評議会 昭和十三年 其一 コマ7

コマ
7
評議会 昭和十三年 其一
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2518
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帝國大學振興に就て 東京帝國大學總長、 學部長トノ會見席上ニ於ケル文部大臣ノ要望 現下時局愈々急にして擧國皆 皇運を扶翼し奉るが爲めに一身一家を忘れ奉公の至誠を捧ぐるの秋、我が帝國大學 の各員亦各々その職分を奉じて啻に學術の研究に努力しあるのみならず、或は代用品資源の研究、科學器材の老案 防疫業務或は時局の認識、思想の指導等に日夜刻苦精勵しつゝあるは誠に欣慶の至にして各位の努力を多とするもの なり。然るに近時世上動もすれば疑惑の眼を以て大學を迎ふるが如き風潮あるを認む。是れ蓋し大學學風の一部に國 體に副はざる思想及行動ありとせらるゝ所以にして邦家の爲め實に一大痛恨事たり。 謹みて惟ふに明治天皇欽定憲章を垂れて政治の大本を示させ給ひ又夙に教育に關する勅詔を賜ひて教育の才皇 を諭させ給ふ。大學は又大學令第一條の示す所により學問の薀奥を究むると共に國家有用の材を養成するの大任を荷 へり。乃ち我が國政教の大道はこゝに炳として明らかなり。明治十九年長くも東京帝國大學に臨幸遊ばされ親しく諸 作業を天覧あらせられたる後種々御下問を賜ひたるが其當時の御事を謹記せる元田侍講の聖喩記中に 『中學は稍改まるも大學今見る所の如くなれば此中より眞成の人物を育成するは決して得難きなり』 との聖旨を仰ぎ奉りて、今日を省みるとき今更の如く恐懼措く所を知らざるものあり。職に大學にあると文教の府 にあるとを問はず我が國教學の眞精神を基としてその因つて來る所に深く思を致し戒心奮勵改むべきは速に之が改善 を決行し以て聖旨に答へ奉る所なかるべからず、飜つて過去及現在に亘り大學の實情に顧るに眞に沈思反省すべき 幾多事件の發生を見たるは蔽ふべからざる所なり。而も今尚この暗雲を一掃して大學々内清明なりと誇稱せんとする も能はざるものあり。大學に對する世上の信頼亦往々にして篤からざるものあるも乍遺憾否定するを得ざるなり、斯 くしてその累の及ぶ所或は孜々努力奉公に餘念なき學内一般の貢献顯著なるものを福し終にはその光輝をも傷くるか 如きことなきやを憂ふ。 今靜かにその禍因の由來する所を尋ぬれば素より一にして足らずと雖も特に講學に對する熱意の餘り若くは討究穿 鑿の精緻に專心するの結果適々本末を顛倒してその本源を逸するの弊を伴ひ延いては國體に基く建學の本旨と相隔つ 興を見る能はざらんとす。今や内外稀有の重大時局に當面し擧國愈々結束を鞏くして皇國の大使命に邁往すべきの秋 帝國大學が率先、國民精神總動員の趣旨徹底を圖り自粛自省以て我が國教學の刷新振興に力め範を全國に垂るゝの要 切なるを痛感す。 而してその根本方策として最も喫緊なるものを求むれば大學總長以下各職員の任免補職の大綱を常道に正すより急 なるはなしと信ず。抑々帝國大學總長以下職員の任免補職は官吏の本質に遵つて憲法の條章に明記せらるゝ天皇の 大權に在しますものなり。然るに教授會の選擧による多數決によりて動かすべからざる決定權を爲すが如き慣行ある は第一文部大臣の帝國大學職員任免補職奏請上の輔弼の責に稽へ、第二之が國民思想に及ぼす影響に徴し、第三之が 爲め生じつゝある諸弊に鑑み一日も速に之を是正し以て大權を尊嚴の確立し國體の根本を明徴にし大學の威信を立て その學風の清明を期せざるべからず。是れ大學の振興を期するに當り先づ之が善處を要望すると共にその根本大義に 就て深く熟考を求めたる所以なり。 然れども帝國大學は國家樞要の學を研究し之を教授し國家有用の人材を養成すべき最高學府たるを以て自らその特 異の運用を伴ふべく、從てその職員の任免補職奏請等に就ては教育行政上に適當の考慮を拂ふべきは固よりにして、 文部當局が如上の要望を爲したる國家有用の施設としての大學の意義を闡明してその本旨の徹底を圖ると共に大學を して盆々その本來の機能を發揮せしめんとするに他ならず。 故に大學はその根本大義に則りその實情に即して各々適切なる方法を樹立せん事を望むものなり。凡そ事本末あり。 本立たずんば末治らず之れ飽くまでその本を立つるを第一義とするを明示せる所以なり。大本茲に立たば總長以下各 その職分に應じて十分に任務を遂行し、一般の信頼と尊敬とを得て學風も振起し近來幾多繰り返されたる不祥事件も 自ら根絶すると共に現時我國に萠せる世界的權威ある學問の振興と人材の輩出を期し得べく更に斯くして始めて建學 の本義により大學の亨けつゝある優渥なる恩寵に答へ聖明に酬い奉るを得べきなり。若し夫れ、此の根本にして立 たずんば如何に學術の振興著しきものありとも帝國臣民としての分立たずして建學の眞義を沒却するに至るべし。切 に各位の十分なる考察を望む所なり。