蝉丸
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大坂船町
蝉丸
加嶋屋清助板
一蝉丸作者近松門左衛門
謀数苦ふかふして鳥おとろかすけい
へんがまくちて営むなしくさるとは。
今此時よ秋津君延喜の音の御せい
とくヲロシ申も出さ〳〵有かたし
出さまる国や民草の猶そのさかへ
おとろへを直にゑいらん有べしとて。
判髪第吉句巻
もろこしのせいたいのじゆんしうに
なぞらへかた野ゝ見のゝ桜狩けふの
もみぢとをりはへて。月卿雲客供
奉せしめはやけいひつとよばふ成見
かり車のゐつゝをも五つの常の道芝
や。めぐみの露にとゞろきてみゆきある
こそめでたけれ。ぎんやを過てなぎさ
のゐんしつが門田のやつかほに。かまど
の惣ほの〳〵と戸ざらぬ御代の民百
姓くはんやくの声うばうのびきん〳〵
ぜんと悦びて。君が御狩を待顔に空
とぶ鳥も御車にむらがりしたひさへ
つりしはげに賢有のいつくしみてうじう
にも通しけん民安金のしるしなり。
時に行手の松かねにおさなき者の泣
声す蔵人を以て召るればまだ乳ば
なれぬ捨子なり。主上御涙ぐませ給ひ
我国民をあはれみはごくむといへ共子を
捨る邪見の者我国に有事。ちんが
ふとくのあやまりと忝くも両眼に御涙
をぞかけ給ふ然る所へ十八九成女房あは
二
たゝしくかけ来り。なふ其子返させ給へ
返し給へと泣さけび金椅子に候はすわらに
色老母を持候が。今は金木のはもおちて
物参らせん様もなく乳ぶさをふゝめ常候
此子があらそひむつかる故しばし外面
にすかし置て候聊模はいたさぬなり取つて
たへとぞ泣ゐたる。主上御手をはたと打[テ]
扨は銚子にてはなかりしな。子にかへて母を
いたはる孝行賢女共いひつべしして
汝に妻はなきかさん候夫は去年の秋勇
と消ても残る俤の形見は此子と計
の涙もいづれよし有て。少もとのくらゐ
つまはづれそだちゆかしき女なり主上
感じ否中納言希世を召れ有れ言うみん
三
をやしなふはいもしへの道。かれるを母諸共
汝に影あたふる条大内に誘引し
よく〳〵やしなひいたはるべ。ついてはかゝるほう
年の悦び天にうたふりしるしぞや初
ぎくのえんを催ししゝんでんにておん
がくをそうし。五穀殿にようを祝ふべしと
世にかしこまるみことのりあふぐもをろか
成けらし。初霜におらばや
をらん花のゑん菊見の御整糸竹の
その役々をわかたれし。中にも当今第四
の御子蝉丸の宮と申せは天性美なんの
御器童天皇御てうあい浅からずびはに
めうを得給へり扨又ことは憚丸の北の御方と
定しるそも此姫君は右大弁早広がい
同
もうとにて。はや十八の秋風もふさがで
通すふり袖やふたつちがひのつまこと似合
比とのしらべかや月出なばくはんげんをはし
むべしとの御沙汰にて。ゑじはゑぼしをかた
ぶけて。月時程のかゞり火もほうにめで
たきけしき也蝉丸は只ひとり月也出しと
おばしまの奥のわだとの見給へばことを
枕に女のねごゑかくこそうたひ出しけれ
ゆふべ〳〵の。わが涙川もしやあふ瀬のなみ
枕ぞれを頼にうき身をおくるゑ此手月
をゑ宮驚き御覧あれば北の方にておはし
ます。おそばによりて是々。こよひのくはん
げんはれがまし。ことを枕のうたゝねはてうし
もや狂ひなん難か有それ〳〵との給へば
ゆへ
はつとこたへて女房近御枕参らする北の御
方つつとより宮の御太刀ずばとぬき御
長枕引よせ二つに丁ど切給へば。みやは驚き
すがり付こはてもいかに狂気かとあきれはてゝ
ぞおはしける北の方聞給ひ金柱気に候はず。
おわんとみつからは夫婦と成て二とせの。いく
夜をかさね候へ共あはぬえんかや但はお気に
いらざるかづいに一夜もはたふれてまくら
かはせし事もなししやかでもさうはならぬ物
一男持たも名計ぞゑきもなき長枕とがはな
けれとせいばいと恨み侘つゝ泣給ふみやうな
づかせ給ひ。て恨さもあらん六出すべきをりも
なく今迄は打過し。親のめいそむかれす夫
ふとい成つれと我幼少より出家を望み
六
一生ふぼんの願を立。仏にせいこんたてし
ゆへ是非なき事とあさらめ給へと迚もに
涙をながさるゝ北の御方涙をとゞめ。扨は
左様に候か然らばわらはも出家をとげ。此
世はわづかながき世の心が誠の夫婦ぞや今
よりみづからもせいもん立互に心をはぢし
めて身をけがさずしやう〴〵にめでたく
発心とげ申さんじかし今宵はせいもん
がため一世一度の色床は。仏もお気のとを
らめとひさにもたれての給へばさすが乱るゝ
花すゝき詞に露をしたはせて。れんちう
ふかく入給ふ月かあらぬかあねさすゑじは
かゞりをたきさして。ざめ〳〵とぞなきゐたる。
蝉丸御覧しめでたき御旅の折から希有
七
の落涙心得がたしとの給へゑぼしかなくり
是御覧せなふ御見忘れ候か。我は一とせかすが
の里にてかづねの出情候ひしなを姫にて
御座候有しあふ瀬の川水のよどみ〳〵て
月かさなり君の御子をうみ参らせふしぎの
事にて御父帝様に老母諸共ひろはれ
候へ共。君のうき名をはゞかり夫は死せしと偽り。
希世の口にかしづかれ候がぜめておすがたみ
まほしく忝士の男に出立しとてもいやしき
此身にてそひ奉るは叶はぬ事悪判を染て
給はりしせいしも今はよしなし事只今やきすて
おくぬことはおなかよし野ゝ初桜火花もほ
れとにほひ炭くへんとせしを引とゞめぬ
帯わするゝ隙もなくめのとの清黄を尋
□□
に出し出家ののぞみと偽り妻のそばに
もぬる夜なき我をばむげに此せいし灰
になせとはがさよくもなやとかこちゆへばなを始
もたもとにいだきつくば川つもるゑしさあふ
時心おくれにむねさはぐそゞろぶるひの
姿なり爰に北の方の御せうと右大弁
早広此体をきつと見て。今宵のゑじは
蝉丸みつつうの女也あれ吟味せよくはん
人とねり我も〳〵とかけ出る。声に恐れて
人々は築地がくまに逃給ふ早広せいしを
ひろひ取。さあぜうこは握たそうもんせんと
ひしめけば。人めも恥ず北の方なふはしたなし
宮の御名の立事ぞおんみつにしてたべ兄
上様と涙にくれての給へば早庵眼にかど
九
□□□□
を立。エゝいひかひなしけつかうだても事に
よる。宮を聟に持てこそ一もんしんない栄
花もあれ。兄がはな迄ひしぐりがおつとを
ねとられ口おしうは思はぬか。是證拠を見よ
とせいしを出せば北の方披見有天の御手
跡まぎれなしくはつとせき立かんばせに血
筋はしんくのあみをはり。かみさかしまに
立のぼり。しんゐの身ぶるひはをならしぞ
たゝされし口惜やうらめしや妬ましや思ひ
しらずや。此恨み。思ひしらせんとひしれと。
一天地をにらむ両眼にちの涙をはら〳〵
〳〵はら立やとすん〳〵にくひさきすて。
ゑじの焼火はものかはのむねのけふりは
くる〳〵〳〵。くるひわなくき出給ふはおそろし
十一
くもまた三重いでやあはれなりいでやその比
蝉丸の御めのと左衛門督清つらは
なを姫をたづねんためなんとをしのびめ
ぐりしが一まづみやこにかへるさの長地
より日はくれて。そのすさまじき宇治
はしのみやゐにこそはつきにけれ今宵は
これにてあるさんとかさをとつて。
かふを見れば。あやしきすがたなむ
三ほう。此やしろはしつとをまもる
はしひめの。うしのときまふでこれ
なんめり。うかゞひ見はやとしんぜん
のまつのこぼくによぢのぼり身
をほそめたる。ふるまひは。さなか
らこすゑにざゝかにの
十二
きふね備ふて
の中寺
雲の井にあれたる駒はつなく共ふた道
かくるあだ人を思ふはつらし思はぬも
の時参り。ゐたと情とおんねんと。三つの
かなわにもゆる火に。しんゐのたきゞこりも
なく煙くらへんゆふやみの空もとゝろに
浮船のけうとく立し宮柱人になつけのつま
ぐしもおどろのかみも七つ八つ。やはんのかね
の物すごき。心にこもるねぎことに。あまのさる
てをうつてうけへば。しるしあらなんあら〳〵
〳〵おそろしや心の角の枝高きかけろふ
の森ぼのぐらしあさくなあけそ朝日山やま
ふきのせにかげ見へて。みねのいなづまちら〳〵
〳〵。耳の光かゝ蛍。火かあこかれ出るわが
十二
たまにつけめんじぼさつないしんによやしやしやだ
とへ其色白く共むけんのめう火にくろむべく
涙に恋に百井のすてふみしたき男より女心
のくはし山くら〳〵〳〵〳〵わせり。玉ちる川せ波
の音蛸を渡るさよ嵐どう〳〵さら〳〵とう〳〵
〳〵とんとろとゝつとふみならし世を宇治橋の橋
姫のみやゐをたゝにいのりし。身のげいよ立
清貫今が見始何とやら気味わろく枝
に取付見る所に又むかふよりおなじすだの
一人かげみゆる。常是もうしの時扨たゝさんや
天狗のしよゐる但きつねやばかしぬと
まつけをぬらしてゐたりけり。二人の女も見かは
て互にぞつとしたりしが始の女小声に成
なり上らうは何人ぞとあればさいふ御身は
何者そヲヽ御身にかはらぬ姿なれば祈りも同じ
しつとよのざれば我もりんきごと扨も世の
中に性のよき男はなし扨々あふたり叶ふたり
いさ立ながら悋気講をはじめ語てうさを
はらさんと先かたはらに立よれば清貫こは
さも打忘れ急な所の悋気講とおかしさ
どうもたまられずふつとふき出す事なり
扨もわらはゝ女院のうへわらはばせをと申
者成が及ばぬと恐とは申ながらおさなき時
より蝉丸様に思ひをかけかくとくどき申せしかば
一夜は思ひをはらさせんとかたき約束候へども
おゝつせいたうつよきにやお約束も夢と成
ひとりこかれ死なんよりかく祈り申と。いひも
あへぬにはじめの女我こそ宮の北の方。すは
十四
調
を恨はひがことぞ。なを姫といふいたづらめ
らうゆへみづからも撰られしに〴〵いやつはなを姫
とさばをならしてかたゝるれば。清貫きけ
ば余所ならず肝をつぶしてゐたりしが
ばせを手を打扨おくさまかしらてお恨み
申たり名の敵はなを始一人いざ打殺し
共に本迄をとげ申さんヲヽ尤て神木に立
なび。是共じや共なし給へとかんたんくだき
くき取出し。是はなを姫が両眼にうつくぎ
早つぶれよと丁ど打。是首のほねむな板
ふたいくされとはたと打四十四本のくぎのかず
物ほねふし〴〵つがひ〳〵。打て思ひをはらせ
よとおどりあがり飛あがりてう〳〵はた〳〵
丁どうてばくぎめより血ながれてさしもの
十五
大木ゆるぐにぞ。清貫もぼら〳〵とたゞ
よふふねのことく也。あまりゆられてめくる
めき枝ふみはづしどうどおつる。二人は驚き
とんでにぐるを北の方の小がいなとつて立
帰れば。その隙にばせをのまへほくゑも
しらす逃うせけり清貫今はたまられす
是御だいさま人にこそよれはしたなき
御ふるまひ。あけぬさきにさあお帰りと申
せ共聞入す人にしられて此大願むなし
かる共一念はしゝてむくひをしらせんと忍
にうきなやたちはなの小嶋がさきは大くれん
さかまく水に飛入て表はかなく成給ふ
清貫あはてたいまつ〳〵といふ聲に足人
ども。たいまつてうちん星のごとく爰かしこ
十六
とぞとよめきける時にさゞ波岸をたゝきあら
恐ろしや。北の方のなきからむつくときあがり
角は忽じやしんと成。うろこをふるひほのほ
をふらし波をけたてゝまきあがり鳥井の
かさ木をくる〳〵〳〵くるも〳〵とひんまとひ
こくうにむかつてつく息はたゞ火の雨の
ごとくなり人々是におち恐れわつといふて逃
ちれば大じやは川瀬に飛入て生かはりしに
かはり世々生々に恨をなさん。あらめしや
口情といふ声ばかりみなそこのそこのそこのそこばかと
なくながれほく。宇治の川ゑ分たへ〳〵に
あげゆくそらときへてんげり。おそろしし。
すさまし。尤はかなしあはれなりさて
こひぢは。せつなるおもひぞや
十七
第二
水中
爰も応路に名を立し情の峠程ち
き木幡の里の片ほとりに千千太郎
忠光といふ者有元来ゆゝ敷弓乱成が今
牢人の身ながらもうへすこゞへぬ芝の房明
暮殺生をたのしみ屁花うつほに弓取そへ
けふも狩場に出にける深草山のすゞ原か
うさぎ一疋追出しゆみや乱てあつがひ弓
手もちりにはなつ矢を手先さがりに射損し
てたか刈積しいなむらに。はぶくらこめて
ずはと立うさぎはのがれうせにけりゆみや八
まんゐそんせし。いで矢をとらんと稲引のゝれ
ばこはいかに廿計の殿上人二八あまりの上
らうの。左の袂に矢を受て涙にしほれ
おはします忠光はつと驚きしらぬ事は
是非もなし見奉ればげしうはあらぬ御有様
あやしや語おはしませ。ヲ我は当今第四の宮
蝉丸といふ者よ是成女はなを姫とてふみも
ならはぬ若草に妻もこもれり追風の迄
手も急に来るべし万事は頼むとの給ひて
又御涙にむせ給ふづて扨は蝉丸の宮にてまし
まする。某は千手太郎忠光とていにしへは
かけくらにも乗し者殊に某が妹は女院様の
〽おすゑの奉公仕る。然は大内ゆかりと申かず
ならぬ某を。かゝる高位の御頼一命もおし
からず。父は千手入道とて年罷よつたれ共
かひ〴〵敷覚えの者一先私番へ御供申しさいは
しづかにねん。いざゝせ給へといふ所へ右大弁はや
十九
ひろ兵杖二三十爰かしことさがし来り。
あれこそ蝉丸なを姫よからめとれとおめい
てかゝり。忠光面に立ふきがり是〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵とふきがり是〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵に立ふきがり立ふきがり是
〴〵は追手よな。宮の御誤はいざしらず。某は
千平太郎といふ者にいやしくも頼れ参らせし
とう〳〵帰れとよばゝりける早広大きにいかり
宮は不義のあやまり故召られとの勘証成
が。りんげんにたてづくは扨はうぬめは朝敵かと
いへばいやさ物歌にもせよとんてきにもせよ。
武士の一言りんげんよりおもし。頼るゝといふからは
命は君に奉る。あしくよらばけころさんと力
足をどうどふむ。早広いかつてなんのこさいめ
討れとむらがりかゝるを飛しさりやたばね
くつろけやつぎばやさし取引つめあだやもなく
雨のごとくにふかくれば早広もかなはじと
落ちり〴〵に落うせけり。さもさもさふづ是迄と
なを姫をたにかけ。宮の御手を引参らせ給のが
番所に帰りけるすでに其日もくれ過て
左衛門の督清貫は蝉丸落うせ給ふと聞京
近辺を尋廻り。木幡の里に着けるがわらん
づきれて行暮し。村雨しきるこよひしも
文まします共しらばこそ。千手が門のかや
ぶきにはれまをしのぎ立れけり。雨にこも
れる夜半の鐘霧のたへまをすかしみれば
女姿の哥袖もいと忍びたるけしきなり木
影に立のき見給へば彼女門のとびらをせはし
げに物申さんとぞたゝきける。千千乳子は
すは追[リ]手よとかけ出夜中のあない何者といふ
二十一
なふさの給ふは兄上り父うへかばせをまへにて候が
傍輩のざんに合御所をまぎれ出候爰明
給へといふ教に母は驚き扨は我子かなつかし
やとあけんとすれば父の入道アヽしばく大事は
油断よりおこつぞかし。宮をかくまへ奉り。夜中
に門をひらかん事ふかくの至り是らばせをし
さい有て夜中に門をひらく事は叶はず。今
宵はそれにてあかせぬなば内へいれんと
あればこは心得ぬ仰かないか成にくしみ候ぞ
是非明てたべ明給へとかきくどきてぞ歎ける
いや〳〵にくしみはなけれ共。今宵門をひらき
ては親兄が待立ず。しさいは明朝かたるべしはや夜
明迄程もなし是をかたしきあかせとて内より
小袖をなげ出せば。ばせをは力なく〳〵もきぬ
引〽かづき臥ゐたり清貫ばせをと聞からに
きやいこそ彼世の時参りごさんなれ大内の
有の尋んとそろり〳〵とそばにより。つくり聲
して申といへばアヽこはといひにげんとす。ア〳〵是々
くるしからず。我はゐなかの旅人成が雨をしのぎ
て罷有。ねれば大内方の人さまとや。せつしや
共はでんぶやじんの遠国者殿上のまじはり
夢に見た事も候はず国本のみやげにかたり
聞させ給へと有ばせを打笑ひ田舎の出衆は
いづれも左様にの給へ共さしてかはりし事もなし
糸竹しぶん和歌の道取分はやかはぬれ事と
につとゑしやくし申ける。清貫とほけた顔付に
て。吉野でも山でもすさらぬは忽の道。定し
上らうさまもさうした色候はんざあ〳〵聞たし
〳〵といへば。一じゆのやどりも多生のゑんと
つゝますかたるうたてさよ恥しながらみづからはねに
中一の美男蝉丸様に思ひをかけ様と心づくし
舟引手あまたの殿なれど。さゝの一よの玉
あられ。まろびねんとの約束をよしなき女に
さへられつゐに思ひの御間なき涙の殿に身は
くつる念力岩を通すとのたとへに偽りなき
ならば。しゆる共生る共此無念ははらすべし。
おもてふせ口情也。や。よしなのとはずかたり穴かたり穴かたり穴かし
こへにもらし給ひそと又むせりせきあげし
袖はしぐれにあらそへり清貫とつくと聞からに
なふ恐ろしの一念終に憚丸なを姫のあたと
ならんは必定い成事をか仕出し御命にさはり
あらば後悔に甲斐あらじと近比不便千万
二十四
ながら太刀ぬれひそめ取て引よせ。心もとを
さし通すなふ悲し人殺しと。よげる故に乳子
の者門をひらき飛出る。あしかりなんと清貫は
しのゝ小藪にかけ入暫くひそみおはしける母は
すがつて悲しめば入道親子もはいまうし盗
人のわざなんめり迄かけんとはしたりしがみやの
御事きづはしく立もやらずゐもやらず。蝉丸
もなを姫もあはてふためき給ひける今をか
ぎりのばせをまへ宮をつく〳〵見参らせくるし
げ成息をつぎかゝそれ成は蝉丸さまなを姫
御前とは御身の事が。うらめしや恥しや偽り
おほき御一言誠と思ひ身をこがし恋に心
をなやまして。あられぬとびにくるひしも。たゞ
一筋に思ふ故君が応路のさはりならば思ひ
きれとはの給はでたばかり殺さん御たくみが
余りにむごき御心情の道はさはなき物なふ
にくふて人にはほれぬぞやばかなの恋にくち
はてん名こそおしけれ去ながら。我里にお
宿をつすも作生のゑん草の陰にて君が
ためあしかれとはいのらまし詞のゆかりとおぼし
なばよの人千度百たびより。君が一度の手
むけ草露の命はおしからずなふ父上様兄上
さま宮の御事偽に頼み奉る名残おしの
母上様なむあ弥治仏といふ聲もねふれる花
のほふべの秋十七歳を一期として終にはなく
成にける親子は夢共わきまへず。すがりついて
泣ければ蝉丸なを給声を上さりとては
覚えなし恨をはれたゆるしてくれよ。不便
二十六
のものゝ心やといだき付すがりふし。なげどさけ
べどかひぞなき物の表のかぎり清貫あん
に相違して今はたへね案内し。やう〳〵と
書ければ聞及びし清貫殿か。先となたへと
請じける。清貫人々に対面し。かひ〴〵敷
も御かくまへ我身にとつて祝着とれいぎ
こまやかに相のべ先以御息女ふりよのさい
ご御しうしやう察したり。去ながら此歌は
しれ申す。本重とげさせ申さんとあれば
忠光悦び。それはいづゝいか成者にて候ぞ
アヽ此清貫こそ敵なれ。入道親子ぎやうてん
一円に心得ず。いか様子細候はんねらんとまゆを
ひそめて申ける。清貫涙をはら〳〵とこほし
有し段々心底をくはしく語り。宮此所に
二十七
ましますとは存せす。御行末のあたと思ひ
不便ながらも討たりし忠は有つて不忠と成
あたは情と成たりし短慮といひそこつといひ
面目も候はず今恨みをはれ給へとたちを
さる手にずはとぬきずでに自害と見えける
時親子左右に取付なふ清貫殿我々も待
なり。一家命をなげうつ上はさもしく悔残るへき
か。大事をからへて是式にしなんとはうめたへしか
但は狂気かさあ死なれふばしんで見よと
さるさ〳〵なだめとゞむれば思ひ切ける清貫
も理につめられてしなれもせず。生てもいら
れず数しもならず。三人めとめを見合て涙
をながすぞ道理成はやしのめに及びし
附右大弁早広春伝ばらにものゝぐさせ
なを臣の老母おなじく若君うはひとり。
内
ぢんとうにひつ立千手が屋敷をとりかごみ
御勘当の蝉丸をかくまへ段げきりんなく
めなず太平の君が世に事をこのむはしれ
者なりとう〳〵鯨丸なを姫を渡せいぎに
及ばゝ先一番にきやつらを殺と刃をむね
にさしあて。さあ返事はいかにとこゑ〴〵に
おめきさけんでよばゝりける忠光親子清
貫も人じちにあゞみはてさうなく切ても
出がたくいかくはせんとひしめきてとかくじこく
のびゆけばまだかし軍神の手むけぐさ
それつき殺しておいれと。痛はしや御さ
母二歳の若君諸共に口い一太刀にかいせし
はめもあてられぬ次第也。云天道しずの
にんちゝめ。一人ものがさじと枕長刀追取
のべ四千余人を弓手にうけめでにさらへて
戦ひける子平太郎が手にかけて十六人
とめければ入道が長刀に八人かけてぞ捨て
ける残る者もふかねをおひさつと引ては又
かけ入二三度四五度もみ立しに千毛親子
契をかけ。清貫はおはせぬか宮を御供申されよ。
跡をなかまふな〳〵とよばれば。尤と清つら
宮を負参らせをのがやかたにおちしるもの
陣に早広後の垣を扣やふりなを姫を引
立大地にふみ付おがみ打にふりあぐる。なむ三
室と入道横あひに丁ど更火をちらして
切むすぶ太郎は文を付せしと付てかゝれば入
道へだて。父が命をかばふな姫君を討せなば。
七生迄の勘当といふ声に力なく母と姫
とを両脇にかいこふで上の山へと落行ける
入道は面もふらず負行敵をふせぎしがはや
廣いらつて打太刀に弓手のかた先打こまれ
七十一さいゑの夜のあへなき夢とぞきへにける。
忠光父はいかぞとねて有つて。一円やみせ
つる目前記の歌ぞとしりぞく敵をかさに乗り
くもでに追立追返し半時計かけたりしが早広は
行方なし[キ]無念憎おいれ天地を出ずんば
討て父にたむけんとわづかに残る雑人共木の宗
の気破打波むら〳〵はつと遥ちらし父かしがい
のうす煙かすみのたにへとわけ入し父ちゝ
たれば子も子たり。あつゝれゆゝし頼もし。ぜん
代みもんのほうしやと扨ふみにも残しとゞめつる
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
第三
早広が悪逆ゆへ宮はここその御命まぬ
かれ清貴がはからひにて中納言希世の
やかたにおはせしが。有時清貫希世さん
だいあり扨も蝉丸の宮ゐんじさつきの
比より御がん病れいならず。からのやまとの
くすりをもつていれそねをつくし候へども。
ぐはんらい宮の御事はびなんめでたく
ましますゆへぬとの女の女の思ひしつとの恨み
御一身にせまりゐしゆつの及ふ所ならず
つゐに御両服しゐさせ給ひさりてんに月
日のひかりなくあんやにともし火かげくら
き。まうもくの御たち力及す候と詞をそ
ろへそうせらる天皇はつと御気しきかはり
本二
御らくるいましませしが誠にちんが弟四のみ
と生れ十善の位をもしるべき身が生
れもつかぬまうもくと成し事よつく前世
のあくごうふかきゆへはたいふぐにして仏には成
がたしいはんや此世さへくらきに迷ふまう
もくの未来のやみも痛はしやとやし御
涙にくれ給ふよし〳〵此世にて諸人に恥を
さんげして。こうしやうをはたし後世をたすくる
いとなみ相坂山に撰置べしと論言有こそ
哀なれ両卿詞を勝宣旨にては候へ共賤
山がつさへかたは成子はいとおしし。況一天の若宮を
たるに捨させ給はん事かつは仁心うすきに似
たりと恐れ入て申さるれば。いやとよりとし
いける物子をあはれまぬはなきものを。ましてや
木上
我がおや心身にもかへまくおもへ共。くはこ
おん〳〵のあくごうは十ぜん主位ものがれ
ずと万民にしらしめて天下のたみを
悉く仏の道にいれん事くはうだいのじひ
ならずつ。子のいとをしきはつきせねど国を
はごくむ我なれば国民にはかへがたしかまへ
て汝ら露程もいたはらば。有つてあたと成
べきぞとく〳〵山にすて置べし。はかなの
うさせやあさましのにんがいやと。御ふりのこじを
かたぶけて御涙せぎあへさせ給はねば八しやう
百くはんもろともにをの〳〵。そでをぞ
しぼらるゝきよつらまれよりやう
きやうもちからなく〳〵たいしゆつ
ある世のならはしぞ三重さだめなき
太第
せみ丸道行
むすふのかみも。いつはりやいつの月日
にむすびそめねそめねそめし夜半の夢
きへてゑんさへうすきから衣。御いたはしや
せみれは何のむくひかうき世のやみれん
ぼのやみのくらもに。ひきだすうしはきのふ
かもみゆきのくるま引かへて野がひにさつす
つな手なは。御身にそふる物とては。けん
じやうのひは一めん御貫肴世御供にて
しほれ一出させ給ひける御有然こそ哀
なれ秋されは〳〵月のさはりとなきなげき
つるひかしの山をへゆけと。今まうもくの
御身には。何の光も水魚のかもの川さゝ
波こへて契りもすへの松坂ときへはや爰に
廿五日
一一九九十一日
あはた口秋まだわかきやま〳〵に忍び〳〵
の。はつ紅げたれにきよとり錦をぐらん
をり〳〵にくはてうふげつのたはふれも共に
ちりゆく花の山鐘こう〳〵とほのきこへ
御心ほそき時しもあれをのがゆふべのとこ
いそぐ妻こひがらす二つみつなふ四つ五つ
五もじは歌の中山せいがんじあの神かきの
としふりし雨の見かどの御へうのよ。ゆん手の
山のをかのべと御手を取てをしゆれば
とかうのこともなく。世々のひつきの。あまつ君
たみをめぐみのことのはの露のながれをく
みながらなりゆく。はての浅ましやと。御渡せき
あへさせ給はねば清貫希世心なきうしも
丸をふせ角をふせ涙をながす有様に草木
水六
一同五升五合一斗五升五合
も表催せり秋の田の刈ほのはらや風落て
磯が手枕ねみたれし。かみぼす布ほすまだいひも
外ほす我は袂のかはくまもないそならいそさはべのか
はづゝる思ひはよもしらししちくまじりの教の下春
の物かりのさいた妻。小笹姫笹行袖にみのきて
かよへ立着てまたかよへ涙の雫雨まさり雨には。
あらてや是の。きゞの。木々の木のはる。はらつ
ほろるごら〳〵〳〵と風に諸はのみや所けふを
かぎりと伏存のほりくだり旅人も心〳〵に。
よひしもたがたれと。伏見の山見へてかいたて。
れのさゝめごと今めにうかふたねそかしいそぐと
すれととけしなき牛の玉ぼこをそく共心の約は日に
千度のしき方に走井の水櫛のはもよしやよし。
いつを頼にたはつけん家の髪の実がつゝ相坂山登着給ふ
木士
清黄希母両卿は宮を木頼に落し参らせ
宣旨もだしかたく是迄供奉せしめ候へ共い
づゝに授置申べき去にても我君はげうしゆん
此かたの賢王とは申せ共けんさい御子を捨給ふ
ゑいりよいか成事やらんと涙にくれて申けり
蝉丸聞召あらをろかや。人々よ。前世のかいぎやう
つたなくて盲目と成し故。されば父みかとの
御情なきには似たれ共此世にて因果はたし
後世をたすけん御はかる事是こぞは親のしひ
一撰置帰れとの給へば
御有様にては盗人の恐れ有。御衣を候はつてみの
を参らせ候はんなかたみのゝ島と
詠ぜしみのかゞさん候成〽さん候雨露のためなれば同じく
笠をも参らするに是はみさふらひ見かさとよみ
廿八
物よなふ事又此秋はの道しるべ
つくかゝになとせの坂もこへなんとかのへんせうが
よみしつゑる
所もあふさり山大成〽関のわらやのわらやの
うき世に。あふ坂のしるもしらぬもこれ見よや
延喜の王子の成行はて。こはそもいか成ためし
ぞと声をあげてぞ泣給ふ。キキせんじなれば人々も。
名残の袂ふり切て涙ながらに帰らるゝ王子は
跡に只ひとり。ひはをいだきて竹のつえ。ふし
まろび〳〵さばア〳〵〳〵の声計稍
のごさま山老をせめてそれかと刀帯分て。山路に
入給ふかつらはみのる三五の暮名高き月に
相坂の関のしみづと聞しは江州一のめい水也
されば関寺のちごをも是を仏のあるおけや
ひさくの露の玉だすに月をくまんと秋に
すむしみづかもとに出しるゝ時に柳のこがく
れよりわかき女の走出石を袂にひろひ入
なむあみだ仏といひ捨すでにしみづにとび
いる所をちごを引とめはうじやう第一の
れりいにてしやしんやひもよらずとあれば。
いやとてもながらへはてぬ身ぞ。御じひに見
のがしてしなせてたへとふりなす是々ざ程
こひつめしには子細こそあらめ品によつてともかく
も先しづまりて語られよむらに〳〵と申さるゝ
彼女顔打あかめ恥しながらみづからは。此山に捨
られおはしますぜみ丸さまの思ひとき者なを仰と
申者成が御行方のなつかしく。是迄さまよひ
候へ共御ありもさだかならず人に尋て候へば御身
四
のかたはをはぢらひて。人に面を合せしと山ふか
く命ひ今は生死もしらざると聞より浮
世の頼みもきれ此しみづをば三瀬川あふせ
をゑぎ候ぞ早々死なせたべしと又さめ〳〵と
ぞ泣ゐたる児達聞給ひ扨痛はしや。我々は
此関寺のちご成が。山ぶみのぎやうぼうに御有
かはなだり。よそながら見せ申さん去ながら。人おと
すれば逃かくれ給ふ間必声ばし立給ふな只
御姿を見る迄ならでいで〳〵あない申さんと。夕
の雨にさす笠や。空も涙も定なき山路成人
第一第二のけんはさく〳〵として秋のかぜ。松を
はらつてそゐんおつ。第三第三三の宮は我蝉丸
がしらべも四つの折からなりけるむらさめな。流し
るゝ水の哀世のそのことはりもめに見ぬ月の
四十一
入さもしらざれば。夜がひるわかん方もなく
たにのふくろふかんこ鳥。こすゑを渡かむさびや
何をうらみてましらなく落葉衣に霞
おもく月をもなふにかたやせたり。うつればかはる
表さよさればにや。夕日のめぐるかたをこそ都
の共とまねゝ手にそなきのあとしなつしく。
又しん〳〵たる聖分にびはをたんじては過し
ねざめのわすられす。しかの妻こふ髪迄も
御身のうへとあぢきなしまさきのかづら知つゞつ
くる人有共じり給はずまきやかしはをおしわけて
づえが。しほりのそはつたひよろぼひたどらせ
給ひけるツき娘はあれよと見るからに契りし人か
浅ましやと。すがりよらんとせし所を。ソンヤンプ
おさへてアヽ音たかし人音すれば逃かくれ給ふゆへ
一
四十一
物いふ事は叶はずとこそ最前より申つれ只
音せでと有ければ。姫はせんかたなだに
くもるかゞみのかける我恋は二式あふとはすれど
ものいはぬ
しらずや
ねにむせ返りてぞ泣給ふ大王宮はかく共しら
いとのひは取出しばんしきをへうでうに
しらへかへやよやまて天津為金ごとつてん
古郷の秋はいかならん我は参にすみわび
てびはより外はどもなしとばちをあけがひし
とき風かもて来る村雨のもみぢおそしと
夕しぐれ一むらさつと降くれば蝉丸びは
をぬらさしとこゝの木の下かしこの木頼つれ
てもねんとゑいせしば花にたはれし歌のさま
我にかた[チ]賎のおり〳〵袖がさひちがさむちがさひちがさひちがざ
の雨に木の東々替ゝ初時殿あなさへはしり
となたへはしりざらり〳〵ざら〳〵ざつとりけりさま
よひ身は濡よつく木形なければ雨みたまらす
人々見るめも痛はしく少こだかきそは影より。
かさをそつと指かくれば。さへ御みゝをそばたてゝ
不思義や両は誰ながら身にかゝらぬはこかげよな
口情やいめしへは一夜泊りし宿上も錦のしとね。
後のとこがきにきんぐをかげ戸にはすいしやうを
つらねつゝらんにしよくしやの玉ぎぬのすきま
の風もいとひしにかく浅ましきこげむしろ。しく
ともしかし世の中よ。思ふ人としかたしかば玉の
一台もおろしきかくとはしらでなを姫が表何とか
ぐらすらんししの昔やしのばしのなを姫やと
一盲目の悲しさはばに有共じり給はずびより
ごちたき髪を上歌したはせ給ふにぞ〽今はたへ
かね心き又なを姫爰にといはしけれと
しばしととむれば給入さへ入ふしまろび身を
もたへてぞめこがるゝ神ならぬ身はぜひもなし
〽やれて蝉丸びはもばちもからりとそなむ
三宝叶はぬことに迷ふたり。あふは別れの給ひとり
とゞまる道ならず色も匂ひも一さかり。アヽ思ふまじ
なけがじと一首の歌にかく計是也此ぼくも
帰るもわかれては。しるもしらぬも相坂のせき
あたに別れ夕書に相坂山の旅人のゆきゝも
夢のすきみぞや。雨ふかばふれ風ふかばふげ山の
奥にて住よければ浮世の無常今ぞさとりの
花むかけしと。走出んとし給へば。人々岸より飛で
一をの是なを段ことの付
にて米に手を取袖をとり恐しゆかしの物語
つきせぬ物は涙也心そ思ひやられたる
二人のちごを詞をそろへいかに蝉丸御身いろを
おもん思ひにほだされ情にしづみ。あまたの女をま
よはせし因果の虚心をくらまし盲目と成に成給へ共
今の情の詠哥おもしろし〳〵
もてに旅の姿をつらね内には則ゑしやぢやう
りあいへつりてのことはりあふはわかれの始とゝめし
一首に三冊を顕はせり。神も心をたをやきて
一仏のおしへに相坂の二あの関寺の鐘のこの鐘のこと
煩悩の夢をさますや法のこゑもしつかに先しよ
やの鐘をつゝ時はた。しよぎやう無道とひゞくなり
〽こやの鐘をつく時は
四十六
しんてうのひきはしやうめつ〳〵ゐ入あびは
しやくめつゐてとひ。きてをいの道もくらからす。
帳のよはも明渡り両眼はくらく共汝月あさらか也
わかの妙をさけん為
のこんはく顕れ出共に成仏とくだつのとそつに生れん
嬉しきといふ聲計は赤坂山いふかと思へは相坂山の杉の嵐
に立まされてぞよせにける
それ日の本は神国の。わを以て道とせり方仙のれい
こん顕れ出詞をかはす其きどく未天道捨給るす
と感涙袖をうるとて扨なを姫にあふ事も神
のさつくりゑにしそとをの〳〵夢かとたどられて
猶しん〳〵のわかのみちふるきためしにふみはけ
ておつれ山路に帰らるゝふうふふしぎの
ちきりとて。二度めくり松坂山のめいかは。今に残りける
四つ
第四
□
右大弁早広は千年命を討ほろぼし都の住
も成かたく遠国にさまよひしがとかく我しん
しやうの歌は蝉丸なり是非に恨をはらさんと
下人等一両はい召つれ相坂山のたにみねを京
をすて尋れ共宮のゆくゑはなかりけり後は
小関殿の尾やかゝる山家もすめばすむをくの
桑人友よびかはし是々あふさか山にてふし
ぎの物をひろふたり。そも何と云物ぞさあ
すいあてにいふて見よとびはのはちをぞ出し
ける。山がつ共あつまりてすがたはいてうの葉のなり
にて扨もがてんゆかぬ物是は旅の末ひろかや〳〵天
狗の笄ならぬく非々見立笑ひける時にむかふのをかへ
よりさきせうふの毛をみて。やれ旁それは此山に遣まし。
四十八
ませし。蝉丸のびはのばちといふ物ぞ幾
ものゝ用にはたゝず我にくれよといひければ
そして又おことは何にかするやうすによつてやらん
といふかの男聞もあへず。事ヲゝ某はあの志賀の
里に世をのがれ住給ふ伯稚の三位と申人
の一僕喜藤太といふ栗朴成が。しゆくん
伯稚の三位殿は憚丸さまのひばのでし。
其ほうしよにて此間[リ]憚丸さま御夫婦共に
だんなが庵に入給へば捧申に走非〳〵しよ
もうといひければ扨はさうか持ても用なし
勿躰なしとあたへて皆々通りけり。早広とつ
くと聞すまし郎等にめくばせ喜藤太を四
方よるはら〳〵と取かこみ是々めが主人三位
の庵に蝉丸のおはするとやさめ案内して
つれてつけ。いなといはゞふみ殺さんとかさをかけ
てぞ申ける。長藤太きよつとせしがあうなづき。
く聞えたうぬめらはかうとうよなさねおのれら。
きしよくすればとて主の家へ盗人の引入が
成物か下らうと思ひあなどるな四も又もくふ
男でなし。足手そくさいな内はや〳〵帰れと
いかりける早広いかつてそれひつたて案内
させ上承りと下人共飛かゝれば取てなげ。
とり付ばふみたふし楊取のべ打てかゝる。早
廣もぬき合せ二打三打はたらきしが
山路になれたるあらおのと岩共谷共いはせ
ばこそ猿よりかろくかけ廻れば。さしもの早
広せんかたなくまろびころんで逃おち長
藤太も走迄ともとの所に立返り
五十
でもないやつらにあひあつたら汗をながせしと。
葉に棒さしかき荷ひ鼻哥うたひゆう〳〵
と志賀の里へと三重路ありけり左衛門督清貫は。
宣旨とはいひながら御幼少よりつかへにしみやを
山野に捨参らせあぢきなき世に無謀の袂に
やつし国を修行念仏たじもなしされは末卿ばうし
がたし宮の御うへいかゞぞと都に帰るさゞ波やしかの
浦にぞ着給ふるき都の所から花ちる里のわら
がこひ。ひがきすいがいさゝやかにいとゆへつける庸有
立見れ共あるじはなし持仏の音花こまやかに
ちきやうのいさんつゝろはず本尊も。むかゝ覚たり。
い成とんせいじやの住家ぞや世をいとふ身はたれ
とてもかくこそあらまほしけれ。ちちのかへさを
待うけ。一夜かたりて通らばやと思ひゑんに腰かけ
五十一
ぶつだん
待ゐたり。時に仏壇の下より。女の聲にて申
〳〵と呼かくり。はつと驚き見てあればしのび
やかに戸を明て雪のやう成手を出し。やよこれ
水一つたべといふ大道心の清貫も毛ぞけしやう
のわざならめとひざわな〳〵とふるひしが。さゝ
不便やがきだうに迷ひしゆうれいござめり是
ぞ出家の役とくはんじうつわ物に水を合ぎか
三づきかつはそまん南無阿弥陀仏とさし出し
ちやくと手を引しさりしが又こは〴〵立よりてぞ
つとのぞけば。ほみや八まんあてやか成女房なり
かゝ扨は御坊の大こくよないやはや浮世にぬけ
めはなしだれかはしらねど此庵のぬれ坊主
所こそあれ仏だんに女程させてさゝめごと思ひ
まはせばおかしくてひとり笑ふてゐたりしが又
声有てあら心よや。今一つとさし出す清つらも
おどけ者わた為の大こく殿ちとおがみ奉らんと
その手を取て引出し能々見ればなを姫なり
扨は御身は清貫りなふ姫君かと手を打て。互に
あされおはしますされ共清貫ふしんはれず仍
とて爰には御入ととへばなを姫聞給ひされば
とよ此所は伯雅の三位とて宮御ひはの弟
子成の奴わらは諸共是に忍びましますと
語り給へば清貫悦び宮はいづくに渡らせ給ふ
御め見へにたしたし[ツ]宮は御小笹の御させいに坂
本の山王へ日参遊ばしけふも三位を御供
にて御参詣候が追付帰らせ給ふべしとび給ふ所へ
喜藤太立帰の清貫をゑ度見てきやつも
盗人の同類か油断はせぬとかま取なをすを始
天御覧じやれ喜藤太。あれは夫の御めのと
清貫といふ人なり。おことは気ばしちがびたるかとの
給へば。今扨はさうか御めん〳〵拙者は山にてかう
どうにあひしゆへ扨只今の仕合と有し次第を
かたりける清貫つく〴〵聞給ひ。いや〳〵是は盗人
ならし早広に疑なし大勢催し此所へ押かけんは
北座垣ひとへの庵室に長袖足よはあやまち
あらば後悔せんいて山王迄姫君をも御座し
宮をもいさなひ奉り一先都へのぼるべしそれ喜
藤太御手をひけ暮ぬ先にとくなみの玉ほの
うみへを漬つたひにたるもとさしてぞ
爰に父子平太郎忠光は父道を早広に討
せ其無念はれやらず老たる母をかたにかけ。親
の敵早広を走悩一太刀と心がけ。野山におき
五十四
□□□□□□□□□□□□□
ふし付ねふ所存の程こそことはなれぬしも
あれ志賀の里にて早広を付出ざあ今ぞ
日比の運だめし天のあたへあら嬉しやとはやれ共
見れば敵は大ぜいにてむらがり来る。老母を何国に
置べきぞ云くつきやうの房室御免といひ捨つと入
物化の下だんの戸を押ぬ母をしいばせ奉るあら
心やすや此うへは腕かぎり太刀かぎりと。身づくろひ
する所へ早広主従七人にて伯担の三位が
庵とは是ならぬ。ほつこんで討といふ程もあれば
我さきにとみだれ入忠光戸口に立ふさがりぜん
じゆ太郎見忘れたるおのれをこそ尋しに。神仏の
あてがび能も爰へ来りしな穀の敵覚へたがと無二
む三にぎつてかゝれば。せんをとられてどうてんし
おびへてさつとしるぞきしが。ふみとまればあかけ
取て返せば切かけ。打かけ〳〵息をもつかず逃る
敵におつすがひ西米津か原へそ
かくとはしらて伯雅の三位蝉丸の御供して
清貫とは道ちがひ麓のたづゝ下向だうをのが
庵に帰りけり。蝉丸仰けるは誠に師弟のちなみ
とて此度の忠節浅かずとの給ふにぞかゝる御
用に立事しやうぜんの本望先は姫君さぞ
御さびしく御心もつきぬべと仏壇の戸をあけ
御手を取引出せば。ヤナ是なんじや。七十有余の
老女かしらの雪もみつぐむ。おゐさらぼひて
出てける三位はつと飛のけで。金おどろさ
やれ何事ぞきづかはし。さん候姫君俄に白髪
の姥と成給ふ。今の間に年のよるはそんならず
是御覧ぜと御手をとめだへをなづればほね
五十六
あれて。世の波立身のしはにやせて色かもなり
けり。文もあきれてましませば三位にたりくし
けき程宿を出さまにたしか姫君を入出いたかと
存するか取ちかべたかしらぬ迄とまゆをひそめて
ゐたりける痛はしや蝉丸は御涙をはら〳〵とながし
我此姿と成事もあの給ゆへとたのしみに情
も応もさめはてし天まのしよゐかみやわつかと。
御しうたんこそ道理なれ主母は声を聞覚え御ほ
ばせをも思ひ付。なふ宮様かおなつかしやゆかしやと
すがりつけばアヽアゝうるさ。ゆかせ〳〵とあなたへ逃なさ
へかくれ百とせに。一とせたらぬつくも。かみもてあつかは
給ひけり。アヽ御尤〳〵。名を申さすは御見はすれ候べし
わらはこそ君が為早広にうたれし千手入道か後
家忠光が母にて候とくだんの有増加うらるゝれば
五十七
げに〳〵それて珍しや。是は〳〵と手を打て一先
ふんははれしとなとなく姫の行方なき前のさうどう
に。敵やばひ取つるといさきづかひたへぬ所に清
貫喜藤太姫君を誘引し参出あひ奉らぬ
は道こそちがひつらめとてもとの庭へ帰しるれば
こは清貫か我君かそれよかれよと奇あしまり
泣つ夢ふつとり〴〵にかさらひどよみ給ひけり。しかつし
所へ子貴くらうすね少々更ながら大あせに成
て馳帰り人々を見るよりもはつと驚き嬉しさに
とかうのごんくも出ばこそ夢かと思ふけしき也各
一どにやれ〳〵千手か忠光か事の首尾は御愛
母の物語にて承る。して先敵は討考しか。さん候
敵は大ぜいと申ながおひに力つき候を火水のそこもと
べじかど母が有様きつはしく無念なからもあもらし
五十八丁
とつて返し候。幸哉此上は恐れなから母を君に預
参らせ。心身かろくし罷出敵を討て帰るべしはや
お暇とぞ申ける清貫聞くあへず[テ]すゞしいさまし
御老母は我々預り都一条大宮にさかゞみの姫宮とて
蝉丸の御涕宮おはします。君諸共に此かたへともなひ
忍ばせ奉らん毛げけさ衣は某が着用して君に
めぐりあひ奉りし吉左右めでたき三衣也貴殿に
ゆつり申へし修行じやにさきをかへねひよつて本
望とげめでたく帰洛せられよと各門出いはゝる
ればアヽ有かたし忝し。此衣を給はつてすがたをすみに
やいす共。心れはそめ残しきのりけんをひつごげて。
たとへば敵つゞさを生し。梢をかけり波をくゞつて
しんちはゝさいかうらい国。しな天ちくにいたるとも
けんこんを出すんば。よしや五年か十年もいのち
五十九
おはらで一念の魂残つて本望とげめでたく人
つて母じや人御笑ひ顔見申さんヲ御身が笑ひ
も見せてたべお彫申我君御暇申て母上御各
には老母が事頼存るヲ
行花は三芳野人は武士ほまれはくもゐにかほりける
第五
代え
世の中はとにもかくにもかりの宿。笠一本におき
ふすも身の程かくす我房と。蜑の袂にすみ
づきんきやうろん少々くはいちうし父の敵をねらひ
ゆくしんまに我は迷人共人を道引六道の辻だん
ぎこそ殊勝なれ誠に浅ましいかななげかい
かな。今日の衆生一生ざうあくふだんぼんなふの
ちりにまじはり。あしたにいかり夕に悦び。とんじんち
まんのいろかに並ひかめにも仏法といふ事を
しらぬ。おろか成かなさいしちんぼうぎうわうゐ
りんみやうじうしふむいしやと申て現世にて実
の山をつかせ子孫やつこにかしづかれ花にゑいじ
月にうそぶき無上のゑいぐはをきはむるといへ共
一そくせつだんわんじうの嵐にとんかくしよく
の火の車ごうしやうの雲にとゞろささそひ
行ときんば。日比の下人もしたがはず金銀い
ふくも身につけず。むさんならくにまつざるさまに
おつる事みつばのそやよりいとはやしざいほう
は地ごくの家づとみやうもんはせうねつのつま
ぎ共たとへたり扨いかんじて各我々。仏にはなる
ぞう申せば。有ぞい事の。けじやうゆほんに
いはく。大つうちせう仏十とうざだうじやうぶつ
ほうふげんぜんやとく成弘道。此文の心は一心のほか
に仏法なし一心の外に成名なしされはぐちむち
の穴。君の外に仏をもとめゑどの外に酒長
をもとめ。かへつて迷ひの種となす是をやはらげ
伝教大師の御歌にさとりとて外にもとむる
心こそ迷ひそぬる。はじめ成んてんだいの
しやくもんにもぼつけぎがんもくのゐみやうとて。
しやかと阿弥陀はたとへばあといひ眼といふがごとく
にて。一仏ゐみやうどうでい。心の外にらいかに
ゐながら爰もれんげだうじやうねても仏さ
めても仏立ても作ゐても仏ぎやうぢうざぐは
一心ふんに念仏せば。こしんのみだ候いしんの徳言
なれば心外女別法御心成仏私もなをさすゐ
もなをらす。十方へんぜうの光明をはなち金色
のれんだいにかせられ一瞬せつなが其間にたち
まちあんやうむくせかいではけぢくの都にをくらん
汝疑ひの有べきゝ四とんにへんながるゝごとく證の合
往来は皆々らいして通りけり右大井早広は丹波
の方へ落ゆかんと。縁笠引こみゑきばに乗白川
ごへに来りしが金にや恐れけんに広か乗たるむま
俄にたしとみはねあがり鞍をはなれてどうどお
つる。早広いかつて是ぐはん人め馬上にも毛投せす
傘をひらめかし落馬させつるきつくはいとかさとつ
たるをきつと見てヤヤサ敵の敵早広か子手なら
しつらんと傘のろゝろをぬけはながゑにやりを
しこふたりあまさしと飛からればなむ三ぼりと高
引よせ打乗。鞭をあてゝあゆまするひきやう者
臆病者。ぬせ〳〵と声をかけ。息をもつかすおつ
かけしは只いだてんのごとく也。半道計追かけしが馬
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の足なみ早広に十四五丁さかり松の木がけに
つつ立又かけ出んとしけれ共こはいかに足平野
山にふしたる千辛壱う二三日又こくをしよくせす
咽かつしてよろ〳〵と▼もひかればこそ。空
加につきたり口惜しとはがみなして立たる所に
誠に天のあたへかや死人にそなへ。枕づけのぐもつ
松のもとにすてゝ有ありがだし幸と一口にくつと喰
一ゆりゆつて刀足をふんざればこんぞりきしの
ごとく也さあな笠万里もとびと又かけ出し
三寸のかみや川にて程なく迄。付髪をかけ
一馬のしりがいくらつぽかけて突ければ。馬はこらへす
かつはとふす卑広おもみなたりと。太刀を合せて
ふせずしか一念のほとさき岩をつんざくいきほひに
左のあばらをつらぬかれのつけに五せばつつと入
取て引ふせ馬前にどうどいり親の歌諸人
のあたねんいの恨みびしれと三刀四かたな
さゝまし。嬉しし心地よしと嬉しなきに泣いたり
先母上に悦ばせ奉んと首きおとしやりに
つらぬきふりたけ蝉丸のおはします一条大夫ざる
がみのやかたへどふるごとくにゑにける心の内こそ
嬉しけれ案内にも及ばず千半太郎忠光
敵早讃が首とつて参りしと大音あげてよ
ばられば希世清貫宮御夫婦是は〳〵と是
出扨もお手がら〳〵といさみ悦び給ひける此年
月の難行又きがり松にてうへにおよびしやまう
しめにそなやぐもつめてうへをしのぎし有様つぶさに
語り母に申て悦ばせんはや〳〵あはせてたべと申
せば人々は涙ぐみとかうの義もの給はずこは心らず
いか成しさいぞ聞させ給へ希世涙をとゞめ今更かたるも
びへきながら御老母の御事は廿日程いぜんとかぜの
心地とめひしを。ゐりやう手をつくせしかひもなおとゝ
ひの暮方につゐにはかなく成り只今の物語まう
じやのくもつをしよくせしとはそれそ御老母のくもつと
語りもあへぬに忠光ははつと計にふしまろび聲も
出しまず泣ゐたる心の内こそむざんなれいとじ涙
にこれながら扨は亡母のくつりつにて我かつ命をつなる本
面を直せしかや草の影迄子を思ふ母の一念通じたる
舞子のちくうの有がたとよかく有べきとは存ぜず御かほば
世を有せんといさみありし甲斐もなき定めがたなの
世の中やと人めもわかず聲を上くどき立てぞ泣ゐたり
今に道理断やと各袖をそしぼしるゝやゝ有てせんじゆ
太郎と歎くまじやの親兄弟が命を捨しも君を御代に
六十六
立殿敵を討て候上は父母が孝孝には君御世の御
そせうこそ有まほしう候と涙をとゞめ申ければ清貴聞もあへ
ず我々もさは存すれ共先々月よりなを始御懐妊のさざし候故
不残追引せしいざし互に美問せんと評義とり〳〵成所へ嫁
参ゆび給ひ。千年太郎と御身の事か忠義かんし入て
こそ候へしとはらさかゞみ迚憚成り因果のかたはにかみ
さかさまにとへ破父帝にもふれてげる貧き住ゐながら
是は過去の因果なれば祈るべきかなし又蝉風の首もくは
しつに命を失ひし北の哥の一念現世の報ひけ也殊になく姫
懐妊とや破恨にてまるゝ子もかたはなんは妙足もと北の方に
然りなければ耕もなし安居院の小聖を請し宇治川にて七々
日魂しづめの法寿をなし。彼ばらんをなどめなば蝉丸のある
開けなを姫紫産もさしつひれいの男子なんとく〳〵との給へば皆
なく同つゝ山重に御使者有の辰也。加の辰也是を吉日とぞ
懐胎十月の由来
宇治のあしろ木日をかさねげふまんぐはんの大
ほうし。宮御夫婦は数主にてだんの左右にちやく
座ある。大君みゆき成ければ。らくちうさんごく
かくれなく信心のさんけいはぢうにやくなんによ
させんとひ袖をつねておびたしかくてあぐ
ゐの小むじりはゑんのぎやうじやの緒をつぎ。
たいこんまぶのみねをわげ七ほうの霞はら
ひしすゞかけに。ふじやうをへたつるにんにゝのけさ
ちざやうおとらぬ御でしをゆんでめてにあひ
ぐしだんじやうにさしかり先かぢのさんをぞ
すぜられけるさん上
まつて申がたましづめそれむろむしやうのほう
かいにはじたのねんざらになしざとりときんば十
七十八
はうくうまよふがゆへに三かいじやうきとみだり
におまつてあいしく。毛かためにやむことなし。
花と見よ雪と見よ。たつたのあしきよしのゝ
雲かつゝなければゆめもむすばす水たま
らねば月もやどらず今なりがへす。へす。へいはくに
あじほんふしやうの風をまねきて。めいまうの
やみをはらさんそも〳〵行者がしゆほうと
いつは初七日はまんだらく
三七日にはりう女成仏水せがき四七日は光
みやうく。五七日にはたえなれやほしつけせんぼう
六七日はぼうようのしゆり三まい今月今日七々
の大けちくはんと申には。
のほう。今のみのりにあたをわすれておうごの
まなじりをめくし給へと懐胎十月の十ざりを
七十九
かたり〽給ふぞしゆせうなるに先初月は一気たい
ちかにはらまれ。其形あたかげいらんのごとし。これ
ほんらい一とくのせいすい。かたちに取てはこんとんみ
ぶんなにとつてはたいげんたいそ神道にては。くに
とこたちの尊とも奉りがんじゆは天のせいみん
をくだすといふ仏法にてはほんうのひるしやなふ
どうな王のうけ取給ひてほんらいのくうの
一もつ走とかや。二月。めにはゐんやうの二きあひ
くはして一きと成。とつこのかたちどあらはるゝ。是
をだいしと名付て形のはじめりのつぎにて。
やくしによらいのうけ色を三月めにいたつてじん
りんのほんしんわたくしなく。はじめて一念きざす
天ぢゝのしやかむに柴は仏といひ。もろしの
ひじりはめいとくと名付。我物にてはしんまと
あふぐ。なつくる所はへだゝれと。三ぎやう一ちは
やこの〳〵この〳〵この〳〵三このたちもんじゆぼ
さつのうけ私。はや四月めは地水火ふうの又
りん煮くつらなりてじんぎ五じやうの五この
かたちふげん井のまもり也扨五月におよんで六こん
手足をさいしき五たい残らずれんぞくす。此時より
そのたいにまもの本尊定りてつきそひめくるはら
おひやぢざうぼさつのうけ取也。六月になればこの
む所。ぼつする所しぜんにしやうし。母のちぶさにくひ
つきて。花のちをすい取番をよそ。三石六斗なり。
則大ひくはん世音。是をまもらせ給ふとぞ扨七
月にいたつては忝なくも御仏は三世のゐんゑん
じゆみやうをかんがみ扨こそ人間一生にめくる。いん
ぐはのおぐるまのわのわんぼうにさざみ付。かうへに
かつけ給ふとかや。みろくぼさつのうけ忠なり八月あに
およんでは。あしく井のまもめにて。り。ほうふんて
ゑなと成九月にはせいちやうしいねん有ゆへぼう
かいの。あゝまあくれうどゝきをふきいれふきかけ
ふきこみ此かいにしゆのしやうせば。おのれがまだうへ
引いれんとすきまをねくひうかぶなり。琴のしよぎや
うしよねんに引れ。ぜんをなせば善人あをなせば
悪人と成ごくらく。地ごくのさかひぞとて。うぶ神を
さだめおきせいしぼさつの守り也。あたる十月はあい
ぜん明王ざれば六道四生廿五うの其中に人よりも
たつときなくかいぶつしやうをそなへたり。かれもわれも
一仏一たい汝がをんねんせうじよみぢんもとのぶづ
くはにいたり給へ出んあびらうんけんけんだかんまんまんきう〳〵
によりふりやうとせい〴〵をぬきんでし。しゆたら
の声も川風も天にひぎて有ざし時にふし
ぎやしんぼくの松のこのまに北の方のゆう
れいがげのごとくにあらはれ。此御きやうにひかれて
五ぎやくのだつた八さいのりうによ。ともに仏くはを
うけしぞや恨をはれて今。よりは。五ちの仏と成
べしとの給ふこゑもかんばしく。木よいくはん
をんとあらるれびかりを。はなつてうせ給ふ。
此くわそみやうにてらざれてせみ丸の
御両がんくはつとひらけてこれば〳〵との
給へばくんじん上下をしなへて。悦びざゝめき
給ひけり扨小ひじりに御れいあつゝ御
ふうふうちつれくはんぎよある。御しそん
はんじやう国はんじやう。千秋万歳万と
歳つさせぬやどこそひさしけれ
「七十三軒
右之本頌句音節墨譜等令加筆候
師若針第子如縷回吾儕所傳沂先師
之源幸甚竹本義太夫伝教
予以著述之原本校合一過可為正本者也
山本九菓亭版
浪華
同
玉水源治郎版
同
紙屋與右衛門版
今井七郎兵衛版
京寺町通松原上町今井七郎兵衛版
松本平助版
江戸日本橋四日市松本平助版
大阪北浜西横堀船町加島屋清助坂