[1025]
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[1026]
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[1027]
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[1028]
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[1029]
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[1032]
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[1038]
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[1039]
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[1041]
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この宮の御事かくおほしわつらふさまはさき〱もみなきゝをき給へれは心く
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はいと中〱にうちつゝき世をさらむきさみ心くるしくみつからのためにもあ
[1042]
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て身つからはおほしはなれたるさまなるを弁はおほろけの御さためにもあらぬ
をかくの給へはいとおしくくちおしくも思てうち〱におほしたちにたるさま
なとくはしくきこゆれはさすかにうちえみつゝいとかなしくしたてまつり給み
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るやうもなしこ院の御時におほきさきのはうのはしめの女御にていきまき給し
かとむけのすゑにまいり給へりし入道の宮にしはしはおされ給にきかしこのみ
この御はゝ女御こそはかの宮の御はらからにものしたまひけめかたちもさしつ
きにはいとよしといはれ給し人なりしかはいつかたにつけてもこのひめ宮をし
[1043]
なへてのきはにはよもおはせしをなといふかしくは思きこえ給へしとしもくれ
ぬ朱雀院には御こゝち猶をこたるさまにもおはしまさねはよろつあはたゝしく
おほしたちて御もきの事おほしいそくさまきしかた行さきありかたけなるまて
いつくしくのゝしる御しつらひはかへ殿のにしおもてに御きちやうよりはしめ
てこゝのあやにしきをませさせ給はすもろこしのきさきのかさりをおほしやり
てうるはしくこと〱しくかゝやくはかりとゝのへさせ給へり御こしゆひには
おほきおとゝをかねてよりきこえさせ給へりけれはこと〱しくおはする人に
てまいりにくゝおほしけれと院の御事をむかしよりそむき申給はねはまいり給
いまふた所の大臣たちそののこり上達部なとはわりなきさはりあるもあなかち
にためらひたすけつゝまいり給みこたち八人殿上人はたさらにもいはす内春宮
ののこらすまいりつとひていかめしき御いそきのひゝき也院の御ことこのたひ
こそとちめなれとみかと春宮をはしめたてまつりて心くるしくきこしめしつゝ
蔵人所おさめとのゝから物ともおほくたてまつらせ給へり六条院よりも人〻の
ろくそん者の大臣の御ひきいて物なとかの院よりそたてまつらせ給ける中宮よ
[1044]
りも御さうそくくしのはこ心ことにてうせさせ給てかのむかしのみくしあけの
くゆへあるさまにあらためくはへてさすかにもとの心はえもうしなはすそれと
みせてその日の夕つかたたてまつれさせ給宮の権の佐院の殿上にもさふらふを
御使にてひめ宮の御方にまいらすへくのたまはせつれとかゝることそ中にあり
ける
  さしなからむかしをいまにつたふれはたまのをくしそ神さひにける院御ら
むしつけてあはれにおほしいてらるゝ事もありけりあえ物けしうもあらしとゆ
つりきこえ給へるほとけにおもたゝしきかむさしなれは御返もむかしのあはれ
をはさしをきて
  さしつきにみる物にもかよろつ世をつけのをくしの神さふるまてとそいは
ひきこえ給へる御心ちいとくるしきをねんしつゝおほしおこしてこの御いそき
はてぬれは三日すくしてつゐに御くしおろし給よろしき程の人のうへにてたに
いまはとてさまかはるはかなしけなるわさなれはましていとあはれけに御かた
〱もおほしまとふ内侍のかんの君はつとさふらひ給ていみしくおほしいりた
[1045]
るをこしらへかね給て子を思ふ道はかきりありけりかく思しつみ給へる別のた
へかたくもあるかなとて御心みたれぬへけれとあなかちに御けうそくにかゝり
給て山の座主よりはしめて御いむことのあさり三人さふらひてほうふくなとた
てまつる程この世をわかれ給御さほういみしくかなしけふは世を思すましたる
僧たちなとたに涙もえとゝめねはまして女宮たち女御更衣こゝらの男女かみし
もゆすりみちてなきとよむにいと心あはたゝしうかゝらてしつやかなる所にや
かてこもるへくおほしまうけゝるほいたかひておほしめさるゝもたゝこのをさ
なき宮にひかされてとおほしのたまはす内よりはしめたてまつりて御とふらひ
のしけさいとさらなり六条院もすこし御心ちよろしくときゝたてまつらせ給て
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てつかうまつらせ給へりけふはおほせ事ありてわたりまいり給へり院もいとか
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かさ六衛府の官人かみよりつき〱にひきとゝのふるほとひくれはてぬれいの
万さい楽賀王恩なといふまひけしきはかりまひておとゝのわたり給へるにめつ
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なむさま〱なりけるその日の御さうそくともなとこなたのうへなむし給ける
ろくともおほかたの事をそ三条の北の方はいそき給めりしおりふしにつけたる
御いとなみうち〱の物のきよらをもこなたにはたゝよその事にのみきゝわた
り給をなに事につけてかはかゝるもの〱しきかすにもましらひ給はましとお
ほえたるを大将の君の御ゆかりにいとよくかすまへられ給へりとしかへりぬき
[1087]
りつほの御方ちかつきたまいぬるにより正月朔日より御すほうふたんにせさせ
給てら〱やしろ〱の御いのりはたかすもしらすおとゝの君ゆゝしきことを
み給へてしかはかゝるほとの事はいとおそろしき物におほしゝみたるをたいの
うへなとのさることし給はぬはくちおしくさう〱しき物からうれしくおほさ
るゝにまたいとあえかなる御ほとにいかにおはせんとかねておほしさはくに二
月はかりよりあやしく御けしきかはりてなやみ給に御心ともさはくへしおんや
うしともゝ所をかへてつゝしみ給ふへく申けれはほかのさしはなれたらむはお
ほつかなしとてかのあかしの御まちのなかのたいにわたしたてまつり給ふこな
たはたゝおほきなるたいふたつらうともなむめくりてありけるに御すほうのた
んひまなくぬりていみしきけんさともつとひてのゝしるはゝ君此時に我御すく
せもみゆへきわさなめれはいみしき心をつくし給かのおほあま君もいまはこよ
なきほけ人にてそありけむかしこの御ありさまをみたてまつるはゆめの心ちし
ていつしかとまいりちかつきなれたてまつるとしころはゝ君はかうそひさふら
ひ給へとむかしのことなとまほにしもきこえしらせ給はさりけるをこのあま君
[1088]
よろこひにえたへてまいりてはいと涙かちにふるめかしき事ともをわなゝきい
てつゝかたりきこゆはしめつかたはあやしくむつかしき人かなとうちまほり給
しかとかゝるひとありとはかりはほのきゝをき給へれはなつかしくもてなし給
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[1089]
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[1090]
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[1091]
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さるへき人の御ためとこそおほえはへれさてたえこもり給なは世中もさためな
きにやかてきえ給なはかひなくなんとてよもすからあはれなる事ともをいひつ
ゝあかし給きのふもおとゝの君のあなたにありとみをき給てしをにはかにはひ
かくれたらむもかろ〱しきやうなるへし身ひとつはなにはかりも思はゝかり
侍らすかくそひ給御ためなとのいとおしきになむ心にまかせて身をももてなし
にくかるへきとてあか月にかへりわたり給ぬわか宮はいかゝおはしますいかて
かみたてまつるへきとてもなきぬいまみたてまつり給てん女御の君もいとあは
れになむおほしいてつゝもし世中思ふやうならはゆゝしきかねことなれとあま
[1100]
君その程まてなからへ給はなんとの給ふめりきいかにおほすことにかあらむと
の給へは又うちゑみていてやされはこそさま〱ためしなきすくせにこそ侍れ
とてよろこふこのふはこはもたせてまうのほり給ぬ宮よりとくまいり給へきよ
しのみあれはかくおほしたることはりなりめつらしきことさへそひていかに心
もとなくおほさるらむとむらさきのうへもの給てわか宮しのひてまいらせたて
まつらむ御心つかひし賜みやす所はおほんいとまの心やすからぬにこり給てか
ゝるついてにしはしあらまほしくおほしたり程なき御身にさるおそろしきこと
をし給へれはすこしおもやせほそりていみしくなまめかしき御さまし給へりか
くためらひかたくおはするほとつくろひ給てこそはなと御かたなとは心くるし
かりきこえ給をおとゝはかやうにおもやせてみえたてまつり給はむも中〱あ
はれなるへきわさなりなとの給たいのうへなとのわたり給ぬる夕つかたしめや
かなるに御かたおまへにまいり給てこのふはこきこえしらせ給おもふさまにか
なひはてさせ給まてはとりかくしてをきて侍へけれと世中さためかたけれはう
しろめたさになんなに事をも御心とおほしかすまへさらむこなたともかくもは
[1101]
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ねは猶うつし心うせすはへるよになむはかなき事をもきこえさせをくへく侍け
ると思ひ侍てむつかしくあやしきあとなれとこれも御らんせよこの願ふみはち
かきみつしなとにをかせ給てかならすさるへからむおりに御らむしてこのうち
のことゝもはせさせ給へうとき人にはなもらさせ給そかはかりとみたてまつり
をきつれは身つからもよをそむき侍なんとおもふ給へなりゆけはよろつ心のと
かにもおほえはへらすたいのうへの御こゝろをろかに思きこえさせ給ないとあ
りかたくものし給ふかき御けしきをみはへれは身にはこよなくまさりてなかき
御よにもあらなんとそ思はへるもとより御身にそひきこえさせんにつけてもつ
ゝましきみの程に侍れはゆつりきこえそめ侍にしをいとかうしも物し給はしと
なんとしころは猶よのつねにおもふ給へわたり侍つるいまはきしかた行さきう
しろやすく思なりにて侍りなといとおほくきこえ給涙くみてきゝおはすかくむ
つましかるへきおまへにもつねにうちとけぬさまし給てわりなくものつゝみし
たるさまなりこのふみのことはいとうたてこはくにくけなるさまをみちのくに
[1102]
かみにてとしへにけれはきはみあつこえたる五六枚さすかにかうにいとふかく
しみたるにかき給へりいとあはれとおほして御ひたいかみのやう〱ぬれゆく
御そはめあてになまめかし院はひめ宮の御かたにおはしけるをなかのみさうし
よりふとわたり給へれはえしもひきかくさて御きちやうをすこしひきよせて身
つからははたかくれ給へりわか宮はおとろき給へりやときのまもこひしきわさ
なりけりときこえ給へはみやす所はいらへもきこえ給はねは御方たいにわたし
きこえ給へときこえ給いとあやしやあなたにこの宮をらうし奉りてふところを
さらにはなたすもてあつかひつゝ人やりならすきぬもみなぬらしてぬきかへか
ちなめるかろ〱しくなとかくわたしたてまつり給こなたにわたりてこそみた
てまつり給はめとの給へはいとうたて思くまなき御ことかな女におはしまさむ
にたにあなたにてみたてまつり給はんこそよく侍らめましておとこはかきりな
しときこえさすれと心やすくおほえ給をたはふれにてもかやうにへたてかまし
き事なさかしかりきこえさせ給ひそときこえ給うちわらひて御なかともにまか
せてみはなちきこゆへきなゝりなへたてゝいまはたれも〱さしはなちさかし
[1103]
らなとの給こそをさなけれまつはかやうにはひかくれてつれなくいひおとし給
めりかしとて御木丁をひきやり給へれはもやのはしらによりかゝりていときよ
けに心はつかしけなるさまして物し給ありつるはこもまとひかくさんもさまあ
しけれはさておはするをなそのはこふかき心あらむけさう人のなかうたよみて
ふんしこめたる心ちこそすれとの給へはあなうたてやいまめかしくなりかへら
せ給める御心ならひにきゝしらぬやうなる御すさひ事ともこそ時〻いてくれと
てほゝゑみ給へれと物あはれなりける御けしきともしるけれはあやしとうちか
たふき給へるさまなれはわつらはしくてかのあかしのいはやよりしのひてはへ
し御いのりの巻数又またしき願なとのはへりけるを御こゝろにもしらせたてま
つるへきおりあらは御覧しをくへくやとて侍をたゝいまはついてなくてなにか
はあけさせ給はんときこえ給にけにあはれなるへきありさまそかしといかにを
こなひましてすみ給にたらむ命なかくてこゝらのとしころのつとむるつみもこ
よなからむかし世の中によしありさかしきかた〱の人とてみるにもこの世に
そみたる程のにこりふかきにやあらむかしこきかたこそあれいとかきりありつ
[1104]
ゝをよはさりけりやさもいたりふかくさすかにけしきありし人のありさまかな
ひしりたちこの世はなれかほにもあらぬものからしたの心はみなあらぬ世にか
よひすみにたるとこそみえしかましていまは心くるしきほたしもなく思ひはな
れにたらむをやかやすき身ならはしのひていとあはまほしくこそとの給ふいま
はかの侍し所をもすてゝとりのねきこえぬ山にとなんきゝ侍ときこゆれはさら
はそのゆいこむなゝりなせうそこはかよはし給やあま君いかに思給らむおやこ
の中よりもまたさるさまの契はことにこそゝふへけれとてうち涙くみ給へりと
しのつもりに世中のありさまをとかく思しり行まゝにあやしくこひしく思いて
らるゝ人のみありさまなれはふかき契のなからひはいかにあはれならむなとの
給ついてにこの夢かたりもおほしあはする事もやと思ていとあやしきほんしと
かいふやうなるあとにはへめれと御らんしとゝむへきふしもやましり侍とてな
んいまはとてわかれ侍にしかと猶こそあはれはのこり侍るものなりけれとてさ
まよくうちなき給ていとかしこく猶ほれ〱しからすこそあるへけれてなとも
すへてなにこともわさというそくにしつへかりける人のたゝこのよふるかたの
[1105]
心をきてこそすくなかりけれかのせんそのおとゝはいとかしこくありかたき心
さしをつくしておほやけにつかうまつり給ける程にものゝたかひめありてその
むくひにかくすゑはなきなりなと人いふめりしを女子のかたにつけたれとかく
ていとつきなしといふへきにはあらぬもそこらのをこなひのしるしにこそはあ
らめなと涙おしのこひ給つゝこの夢のわたりにめとゝめ給ふあやしくひか〱
しくすゝろにたかき心さしありと人もとかめ又われなからもさるましきふるま
ひをかりにてもするかなと思しことはこの君のむまれ給し時に契ふかく思しり
にしかとめのまへにみえぬあなたの事はおほつかなくこそ思わたりつれさらは
かゝるたのみありてあなかちにはのそみしなりけりよこさまにいみしきめをみ
たゝよひしもこの人ひとりのためにこそありけれいかなる願をか心におこしけ
むとゆかしけれは心のうちにおかみてとり給つこれは又くしてたてまつるへき
物侍りいま又きこえしらせ侍らんと女御にはきこえ給そのついてにいまはかく
いにしへのことをもたとりしり給ぬれとあなたの御心はへをおろかにおほしな
すなもとよりさるへきなかえさらぬむつひよりもよこさまの人のなけのあはれ
[1106]
をもかけひと事の心よせあるはおほろけのことにもあらすましてこゝになとさ
ふらひなれ給をみる〱もはしめの心さしかはらすふかくねんころに思きこえ
たるをいにしへの世のたとへにもさこそはうはへにははくゝみけれとらう〱
しきたとりあらんとかしこきやうなれと猶あやまりても我ためしたの心ゆかみ
たらむ人をさも思よらすうらなからむためはひきかへしあはれにいかてかゝる
にはとつみえかましきにも思なをる事もあるへしおほろけのむかしのよのあた
ならぬ人はたかふふし〱あれとひとり〱つみなき時にはをのつからもてな
すためしともあるへかめりさしもあるましきことにかとゝしくくせをつけあ
い行なく人をもてはなるゝ心あるはいとうちとけかたく思くまなきわさになむ
あるへきおほくはあらねと人の心のとあるさまかゝるおもむきをみゆるにゆへ
よしといひさま〱に口惜からぬきはの心はせあるへかめりみなをの〱えた
るかたありてとる所なくもあらねと又とりたてゝ我うしろみに思ひまめ〱し
くえらひ思はんにはありかたきわさになむたゝまことに心のくせなくよきこと
はこのたいをのみなむこれをそおひらかなる人といふへかりけるとなむ思はへ
[1107]
るよしとて又あまりひたゝけてたのもしけなきもいとくちおしやとはかりの給
ふにかたへの人は思ひやられぬかしそこにこそすこしものゝ心えてものし給め
るをいとよしむつひかはしてこの御うしろみをもおなし心にてものし給へなと
しのひやかにの給のたまはせねといとありかたき御けしきをみたてまつるまゝ
にあけくれのことくさにきこえはへるめさましきものになとおほしゆるさゝら
んにかうまて御らんししるへきにもあらぬをかたはらいたきまてかすまへの給
はすれはかへりてはまはゆくさへなむかすならぬ身のさすかにきえぬはよのき
ゝみゝもいとくるしくつゝましく思たまへらるゝをつみなきさまにもてかくさ
れたてまつりつゝのみこそときこえ給へはその御ためにはなにの心さしかはあ
らむたゝこの御ありさまをうちそひてもえみたてまつらぬおほつかなさにゆつ
りきこえらるゝなめりそれも又とりもちてけちえんになとあらぬ御もてなしと
もによろつの事なのめにめやすくなれはいとなむおもひなくうれしきはかなき
ことにてもの心えすひか〱しき人はたちましらふにつけて人のためさへから
きことありかしさなをし所なくたれもものし給めれは心やすくなむとの給につ
[1108]
けてもさりやよくこそひけしにけれなと思つゝけ給たいへわたり給ぬさもいと
やむことなき御心さしのみまさるめるかなけにはた人よりことにかくしもくし
給へるありさまのことはりとみえ給へるこそめてたけれ宮の御方うはへの御か
しつきのみめてたくてわたり給こともえなのめならさめるはかたしけなきわさ
なめりかしおなしすちにはおはすれといまひときはゝ心くるしくとしりふこち
きこえ給につけても我すくせはいとたけくそおほえ給ひけるやむことなきたに
おほすさまにもあらさめるよにましてたちましるへきおほえにしあらねはすへ
ていまはうらめしきふしもなしたゝかのたえこもりにたる山すみを思やるのみ
そあはれにおほつかなきあま君もたゝふくちのそのにたねまきてとやうなりし
ひとことをうちたのみてのちのよを思やりつゝなかめゐ給へり大将の君はこの
ひめ宮の御ことを思をよはぬにしもあらさりしかはめにちかくおはしますをい
とたゝにもおほえすおほかたの御かしつきにつけてこなたにはさりぬへきおり
おりにまいりなれをのつから御けはひありさまもみきゝ給にいとわかくおほと
き給へるひとすちにてうへのきしきはいかめしく世のためしにしつはかりもて
[1109]
かしつきたてまつり給へれとおさ〱けさやかにものふかくはみえす女房なと
もおとな〱しきはすくなくわかやかなるかたち人のひたふるにうちはなやき
されはめるはいとおほくかすしらぬまてつとひさふらひつゝもの思ひなけなる
御あたりとはいひなからなに事ものとやかに心しつめたるは心のうちのあらは
にしもみえぬわさなれは身に人しれぬおもひそひたらんも又まことに心ちゆき
けにとゝこほりなかるへきにしうちましれはかたへの人にひかれつゝおなしけ
はひもてなしになたらかなるをたゝあけくれはいはけたるあそひたはふれに心
いれたるわらはへのありさまなと院はいとめにつかすみ給事ともあれとひとつ
さまによの中をおほしの給はぬ御本上なれはかゝるかたをもまかせてさこそは
あらまほしからめと御らんしゆるしつゝいましめとゝのへさせ給はすさうしみ
の御ありさまはかりをはいとよくをしへきこえ給にすこしもてつけ給へりかや
うの事を大将の君もけにこそありかたき世なりけれむらさきの御よういけしき
のこゝらのとしへぬれとともかくもゝりいてみえきこえたるところなくしつや
かなるをもとゝしてさすかに心うつくしう人をもけたす身をもやむことなく心
[1110]
にくくもてなしそへ給へる事とみしおもかけもわすれかたくのみなむ思いてら
れける我御北のかたもあはれとおほすかたこそふかけれいふかひありすくれた
るらう〱しさなとものし給はぬ人なりおたしきものにいまはとめなるゝに心
ゆるひて猶かくさま〱につとひ給へるありさまとものとり〱におかしけを
心ひとつに思はなれかたきをましてこの宮は人の御ほとを思にもかきりなく心
ことなる御ほとにとりわきたる御けしきにしもあらす人めのかさりはかりにこ
そとみたてまつりしるわさとおほけなき心にしもあらねとみたてまつるおりあ
りなむやとゆかしく思きこえ給けり衛門のかむの君も院につねにまいりしたし
くさふらひなれ給し人なれはこの宮をちゝみかとのかしつきあかめたてまつり
給し御心をきてなとくはしくみたてまつりをきてさま〱の御さためありしこ
ろをひよりきこえより院にもめさましとはおほしの給はせすときゝしをかくこ
とさまになり給へるはいとくちおしくむねいたき心ちすれはなをえおもひはな
れすそのおりよりかたらひつきにける女房のたよりに御ありさまなともきゝつ
たふるをなくさめに思ふそはかなかりけるたいのうへの御けはひには猶おされ
[1111]
給てなんとよ人もまねひつたふるをきゝてはかたしけなくともさる物はおもは
せたてまつらさらましけにたくひなき御身にこそあたらさらめとつねにこの小
侍従といふ御ちぬしをもいひはけまして世中さためなきをおとゝの君もとより
ほいありておほしをきてたるかたにおもむき給はゝとたゆみなく思ありきけり
やよひはかりのそらうらゝかなる日六条院に兵部卿宮衛門督なとまいり給へり
おとゝいて給て御物かたりなとし給しつかなるすまゐはこのころこそいとつれ
つれにまきるゝことなかりけれおほやけわたくしにことなしやなにわさしてか
はくらすへきなとの給てけさ大将のものしつるはいつかたにそいとさう〱し
きをれいのこゆみいさせてみるへかりけりこのむめるわかうとともゝみえつる
をねたういてやしぬるとゝはせ給大将の君はうしとらのまちに人〻あまたして
まりもてあそはしてみ給ときこしめしてみたれかはしきことのさすかにめさめ
てかと〱しきそかしいつらこなたにとて御せうそこあれはまいり給へりわか
きむたちめく人〻おほかりけりまりもたせ給へりやたれ〱かものしつるとの
給ふこれかれはへりつこなたへまかてんやとの給てしんてんのひんかしおもて
[1112]
きりつほはわか宮くしたてまつりてまいり給いにしころなれはこなたかくろへ
たりけりやり水なとのゆきあひはれてよしあるかゝりの程をたつねてたちいつ
おほきおほいとのゝ君たち頭弁兵衛佐大夫の君なとすくしたるも又かたなりな
るもさま〱に人よりまさりてのみものし給やう〱くれかゝるに風ふかすか
しこき日なりとけうして弁の君もえしつめすたちましれはおとゝ弁官もえおさ
めあへさめるをかんたちめなりともわかきゑふつかさたちはなとかみたれ給は
さらむかはかりのよはひにてはあやしくみすくす口惜くおほえしわさなりさる
はいときやう〱なりやこのことのさまよなとの給に大将もかんの君もみなお
り給てえならぬ花のかけにさまよひ給ふゆふはへいときよけなりおさ〱さま
よくしつかならぬみたれことなめれと所から人からなりけりゆへある庭のこた
ちのいたくかすみこめたるにいろいろひもときわたる花の木ともわつかなるも
えきのかけにかくはかなき事なれとよきあしきけちめあるをいとみつゝわれも
をとらしと思ひかほなる中に衛門督のかりそめにたちましり給へるあしもとに
ならふ人なかりけりかたちいときよけになまめきたるさましたる人のよういい
[1113]
たくしてさすかにみたりかはしきおかしくみゆみはしのまにあたれるさくらの
かけによりて人〻花のうへもわすれて心にいれたるをおとゝも宮もすみのかう
らにいてゝ御覧すいとらうある心はへともみえてかすおほくなり行に上らうも
みたれてかうふりのひたいすこしくつろきたり大将の君も御くらゐの程思こそ
れいならぬみたりかはしさかなとおほゆれみるめは人よりけにわかくおかしけ
にてさくらのなをしのやゝなえたるにさしぬきのすそつかたすこしふくみてけ
しきはかりひきあけ給へりかろ〱しうもみえす物きよけなるうちとけすかた
に花の雪のやうにふりかゝれはうちみあけてしほれたる枝すこしをしおりてみ
はしのなかのしなの程にゐ給ぬかんの君つゝきて花みたりかはしくちるめりや
さくらはよきてこそなとの給つゝ宮の御まへのかたをしりめにみれはれいのこ
とにおさまらぬけはひともしていろ〱こほれいてたるみすのつますきかけな
と春のたむけのぬさふくろにやとおほゆ御木丁ともしとけなくひきやりつゝ人
けちかくよつきてそみゆるにからねこのいとちいさくおかしけなるをすこしお
ほきなるねこをひつゝきてにはかにみすのつまよりはしりいつるに人〻おひえ
[1114]
さはきてそよ〱とみしろきさまよふけはひともきぬのをとなひみゝかしかま
しき心ちすねこはまたよく人にもなつかぬにやつないとなかくつきたりけるを
ものにひきかけまつはれにけるをにけんとひこしろふほとにみすのそはいとあ
らはにひきあけられたるをとみにひきなをす人もなしこのはしらのもとにあり
つるひと〱も心あはたゝしけにて物おちしたるけはひともなり木丁のきはす
こしいりたる程にうちきすかたにてたち給へる人ありはしよりにしの二のまの
ひんかしのそはなれはまきれ所もなくあらはにみいれらるこうはいにやあらむ
こきうすきすき〱にあまたかさなりたるけちめはなやかにさうしのつまのや
うにみえてさくらのをりものゝほそなかなるへし御くしのすそまてけさやかに
みゆるはいとをよりかけたるやうになひきてすそのふさやかにそかれたるいと
うつくしけにて七八寸はかりそあまり給へる御そのすそかちにいとほそくさゝ
やかにてすかたつきかみのかゝり給へるそはめいひしらすあてにらうたけなり
ゆふかけなれはさやかならすおくくらき心ちするもいとあかすくちおしまりに
身をなくるわか君たちの花のちるをおしみもあえぬけしきともをみるとて人〻
[1115]
あらはをふともえみつけぬなるへしねこのいたくなけはみかへり給へるをもも
ちもてなしなといと老らかにてわかくうつくしの人やとふとみえたり大将いと
かたはらいたけれとはひよらむも中〱いとかる〱しけれはたゝ心をえさせ
てうちしはふき給へるにそやをらひきいり給さるは我心ちにもいとあかぬ心ち
し給へとねこのつなゆるしつれは心にもあらすうちなけかるましてさはかり心
をしめたる衛門の督はむねふとふたかりてたれはかりにかはあらんこゝらの中
にしるきうちきすかたよりも人にまきるへくもあらさりつる御けはひなと心に
かゝりておほゆさらぬかほにもてなしたれとまさにめとゝめしやと大将はいと
おしくおほさるわりなき心ちのなくさめにねこをまねきよせてかきいたきたれ
はいとかうはしくてらうたけにうちなくもなつかしく思ひよそへらるゝそすき
〱しきやおとゝ御覧しおこせてかんたちめの座いとかろ〱しやこなたにこ
そとてたいのみなみおもてにいり給へれはみなそなたにまいり給ぬ宮もゐなを
り給て御物かたりし給つき〱の殿上人はすのこにわらうためしてわさとなく
つはいもちゐなしかうしやうの物ともさま〱にはこのふたともにとりませつ
[1116]
ゝあるをわかき人〻そほれとりくふさるへきから物はかりして御かはらけまい
る衛門督はいといたく思しめりてやゝもすれは花の木にめをつけてなかめやる
大将は心しりにあやしかりつるみすのすきかけ思いつることやあらむと思給い
とはしちかなりつるありさまをかつはかろ〱しとおもふらんかしいてやこな
たの御ありさまのさはあるましかめる物をとおもふにかゝれはこそ世のおほえ
の程よりはうち〱の御心さしぬるきやうにはありけれと思あはせて猶うちと
のよういおほからすいはけなきはらうたきやうなれとうしろめたきやうなりや
と思おとさるさいしやうの君はよろつのつみをもおさ〱たとられすおほえぬ
物のひまよりほのかにもそれとみたてまつりつるにも我むかしよりの心さしの
しるしあるへきにやと契うれしき心ちしてあかすのみおほゆ院はむかしものか
たりしいて給ておほきおとゝのよろつの事にたちならひてかちまけのさためし
給し中にまりなんえをよはすなりにしはかなきことはつたへあるましけれと物
のすちは猶こよなかりけりいとめもをよはすかしこうこそみえつれとの給へは
うちほゝえみてはか〱しきかたにはぬるく侍るいへの風のさしも吹つたへ侍
[1117]
らんにのちの世のためことなることなくこそはへりぬへけれと申給へはいかて
かなに事も人にことなるけちめをはしるしつたふへきなりいへのつたへなとに
かきとゝめいれたらんこそけうはあらめなとたはふれ給御さまのにほひやかに
きよらなるをみたてまつるにもかゝる人にならひていかはかりの事にか心をう
つす人はものし給はんなにことにつけてかあはれとみゆるしたまふはかりはな
ひかしきこゆへきと思めくらすにいとゝこよなく御あたりはるかなるへき身の
程も思しらるれはむねのみふたかりてまかりて給ぬ大将の君ひとつ車にてみち
のほと物かたりし給猶このころのつれ〱にはこの院にまいりてまきらはすへ
きなりけりけふのやうならんいとまのひまゝちつけて花のおりすくさすまいれ
との給つるを春おしみかてら月の中にこゆみもたせてまいり給へとかたらひち
きるをの〱わかるゝみちのほとものかたりしたまふて宮の御事の猶いはまほ
しけれは院には猶このたいにのみものせさせ給なめりなかのおほんおほえのこ
となるなめりかしこの宮いかにおほすらんみかとのならひなくならはしたてま
つり給へるにさしもあらてくし給にたらんこそ心くるしけれとあいなくいへは
[1118]
たい〱しきこといかてかさはあらむこなたはさまかはりておほしたて給へる
むつひのけちめはかりにこそあへかめれ宮をはかた〱につけていとやむこと
なく思きこえ給へるものをとかたり給へはいてあなかま給へみなきゝてもはへ
りいと〱おしけなるおり〱あなるをやさるはよにおしなへたらぬ人の御お
ほえをありかたきわさなりやといとほしかる
  いかなれは花にこつたふうくひすの桜をわきてねくらとはせぬ春の鳥の桜
ひとつにとまらぬこゝろよあやしとおほゆる事そかしとくちすさひにいへはい
てあなあちきなの物あつかひやされはよと思ふ
  み山木にねくらさたむるはこ鳥もいかてか花のいろにあくへきわりなきこ
とひたおもむきにのみやはといらへてわつらはしけれはことにいはせすなりぬ
こと事にいひまきらはしてをの〱わかれぬかむの君は猶おほいとのゝひんか
しのたいにひとりすみにてそものし給けるおもふ心ありてとしころかゝるすま
ゐをするに人やりならすさう〱しく心ほそきおり〱あれと我身かはかりに
てなとか思ふことかなはさらむとのみ心おこりをするにこのゆふへよりくしい
[1119]
たく物思はしくていかならむおりに又さはかりにてもほのかなる御ありさまを
たにみむともかくもかきまきれたるきはの人こそかりそめにもたはやすきもの
いみかたゝかへのうつろひもかろ〱しきにをのつからともかくもものゝひま
をうかゝひつくるやうもあれなと思やるかたなくふかきまとのうちになにはか
りの事につけてかゝくふかき心ありけりとたにしらせたてまつるへきとむねい
たくいふせけれは小侍従かりれいのふみやり給ふ一日風にさそはれてみかきの
はらをわけいりて侍しにいとゝいかにみおとし給けんそのゆふへよりみたり心
ちかきくらしあやなくけふをなかめくらし侍なとかきて
  よそにみておらぬなけきはしけれともなこりこひしき花の夕かけとあれと
一日の心もしらぬはたゝよのつねのなかめにこそはと思ふおまへに人しけから
ぬ程なれはかのふみをもてまいりてこの人のかくのみわすれぬ物にことゝひも
のし給こそわつらはしく侍れ心くるしけなるありさまもみ給へあまる心もやそ
ひはへらんと身つからの心なからしりかたくなむとうちわらひてきこゆれはい
とうたてあることをもいふ哉となに心もなけにの給てふみひろけたるを御覧す
[1120]
みもせぬといひたるところをあさましかりしみすのつまをおほしあはせらるゝ
に御おもてあかみておとゝのさはかりことのついてことに大将にみえ給ないは
けなき御ありさまなめれはをのつからとりはつしてみたてまつるやうもありな
むといましめきこえ給をおほしいつるに大将のさる事のありしとかたりきこえ
たらん時いかにあはめ給はんと人のみたてまつりけん事をはおほさてまつはゝ
かりきこえ給心のうちそをさなかりけるつねよりもおほんさしらへなけれはす
さましくしゐてきこゆへきことにもあらねはひきしのひてれいのかく一日はつ
れなしかほゝなむめさましうとゆるしきこえさりしをみすもあらぬやいかにあ
なかけ〱しとはやりかにはしりかきて
  いまさらに色にないてそ山さくらをよはぬ枝に心かけきとかひなきことを
とあり