創痍新説 巻之2
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- http://hdl.handle.net/2324/4705822
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- 2026-08-17T18:54:31.170Z
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- 1866
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- book
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- 「創痍新説」の「痍」は原本と表記が異なる
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- パブリックドメイン
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- Gross, Samuel David, 島村, 鼎甫, シマムラ, テイホ
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- 須原屋伊八
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- oai:catalog.lib.kyushu-u.ac.jp:2324/4705822
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- ソウイ シンセツ
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- 九州大学
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- 「創痍新説」の「痍」は原本と表記が異なる
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- 2026-08-28T18:53:25.651810+00:00
一、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、〇〇
創瘍新説
〃川蔵
・==
。‼大
一2=
79g3
創痍新説巻二
合衆国愚幹周氏原撰
阿波島村鼎鉱仲重訳
裂傷
裂傷とは身体の一部を逆戻に傷りて皮肉の支離一
分裂せる者を謂ふなり此創は出血も痛もなくし
て傷處の周邉に紫黒色を發し其部は必す厥冷し
て知覺を失ふを常とす即製作場磨粉車及蒸気船
等に於て偶々衣服及手足の蒸気機に誤り触るゝ時
は個般の傷を受ること多し或は人獣の咬齧。兵器の
打擊。車輪の軋轢。失脚高墜の打撲等に由りても亦
此創を起すことあり」但し此裂傷は痛楚及出血なき
と動もすれは其壊疽。破傷風に陥ゐり易きとに由
りて他の刃傷と自ら異なるなり
〔裂傷の痛〕は実に軽くして或は全くこれを覚えさ
るもの間あり即「セヽルデン氏は嘗て一磨師の磨
粉車に肩を搾まれて其上臂より裂断れしか更に
痛を覚えす旋る車輪に己か臂の懸りたるを見て
初めて驚きしものを見たりと謂へり予も亦指節
を裂断られて暫時は聊かも痛を知らさりしもの
を屡目撃せり然れとも其傷の最も重險なる者は
必す全身の劇しき震撞に由りて一時は失気。昏晴
せさるを得す又其部に抗抵力を起せは随て劇甚
の痛を生するなり然る時は宜しく多量の麻酔鎮
痘薬を与へて其痛を寛解せしむへし
出血無き〕は全く是傷の確徴にして仮令其血脈を
破るも亦即時の出血あること稀なり葢し刃傷は其
血脈ともに切れ断るゝを以て血の流出に妨けな
きも裂傷は必す其血脈の縷々片々に壊爛するを
以て脈中の血其処に凝滞し且脈質の神経ともに
毀はれて麻痺するか為に其血を排出すへき脈管
の収縮機を失ふに係るなり且又個般の重創には
非常の体力虚脱を覚えて其為に内部血行の凝滞
を起すもの多し爾餘。裂傷の出血なき症據は先哲
の実験せし諸例に於ても尚鮮なからさる所とす」
裂傷は外見よりも損傷の意外に深く且広きとあ
り例へは其聊か皮膚を傷りたる者と視えしも却
て皮下の筋。腱。血脉。神経等を深く毀へるか如き以
て知るへし」裂傷の状は大抵骨は微塵に打砕かれ
関節は露はに剥脱して柔軟の部は必す縷々に壊
爛するもの多し故に醫士の点撿預後ともに深く
用意せすんはあらす
裂傷の治法〗は猶刃傷の治法と異ならす即先瘡内
の外物を除去り其出血ある者は血脈を綁紮し創
口を接合して爾余は唯焮衝の増劇を預防するに
あるのみ尤も動脈を綁紮するには必す脈管の傷
れさる処を撰ふへし若し否らされは後日出血を
起して其為に壊疽症に傾くことあり又静脉の出血
は唯其処に圧定巾を当てゝ縮縛すれは速かに止
むなり然るにも必す注思して此血の帰流を遮き
倉浦新訪八巻二
ること勿るへし其他尚無用の鄙禁は決して施すこと
勿れ」通常創の模様に由りて其自然愈着すへきも
のも必す法の如く所置して忽にすへからす即其
法は創口を丁寧に清刷してこれを撮合せ絆創膏
を貼して繃帯を施すへし又此所置を為すにも可
及的注意して創口を緊張せしむるの事件を避く
へし予は仮令衆医の説の如く縫合の害を恐れさ
れとも常に此方を用ゆること少なし或はこれを用
ゆるも決して二昼夜より永くは放置へからす其
際にも果して害あるを見は速かに除くへし」若し
又創恵の全く死廃して再ひ用を為し難き者は速
かに切断すへし然れとも又其兆候の確実ならさ
ることのは暫く良能の主裁に任せ置き弥其死廃し
たるを見て手術を施すも尚晩しとせさるなり
焮衝の預防は創の模様に随て冷水或は微温湯の
罨漏方を施すを佳とす若し其聊たりとも化膿に
傾く者は亜麻仁の琶布を貼して其上を蒸渇すへ
し爾際にも十分肉牙発生の機を起す時は更に此
琶布を阿芙蓉膏に換ふへし若し又焮衝の勢益盛
にして壊疽に傾くの徴ある者は直に吐下劑を與
倉津勅談一人巻二
へて傷処の囲りに蝶針を貼すへし刺絡は概ね強
壮多血の体質にあらされは行ふへからす又最初
創を受たる時の震撞に由りて肝臓膓胃等に患ひ
を生する者は少量の甘汞を單用し或は阿芙蓉。椀
歇爾私散。莫爾比涅及吐酒石等に配伍して用ゆへ
し其他痛の劇しき者は適応の鎮痙薬を与へて寛
解せしむへししかれとも亦是創には間生力虚脱。
煩悶。昏慣等の症を起すことあれは宜しく医術を鄭
重して此治方を過すへからす
〖療病療法療法〗法法法〗は抗抵力の起る時と此力の起る時と此力の久しく持
続して死肉の自ら分解せんとする時間起るもの
續して死肉の自ら分觧せんとする時間起るもの
なり故に乙時に於ては概ね五七日より早く發す
ることなし若し其大動脈を傷りたる創等に於て此
出血の恐れある者には断えす「トリ子ケット」を緩く
施し置き患者をして自ら傷處に注意せしめ看侍
施し置き患者をして自ら傷處に注意せしめ看ば
者にも亦預しめ此器の用法を授けて其危急に臨
者にも亦預しめ此器の用法を授けて其危急に
み狼狽するも勿らしむへし若し否らすして此等
み狼狽するを勿らしむへし若し否らすして此如
の預備を怠る時は仮令其危救を告るも医士の到
るを待すして患者已に命を殞すことあり故に必す
懈ること勿れ
破傷風は神経質の感触鋭き患者に於て屢発する
ことあるを見たり此症は概ね其体中及傷処には著
しき原因なきも温熱寒冷或は湿潤の時候に於て
間。発すること多し是時は先多量の麻酔薬殊に阿芙
蓉。阿魏「コローロホリュム」<割等を与へて其初發の勢
を制伏すへし若し否らすして全く其症に陥ゐる
者は殆むと皆救ふへきの術なし然れとも医士は
者は殆むと皆救ふへきの術なし然れとも医士は
固より其死生に拘らす只顧人事を尽して後に己
むへきのみ
若し手足の裂傷に於て大動脉破裂し肢骨全く打
砕れて関節の脱臼を兼ね皮肉。経絡全く壊爛せし
者は速かに切断すへし又医士の手術を決せし後
も尚患者の面色惨澹昏晴等の症を発して殆むと
絶脈するものは暫く施術を猶豫すへし然れとも
唯心の鼓動發揮して脈動再ひ應し手足厥冷の復
する者は仮令焮衝の症を起さすとも宜しく決断
して手術を施すへし
挫傷
総て円角鈍朴の器械にて打傷りたる骨肉の支離
碎裂せる痍を挫傷といふ此創は木棍鐵槌の打撃
一属類諭一ノ米二
馬蹄の蹴錫。車輪の軋轢。未勢の彈丸、銃砲の破裂及
失脚高墜の打撲等に由りて受ること多し就中車輪
に轢るゝものは挫傷最甚くして骨肉経絡ともに
悉く壊爛粉圧する者なり
重き挫傷は其劇しき震撞及出血の為めに暫時に
斃るゝもの猶砲傷に於て視るか如し又其軽き者
は即時或は微時過て聊か出血を起し概ね多少の
組織を挫傷するに由りて微痛を発し傷所の強直
麻痺を覚ゆるなり然れとも尚其焮衝を起すに随
て痛を増加し殊に知覚の鋭敏なる者には其痛甚
くして堪へ難きに至れり又其重傷は患者必す全
身の震撞に由りて面色惨澹。神思昏晴。脈微細にし
て殆むと絶るに至り殊に手足厥冷して吐逆。牙關
緊急、神経痛及他の神経症を発するものなり
挫傷は通常〔出血〕の少なきもの猶刺傷裂傷の如く
しかり是則ち脈管の損傷麻痺して已に凝滞する
所の血を排出し能はさると管内の血も亦其為に
自然の運行力を失ふに係るなり然れとも尚其大
動脈の毀へる者は出血甚くして或は即時に命を
殞すことあり故に此出血の多少は血管損傷の軽重
と其血に受る変動の景況に由りて一様ならさる
なり」個般の重創には仮今即時の出血なきも屡爾
後の出血に由りて危険に陥ゐることあり即大抵五
日より十日の際に於て其死肉の将に分界せむと
する時。通常此出血を起すものなり又其出血の多
寡は組織の奪離と挫傷する部の多少に係るもの
とす但し挫傷と砲傷には此出血の間不虞に起る
ことあれは必す注思して預しめ危救の備を設け置
へし
挫傷は概ね血脈の損傷甚くして形器素を添出す
ること能はさるか為に第一の愈合機にて産るもの
稀なり多くは必す焮衝の劇しきを以て其化膿の
勢を全く摧き壊疽の悪兆を防き得るにあらされ
は決して僥倖の治愈を期すへからす都て重き挫
傷は壊疽に陥ぬり易く殊に其壊爛死廃せる部の
広きものは最も此症を免かれ難しと知るへし」頭
蓋。手足の腹背等の深き此創は屢膿瘍に変して或は一
傷囲の筋肉中に膿汁の濶く流注することあり殊に
神経質の感触鋭き虚弱の患者には必す其以前に
羅斯状の焮衝を起すこと多し
又肢体の重傷に於て皮膚には纔か小瘢を現はし
或は全くこれ無きものあり是類は即ち車に轢れ
馬に蹴れ蒸氣機に觸るゝ等に由りて受る創に多
し蓋し人身の皮膚は固有の弾力にて劇しき抵触
の力を避くれとも皮下の血脈。神経及筋骨等は此
弾力なきを以て自ら挫砕分裂せらるゝ者なり或
は又未勢の験丸斜めに腹部を擦過りて其震撞の
為に肝脾膓等の諸臓を傷るも聊か外皮の痰を受
さることあり個般の創は皆皮下に隠れて外より見
えされは最も危険に陥り易く甚しきは即死する
もあり或は焮衝の為に斃るゝもあるなり
右に舉る損傷の外尚捫挫。打撲と名くる者あり此
類は肢体の一部を捫挫せしも著しき組織の外傷
なく唯其部の細血脈。細神経及蜂質等のみを毀
へる者にて即頭を鞭撻すれは其部に腫脹を起し
眼を拳撃すれは白膜に赤筋を生するか如き是な
り是外傷には必す其部の囲りに紫黒色の班痕を
生し兼て傷處の麻痺。鈍痛を覚ゆるを常とす出血
の多少は其傷られし血脈の細大及組織の模様に
由りて一定ずへからす概ね重傷にあらされは著
しき出血を起すことなし然して其血の或は蜂竄組
即ち即ち即ち即ち即ちは
織内に滲出するもの
白膜に赤筋を起すか如し
例へは順生
あり或は其一処に蓄積凝滞するもの
一同難に於て子
頭及陰唇内に血の逼圧せ
られて蓄積するか如し
あり都て血の染出過多
なる者は必す大血脈の破れたる徴と看做して處
置すへし果して然る所の捫挫は屢〻一部の險悪全
身の生命にも係ることあれは宜しく注思すへし
(挫傷の治法〕は第一に出血を止め次に焮衝の増劇
を預防し随て其添出せし所の血を故に吸収せし
を預防し随て其滲出せし所の血を故
めむことを主とす
出血は静脈出血なれは抑圧。寒罨方を施し動脈出
血なれは速かに綁紮すへし若し又皮下の損傷に
於て其皮肉壊爛の為に出血脈の隠れたるものは
探索するも甚認め難きことあり然れとも余り猶豫
して時を移さは其焮衝腫起の増劇するに由りて
遂に手術を行ふへからさることあり故に其障礙多
くして創処の動脈を綁紮すること能はされは巳こと
無く傷處より差上際の動脈を截開きて綁紮すへ
し
挫傷は仮今第一の愈合機のみにて痘えさる者と
雖も亦接合の術を施すに害あるを見す故に挫傷
には一切接合の術を施すを可とす然れとも唯其
傷處を緊迫して腫脹を起さしめ瘡口を塞きて膿
汁の排洩を妨くること無きを専要とすへし又縫合
するにも可及的線を緩くして余り稠く縫ふこと勿
れ斯く注意して施さは決して害あることなし唯其
為に傷処を甚しく緊張せしめ或は異質の組織を
併せ縫ふ時は必す害あるを以て速かに処置を改
むへし絆瘡膏たりとも亦縫合と均しく用えすむ
はあらす唯其間隙を廣くして創口の排洩を妨さ
ることのみ注意すへし
或人は個般の瘡口を縫合するに預しめ先創縁を
剪除きて整列せしむへしと謂ひたれとも亦必す
しも然すへからす唯其一部の全く死廃するもの
或は甚しく壊爛粉蜜して縫合の術なきもののみ
剪除くへし都て瘡痍の所置は可及的。良能の主裁。
に委任し其生活を保つへき部はこれを助けて猥
りに刀剪を下すこと無きを旨とすへし
傷處を接合せし後は断えす其部に罨溺方を施す
へし尤これには水五分に亜爾箇児一分を加へた
る者或は鉛糖水。護鳥刺爾度水。等を撰用すへし又
軽き衝動薬の蒸漏方は其弛緩せる血脈を鼓舞し
て動もすれは是傷に発し易き羅斯を預防するの
功あることあり若し傷處の焮衝盛なる者は螻針を
貼し沃陳丁幾を用ゆへし尤此時は冷水及収歛性
の罨漏方よりも却て緩和琶布の功を奏することあ
り尚此治法に兼て傍ら膓胃の機能を整調せしむ
へし然れとも決して峻烈の下剤を与ふ可らす又
多量の瀉血を行ふへからす挫傷には屢諸般の分
泌機を増進することあり宜しく注思すへし其際に
も若し壊疽の證候を見さは速かに尋常の消焮治
法を改め更ふへし其痛楚及他の神経諸症を發す
る者は鎮痛及鎮痙の諸薬を与へてこれを寛解せ
しめ又肉牙の發生するを視は更に軟膏を貼して
寒罨。温淵の両方を停むへし是甲方は傷処を圧迫
せしめ乙方はこれを弛緩せしむるか為なり
組織中に添出せし血を吸収せしむるには亜爾尼
同断壱人同
加丁幾三弓を水一璧
に和して頻々に
弱に當る
服せしめ兼て鉛糖。護鳥刺爾度水。明礬水。及硝砂等
の収歛罨漏方を用ゆへし二三日の後は患処に羯
布羅精。楠砂揮発膏を頻々塗擦し或は其間に稀薄
沃陳丁幾を塗布し旁ら麺粉に食塩及他の軽き衝
動薬を加へ製したる琶布を貼すへし通常組織中
の血液滲出は右の方にて功を収むるに足るへし
然れとも其愈重き創は自ら時日を歴ることも愈久
しけれは宜しく症に随て所置すべし
又拌傷の部に血液の歯滞凝結して甚しく外皮の
腫脹するものは速かに其部を截開きて凝血を洩
し創口には圧定布を當て繃帶を施して尋常の消
焮治法を行ふへし
焮治法を行ふへし
挫傷は馬術の調煉。騎兵の戦争に於て間此傷を脛
に受ることあり是類は焮衝甚くして羅斯或は潰膿
に罹り易く殊に脛骨の震撞。骨膜の剥脱甚しき者
は苦悩堪へ難く荏苒痘ること遅し治法は猶ホ尋常の
法に同し唯其傷処を割開きて皮肉諸脈等の緊張
但し刀の深さ骨に達するもの猶
を解むとを要す
○鹿痘の手術に於るか如くすへし
配傷
都て大小砲磁の彈丸に中り傷られたる者を砲傷
と名つく是痍は部位。組織の要害とこれを受る体
質の景況とに由りて預しめ軽重。安危を定むへか
らす故に其軽傷は強ち医士の深き思慮を費さす
して癰る者あり其重傷は劇しき震撞。出血に由り
て即時に命を殞すものあり又爾後の焮衝及他の
継発症に由りて斃るゝ者あり或は其微偉にして
万一の生命を保ち得し者も創処の皮肉壊爛頑固
の潰膿及神経痛等に由りて終身不治の廃疾に罹
ること亦鮮なからす
近頃亜墨利幹州にて用ゆる椎実丸は底面方形に
して差凹み下際の囲りに三條の湟を鑿け其重さ
八錢あり此丸に一銭二分の火薬を装して射る時
会議は我曲尺の
一の距離に於て十一
ハ百八十会爾ハ
三尺三寸に丁る
厚さ二凡母半の板を各四兌の
を洞射く
枚の赤松板
母宛十一枚隔て置たる者の
者なり又九百會爾の距離に於て射れは此板を三
枚洞射きて次の一枚に弾入す其他英吉利。佛郎察。
魯西亜に於て従来種々無量の銃丸を發明せり就
中英吉利に於て千八百五十三年以還専ら用ゆる
所の椎実丸は長形にして底面微窪み其重さ十錢
餘佛郎察の雷銃丸は重さ十一錢餘魯西亜の銃丸
は十四錢餘あり
右の如く各國に撰用する所の椎實丸は大氣の抗
抵少なきを以て囲き銃丸よりも弾道正くして遠
間に達しこれを體内に弾入めは通常正直に貫透
り骨を打砕きて其碎片深く皮肉中に刺るなり故
に此弾の痍は動もすると壊疽症に陥ゐり易くし
て四肢の截断術を施すへき者多し又稚実丸は圓
き銃丸よりも体内に弾入て偏倚曲行すると少な
し即此弾にて傷られし瘡は入路の口と出路の口
と正直に相対するを常とすこれに由りて観れは
「キリム」の「ー他の戦にて雷銃を創用せし以後は砲傷に
大患多しと謂へるも全く縁由なきに非す尤雷銃
丸の射力は二人の胴体を打貫きて差後に隔て居
る人の体内に弾入すへきものなり或は又「レース
ウェーキホルステイン」紅の戰及魯西亜人「キリム」の
軍にて既に用えし如く二個の椎実丸を合装して
放つことあり是実に除凶懼るへきの創傷を起すも
のなり
黴弾には鋳鉄の重さ一地より七八十七迄の實丸
あり其最大なる者は軍艦。砲臺に用ひ其小き者は
野戰砲に用ゆ或は其空丸には葡萄弾。霰弾等あり
此弾は布嚢或は鉄葉盒に小弾を盈て造りたる者
にて何れも加農砲に用ゆ或は又鋳銭の空丸中に
非薬を填て作りたる者これを伴といふ此弾。敵に
中れは猶実丸に等しき功を奏するのみならす必
す炸裂して敵陣に一面の荒蕪を為すなり其他尚
此空丸中に小弾と炸薬を各一半宛填たる者あり
これを榴霰弾といふ又蚌の種類に属す
馬銃丸は近き距離にて射れは全く他の銃丸の功
に異ならす當今。世に用ゆる所の馬銃丸は通常椎
実形にして体内に弾入めは剛柔の部分ともに劇
しき害を為す者なり
霰丸たりとも亦囲塊て一擲に中れは固より実丸
の功に異ならす尤も散漫して中るときは其残多
くは危険ならす然れとも唯心。脳。脊髄等貴要の部
に弾入む者は暫時に命を殞し或は爾後の焮衝及
他の継発症にて斃るゝことあり「ラセシ」氏曽て霰丸
巴爾謨ハ我三
の射力を験みしことあり即チ二巴爾謨
寸三分に丁る
半の距離に於て屍體を射りしに全く純粹の瘡口
を穿たりこれを三巴爾謨より四巴爾謨半の際に
於て射れは其瘡口片々に分裂し又九巴爾謨の処
に於ては霰丸忽ち散漫して各個に弾入し以て数
点の瘡口を生するを見たり
或は爆冒の破裂に由りて不慮の痍を受ることあり
是観銃の狙撃に於て屢〻遇ふ所にして多くは其碎
片眼中に飛迸し以て角膜。虹彩膜等を傷る者なり
或は又空砲の紙栓にて間人を傷ることあり既に両
三年前一都下の劇場にて舟戦の伎を演せしに一
優者空砲の紙栓を顕額に弾入れて死したることあ
り又千八百三十六年の頃英國。龍嫩府の一處女空
砲の紙丸胸に中て即死せしことあり其他是類の砲
創は間ある事にて一々擧るに暇あらさるなり
放射の距離甚近き時は仮今空砲たりとも火薬の
力に由りて重傷を起すことあり即「ラセン」氏の試験
に依れは空砲を放つに大抵一己爾謨半迄の際に
ては其火薬の粒子未た減燼せすして悉く身に弾
入すれは猶霰丸の創に異なることなしと謂へり溺
餘近傍にある火薬の爆發に由りて挫傷裂傷等種一
々の重創を受け甚しきは終に命を殞すとの古来
其例し鮮なからす是傷は全く火薬の粒子。眼中顔
面頸囲及他の諸部に侵入して其部の組織を損ふ
ものなり
一砲傷は半は裂傷に類し半は挫傷に似たる者にて
弾丸入路の口は囲りの組織打傷られく挫碎し瘡
孔中は其組織自ら破裂して出路の口は恰も尖刀
にて割たる痕の如し蓋し弾丸の打撃に由りて皮
肉を傷る模様は「カルレス」氏の曽て首唱せし如く
三重の輪廓に擬らへて図説するを最も捷径とす
即第八圖の内廓は瘡孔の周匝にして是際の組織
は全く挫砕壓搾せられて殆むと死廃し或は必す
潰膿に傾き易き部なり故に唯第一の愈合機のみ
にては瘧え難き處とす内廓と中廓の間は其組織
の損傷前に比すれは少なくして唯焮衝に罹るへ
き処なり尤此焮衝とても多くは適度にして繊維
素の滲出。膿汁の化醸に止るものとす又此中廓よ
り外の組織は概ね健康無異にして患ひに罹ること
なく仮令其焮衝を起すも甚軽くして纔かゆひ液
を滲出するに過きす」右の性情は猶股の如き筋肉
厚き部の深創に於て其著しき證據を視るへし但
し此類の創は間其挫傷せる部の壊疽状に傾き易
すけれとも又幸ひに死肉の分界する時は良性の
膿を醸し肉牙を発生して其囲りは差硬結し周邉一
に腫起を残して此部より以外は尚平常の如きを
見るへし然れとも唯其出路の破裂せる部は間愈
合焮衝にて癒着するものなれは必すしも創の全
面に於て是状態を現はきゝるなり尤も此創孔中
の破裂せる分際は創傷の模様に由りて種々異な
れは固より預しめ論定すへからす」右の状態は唯
銃丸の傷に於てのみ見る所にて黴弾の創は復此
例にあらす即黴弾は甚しき荒蕪を起す者にて屡
丸の入路より出
其創の全径
路の際をいふ
殆んと死壊し且其死
内の分界する時も化膿の機遅慢にして膿汁。皮肉・
の際に流注し以て其回復を妨くること多し
〔弾丸打入の路〕は曲直横斜一様ならす或は其皮肉
中に留りて唯入路の一口を遺す者あり或は一部
を打貫きて入路と出路の両口を生する者あり或
は又一丸にて数処に創口を開く者あり例へは弾
丸脛骨の前面に中れは弾忽ち破砕両断して其砕
片各一口を穿ち以て迸出するか如し故に「ヂュビト
レン」氏は斯く破碎せる丸にて五處に創口を遺し
たる者を実験し「ラルレイ」氏は其六処に開く者を
見たりと謂へり或は又手関節の上際に中りたる
弾丸直下の腱膜に入らすして皮膚の下より転肘
内に迸出し是時傷者の臂を曲たるか為に再ひ上
膊内に入りて肩隅の處に迸出し以て上下に四處
の創口を生することあり尤是等の砲傷は甚稀に見
る所なれとも又両兵接戦の時に於て只管其創口
の数多きか為に他の伏兵に疑を生する等の事あ
れは医士の撿査にも曽て致意置くへきなり又弾
丸の此部と彼部を一頓に撃抜くことありて例へは
故に其創口股に
股と陽茎を一時に打貫くか如し
二個陽茎に二個
を生
地
是予か「ヒルギニー
の戰争中「アレキサンド
名
せり
リア」
地
名地
□□□□□□□□□□□□□
の病院にて親しく目撃せし所なり此他又
弾丸の両臀を打貫くことあり或は其一層を撃抜き
て一層の皮下に丸の留ることあり是亦「プェルロン」紐
の野戦に於て予か実験せし所なり
一口の創は大抵弾丸の皮肉中に留る者と知るへ
し然れとも又稀には其然らさることもありて例へ
は弾丸の胸筋中に入る者肋骨の弾力にて直に弾
戻することあるか如し或は膝関節を打碎かれて創
口の一つある者もこれを切断するに弾丸無きこと
あり或は弾丸又衣服の破片と俱に創内に打入て
これを抽取りし時已に俱に出たる者あり
実弾及焼弾の砕片等深く筋肉中に打入て久しく
隠匿せることあり即チ「ラルレイ」氏は一軍卒の股より
五地の弾を抽取り「ヘンネン」氏は同しく十二比の
丸を抜取りしことあり是皆創口の瑣小なるか為メに
最初醫士の撿査をも怠り且患者も格別其痛苦を
覚えさるに由りて時歴て後丸の所在を認め得し
ものなり
都て入路の口と出路の口とは形状の甚異なる者
にて入路の口は概ね其皮膚を打陥められて創縁。
内に巻縮し或は火薬の焦著したる弾の抵触に由
りて其圍りに藍黒色の班痕を貽すものなり又放
射の距離甚近き時は火薬の粒子も俱に皮膚に打
入して其組織を荒蕪すことあり出路の口は概ね破
裂の状を為して恰も刀割したる痕の如く其創縁。
外に翻る者なり或は又予か実験に依れは其出入
の両口ともに破裂の状を為せしことあれとも是類
は甚稀に見る所なり
入路の口と出路の口は大小自ら一様ならす団さ
弾の創は入路の口大きくして椎実丸の傷は出路
の口大なるを常とす予曽て千八百六十年の初秋
「プェルロン」の戦争中処々の病院にて数多の砲傷を
療せしに推実丸の創は必す出路の口大きくして
顕しく裂たるを見たり又瞰筒の破裂。鐵石の投擲
等に由りて受る傷は概ね必す裂傷と同し形状を
為す者なり
猛勢の弾丸、正直に体に入る時は皮膜。筋骨ともに
洞射き尚対側に向て正直に迸出すへし又未勢の
弾丸は體に中るも皮肉に入ること無く假令これに
いるも纔か腫膜。靭帶等に中れは其抗抵に由りて
丸路を他に転するものなり
弾丸の射勢を障ゆる者は地球の引力と大気の抗
抵となり故に暴風中に於て小銃を射るに其弾道
九百會爾の距離にては大約三會爾餘も斜めに倚
り此五分一距離の処にては一己爾謨半も傾むき
又半距離の処にては殆むと一会爾許も傾むくを
見るなり
弾丸の衣服。
銅鈕
胸甲
釼袴襪。冠履及佩帯の具等に触るゝ
時は其為に微勢を減せさるを得す即右の諸物或
は爾余の障礙に由りて弾丸の射勢を妨くるとき
は皮膚に中りて横に転滑り或は皮肉中に入るも
必す路を変へ他に転入して其景況の甚晰かなる
ものなり故に弾丸の額に中る者皮下に於て頭蓋
骨上を横に転滑り後頭骨上に至りて其処に留る
ことあり或は其弾殆むと頭益の囲りを一周して入
路の傍より出ることあり或は弾丸。胸殻の囲りに皮
下を抜通りて丸路に赤筋を露はすことあり或は脇
肋より臆中骨迄打貫くに其弾。肋膜と肺の間を潜
りて横膈膜上に留り或は胸殻の後に住り然して
聊かも肺に傷けさることあり或は腹部に弾入たる
丸腹筋の腕膜に中りて皮下より路を転へ背後に
至りて脊骨の傍に出ることあり或は其腹部に打入
て正直に背後より出たるも更に内臓を毀はさる
ことあり或は又剣鎗にて突貫たる腹部の傷も其内
臓には全く恙なきとあり然れとも此等の創傷は
固より甚稀なる所なり故に唯実地の経験に富る
老懐博涉の人ならては恐くは孰も其奇怪不思議
の念を免かれさるへし
「ヘルヒング」氏は小銃にて頚囲を打れたる者五個
月歴て後患者偶厠に上りて其丸の肛門より出た
るを目撃せしと謂へり蓋し此等の傷は胃管の潰
膿に由りて丸の胃中に下りたるものなるへし「ス
トローメル」氏も亦腹部に弾入れたる丸の時過て一
大便より出たる者ありと謂へり
人身各異の組織は弾丸の射勢を障ゆる力にも亦
各多少あり即剛骨の抗抵力は軟骨より強く軟骨
の抗抵力は腱より強く腱は腱膜より強く腱膜は
筋肉より強きなり又動脈管には非常の弾力あり
て其為に弾丸の害を避ること間あり皮膚の弾力も
亦未勢の弾をして輙すく路を転へしむる者なり
然れとも當今の師には専ら推実丸のみ用ゆるか
故に此丸路の転移以前に比すれは甚少なし即椎
実丸は遠間に於るも其勢ひ猛くして人身の諸質
に鑽入し易く囲丸は纔か抗抵すへき組織に觸れ
は忽ち其勢を減して弾戻し易けれはなり
例へは脛骨の前に
弾丸剛骨の角に中る時は
面に然るか如し
ハ其弾忽
ち両片に砕けて砕面宛かも刀にて割するか如し
既に三年前我軍の一将宮馬銃にて胸部を撃れし
者子をして瘡を療せしめたり即其弾鎖骨に中り
忽ち摧けて両片となり一片は體外に迸飛し一片
は頸の下際に留わしか二個月過て後漸く抽取る
ことを得たり其他弾の数片に碎けて他部に侵入し
或は其砕片各個の出路を取りて皮上に数処の瘡
口を貽すもの猶上條に論せし如くしかり
末勢の囲丸にて骨を打貫く時は其瘡口丸の囲り
よりも大きく又其射たる銃膽の口径よりも大な
ることあり」推実丸の瘡口は假令外見の小きも其為
に起す所の荒蕪は却て囲丸の傷より酷しき者な
り殊に推実丸は其骨質を打摧くに由りて概ね反
内経絡の部に重険の傷を起すこと多し」或は又骨の
砕けさる時も其劇しき震撞に由りて重傷を受る
ことあり即末勢の弾丸骨面に中れは其為に骨膜を
捫挫して骨質に劇しき震撞を起せり是症には必
す羅斯性の焮衝を起して虚耗性の化膿に傾むき
或は壊疽に陥ぬり甚しきは死する者なり
蹶弾の擦過傷には古来諸家の説あれとも皆区々
一定すへからす即其創の骨肉経絡は酷しく挫砕
壊爛するも却て皮膚の損傷少なき所以は弾の身
邉を擦過る時大氣の真空を生するに由りて其部
位の自ら膨脹破裂する者なりと謂ひ或は弾の飛
冲するに由りて大氣中に生する越歴氣流動の力
に係る者なりといひ或は又其水戰中に受るか如
きは概ね帆布。帆索等の破片弾と俱に飛来りて傷
るに由る者なりと謂へり是説孰れも未穏当なら
す予か、説に随はゝ唯弾の皮上に中る機会の模様
に係る者なるへし」抑猛勢の彈丸正直に体に中る
時は必す其部を正直に射洞き若し其弾の巨大な
れは必す一部を撃断すへし然れとも又弾の射勢
稍衰へたる時は必す瑣細の抗抵にも遮られて路
を転へ甚しきは其処に輾転するなり故に擦過傷
の骨肉経絡を劇しく壊爛するも却て皮膚の損傷
少なきは全く此部の弾力にて其害を避る者なる
べし
又水陸ともに両軍交戦の際猛勢の弾丸に擦過ら
れて衣服佩帯の具或は肢體の一部を打離さるゝ
こと屡あり葢し此等の事件に據りて視れは愈旧説
の臆断なることを證するに足るへし且車轢の挫傷
も亦これと同一般にして皆皮膚の弾力に係る者
なり然れとも当今用ゆる所の弾丸は悉く其椎実
形なるを以て此等の擦過傷も見ること甚稀なり是
即椎実丸は其遠間に於るも射抛の力強くして命
中を紛さくるに由るなり
戦争中。肢體に砲傷を受くへき部位の比例は只戰
地の模様に由りて預しめ論定すへからす就中曠
野の戦に於ては全身処として傷られさるはなし
予曽て七月廿一日。「ブュルロン」の戦争に於て実験せ
其数幾むと手
し四百人の傷者は概ね皆手足の創に
一疋相半ハセリ
にして頭胸。腹背の傷は甚稀に見たり又「シリフ」氏
曽て「キリム」
の野戦に於て目撃せしは頭部の傷
名地
者十分の一。胸部の傷者二十分の一。腹部の傷者四
十分の一にして就中其胸墻内に立つ者は頭胸肩。
臂の創に限れりと謂へり
砲傷の顆症は全身と局処に於て分ち或は其一部
に多きものと其体格に固有のものに於て別てり
而して此顕症は原創の景況と傷られし組織の軽
重に由り又各人の天稟異質に随て自ら異ならさ
るを得す
〔砲傷の痛]は甚隠微にして兵士の傷を被る時も少
焉は更に痛を覚えさること屡あり然れとも若し太
き神経の一部を毀ふものは其痛酸酷にして宛も一
刺が如く灼か如きを覚え必す傷処より以下の部
に於て多少の麻痺を起せり例へは股の重傷に於
て足神経を打破る者は必す膝より以下の知覚を
喪ひて其部の微冷を覚ゆるか如し」又一部の骨を
甚しく打碎かれ手足の関節を射洞かれ或は胸腹
の内臓を撃破らるゝ等の創は全身の震撞急に治
り難く假令其痛の最初は甚しからさるも漸く焮
衝の加るに随て益劇しきを覚ゆる者なれは宜し
く鎮痛薬を与へてこれを寛解せしむへし
畢竟砲傷は皆其挫傷なるを以て出血の量は創の
大小深浅に係さるなり即瘡口中の組織は悉く其
孔の周囲に圧搾せらるゝか為に血脈の損傷少な
き者は概ね出血の懼れあること鮮なし故に尋常の
傷には纔か点々滴出するのみにて冷水の寒罨方
を施さは必す止るものとす然れとも唯大動脈を
破らるゝ者は固より出血夥しきのみならす其為
忽ち危険に陥ぬりて医士も急に救ひ能はさること
多し尤個般の出血は只其動脉管の一部を傷りて
全く切断れさる者にのみ見る所なり是即ち脈管
の斯く切断れざるときは其傷口巻縮して血の流
出を障ゆること能はされはなり假令又一時氣力の
頓脱に由りて血の運行を遅滞せしむるも尚其血
の傷口に凝結するを得されは淋漓流出して止す
其際に昏眠を発して終に斃るゝ者なりしかし又
抗抵力の
動脉管の全く切断れたる者は却て即時
前を
起らきる
いゝ
の出血稀なり加之ならす恐くは其創口の死
肉未た分解せさる際は概ね出血することなかるへ
し
砲傷は通常其創口の両側にあるを以て出血の皮
内中に瀦留すること少なし然れとも唯筋肉の甚し
く分裂するものは其血體外に流れすして筋肉の
組織中に氾濫す又胸腹の傷は通常内部に出血し
て外より認め難けれは殊に危険の症多きなり
補
れ以下此号を記する條は皆「ストローメル」氏軍一
一層医法中の新説を撮摘して増補するに係る
胸部の重傷は甚危険にして其止血の所置も全
く他に反せり仍て今爰に大医「ヘンネン」氏の説
を挙て考証に備ふへし」其説に曰く胸膈の際は
銃瘡。金瘡とも何れの部に當りても先第一に此
部に湊る血の流通を戒却せんことを専要とす然
れとも原其血の減削すへき適宜の量は幾許に
して足れるか又幾時を経て後再ひ刺絡を施す
へきか其度は未たこれを商確すへからす唯其
臨機応変の斟酌にあるのみ」例へは爰に一人の
胸部に砲傷を受たる者あり其状鮮血淋漓創口
より流れ頻りに痘咳を發して沫血或は凝血を
雑へ略き呼吸困難にして殆むと喧息するに至
り脈疾弱にして且震ひ眼目滔没。鼻翅揺動し手
一足一
足厥冷して輾転煩躁す若し此等の患者医士の
救に遇されは必す心氣沮喪して速かに死に抵
るへし是時は医士其彈丸の探索創口の検査等
に寸刻も費すことなく径に患者を横臥せしめ肘
に刺絡を施して大孔より三四十弓の血を瀉す
へし然して後初て患者の衣服及止血の為に被
包する所の布片を徐々に除くへし若し此際に
於て患者頓脱の徴を現さは直に指を創内に入
れて弾丸及他の外物を搜り出すへし然るとき
は其為に氣力を興奮して別に薬石を用ゆるに
要なし
或は是時肋間動脈の破裂
したるを捜り得しことあり
次に創口を縫
合して柔軟の繃帯を施し右の如く虚置すれは
概ね其腫脹出血及化膿をも預しめ防くに足る
へし次に患者を近傍の寺院病院等大気の開豁
清涼なる処に移し随て諸症の寛解するものは
復他術を要せす若し其漸く危険に陥ゐる者は
仮令安臥せしむるも静息すること能はす再ひ出
血。略血。噎息及他の険症を発するなり然る時は
一尚再ひ刺絡を行ひ随て発すれは随て施し再三
刺絡を施して患者凡そ十二時間存命らへ得た
る者は初て止血の功を鳴すへし斯の若き症に
は又他の薬剤も偉功あるものなれとも未出血
停すして危険なる際は唯刺絡の外絶て他の策
なく抑此術にあらされは復万一の死を救ふこと
一能はさるなり
砲傷は〔爾後の出血を起し易きもの猶上に論せし
如く然り即大動脈の纜か損傷せる者壊疽性の焮
衝を起して其部の死肉将に分界せむとする時は一
仮今忽地ならさるも危険の出血を起すことあり或
は其動脉全く切断れて周匝の組織甚しく挫傷せ
る者は其血。脈管の傷口に凝滞して即時の出血を
梗塞れとも爾後抗抵機の起るに随て瀦留せし所
の血一頓に崩漏することあり或は又彈丸及他の外
物創内に蟠りて其為に出血を障えたるものこれ
を抽取るに随て一時に出血することあるなり
壊疽性の焮衝に由る出血は大抵十日より十五日
の際に於て起すを常とす然れとも原此出血の多
少は傷りし弾丸の大小と創囲の皮肉及血脈に受
る損傷の多少に開かる者なり或は又其症に由り
て二十日二十五日若くは三十日も過て此出血を
發することあり孰れにしても其危険を免かれさる
際は患者をして躬から篤く傷処に注意せしむへ
砲傷の全身に関かる顕症には甚意外の懸隔あり
て一時全身に受る震撞の劇易も決して創の軽重
に由さるなり故に血氣勇猛の士も聊かの創にて
昏倒を発すること間あり或は其一臂一脚を打碎か
れたる者も神思坦然として常の如く仮令其死に
抵る迄も同軍の士に遺言を為し或は勝算を告て
他の勇気を励すことあり斯の若きは全く其人の天
稟異質に係る所なれは医士の預後に於ても必す
著目せすむはあらす且又兵士の屢戦塲に臨みて
実地に慣たる者は自然其新募の兵よりも恐怖の
心少なきことは固より衆人の知る所なり
北
千八百五十七年「ロウシヒル」ト
一の戦争に於て我一
一名
「名
一名
将官敵と接戦の機会から騎銃にて左股の鼠蹊よ
り下三分一の処を射洞れしに甚しく皮肉と股静
脈を打破りて股骨悉く粉砕し其弾尚右股に入て
留れり是時出血は纔かなれとも忽ち顔色添潜手
足厥冷し脉微細にして大量の火酒を用えしも寸
効なく二時許を過て終に死したり是全く其震撞
の為に然る者なり。
「砲傷の預後」は種々にして一定すへからす唯一般
の景況に由りて察すへし乃ち砲傷の最軽き者は
第一の愈合機にて愈ることも間あれは大抵悪症を
發すること少なし又假令外見にては良性の創傷た
りとも俄かに神経症を発し或は其羅斯及他の悪
性焮衝に陥ゐることあり既に両三年前予一少年を
療せしことあり此痍は馬銃にて左臂を打れ其弾纜
か上膊骨に觸れて皮下に留りたり无其際。他の故
障ありて弾を抜取りしは患後幾て一時許も過た
り即これに尋常の治法を施せしか三十六時内に
於て忽ち羅斯を発し八日にして終に死したり或
は又其極めて重険の傷者益危篤に陥ゐりて更に
一織の活路なきものも尚僥倖にして治することあ
り」砲傷の預後は斯く其決し難きも亦傷処の広狭
併患の有無。健康の景況。大気の寒熱濕燥及所置の
一当否にも自ら関係せさるを得す
例ヘハ大動
砲傷は貴要の部
豚の如し
を破る者は即時に命
を殞し或は爾後の劇しき焮衝。壊疽及悪性の化膿
等に罹る者は早晩概ね死に抵り又手足の関節を
摧挫する者一部の骨を粉砕する者動脉静脉の大
支を破る者皮膚の剥脱甚しき者及一切此部の多
少野へる者は仮令其生命に係らさるとも必す一
部の危険に至るもの多し又足部の傷は仮令其景
況の同しきも必す手部より危険に陥ゐり易きを
常とす
又併患の有無は必す傷の経過に関からさるを得
す故に一部の浅瘡たりとも若し傷者の肺肝。胃膓
等に内部の併患ある時は苦悩殊に甚くして諸種
の険症を継発し易すし」患者の摂生も亦緊要の一
事にして若し其禁を犯して猥りに大酒を飲み或
は炎熱不良の大氣中に舎るときは其瘡必す悪性
に変すること多し
戦場にて受る創は平日の傷よりも危険多く殊に
其大気不潔泉人群居の病院にては最も然るもの
なり就裡陣中の病院にては自然看護攝生も自由
ならす医士の懇悉なる所置をも缺くこと多けれは
其為に不幸に陥ゐる者亦鮮からす
(砲傷の転時の震撞。出血。傷処の強直痙攣減
傷戒
風膿毒。羅斯。壊疽ク膿勞及労熱等に由りて死する者
あり或は其後患に由りて一部に終身不治の醜態
廃疾を貽し或は累月積年諸種の苦悩を遺して竟
の「ホストン」氏は
名地
に死に抵る者あり「ヱーリング」共
「名
二十年前嘗て砲傷を患ひしに爾後断えす體氣不
和を覚えて終に虚労に陥ゐりし者の左肺より當
時弾と俱に打入し布片を得たりと謂へり又旧耳
曼国の副将「モンシー」氏は曽て一回砲傷に罹りし
より四十年巳来悩みたることあり又弾丸の骨質中
に住りて爾際は格別の害なかりしも時歴て焮衝
化膿を起し終に腐骨疽と成り以て一部の切断術
を要すへきことあり或は又仮令其弾丸貴要の部に
留るも格別の害を為さゝることあり「ニューヨルク」の
「ヒルツ」氏は一軍卒の四十五年前嘗て砲傷を受し
已来更に健康の妨なかりし者の屍を解て見しに
其弾丸右肺中に留りて既に別個の膜を被り肋骨
の第四対と第五対の間にある癜痕より下二兄母
半許も深く潜れて在しとそ
砲傷の治法〗は其次第を五段に分てり〔其一〕は傷者
の気力を興奮して抗抵機を発揚せしむるに在り
〔其二は出血を止むるにあり〔其三〕は弾丸及他の外
物を抽取るに在り〔其四〕は摧折せる骨の砕片を除
くにあり〔其五〕は焮衝の増劇を預防するにあるな
り
第一の際兵士の際兵士の際兵士の創を被る時は隊伍
の士或は事慣たる所卒急にこれを扶けて他に舁
移し是時香眠を発する者は先下に臥せしめて頭
と体とを平坦に居き冷水を顔面に灑き或は傍よ
り囲扇にて急に涼風を煽起すへし尚其復せさる
者は鉄透揮発の薬を鼻中に挿入して嗅しむへし
若し又諸症の危険に逼るものは芥子泥を造りて
胸膈。脊骨及手足に貼し衝動薬の灌腸方を行ひ其
嚥下し得る者は少量の火酒葡萄酒或は硝砂加石
創滅新試
灰精等を内服せしむへし若し又内部の出血ある
ものは可及的注意して血行催進の術を耽閣へ以
て其血を傷口に凝結せしめ且其為に劇甚の焮衝
を起さしむること勿れ」爾余個般の傷者は親しき同
僚の士相集て懇切に苦痛を慰め且勇氣を励すを
第一の興奮薬とす
〔第二治法〗毛細脈及細脈の出血は大抵冷き大気に
露觸し冷水の寒罨方及搗碎せる氷片を貼し或は
収歛性の漑洗方を施せは必す止る者なり静脈血
の出血は概抑圧方にて歇るへし唯大動脈
例へハ
転肘骨
動脈輔腿骨
の出血は綁紮より外復他の策なきな
動脈の如し
り故に其動脈の劇しき出血は假令敵の放火中た
りとも先「トリ子ケット」にて傷の上際を縛り以て其
勢を禦くへし就中にも創口の広くして皮下に浅
き動脉は甚綁紮し易く若し其深き者は甚手術を
施し難し故に必す創口を截開きて脈管を剥露せ
さるを得す又其動脈の所在深くして周囲の部の
貴要なるに由り或は時歴て傷処の甚しく腫脹す
るに由りて其部に手術を施すへからさる者は己
こと無く猶動脈瘤の所置に傚ひて其動脉の幹を截
開きて綿紮すへし然れとも是時は唯一方の脈幹
のみを綁紮すれは其一方の血却流して再ひ出血
を起し易く仍て右等の障礙なけれは可及的急に
脈管を探索して傷口の両端を綁紮するに如かす
若し又否らすして傷處の焮衝を起すに至れは啻
に動脈の剥露し難きのみならす又其脈管の膜質
已に軟解して半は溶崩せるか為に甚線の撃り難
きものなり或は劇しき出血の漸次に止り又は其
一頓に歇む者も爾後抗抵力の起る時は脈管の傷
口自ら多きて再ひ危険の出血に陥ゐることあれは
決してこれを良能に任せ置くへからす故に医士
斯の如き傷に遇へは其最初為へき的の所置は悉
く為し盡して復後日の遺憾なからむことを要す
〔補〕都て創の出血は即時に於て余り急に止るは
却て宜しからす殊に綿撒絲を創内に填塞して
急に止る等は甚害あり是其為に瘡囲の皮肉中
に血の添出し易きか為なり故に多少の出血は
却て急に抑遏すへからす唯動脈出血の甚しき
者には巳ことなく「ズワム」
海綿の
類なり
小糸を著てこれ
を瘡内に填入するを妙とす然して此時は又假
りに傷處の全面を條布にて綁縛すへし是其一
部の減したる血容を全面に平均せしめ且其組
織を壓迫して血の滲出を防むか為なり或は又
個般の出血に於て綿撒緜を創内に填塞して「ト
リネケット」を緩く施す者あれとも是等は医士の
大なる謬りなり其故は假今これにて血の流出
は防き得るとも本の通流を禦き得されは却て
血の脈外滲出を恣にせしむれはなり尤此器の
使用には緩急の両用ありて創の再ひ出血する
者には必すこれを強く施し其出血劇くして他
術の尽たる時は堅く施すへし若し又傷處の摸
一様に由りて此器を施し難き者は手掌にて堅く
一脈上を抑圧し爾餘は可及的速かに綁紮方を施一
すへし
〔第三治法〕弾丸は體内に入て間偏倚曲行し或は瑣
小の抗抵に触るも其路を転へ易きもの猶前條に
載せし如く然り故に創内の弾を搜るには先傷處
の位置に注意して必す傷者を旧射られし時の身
構に居らしむるを一般の規則とす然れとも若し
傷處の模様に由りて斯くすること能はさる者は復
此例にあらす
〔補〕弾丸を探らむには先預しめ衣服を点撿して
丸の貫透りしや否を確定すへし若し果して其
一襦袢。襯袴等一重にても孔の穿さるは是丸の貫
透らさりし證據なれは固より探るに及はす都
て弾の所在を確かに認め得すして猥りに創を
探るは甚無益の損傷を増に足るへし」又創口の
向側に抜貫りたるや否をも仔細に撿査すへし
動もすれは向側の創口至て小さく意外の処に
貫透りて其為に撿査の届かさることあり仮今又
其向側に孔あるも弾の出路にあらすして砕骨
の迸出せし為に然ることあり是類は宜しく創口
の形状にて察すへし或は又創を探るにも骨の
尖起を見て丸と誤り認むること勿れ殊に其尖起
の挫傷して揺き易く成りたる者は最も誤り易
けれは宜しく注意すへし」或は局所の圧迫と異
常の痛に由りて傷者躬から彈の所在を訴ふる
ことあり又弾の深く皮肉中に入りしもの風氣の
鳴動
傷を受たる時直に
竄入せし気なり
に由りて其路を捜り得
ることあり或は又傷者自ら彈の已に出たるを告
ることあれとも其確證なけれは敢て信すへから
す
弾を探るには指を以て最上の消息子と為すへし
但し指は細長く且彎曲自在にして最便用なれは
猶胸患を耳にて捜り肛門子宮の病を指にて探る
と同一般の利益ある者なり故に創も可及的指に
て探るを妙とす然れとも若し其瘡深くして指の
届らさる時は巳ことなく金属の太き消息子を用ゆ
へし即其形は第九図及第十図に於て似すか如き
品を撰用すへし是品は長さ大抵二巴爾謨半より
三巴爾謨迄にて太さは蝋栓の如く銀造或は真鍮
通常用ゆる佩帯外科器中に
若し又此類一
製の者なり
の品は細くして不便なり、
の消息子なき時は女子の導尿管或は細長き鉗彈
子をも用ゆへし」仮令此器は何的の品を用ゆると
も唯医士の篤く注意してこれを瘡中に挿入する
を専要とす動もすれは蜂竄質質。筋肉或は神経。血脈
等の際に其尖の刺り易けれはなり尤消息子の彈
に触る時は手中に應して異常の抗抵を覺えこれ
を差抽刺して消息すれは其處に鈍濁の響を生す
然る時は尚其傷處を探り中りし機會の位置に居
かしめ次に此消息子に代て鉗弾子を挿入すへし
尤此器の両臂を可及的堅く合せて挿入し弾に触
れは随て両辟を抜き以てこれを鉗み引出すへし
是時動もすれは周囲の組織を併せ鉗みて俱に引
くの懼れあれは宜しく注意すへし或は又此手術
中旁ら醫士の手掌拇指或は雙指にて傷處の向側
を抑さは甚好き助けを得ることあり
鉗弾子には種々の製式あれとも就中鉄の質薄く
して力強く臂の長大抵一巴爾謨より短からさる
品を便用とす其製は尖円くして物を鉗み易すく
一回針めは堅く把攫して滑脱せしむることなく且
尖にて圍りの組織を併せ鈷むの恐れなきものを
第十
は本團丸を抽取るに
十四
図
一図、
貴しとす」古式の鉗弾子
は甚便利なりしも又当今の砲傷には其使用自ら
不便なり即椎実丸に用ゆる品は近頃「ニューヨルク」
の「チーマン」氏創めて之を意匠せり其形は鉄の質
細きも臂の長短くして撓屈せす尖鋭く差曲りて
第十
爾後又「ゲムリフ」氏に由りて
猶鼠牙に髣髴す
二図
此式を更に改めたり其形は一臂の端。両支に分れ
其形恰も底を刳
て相囲み
鑽たる匙の如し
其尖各曲りて穎れる爪
あり一臂は尋常の如く其端微彎りて同しく尖に
爪ある者にて此鉗子は囲九ノ椎実丸ともに用ゆへ
第十三図一但し此針
くして甚使用に便利の品なり
子の爪はこれを闔
れは互に嵌合して鈍圓となり以て使
用するにも組織を破るの患なきなり
又昨夏の頃
予か、式に従て「ゲムリフ」氏の造りたる者は臂の長
二巴爾謨許にて銕の質薄く其両端に孔を穿け内
面を差刳窪めて鋸歯を造り以て弾の滑脱を防く
ものなり
第十
四図
又創広くして弾の所在浅き時は鉗
石子鉗応子及第十五図の鉗子を用ゆることあり此
鉗子は「コルベ」氏の作にて銀管中に剛銭の臂を嵌
此鋪子
にて弾
めこれを螺旋にて自在に開闔する者なり
を針む状は別
図に詳なり
又第十五図の鉗子は方今英仏にて
専ら用ゆる所の品なり」其他厚き筋肉下の骨質中一
に嵌入せし所の物をは種々螺旋機の鑵を用ひて
祓取ることちり
或は弾丸體の一部を洞射きて向側の皮下に留り
之を按せは累々として所在の著しき者は必す其
向側を截開きて抽取るへし然る時は第一に傷處
の痛を起すこと少なく又医士の労をも省くに足る
へし
補」丸路の長き創は必す弾を向側より抜取るを
便利とす且予か経験に由りて片口の創より両
口の傷の産易きを視れは強ち丸路の長短に将
らす其模様に随ひ可及的向側より抽取るを宜
しとす
若又彈丸の所在。認め難きをも強てこれを出さむ
とせは無益に創口を損ひ且其危險の恐れある者
は己ことなく姑く放置て自然の潰膿排出を待へし
然れとも概ね其為に劇しき焮衝及化膿を起して
数多の組織を荒蕪するものなり故に通常弾丸は
必す可及的の手術を竭してこれを抽取さるを得
す又弾の永く體内に留るものは其表面自ら粗粒
に變し骨と相觸れて差扁くなることあり然る時は
殊に潰膿にて排出すること難く徒に刺衝の久しく
持続する者なり
關節の砲傷に於て其弾。關節の空竅中に留るもの
は速かに抜取るへし若し其骨質中に打入れたる
者は却て放置へししかる時は弾の表面に繊維素
を附著して新た小膜を造り以て格別の害をも為
さゝること多し然れとも又其模様に由りて一部の
廃疾にも拘はるへき劇甚の焮衝を免かれ難き者
は固より是例にあらす
抑鉛弾の如き間格別の害なきものも亦人身の無
事健康を保むには必すこれを抽取るへき所以の
理に比すれは他の外物は固よりこれを速かに除
去らさるを得す但し此外物は概ね彈丸と俱に身
に打入れて仮今幾月幾年を経るとも必す痛楚及
腫起の原因と成り易すし故に此外物は大小に拘
らす速かに抜取さるを得す例へは衣服。冠履。銅釼
及佩帯具の砕片等何的の部に侵入すとも必す其
右等の物は仮令
久しく体内に留
路を探索してこれを抜取るへし
るも決して鉛弾の如く新
或は又海陸の戦争中に
たに膜を造る者にあらす
於るか如く木石金属の大なる砕片迸飛し来りて。
身に深く刺り以て其厚き筋肉の下に蔽はれたる
時は唯碎片の抽取り難きのみならす其所在の甚
認め難き者なり
第四治法破砕せる骨の支離解脱して再ひ愈著す
へからさる者は速かに抜取るへし是多くは過饒
の膿を醸して荏苒創の愈著を妨け或は其為に諸
種の悪症を発することあり故にこれを疾く抜取れ
は一層傷者の患苦を減し随て回復の機も助るに
足るへし若し否らすして放置ときは屢險難の症
に陥ゐることあり必す手術を怠ること勿れ嘗て千八
百四十七年「メキシコ」の戦に於て合衆国の海軍都
督小銃にて股を打貫れしか予時過てこれを療せ
しなり其傷は皮肉経絡ともに甚しく壊爛して股
骨全く粉砕せり九個月過て創内より二十四個の
骨片を抜取りしに其大なる者は殆て四兌母許あ
り悉く傷骨の胼胝質中に隠れたれは手術を施す
にも甚困難なりしか幸にして意外に早く創口の
愈ゆるを得たり
補の弾丸を急に抽取るの甚利益あることは勿論な
れとも唯瘡口を截開きて骨の酔片を除くの利
益は予未た其疑団を免かれ難し例へは下顎骨
の酔片頭内に刺るものは速かにこれを抽取る
へし然れとも都て碎片の所在。淺きものは手術
を施すにも容易なれと若し其深き者は仮今瑣
細の碎片たりとも必す瘡中を深く捜らさるを
得す況てや大なる砕片は必す多少新たの傷を
造らされは抽取ること難し尤砕骨は其摧け離れ
たる細片よりも却て其尖りたる折端にて皮肉
の焮衝を起す者なり故に「パウデン」氏等は其傷
所を截開きて折骨の端を鋸断せしなれとも是
亦其利害何れか詳ならす仍て砲傷には可及的
無益の手術を避くるに如す即衆医の砲傷を療
するにも余り其思慮に過るは却て患者の不幸
とも成るへし大医「ヱスマル」氏の曽て創管卿瘡
の字義を能く解したる者は外科の妙手なりと
一調しも亦宜ならすや
又火薬の粒子皮膚に侵入する者は他の外物と俱
にこれを剛鉄針或は刀尖にて丁寧に悉く穿取る
へし若し否らされは傷所に籃黒色の班痕を生し
加之ならす異状の醜痴を遺すものなり仮令此手
術を施すに多少痛を起すとも必す其為に放置へ
からす街後局町の消焮法は冷水或は護鳥刺度水
にて功を収むるに足るへし
右の如く弾丸及他の外物を除去る法は陣中にて
も即時に施すへき専要の一術とす都て傷者は日
時を経るに随て自ら勇気の弭む者なれは若し此
術を脱るゝ時は概れ患者の恐怖を起して施し難
きこと多し故に可及的迅かに施すを法とす
〔補〕総て創傷は新しき的痛の少なき者なれは戦
場にても速かに物外除去の術を施すへし一旦
傷者を病院に輿送せし後は自然醫士の檢査を
も丁寧反覆すへきを以て却て創の為には宜し
からす故に予か説に従はゝ兵士の砲傷を受た
る者も専ら此手術を施したる後なしては決し
て戦場を離るへからす若し否らすして直にこ
れを病院に送らは其時醫士の指。消息子等を創
内に挿入して猥りに探るか為に其起す所の無
益の焮衝は尚瑣小の外物を除く利よりも却て
害多かるへし」
右の如く戦場にて即時に外物を除く後は随て
傷者を病院に輿送すへし」是時施す所の繃帯は
按るに精
濡せる圧定巾の間に薄き「キユッタペルカ」
製の油紙
を代用するも
を夾みこれを創上に当て疎纒帯
亦可ならんか
或は一對帯を緩く施して郷住すへし斯く圧定
巾の間に「キウタペルカ」を夾めは濡巾の水気蒸散
を防くに由りて創処の乾くことなく又繃布の汚
汁にて粘著するを禦けはこれを解にも甚解易
すく其他又綿撒絲絆瘡膏等を用ゆるよりも甚
一簡便なり〔頭部の傷〕は其周辺の毛髪を薙り創所
を浄刷して濡たる圧定巾を当て其上を布頭巾
或は罟頭巾にて包覆すへし面部の傷は此壓定
巾を繃帯にて綁住すへし就中両顎の傷は先打
砕かれたる歯牙を除き他の外物を捜り出し皮
肉の裂たる者は縫合して収領帯を施し以て此
部を維持すへし〔頸囲の傷〕は濡たる圧定巾を領
但し此繃帯の施一
巾或は一対帯にて郷留すへし
法拙なき時ハ患ハ
者の頭を一方に偏傾せしめて甚
〔鎖骨飯匙骨帽一
不自由なることあり注意すへし
骨の傷〗には必す懸肘帯にて其臂を維持し「肩膈
の傷にも亦此繃帯を施し尚「フラネル」の條布に
て此臂を胸膈上に縛著すへし〔転肘の傷〗にも亦
同様の所置を為すへし〔胸部の傷〕も其浅くして
一呼吸器に障りなきものは唯圧定巾及繃帯を施
すのみにて足るへし尤其傷の深き者は是例に
あらす〔腹部の傷〗に於て腸を排出したる時は唯
其破れさる者のみこれを故の位置に飲むへし
是れ腸の破綻は其腹内にあるよりも却て腹外
に排出したる者の愈え易けれはなり都て膓の
毀れたる部は腹筋にて牽縮せらるゝか為に却
て無瑕の部を外に排出すことあり然る時は速か
にこれを故に飲め其破綻せる者は綴皮縫合を
施し又其飲め難き者は創口を差截広けて飲む
へー」若し膓の破綻腸内にあれは糞汁を漏すに
由りて其刺衝殊に甚しく其為に患者を危険に
陥ゐらしむること多し但し此症は唯適宜の阿芙
蓉を内服せしめて痛を鎮め旁ら其糞汁の漏泄
を防くの外決して他の策なきなり故に是等の
創には即時に阿芙蓉を用ひて偉功を奏すること
あり又大腸は自ら其動揺の少なきを以て糞汁
の漏泄も微遅けれはこれはこれはこれ
か危険なること鮮なし」若し腸の故に歓り難きも
のは宜しく臘布にて上を覆ひ旁ら阿芙蓉を用
ひて其餘の排出を防くへし其他腹部の繃帯は
尋常の法に由りて所置すへし〔膀胱の傷は即時
に「ゴム」製の導尿管を施して尿の腹内氾濫を防
くへし〔服の傷〕は甚危険なる者なれは宜しく所
置に注意すへし先第一に傷處の震撞を起さゝ
る時速かに「コローロホリュム」を内服せしめて其
勢を制し随て急に繃帯を施すへし其法は脚を
伸して圧定巾と「キュツタヘルカ」を創上に当て繃布
にて之を膝膕まて綁縛し股の上下に厚紙の夾
副及壑巾を貼て條布にて綁住し布端を前にて
結紮し又股の内側と外側に長き木の夾副を当
布嚢に蕎穀或は粳殻
て左右に長き蒲団の
等を盛りて造る者の
を填め
此夾副の
其上を幅の広き繃布にて綁住すへし
の者は鼠蹊より蹠に至り外側の
長ハ内側
〔脛の傷〕は股の
一者は孟骨より蹠に至るを度とす
傷より危険なること少なし故に唯此夾副を貼て
て其間に蒲團を填め或は匣中に一雙の蒲團を
置て其間に安放すへし又此部の創には全節を
繃縛するに要なし却て其為に無益の腫脹を起
せはなり〔耐の傷〕は濡たる圧定巾を当てゝ患部
を大なる蒲團の上に安置し其他は適宜の繃帯
を施すへし
〔第五治法〗は継発の焮衝を預防するを主とす其法
は先第一に瘡口を接合すへし蓋し衆醫の所置を
見るに概ね綿撒絲及絆瘡膏等を用ひて創口を維
持するを常とす然れとも斯の如き所置は必す膿
汁の排泄を妨け且其為に傷所を種々の悪症に変
することあれは甚宜しからす故に創口は其儘に放
置き唯圧定巾及繃帯にて瘡面を接合し以て愈合
焮衝の機を助るに如す尤此繃帯は必す其部の一
端より遥か傷處の上際まて綁縛し尚其創口に當
る処は繃帯の間隙を残して膿汁排泄の路を妨く
ること勿れ大抵斯の若く繃帯を施せは自ら良能の
機力を助けて劇性の焮衝をも起すこと無るへし然
れとも唯此繃帯を施すには可及的篤く注意せん
ことを要す若し其餘り急くして傷處を窘迫する時
は忽ち焮衝腫起を増加して動もすれは其為に壊
疽症に陥ゐることあり葢し予か砲傷の所置に於る
経験の論は頗る偏僻に似たれとも唯其絆瘡膏を
取さるの説は固よりこれを他人に譲らす若し其
果して益ありと謂ふか如きは実に予か未た夢見
せさる所なり
四肢の深瘡に於て其厚き筋肉及腱膜の患に罹る
者には宜しく排膿帯を施して膿汁の注流を防き
以て其排洩を助くへし若し又焮衝の劇しきもの
は水五分に亜爾箇児一分を和して其編帯の上よ
り罨漏すへし」傷處を接合して恰好く安放せしむ
る後は時今の寒暖。患者の景況に由りて其嫌ひ無
きものには冷水の寒罨法を施すへし即ち時令暖
和にして患者強壮なれは却て温暖より寒冷に堪
へ易きを常とす是時は冷水を單用し或は阿芙蓉
鉛糖等を溶和するも亦可なり蓋し砲傷に冷水を
賞用せしことは既に第十七世の頃大医「ビオンド」氏
の発明より以還今世の初めに至りて欧羅巴州中
戦争の際「ケルン」氏「ラルレー」氏及他の諸賢益其偉
効を賛称せし所なり然れとも又強ち此傷には冷
水の悉く功ある者と看做すへからす故に其功無
き症には微温湯の蒸湯法及緩和琶布を施すへし
却て其痛を軟和し膿汁の排泄を催進するの功を
得ることあり
黴弾に中れる一部の劇しき挫傷には亜爾箇児水
方前に
見ゆ
にて洗滌し若し其膿汁の排泄宜しからさ
る者にはこれに蘓魯林曹達少許を加へ用ゆるを
局所の良方とす又傷処の神経全く機能を廃する
者には軽き衝動薬を施すへし若し否らされは其
為に過饒の化膿を起し或は壊疽に陥ゐるの懼あ
るなり又焮衝の羅斯性に変して痛強く傷処の緊
張。腫起甚しき者は速かに其部を截開き或は対側
孔を造るへし若し否らされは膿汁流注し蜂蜜質
を荒蕪して其為に険悪の症を発し或は壊疽に陥
ゐるへし近属迄は個般の傷は即時に瘡口を截廣
けて預め継発の悪症を防きつれとも目今は唯其
己こと無き機に臨されは刀を下すことなし
瘡口は創縁の死廢する者も大抵第四日或は第七
日の際には初めて肉牙を発生して瘡孔の全面も
亦意外に早く愈著することあり」又瘡孔の長きもの
は都て皮下の傷と同し景況にて愈るを常とす或
は創口の愈著甚遅き症には宜しく衝動性の注射
方を一晝夜間に二回宛施すへし然れとも是等の
所置は甚稀にある所なり」右の局処治法に兼て患一
者の精神と肢体を安静に保たしめ、又飲食桶生を
適宜にして旁ら誘導。鎮痘の内薬を用ひ以て痛と
痙攣を鎮め且可及的安眠を得せしむへし」砲傷の
患者は大抵多量の阿芙蓉に堪へ易きものなり然
れとも其軽症には必すしも之を用ゆへからす或
は又重傷の劇しき出血ありし者には決して峻下
剤及多量の吐酒石を与ふること勿れ動もすれは其
擾動の為に傷處の強直痙攣を起し易けれはなり」
砲傷は都て治療の際。絶えす膿汁の排泄に注目し
て可及的其為に起る所の険悪なる症を預防せむ
ことを要す又砲傷には刺絡を行ふこと稀なり唯其壮
年多血の人にのみ局處の瀉血を施すへし又此傷
者の攝生は通常其簡約を主として強ち禁忌を厳
しくすへからす唯體格壮実の者にのみこれを厳
しく禁すへし」若し又其震撞。血出及焮衝の為に甚
しく體力の疲弊する者は宜しく火酒。乳汁。規尼涅
及滋養の食物を与へて其気力を恢復すへし或は
又其羅斯及膿毒に傾く者は此治法の外尚鍼剤鉱
酸類を規尼涅或は火酒等に伍して之を用ゆへし
右の如く治療を施すにも病院中にて数多の傷者
を所置かふ時は必す醫士の部署を配りて其暇を
費すこと勿れ
〔補〕傷者を病院に移すには第一に其死期に逼る
者ほど院の下室に置へし都て傷者は其創の軽
重を分ちて区々に雑居せしむへし若し否らす
して其重創の者のみ一処に群居せしむる時は
其為に膿毒の傅染を醸し易きなり又同創の者
は必す隣床に杭を聯ねて居へからす若し其孰
れか不幸に陥ゐるを視れは必す心氣を阻喪し
易けれはなり」斯く傷者を病院に移せし後は該
りの医士其診察司と執刀司の職務を分ちて各
相当の所置をなし其切断すへき者は速かに手
術を施すへし其症候左の如し
一第一に手足を撃断されて骨摧け肉爛れたる所
の創口を補綴して単一と為すへき者或は手足
の損傷甚深くして血脈神経。筋骨及皮膚等の再
ひ用を為し難き者或は黴弾の擦過に由りて仮
一今皮膚の損傷は少なきも下の筋骨血脉及神経
を劇しく挫傷せる者は皆切断方を施すへし
〔其一手部の傷)都て手の痰は足の創より愈易す
く又右手は左手より治し易けれは通常切断方
を施すこと鮮なし故に唯其已ことなき重傷の者に
のみ此手術を要するなり
〔甲〕猛勢の磁弾にて一臂を撃断され或は其皮内
の奪離甚くして継合の術なき者は速かに切断
方を施すへし尤此等の創には先其胸腹の内臓
に損傷なきや否を篤と検察すへし果してこれ
ある者は必す死すへし又其損傷なくして未死
期に逼らさる者は假令後日の交感症に斃るゝ
とも決して手術を猶予すること勿れ可及的速か
にこれを行へは忽地に其苦悩を一掃すへし
〔乙〕蹶弾。上膊を擦過り皮肉を破裂して一臂の知
覚運動ともに全く喪ふ者はこれを切断すへし
是傷は必す手動脈の破るゝを以て転肘骨動脈
是症には間即時の
の搏動は已に絶たる者多し
出血なきも脉動の
絶たるは正しく其
破裂の證據なり
〔丙〕肘関節を打砕かれて手動脈の破れたる者
〔丁〕手掌。腕根を射洞かれて転肘骨動脈を傷るも
のは切断すへし尤其正直に射洞かれて動脉に
障りなきものは適宜の所置にて別に此手術を
要せす」其他小銃丸ノ霰彈等にて傷れる手部の痍
は大抵切断するに要なし
〔其二足部の傷〕足部の砲傷は甚危険にして手術
を要すへき者手の傷よりも多し
〔甲〕猛勢の磁弾。足の一部を裂断して其皮肉の脱
離甚しきもの或は皮下の筋骨甚しく挫傷せる
者は速かに切断すへし
〔乙〕足の動静二脈ともに打破られて即時の出血
なきも下部の血行全く絶たる者は
〔丙〕焼弾。股骨を打砕きて其砕骨の深く足動血脈
但し此
に刺るもの或は俱に足神経の傷るゝ者は
み傷るゝ者は假令其部に麻痺の
を遺すとも切断するに要なし
神経の
〔丁〕膝関節の靭帯を打貫れて其碎骨の深く皮肉
中に刺る者
〔戌)脛骨を打砕かれて其骨の砕骨深く刺る者は
正腿骨
一皆切断すへし然れとも唯小腿骨
輔腿骨
の孰れ
か一方の恙なき者は幸に其脚を存すへし
〔己〕跡根を撃洞れて甚しく其骨を挫砕せる者は
此手術を施すへし或は又啓弾の関節上を擦過
りて唯内外の孰れか一踝のみ碎くるものは幸
に其足を保つへし就中外踝の挫摧も亦其皮内
の脱離甚しき者は間鍬背足に成り易きを以て
多くはこれを切断すへし
中其症に随ひ戦場にて直に手術を施すもあり
に以上切断と施すへき傷の症候を擧れとも就
13日
を全く打挫きし者の外は復此手術に要なし。
3按
按
3接
すへし尤小銃丸の傷は唯附根関節或は骰子骨
〔庚〕黴弾にて附の前部を撃破られたる者は切断
又入院の後これを行ふもあるなり殊に其病院
遠隔の時に於ては概ね戦場の仮病院中にて施
す者と知るへし」其他切断の法は
尚後編に於て審かに載すへし
傷者入院の翌日は各患者を丁寧に診察して其
前日の所置届らさる者は宜しくこれを改むへ
し」第三日は症に随て刺絡を施すへきの期とす
蓋し砲傷に瀉血を行ふの趣旨は唯其血容を減
せむか為のみならす又これに由りて其組織を
収縮せしめんか為なり即其焮衝已に血液の添
出して組織の収縮力を失ふ者は決して刺絡の
功なきを以て知るへし又砲傷の挫傷せる組織
全く死壊して其為に悪性の膿を醸す者に刺絡
を施さは忽ち其腐敗物を血中に混して危険の
症を招くことあり故に一回此期を失なふ時は復
再ひ行ふこと能はす都て焮衝に刺絡を行ふには
其血未た患部に十分の聚積を起さす且未た其
湯乙液を添出せさる時に於てこれを施さは必
す百中の功ある者なり然して唯頭胸の傷のみ
最初の刺絡功ありし者は尚再ひこれを施すへ
し或は又手足の傷に於て刺絡の害を唱ふる者
あれとも予か数十年来の実験に依るに稀には
唯牙関緊急を起すことあれとも決して傷処に害
あるを見す」但し又頭胸と手足とは同し治すへ
き創にも乙は甲よりも其區域廣くして其同し
一化膿も亦危険に陥ゐること鮮なし
第三日或は第四日には概ね消焮治法を施すへ
し即尋常の寒罨方は始終其温暖に移り易きを
以て宜しく灌注方及氷嚢を用ゆへし」灌注方の
法は先幅の廣き蝋布を斜めに鋪き下に承盤を
接して其上に傷處を安放し小桶に冷水を盛り
て病床の高処に置き桶腹の小栓を抽は其水筧
中
概ね蘆管
を用ゆ
より滴流して傷処に灌注す尤此筧
は「ヱラスチカ」の細管に鉛錘を著け其端を桶中
に没めてこれより水を引かは左右上下とも意
の如く導注すへきを以て更に妙とす又是時は
必す傷処に綿撒総を貼てゝ施すへし若し否ら
すして暴はに水の触る時は甚刺衝を起し易き
なり
氷嚢は「ヱラスチカ」の袋中に氷片を盛りて傷処
に貼るなり」此法は固より水の嚢中より漏るゝ
ことなく又腐敗して臭気を醸すことなく殊に何れ
の部にも施し易すきを以て最も便用の方に属
す或は獣脾に漆を採て此袋に用ゆることあれと
も復「ヱラスチカ」の妙に及す」此方を施すには綿
一撤怒を傷處に貼てゝ必す知覚敏捷の部を押圧
し又凍冱せしむること勿れ且可及的注意して氷
片を創面に遍く当らしむへし動もすれは其融
たる水のみ一部に貼ることあるなり若し此術を
一施すに臨みて患者悪寒の徴あれは姑く耽閣へ
て其復するを竢へし右の如く施して大抵患者
の体気不和。腸胃汚物及寒冒等の妨無きものは
二三週若くは一月間もこれを持長すへし」或は
又寒罨法の持長は化膿の機を妨けて害ありと
謂へる者あれとも本来此方は唯愈創の為にし
て化膿の為にせされは決して是臆断の説に惑
ふこと勿れ予か実験の説に従へは若し此氷をし
て四時常に用を缺くことなからしめは其偉功遥
か瀉血の右に出て又必すしも別に瀉血を要せ
さるなり然れとも若し平日火薬庫の傍には必
す氷室を設け四時とも常に氷を貯へ置きてこ
れを弾薬の如く軍用に供するを得は兵士の幸
福豈亦大ならすや故に「ホルステイン」にては当
今官府の命に由りて都下の薬舗毎に皆氷室を
設たりとそ
陣中にて常に少年医の用ゆるには莫爾比涅を
按るに恐くは其震撞。出
以て無比の消焮薬とす
血。痛楚等の為に起る血に起る血に起る血に起る血に
脈系の痙攣を鎮むるに由り
て防焮の功を奏するもの欲
て防焮の功を奏するもの欲
尤も其確著の功を
収めむには少なくも一日の量半氏を用ゆへし
然れとも其期は未た顕しき焮衝を起さゝる時
に於て用ゆるを法とす若し其劇しき焮衝。腸胃
汚物の合併、服後舌上の乾燥する者及頭部の灼
熱する者には服用を禁すへし又薪汲水を單用
し或はこれに燐酸二滴の
一日
の量
を加へて用ゆるを
無比の消焮薬とす予は此溶液中に「フラムボー
セン
畢
汁を加へて飲料となしこれを重創の者
に與へしか遥か復植酸に勝るを見たり
砲傷の患者には時々瀉利塩芩麻林度及蓖麻油
等を用ひて腸胃の機能を整調すへし尤も塩類
の下劑は唯頭傷の者にのみ用ゆへし其他手足
の傷者等は頻々の上囲よりも却て四五日間に
一行の通利あるを佳とす」安質按尼剤は仮令生
酒石の焮衝に功ありとも予は餘りこれを用ひ
さるなり
右の如く焮衝の為には専ら寒罨方のみ用ゆと
雖も又軽傷の者は第四日第五日の後これを蒸
漏方に改め換ふへし尤陣中にては琶布の製作
不自由なれは十に八九は微温湯の蒸漏方にて
事足るへし然れとも唯手足の傷の痛劇しき者
或は皮下の骨傷には緩和琶布を施さゝるを得
す第五日第六日には創内に残る骨の碎片を抽
取るへし就中其最も深き者は尚暫く放置きて
創口の腫脹減するを待へし」又創口の排泄盛な
る際は其浄刷と院内の大氣とに著目し繃帯を
解く時も其悪汁に汚れたる綿撒熱。繃布は傍よ
り有益の小桶に入れて直にこれを戸外に遠く
へし殊に夜中は當直の少年醫をして絶えす院
内を巡視せしめ且大氣の更換に注意して時々
窓戸を披き以て新鮮の気を引しむへし又一週
の終りと二週の始めは当直の医士及看病者と
もに日夜患者の創処に注目して在むことを要す
是時は其死肉の将に離れむとするに由りて間
再度の出血を起し以て忽ち危険に陥ゐらしむ
ることあり
傷処の腫脹全く減する時は宜しく油布の繃帯
を施して其上に蒸湯方を施すへし其法は綿布
の細片を油に煎してこれを創上に貼て次に綿
圧定巾の間に「キユツ
一撮熱を当てゝ以前の如き繃帯一
タベルカ」を夾む
者を
を施すへし但し但し但し此油布の繃帯は創口の排
泄を妨けす大気の侵入を護るに最も便用の方
とす
瘢痕の成形を促すへき薬は創の経過中餘り早
く用ゆること勿れ大抵創孔の全く愈著するを待
て初めてこれを施すへし但し此方には消酸銀
四氏乃至八氏を水一等に溶和したる者を最上
とす或は其速功を得むか為にこれを創口に注
射するは宜しからす唯其痛なき瘡には「工スマ
小筒の底に「ヱラスケカ」管を接し
ル」氏の灌注器の
やて其端を栓塞し此器を創上に捧
けて其栓を抜は筒中の
にて創処に漑注するを
液を自在に漑注すへし
佳とす然れとも又其創口の全く痘さる者には
必す施すへからす動もすれは是薬汁の組織中
に浸入して刺衝を起し易すきなり
六十五六六六十五
砲傷の患者を清刷して愈創の機を助くるには
一局處浴或は全身浴を施すへし尤創の愈軽き者
には愈早く施し其愈重き者には愈晩く行ふを
法とす但し此浴方を行ふにも浴具を病床に運
ひて必す患者を遠隔の処に移すへからす」又微
温湯の全身浴は砲傷の瘢痕を形成するに其偉
効を賛稱せし者あり是予か経験に據ても実に
然る所なり予曽て「キール」他の陣中に於て新汲
の海水浴を試みしに旧創の治し難き者或は砕
骨の離れ難き者及筋肉の強直等には最其功あ
るを見たり」傷の症るに随て患部の動揺
此動揺
八自他
の二様ともに兼ね行ふを佳とす尤関
節の創等は篤く注意して行ふへし
も亦仮面
の愈著及筋の掣蹙等を預防するに甚功あり或
は又創孔の愈著せし後及瑣小の傷に於て動す
れは創縁の胼脳質に変して瘍状を為すことあり
是時は赤降汞の末を撒布し或は白蝋膏に和し
て貼すへし又膿汁の排洩漸く減して瘢痕を形
くる期は創上に油布と綿撒糸を當て「フラネル」
にて下を巻き其上に繃帯を施して尚瘡口の排
泄に注意すへし」都て砲傷には治愈の未期に至
る迄始終繃帯を濡潤して必す其乾けるものを
用ゆること勿れ
胸傷及骨傷の甚しき者は仮令其回復に趣く時
も可及的大気の鮮漁なる病室に居て滋味膏粱
の食物を禁し胸傷の者には専ら乳汁を与ふへ
し砲傷は都て死骨の分解甚難くして假令一個
月過るも其為に危険の恐ある者なれは尚是時
に至りて間切断の可否を思議することあり
或は又慢性の骨焮衝に於て焮熱疼痛及化膿荏
算退すして傷骨の囲りに過饒の肝脈質を形る
者あり予は此症を他の骨焮衝と一様に看做し
て沃陳加里を用ひしに甚效を得しことなり又尋
常の挫傷にも骨の焮衝久しく去さる者には沃
陳加里の功を奏することあり唯是症は概ね其痛
なきを以て砲傷の慢性骨焮衝と異なるのみ
五公斐蔵版
三木赤木
宮津
新見
創疾新説巻二終
高橋順順庵
仝校
菅広広斎
二十一
第九図
⑤
第十図
第
図ハ<
第十一図
同
第十二図
第十三図
倉城彩識
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
第十四図
□□□□□□□
第十五図
同
第十六図
ATITTOE
島村先生訳
創痍新説前編二巻既判
後編三巻
嗣刻
録附
繃帯図説全
江戸浅草茅町弐丁目
発兌書房須原屋伊八