[763]
としたちかへるあしたのそらのけしきなこりなくゝもらぬうらゝけさにはかす
ならぬかきねのうちたにゆきまの草わかやかにいろつきはしめいつしかとけし
きたつかすみのこのめもうちけふりおのつから人のこゝろものひらかにそみゆ
るかしましていとゝたまをしける御まへは庭よりはしめみところおほくみかき
ましたまへる御方〱の有さまゝねひたてんもことのはたるましくなん春のお
とゝの御まへとりわきて梅のかもみすのうちのにほひにふきまかひていける仏
のみくにとおほゆさすかにうちとけてやすらかにすみなし給へりさふらふ人
〱もわかやかにすくれたるをひめ君の御かたにとえらせ給てすこしをとなひ
たるかきりなか〱よし〱しくさうそくありさまよりはしめてめやすくもて
つけてこゝかしこにむれゐつゝはかためのいはゐしてもちゐかゝみをさへとり
よせてちとせのかけにしるきとしのうちのいはひ事ともしてそほれあへるにお
とゝのきみさしのそきたまへれはふところてひきなをしつゝいとはしたなきわ
さかなとわひあへりいとしたゝかなる身つからのいはひ事ともかなみなおの
〱思事のみち〱あらんかしすこしきかせよや我ことふきせんとうちわらひ
[764]
給へる御有さまをとしのはしめのさかへにみたてまつるわれはと思あかれる中
将の君そかねてそみゆるなとこそかゝみのかけにもかたらひ侍りつれわたくし
のいのりはなにはかりのことをかなときこゆあしたの程は人〱まいりこみて
ものさはかしかりけるをゆふつかた御方〱のさむさし給はんとて心ことにひ
きつくろひけさうしたまふ御かけこそけにみるかひあめれけさの人〱のたは
ふれかはしつるいとうらやましくみえつるをうゑには我みせたてまつらんとて
みたれたることすこしうちませつゝいはひきこえたまふ
  うすこほりとけぬるいけのかゝみにはよにたくひなきかけそならへるけに
めてたき御あはひともなり
  くもりなきいけのかゝみによろつ世をすむへきかけそしるくみえけるなに
ことにつけてもすゑとをき御契をあらまほしくきこへかはし給今日はねのひな
りけりけにちとせの春をかけていはゝんにことはりなる日なりひめきみの御か
たにわたり給へれはわらはしもつかへなとおまへの山のこまつひきあそふわか
き人〱の心ちともおきところなくみゆきたのおとゝよりわさとかましくしあ
[765]
つめたるひけこともわりこなとたてまつれ給へりえならぬ五えうのえたにうつ
るうくひすもおもふ心あらんかし
  とし月をまつにひかれてふる人にけふうくひすのはつねきかせよをとせぬ
さとのときこへたまへるをけにあはれとおほしゝることいみもえし給はぬけし
きなりこの御かへりはみつからきこえたまへはつねをしみ給へきかたにもあら
すかしとて御すゝりとりまかなひかゝせたてまつらせたまふいとうつくしけに
てあけくれみたてまつる人たにあかす思きこゆる御有さまをいまゝておほつか
なきとし月のへたゝりけるもつみへかましくこゝろくるしとおほす
  ひきわかれとしはふれともうくひすのすたちしまつのねをわすれめやおさ
なき御こゝろにまかせてくた〱しくそある夏の御すまひをみたまへはときな
らぬけにやいとしつかにみえてわさとこのましきこともなくあてやかにすみな
し給へるけはひみえわたるとし月にそへて御心のへたてもなくあはれなる御中
らひなりいまはあなかちにちかやかなる御有さまももてなしきこへたまはさり
けりいとむつましくありかたからむいもせのちきりはかりきこえかはし給みき
[766]
帳へたてたれとすこしおしやり給へは又さてをはすはなたはけにゝほひおほか
らぬあはひにて御くしなともいたくさかりすきにけりやさしきかたにあらねと
えひかつらしてそつくろひ給へき我ならさらんひとはみさめしぬへき御有さま
をかくてみるこそうれしくほいあれこゝろかろき人のつらにて我にそむきたま
ひなましかはなと御たいめんのをりをりにはまつわか御こゝろのなかさをも人
の御こゝろのおもきをもうれしく思やうなりとおほしけりこまやかにふるとし
の御ものかたりなとなつかしうきこえたまひてにしのたいへわたり給またいた
くもすみなれたまはぬ程よりはけはひをかしくしなしてをかしけなるわらはへ
のすかたなまめかしくひとかけあまたして御しつらひあるへきかきりなれとも
こまやかなる御てうとはいとしもとゝのへ給はぬをさるかたにものきよけにす
みなしたまへりさうしみもあなをかしけとふとみえてやまふきにもてはやし給
へる御かたちなといとはなやかにこゝそくもれるとみゆるところなくゝまなく
にほひきらきらしくみまほしきさまそし給へる物おもひにしつみ給へるほとの
しわさにやかみのすそすこしほそりてさはらかにかゝれるしもいとものきよけ
[767]
にこゝかしこいとけさやかなるさまし給へるをかくてみさらましかはとおもほ
すにつけてはえしもみすくし給ましくやかていとへたてなくみたてまつり給へ
となを思にへたゝりおほくあやしきかうつゝのこゝちもし給はねはまほならす
もてなし給へるもいとをかしとしころになりぬる心ちしてみたてまつるも心や
すくほいかなひぬるをつゝみなくもてなし給てあなたなとにもわたり給へかし
いはけなきうひことならふ人もあめるをもろともにきゝならし給へうしろめた
くあはつけきこゝろもたる人なきところなりときこえたまへはのたまはせんま
ゝにこそはときこえたまふさもあることそかしくれかたになるほとにあかしの
御かたにわたり給ちかきわたとのゝとおしあくるよりみすのうちのおひかせな
まめかしくふきにほはかしてものよりことにけたかくおほさるさうしみはみえ
すいつらとみまはし給にすゝりのあたりにきはゝしくさうしともとりちらした
るをとりつゝみたまふからのきのこと〱しきはしさしたるしとねにをかしけ
なるきむうちをきわさとめきよしある火をけにしゝうをくゆらかしてものこと
にしめたるにえひかうのかのまかへるいとえんなりてならひとものみたれうち
[768]
とけたるもすちかはりゆへあるかきさまなりこと〱しうさうかちなとにもさ
へかかすめやすくかきすましたりこまつの御返をめつらしとみけるまゝにあは
れなるふる事ともかきませて
  めつらしやはなのねくらにこつたひてたにのふるすをとつるうくひすこゑ
まちいてたるなともありさけるおかへにいゑしあれはなとひきかへしなくさめ
たるすちなとかきませつゝあるをとりてみ給つゝほゝゑみ給へるはつかしけな
りふてさしぬらしてかきすさみたまふほとにゐさりいてゝさすかに身つからの
もてなしはかしこまりをきてめやすきよういなるを猶人よりはことなりとおほ
すしろきにけさやかなるかみのかゝりのすこしさはらかなるほとにうすらきに
けるもいとゝなまめかしさそひてなつかしけれはあたらしきとしの御さはかれ
もやとつゝましけれとこなたにとまり給ぬなをおほえことなりかしとかた〱
にこゝろをきておほすみなみのおとゝにはましてめさましかる人〱ありまた
あけほのゝほとにわたり給ぬかくしもあるましき夜ふかさそかしと思になこり
もたゝならすあはれに思まちとり給へるはたなまけやけしとおほすへかめる心
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へもなけれはわつらはしくてそらねをしつゝひたかくおほとのこもりおきたり
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のゝこるなくまいり給へり御あそひありてひきいてものろくなとになしそこら
つとひ給へるか我もおとらしともてなし給へる中にもすこしなすらひなるたに
みえ給はぬ物かなとりはなちてはいうそくおほくものし給ころなれとおまへに
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まいるには心つかひことなりけりましてわかやかなるかむたちめなとはおもふ
こゝろなと物し給てすゝろにこゝろけさうし給つゝつねのとしよりもことなり
花のかさそふゆふかせのとかにうちふきたるにおまへのむめやう〱ひもとき
てあはれなるたそかれときなるに物のしらへともおもしろくこのとのうたひた
るひやうしいとはなやかなりおとゝもときときこゑうちそへたまへるさきくさ
のすゑつかたいとなつかしうめてたくきこゆなに事もさしいてし給御ひかりに
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くるまのをとも物へたてゝきゝたまふ御方〱ははちすの中のせかいにまたひ
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る御方〱はとし月にそへてつれ〱のかすのみまされとよのうきめみえぬ山
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かひたるすまゐなりさはかしきひころすくしてわたり給へりひたちの宮の御方
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へりうけはりたるさまにもあらすかこやかにつほねすみにしなして仏はかりに
ところえさせたてまつりておこなひつとめけるさまあはれにみえて経仏のかさ
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みゆるひとのけはひなりあをにひの木丁心はへをかしきにいたくゐかくれて袖
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[774]
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ゆけはみつむまやにてことそかせ給へきをれいあることよりもさまことに事く
はへていみしくもてはやさせ給かけすさましきあか月つき夜にゆきはやう〱
[775]
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にほひもなきものなれとゝころからにやおもしろく心ゆきいのちのふるほとな
り殿の中将のきみ内の大いとのゝきみたちそこらにすくれてめやすくはなやか
なりほの〱とあけ行にゆきやゝちりてそゝろさむきにたけかはうたひてかよ
れるすかたなつかしきこゑ〱のゑにもかきとゝめかたからんこそくちをしけ
れ御方〱いつれも〱おとらぬ袖くちともこほれいてたるこちたさものゝい
ろあひなともあけほのゝそらに春のにしきたちいてたるかすみのうちかとみわ
たさるあやしく心ゆくみものにそありけるさるはかうこんしのよはなれたるさ
まことふきのみたりかはしきをこめきたる事もこと〱しくとりなしたる中
〱なにはかりのおもしろかるへきひやうしもきこへぬものをれいのわたかつ
きわたりてまかてぬ夜あけはてぬれは御かた〱かへりわたり給ぬおとゝのき
みすこしおほとのこもりて日たかくおき給へり中将のこゑは弁少将のにをさ
〱おとらさむめるはあやしくいうそくともおひいつるころほひにこそあれい
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にしへの人はまことにかしこきかたやすくれたることもおほかりけんなさけた
ちたるすちはこのころの人にえしもまさらさりけんかし中将なとをはすく〱
しきおほやけひとにしなしてんとなむ思おきてしみつからのあされはみたるか
たくなしさをもてはなれよと思しかと猶したにはほのすきたるすちの心をこそ
とゝむへかめれもてしつめすくよかなるうわへはかりはうるさかんめりなとい
とうつくしとおほしたり万春楽御くちすさみにのたまひて人〱のこなたにつ
とひ給へるついてにいかてものゝねこゝろみてしかなわたくしのこえんすへし
とのたまひて御ことゝものうるはしきふくろともしてひめをかせ給へるみなひ
きいてゝおしのこひてゆるへるをとゝのへさせ給なとす御方〱心つかひいた
くしつゝ心けさうをつくし給らんかし