[1701]
その比ふちつほときこゆるはこ左大臣殿の女御になむおはしけるまた春宮と聞
えさせし時人よりさきにまいり給にしかはむつましくあはれなるかたの御思ひ
はことにものし給めれとそのしるしとみゆるふしもなくてとしへ給ふに中宮に
はみやたちさへあまたこゝらをとなひ給ふめるにさやうの事もすくなくてたゝ
女宮ひとゝころをそもちたてまつり給へりけるわかいとくちおしく人におされ
たてまつりぬるすくせなけかしくおほゆるかはりにこの宮をたにいかてゆくす
ゑの心もなくさむはかりにてみたてまつらむとかしつき聞え給ふ事をろかなら
す御かたちもいとおかしくおはすれはみかともらうたきものにおもひきこえさ
せ給へり女一の宮をよにたくひなきものにかしつき聞えさせ給におほかたの世
のおほえこそおよふへうもあらねうち〱の御ありさまはおさ〱をとらすち
ゝおとゝの御いきほひいかめしかりしなこりいたくおとろへねはことに心もと
なき事なとなくてさふらふ人〱のなりすかたよりはしめたゆみなく時〱に
つけつゝとゝのへこのみいまめかしくゆへ〱しきさまにもてなし給へり十四
になり給ふとし御裳きせ奉りたまはんとて春よりうちはしめてこと事なくおほ
[1702]
しいそきてなに事もなへてならぬさまにとおほしまうくいにしへよりつたはり
たりけるたからものともこのおりにこそはとさかしいてつゝいみしくいとなみ
給に女御なつころものゝけにわつらひ給ていとはかなくうせ給ぬいふかひなく
くちおしき事をうちにもおほしなけく心はえなさけ〱しくなつかしきところ
おはしつる御かたなれは殿上人とももこよなくさう〱しかるへきわさかなと
おしみきこゆおほかたさるましききはの女官なとまてしのひきこえぬはなし宮
はましてわかき御心ちに心ほそくかなしくおほしいりたるをきこしめして心く
るしくあはれにおほしめさるれは御四十九日すくるまゝにしのひてまいらせた
てまつらせ給へり日〻にわたらせ給つゝみたてまつらせ給くろき御そにやつれ
ておはするさまいとゝらうたけにあてなるけしきまさり給へり心さまもいとよ
くおとなひ給て母女御よりもいますこしつしやかにおもりかなる所はまさりた
まへるをうしろやすくはみたてまつらせ給へとまことには御はゝかたとてもう
しろみとたのませ給へきをちなとやうのはか〱しき人もなしわつかに大くら
卿すりのかみなといふは女御にもことはらなりけることに世のおほえをもりか
[1703]
にもあらすやんことなからぬ人〱をたのもし人にておはせんに女は心くるし
き事おほかりぬへきこそいとおしけれなと御心ひとつなるやうにおほしあつか
ふもやすからさりけり御まへのきくうつろひはてゝさかりなるころ空のけしき
のあはれにうちしくるゝにもまつこの御かたにわたらせ給てむかしの事なと聞
えさせ給ふに御いらへなともおほとかなるものからいはけなからすうちきこえ
させ給ふをうつくしくおもひ聞えさせ給かやうなる御さまをみしりぬへからん
人のもてはやしきこえんもなとかはあらん朱雀院のひめ宮を六条院にゆつりき
こえ給しおりのさためともなとおほしめしいつるにしはしはいてやあかすもあ
るかなさらてもおはしなましときこゆる事ともありしかと源中納言の人よりこ
となるありさまにてかくよろつをうしろみたてまつるにこそそのかみの御おほ
えおとろへすやんことなきさまにてはなからへ給めれさらすは御心よりほかな
る事ともゝいてきてをのつから人にかるめられ給こともやあらましなとおほし
つゝけてともかくも御覧する世にやおもひさためましとおほしよるにはやかて
そのついてのまゝにこの中納言よりほかによろしかるへき人又なかりけり宮た
[1704]
ちの御かたはらにさしならへたらんに何事もめさましくはあらしをもとより思
人もたりて聞にくき事うちますましくはたあめるをつゐにはさやうの事なくて
しもえあらしさらぬさきにさもやほのめかしてましなとおり〱おほしめしけ
り御こなとうたせ給ふくれゆくまゝにしくれおかしき程に花の色も夕はえした
るを御覧して人めしてたゝいま殿上にはたれ〱かととはせ給に中務のみこか
んつけのみこ中納言みなもとのあそんさふらふとそうす中納言のあそんこなた
へとおほせ事ありてまいり給へりけにかくとりわきてめしいつるもかひありて
とをくよりかほれるにほひよりはしめ人にことなるさまし給へりけふのしくれ
つねよりことにのとかなるをあそひなとすさましきかたにていとつれ〱なる
をいたつらに日を送るたはふれにてこれなんよかるへきとて碁はんめしいてゝ
御碁のかたきにめしよすいつもかやうにけちかくならしまつはし給ふにならひ
にたれはさにこそはとおもふによきのりものはありぬへけれとかる〱しくは
えわたすましきを何をかはなとのたまはする御けしきいかゝみゆらんいとゝ心
つかひしてさふらひ給さてうたせ給ふに三はんに数ひとつまけさせ給ひぬねた
[1705]
きわさかなとてまつけふはこの花ひとえたゆるすとのたまはすれは御いらへ聞
えさせておりておもしろきえたをおりてまいり給へり
  よのつねのかき根ににほふ花ならはこゝろのまゝにおりてみましをとそう
し給へるようゐあさからすみゆ
  霜にあへすかれにしそのゝ菊なれとのこりの色はあせすもある哉との給は
すかやうにおり〱ほのめかさせ給御けしきを人つてならすうけ給りなかられ
いの心のくせなれはいそかしくしもおほえすいてやほいにもあらすさま〱に
いとおしき人〱の御事ともをもよくきゝすくしつゝとしへぬるをいまさらに
ひしりのものゝよにかへりいてん心ちすへき事と思ふもかつはあやしやことさ
らに心をつくす人たにこそあなれとは思なからきさきはらにおはせはしもとお
ほゆる心のうちそあまりおほけなかりけるかゝる事を右大殿ほの聞給て六の君
はさりともこの君にこそはしふ〱なりともまめやかにうらみよらはついには
えいなひはてしとおほしつるを思ひのほかの事いてきぬへかなりとねたくおほ
されけれは兵部卿の宮はたわさとにはあらねとおり〱につけつゝおかしきさ
[1706]
まにきこえ給事なとたえさりけれはさはれなをさりのすきにはありともさるへ
きにて御心とまるやうもなとかなからん水もるましく思さためんとてもなを
〱しききはにくたらんはたいと人わろくあかぬ心ちすへしなとおほしなりに
たり女こうしろめたけなる世のすゑにてみかとたにむこもとめ給ふよにまして
たゝ人のさかりすきんもあいなしなとそしらはしけにの給て中宮をもまめやか
にうらみ申給事たひかさなれはきこしめしわつらひていとおしくかくおほな
〱思ひ心さしてとしへ給ひぬるをあやにくにのかれきこえ給はんもなさけな
きやうならんみこたちは御うしろみからこそともかくもあれうへの御よもすゑ
になり行とのみおほしの給めるをたゝ人こそひと事にさたまりぬれは又心をわ
けんこともかたけなめれそれたにかのおとゝのまめたちなからこなたかなたう
らやみなくもてなしてものし給はすやはあるましてこれは思ひをきてきこゆる
事もかなはゝあまたもさふらはむになとかあらんなとれいならすことつゝけて
あるへかしくきこえさせ給ふを我御心にももとよりもてはなれてはたおほさぬ
事なれはあなかちにはなとてかはあるましきさまにもきこえさせ給んたゝいと
[1707]
事うるはしけなるあたりにとりこめられて心やすくならひ給へるありさまの所
せからん事をなまくるしくおほすにものうきなれとけにこのおとゝにあまりゑ
んせられはてんもあいなからんなとやう〱おほしよはりにたるへしあたなる
御心なれはかのあせちの大納言のこうはいの御方をも猶おほしたえす花もみち
につけてものゝ給ひわたりつゝいつれをもゆかしくはおほしけりされとそのと
しはかはりぬ女二の宮も御ふくはてぬれはいとゝ何事にかはゝかり給んさもき
こえいてはとおほしめしたる御けしきなとつけきこゆる人〱もあるをあまり
しらすかほならんもひか〱しうなめけなりとおほしおこしてほのめかしまい
らせ給おり〱もあるにはしたなきやうはなとてかはあらんそのほとにおほし
さためたなりとつてにもきく身つから御けしきをもみれと心のうちにはなをあ
かす過給にし人のかなしさのみわするへきよなくおほゆれはうたてかく契りふ
かくものし給ける人のなとてかはさすかにうとくては過にけんと心えかたく思
ひいてらるくちおしきしなゝりともかの御ありさまにすこしもおほえたらむ人
はこゝろもとまりなんかしむかしありけんかうのけふりにつけてたにいま一た
[1708]
ひみたてまつる物にもかなとのみおほえてやむことなきかたさまにいつしかな
といそくこゝろもなし右大殿にはいそきたちて八月はかりにときこえ給けり二
条院のたいの御方にはきゝ給にされはよいかてかは数ならぬありさまなめれは
かならす人わらへにうき事いてこんものそとは思ふ〱すこしつる世そかしあ
たなる御心と聞わたりしをたのもしけなく思なからめにちかくてはことにつら
けなることみえすあはれにふかき契りをのみし給へるをにはかにかはり給ん程
いかゝはやすき心ちはすへからむたゝ人のなからひなとのやうにいとしもなこ
りなくなとはあらすともいかにやすけなき事おほからんなをいとうき身なめれ
はついには山すみに返へきなめりとおほすにもやかて跡たえなましよりは山か
つのまちおもはんも人わらへなりかし返〻も宮のゝ給をきしことにたかひてく
さのもとをかれにける心かるさをはつかしくもつらくも思しり給こひめ君のい
としとけなけに物はかなきさまにのみ何事もおほしの給しかと心のそこのつし
やかなるところはこよなくもおはしけるかな中納言の君のいまにわするへきよ
なくなけきわたり給めれともしよにおはせましかは又かやうにおほすことはあ
[1709]
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[1710]
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す世中なへてしりたることをその程なとたにの給はぬことゝいかゝうらめしか
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宮なれはあはれとはおほすともいまめかしきかたにかならす御心うつろひなん
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ころもさもならひたまはてまつ夜おほくすこし給んこそあはれなるへけれなと
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[1711]
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はゝ我きかん所をもすこしはゝはかり給はしやと思にいてやいまはそのおりの
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[1712]
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めつゝきしかたゆくさき人のうへさへあちきなき世を思ひめくらし給ふなけの
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[1713]
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からぬくるまさしいてさせよとの給へは宮はきのふよりうちになんおはします
なるよへ御車いてかへり侍りにきと申すさはれかのたいの御方のなやみ給なる
とふらひきこえむけふはうちにまいるへき日なれは日たけぬさきにとの給て御
さうそくし給いて給ふまゝにおりて花のなかにましりたまへるさまことさらに
えんたち色めきてもゝてなし給はねとあやしくたゝうちみるになまめかしくは
つかしけにていみしくけしきたつ色このみともになすらふへくもあらすをのつ
からおかしくそみえ給けるあさかほひきよせ給へる露いたくこほる
  今朝のまの色にやめてんをく露のきえぬにかゝる花とみる〱はかなとひ
[1714]
とりこちておりてもたまへりをみなへしをはみすきてそいて給ぬる明はなるゝ
まゝにきりたちみたる空おかしきに女とちはしとけなくあさいし給へらむかし
かうしつまとうちたゝきこはつくらんこそうゐ〱しかるへけれあさまたきま
たききにけりと思ひなから人めして中もんのあきたるよりみせ給へはみかうし
ともまいりて侍へし女はうの御けはひもし侍りつと申せはおりてきりのまきれ
にさまよくあゆみいり給へるを宮のしのひたる所より返給へるにやとみるに露
にうちしめり給へるかほりれいのいとさまことにゝほひくれはなをめさましく
はおはすかし心をあまりおさめ給へるそにくきなとあいなくわかき人〱はき
こえあへりおとろきかほにはあらすよきほとにうちそよめきて御しとねさしい
てなとするさまもいとめやすしこれにさふらへとゆるさせ給ふほとは人〱し
き心ちすれと猶かゝるみすのまへにさしはなたせ給へるうれはしさになんしは
〱もえさふらはぬとの給へはさらはいかゝ侍へからむなときこゆきたおもて
なとやうのかくれそかしかゝるふる人なとのさふらはんにことはりなるやすみ
所はそれも又たゝ御心なれはうれへきこえへきにもあらすとてなけしによりか
[1715]
ゝりておはすれはれいの人〱猶あしこもとになとそゝのかしきこゆもとより
もけはひはやりかにをゝしくなとはものし給はぬ人からなるをいよ〱しめや
かにもてなしおさめ給へれはいまは身つからきこえ給事もやう〱うたてつゝ
ましかりしかたすこしつゝうすらきておもなれ給にたりなやましくおほさるら
むさまもいかなれはなとゝひきこえ給へとはか〱しくもいらへきこえ給はす
つねよりもしめり給へるけしきの心くるしきもあはれにおほえ給てこまやかに
世中のあるへきやうなとをはらからやうのものゝあらましやうにをしへなくさ
めきこえ給声なともわさと似給へりともおほえさりしかとあやしきまてたゝそ
れとのみおほゆるに人めみくるしかるましくはすたれもひきあけてさしむかひ
きこえまほしくうちなやみ給へらんかたちゆかしくおほえ給も猶世中に物おも
はぬ人はえあるましきわさにやあらむとそ思しられ給人〱しくきら〱しき
かたには侍らすとも心に思ふ事ありなけかしく身をもてなやむさまになとはな
くて過しつへきこのよと身つから思ひ給へし心からかなしき事もおこかましく
くやしきものおもひをもかた〱にやすからす思ひ侍こそいとあいなけれつか
[1716]
さくらゐなといひてたいしにすめることはりのうれへにつけてなけき思ふ人よ
りもこれやいますこしつみのふかさはまさるらむなといひつゝおり給へる花を
あふきにうちをきてみいたまへるにやう〱あかみもて行もなか〱色のあは
ひおかしくみゆれはやをらさしいれて
  よそへてそみるへかりけるしら露のちきりかをきしあさかほの花ことさら
ひてしももてなさぬに露おとさてもたまへりけるよとおかしくみゆるにをきな
からかるゝけしきなれは
  きえぬまにかれぬる花のはかなさにをくるゝ露は猶そまされるなにゝかゝ
れるといとしのひてこともつゝかすつゝましけにいひけち給へる程なをいとよ
く似給へるものかなと思にもまつそかなしき秋の空はいますこしなかめのみま
さり侍つれ〱のまきらはしにもとおもひてさいつ比うちにものして侍き庭も
まかきもまことにいとゝあれはてゝ侍しにたへかたき事おほくなん故院のうせ
給てのち二三年はかりのすゑに世をそむき給しさかのゐんにも六条院にもさし
のそく人のこゝろおさめんかたなくなん侍りける木草の色につけても涙にくれ
[1717]
てのみなんかへり侍けるかの御あたりの人はかみしも心あさき人なくこそ侍り
けれかた〱つとひものせられける人〱もみな所〱あかれちりつゝをの
〱思ひはなるゝすまゐをし給めりしにはかなき程の女房なとはたまして心お
さめんかたなくおほえけるまゝにものおほえぬ心にまかせつゝ山はやしにいり
ましりすゝろなるゐ中人になりなとあはれにまとひちるこそおほく侍けれさて
中〱みなあらしはてわすれくさおふして後なんこの右のおとゝもわたりすみ
宮たちなともかた〱ものし給へはむかしに返たるやうにはへめるさるよにた
くひなきかなしさとみ給しこともとし月ふれは思さますおりのいてくるにこそ
はとみ侍にけにかきりあるわさなりけりとなんみえ侍かくはきこえさせなから
もかのいにしへのかなしさはまたいはけなくも侍ける程にていとさしもしまぬ
にやはへりけんなをこのちかき夢こそさますへきかたなく思給へらるゝはおな
し事よのつねなきかなしひなれとつみふかきかたはまさりて侍るにやとそれさ
へなん心うく侍とてなき給へる程いとこゝろふかけ也むかしの人をいとしも思
ひきこえさらん人たにこの人のおもひ給へるけしきをみんにはすゝろにたゝに
[1718]
もあるましきをましてわれも物をこゝろほそく思ひみたれ給につけてはいとゝ
つねよりもおも影に恋しくかなしく思ひきこえ給心なれはいますこしもよをさ
れてものもえきこえ給はすためらひかね給へるけはひをかたみにいとあはれと
思ひかはし給ふよのうきよりはなと人はいひしをもさやうに思ひくらふる心も
ことになくてとしころはすくし侍りしをいまなんなをいかてしつかなるさまに
てもすくさまほしく思ふ給ふるをさすかに心にもかなはさめれは弁のあまこそ
うらやましくはへれこの廿日あまりの程は彼ちかきてらのかねの声もきゝわた
さまほしくおほえ侍をしのひてわたさせ給てんやときこえさせはやとなんおも
ひ侍つるとの給へはあらさしとおほすともいかてかは心やすきをのこたにゆき
ゝのほとあらましき山道にはへれは思ひつゝなん月日も隔り侍この宮の御き日
はかのあさりにさるへき事ともみないひをき侍にきかしこはなをたうときかた
におほしゆつりてよ時〱み給ふるにつけては心まとひのたえせぬもあいなき
につみうしなふさまになしてはやとなん思給ふるをまたいかゝおほしをきつら
んともかくもさためさせ給んにしたかひてこそはとてなんあるへからむやうに
[1719]
の給はせよかしなに事もうとからすうけ給はらんのみこそほいのかなふにては
侍らめなとまめたちたる事共をきこえ給経仏なとこのうへもくやうし給へきな
めりかやうなるついてにことつけてやをらこもりゐなはやなとおもむけ給へる
けしきなれはいとあるましき事也猶なにことも心のとかにおほしなせとをしへ
きこえ給日さしあかりて人〱まいりあつまりなとすれはあまりなかゐもこと
ありかほならむによりていて給なんとていつこにてもみすのとにはならひ侍ら
ねはゝしたなき心ちし侍りてなんいま又かやうにもさふらはんとてたち給ぬ宮
のなとかなきおりにはきつらんと思給ひぬへき御心なるもわつらはしくてさふ
らひのへたうなる右京のかみめしてよへまかてさせ給ひぬとうけたまはりてま
いりつるをまたしかりけれはくちおしきをうちにやまいるへきとの給へはけふ
はまかてさせ給ひなんと申せはさらはゆふつかたもとていて給ひぬなをこの御
けはひありさまをきゝ給たひことになとてむかしの人の御心をきてをもてたか
へて思ひくまなかりけんとくゆるこゝろのみまさりて心にかゝりたるもむつか
しくなそや人やりならぬ心ならんと思返し給ふそのまゝにまたさうしにていと
[1720]
ゝたゝをこなひをのみし給ひつゝあかしくらし給はゝ宮のなをいともわかくお
ほときてしとけなき御心にもかゝる御けしきをいとあやふくゆゝしとおほして
いくよしもあらしをみたてまつらむ程はなをかひあるさまにてみえ給へ世中を
思すて給んをもかゝるかたちにてはさまたけきこゆへきにもあらぬをこの世の
いふかひなき心ちすへき心まとひにいとゝつみやえんとおほゆるとの給ふかか
たしけなくいとおしくてよろつを思ひけちつゝおまへにてはものおもひなきさ
まをつくり給ふ右のおほい殿には六条院のひんかしのおとゝみかきしつらひて
かきりなくよろつをとゝのへてまちきこえ給に十六日月やう〱さしあかるま
て心もとなけれはいとしも御心にいらぬ事にていかならんとやすからすおもほ
してあないし給へはこのゆふつかたうちよりいて給て二条院になむおはします
なると人申すおほす人もたまへれはと心やましけれとこよひすきんも人わらへ
なるへけれは御子の頭中将してきこえ給へり
  おほ空の月たにやとるわかやとに待よひ過てみえぬきみかな宮は中〱い
まなんともみえし心くるしとおほして内におはしけるを御ふみきこえ給へりけ
[1721]
り御返やいかゝありけん猶いとあはれにおほされけれはしのひてわたり給へり
ける也けりらうたけなるありさまをみすてゝいつへき心地もせすいとおしけれ
はよろつに契りなくさめてもろともに月をなかめておはする程也けり女君はひ
ころもよろつに思事おほかれといかてけしきにいたさしとねんし返しつゝつれ
なくさまし給事なれはことにきゝもとゝめぬさまにおほとかにもてなしておは
するけしきいと哀也中将のまいり給へるをきゝ給てさすかにかれもいとおしけ
れはいて給はんとていまいとゝくまいりこんひとり月なみたまひそ心そらなれ
はいとくるしきときこえをき給てなをかたはらいたけれはかくれのかたよりし
ん殿へわたり給御うしろてをみをくるにともかくもおもはねとたゝ枕のうきぬ
へき心ちすれは心うき物は人の心也けりと我なから思しらるおさなき程より心
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[1722]
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[1723]
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はかりあれとすゝろなるおとこのうちいりきたるならはこそはこはいかなるこ
[1740]
とそともまいりよらめうとからすきこえかはし給御なからひなめれはさるやう
こそはあらめと思にかたはらいたけれはしらすかほにてやをらしそきぬるにい
とおしきやおとこ君はいにしへをくゆる心のしのひかたさなともいとしつめか
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さはことはりしらぬつらさのみなん聞えさせむ方なくとあり御返しなからむも
人のれいならすとみとかむへきをいとくるしけれはうけ給りぬいとなやましく
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[1743]
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かたらひ給ほかにてはかはかりにさた過なん人を何かとみいれ給へきにもあら
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[1761]
りさまもきく人なきに心やすくていとこまやかにきこゆいまはとなり給しほと
にめつらしくおはしますらん御ありさまをいふかしきものに思きこえさせ給め
りし御けしきなとのおもひ給へ出らるゝにかくおもひかけ侍らぬよのすゑにか
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のつから侍けるとうれしくもかなしくも思ひ給へられはへる心うき命の程にて
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はへる宮よりも時〱はまいりてみたてまつれおほつかなくたえこもりはてぬ
るはこよなくおもひへたてけるなめりなとの給はするおり〱侍れとゆゝしき
身にてなんあみた仏よりほかにはみたてまつらまほしき人もなくなりて侍なと
きこゆこひめ君の御事ともはたつきせすとし比の御ありさまなとかたりてなに
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りつれこのきさらきにはみつのすくなかりしかはよかりしなりけりいてやあり
くはあつまちおもへはいつこかおそろしからんなとふたりしてくるしとも思た
[1784]
らすいひゐたるにしうはをともせてひれふしたりかひなをさしいてたるかまろ
らかにおかしけなる程もひたち殿なといふへくはみえすまことにあてなりやう
〱こしいたきまてたちすくみ給へと人のけはひせしとて猶うこかてみ給にわ
かきひとあなかうはしやいみしきかうの香こそすれあま君のたき給にやあらむ
おい人まことにあなめてたのものゝ香や京人は猶いとこそみやひかにいまめか
しけれ天下にいみしきことゝおほしたりしかとあつまにてかゝるたきものゝか
はえあはせいて給はさりきかしこのあま君はすまゐかくかすかにおはすれとさ
うそくのあらまほしくにひ色あをいろといへといときよらにそあるやなとほめ
いたりあなたのすのこよりわらはきて御ゆなとまいらせ給へとておしきともも
とりつゝきてさしいるくたものとりよせなとしてものけ給はるこれなとおこせ
とおきねはふたりしてくりやなとやうのものにやほろ〱とくふもきゝしらぬ
こゝちにはかたはらいたくてしそき給へと又ゆかしくなりつゝ猶たちより〱
み給これよりまさるきはの人〱をきさいの宮をはしめてこゝかしこにかたち
よきも心あてなるもこゝらあくまてみあつめ給へとおほろけならてはめも心も
[1785]
とまらすあまり人にもとかるゝまてものし給心ちにたゝいまはなにはかりすく
れてみゆることもなき人なれとかくたちさりかたくあなかちにゆかしきもいと
あやしき心なりあま君はこのとのゝ御かたにも御せうそこきこえいたしたりけ
れと御心ちなやましとていまの程うちやすませ給へるなりと御ともの人〱心
しらひていひたりけれはこの君を尋まほしけにの給しかはかゝるついてにもの
いひふれんとおもほすによりてひくらし給にやと思てかくのそき給覧とはしら
すれいのみさうのあつかりとものまいれるわりこやなにやとこなたにもいれた
るをあつま人ともにもくはせなとことゝもをこなひをきてうちけさうしてまら
うとのかたにきたりほめつるさうそくけにいとかはらかにてみめも猶よし〱
しくきよけにそあるきのふおはしつきなんとまちきこえさせしをなとかけふも
日たけてはといふめれはこのおい人いとあやしくくるしけにのみせさせ給へは
昨日はこのいつみ川のわたりにてけさもむこに御心ちためらひてなんといらへ
ておこせはいまそおきゐたるあま君をはちらひてそはみたるかたはらめこれよ
りはいとよくみゆまことにいとよしあるまみのほとかんさしのわたりかれをも
[1786]
くはしくつく〱としもみ給はさりし御かほなれとこれをみるにつけてたゝそ
れと思ひいてらるゝにれいの涙おちぬあま君のいらへ打する声けはひ宮の御方
にもいとよく似たりときこゆあはれなりける人かなかゝりけるものを今まて尋
もしらてすくしけることよこれよりくちおしからんきはのしなゝ覧ゆかりなと
にてたにかはかりかよひきこえたらん人を得てはをろかに思ふましき心ちする
にましてこれはしられたてまつらさりけれとまことにこ宮の御こにこそはあり
けれとみなし給てはかきりなくあはれにうれしくおほえ給たゝいまもはひより
てよの中におはしけるものをといひなくさめまほしほうらいまて尋てかんさし
のかきりをつたへてみ給けんみかとは猶いふせかりけんこれはこと人なれとな
くさめ所ありぬへきさまなりとおほゆるはこの人に契りのおはしけるにやあら
むあま君はものかたりすこしゝてとくいりぬ人のとかめつるかほりをちかくの
そき給なめりと心えてけれはうちとけこともかたらはすなりぬるなるへし日く
れもていけは君もやをらいてゝ御そなとき給てそれいめし出るさうしのくちに
あま君よひてありさまなとゝひ給おりしもうれしくまてあひたるをいかにそか
[1787]
の聞えしことはとの給へはしかおほせこと侍し後はさるへきついて侍らはと待
侍しにこそはすきてこの二月になんはつせまうてのたよりにたいめんして侍し
かのはゝ君におほしめしたるさまはほのめかし侍しかはいとかたはらいたくか
たしけなき御よそへにこそは侍なれなとなん侍しかとその比ほひはのとやかに
もおはしまさすとうけ給はりしおりひんなく思ひ給へつゝみてかくなんともき
こえさせ侍らさりしをまたこの月にもまうてゝけふかへり給なめりゆきかへり
のなかやとりにはかくむつひらるゝもたゝすきにし御けはひを尋きこゆるゆへ
になんはへめるかのはゝ君もさはる事ありてこのたひはひとりものし給めれは
かくおはしますともなにかはものし侍らんとてときこゆゐ中ひたる人ともにし
のひやつれたるありきもみえしとてくちかためつれといかゝあらむけすともは
かくれあらしかしさていかゝすへきひとりものすらんこそなか〱心やすかな
れかく契ふかくてなんまいりきあひたるとつたへ給へかしとの給へはうちつけ
にいつの程なる御ちきりにかはとうちわらひてさらはしかつたへ侍らんとてい
るに
[1788]
  かほとりの声も聞しにかよふやとしけみをわけてけふそたつぬるたゝくち
すさみのやうにの給ふをいりてかたりけり