源平兵者揃

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橘正勝
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ゲンペイツワモノゾロエ
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土佐少掾 源平兵者揃土佐少様 直伝 遊覧桜 万歳頼政傾城三国志 伝馬守伝馬門信三国志 定家 酒呑童子 一治陽寿平かな大全 和田酒盛土佐日記 一蓬莱源氏 なごや山三一の谷八嶋 源氏六條通今川かづら 塩屋文正 同続源氏花月十二段 中将姫 現在松風 一柏木右衛門木広栄源氏 大しよくわん 紅葉がり大塔の宮 泰平篁 桜小町 一楠湊川小野道風 芳野内裏 色小町金盛くらべ 皐月十二段 相生源氏 光源氏袖鏡せみ丸相生源氏 対面曽我 難波物語美人桜対面曽我 牧狩曽我 源氏十二段花鳥大全牧狩曽我 兵そろへ 当世薄雪お国かぶき箕そろへ 一心二河白道 世継簡我 向曲物目録 色竹全 文音竹全 後撰集二冊 千代竹全 和歌竹全 大竹集五冊 一右之合巻 一やうらう 融大臣殿師難波鏡屋うらう □□□□□□□ 一家伝秘蜜の奥旨は木下氏に伝て 一章句を世上に弘是一流を翫ふ人 まきこらはしき節々即まとはす正風 なれと願ふものあらし 一一〇・〇〇〇 以テ購入セル竹崎博士 狩野亭吉団藤博蔵 土佐少掾橋正勝 近来土州の一曲は俗を離れ風をたて声は梁の塵 をたゝしめ節は利休の茶杓よりもしほらしく都鄙 なべて風をなすも亦懲しからすや予も此道を数寄て今 高徳の太夫にちなみ章句を弘むる事数年に有身を たて名を殺すは一芸の徳なり書は万代の鏡一字の 違百万の誤を恐れ千度投合し百度琢磨して 清濁を撰ぶも道を思ふが故也然に頃る類板の塵芥 街に満或は筆跡紙数を減少し佐の軽きを以て あやぶめんとす其妻たるをみれば筋景の誤かぞふるにたす 依て愚が板行の正本には 今改一如斯印出之能 小伝馬町三丁目 木下甚右衞門 第一 源平兵者揃第一 一扨茂。其後爰ににんわうじ八十一あん徳天 皇をは。平家取奉りさいかいの波にひやう たく。ありと申せ共。都にはぼうわう。後 白河の御はからひにて。高倉弟四の宮。 御とし四才にて。御位につかせ給ひ後鳥 羽の院とぞ申ける。其比兵衛佐。頼朝 の舎弟。蒲のくわんじやのりより。九郎 くわんじやよしつね。両大将にて上洛し。 木曽よしなかをちうりくし。此上はさい 国へはつかうし。平家をやうつべき。まづてい とをしゆごし。かさねてゐんぜんをかう むり。向ふべきかと。いくさ評定まぢ〳〵に てしはらく。目かすを上心おくらるゝれ去ほとに。 其比平家は。むろ山水嶋。二ヶ所のかせん にあかち。其せい十万よきにて。さぬきの 八嶋をたつて。津の国はりまのさかいなる。 一の谷にじやうくわくをかまへたてこもるよし 聞し召。九郎よしつね。佐藤三郎つぎのぶ。同キ 四郎忠のぶ。むさし坊をさきとして。そのほか くつきやうのつわもの。三千余騎にて。三草山をむ け入つなどりとうげにけづてありどを ざしてそむかわるゝ。かゝる所に。むさしぼう べんけい。いづくよりかは召ぐしけん。十六七 のわつは一人。此山の。あん内しやとて御とへ に召出す。よしつね。たいまつたてさせ見たまふ に。ほうほねあれてせい高く。まなこざし。 たゞものならぬわつは也。よしつね御らんじ。なん ぢが。年はいくつととひ給ふ。生年は十八才。 在所は。何といふ所ぞ。さん候。山のはなさし 出。わしのかほににたればとて。わしの尾と名付 てつ。大将聞し召。然らば。なんぢが名をばけふ よりして。鷲尾ノ三郎。名のりは。よしつね のつねを給はり。経春とつけ給ひ。赤皮 おどしのよろひかぶとに。太刀一ふり相そへかげ なる馬に。くらおいてぞ下されける。わしの尾。 ありがたし〳〵と。御まへを罷立。頓てたま わつたるよろひをちやくし。馬に打のり三千 よきが。まつさきにこそすゝみけれ。さてこそ 八鶴。だんの浦にて高名し。奥州高館 こ まで御供申。君と一所に打死せし。わしの 尾の三郎。つね春とは是なりけり。それ よりも。わじの尾あんないづかまづり谷みね。 こへてそのあかつき。一のあかつき。一の谷のうへ なる。はちぶせばその道に。打あがつて見給へ ば。大手の軍も。今さいちうと打見えて。おめき さげふ時のこゑ。山にひゝぎて。おびたゝし。 今ぞぢぶんはよからんに。此山を。さかおとし。大 手に力を。あわせんとぞ仰ける。つわもの共 承り。はるかに下を見おろせば。うへ七八たん は。小石まじりのしらすなにて。それより下 彼。かゝたりがんせきつらなりて人馬共にかなふ へきとは。見へざりけり。大将。つねはるをめさ れ。此山に。鹿はなきかとのたまへば。あまた 候と申。鹿の通ふほどならば。などかは馬もゆ かざらん。鹿は足四つ。馬も四足けりやう。 つめのまろきと。われたるとの相違也。一つは馬 の。おちやうを見んため。又は源平のうら かた成べしとて。あしけの馬に白くらおかせ。是 をげんじの馬となし。又かげなる馬に。金ふ くりんのくら出かせ。是はあかければ。平家の 馬と名づけつゝ。二疋の馬を。おひをろして 見給ひけり。まろふ共なくおつる共なく下り つゝ。越中のぜんじもりとしが。かりやのうしろ におちつき。源氏の馬は身ふるひし。 ○ 峰のかたをまほり。二声。いばふて立けれ ば。平家の馬は身をそんし。おきもあから で。死にけり。大将。みかたに下知していわく。 馬は人が乗ておとさばしさいなし。がけを おとすにたつなあり。一つに心。ふたつにたつな 三つにふち四つにあぶみと申せば。第一は 心なり。義経が馬を。手本にせよとのた まひて。馬の。あとあし引じかせ。なかれおとし におとさるゝ。三千よきの津わもの共。大将の 八嶋 下知にまかせてみな一月にぞ 三千余騎の兵共。やかた〳〵に火をかくれば。 平家の命。あわてふためき八島をさして ぞおちゝるゝ。さてよしつねは。はま勘をさし てぞいてらるゝかの。よしつねの武りやくの ほど。あつはれかうなる大将やどきせん上 下おしなべてみなほめぬものこそなかりけれ 第二 其後。平家はざしもの。やうがいと思はれし。 ← 一の谷をば。よしつねの武ゆうにて。ことゆへ なくせめ落され。大手いくたのもりもやぶ れしかば。今ははやせんかたなく。主上をふね にのせ奉り八嶋をさしてそし落らるも かゝる所に。相国の。御第つねもりのすゑの 子に。むくわんの太夫あつもりは。御一もんに おくれたゞ一騎。なぎさをさしておち給ふ。 かゝる所へ。むさしの国の住人くまがへの次郎に なをさね。こんてう。一の谷の。せんぢんとは 八崎 申せ共。させる高名きわめずして。むねん たぐひはなかりけり。あわれよきてきに くまばやと。はまべをさして出けるが。あつ もりを見まいらせ。それへ落させ給ふは。大 将軍と見へ給ふ。まさなくも。かたきにうしろ を見せ給ふ。取てかへし御せうぶあれ。かく申 なを は。くまかへの次郎。なをさね也と。よばわつ たり。あつもり。くまがへと聞し召。のがれがたくやお ぼしけん。こま引かへし。よれくまん尤とて。おし ならべ引くんで。両馬があいにどうとおち。甲 ちぎつてかゝりとすて。御首がゝんとしたりし が。あまり手よはく思ひつゝ。うちかぶとを見 てあれば。いまだ十五六の若上らう。うす けしやうにかねくろく。ゆふにたへなる御すがた。 さしもにかうなるなをさねも。いつしか 心かわりけん。あまり御いたわしく思ひ。今 はたすげ申べし。なのらせたまへと申ける。あつ もりは聞し召。かたきの下にくみしがれ。名 乗るべきにはあらね共。なんぢが手にかゝるも せん世のゑん。ごせとふてゑさすべし。つね もりのすゑの子に。いまだむくわんはかり 名にて。太夫あつもり生年は。十六才とぞ 仰ける。なをさね承り。さては小次郎御同 年。たぐひすくなき少人を。うち奉り。くん こうけじやうにあづかりても。千年のよはひを。 たもつべき身にてもなし。さあらばたすけ申 さんと。やがて引立。よろひについたるちり打 はらひ。馬に打のせ奉りともに打づれ半 町ばかり。行けるに。上の山より。九郎よしつね の手の者共。かめい片岡いせするが。むさし 坊をさきとして。くまがへこそ。かたきとくんで たすくるは。二心とおぼえたり。くまがへともに 打とれと声〳〵によはわつたりいたはしやあつ もりは。この内の鳥とかや。あじろのうほの ごとくにでもれておづべき。やうはなし。なを さねなみたと共に此うへは。それがしたすけ 申共よも御命令のがるまじ。なをさねが手に かけて。御ぼだいとふらひ申べし。草のかげにて御 らんぜよと。又引くんでどうとおち。いたわしや 御首を水もたまらず打おとし。なみだとともに。 みかたのぢんへぞかへりける。弓やどか身のなし らひほど。心にまかせぬしことはなしかゝる 所へ平家のさふらひ越中の前司もりとし とて。力よにこへ。武ゆふに達せし者なるがと てものがれぬ我身なり。此上は一人なりとも。 てきをふせぎ。御一門の人々を。おとさばやと 思ひ。ふみとゞまつてぞたゝかひける。かゝる所へ いのまたの。小平六のりつなば。ぜんじを目に かけ。すきをあらせずかゝりける。もりとしは きつと見て。や阿。出のれは何者ぞ。今はうん つきぬれば。相手にのぞみはなきぞとよ。よ つてくめといふまゝに。大手をひろげ。待かけ たり。いのまたもばんどうに。かくれなき大力。 心得たりといふまゝに。おしならへ引くんで。上を 八 したへとかへしける。もりとしまさるちからに て。のりつなを取ておさへ。首をかゝんとせし 所を。いのまたもとよりはかりこと。第一のかう のもの。たばからばやと思ひ。扨も御身は誰 人ぞ。てきをは名をきいてこそ首をばと れ。たれ共しらぬ首とつて。何にかはしたまふ べき。しよせんあわてたりと申べし。それがしは いのまたの。小平六のりつなと。申者にて候也。 うつもうたるゝもぜんせのきゑん。なのり給へと いひければ。もりとしげにもと思ひ。是は平家 のさふらび。越中の前司もりとしとはわが事 なりと云ければ。さては。もりとしどのにてま しますか。平家は御うんつきぬれば。我が首 とらせ給ひても。さまでくんかうも候まじ。あ われのりつなを。たすけられ候はゞ。かましら殿 へ申て。御身のしたしき人々。いく人も候へしや めんなさせ申べしと。まことしやかに申けり。盛 としもさすがうんめいつきぬれば。やす〳〵と 人 たばかられ。其儀ならばたすけんと。かたなを さやにおさめ。のりつなを引おこし。深田の くろに。二人共にごしかけてしばらくやすみせ居た りけり。いのまた。おもふまゝにたばかりすまし。いがゞ はせんと見る所に。しぶやの五郎是よし。上 下五騎にてはせ来る。いのまた心に思ふやう。 もししそんぜば是よしが。おりあわぬ事あらじ一 と。隙をうゞひ。こぶしをにぎりもりとしを うゝろさまに。ふか田へかつはとつきかとし。おき。 へて首を打おとし。切さきにさしつらぬき。平 家がたにて。きじんのやうにきこへたる。越中の 前司もりとしをば。いのまたの。小平六のりつ なが。ぶんどりしたりとのゝしつて。みたの ぢんへ引にけり。かの。いのまたが手がらの程。 あつはれかうなるはたゝきやどきせん上 下おしなへて皆よんせぬものこそなかりけれ 第三 其後くまかへの次郎なをさねば。あづも りをうぢしより。うき世のむじやうを望んずるに。 草葉における白露水にやどゆる月ゟ も。なをもあだながうき身ぞかし。きんごく に。花を詠ぜしゑいくわも。無常の風に さそわるく。人間五十年。げてんの内をくらふれ ば。夢まぼろしのごとく也。一たび生をうけ。めつ せぬものゝあるべきか。是をぼだひのたねとし て。世をのがれんと思ひ。ひそかにぢん中をし のび出。都をさしてぞのほりける。あつもりの 御首を。ごくもんより盜みとり。むじやうのけ ふりとなし申。御こつをひろひ首にかけ。東 山。黒谷へ立とへ。法然上人を。師匠とたのみ かみをぞり其名を引かべれんじやうぼうとぞ 申ける。こきすみそめに身をやつし。あつもり の御こつを。高野山におさめばやと思ひ。上人 にいとまをこひ。新くろ谷を立出る。心の中こそ しゆしやうなれぬひかしを見れは敷嶋や哥し の中山。せいがんじ。鳥部野にたづ夕遣ふり。 よそのあはれも。今にはや。我身のうへとおも われて心ほぞざば限りなし。とてもかくても あだし身を。思ひすつればさしもげにうき世 のやみもはれ行て。心もぎよきせいすいし。田 村丸の御こんりう。大目二年に御さう〳〵。よ ろづのほとけのくわんよりも。千じゆのちかひはた のもしや。がれたる木にも花さくどあやまりな くばあつもりのとんしやうほだいとゑかうして とうじ。さいじ四つつかや。年はふれ共おいもせぬ むつたかはしは。是とかや。山ざきせんげん たがらてらせぎとのゐんをはや過てかしこ を。見れば。ことのみね男。山にもなりしかは なむや八まん大ぼさつ。御しんたいは応神天 皇本地は。しやくそんのさいたんさでこそ八 せうだうをかたとり正八幡とは。うけたまはる。二世 安楽の御ちかひ。うき世にのぞみのあらざれは のちの世だすけで給はれど心の中にたん ねんし。片野の原を通るにぞ。きんやのざじ は子を思ふ。ことのにしげき。ませかきの。しゆく をすぐればいとだの原くほつの。わうしふし 〽おかみ。天王寺へでまいりける。しやうとく太 子の御ぐわんじよ。仏法さいしよのみてらにて よろつ世。かけてたへせぬは亀井の水の なかれかや。れいぶつれいしやをふしおかみ。行ばほど なく高野山こんかうふしにそつきにける。そも 御山と申は。ていぜいさつて二百里。きやう りをはなれてむにんじやう。こんたいりやうぶ をかた取てひみつ。ゆがのだうじやうなり。 カヽル中 一と。さんけいのともからはながく。三津のく をはなれ十三。大名のしやうじゆに太かた をならべてへたてなし。八つの尾八つの谷ま でも。衆生。ほんがくのしんぼうにて。むねの れんげをかたとれりかなだこなたのみゑい だう。しやくぞんねはんのぞうも有。みた 搦いかうの。よそぼひを。ゑがいだる所もあり。 かしこはせつぼうじゆじやうのにはこゝは。ひ 八嶋 みづしゆぎやうのしづ。念仏。ざんまいのみ ぎりも有けんぎやう。みつさやうかきまじへ しやうだうじやうどかく〳〵にて心こと葉もお よばれず。おのへの霜にかねひゞき嵐に まがふすゝのうゑ雲井に。のぼるがうのけふり に。いたるまでしん〳〵肝にめいじづゞありがた。 かりしれいじやうがなひばら。夜はらずけ 過て。大師の御べうに成しかば正和二年。三 月。廿一日。とらの一天に御にうぢやうのせきし つにてせいぞうすでに。三百よさいのれい しつたり。あつもりの御こつを。ふかくおさめ 奉り。れんげ谷のかたわらにおこなひすま していたりけり。かのれんしやうが心の内しゆ しやうなりとも中〴〵申計はなかりけり 十一一 第四 一其後源九郎よしつね。風波のなんをい とわずし。手せい八十三騎を引つれ。高松平 打こへ。八嶋のじやうへおしよせて時のこゑを そこ上にける。そんいたわしや。平家の人々。 すわやかたきのよするとて。おもひ〳〵のふね にのり。おきをざしてぞ。おちらるゝ。其中に むねもり公。侍共にげんじがせいは。いかほど あるぞととひ給へば。七八十騎には。よも過候はじ と申。あな心うや。かみ筋を一すじづゝ。わけて とる共此せいにはたるまじかりつか物をさて。 中にも取こめうたずして。あわてゝ船に。のり けるこそむねんなれ。のりつねはおわせぬか。くが にあかつて一いく。したまべしとぞ。仰遣る。 のりつね。承り候とて。から巻そめの小袖に。 大口の。そば高〳〵とおつとつて。卯の花をど しのよろひをちやくし。なし打ゑぼし引かふ で。白あやたゝんで。はち巻にむんずとしめ。 ひやうどう作りの五人ばり。まん中にぎり横 たへ。手矢ばかりおつ取。小船に打のりそうし もんの。なきさをさしてぞみ出し出しあい ちかく。なりぬれば。ふなばたにつつたち上り。 八郎 八件{ 大なんあげて名乗らるゝ。只はこゝもとへ。すゝみ 出たるつわものを。いかなるものと思ふらん。一品式 部卿。かつらわらの親王に九代のこうゐん。かど わきの次男。能登守のりつね也。東国の大将は。 いづくにかおわすらんげんざんやつとぞ名のゝるゝ。 まつた源氏の大将。赤地のにしきのひたゝれに。 火おどしのよろひをき。五枚甲にくわがた打 てたつかしらすへたるをゐくびにき。こんねんどう のこしのもの。二尺七寸。こがね作りの御はかせ。あし をながにむすんでさげ。廿四さいたるきりふ の矢はず。高に取てつけ。三人ばりの。まん中 にぎり横たへ。しづ〳〵とあゆませいて。あぶみ ふんばり。くらかさにつつれあがり。こともおろや 清和天皇に。十代のこうゐん。源九郎よふね なり。そうもんの。なぎさに。どゝにむかふと申せ ども。いまだのりつねとやらんにげんざんせず。花 珍しく。けんざんとぞ名のゝるゝ。源氏のつわ もの共。のりつねのこゝろねを。かねてさつしけ 八嶋 れば。伊勢の三郎よしもり。佐藤三郎次臣 同四郎忠信江田の源蔵熊井太郎むさし 坊弁慶など弱一めんに立ならへ大将軍の。 矢おもてに立ふさがり。よしつねをおしへ だつ。のりつねは御覧して。大将と。大将の見 参に。しるしなふてはかなふまじ。いかに〳〵とま ねかるゝ。よしつねは御らんじて。大将のげんざん に。しるしなふては叶わじと。人にかけられ候て。 むけにひく事あるべきか。われとおもわれ人あら ば。此よしつねにつゞかれよ。馬共をかいじやうにおづ ひて〳〵およがせてあいちかくなるならば。手つ めの勝負をけつせんとこまのたづなをかい くつてかけ出んとしたまへは。人々御たづなに すがり。こわもつたいなき御ふるまひ。打物と うち物の。せうぶにてましまさば。さもこそ おぼし召れめや。のりつねと申は。楊雄が跡 をおつ。もゝてに一手もはづれずと。承り候也。 もしもあへなく矢にあたり。めいをおとさせ 給ひなば。ぷりやくのいたらぬ所ぞと。末代 までのこうなんを。かうふらせ給ふべし。理をま げひらにとせいしける。よしつねは聞し召。そ れはさにて候へ共。爰におもふ所有。かのきよ もりと申は。第一おごりをあつふして。王位を かすめ奉り。其上万民をなやます事。けつ ちうに事ならず。かるがゆへに天道の。にくみ をふかくかうふると。正しく覚へ候は。けふこ の比よりともが。流人たりしその身として。 むほんをおとし候共。何ほどの事か有べき に。思ひよらざるぎへ口をあげ。源氏の白 はたさしあぐるされば。日本の諸軍勢。 みなよりともに思ひつき。平家をそむき せむる事。是天道のなすわざ也。今此時を かんずるに。源平。じやしやうにわかれたり。よこし まなる平氏武者。たゞしきげんじにさしむ かひ。たてをつかん事共は。蟷螂がなの成べし。 そのす浅たりしのりつねが。よこしまなる矢を 八嶋 計 もつて。何がしを射んずるに。源氏の正しき太 刀をもち。中に切ておとさんは。あんのうち と存る也。もしもよしつね矢にあたり。死する ほどのごうならば。源氏のめつぼう遠かるまし。 とかくうんは天にありと猶かけ出んとしたまへ は。おの〳〵なをも諫言し。只今仰をうけ給 わり。いよ〳〵かけ出給はん事。いわれざる御事 也。今ほど平家のうれめいは。次第〳〵にを とろへ西海の波のうへふねにたゞゑひよるべ なく。せめず共おのづから。をのれとほろび 申事。くびすをめぐらす其ま也と。さま〳〵せい し奉れど。いよ〳〵すゝませ給へ共。判官殿は 只ひとり。せいする人は数十人。いかで叶わせ 給ふべき。おもふ所へ引しりぞき。たてつきかざし ひかへたる。人々の心の中げにもがうとぞ聞へ ける。のりつねは御らんじて。まさなの源氏候や。 そこのき給へ人々。たとへはるかにへだつ共。矢一 つまいらせて。わがゆんぜいをみせんとて。弓と 八時 矢を打つがひ。おしはなさんとせし所に。その 時源氏の方よりも。あし毛のむまにのつ たるむしや。かうしやうに申やう。こみのりつね の。御詞とも覚へずや。せんじやうにむかう身が。 たとへ御所望なればとて。一人当千たるものゝ。 たれ有て中をあけ。しゆくんをゐさせ申 べき。こと珍しき仰かな。かく申候は。おうしよ の住人しのぶのしやうしが二人の子兄佐藤 次徒也。のりつねの大矢を。それがしがまづたゞ 中に請とめて。死んでゑんまのちやうにて。うつた へにせんと呼わつたり。のうつねは御らんじて。あつは れかうなるつわものかな。一騎たうぜんとは。かゝる ものをやいふやらんのりつねが手にかけて。いおとし てあればとて。まけうず軍にかつべきにても 候はず。心さしの侍を。たすけてこそとのたま ひてはけたる矢をぞゆるざるゝ。然る所に。 わりのきくわう丸が。さゝへ申けるやうは。あの 兄弟と申は。一の谷のおちあしにも。こゝにては。 頃侭。かしこにては。たゞのぶと。名のつて。先帝 女院の御座船をもおそれず。さび矢をゐかけ しらざせきもの。て左一騎うたるれば。みかた千騎 のつよりときく。いくさ神の御たむげにはや。 一矢そうとぞ。さゝへける。のりつね。げにもと覚し 召。五人はりに十五そく。取て。からりと打つがひ。 一つク 本はずうらはずひとつになれと。きり〳〵と 引しほり。まちをこぶしに引かけりゑび。やつと かつて打たるはどうつきなんどのことくなり。 一ぢんにすゝんだる。次倍が。むないたにはつしと あたり。ちけふりがはつとだつて。出しつけべどぬけ にけり。むざんやなつぎのぶ。さいごはよかり けり。とうの矢をいんずとて。弓と矢をうち つがひ。打上てひかんおゞはなさんと。二三と四 五度しけれ共。せいびやうの大矢に。肝のたば ねは通されつ。何かわもつてこらふべき。弓 手のあぶみをけはなづてめてへかつはど落 に遣り。菊王が是を見て。いで〳〵次信が首 取て。げんざんにいれんとて。舟よりもとんで出るゝ。 折ふし弟のたゞのぶ。いづくよりか来りけん。此 よしを見るよりも。はつと思ひ。弓と矢をうち つがひ。よつ引てひやうどいた。むざんやなきく わうが。いさみにいさんでおり立たる。ひぎの口に ずばとたち。うけもあへずいぬいにとうど ふす。忠信是を見て。わつはが首とつて。兄 のきやうようにほうぜんと。もみにもふてぞかゝり ける。のりつねは御らくて。わつはか首。源氏かたへ わたしては。弓矢のちよくと覚し召。ふねより もとんでおり。菊王丸が。上帯をかいつかんで。 船の内へゑい。やつといふてなげいるれば。かうへ みぢんに打くだがれあしたのつゆとぞ。き人に ける。のりつね心に思わるゝは。いや〳〵。すきま かぞへのたゞのぶに。たゞなか通されあしかりなん とおきへふねをそえさゝれける 平さいしやう。のりつねこそ。くがの軍にしまけ てあれ。うたすなとのたまへば。つくし大名大友 八時 しよきやう。きくち。原田まつらたう。これたう是 すみ。へつき山すみ。此人々をさきとして七百よ きに使過ざりけりむれて松へさつとあがれ は源氏。二百余騎。おもてもふらす切ていで 爰をさいこと立たゝかひける〽されば勝負 ば。見えすとて。さるのなかばより。とりの下りま で。かけあいの合戦に。源平共につかれはて。 相引にさつくひく。さいたうのむさし坊。此よし を見るよりも。それから一合戦仕り。げんざんに いれんとて。このむ所の太刀を。水車にまわし。 さいとうのへんけいが。只今。かくるは軍兵 共。にくしきたなし。かへせもとせと。大声。あげ てぞかけにける。平家かたのぐんびやう共。べん けいがかくるを見て。中をあけてぞ通しける。 もとよりむさし。てきにあふてはやき事。ゑん かうか。こすゑをつたひ。あら鷹がとやを破 つてきじにあふたることく也。うでの力は覚へ たり。長刀のかねはよし。むかふものゝ。まつかう。な 八才 くるものゝ。おしつけほろつけ高こし”とうしまし あたるをさいわ井にはらり〳〵と知なきだをし 〽手などにすゝむ。つわものを。その数あまた切て すて残りしやつばら四方べはつと追ちらし。 長刀かたに打かだげ。みかたのぢんへぞひいたり けるかの。むさし坊が其ありさま。あつはれかう なるゆうしやとてきせん上下おしなべてみな おぢぬものこそなかりけれ 第五 其後平家方の軍家方の軍家方よきと見え たりしが。二百騎ばかりに打なされ。おきへまばら にさつとひく。源氏二百よきも。八十三騎に 打なされ。うれうむざんに上り。をの〳〵ぢん取 しづまりければ。いぬいのこくにそなりに遣る。 判官むさしを召れ。奥州の忠信は。いづくに 有ぞぐして参れ。弁慶承て。御前を罷立。 此へんにおうしうの。佐藤どのやまします。忠 信はいづくにぞ。大将の御めしあるべ。うつく御 前へ出られよと。たがらかに呼わつだり。あらむざん や忠信ひる。舎兄次信手おひぬるよと見 るよりも。かせん心にそまばどぞ。とある山の 論に。そなたばかりを見おくりて心ぼそげ に居たりしが。大将のめしときゝ。おつとこたへて 罷立も武蔵坊と打つれ。君の御まへにかしこ まる。判官御らんじ。いかに忠信。兄つぎのぶが 行衛をば。しらざるかとぞ仰ける。忠侭さけ給 はり。さん候つぎのふ置手おひぬるよと 見えしかとも。かけあいの言戦に。隙なくとかふ 仕り。其行忠をば。ぞんぜ。ざるとぞ申ける。判官 聞し召。おゝさぞあるらん。今生に有ならは。とふ べきしさいのあり又死してもあらば。きやうよう とふて得さすべし。はやとく〳〵との御でうなり。 右徒承つて。あらありがたの御でうかな。たとへ 御意の下らず共。尋ねたく思ひしに。まして 心でうのあるうへはと。御前を罷立めのとに しのぶの十郎。みつとをを打つれ。戦場さし てぞいそぎげる比はいつから でぞいそぎける比はいつ成らん三月廿日あ まりの事なれは月は。ですしで道見えず。な みだぞ道のしるべなる。たちをつゑにつき。はる かのなぎさに下りつゝ。昼のいくざ場は。こゝのほど ぞと思ひゆ。むれ高松の。西ひかし。すさきのどう の北みなみ。なぎさにそふて昼たづねける。此へんに おうしうの佐藤どのやおわします。次侭やま しますと。しつかによふてぞ通りける。むざん 成かなその中にも。手負とものにようこゑ 一銭 巾一五ツヽツヽ 耳にふれづゝあはれなり。是につけでも涙信 は。昼のいくさに。のりづねの矢にあたり。むま より下にどうとおち。万事かぎりと見へしかば。 いそぎさしよりかいしやくし。手は。大事にて ましますが。心は何と有つるぞと。とわ はやなどゝおもふ事。隙なく心にかゝれ共。 いくさみたれのおりなれば。思ひなからも扨 ありぬ。むかしか今に至まで。弓矢とりの □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ ならひにてかゝるためしは多けれ共我等 はかりどおもわれて名残おしざはかきり なし。あわれなるかな忠信は。のりこへ〳 るに。むれ高松の事なれは。すさぎによび る。浪のおと漬千鳥の友よぶこゑ。われを とふかと覚しくで心ほそさはまさりけり。あら むざんや次信ば。大事の手負て有けるが。 第十の忠信に。さいどの名残やなしかりけん。 死にもやらで。あげふねのあたりに。下人の男 にかんびやうせられ。心をそくいたりしか。忠臣が 声ときゝいそうづなみともろ共にたそ よどこそばこたへけれ忠信あまりのうれし さに。する〳〵とはゝりより。御手は大事に候 が。御心はなにと。あるやらんと。尋ねければ。つき のふぎいて。我身の事をばいわずして。うれし げに打うなづき。しばらくいきをつぎ。みかたは いかほどに。打なされてか有けるぞ。大将は。御手もおわせ 給はずや。おことは手をも。おわざるかとぞたづ ねける。忠信承て。さん候みかたはわづか。八十 ハ誰 三騎に打なさる。大将は。御手もおわせたまはず。 何がしも。手はおわす候。御心やすかれといひければ。 つぎのぶきいで。あらうれしや。その義にて有なら ば。いまだ今生に。いきの通ふその内に。大将 の。御めにかけよばや。くして参れと申ける。たゞ のぶあまりのうれしさに。すさきのどうゟ。やり 戸をいそぎ取よせ。次侭をかきのせ。さきを たゝのふかきければ。あとはしのふぞがぎにける。 なみたを道のしるへにてむれ高松へと 一いそきける也去ほとにむれ高松に候ひは る。むさし坊をはじめとして。ほうばい共あつ まり。それ弓取と申は。けふは人のうべ。あずは 我身のうへぞかし。いさや佐藤を見づがんとて。 はるかのなぎさにおり下り。次侭をかずやくして。 むれ高松にあがりければひがしの山のはに。 ほの〳〵とぞ出にける。御前ちかふ成しかは。かくの よしとぞ申ける。はうぐわん。ちかふかけとのたまへは。 承り候と。御座まちかくぞかきよせける。かたし 上二月一 ハ諸 けなくも。判官。御座をよせさせ給ひ。次臣 が。かうべを。御ひざのうへにかきのせ。手は。大事 なるが。心は何とありけるぞ。何にても今生に。 思ひおく事あらば。只今申せ。明日はおうしうへ。 かならず人を下すべし。いかに〳〵とのたまへ共。御返 事をも申さず。打。うなづいたるばかりにてどう の内ににようごへ有。随惑てかいじやく佐第 の忠信。手おいにちからをつけばやと。あらゝか成 声をあげ。あらゆひかひなきふぜいかな。たとへ事 にはあらね共かまくゝの権五郎かげ正は。くりや川 の城にて。鳥のうみの。弥三郎に。ゆん手の。まなこ をいさせ。其矢をぬかでおりかけ。三日三夜持て まわり。とうの矢を射おふせてこそ。今鎌倉の。 ごりやうの宮とはいはゝれ給へ。それほどこそはお わせず共。かほどのほそ矢一すじに。さやうに。やみ。 ニラ上ル 〳〵とよわり給ふか。かたじけなくも枕もとには。 三代相恩の主君。さゆうはみなほうばいれ。 あとにてかやうに申せしは。弟の忠信也。ぞん 八崎 卅三也 ねん成事あらば。何事もかごとも。御ぜんにて 中 のたまへとさしもがうにはいさむれ共。兄弟 のちぎりも。只今かぎりと思はれて次徒がか ぼを名ごりおしげに打詠め。ふがくなみたを ながしけり。次徒聞て。何と申ぞたゞのぶよ。鎰 一倉の権五郎かげ正は。鳥の海の弥三郎に。弓手 のまなこをいさせ。とうの矢を射おふせけると なそれは少事の手なればこそ。三日はもつてまわ りつゝめかけ正にづぎのぶが。おとるべきにはあらね 一共能登殿の。大矢は。大国までもかくれなき に。たゞ中を通され。次信にてあればこそ。いま 有もながらへ。御前のにで物をは申せ。只何事も 露いつわりともとことも 〳〵皆いつわりと成そとよ。国人かたみを下す べし。はたの守りをば。老してましまず父母の。 二人に一人なからへてもましまさは。雪見のまと のおれ竹の。世ばさかさまの事なれど。かたみ に是を参らせば。ひんのかみをば。若共が母に 得させよ。鞭とゆがけけは。二人の若にとらすべし。 太刀をば信夫にゆづる也。よろひやけぎれし たり共わとの取てきて。つぎのぶにそふと思ふ べし。かまひて〳〵忠信よ。若きものとてはやり 過。そこつに討死つかまつり。あへなき命をす つるな。ゑい。命をまつたふながらへて。君の御 身に。一大事と見るならは。爰ぞさいごのきわ なりとて。御いのちにさしかわり。おしまず。めいを すつべき也たれも〳〵。ほうばいだぢ。かくこそ 思ひ給ぶらめ。中にもわとのは取わけて父が申 せし所も有。人よりさきにぬきんでゝ。御せん どに立申せむさしとのはいづくにそ。弟の忠信に。 よきにめかけて給われやいまた若きもの なれば。はやり過たる事有てとゞかざる事 ある共。次信に成かわり。兄弟と覚し召。つよく せいしく給わるへし。万事は左のみ奉る。御いとま 申てわが君いとま申てほうばいたちあら。客 残をしの忠信やと。申言葉もよわ〳〵ときべ いらんて。したりしが。かすかなる声をあげ。むさし とのはいづくにぞ。いよ〳〵忠信に。めかけてたべと いゝすておしかるべしおしむべし。あじたのつゆとぞ。さへ に出る。ぎけいを。はじめ忠信。御まへ成しべに も比せどうべんにおしなへであわれととわぬ人。 至なし。すでにその夜も明けれは。しどの 道場のひじりをせうしまいらせて。よきに ぎやうやう。くび給ふやゝあつて判官。なみだ をながさせ給ひ。あらむざんやつぎのふ。かく 有べしくはしらずして。とうじ四つ塚のへんにて。 なにがしか。あたりへこまをよせ。あつはれ御馬候や。 おくにて。見申せし時よりは。たけばつくんにの ぼつて候。あわれ御馬を給はれかし。君のまつ さきかけ。打死に仕らんずるいのちはつゆちり ほども出しからじと。度々所望せしか共。その比 次信におとらぬ忠の武士多きゆへ。しよの うらみを。きじとおもひ今迄も。得させぬ事 のむざんさよ。さいごなれは忠信。引たふやお もふらん。よと〳〵おんを見て。恩をしらざるは。木 ハ故 石にたとへたり。いで〳〵よしつねも。太夫くかつを ひいていのちの。恩をほうぜんと。かたじけなく も御手を。太夫くろが。水つきに付させ給 ひかなた。こなたへ引まわし。其のち忠信にぞ 給はりける。げにや。次信此世にて。たまはり 度と思ひつる。思ひねんやつうじけん。馬は 北のものなれは。北風にいばひ白あわかぶて つゐにむなしく。成にけり。いげのものども 是を見て。まさしく次信給わつて。めいど迄 のるよと。いわぬものこそ。なかりけれ。つたへきく もろこしの。太宗皇帝は。ひげを切てはい にやき。こうしんにあたへ。きづをいやしちを しめし。せんしをなてしかばめいは。義によつて かろしけのちは。出んのためにつかわすいかにも 其身のころさる事をいたむまじ。本朝の ぎけいは。ちうある侍に。太夫黒をひかれける。 是を見る人々いよ〳〵。いさみ有べしとでき せん上下おしなへて皆かんせぬ。者とぞなかりけれ 八斗 十一 第六 其後。九郎判官よしつね。所々のいくさに 打かち。豊前の国にいり給へは。河野の四郎 も。きうに来てさしくわはり。元暦二年 三月。廿四日の卯の刻に。田のうら文司の関。 だんのうら赤まか関にて源平の矢あわせ とそ聞えける。かゝる所へ梶原平三かげとき。 はうくわんの。御前にすみ出。けふのいくさの 先ぢんを。此景時に。たび候へとぞ申ける。 判官聞し召。よしのねがなくはうそとぞ仰ける。 かぢはら承り。まさなふ候。とのはすでに。大 将軍よと申。判官かさねて。それは思ひもよら ず。鎌倉殿こそ大将軍にておわしませ。此 よしつねは。いくさ奉行を承つて。わとのばら とおなじ事よとのたまへば。梶原先陣を 所望しかね。てんせい此とのは。侍のしう には。成がたしとぞつぶやきける。判官 気しよくひせつて。やあおのれは日本一 のおこのものかな。いぜんわたなべにて。うし なわんと思ひしに。人々せいし給ふゆへ。命を たすげおく所に。またもやすいさん申事。 もつてのほかのきつくわいなり。すは八まんも 御じけんあれ。ゆるさじものをとのたまひて すでにあやうく見えけれは。東国の諸大 名。判官とのを取とゞむ。かぢはら平三かげ 時も。こはいかにおよびもなし。かまくらどの より。へつにしうはもたすとて。とある所に ひかへたり。よしつねのみうちには。いせの三郎 よしもり。四郎兵衛忠信。むさし坊をさきと。 して。一きたうぜんのつわもの共。そのかぢはら めに物ないわせそ。中につかんでみぢんになせ と。皆一同にかゝりけり。三浦のすけよしす み。土肥次郎さねひら。手をすつて申され しは。是ほどの御大事。まへにかゝゑ候て。 どしいくさせんもなし。かつうはかましゝぜのゝ。 聞し召れん所も有。ひらに〳〵とせいしけり。 判官も此もの共がかんげんに。ぜひなくとゞ まりましませば。つきしたがふ人々も。さすが すゝむにおよばずして。君のきしよくをう かゞひけり。それ仁義のゆうしやと申せしは 心をばかうにもち。言葉にゑんりよふかく する。此かげ時と申は。心におごりじうまん し。口にかまんをいだすゆへ。折々ちじよく をうしなふと。皆人さゝやきゆびをさす。そ れよりもしてかぢはらが。判官殿をにくみそや。 かまくらどのへざんげんし。つゐにうしなひ申 とは。後にぞおもひ上はしられけるへ 一かゝる所へ。熊野の別当たんそう。伝内 左衛門などをさきとして。平家かたのつわもの ども。一〳〵かうさん仕り。げんじかたに成し かは。四国九国の人々も。津〳〵浦〳〵に さしつどひ。平家の一門うち取て。源氏へ かうさん申さんと。忽心をかへけれは。いたわしや な平家の人々。是迄とや思はれけん。二位 八嶋 の尼。主上をいたき奉り。海にいらせ給へば。皆 〳〵じゆ水とは聞えけり其中に女院を はしめ奉り。宗盛ふしの人々を。さうなくもいけ取。 都をさしてのぼらるゝ。それよりしておんでき。こと 〳〵く給はて。源氏日をおつてはんじやうし。なびか ぬ草木もなかりけり。千秋万歳目出度とて きせん上下おしなへて皆あぼがぬものうそな かりけれ 源平兵者揃巻之終 右此本者土佐少掾橘 正勝直之以章句附秘密 音節遂校合令開板 者也 東武 小伝馬三町目 東武木下甚右衞門刊 今初に 一