陣中手療治

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(米國)スコット撰, 隈川宗悦纂輯
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(米國)スコット撰, 隈川宗悦纂輯
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隈川氏
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ジンチュウテリョウジ
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東北大学
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2026-08-28T18:53:25.651810+00:00
荷物 第22222 2280 陣中手療治全 慶応四年戊辰初秋 陣中手療治 隈川氏蔵版 叙員数 近畿兵事連起、当其開炮轟撃、飛刃肉耀、兵士 或被刀剣受炮疾、縦有医在陣営、倉卒之際、或不 暇受其医療、且到辺境隔絶之地、風土不慣于体、水主 不宜于口、終為之因、而罹其疾苦者、亦不尠矣、或又遇 猛獣毒蛇之害、郡招医士、寒郷僻也、寔乏其人、不啻 之医士、併薬財亦然、当是時、非兵士自会其療法 貯其薬財、豈得能免斯危急哉、頃日隈川子行、刀来 余暇、平米国時暁氏所著兵学款府、又他医法等、牟一 慶応四年戊辰初秋 陣中手療治 隈川氏蔵版 叙属額 近畿兵事連起、当其開炮轟撃、飛刃肉耀、兵士 或被刀剃受炮疾、従有医在陣営、倉卒之際、或不 暇受其医療、且到辺境隔絶之地、風土不慣于体、水主 不宜于口、終為之因、而罹其疾苦者、亦不尠矣、或又遇 猛獣毒蛇之害、郡招医士、寒郷僻地、寔之其人、不啻 之医士、併薬財亦然、当是時、非兵士自会其療法 貯其薬財、豈得能免斯危急哉、頃日隈川子行、刀来 余暇、平米国時咳氏所著兵学款府、又他医治一年一 述纂輯、終以成冊は、題曰陣中手応治、言約而事一 備一、可謂陣中楚璞矣、蓋一隈川氏之意、欲使彼兵士 歩卒、免是等之疾苦也、兵士若携之軍行、則当其 危急、稗益豈尠、書雖細小、功難尽述焉、予喜御書成 也、不顧浅陋、聊弁一言於巻首、慶応四年、歳次 戊辰戊辰、夏六月中浣之日、 南総楓山逸史内田東撰并書洞図 陣中手療治 凡例三則 豊井恭四郎副会を 以て購入せる弥聞博士 一世ニ翻訳ノ医書尠ナカラスト雖トモ専ラ医生 ノ為メニ譯スルモノニテ其書或ハ病因ノ議論 ヲ先ニシテ治術ヲ後ニシテ治術ヲ後ニシ或ハ巻帙法澣ニシ テ急卒ノ際捜索ニ便ナラス畢竟袖珍ノ書ニ 非レハ行軍ニ携フ可ラス希レニ或ハ簡便ナ ル良本アルモ都テ医師ノ用ニ供スルモノニ シテ医師常ニ此書ヲ読ミ其法ニ従テ其薬剤ヲ 陣中手疣治 處シ其患者ヲ診シテ其術ヲ施スノミ然ルニ 戦争ノ間事急ニ起リ医師ニ託セントスルモ其 暇アラス或ハ田野ノ間ニテ医師ニ乏シク是 等ノ患常ニ多ケレハ士将歩卒タリトモ畧ス医 法ノ一班ヲ知リ医ノ手ヲ假ラスシテ躬カラ 急ヲ救フノ術ナカル可ラス是レ余ガ浅劣ヲ顧 ミス此小冊子ヲ譯シテ廣ク濟生ノ旨ヲ達セ ントスル微意ナリ 一此書翻訳ノ体裁ヲ飾ラス専ラ違意ヲ主トシ 譯字ノ傍ニモ尚ホホ仮名ヲ附タルハ唯兵士ノ解 シ易カランヲ欲スルノミニテ是亦濟生ヲ顧 ヲノ微意ナリ看官深クコレヲ咎ル勿レ 一書中宇行ヲ一段下タシタル處ハ他ノ原書ヨ リ抄訳シ或ハ余カ実験ノ薬法等ヲ記セルモ ノナリ者者宜シク本文ト相混スル勿レ 慶應四年戊辰夏六月隈川宗悦誌 陣中手療治 書中目録 一薬法 一蒸風呂四四 一膏薬五 一沸騰散同一沸騰散 一病気の総論全 一療治の法六 一水に溺れたる人の療治七 一蛇に咬れたる人の療法今 おくへし先つ陣中のことなれば其分量を丸さ 筆の軸ほとにて長さ六分位と定るときは急場 の時に小銃の火薬袋を振ひ出しこの袋に一杯 粉薬を量て服用すればいつれの薬にても丁度 程よき分量なるへし 右粉薬の外に用意すべき品々左の如しこれ亦 調へざるへからす 溜飲を押る薬にて菓 一「ハルトボルン・ロゼンジ」 子同やうに用るもの 一巻木綿 一万能膏 一硝酸銀毒薬なり用心すべし これは旧き疵口などを擦り又は蛇に咬れ たるときに用ゆ 一外科鍼 これは腫物を切るに用ゆ常に油を引き手 持よくすべし 一毛抜 これは刺を抜くに用ゆ但し極上の品を撰 陣中手療治 薬法 原本千八百六十四年亜米利加 スコット氏著兵学韻府 隈川宗悦纂輯 出陣の士には大抵医術を心得たるものなけれ は用心薬を多分に貯ふるも不用なるべしされ とも左の粉薬は必ず用意はべき品なり医師に 頼て調ふべし 一緩吐剤かろく吐く薬 品類多けれども吐根を最も佳とす 一刺土川つよく吐く薬 一劇吐剤 一硫酸亜鉛(即ち皓礬なり)を良とす此薬は多く く中毒の吐剤に用ゆ かろく下て薬 一緩下剤 適宜き便通を得んには臨臥に極上の大黄 一片を噛研て飲み且ッ心下より小腹に掛 け撫さすれは翌朝快通を得べし又蓖麻子 油を貯ふること叶はゝ之を用ゆるを最も良 とす 一峻下剤つよく下す薬 蒟刺巴・栴那芦茶等なり 下利の後に精分を付る薬 一下利後の強壮剤下利の後に精分を付る薬 一下利後の衰弱を強壮むる者にて乃ち格倫 僕健広亜那幾那等これなり 一机那塩解熱剤 熱をさまてくすり 一発汗剤 汗を出たす薬 「ドーフルス」散を良とす其方吐根一厘六毛阿芙 蓉一厘六毛鞘王塩一分六ツン砂糖少シ 右調合一包となし臨臥に頓服す○但し此 分量は一服の分量なれは此割合にて余分 に調合して貯ふべし 右七種の薬は医師の指図に任せてこれを買求 め且其薬に葛粉とか砂糖とか毒にもならす薬 にもならぬ品を調合して七種の内いつれの薬 を用るとも同じ分量にて功能あるようになし 一骨を折たる人の療治八 一銃創急場の療治附陣中釣台の事全 一甚しき出血の療治十二 一足豆の療治十三 三高山を越すときの心得十四 一雪積たる山を通行する時の心得十五 一疥癬の療治十六 一歯の用心同 一渇たる人の療治全 車中手寮台 一飢たる人の療治十七 仝 一毒虫に刺れたるときの成治全 一中毒の療治 一火傷の療治十八 一蜜を防ぐ法十九 一虱をふせく法 附録 一虎狼痢の療治 二十五 一同く預防法 目録終 ふべし 一縫針 疵口を縫ふに用ゆ 一蝋引の糸 疵口をぬ山に用ゆ 薬品を入るには亜鉛にて引出の箱を作り外箱 の裏に「フラネル」の切を貼りて引出の滑らぬ様 になし引出の中に夫々の薬をいれ裏表に薬の 名を記しおくべし○硫酸亜鉛を水に觧せは眼 病の妙薬なり其加減はこれを甞て強く渋るほ とにてよろし 陣中に吐剤の用意なくば小銃一発夾けの火薬 を微温湯にて飲むべし或は石鹸の汁をのむも よし又或は喉を掻きまはすもよし 蒸風呂 蒸風呂は諸国にて各々其法あれとも魯西亜に て用る法は最も便利よし大なる石を焼て天幕 の真巾に置き少しづゝこれに水を濯けば幕の 中は一面の湯氣満て甚た暖なり又一、法木を焚 て其熱灰をかきひろげ其上に木葉を敷て病人 へ「ブランケット」などを着せ木葉の上に平臥せし めて熱灰に水を振かくれば其湯氣にて総身暖 なるへし寒気に悩みし人なとには最も手軽に てよき療治なり 膏薬 白蝋膏は油と蝋と当分に合せたるものなり又 は豚の脂と蝋とにてもよし 沸騰散 炭酸曹達十二匁酒石酸曹達二十四匁を合せて 十二包となし酒石酸七匁を又十二包に分けて この両様を合せ用るなり 病気の総論 兵士の煩ふ病氣は熱病下利「レウマチック」 風毒 レの煮 等 業 最も多し或は又陣中に眼病の流行することも あり都て病人は少しも快方に赴くときは速に 其居処を易へ或は平地より山の上に移すべし ふしぎに全快するものなり悪症の下痢を煩ふ 者は全快に及ぶまて何等の物も食ふべからす 唯食事のときに米の粥を少しづと用ゆべし若 し心得違にて蒸餅肉類なと食ふときは僅斗に ても直に再発し病症旧に復りて危きことあり 療治の法 近来の発明にて熱病の流行する土地を通行す るときは「キニー子」を用ひて伝染を防ぐべしそ の功能はなはだ妙なり ○ 河の畔の低き地面に住居する人は河に臨める 山の梵に住居する人よりも流行病の毒に感ず ること少し低き土地は風の吹通しよきゆへさ もあることなり右の次第に付時候あしきとき に野陣をはかには心得あるべし決して沼地の 風下に陣どるべからす陣中にねるとききたな き手拭を面の辺につくねおき火に近く臥すべし からす手拭より悪気蒸発りて其人を害するも のなり毎朝あまり早く起べからに朝起すれは 無益に空腹となり其身も難渋なれは陣中に朝 起は却てよろしからず 水に溺れたる人の療治 水に溺れていまた死せざる人はまづこれに煖 めたる衣服をきせて床に寝せ温石を其足に当 べし枕は少し高き方宜し人体の温気は最も功 能多し故に肥大たる人二人にて病人の左右に 臥し自然にこれを煖むべし都て荒々しき取扱 は禁制なり 蛇に咬れたる人の療治 蛇に咬れたるときは其疵口の上の方を紐にて 固く縛りて疵口を吸ひ急に硝酸銀を附へし若 硝酸銀の持合なくは小刀にて癰口の肉を切取 り銕の込矢を通紅に焼て其端にて毒に中たる 肉を焼切るべし元来動脈は表に顕はれずして 深き処にあるゆへ凡指の先にて撮むへき程の 肉は切取り焼切るとも動脈に疵付の心配なし 其次に心得へきことは無理にも非道にもして 病人の昏睡を防き止むべし蛇毒に中れる人は 大抵昏睡して斃るゝ者おほし 骨を折たる人の療治 手足の骨を折るとも肉を損することなけれは 命に別条なしされとも骨の折れ口にて肉を突 破るときは其害恐るべし或は膿をもち或は其 場所麻痺して遂には一命も危きことあり故に 陣中にて骨を折たるものあらば決してこれを 荒〻しく取扱ふべかして僅の疵にても大患に 陥るべし成るべきことならば怪我人を其侭其 場所におきて天幕を其所に移し少も其体を動 かさゞるやりにすへし足の骨を折とらば其足 を上にして下の足と重ね是と足との間に藁を はさみ手拭にて固く足を縛り、一足の如くして これを動かす時は肉を破ること少し 一銃創急場の療治附陣中釣台の事 銃創急場の療治 戦争の際に兵士銃劍を破くるときは急にこれ を扶けて戦場より少し隔たりたるところの土 手或は小山等の蔭にて鋭丸の飛来らさる処に うつし一先手当を施すべし此時昏盲昏睡等を 生ずるものは先下に臥せしめて頭と体とを平 らに居き冷水を顔面に注きかけ或は傍より囲 扇にて急に冷風を煽起こすべし○剣処は唯冷 水を注きて丁寧に洗ひ衣服の片切或は塵埃又 は火薬の粒子なと創口に残らさるやう仔細に 検査て洗ひ脱し其処に白木綿を創の大さに応 して剣の三四倍大く三重或は四重に折りこれ を冷水にて濡し創口にあて其上をゆるく繃帯 すべしもし白木綿の持合なき時は手拭又は鉢 巻の切にて巻き其上より時々冷水を注きかけ 始終乾かすべからす又寒中なと氷西洋には暑 中も水を貯へおけり)の有時なれば白木綿にて 袋を作りこれに氷片を入れ創処に当つればも つとも奇効ありへ膏薬又は其他の疵薬等一切貼 べからす)内服は先つモルヒ子丸一粒ツゝ一日に 三度用ゆへし若し疼痛甚たしく堪かたき時は 一度に二粒ツゝ用ゆべし○創口より血の出ること 多くして止らざる時は甚しき出血の療治の条 を参考てその法を用ふべし モルヒ子丸 モルヒ子一分六厘麺粉一匁 右百粒の丸薬となし常に用意しおくべし 一右の如く急場の手当を施しその後病院或は ○陣営に移して医師の療治を受べし歩行出来 陣中手痛治 さるほとの怪我人なれは陣用釣台へ後に図説 す)をもつて持運ぶをよしとて 陣中にて怪我人又は病人を他の場所へ移し遣 らんには左の如き釣台を用意することはなは ど便利なり其造法は大夫なる丸太二本を長す 八尺許ツゝに切りてふしたる病人の左右に並 べ長さ二尺五寸位の横棧を三ヶ所結付け其形 ち梯子の如くなすべし扨その載方はプランケッ ト」又は蒲圃等の上に怪我人病人の臥したるま ゝ此梯子を其人に障害なき様気をつけ臥たる 一上へ持きたり「ブランケット」又は蒲団等の両縁を 梯子へよく綴付け梯子の両先きへ紐を付け其 まゝ肩に荷ふなり但し横棧の位置は首と足の 先に一本かゝ尚一木は丁度肚部の処へあたる 様にすべきなり右の法にて怪我人病人を持運 ふときは柔かなるものゝ上にふしながら移さ るゝゆへ其ものゝ為にも害なくして且便利な りそも〳〵此法を用ひはしめしはアメリカの土 陣中手療治一 人にて戦場へ用意 せしものなるが 今は合衆国にても 急場に便利なるを以て しば〳〵これを用ゆと その図斯の如し 甚しき出血の療治 深き癬口より絶間なく血の流出るものは格別 心配するにも及はされとも血の出るに呼吸を つきて飛出て且其色鮮紅なれは巻木綿なとに て決して防止むへからす斯く鮮血の飛出るは 動脉といふものに疵付たるものなれは其脈を はさみ出し糸にて結ばされは本法の療治叶ひ 准しされとも陣中に手近く其療治心得し医師 なくは蛇に咬れしときと同し仕方にて鍼の込 陣中手療治 矢を焼き深く其疵口に突込むか又は熱油をこ れに潅込むへし固より此療治は如何にも手荒 き仕方にて且弥功能あるやも請合難しとはい へとも人命に易へかたし若し首尾よく出血を 防止めなば其手にても足にても決して動かす ことなく高く上て且冷すようにすへし初療治 を加るとき一時出血を止るには草の紐か又は 手拭にて疵口の上の方を縛り尚又棒を挿てこ れを捻り大丈夫にしめ付べし斯其場所を縛る 訳は手足に血の通に動脈を押んとする趣意な れは脉のある処を心得たる人は脉筋と思しき 処へ小石を置き其上を手拭にて縛るへし大抵 動脉のある処は筒袖だん袋の内側の縫目の処 に当れり心得べし 甚しき出血は本文の如く療治を加ふ可きな つれども、さほど甚しくもなければ余り手荒れ 法にも及はす其肘は止血薬を用ふべし其方 薬店一 は「サルマルチス」<割書:「サルマルチス」<割書:「サルガン濃厚に あり なし綿撒名或は綿に濕して血の出口に付く べし甚効あり又出陣の時これを製へ乾かし て貯ひ置けは急場にのそんて最便利なり 是豆の療治 夜床に就し前に蝋燭の蝋を掌にたらし焼酎を 和ぜてこれを足に塗れば翌朝必す癒ゆ足豆を 癒す功能は唯焼酎許りなれどもこれに蝋を交 るは足の皮を柔にせんが為なり此療治は「カピ タン・コチユラン」といへる人の発明せし竒法に て歩行する人は必す心得へし足豆の出来さる やうに用心の法は履下の足袋(西洋のメリヤス 足袋)をはくとき足袋の裏に石鹸を摺付て一面 に泡の行届くやうになし履の草を柔にすへし 暫時歩行して足に痛を覚えなば先づ履を脱ぎ 右と左と着換ゆべし若し一方の足のみ痛むと きは足袋を裏返してはくべし 高山を越すときの心得 高山を越すときは何となく苦痛を覚ゆ南「アメ リカ」にてはこれを「フナ」といふ其甚たしきに至 りては倔強の男にても堪難し其苦痛に堪えさ るは唯人類のみならす獣類も同様にて殊に猫 はこれに苦むこと最も甚たし「ドクトル・チクヂ」 人の の 名 いへるには海面より高きこと千三百丈の 処へ猫を連行けは直に死すと 高山に登りて覚る苦痛は眩暈耳鳴、頭痛氣絶、目・ 口鼻より血流出で其気分のあしきこと恰も舩 に酔ひしときの如し山に登ること凡千二百丈 より千三百丈の処にて始て苦を知る殊に風吹 くときは其苦痛常よりも甚たし旅慣れさる人 は歩行の草臥と「プナ」の苦痛とを相混ずること あれとも大に相違あり「プナ」の苦痛は速に山を 下りて時刻の過るを待より外に療治の法なし 一冨士山の絶頂海面より高きこと千四百十七 丈七尺 一箱根山の湖水海面より高きこと六百二十五 犬 右は先年英國の「ミニストル」「アールコック」とい ふ人冨士に登山せしとき測量せしものなり 二月一日雪積山を通行する時の心得 雪積りたる曠野を通行する時は青硝子の日鏡 を用ゆへき筈なれとも陣中には其用意もある ましきなれは「アメリカ」北国にて土民等の専ら 用る似寄の品を作るべし其法柔かなる木を切 り巾一寸五六分長さは両眼を塞ぐ位になし面 の形に削成して鼻にあたる処を少しく欠き左 右一文字に鋸の切目を入れ こすを糸にて耳に掛け目鏡の 形へその形状図のごとし)となて この目鏡を掛る人は 一文字の切れ目より外の ものを見ること自由なれとも 雪の光の目に入るは甚少し 疥癬の療治 疥癬を煩ふ人は野菜のみを食して全快に及ふ べし又石灰の水下品の粉糖酸味の菓実・生芋な どもよし「ドクトル・ケイン」の説に疥癬の病人は 生の肉を食して奇妙に功能ありといへり 歯の用心 歯切れのあしき食物を食わんとせは先づ歯医 師を招くべしとの諺あり用心すべし 渇たる人の療治 久しく水を飲ますして渇たる人へ療治を施す には先つ其衣服に水を潅き十分に体を湿しお き暫時の間水をのましむることなかるべし渇 たるものへ水を与へさるは如何にもむこく思 はるれとも固く禁し与ふへかして渇に苦し むこと極めてはなはたしからざる者は匕にて 少しつゞ水をそゝきこみ上顎をぬらし之レにて 次第に渇を止め腹中の机関を損することなか るべし 陣中手腐法 飢たる人の療治 一時の間に七八度も一口つゝ食物を与ふへし 其食物は肉の煎汁なともつともよろし 毒虫に刺れたるときの療治 毒虫にさゝれたるときは烟管より烟草のやに をうち出してこれをつくべしもしその毒はな はたしけれは蛇に咬れしときとおなじ療治を 施さゞるへかして 中毒の療治 毒を食て中てられたるときは劇しき吐剤をの みその毒の体内に廻らさる中にこと〴〵く吐出す へし吐剤の有合なくは石鹸の汁か又は火薬(分 量前に出つ)を飲むべし腹痛甚たしく尚嘔気あ らは沢山にのんて頻りに吐くへし既に胃中の ものを吐きつくせは其余は唯体内に廻はりと る毒の働を防くのみ病人の足厥冷してしひれ なは温石を足の先にあて着物をかけて総身を 暖むべし若し昏睡を催し気重くして焚中の如 陣中手琴張 くならは焼酎を飲ませて睡をさまてべしこの 外なりも為すべきことなし唯自然に任するのみ 火傷の療治 近来は多く銃器を用ゆるが故に火薬又は兵火 の為に火傷すること少なからす然る時は唐の 土(官粉ともいふ即ち炭酸青化塩なり適宜に亜 麻仁油若し品物なき時は胡麻の油を以て代用 すべし四倍を和し濃厚にかきませこれを筆或 ははけの炎にて一日に三四度も撒きその上を 綿或は他の軟かなる物にて覆ひ且適宜く繃帯 をいたすへし○火傷の部に水泡を発せは外科 針を刺てその水泡を潰ぶり水液を漏らして後 この薬を引くべし 蚤を防ぐ法 印度にて製する蚤除といふ粉薬ありて西洋諸 国にもこれを売るものありこの薬は印度の国 に産する発豆と唱ふる豆の粉にて蚤を防く妙 薬なり出陣のときこれを買て用意すべし 陣中手療治 蚤を防く法 出陣のとき着替たる一枚の着物を四五十日も 着つゝくれは昼夜とも総身痒くして何か気悪 しこは虱の出来たるに相違なし支那韃靼の人 は体に虱を付けて平氣なれとも西洋人はこれ を恐るゝこと甚し扨この虱を防くの法は恥か しなからも支那人のまねをして先づ用意の水 銀を取出し古茶を噛砕きて餅のやうになし四 匁許りの水銀をこれにかきませ頻にこれを搗 きこれをこねまはして水銀の星のなくなるや うにすれば棟薬の如きもの出来すべし若し其 棟薬かとくば唾を和ぜて柔にすべし水にては 功能なし斯棟薬の出来たる上にて木綿の切れ を緩く捻りてこれに摺付け首の周囲に巻くべ し虱のこれに触るものは忽ち腫れ赤色になり て死す出陣中は一月に一度づゝもこの首巻を とり換ゆべし 陣押并療治 陣中手痛を 陣中手療治終 陣中手療治附録 陣中に在りては群居稚臥し或は飲食の養ひ 寒暑の凌ぎも共にその宜きを得て身体常に 健全ならさるを以て其流行病に罹ることも亦 易し殊に「コロリ」病等の流行する時は必すこ の病を患にること論を俟たり然るときは許多 の人なれは医士も悉く之れに治療を施すに 暇あらす遂には十日之菊となり癒ゆべき病 人も死に至ること多し故に出陣の士たるもの 斯病の療法を知らざるべからす因て今その 一療法の一斑を録して巻尾に附し普く海内の 兵士に示さんとて 虎狼痢の療治 徴候俄に腹痛し或は疼なくして水瀉り且嘔 吐きて直に痩衰眼陥み聲嗄れ四肢厥冷なり心 下煩悶」病重きものは皮膚殊に手足の皮を捫て 其捫みたる痕の皺襞速に復故らず足脚轉筋劇 しく渇ひて小便不利或は閉塞り皮膚枯燥て総 身蒼色となり脉小疾或は手に応せす等の症全 く備はる者は一二時の間に死するものなれは 用心すべし 治法此病腹痛ありて吐瀉り其瀉る処の物稀 薄米汁の如くなり初発にて吐瀉二三度の間な れは先づ少し熱き湯に芥子二握許を入れて半 身浴を施し其浴中腰の周囲に「プランケット」或ハ 衣服等を巻きて風に冒らさるやうにし発汗を 促すべし其浴終らは直に導中に臥せしめ其後 吐瀉数度にいたりなバモルヒネ丸 銃剣の部 に出つ 一 時に一粒つゝ二三度も用ひて動静を窺ひ尚ほ 下利止ますして四肢厥冷なり眼陥み声嗄るゝ ものハ「コレラ丁幾」と云水薬 製法用法 次に出つ を与へ或 ハキナ塩 一分 六厘 とモルヒ子丸 五 松 粒 粒 を研和て砂糖を 加へ六包となし一時に一包ツゝ其ゆもし渇は なはたしきものには冷水少許ヅゝ与ふべし又 下利止み或止ますして嘔吐を甚しく薬汁も嚥 薬法の 下こと能はさるものには沸騰散 部に出 を用ひ て良功あり是等の薬を用て四支温かに成り吐 瀉やみ小便快通ずれは是快復に趣くの徴なり 直に是等の薬を止めて先つ米粥汁又は片栗湯 等を少々ツゝ与へて自然を待つへし コレラ丁幾 ウゾ 芦雀二匁 烏頭六匁阿芙蓉三匁芦薈二匁 「アルコール」 ハ十八匁モシ之レナキトキハ 極上ノ焼酒ヲ代用スベシ。 一右調合し細口の「ビン」に入れ浸し出すこと七日 許りにして渣を去り貯へおくべし用法は大 人なれは廿五滴より三十滴小児なれは五滴 より十五滴まてを茶或は水一口許に滴し病 軽重に応して用ゆへし 右の如く諸薬を用て少しも効なく四肢尚は厥 冷こと以前の如くならは再ひ半身浴を施し或は 芥子泥 製法次 に出つ を手足か又は腹部に貼り或は温 熱砂嚢 製法次 に出つ を作りて総身若しくは唯背の両 側を温め或又艾灸を腹部に施る等の外治法を 行ふべし是等の法は何症の「コロリ」に用ゆると も害になることなし 温熱砂嚢製法 炎暑の熱氣にて焼くか如く熱くなりたる砂 或は熱灰等を取り木綿袋に入れ又其上を木 一綿切或は手拭等にて包み適宜の温氣とす 芥子泥製法 一芥子一合計り麺粉五勺計り 右醋或は湯にてねり木綿切又は厚き紙にの べて用ゆべし 陸中手療治 又此病腹痛なく吐気なく気色平常に異ること なくして俄に水瀉し瀉後却て怪快を覚ゆるも のあり決して由断すへからす唯瀉る処の物稀 薄米汁の如きを以て此病たることを知るのみ如 斯症には初発よりモルヒ子丸或ハコレラ丁幾 を用ひ半身浴を施して間奇功あり 或又此病吐瀉なく俄に顔貌痩削て蒼色となり 眼陥み四肢厥冷なり煩悶するものあり此症に は先つ吐剤 次に 出つ を用て必す吐出さしめ其のち 半身浴・温熱砂嚢をもつて総身を温め且芥子泥 を諸部に貼り艾灸を腹部にすへ内服にはキニ ー子」竜脳・麝香・薄香荷油・等を用ゆべし是等の薬は 病の軽重に由りて大に分量の差等あれは預め 定め誰たし 吐剤 吐根 一分三ヶ 厘 三厘 吐酒石 二吐酒石三厘砂糖適宜 右調合研和て一度に用ゆべし○肉汁鶏卵黄 炒糖水等を和て適宜に用ゆれは吐出し易く 陸中手療治中 して且滋養となれり 右に挙くる処の諸法方を行ひ一旦の危急を救 にて後は宜く医師に就て其療治を請へし元来 此病は回復期の治法甚むつかしきものなれば 少しも由断すべからす コロリ病を預防法 此病を預め防がんには平生の摂生を申ゆり其 流行する時に当て急に常習を改むるなかれ且 日中炎熱の操作を避け殊に労動過度にいたる ことを慎み平生習慣さる飲食或は難化の食物不 熟の菓実を禁し居室を開ひて清涼新鮮しを空 気を普く通せしめ身体安逸ならしむること肝要 なり 市中街道或は溝堀等すべて汚物なきやうにし殊 に戦場には死骸の腐するもの多けれはよく〳〵 注意すへし 「コロリ」病流行れは神恩安逸ならす常に恐を懐 くが故に神至に妨けをなし終に食物の消化を 陣中手瘤ヲ 妨けこの病を導くの原因となるなり故に流行 すること甚しくも決して恐ることなく唯害物のみ を禁し寒冒にせざるやうに注意し夜間は眠の 時限を定め成丈け売間にいね必しも夜を閉か すへからす又此病既に流行する時通常の下利 を患らはゝ速く慎んて治療すべし何者下利症 より「コロリ」病に変ずるの恐ある故なり 陣中手療治附録終 14772