[1793]
つくはやまをわけみまほしき御心はありなからは山のしけりまてあなかちに思
いらむもいと人きゝかろ〱しうかたはらいたかるへきほとなれはおほしはゝ
かりて御せうそこをたにえつたへさせ給はすかのあま君のもとよりそはゝきた
のかたにの給しさまなとたひ〱ほのめかしをこせけれとまめやかに御心とま
るへき事とも思はねはたゝさまてもたつねしり給らん事とはかりおかしうおも
ひて人の御ほとのたゝ今世にありかたけなるをもかすならましかはなとそよろ
つに思けるかみのこともははゝなくなりにけるなとあまたこのはらにもひめ君
とつけてかしつくありまたをさなきなとすき〱に五六人ありけれはさま〱
にこのあつかひをしつゝこと人とおもひへたてたる心のありけれはつねにいと
つらき物にかみをもうらみつゝいかてひきすくれておもたゝしきほとにしなし
てもみえにしかなと明暮このはゝ君はおもひあつかひけるさまかたちのなのめ
にとりませてもありぬへくはいとかうしもなにかはくるしきまてもゝてなやま
しおなしことおもはせてもありぬへきよをものにもましらすあはれにかたしけ
なくおひいて給へはあたらしく心くるしきものに思へりむすめおほかりときゝ
[1794]
てなまきむたちめく人〻もをとなひいふいとあまたありけりはしめのはらの二
三人はみなさま〱にくはりてをとなひさせたり今はわかひめ君をおもふやう
にてみたてまつらはやとあけくれまもりてなてかしつく事かきりなしかみもい
やしき人にはあらさりけりかむたちめのすちにてなからひも物きたなき人なら
すとくいかめしうなとあれはほと〱につけては思ひあかりていゑのうちもき
ら〱しくものきよけにすみなし事このみしたるほとよりはあやしうあらゝか
にゐ中ひたる心そつきたりけるわかうよりさるあつま方のはるかなるせかいに
うつもれて年へけれはにやこゑなとほと〱うちゆかみぬへく物うちいふすこ
したみたるやうにてかうけのあたりおそろしくわつらはしき物にはゝかりおち
すへていとまたくすきまなき心もありおかしきさまにことふえのみちはとをう
ゆみをなんいとよくひけるなを〱しきあたりともいはすいきおひにひかされ
てよきわか人ともさうそくありさまはえならすとゝのへつゝこしおれたるうた
あはせ物かたりかうしんをしまはゆくみくるしくあそひかちにこのめるをこの
けさうのきむたちらう〱しくこそあるへけれかたちなんいみしかなるなとお
[1795]
かしき方にいひなして心をつくしあへる中に左近の少将とてとし廿二三はかり
の程にて心はせしめやかにさえありといふかたは人にゆるされたれときら〱
しういまめいてなとはえあらぬにやかよひし所なともたえていとねんころにい
ひわたりけりこのはゝ君あまたかゝる事いふ人〻のなかにこのきみは人からも
めやすかなり心さたまりても物おもひしりぬへかなるを人もあてなりやこれよ
りまさりてこと〱しききはの人はたかゝるあたりをさいへとたつねよらしと
思てこの御方にとりつきてさるへきおり〱はおかしきさまに返事なとせさせ
たてまつる心ひとつに思まうくかみこそをろかに思なすとも我はいのちをゆつ
りてかしつきてさまかたちのめてたきをみつきなはさりともをろかになとはよ
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みすれはかみはよくしもみしらすそこはかとない物ともの人のてうとゝいふか
きりはたゝとりあつめてならへすへつゝめをはつかにさし出るはかりにてこと
[1796]
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[1797]
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[1798]
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[1799]
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[1800]
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[1801]
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[1802]
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[1803]
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[1804]
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[1805]
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[1806]
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[1807]
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ふかみはいそきたちて女房なとこなたにめやすきあまたあなるをこの程はあら
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[1808]
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なき子はなくやはあるとてむすめをひるよりめのとゝふたりなてつくろひたて
たれはにくけにもあらす十五六のほとにていとちいさやかにふくらかなる人の
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しと思ひてなてつくろふなにか人のことさまに思かまへられける人をしもとお
もへと人からのあたらしくかうさくに物し給ふ君なれは我も〱とむこにとら
まほしくする人のおほかなるにとられなんもくちおしくてなんとかの中ひとに
はかられていふもいとおこなりおとこ君もこの程のいかめしくおもふやうなる
ことゝよろつのつみあるましう思てその夜もかへすきそめぬはゝ君御方のめの
といとあさましくおもふひか〱しきやうなれはとかくみあつかふも心つきな
けれは宮の北のかたの御もとに御ふみたてまつるその事と侍らてはなれ〱し
くやとかしこまりてえ思給ふるまゝにもきこえさせぬをつゝしむへきこと侍て
しはし所かへさせんとおもふ給るにいとしのひてさふらひぬへきかくれの方さ
[1809]
ふらはゝいとも〱うれしくなむかすならぬ身一のかけにかくれもあへすあは
れなる事のみおほく侍る世なれはたのもしき方にはまつなんとうちなきつゝか
きたるふみをあはれとはみ給けれとこ宮のさはかりゆるし給はてやみにし人を
われひとりのこりてしりかたらはんもいとつゝましく又みくるしきさまにて世
にあふれんもしらすかほにてきかんこそ心くるしかるへけれことなる事なくて
かたみにちりほはんもなき人の御ためにみくるしかるへきわさをおほしわつら
ふたいふかもとにもいと心くるしけにいひやりたりけれはさるやうこそは侍ら
め人にくゝはしたなくもなの給はせそかゝるをとりの物の人の御中にましり給
もよのつねの事なりなときこえてさらはかのにしのかたにかくろへたる所しい
てゝいとむつかしけなめれとさてもすくい給つへくはしはしのほとゝいひつか
はしついとうれしとおもほして人しれすいてたつ御方もかの御あたりをはむつ
ひきこえまほしと思ふ心なれは中〱かゝる事とものいてきたるをうれしとお
もふかみ少将のあつかひをいかはかりめてたき事をせんとおもふにそのきら
〱しかるへきこともしらぬ心にはたゝあらゝかなるあつまきぬともをおしま
[1810]
ろかしてなけいてつくい物も所せきまてなんはこひいてゝのゝしりけるけすな
とはそれをいとかしこきなさけに思ひけれは君もいとあらまほしく心かしこく
とりよりにけりと思けり北方このほとをみすてゝしらさらんもひかみたらむと
おもひねんしてたゝするまゝにまかせてみゐたりまらうとの御ていさふらひと
しつらひさはけは家はひろけれと源少納言ひむかしのたいにはすむをのこゝな
とのおほかるに所もなし此御方にまらうとすみつきぬれはらうなとほとりはみ
たらむにすませたてまつらむもあかすいとおしくおほえてとかく思ひめくらす
ほと宮にとはおもふ成けりこの御方さまにかすまへ給ふ人のなきをあなつるな
めりと思へはことにゆるい給はさりしあたりをあなかちにまいらすめのとわか
き人〻二三人はかりして西のひさしの北によりてひとけとをきかたにつほねし
たり年ころかくはかなかりつれとうとくおほすましき人なれはまいる時ははち
給はすいとあらまほしくけはひことにてわか君の御あつかひをしておはする御
有さまうらやましくおほゆるもあはれなり我もこ北のかたにははなれたてまつ
るへき人かはつかふまつるといひしひかりにかすまへられたてまつらすくちお
[1811]
しくてかく人にはあなつらるゝとおもふにはかくしひてむつひきこゆるもあち
きなしこゝには御物いみといひてけれは人もかよはす二三日はかりはゝ君もゐ
たりこたみは心のとかに此みありさまをみる宮わたり給ゆかしくてものゝはさ
まよりみれはいときよらにさくらをおりたるさまし給ひてわかたのもし人に思
てうらめしけれと心にはたかはしとおもふひたちのかみよりさまかたちも人の
程もこよなくみゆる五位四位ともあひひさまつきさふらひてこの事かのことゝ
あたり〱のことゝもけいしともなと申又わかやかなる五位ともかほもしらぬ
ともゝおほかりわかまゝこの式部のそうにてくら人なる内の御つかひにてまい
れり御あたりにもえちかくまいらすこよなき人の御けはひをあはれこはなに人
そかゝる御あたりにおはするめてたさよゝそに思ふ時はめてたき人〻ときこゆ
ともつらきめみせ給はゝと物うくおしはかりきこえさせつらんあさましさよこ
の御有さまかたちをみれはたなはたはかりにてもかやうにみたてまつりかよは
むはいといみしかるへきわさかなとおもふにわか君いたきてうつくしみおはす
女君みしかき木丁をへたてゝおはするをおしやりてものなときこえ給ふ御かた
[1812]
ちともいときよらにゝあひたりこ宮のさひしくおはせし御有さまを思ひくらふ
るにみやたちときこゆれといとこよなきわさにこそありけれとおほゆ木丁のう
ちにいり給ぬれはわか君はわかき人めのとなともてあそひきこゆ人〻まいりあ
つまれとなやましとておほとのこもり暮しつ御たいこなたにまいるよろつのこ
とけたかく心ことにみゆれはわかいみしきことをつくすとみおもへとなお〱
しき人のあたりはくちおしかりけりと思ひなりぬれはわかむすめもかやうにて
さしならへたらむにはかたはならしかしいきおひをたのみてちゝぬしのきさき
にもなしてんとおもひたる人〻おなしわかこなからけはひこよなきを思ふも猶
今よりのちも心はたかくつかふへかりけりと夜一よあらましかたりおもひつゝ
けらる宮日たけておき給てきさいの宮例のなやましくし給へはまいるへしとて
御そうそくなとし給ておはすゆかしうおほえてのそけはうるはしくひきつくろ
ひ給へるはたにる物なくけたかくあいきやうつきゝよらにてわか君をえみすて
給はてあそひおはす御かゆこはいゐなとまいりてそこなたよりいてたまふけさ
よりまいりてさふらひのかたにやすらひける人〻いまそまいりて物なときこゆ
[1813]
るなかにきよけたちてなてうことなき人のすさましきかほしたるなをしきてた
ちはきたるありおまへにてなにともみえぬをかれそこのひたちのかみのむこの
少将なはしめは御かたにとさためけるをかみのむすめをえてこそいたはられめ
なといひてかしけたるめのわらはをもたるなゝりいさこの御あたりの人はかけ
てもいはすかの君の方よりよくきくたよりのあるそなとをのかとちいふきくら
むともしらて人のかくいふにつけてもむねつふれて少将をめやすき程とおもひ
ける心もくちおしくけにことなる事なかるへかりけりと思ていとゝしくあなつ
らはしく思なりぬわか君のはひいてゝみすのつまよりのそき給へるをうちみ給
てたちかへりよりおはしたり御心ちよろしくみえ給はゝやかてまかてなん猶く
るしくし給はゝこよひはとのゐにそ今は一夜をへたつるもおほつかなきこそく
るしけれとてしはしなくさめあそはしていて給ぬるさまの返〻みるとも〱あ
くましくにほひやかにおかしけれは出給ぬるなこりさう〱しくそなかめらる
ゝ女君の御まへにいてきていみしくめてたてまつれはゐ中ひたるとおほしてわ
らひ給こうへのうせ給し程はいふかひなくをさなき御ほとにていかにならせた
[1814]
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ゆ君もうちなき給て世の中のうらめしく心ほそきおり〱も又かくなからふれ
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[1815]
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[1816]
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[1817]
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[1818]
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[1819]
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[1823]
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[1825]
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[1826]
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つりつへくこそ思ひたりつれと少将とふたりしていとおしかる程に内より人ま
[1827]
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せたまふよし申さす右近心なきおりの御なやみかなきこえさせんとてたつ少将
いてや今はかひなくもあへい事をおこかましくあまりなおひやかしきこえ給そ
といへはいなまたしかるへしとしのひてさゝめきかはすをうへはいときゝにく
き人の御本上にこそあめれすこし心あらん人は我あたりをさへうとみぬへかめ
りとおほすまいりて御つかひの申すよりも今すこしあはたゝしけに申なせはう
こき給へきさまにもあらぬ御けしきにたれかまいりたる例のおとろ〱しくを
ひやかすとのたまはすれは宮のさふらひにたいらのしけつねとなんなのり侍つ
るときこゆいて給はん事のいとわりなくゝちおしきに人めもおほされぬに右近
たちいてゝこの御つかひをにしおもてにてといへは申つきつる人もよりきて中
つかさの宮まいらせ給ぬ大夫はたゝ今なんまいりつるみちに御車ひきいつるみ
侍つと申せはけににはかに時〻なやみたまふおり〱もあるをとおほすに人の
おほすらん事もはしたなくなりていみしうゝらみちきりをきていて給ひぬおそ
ろしき夢のさめたる心ちしてあせにおしひたしてふし給へりめのとうちあふき
[1828]
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しましそめてさらによきこと侍らしあなおそろしやかきりなき人ときこゆとも
安からぬ御有さまはいとあちきなかるへしよそのさしはなれたらん人にこそよ
しともあしともおほえられ給はめ人きゝもかたはらいたきことゝ思給へてかま
のさうをいたしてつとみたてまつりつれはいとむくつけくけす〱しき女とお
ほしててをいといたくつませ給つるこそなを人のけさうたちていとおかしくも
おほえ侍つれかのとのにはけふもいみしくいさかひ給けりたゝひと所の御うへ
をみあつかひ給ふとて我〱こともをはおほしすてたりまらうとのおはする程
の御たひゐみくるしとあら〱しきまてそきこえ給ひけるしも人さへきゝいと
おしかりけりすへてこの少将の君そいとあい行なくおほえ給このみこと侍らさ
らましかはうち〱やすからすむつかしきことはおりおり侍ともなたらかにと
しころのまゝにておはしますへき物をなとうちなけきつゝいふ君はたゝいまは
ともかくも思ひめくらされすたゝいみしくはしたなくみしらぬめをみつるにそ
へてもいかにおほすらんとおもふにわひしけれはうつふしふしてなき給ふいと
[1829]
くるしとみあつかひてなにかかくおほすはゝをはせぬ人こそたつきなうかなし
かるへけれよそのおほえはちゝなき人はいとくちおしけれとさかなきまゝはゝ
ににくまれんよりはこれはいとやすしともかくもしたてまつり給てんなおほし
くんせそさりともはつせの観音おはしませはあはれと思きこえ給らんならはぬ
御身にたひ〱しきりてまて給事は人のかくあなつりさまにのみおもひきこえ
たるをかくもありけりと思ふはかりの御さいはひおはしませとこそねんし侍れ
あか君は人わらはれにてはやみ給なむやとよをやすけにいひゐたり宮はいそき
ていて給なりうちゝかき方にやあらんこなたの御かとより出給へはものゝ給御
こゑもきこゆいとあてにかきりもなくきこえて心はへあるふる事なとうちすし
給てすき給ふほとすゝろにわつらはしくおほゆうつしむまともひきいたしてと
のゐにさふらふ人十人はかりしてまいり給ふうへいとおしくうたて思ふらんと
てしらすかほにて大宮なやみ給ふとてまいり給ぬれはこよひはいて給はしゆす
るのなこりにや心ちもなやましくておきゐ侍るをわたり給へつれ〱にもおほ
さるらんときこえたまへりみたり心ちのいとくるしう侍をためらひてとめのと
[1830]
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侍らすたゝいとくるしく侍ときこえ給へは少将右近めましろきをしてかたはら
そいたくおはすらむといふもたゝなるよりはいとおしいとくちおしう心くるし
きわさかな大将の心とゝめたるさまにのたまふめりしをいかにあは〱しく思
ひおとさむかくみたりかはしくおはする人はきゝにくゝしちならぬことをもく
ねりいひまたまことにすこし思はすならむことをもさすかにみゆるしつへうこ
そおはすめれこの君はいはてうしと思はんこといとはつかしけに心ふかきをあ
いなく思ふ事そひぬる人のうへなめりとしころみすしらさりつる人のうへなれ
と心はえかたちをみれはえ思はなるましうらうたく心くるしきに世の中はあり
かたくむつかしけなる物かな我身の有さまはあかぬ事おほかる心地すれとかく
物はかなきめもみつへかりける身のさはゝふれすなりにけるにこそけにめやす
きなりけれ今はたゝこのにくき心そひ給へる人のなたらかにておもひはなれな
はさらになにことも思いれすなりなんとおもほすいとおほかる御くしなれはと
みにもえほしやらすおきゐ給へるもくるしゝろき御そ一かさねはかりにておは
[1831]
するほそやかにておかしけなりこの君はまことに心ちもあしくなりにたれとめ
のといとかたはらいたしことしもありかほにおほすらむをたゝおほとかにてみ
えたてまつり給へ右近の君なとにはことの有さまはしめよりかたり侍らんとせ
めてそゝのかしたてゝこなたのさうしのもとにて右近の君に物きこえさせんと
いへはたちていてたれはいとあやしく侍つる事のなこりに身もあつうなり給て
まめやかにくるしけにみえさせ給ふをいとおしくみ侍御前にてなくさめきこえ
させ給へとてなんあやまちもおはせぬ身をいとつゝましけにおもほしわひため
るもいさゝかにても世をしり給へる人こそあれいかてかはとことはりにいとお
しくみたてまつるとてひきおこしてまいらせたてまつる我にもあらす人の思ふ
らむこともはつかしけれといとやはらかにおほときすき給へる君にておしいて
られてゐたまへりひたいかみなとのいたうぬれたるもてかくして火のかたにそ
むき給へるさまうへをたくひなくみたてまつるにけをとるともみえすあてにお
かしこれにおほしつきなはめさましけなることはありなんかしいとかゝらぬを
たにめつらしき人をかしうしたまふ御心をとふたりはかりそをまへにてえはち
[1832]
給はねはみゐたりける物かたりいとなつかしくし給て例ならすつゝましき所な
とな思なし給そこひめ君のおはせすなりにし後わするゝよなくいみしく身もう
らめしくたくひなきこゝちしてすくすにいとよく思よそへられ給ふ御さまをみ
れはなくさむ心ちしてあはれになむ思人もなき身にむかしの御心さしのやうに
おもほさはいとうれしくなんなとかたらひたまへといと物つゝましくてまたひ
なひたる心にいらへきこえん事もなくてとしころいとはるかにのみ思きこえさ
せしにかうみたてまつり侍はなにこともなくさむ心ちし侍てなんとはかりいと
わかひたるこゑにていふゑなととりいてさせて右近にこと葉よませてみ給ふに
むかひてものはちもえしあへ給はす心にいれてみ給へるほかけさらにこゝとみ
ゆる所なくこまかにおかしけなりひたいつきまみのかほりたる心ちしていとお
ほとかなるあてさはたゝそれとのみ思いてらるれはゑはことにめもとゝめ給は
ていとあはれなる人のかたちかないかてかうしもありけるにかあらんこ宮にい
とよくにたてまつりたるなめりかしこひめ君はみやの御方さまに我はゝはうへ
ににたてまつりたるとこそはふる人ともいふなりしかけにゝたる人はいみしき
[1833]
物なりけりとおほしくらふるに涙くみてみ給かれはかきりなくあてにけたかき
ものからなつかしうなよゝかにかたはなるまてなよ〱とたはみたるさまのし
給へりしにこそこれはまたもてなしのうい〱しけによろつのことをつゝまし
うのみ思ひたるけにや見所おほかるなまめかしさそをとりたるゆへゆへしきけ
はひたにもてつけたらは大将のみ給はんにもさらにかたはなるましなとこのか
み心におもひあつかはれ給ふものかたりなとし給てあか月かたになりてそねた
まふかたはらにふせ給てこ宮の御事ともとし比おはせし御有さまなとまほなら
ねとかたり給いとゆかしうみたてまつらすなりにけるをいとくちおしうかなし
と思たりよへの心しりの人〻はいかなりつらんないとらうたけなる御さまをい
みしうおほすともかひ有へきことかはいとおしといへは右近そさもあらしかの
御めのとのひきすへてすゝろにかたりうれへしけしきもてはなれてそいひし宮
もあひてもあはぬやうなる心はえにこそうちうそふきくちすさひ給しかいさや
ことさらにもやあらんそはしらすかしよへのほかけのいとおほとかなりしもこ
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[1834]
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給しはやとおほしいてゝむかしたれも〱おはせしよにこゝにおひいてたまへ
らましかは今すこしあはれはまさりなましみこの御有さまはよその人たにあは
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はいとはつかしくてしろきあふきをまさくりつゝそひふしたるかたはらめいと
くまなうしろうてなまめいたるひたいかみのひまなといとよく思ひいてられて
あはれなりまいてかやうのこともつきなからすをしへなさはやとおほしてこれ
はすこしほのめかい給たりやあはれ我つまといふことはさりともてならし給け
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むことをおほすか今よりくるしきはなのめにはおほさぬなるへしことはおしや
りて楚王のたいのうへの夜の琴の声とすんし給へるもかのゆみをのみひくあた
りにならひていとめてたく思ふやうなりと侍従もきゝゐたりけりさるはあふき
の色も心をきつへきねやのいにしへをはしらねはひとへにめてきこゆるそをく
れたるなめるかしことこそあれあやしくもいひつるかなとおほすあま君の方よ
りくた物まいれり箱のふたに紅葉つたなとおりしきてゆへ〱なからすとりま
せてしきたるかみにふつゝかにかきたるものくまなき月にふとみゆれはめとゝ
め給ふほとにくたものいそきにそみえける
  やとり木は色かはりぬる秋なれとむかしおほえてすめる月かなとふるめか
しくかきたるをはつかしくもあはれにもおほされて
  里の名もむかしなからにみし人のおもかはりせるねやの月影わさと返りこ
とゝはなくてのたまふ侍従なむつたへけるとそ