西要抄

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證賢
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日本語
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サイヨウショウ
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東北大学
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サンブカナショウ
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2026-08-28T18:53:25.651810+00:00
狩り 西要抄 西要抄上 すきにしなか月の廿日あまりのこ ろ。いさゝかふなき願ありて。清涼寺 に亀蔵の事侍りき。みきりかすか にとき秋なれは。とりあつめた物のあは れ。たゝをしはかりなむ。紅葉いろふかし。 なにものか黄纐纈にそめにけむ。白高も かけふりたり。たれの人か赤栴壇をき さめりし。おりにしたかへは感思もきはま らす。事にふれては信心ももよをさ れて。七日とおもふもいとゝ程なく。こよひ はかりのなこりにしもなりにしかは。ことに心 をおさめて念誦なとするに。更たて夜 しつかにして。佛前に人まれなるほと。おい らかなるこゑして。南無恩徳広大尺迦 善逝とたうとく礼するをとすなり。けに に慈息は広大にいますと。いとゝきく心一 まても。もよをされわたりぬ。いかなる人 せうそこすれは。やゝしはしありてわたり。 経ぬ。対面たゝにはあらし。しかるへきついてに 又所得し侍りなむとうれしくて。やをらかた つかたによりゐつゝきけは。さるへきおと このこゑして。つねに禅房にもまうつへく おもひ給へなから。たやすからぬ身にて山 ふかき御すまゐ。はか〳〵とはえおもひたち かたく。日にそへては又公私にひまなくなり て。いとゝ法門の沙汰もうとく侍り。されはとて 出離の大志をわすれたるにはあらねとも。 つたなく浮世の小節にかゝはされたる。いかに きたなくをしはかり給らん。苛政は虎 よりもはけしといへは。つねにこそ御いためにも あつかりたきに。なとかうたてうまれにもたち いりたまはぬ。ゆきてはをしへぬ礼なれとも。 かゝるつみ人をはすゝみてすくふ儀も侍る らんかし。こよひの面会はことに本望なり いはけなきものとものあまたしたひまう ならんとゆかしきにとはかりありて。又尺迦 はこの方にして発遣すと。しのひつゝうち 誦せられたるこゑをき望は。こその秋 あけかたのきりのまよひに。ゆくゑゆかし くてやみにしひしりなりけり。そのゝちは たゝ浄土の再会をこそ期しつるに。 うれしくもこの尺迦の御まへにしもあひ見 つるかな。これやけに真如くらせぬちきり ならんと。ことにたのもしくおほゆ。こよひ 又いかていみしき事とも聴聞し侍らん 洪鐘ひゝくといへともたゝくをまりて かならすなる。あはれさかしくとひてし人 もあらは。いかにえもいわすこたへたまはむ。 さりとてさてはえあるましけれは。につかは しからすともてつからやたつねきこみん なとためらひゐたるほとに。あの御つほね よりとて。これにこそまうてこよりて侍れ 御所作のひまにたちいりたまへなんやと てきたるをも。つみかろめ侍りなんす。抑 弥陀の本願慈悲ひとしく摂し。衆生の 根機善悪おなしく婦すといふ事。たひと うけたまはりふりにき。それにつきて五逆 の悪人もみらはれす。一念の構名もすてう れすときくまては。仏願まことにさそ あるらんとうたかひなく。わか分よもはつ れしとたのもしき程に。信心具足して申 念仏こそ誰生はすれといふおり。さてはわか 身にはそれやいまたしからんとあやふまれ て。往生もなを一定ともおほみねは。心も いまひときはうきたちぬかあさましさに。 をして本願かあやまりなけれはとおもひ なせとも。それも安心のうへにこそと。たち かへり〳〵うゝれゐたるをは。いつかたにつき てか落居し侍るへきとゝへは 一望こたへていはく。いまうけたまはるやうは。 すてにおこりたる信心を。心からおれひ さまされたるにこそ。物のゆくゑしらぬとて いとうたてうも侍かなまつその機のわろ きをも行のすくなきをも。すてぬ本願 といふまてをきゝて。うたかはしからす たのもしくおほすらんをこそ。すなはち信 心とは半せ。そのほかにはさらになにをかも とめ給はん。いかに十悪五逆一念十念もと きけとも。さはいへとたはやすくへあらしをなと。 本願をかすめうたかひて。たうとくもえ おほえぬこそ。信心のなきにてはあれ。お 月かたこのころは念仏の法門みゝなれて あら〳〵しく願力をよもとまてうたかふ 人はよにまれなり。されはわりなき仏の 御慈悲なときくおりさすかたのもしと やうこかぬものやはある。それをやかて信 心とたにもしらましかは。誰生はかやすく もひかためなんを。このうへにいまひときは おこらんする事のやうにもてなやむ程に たま〳〵たのもしくおほえつか心をさへ思ひ さまして。はては信なきなけきをする。 これいさゝかのおもむきを。あしく心えた るゆへなるへし。よく思ひ給ひわくへき事 になんありといはなれはけにあしくこそ心 み侍りにけれ。日ころはたゝ仏願はうたか はしかえねとも。わか信心やいかにとおほえつ るより。決定往生の恩もをさへられて。心 やましりつるに。その本願のたのもしきか すなはち信心なるへからんには。さらになに をかわつらはむ。物のいはれしらぬは。けにや すかるへきみちにもとゝこほるならひな り。いかにたれ〳〵の御身にもかゝる事のみ おほかならん。これやめん〳〵におほつかなから む心のうち。申し給ひあへとすゝめられて。 いとさかしけなるおとこのこゑにて。本願の はれ三心のやうなとは。思ひやひかめたか らむはしらす。心はかりはおほつかなからぬ 所存にて。いまはさせるうたかひありとも おほえ侍らぬか。しかも又本願もいたく心 にもそます。誰主も決定ともおもはれ ぬは。いかなるゆへにかと案してゐるに。事の いはれを心えたれはうたかひははれぬ安心 かうるはしくもおこらねは。一定ともおほえぬ なめりとしりぬ。さうほとにあけくれこの 三心をのみもてさはくれとも。いまたその かひありて思ひみたる事も侍らぬか なけかしきといへは 望のいはく。これは初心の人のつねにある 事なり。おほかた本願のいはれをきゝ わくまてはやすけれとも。さてひしとおもひ つく事はかたきを。それはくは てしかはとうちやりて。まついとゝくわか 身に三心はくしたりやとあてかひてみる に。なしかはさうなくおこりもせん。さるほ とにてもとこたへてもおほみねは。とゝあ さましと。つきせぬ心あつかひにとゝこほ りあへる。これもとかしきわさなり。まつ 安心をすゝめんとおほさは。しみしたゝ三 心さたをさしをきて。うちかたふき阿弥 陰ほと重のたうとき事ともを思しり 給へ。さすと人木石にあらされはみな心あり。 けにまことしく世にこえたる悲願なとお もひなゝけむに。たれかはたのもしとおほ也 こらん。たのもしとたにも思ひしめゐれは 誰生はしつへくおほゆるものそ。さてのち 心をさくり見給へ。三心はいとよく具足し。 侍りなん。たとへはつかれたりしつはものゝ。梅 のすき事をきゝて喉うるひわたりし かことく。仏力のいみしき事をきくより。 決定往生の安心はすゝむものなり。されは かまへていくたひも。本願のたのもしかるへ きいはれを。きゝもし案しもしたまへ。 かくてやう〳〵なれもてゆかは。自然に心に そみ侍るへし。かの泰山のしたゝりの石を うかつは。しらしなから漸激のいたす所そか し。この願海のなみに信をすまさん事 も。又染習いかてかむなしからん。たゝ物は いさゝかなれとも。つねに功をつむか大切に 侍る也。すへて人の心のならひとして。なる れはその物になる事は。これのみにしも あらさめは 又女のこゑにて。往生は一期の大事にて 二たひしなをすへき事にもあらねは。 かまへてこひんきの聴聞をもすこさす 心にかけて思ひなれぬるしなしに。いまは たいしさりともと。たのもしくはおほえなから。 さすかはれ〳〵とはなくて。又いかなるおり やみんは。さてもいかゝときものつふるゝ。 事もあるは。なをうたかひののこりたる にや。露も心なをきそとこそ侍かなるに といへは 答ていはく。いまたしてみぬ注生の。いかゝ一 おほつかなからてもあらむ。又かまへてとお ほゆる事は。心ゆるひすあつかはしきまゝ に。ふとむねつふるゝ事も思ひいつる ならひなり。これはいさゝかもきもすき ておもほしとかむへからす。すへていかなる ものもすてこれすといふを本願にあ てゝあやふむこそうるしきうたかひ にては侍れ。佛のちかひをはひしとた のみなから。されは往生はしなんやと。わか 身のうへにあてかふおり。なをはれ〳〵と もおほえぬは。うたかひとまていはるへき 事にあらす。さしもかしこかりし智者 たにも。いはにも松はときゝて。おほつか なさをはるけ。むかへのはちすを見て こそこ。いふかしさをのこされけれは。ま してそのほかの人は。仏のつけをみえす 来迎の重しきをも見さらんほとは。あらに いふにもたらす。わつかにきゝてさてはと おもふ事を見て。けにもといはむやうに はいかゝなそらへ侍るへき 又おいらかなる女のこゑにて。としのつもる にしたかひては。さすか世のことはりもし りはてらるゝ重して。あたにはかなき ならひ。おほくきゝかさねぬるかすには たれとてももかましき身そかしとおもふ かちきなさに。なにうなく念仏は申よし なれとも。つや〳〵往生の心さしは。けに〳〵 しくも侍らす。たゝそこはかとなき事 のみ。心のうちにはひきはへて。極楽を思ふ 事はたまさかなり。されはとて人まねなと はおほみねと。かゝるはいかにもねかふ心の うけけれはこそとあさましくて。さりとも とおもふもおほけなきたのみにやと。つ ねばひけせられ侍といへは 答云。往生のみちはひけするこそさはち なれ。いさゝかも心さしのうすきにとゝこ ほる事はあるへくもなし。そこはかとな き心とは貪嗔なとの妄念にや。これ又凡 夫のくせにて。さらに思ひたゆむましく なん侍り。すへてなにかもさもあらはあ れ。男〳〵めにかくましき事なり。もと より願心の浅深妄念の多少によりて すゝみしりなくみちなみはこそたゝ本 原のちからにてする注生なれは。なしか 機分にわつらひ給はん。これかために善辱 大師ぴとつのたとへをもてくはしく安 心のふんさいを尺せられたり。それをた にもこまかにきこえなは。いふかしさはなこり なくはるけ給ひなん。そのおもむきは。 たこへは人ありてにしにむかひてゆく さきを見れは。 これはわれらか極楽をねかふにたとふ。 みなみにひの河もえ。 これはわれらか眩志の心にたとふ。 きたに水の河なかれたる。 これはわれらか貪欲の心にたとふ。 なかをわたりていはゝかのしろきみちあり これはわれらか貪嗔煩悩のひましなき なかに。まれ〳〵誰生をねかふ心のおこる にたとふ。 その二の河のおほききは。そこもなく又 ほとりもなし。 とんしん これはわれらか貪嗔のをひたしくふかく りはしきにたとふ。 このしろきみちのひろさは”わつかに 四五寸はかりなり これはわれらか誰わをねかふ心の。 よはくすくなきにたとふ あしふみたてんほとたにも。あるかなき かのみちなれは。たゝをしなへて河とのみ みえたり。つや〳〵わたりみつへき心ちも せす。いはんやなみはひまもなくたつ みちはいつとなくうつもれかちなり。いつく をかあしにもまかせん。いかてかわたらんと もおもひよりける。わたらはさためてしぬ へしと。おくしはてゝゐたれは。 これは貪嗔のふかきにくらふれは。願心 はさらにあるにもあらす。まして妄念の ひまなきにさまたけられて。往生の心一 さしたゆみかちなれは。いつかたにつけて もいとゝかなはしと。おそれひけせら るゝにたとふ。 ひんかしのきしに人のこゑありて。たゝ そのみちをわたりてゆけ。くるしくは あらしとすゝめ。 これは尺迦のおしへの誰生をすゝむか にたとふ にしのきしよりは又。たゝきたれ。われ よく汝をまほれは。みちほそくとも。水 火の河にはおとすましきそとよはふをと すなり これは孫後の本願ちからをく らか往生をたすけ給ふにたとふ。 これをきゝてさらはとおもひたつ。 みちはあやうけれともぴたすらこゝに やり。かしこによはふしるへはかりをた のみにて。二の河をかへりみすわたる ほとに。 これは心さしあさく貪嗔ふかけれは いかてか経生をとけんと。ふつに思ひ きりぬれとも。ひとへに尺学のおしへに たのみをかけ。弥陀の本願に身を まかせて。妄念のしりきをかへりみす。 一願心のよはきをあやふます。たゝ念 仏のあしをいそかすにたとふ。 けにもがひ〳〵しくまほり給けれは。こと なくてにしのきしにつきぬ。よろこ ひきはまりなし。 これは仏願のちから経主あやま らされは。極楽にうまれてたのしみ かきりなきにたとふ とこそ侍るめれ。このたとへの心は。我身 のほとをはかるには。妄念のこわさといひ 願心のよはさといひかた〳〵のそみたえ たれとも。かゝるをもすてぬ本願とき くたのもしさはかりにこそ。さてはと思ひさ ためたりとは見えたれ。さらにをのか心 さしのふ心をかへりみよとはおしへぬものを 人ことにまつわかやねをさはくり見て そのうへに本願紙はたのまんする事と 思ひあへる。これ二河の尺のおもむきには 事のほかにそむきたり。されはたゝこゝ ろさしのよはきにめをかけす。それにつ けてもいよ〳〵仏願をたのみ。妄念のした きをかへりみすちりみたれてもつねに 念仏すへきなり。われよく汝をまほか と侍るか心やすけれは。ねかふ心ちはさま てなくとも。たゝたのむ心こそすゝみた けれ。すてに十悪五逆の機。四五寸の心 さし一念十念の行。みな本願にのるに たれり。たれかさすかこのほとらひにかな はさらん。ゆめくわか身をふそくに思ひ て。往生のみちにとしこほるへからす 又いとつかき女のこゑにて問て云。つゐの みちは。人ことにのかれぬならひなれば。かな はさらん事を。いはりなくさのみなにか とはおにはねとも。いまはのきはのをし はかりは。よにたうとくすまはしきやうにて。 なとかしなてもする誰生ならぬと。あさはか なる事さへおもはるゝは。心さしもなく信 もおこらぬにてや侍るらむ。けに往生 かしたくてうたかひなからんに。なしかは かくもおほはんといへは 里のいはく。この事はひさしくいのちをを もくし。死ををそりならひぬかくせに て。いかに信ふかく心さしあらむ人も。きと はみおもひなをすましき心もちなり。又 はれにさはるましき本願なれば。なしかは 誰生をあやふまん。そのうへ重衆の来迎 ちかつかは。なにとせすともをのつからよろ つをわすれ侍りなむ。さりなからようゐ はつねにあるへき事そ。古人の。死はねふ るかことしといひし。いと心やすき思なし也。 又なまさかしけなる女のこゑにて。弥陀 のちかひは世にこえて。むらなき御慈 悲といへは。人により事ことにはよもとた のもしけれとも。女の身はことにいつゝのさはり とかやをもくて。いみしかるへき事にはみな きらひすてこれたりとき重は。まして 誰生なとたやすかるへしともおほはす。それ はたけにもと身にしられたる事おほし。 はかなくかたちをつくろふわさたにも。かゝ みの心はつかしきまてしみふかきかたは。 こよなくおのこゝよりもまさり侍るへし。 すへてかす〳〵思ひあつめたる。心のうちをき こえつくしたらは。たうとき御心ちには。いかゝ うとましくも思給へこれん。たゝなをも本 願。なとやけにおもほしはなださらんとは おもへとも。一定注生すへしとまてはおほ えすといへは 答て云。まことに五障の身はさらなる事 なれとも。又ゆめ〳〵九品のそみはひけし 給ふへきにあらす。そのゆへは。まつ第十八の 形に。十方衆生の至十念せんに。もし生せ すは正覚をとらしとたてられし。その十方 衆生の中には。男子も女人もみなもらと すをさめられたり。されは男子往生す へくは。女人又往生すへし。なしかおなし 苧原にのれる機の。ひとりはゆきひとりは まるいはれあらむ。そのうへ女性はさ はりをもけれは。しゐてもやなをうたか かむとて。又弟卅五の願に。とりわき女人を 往生せしめんとちかはれたり。つら〳〵これ をおもふにうちまかせては。みらひこそす てみれまし物を。男子とともに願せられたへ るたにもありかたきに。あまこへ女人をは。一 ねんころにふたゝひまてちかはれたる。御慈 悲のこまやかさこそ。まめやかによろこひも かなしみもあいなかはなれ。よくつこふか き身なれはこそ。通くは願せられたるらめ とおもふはかなしけれとも。又経生のやすき 事は本願に乗するゆへなれば。いくたひも ちかはれたこむこそよろこひにてはあるへ けれ。すてに男子は一の願に乗するを。女 人はかさねて二の形に乗しぬれば。他力いよ〳〵 つよくなりぬ。往生なにのあやふみかあらん。 中々女の身こそ。そねましきまてうらや ましけれ。さるを女人なれはとひけせんやは。 むけにさまあしきうたかひなるへし。たとひ 又おのつから信をとりたるよしなるもから くして。男子のつらにたのみをかけて。さし もとりわきいまひときはとたて給へるち かひまてをは。つや〳〵さらに思ひもしらす。 これうたてほいなき事になん侍り。かま へてをんな心へかたくなに。わか身ひと一の 本願そかしと思ひいれて。そはめも見す ふか〳〵とたのみたてまつるへきなり。さて も千劫万刧をふとも。あらためかたき女 の身の。わつかなる一会十念によりて。たや すく往生をとけんきさみ。すみやかに男 子とならん事。うれいくはくのよろこひ そや。まめやかに本願の世にこえたる程は これにてことにあらはれたり。さる御慈悲 は又なるゝむけてもと。いとゝ男子の往生 さへ。心やすくなそらへしられぬ 又男のこゑにて問て云。一念もまめやかに 不足なき事ならは。なしかはさのみ多念 にとなへよとはいはむ。これをおもふに。いか にも一念もといふは。たゝことはりはかりに て。けには多念には重みてすべき往生 なるにや 答ていはく。かやうにゆるくおしへ急にすゝ むる。みなそのいはれ侍り。たとへはき見臣 を愛するには仁をしてし。臣きみにつ かふるには忠をもてするかことく。仏はいつ くしみふかくませは。一念をもすてしとち かはれたり。機は忠あるへけれは多念にはけ めとすゝむかそかし。しかれともつみふかき 身のならひは。物うくてをこたるおりあり。 まきれてわするゝ時あり。わつかに心には はけまはやとおもむけたれとも。うかはし く身につとめうる事はかたし。されはお ちたちては。たゝ乃至十念の本願か。たの むところの詮句となりて。往生の入眼を はする物を。あやまりて一念はいはれはかりか た念やまことならむとの給ひつる。返く さかさまなるうたかひなり。たした とひはけみえすとも。かまへてとはなを 存すへきなりかくて機の多念にと思ふ いさし。仏の一念をもとおほしめす御心さし に相応しなは。感応水月にひとしく。往 生のみちそらに通し侍りなん。すてに つさしかなふ時は。胡越も昆第たりといへ は。なとか又心さしか子はんとき。浄穢も 親服たらさらん。いはんやつねにとなへん にいたりては。いよ〳〵むつひふかゝるへし。一 これによりて善導大師は。衆生ほと望 を念すれは。仏も衆生を念し給ふゆへに。 仏と衆生としたしき縁ありと尺し給へり いはゆる仏の衆生を念し給ふとは。このとなふ るこゑをきこしめすことに。かならすわか国に うまれよと還念し給ふなるへし。さしもをろ かなる凡真の思ひたにも。念力ははした なき物にてこそあなるに。まいて仏の御 心さし。せちにかまへてと念し給はむ。いかてか むなしく侍るへき。これをおもふに。いとゝ経 生はさうゐあらしと。たのもしくこそおほ ゆれ。かゝるにつけても。ます〳〵仏をとな へて。仏にもつねに念せられたてまつるへ し。そのうへ多念をはけむおりこそ。お のつから一念もむなしからすと思ふ信心 もおこれ。十声一声もといふにうちゆる ひて。あまり懈怠になりぬれは。はてはさ りとものたのみもなくなる事にて侍也 又問ていはく。一念といひ多念とすゝむる いはれ。あきらかにうけ給はりひらきぬ たゝしかく多念にはけまんと思はんは。さ て自力の心とはなり侍るましきにや 答云。自力他力の法門は。こゝろ龍樹の論 判よりいてゝ。ことは医師の尺義にあり。その おもむきをみるに。穢土にありなから不退 にいたかみちを自力といひ。浄土にゆきて 無生にかなふ門を他力となつけたり。その ほかにまたく望教に。念仏おほく事をし 自力ときらひたる文なし。しかるををろ かなる学者。経尺にもなき事をつく りいてゝ。みたりにをのか心をほしきまゝ にする。これさたのほかさらにもちゐるに たらす。詮するところ南無阿弥陀仏と となふかは。たすけ給へ阿弥隆ほと重といふ 義なれは。しは〳〵念するは。返く他力をか こつにてこそあれ。いか程となへはか自力には なり侍らむ。されは念仏するをは。おさなき 子のふかきあなにおちて。父母をさけひ よはふにたとへたり。それいかによはふとも。を のかこゑをちからにてはあからめや。たゝ ぎこみてたすけられん事をのみこそ おもふらめ。構名の用意これになそらへ てしりぬへし。いか程多念にはけむとも。 をのかちかゝにてはかなふましけれは。たゝ いくたひも仏にうれへきこえて。他力の誰 生をとけんとなり。いはんや又一声一 一念をよろしめて。無間無餘にもとなへはこそ。 自力の心ともきらはれめ。一念なを注 生に不足なし。まして多念つとめたらんは と思ては望まんは。いつくか他力の信心に そむくへき。されは黒谷の上人のゝ給ひけ るは。仏すてに一こゑもわか名をとなへん ものをは。かならすわか国に生せしめんと ちかはれぬれは。たとひたゝ一通の念仏 なかりにても。なを一度の注生をはとけぬへ しまして一期の念仏をとりあつめて。 なとか一度の往生をせさらんとこそ 侍りけれ 又おとこのこゑにて問ていはゝにさすか ひたすら念仏に信なき身とはおほえ ぬり。しかも本願のたうとき事なと の。いねにも思ひいてられぬは。いかゝし侍か へき 答云。まことに信心はたみすすゝむへき ものになん侍り。すへて野のかせきつな きかたく。家のいぬつねになれたれは悪 念はいとへともおこりやすく。善心はねか 入ともしりそきやすきゆへに。いかにもさて うちをかば。やかて思ひとをさかる事 侍るへし。しなかに信心をもよをす はしひとつにあらされとも。ことにたより をはたる縁に五あり。一には師にしたかひ てたうとき事をきく。二には重散に むかひてそのことはりをおもふ。三には心 あるともにそひて。つねに後世物かたり より。四にはこゑをたてゝしつかに念仏申 る。五にはわか身のありさまに心をかりて なすわさのみなつみなる事をおもひ しれは。かゝるをもすて給はぬふしきさよ と。いよ〳〵本願に倍心かすらむなり。これらは いつれもみな詮要なりといへとも。大かた行 は信によりて成し信は行によりてすゝむ 物なれば。かまへてたゝ念仏をもて心を もよをすへきなり。閑窓無為にして専心 に念仏するに。称名こゑすみぬれは。いかに も信心うこかすといふ事なし。信心 もよをされたちぬれは。又称名かへりて いさまし。さる程に信と行とたかひにた すげられて。往生の業はよ〳〵すゝむゆへに。 かた〳〵たくみなる故実にて侍るなり 西要抄下 又問云。名号は心に念するも聲にとな ふるも。みな本願にかなふへしや。その なうにはいつれかすくれて侍らん 答云。善導大師十声一声一念と 尺し給て。みな本願におさめられたり。 されは往生のためは。いつれもふそくあるへ からす。しかあれとも。おなしくは声にたてゝ となへんよろしかるへし。それにつきて 又わがみゝにきこゆるをは。軽声念仏と てかろきこゑといへり。なそらふるに。人の みゝにきこゆる程ならんは高齢念仏の 一ふんなるへし。これに十の徳ありととたり。 事なかけれはつふさにはきこみ侍らし。 その中にとりわき要なるは。まつ三途の 吉をやむといふ徳ことに大切なり。すへて 地獄餓鬼畜生は。みないつれもたとしへなき くるしみなるを。たゝめにみねはこそあれ。 しつかにおもひやれは身もいたき程な り。心あらん人いかてか悲心にたへん。い はんやそのなかの衆生いつれかわか父母 にあらさる。いまくるしみにかゝるむくひ なにゝかよりし。しかしなから子をおもふ みちよりこそ。なかきやみにもまよひ きぬらめ。これをおもふにいとゝなけかし。 いかてせめて肝時のくるしみをもたす けて。しはし心をもやすめさせたらはと おもへとも。男女非重無神通。不見輪 通難可報と。かなはぬちからのみかなしき に。いまこの念仏のこゑに。そのくるしみのや むらんこそなのめならすうれしけれ 次には心をして散せさらしむとて。高聲に に念仏すれは。妄念やみて心みたれぬ徳 あり。これによりて。遵式法師の念仏の 方法をしるすには。文字をたしかに となへて。高声にはやくよはへといへり。 又諸仏歓喜すといふ感ことにたうとし。 念仏をはよろつの仏みなこそりてほ いとし給ふゆへに。高聲に悔すれはいよ〳〵 きゝて歓喜し給ふ。されはとなふかた ひには。いまいかによろこひ給らせおもひ やられて。ことにたのもしくおほゆるなり。 このほか禅林又一の徳をくはへて。きく もの滅罪すと尺せり。これけにもましき 利益なるへし。さしも見る世には。つみふか けなるものゝみおほくて。あはれ悪道の すもりやとかはゆきに。さるはつや〳〵後世 とたにもいはねは。いかに罪業もいとゝ心の まゝにつもならん。せめてとなへてたにも きかせたらは。すこしのつみはきみなん かし。これはかりなき事にあらすや。その うへわか身のつみを感するに又重々の益 あり。囚悟法師の尺に。自然密二去音叩一一 悪則瘡累毎消滞情勢朗といへ 家心は。みつからこゑをあけてとなふか こゑ。かへりてわかみくにいれは。心たゝきう こかされてたうとしときく。きけはすな はち罪業もつねに滅し。むせひたか妄 念もうちはらはれてむねもあき心も ゆか〳〵となりぬと尺すかなり。けに梅名は さる物にてこそあめるを。これまてとなへ ゆみて。念仏のきひしりたる人はいとまれ なり。なによりも身つからとなへてみつから き主は。きくにもきみとなふかにもき えて。一こゑ仏を悔するに。二たひつみを 滅すらん巨益こそ。通々甘いせられてお ほゆれ。かゝるを蔭累つねにきゆとも かけるなり。まことに天下の至妙にあらす は。なに物る功これとひとしきあどむ。かく のことくの徳おほし。かまへてこゑにたてゝ 念仏し給へ。たゝし機嫌をはからひて。人 のそしりをははふくへく侍り 又さきのわかき女のこゑして問て云。世に したかひ人にましらふならひは。うちた 之念珠もつ事もかなはねは。かきりある 数返をはあしたの程に申はてゝ。そのゝち はわすれす心にかけんとおとふは。猶そら くなるにて侍るから 答云。よくそかくまてもおもひ給へらるゝ。 これはねんころなかにてこそ侍れ。おほ かた法然上人は。数返をはかまへて一日一夜 にしはつへき事そとの給ひけるとかや。 それも詮はつねに心をかけさせんため なれは。いまの用意さらにくるしく侍りま し。たゝし念珠は念仏のもよをしにて。もた すはいかにもわすみれやせむ。しかるに 飛錫禅師の尺をみれは。めつらしきすゝ こそ侍れ。世之人多以二水精木穂等一為二 数珠一吾則以二出入息一為二念珠一悔二佛名一 考随二之お息有大恃怙一安懼二一息不一 還属後世一者哉といへる。これいと人の思ひ よらぬ心はせなり。けに水精木櫃子なと は。手にもたるもわつらはし。いていかいきを すゝにして。南無阿弥陀仏とあみきゐた らん程に。たくみなる事こそあるまし けれ。ねふらは念仏をふくみていねなん す。さめは又つきてとなふへし。いきに つれたる念仏ならは。数返なしかわつ らはん。さてつゐにいきとゝまらは。念仏と ともにをはりなんす。けにもなにゝより てか後世にうつらん事をおそれん かた〳〵心やすきすくにこそあめれ。これ にてかまへて申ならふへきをや 又はしめさるへかしかりつるおとこのこゑに て問て云。凡本願といふかたは。なにゝも すきてたのもしく侍れとも。なとやらん 南無阿弥陀仏と申はかりは。余の行 よりもむけにかろ〳〵しくて。いく程の功徳 なるへしともおほえぬは。さためておもひ。 ひかめたらんが。くはしく恩誨をたれ給へ。 よろしく信心をまさん 答云。さらなり弥陀の名号をは無量寿 経には即是具足無上功徳とうきて。これ よりはさらにかみなしとほめ。悔讃浄土 経には無量無辺不可思議功徳とのへて。 はかりもなくほとりもなしといへり。いまこの 名号のひとり大善なる事は。もと法蔵 菩薩の五劫恩惟のたくみ。弥陀如来の本 願成就のちからよりおこりて。もはら福 薄因疎のともからを。大乗善根のさか ひにみちひかんための方便なり。されは まつ菩薩。かたしけなく罪悪の衆生に かはりて。身命をおします難行苦行 し。万善まとかにつとめもて。つゐに仏に なり給にしのち。あらゆる因行果徳を こと〳〵く名号の中におさめて。のこりな く衆生にゆつり給ぬ。これによりてその 名号をとなふれは。おさまるところの功 徳。みな衆生のくちのうちになかれいり て。さなからおのか物となるゆへに。念仏の行 者の功徳は。またく弥陀とひとしくして ことなる事なし。まことに仏かゝる はかりことをめくらし給はすは。いかてかをろ かなかわれら。たやすく大善をみんや。 抑仏果円満の御身には。万徳ひとつも かけず。これをつかねたる名号なれは。又 いはれの善根かおさまらさらむ。一々の諸 善は。たゝわつかにその中の小分にこそあ たりたれ。念仏にをよはん事。さらにはし たてゝもかなひかたし。しかれは名号は 一念なれとも。滅罪生善の功おほきに。諸 行はちからをつくせとも。除障獲益の用 すくなし。かなかゆへに阿弥陀経には。余行を は少善根とおとしめて。かの国にうまれる たしととき。名号をは大善根とほめて 往生する事やすしといへり。さるを人 ことに。無上の名号をはみたりにかろしめ。 無下の諸善をはかへりてをもくする。これ 通く僻桑なり。すてに土壌をつみて 泰山のたかき事をなせり。はやく磧礫 をすてゝ玉渕のふかきをうからへと思ふ さても無始よりこのかた。六賊のために かすめられて。一善をたにもたくはへさり つる身のいかてかゝる超世の本願にあひ て。大善の名号をきゝみつらん。これし かしなから大慈大悲の善巧。難醐難謝の 仏恩なりたとひほねをくたきてもたや すく報しつくさんや。すへからく身のた へん程となへてむくひたてまつるへし。それ 又いかにいみしくとも。たもちかたくはいかゝせ ましに。万善をつかねて六字につゝめたれ は。夕号は称しやすくて功徳ははかりかたし されは無上の宝聚もとめさかにおの つからみたり。往生の業因たやすくして又 たりぬ。あはれ雑善の功すくなくして。行し かたきにはにぬ物かな。をろかなるわれらか ためには。けにかくこそたくみ給ふへけれ。 これまても佛の御心さしのせめてなれは。 おほしのこす事もなきなりけりとかた しけなくこそ侍るを。となふるか事や すきによりて。おもひかろめんはむけに。 物の心をえぬなるへし。騏強か良楽にい はらしはこれしるとしらさるとなり。いつか やせたるを見て。いきをひの緩なるをい やしみし。凡愚の佳名をとなふるも又し るとしらさるとなり。なしかやすきにより て徳のひてたるをかろしめん。いとをろか なりやと。色代もなくはつかしめきこえ らる 又さきの老らかなりつる女のをとにて念 仏申ものをは。阿弥陀ほと望のひかりを もて。摂取してすて給はぬとかやうけ 給はる。その摂取不捨とはいかなるいはれ にてか侍る。物のひしとも心をみぬは。たう とさもいますこしをろそかにてといへは 誉云。この法門は経尺のなかにも。いみしき 事に申て侍り。まことによくきこしめ ししり給ふへし。まつ摂取不捨とは。阿弥陀 仏光明をもて。はるかに念仏のものを てこして。ひかりの中にをさめとりてす て給はすといふ事なり。ちかころある ひしりこれをいふかしき事にして。いかな るいひならんと仏にいのり申たりけれは ゆめのうちに本尊みてをのへて。かのひ しりのうてをとらへて。やくしはしもて椅 気不捨とはかゝるをいふなりと。しめされ たりけるとなんきゝつたへ侍る。それにて けにもよく心えこれたり。たとへは光明の みてをのへて。行者の身をかゝへもて なかくすて給はぬいはれなるへし。これも又 例の御慈悲のふかては。こまやかにこそお もひかまへられたれ。すてに平生のあひた は。本願をもてかならすうまれよとま ほり。陰終の時はみつからきたりてむかへ とり給ふうへは。かた〳〵誰生のみちのあやう かるへきにあらねともさすかなをこなた のきしにあるを。心やすからすと見給て。 はるかに光のなかにさしこめて。時のまも てをはなたしとし給ふなり。されは一たひ 光明のなかにおさめとられなんに。なかく すてらるゝ事はあるましけれは。往生 こそいとゝうちかためておほゆれ。いたわら む程は光のなかにこもりゐて。いのち をはらは花のうへにうつろひなんす。すへて 平生より臨終まて。心くるしかみぬみち つたひなり。されはかまへてつねに光明のな かにある心ちをして。ま心に念仏し給ひあへ。 又云。物はいか程もこまやかにこそきくへか りけれ。さしもあやうけなりつる。二河の たとへのおもひやりも。この不捨の光のたの もしさには。いまひときは人にてをひかれた らんやうにて。みちのほそさも。いとゝ心くる しからす思ひわたりぬ。されはこの光明 の。かくまてたうとき事にて侍りけるよ。 なを又いかなる利益かとおくゆかしくおほ ゆるは。三垢消滅すとかやいふなる事を。 ぢとみゝにふれてしやうにてといへは 雪のいはく。さる事侍り。この橋乳の光 明にてらさるゝものは。貪嗔痴の三垢こ 〳〵く消滅すととけり。そのいはれは。たとへ は日のひかりは。火の玉よりいてたれは物を かはかし。月のひかりは水の玉よりいてたれは。 物をうるほす用あるかことく。いまこの光 明は佛の無貪無嗔無癡の三善根より いてたれは。衆生の貪欲嗔恚愚癡の三 毒をけす徳あり。又いかにふる雪も。かた への空に日かけたえぬ程は。かつうちきえ てつもりかねたるやうに。妄念しは〳〵しけ けれとも。ひかり不断にてらせは。罪障かつ〳〵 涙して。さらにしはしもつもる事なし。お ほよそこれらの利益は。みな阿弥陀仏造 悪の凡夫をあはれみて。そのつみを滅して たまはんかために。願をたて行をおこし てかゝる不思議の者をえ給へるゆへなり。 しかるにこの光明は。たゝし念仏のものを のみ摂取すといへは。われらすてに名を となふ。ひかりさためててらすらん。名を となへて無上の功徳をうれは。浄土の業 ふそくあるへからす。ひかりにぶれて無量の 罪悪を滅すれば。往生のみちなにのさはり かあらん。まことに光明名号のちからに あからすは。いかてか滅罪生善のすみやか なる事をえん。これひとへに大慈慇懃 の方便他力本願の御恩なり。しつかに おもへはよろこひにたへたり。なとか身をく たきでもむくひん心なきや 又おとこのこゑにて云。すへて人の臨終ほ こに。物の大事なるこそ侍らね。あるひは 正念もなくなりて一向にほれたるもあ り。あるひは苦痛にせめられて万事を わすれたるもあり。かゝるありさまともを見 れは。すゝろに身のうへもおそろしくて。も 最後の十念もかなはてはしをはらはいかゝ せん。聖衆の来迎もあらましはかりにて ややみなんと。きもつふらはしく侍といへは 答云。この御不審は陰終の早晩により て引接の有無はさたまらんする事と 思ひ給へるよな。いまた来迎の本願を たてこれしおもむきをこそ心え給はさり けれ。おほかた臨終正念を。をのかちから にてはけみえんすることゝおもへらんは。 さためて相遣し侍りなん。なへて人の 最後には病苦のかなしきのみならす。死 苦さへくはゝせてたへかたきうへに。つくり をきたる罪業はめん〳〵にきをひおこ りて。まつわか報をむくへとせめ。われまつ 悪道へひかんとあらそふ。四魔又ちからを おこして。かまへて三途におとさんとさまた くれは。一かたならぬさはりに。病者正念を うしなひていよ〳〵慈倒をます。この時 にあたりてはいかにすとも。つや〳〵をのか 心もをよふましく。人のちからもかなふまし き事なり。しかあれとも阿弥陀ほとり。 かゝるおもふしを御覧したすけんとて。 かならす聖衆どゝもに来迎せんとち かはれもしゆへに。臨終期いたれは。かひ〳〵しく 誓約時をたかへすそのまへに現し。慈悲を もてくはへたすこわ給へは。心さらにみたるゝ 事なく仏の威力つよけれは罪業の ちからにもあらそひかちて四魔さかひ をへたて三途とほそをとつる物なり。さ れは臨終正念は。ひとへに重衆の来迎の ちかゝにより。聖衆来逃は又平生の念 仏の功にあらんする事と心をみて。いか 程もたゝいまの念仏を。くり返しかならず むかへ給へと。仏にきこえをき給へ。さしも おほなくたてられたる本願なれは。あひな たのみなる事はよも侍らし。この世の事 も一大事とおもふはさこそあれまこと しき人にかねてよくやくそくしをきあれ は。おもひまうけてその期は中〳〵心やす きやうに。病者はいかに苦痛もあり狂 乱るせよ。仏はたしかに。日ころのちさり をおほしわするましけれは。もとのちかひ あやまらす。さためて来迎し給ふへ し。来迎ちかつかはおのつからくるしみも かろみ心もたゝしくなりて。十念のそみ のことく。往生さうゐあるへからす。されは 仏願あやまりなからんに。なしかをはり をあやふまん。これそけにつかのうへにも かけぬへきと。心やすけにの給ひしらす 又男のこゑして。わか身は性かたくなに心 をろかにして物のいはれなとこまやかに きゝわくまても侍らねは本願いし〳〵の 事も。なをたちいりたるやうにて。中〳〵 是非にまよひぬへく侍り。いかてやす〳〵 と心えられて。往生のたのもしかりぬへき事 ひとはしうけ給はりとゝめて。屋分の安心 にし侍らんといへは 誉云。その事に侍り。さやうの人の御ためは。 たゝ念仏申せは往生すゝは。まさしく仏 のゝ給ひたる御ことはなれはつゆもそらこ とあるましき事そといふいはれか。心也 やすくて。しかも思ひえつへきことはり にては侍るなり。このひとはしをたにも ひしと信し給ひたらは。よろつのうたかひも はれて。往生て安心さらにふかく侍らし といはるれは 又云。まことにこれは。われらかふんにかな ひたる心もちにて侍り。たゝしもとより 仏の妄語し給ふへしとは存せねとも。な を経生は一定ともおほえ侍らぬといへは 答云なとやさはおとひ給ふ仏語かまこ となるへからんには。往生の不定なるへき いひはなき物を。盲者は明眼のみちひく にしたかふかことく。凡夫はまよひふかく して因果のことはりにくらけれはたゝさ これる仏の御をしへによりてこそ。つみつく れは地獄におつなといふことはりをも信し あひたるに。いかなれば念仏申て往生すこ とかれたるのみか。とりわきさしもうたかは しき事にては侍るらん。されは楊楼か ことはに。夫造悪業二入苦趣一。念二弥陀生二 極楽一。二者皆仏言也。世人憂レ堕二地獄 而疑二往生者。不二亦感哉といへり。けにこの いはれをもて。かまへて決定とおもひふせ 給へいはんや弥陀の本願をときあら はす事は。たゝ尺尊ひとりの御ことはに あらす十方恒沙の諸仏もこと〳〵く證 人にたちて。いま念仏すれは往生すといふ 事は。まことなりうたかふへからすと。同時に したをのへて。同音に證誠し給ひきさし もいつはりおほき人のことはたにも。あまた になれはたのまるゝ事にてこそあれ。まし て仏語虚妄ならねは。たとひ尺迦一仏 の説ならんすら。かろしむへきにあらさる を。諸仏さへ又一同にまことのことはをのへ 給けん。その会の儀式みる心ちして。身の けもよたちたうとくこそおほゆれ。これ をきゝなから。いかゝさはいさゝかの不審を ものこし侍るへきばやく三千の長舌に 誰生のうたかひをすてゝ。六字の口稱に 決定の信をおこし給へどのうへかやうに 諸仏こそりて。一大事とし給ふ悔名 なれは。往生に他力をくはへらるゝ事。又 ひとつにあらす。いはゆる弥陀の本願のち からかしこよりよはひてむかへ。尺迦の動鑚 のちからこくよりいたしたてゝつかはし。諸仏 の證誠のちから方々よりまほりてをくる。 この三のちからをあはせて。念仏のひとつを たすくるゆへに。極楽にうまるゝ事もとも やすし。されは孤山の尺に。如レ度大海二既得二 巨航一仍有二良導一。如以二便風一必能速到二 彼岸一也といへり。たまへは弥陀本願をた てゝ。しつめるをすくふはふねのことし。尺迦 慈悲をもて。まよへるをみちひきやるは わたしもりにおなし。諸仏護念して浄土 へをくりとつくるは。風のたよりをえたかに にたり。いまは南無阿弥陀仏のこゑを ほにあけて。生死のうみをわたらん事 さらに逗留あるへからす。かくのことく諸仏 はかこひあはせてよろつの事そなはり たか縁にあひなから。なをあやふみて。我 土にとゝまらんはけにたれかとかそ。さらに うらみところこそ侍るましけれせめても つみのくるをしにそ。しゐてもうたかはし かならん。いとおしくこそと。かなしみくとき給ふ 又おとこのこゑして問て云。疑心あるは辺 地にうまかとかやうけたまはる。いかなる 事にて侍るそや 答云。辺地は極楽のうち九品のほかの かたほとりなり。かしこにうまるゝ心もちは。 かゝる寵業ふかき身は。をのつからつみ にてきたふほと功徳をも。おほくつとめ みたらんはさらなり。わつかなか一念十念 にて注生せん事。いかに本願いこしくと もよくかたがるへしと。仏力をかろしめ一 うたかつるもの。この辺地にうまれて。五百 歳はなのなかにはらまれて。見仏閣法 せすとみえたり。おほよそ事のいはれは。 仏智不恩議にして。ちいさき功徳を ○大になし。をもさ悪業をもかろく なす功あれは。重罪を一念に滅して。誰 生を九品にとけん事。あやしむへきに あらす。されは古人の。まよへる物うたかひ をそのあひたにをく。まつ仏よくしたま はさらんやといつかもこのゆへなり。さるをを ろかなる心にて。仏力をかろしめたてまつる とかつねにすきたり。むくひさためて悪 道にこそあるへきに。大悲世にこえて。なを 一島地まてもゆからん。仏恩まめやか にありかたし。ましてひたすら本願を信 したらん身のなに事にもらされたてま つりなんと。いとゝたの事くおほえてと はかれは とふていはくけまんこく 又問云。塀場国とかやいふなかは。いつこに侍ば 所に。いかなるものゝかしこへはうまるゝにかあらん 答言。懈慢は安養のほか娑婆にちかき 国なり。これは誰重をせはやなとはいひな から心ちもよは〳〵とうきて。佛につきても 行につきても。ひしとひとかたに思ひか ためたるけもなさものか。まつこゝまて うまれきて。のちそのいのちをはれば。かな らす極楽へつたふ所なり。これ程なを さりなる心さしたにも。なをかくちか〳〵と ゆきよりぬるそに。さすかかまへてととり たてねかひもとめん人の。なしかはとゝこほり うち侍らんと思へは。いとゝすゝましくてとあれは 又問て云。いさゝか極楽に心をかけ。念仏を くちにふるゝよしなるものゝ。安心もかり起行 もこけすして。なを遍地懈慢にもをよはず こんは。つゐにさてなにとなり侍らんするそや 夢云。さるものはその係念をはたしとけて せんと。ちかはれたる本願かあれは。たとひつき の生にこそかなはすとも。結縁くちすし て。三生にはかならず注生し侍るへし。 つら〳〵事の心をおもふに。弥陀ものを あはれむ心さしねんころにませは。本願 人をすくふ心はせ又こまやかなり。機の 上下をもらうしと。くらゐに九品をわか たれたるのみならす仏智をうたかふ とかありて。九品に入かたきものをは。辺地 をまうけてむかへ。極楽の執心よはくし て。島地まてもをよはぬものをは。懈慢を かまへて。みちひかる。かやうにもるゝものあ らせしとすきまなき御方便なれば。さす かなにとすとも。このうちにはつるゝ事は あるましきを。なを又それまてもかなは まして。手穢土にとゝまか衆生もあら は。とくしてほいをとけさせんとまてちかは れたり。御慈悲のいたりのふかさこそ。なの めならすおほゆれ。しかあれは。いまの世に念 仏中あひたる人は。みないつかたにつたて も。流転ひさしかるましき機となりぬる なり。さしも生死はる〳〵として。出離いつ としもなかりし身の。わつかに一念の縁を きさして。三生にのそみをとけんすら。な を過分の利益なるへきに。あまさへ来 迎を終焉のゆふへにまち。往生を順次 のあしたに期する。これ曠切の大慶中〳〵 ふにもすきたり。まことに願力のふしき にあらすはいかてかかゝるおほけなきたの みをかけんけに思ひと望は悲喜もこ も〳〵になかれいひつくれは仏恩もいまさ らにこそおほゆれ。たゝしかゝる悲願にあま へて。心さしゆるゝかにはあるへからす。くらゐ を上品にあてかひて。心行を急に十人。 きものなり かやうに群疑はしおほくして。数篇事 をつくさかゝ程に。東窓あかつきいたり て。西戸に月のこれり。さらはやう〳〵ま かりいて侍りなんいと興にのりぬへきみち なしといはなれは。面々にけにもさのみはい かゝと。なこりおほくてやみぬ凡はからざる 両度間法の得益は。これしかしなから二 尊遺迎の方便なりすてに化風あふ きてたひかさなりぬ。いまは蒙霧はれ 秩父第二番本尊 大棚山 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ 行基菩薩御作 真福寺 てのこる事なし。されともうとむこくは。 日にそへて老の心ほれもてゆけは。いかに も程へんまゝにわすられぬへし。これかた めに又かの数篇をあつめてこの両物に しるすよろしく。先聞にそへて。つおしに 一具とせむとなり