだねぶり。枕がうへにこまのあしなみ。くつわのおとにゆめさ
めでいほりのうちに入来るを見ればつまの次僧こざくらおとしのものゝ
ぐかためしは〳〵とて見へ給ふなふわがつまか次修殿かといだき討れし
涙をながせしめや有てのこのかみの矢にあたり御さいご共聞しゆへいか
斗あんぜしか。これはうれしき候事とあれば。おすでに者なんとけれ共。たい
ないにまきすはしなさけのたねのみどり子に心ひかれてしな時
の夜に三度日に三度。いくさのひまはなけれ共。しはのいとま女
わりて是立は来りしと又さめ〴〵とぞ。なき給ふ時に山なりたにこたへてん
ち六大ゆにしんどうして。大地もさくるごとくなり。客わつとなきければ。いや
くるしからず。又こそ平家がよせ来る。一軍してかけちらさん。見物せよにこ
打出れば。平家はよせくるなみのおもに大将をはしめとし。一もんのいづけは
うんかのごとく。しんゐのれさきかまんのつるぎ。にいばをそろへあくはれし。穴
のけしきも引かへてやよひなかばのはるの色けふのしゆらのかたきはたて。おく
のこのかみのりつねよ。あら物〳〵し手なみはしりぬ。其一念のらみの
矢さき。思ひぞ出るだんのうらの其ふないくさ今も又恐んぶにかへないき
しにの。うみ山一どうにしんどうし。五ちん六よくのかせ立て。しやうしのあ
人ごほりどくればみかたむすへばかたきはつゝかゝつてはつしとうつうたれて
さんと引志頂の又さくるは五さやくのたち。なをまうしうの山めぐりき入て
はだちはなかつけり。次終いほりにはしりへ。見給ひたるかあのごとく。日夜
のいくさはしげゝれど。いもせのいきり此若にあいたみたざに束りし
と次落をひざにいだきのせ渡にくれて見へずけりかゝる所へしだの三郎
わしのお兄弟右語もろ共かへいるゝ。はや姫こり出。なふおそかつし沢
信存もまちねて御入候といふ。人々おどろた。してはごふる沢終
是に給へとは。ゆめじしみたるかうつゝかといへば。はてさいせんより御出
にて。沢水をてうあいします。先入てあひ給へといひけるに。そな
をしもふしんはれね共。いほりに立入見給へは。なむ三ぼう次侭がおも
かげはござくらおどしのものゝくに。酒ゐはかりいたき付。有り有はなかたちはなかけり。
はや姫是はとすがり付。なふ次第及わがつまとよべど。さけべどがひぞ
なきものゝあはれのかぎりなりはや姫後のひきよるも。くとき給ふぞ
たかりなる。扨も〳〵みづからはど。子にあさましきものはなしかつそめに
なれまいらせ。みとせにたらでわかれし事。すくせいか成むくひぞやせ
めておんあいのよしみには。今度次若か我つ字かこなとや云ばをかけ
にはぬなふ次侭ま〳〵とかひなきよろひにいだき討ふししづみてぞ泣
給ふ誠にふるさとのしやうし友かく成給ふとはつゆしろしめされずし
やがてかいちんし給はんと。あけくれまちわび給ふらん是に付てもなし
つくりにはををきれいにとて。ふりよき松をもとめ給ひ。兄弟か帰り
なば。ちそうにうへ置見そべしとて。あまたの人に持来り。おもくてあやまち
したりしと。いびしことばのきにかゝり。心もしなふ思はれ取あへずのほりしが。
むなしくならせ給ふとの母は。つげにて有し千な生はしのもといあぶはわかれと
いひながら。思へば〳〵か。なじかとりるていこがれなき給ふ忠信涙をとゝめか
ね扨はうつゝにたましゐのさいしをしたひ来り給ふり。などや某にも
見へさせ給はぬ兄うへど。よろひにすがりなげくにで。王のお兄弟物
にさはかぬ三郎も小手くさすりに立付て。人めもわかすなきたけぶ
女もあでられぬしだい也あんざいのだん正太郎は御前にてちしよくをれぶしの
なじはりならさるもいよ〳〵きやついがなすわざと。一みのあとたう引くしあちより
つけて来りしが。とばそけやふりむ二む三にこみ入ける。心へたりと忠信次
若をいたきこる。しだおもてにかけふさがり。ふゝ扨は聞へおよひしあんざいなう
れへにしづみしよはみをくひ我々をかたんとは。おのれはいのちにもちあぐへ
だな。いくさせまいとせいもんはたてたれ共。おのれをころすはねすみぞこ。
いふよりはやく引つかみおつぶせ。そは好大石おつきて。せばねにごうごかけ。
さめねずみ及ちう共いへと。ちごくおとしにおしつくれば。五たいくだけてしゝ
てんげり。なをもすゝむやつしらを。四はうへはつとおつちらず。人〳〵よろこび立
かさなり。ひごろのゐこんをさんべし事。まうじやも悦び給ふへし。いさだい
をとふらはんと。かねて次修き思したる。みやとほうねんしやうに人を頼み
中さんこなたへとてみやこちさてのぼらるゝ源平両かの物語る物
のあはれはおほけれど。かかるためしはしやうこにも。まつたいにも有るへ
かずとみなかんぜぬものこそなかりけれ
第五
かく。てそのゝち四かいなみしづかにて国もおさまる時つかぜ。はやうちのつ
かひとして源八ひろつなゐんの御所にはせさんし。扨も九うくはん義経
てうてきついたうのゐんせんをかうふりやしまたんのうらあかまもしかせき
所々のいくさに平家の一もんと〴〵くうちほろぼしむねもりふしをいけれ
天下太平の御代と罷成候でうないし所印の御はこねゆへなくみやこへし
ゆぎになし奉るへきよしつつしんてそうしける。ほうわうゑいかんあさから
す。ひろつなに兵衛のぜうを給はり。源八兵衛とめされける。けいしやう宮
かくらく中ちくふわいきんへんのみ百しやう。けんじの御代はばん〳〵せい
せんしうらくとぞいわひける。扨ひろつなはぎよれんちかく参り。いくさ
のしたい御ものがたり仕れとのせんし也ひろつな承り。せんよりたしかたく候
へ共ではのしやかしがせがれたとう。い侭と申もの義経の命にかはりうのじに
仕て候。かれかしんぞくしんくろだににてついせんのふつしきまかなひ候
ゆへ義経がたいさんとして思かう仕へきよし申付候へばまつくろだにへこそ
と申上れば。尤しゆせうのいたり也と御いとま下さるればひろつな悦
び。袖にもあまる身のみやうがとたいしゆつするこそ〽ゆしけれ物の
むかへのしうんさんしんくろだにには次侭がついぜんとてふつせんにいはい
を立とうみやうかうけをそなへ四十八夜もけちくはんにてはや姫次若
さん候い有は。ちうにやくなん女くんじゆしてゑかうをなすそこといりやかく
てほうねん上人は御でしあまたさゆうにくしかうざに合せ給ひける源八
一兵蔵ひろつなは義経の念う代にて大くろといふ名はる。はうくはんつひさに
有けを次侭いひ〳〵しよまふせしか。はうばいのそねみとてつゐに下し給はす
御しうたんのあまりにや。まうじやにおくりひかるゝと。はかのめくりを
三べん引てめぐりければ馬もけをふせみゝをたれしほれしふせいぞあ
われなるしばかく有てしだの三郎さんけいす。れんしやうざを立て
やあ御ぶんはしだの三郎か。我こそくまがへ入道よ。命あれはあふたよな。
まづ此たびはちからおとし。して忠侭わしのをなどは見へざるか。三郎
しだといへども。さらにへんたうせず。心しづかにゑかうするれんしやう
はかを立ごりやほうしと思ひちかつきをもぐすか。ほうが帳も
たのむまい。見ぬかほするなひけうものといへば。ゑゝかしまし。ひ
けうとはわそうが事に。此ばうずをひけうものとは何事ぞ。
やれ侍はな。おや兄にはなれても。しがいをおしのけいくさするを
ぶしといふ。忠信わしのおは次侭がうれい有といへ共。いくさおはらねば
はかへもまいらず。かういふしだもしさい有て侍はやめたれ共。あんさいの
だん正太郎といふあくにんをうつたるぞ。あつもりのなさけが有。いや
むじやうをくはんずるなどゝてぐんちうより出家する。是はなんとひ
けうならすやといへばれんしやう大手をたくいてから〳〵とわらひ
こりやぼんふむじやうを見てはごしやうに入づよきを見てはした
がへるをまことの侍とは申也。はなのやうなるあつもりをわが手に
かけてうちし事。なんばうあはれに存るゆへ。侍やめて出家すれば
其人も仏になり。わが身もともにぶつくはにいたるが。是がかてんが
まいらぬか。こりやしだの三郎といへば。しだは一ねんほつきして。あり
がたし〳〵もはやぎしんははれたると。もとゝるふつつと切てすて。はだぬ
いでたちをさか手にれなをす。れんしやうおしとゞめ是何事といへばしだ
聞てねんふつのくりきにてわうじやうせしと聞かゝは見ながらしやば
くがいにへんしもながらへ何かせんはゝかきやぶりこゝらくへはやく行
んといへば。おゝたのもしき大くはつのぶつしやかなさりなからいかに
ねんぶつ申ても。しゆぎやうのこうつもらではわうじやうはなりがたし。
しだ聞てあやまつたり〳〵。しからばそれかし出家になり。次僧がぼた
いをとはん心なり。はや〳〵出家せさせてたべ。ゆうねん聞召さてくしゆ
せうの心だしれんしやうとても其とおり。しからば出家せさせんと
やがてじゆかいをなされける。則しだばうとぞ申ける。いかにれんしやう
次侭が相はてしより。さいしがなげきかれ是を見るにつけても。いとゞ
あはれに候はと涙をながし。給ひける。ほうねん聞召なげき給ふもこ
とはり也。次侭は君の御用に立しゝたればしやうふつはうたがひなし。いて
〳〵とふらひゑさせんと。こいうにむかつて手を合。もん〳〵ふどう八万
四千。いめつむりやうくはこういん。りけんそくせみだがう。一生忌にふ
ざいかいじね。なむあみだ仏ととなへ給へば。ふしぎやぶつぜんに立たるいは
い。うごくと見へしがたちまち次侭がかたちをあらはし。あかたつとのおん
とふらひやだゝ今のくりきによりしゆうのくげんをきぬがれ今は
まうしうはれたると。たちまち仏たいとあらはれ。西の座へとひ給ふ。
有がたし〳〵仏心うはんしやう御代んじやう。めでおゐた中へ申計はなかりけり
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