歌舞伎劇;修善寺物語(下)
- Lyricist / composer / arranger / performer
- 岡本 綺堂∥原作, 市川 左團次, 市川 壽美蔵, 市川 松蔦
- Label
- コロムビア(戦前)
- Genre
- 歌舞伎
- Publication date
- 1931-06
- Category (AI-assigned)
- 歴史
- Keywords (AI-assigned)
- 鎌倉勢, 夜襲, 将軍, 姉妹, 悲劇
- Notes
- 商品番号 : 35156, デジタル変換後ノイズ除去 : ノイズ除去なし, 歌舞伎劇
これより表に。これ、傷はそうござりまするぞ。心を確かにお持ちなされませ。
お、妹。ある日子供、父様はどこにじゃ。
何、よ、侍臣と思いのほか。
お、娘か。
姉さまか。
上さまお風呂を召さるおりから、
鎌倉勢が不意の夜打ち。
味方は五人ず、必死に叩こう。
女でこそあれこのかつらも、
五方向をはじめの五方向をおさめに。
この表をつけ、お身代わりと左足の分別。
月の暗いを幸いに、
うちものとって庭に降り立ち。
先のよりいえこれにありと、
呼ばわり呼ばわりはせいずれば、
群がる敵はよめ遠め、
まことの上さまぞと心得て、
うちもらさしと追いかくる。
何、上さまを身代わりとなって、
その表にて敵を欺き、これまでおしのびまい。
われわれすらも侍しると見誤ったほどなれば、
敵の欺かれたも無理ではあるまい。
とはいうものの浅ましいこのお姿、
姉さま死んで下さりまするな。
いえいえ。
主が伏せやでいたずらに、
百年千年生きたとて何となろう。
たとえ一時半時でも将軍家のおそばに召され、
若さのつぼねという名をもたまわる上からは、
これで出世の望みもかのうた。
死んでも私は本王じゃ。
たいへんじゃ、たいへんじゃ。
かくもってくだされ、かくもってくだされ。
ああ、ここにもておいが。
お、かつら殿。
こなたもか。
して、上さまは。
おいたわしはごさいんごじゃ。
ええ。
上さまばかりか。
ごけらいしゅうも、おおかたはきりじに。
わしらはさばずえのけがせのうちと、
いのちからがら逃げてきたのじゃ。
では、お身代わりのかいもなく。
ついにやみやみごさいんごか。
これ、これ、おたしかに。
これ、姉さまのおととさま、
姉さまが死にまするぞ。
姉は死ぬるか。
姉もさだめて本王であろう。
わしもまた本王じゃ。
いくとび打ちのおしても、
このおもてに思想のありわりとあらわるるは、
わがさくのつさなきにあらず、
にぶきにあらず、
けんじのしょうぐいよりんえきょうには、
かくあいなるべきごぶんのすえとは、
いまといういまをはじめてさとった。
かみならでは、
しろしめされぬしとのうんめい。
ます、わがさくにあらわれしは、
しぜんのかんをしぜんのみょう。
ぎげえしんにゆるとはこのことよ。
いずのやしゃをわれながらあっぱれ。
てんのいち。