母子草 巻之下

source
oai-pmh-kyushu
created_at
2026-08-17T18:54:31.458Z
field_date
1799
field_type
book
updated_at
2026-08-17T18:54:31.458Z
field_rights
パブリックドメイン
field_creator
児島, 頤斎, コジマ, イサイ
field_category
医学
field_language
jpn
field_has_image
true
field_publisher
松本屋平四郎
field_identifier
oai:catalog.lib.kyushu-u.ac.jp:2324/4706036
field_ocr_status
completed
field_title_yomi
ハハコグサ
field_attribution
九州大学
field_title_other
産科母子草
field_ocr_updated_at
2026-08-28T18:53:25.651810+00:00
一、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、〇〇 母子草下 十一日上て目切 一吉田屋 母子草下 AB ○産後養生の心得 一産後はやく浴するをいむ事 産後手足をあらひ。あるひは腰湯行水するは。きはめて遅 きをよしとす。礼記に子産れては。三月の末にして母ゆあみす べしと見えたり。又陳自明は髪をゆひ足をあらふことさへ。百日 をもて期とするといへり。まして腰湯行水をや。日数たゝざるう ら堅くいましむべし。近世のならはせにて。産後六日あるひは八 日目を。産屋をきよむる日とさだめて。産婦は塩をかくなど いひて。手足肩までもあらひ。甚しきは腰湯行水して。 髪をゆひ身をよそほふものあり。それより邪気おそひ熱いで。 湯茶をこのみ。小便すくなくして。水腫となるものあり。あるひは 熱つよく身すくみ。蓐風といふ病となり。終にはすくひがたき にいたる。これ予がひたすら見ることころ。挙てかぞへがたし。されば百 年にちかき。幡玄春の書にも。産後はやく浴して死したる もの。いかほどゝいふ数をしらず。中にもあづれなりしは。江戸 深川白羽氏の妻。はじめて産せしが。臘月のすゑにて。新玉 の春をむかへ。御年神のおはしますころなれば。もしけがし奉り て。そのばちのあたりなんもおそろしと。なきかこちければ 是非なくゆるして。髪ゆひ湯あみさせしが。にわかに呼吸すたき。 身すくみ。心くるしく。目を見つめて死せり。生血のけがれと。死 者のけがれと。いづれ重からんや。よくその理をさとり。祝ひ の日ならば。猶さら養生を大切にすべしといへり。しかるに香月 牛山翁は。名医の誉れある人なりしが。いかゞおもはれけん。産 婦なやみなく。気力平日のごとくにて。産後四日もたちなば。 なべて腰湯をなすべしといひ。又夏日は産婦あつきに苦 みて。神つかるゝものなれば。かならず七日の外とかざるべからず。 三四日の比は腰湯すべしと。腰湯の法くだ〳〵しく記せり。翁 いまだ腰湯の害あることを知ざるは甚いふかし。世の人よく心 得て。翁の書にまどふことなかれ。たとへ気力つねのごとく。又 夏日のあつき比といふとも。ゆあみする事。大抵三七夜にも } } 同一 およばずば。堅くいましむべし。 ○ゆあみの事。ひたすら是を制すれども。かたいぢなる産婆は。 たま〳〵ゆあみして。害をうけざる余所の産婦を證拠とな して。医のいさぬは打けして。かくれかくして。すゝめてゆあ みをなさしむるものあり。必く産婆の教にまどふこと るかれ ○産後の禁戒は。凡ゆあみを第一とすべし。必かろく心得る ことなかれ。しかるにそれは慎ずして益なき戒めを守り て。寝るにも快く寝しめず。のべたき足ものばさずして。却て 病を生ずるものあり。筆のついで。寝しめやうをこゝに図す。 中巻産後心得の段あはせ見るべし。 二血暈の事 血暈は。おほくは出産のとき催ながく。努力ことつよくして。精 をもみ神つかれてよりおこる。うまれつき虚弱にして。物に おどろきやすき婦人は。産はやすかりしも。また血暈おこる ものあり。あるひは産おとすと直に起て身をうごかしおこる もあり。あるひは産後日のたゝざるに。心を労しぬることあり ておこるもあり。妊めるうちより。かねて心得べきことなり。 ○血暈おこるとき脈伏し。あるひは手足ひゆるものあり。 傍なる人よく心得べし。もし他症に気もつかでたゞ脈の 伏すると。手足のひゆるとを見て。あはてさわぎ。一概にあや ふしとのみおもひ。みだりに人参附子の剤を用ひ過し。 かへりて害をまねくことあり。薬を用ゆるは。深く心得あるへ き事也。かならず庸医にゆだぬることなかれ ○京師ある儒生の妻。火災の後。簷あさき家にて。日にむ かふて産せしが。にはかに血暈おこれり。その勢ひやすからざ れば。手術もつき。人蔘の独煎おほく用ゆれども験なし えより胞衣いまだ下らざれば。是必死の症なりと。医師 何がし。大におそれて在しが。主心つきて。産後気うみ。体 よはりしに。日の光これを射るゆへこの症おこるならんと。 いそぎ戸をもて日をおほへば。しばらくして血暈おさ まりしとなん。かゝる類のことかねて心得べし ○急肉は産婦あつきに苦むゆへ。汗いで心いきれ。気のぼるも のなれば。血暈おこること多し。まづ障子をひらきて涼く し。庭にも水をそゝぎ。傍なる人をすくなくして。居間の むせぬやうにすべし 一血暈以下の四症は。産後まゝ有ことなれば。かねて心を 医によせて。会得すべき事也。用ゆべき薬こゝにしるす 血暈には・すべて左の加味の方をよしとす 生化湯に。中巻に出す荊芥穂の炒たるを二分加へて宜し 産後の病は。すべて悪露の多少をとふを肝要とす。 ○悪露くだること少く。血のぼり気ふさぎて血暈発るは 上の方に又牡丹皮二分紅花一分を加ふべし ○悪露くだること多くして。血おとろへ気のぼりて発るは。 一牡丹皮紅花を去。人参三分黄莨三分を加ふべし。すべて 鎮神散おり〳〵用ゆべし ○人参を択こと。常に心得あるべし。第一朝鮮の産を上 品とす。横にほそき紋ありて。堅く実し。潤ありて色黄 に。味ひ甘くして微苦みあるものを良とす。肉折人参。鬚 人参。小人参などいふものあり。偽りつくれるもの多し。誤り 用ゆることなかれ。幸に御種人参あり。是は朝鮮種を移し 一植しものなれば。真の人参に紛なし。すべて是を用ゆべし 又広東人参と称するものあり。気味は人参に似たれど も。是は三七といふ物にて実は人参にあらず。されど婦 一人の血症を治するは。三七に北ものなしと。張受孔が医 一便に載たり。予もひたすら試るに。産後の虚症には。 一大ひに験あることを覚ふ。人参にかゑ用ゆるも宜し 鎮神散中巻に出す この薬は神をしづめ。血をおさむるを主とする也。 三寒戦の事 さむけありて手足ひえ。歯をならしてふるふは。其あとにて 熱発もの也。先あつく着。あるひは頭まても覆て。後よりい だきしづめて。ひたすら熱きものを飲しむべし。熱さし汗いて て寒戦やむ也。寒戦ありて血暈おこるもあり。血暈して寒戦 いづるもあり。されど懐妊のあいだ。保養よくして。体気おとろ へざるは。たとへ寒戦つよくとも。さまで驚き気づかふべからず。 たゞ傍をしづかにし。又産婦も神をおさめて。熱の発をまつ へし 生化湯よろし。悪露くだること少きは。腹いたみ。あるひ は腹はるもの也。本方に桂枝三分芍薬六分を加ふべし。 ○悪露くだることおほきは。身たゆくして力なく。また 一ひたすら血暈おこるもあり。本方の桃仁を去。人参 三分芍薬六分を加ふへし ○寒戦やみて熱発。その後は日々熱の往来ありて。頭 いたみ。心下つかへ食に味なく。あるひは口舌かはきて湯 一水をこのむは。本方に。麦門冬六分柴胡三分加ふべし。 一大便とぢて通ぜざるは。潤膓丸上巻に出す五六分用ゆ へし ○熱ゆるけれども。日を引て愈かね。何となく気色お もく。手足だゆく。頭ふらつき。汗もれやすく。湯あれ ども冷物をきらひ。あるひは大便ゆるみ。体つかれたる は。本方に黄甚三分茯苓七分荷薬一分を加ふべし ○産後の熱は。虚実をわかつを肝要とす。療治たがへば 一産婦をそこなふこと多し。深く心を用ゆべき事也 腹いたむ事 少腹にて痛むを児枕痛といふ。多くは悪露つきざるの所 為也。かならず驚くことなかれ 一生化湯に。延胡索五分牡丹皮二分芍薬七分を加へ てよろし ○悪露くだらず。大便通じなく。少腹のこばみやはら がずして。刺が如く痛むは。上の方をあたへ又潤腸丸 五六分相用ゆへし ○悪露よく下り。少腹やはらげども。食すゝます。気力よ はくして痛みやまざるは。山檀子一匁五分白砂糖一匁二 味の煎湯も宜し ○悪露よく下り。二便つねのごとく。食すゝみて他のなや みなきは。たとへ少腹はりて。塊ともおぼしきものあり とも。必はげしき薬をあたふることなかれ。是気凝結れ 一て脹をなす也。大抵七八日すぐれば。自然と和ぐへし ○腹いたむもの。後には腰背へひき。又手足へつりて痛み。 起居しがたきは。本方に。没薬五分五霊脂四分を加ふべし 一婦人一切の血痛。この方を九子と成。生姜湯。あるひは酒に。 て用ゆべし。されど産後日数たゝざるには。酒はかならず忌べし 五崩漏の事 はからず亡血するを崩漏といふ。血下りて支へがたきを崩と いひ。じみ〴〵下りてやまざるを漏といふ。すべて容易の症にあ らず。その発る因をかんがふるに。みな保養あしきゆへなり。産 後いまだ日数たゝざるに。はやく起て身を労し。神をいため。 あるひは髪をゆひ。腰湯をなして風にあたり。あるひは日を 歴ざるに。みだりに交合して精神をやぶり。終にはこの病お くるなり。産後の急症は。崩漏より甚きはなし。常によく心得 保養を怠ざるやうにすべし ○崩漏の症おこらば。傍なる人よく心得。はやく産婦をして。 頭のかたを高く成。横に寝しめ。両股をおしよせて。陰門のとぢ あふやうにすべし。されど血くだりて止がたきは。又やはらかなる 木綿。あるひは綿絮をもて。まろく成。陰門にあて。つめとなす も宜し。血くだる事自然とゆるくして大に益あり。 一生化湯の桃仁を去。伏龍肝一匁地黄五分艾葉 一分を加へて用ゆべし ○口舌かはき。心いきれ。大便とぢ。あるひは大便ゆるめども 一色黄黒くして熱あるは。上の方のうちへ。又黄連二分黄 一今二分を加ふべし ○手足ひえ易く。渇なく。あるひは渇あれども。熱もの をこのみ。射おとろへ。気つかれ。折には血暈おこるもあり。 その他虚症みゆるは。黄連黄芩を去。人参三分黄藍 三分 三分何首烏五分を加ふべし ○崩漏の症は。一旦血くだる事やみても。身だゆくして力なく。熱 気ありて頭眩。あるひは心下ふさぎて動悸つよく。あるひは神 うみ。気おとろべ過しことを悔み。来ぬことを苦にやみ。あるひは 神よはり魂うすくして。ひたすらもの忘れし。あるひは手足 しびれ。百節いたみ。起居つねの如くならず。これ崩漏にあらざる ば。産後は。古の症おこること多し。すべて気血のおとろふるより発るも のなれば。かならず大切に保養すべし。日を追ひ。月をかさねて。気血 よくとゝなふれば。自然と愈るもの也。用ゆべき薬左にしるす。久しく この薬を服すべし 生化湯の桃仁を去。人参三分小麦五分遠志二分荷葉 一分を加へて宜し。心いきれ口舌かはくには。又脊門冬五分 を加ふ。熱あるには柴胡二分を加ふ。汗いづるには黄茎二勺。 を加ふ。眠がたきには酸棗仁二分を加ふ。大便秘するには 一潤膓丸五六分相用ゆべし ○以上の四症。すべて生化湯加味の薬を挙しは。予が したしく試るところ也。懐妊のうちより。常に保養よ ければ。産後右等のなやみを生ぜず。たとひ病とも。大抵 この薬にて治せざるはなし 六浮腫の事 産後の浮腫は。まゝあること也。手足面に腫みゆるとも。腹に 脹なく。小便よく通じ。大便つねの如く。気色よく。熱の往 来なく。食相応にすゝみて。他の悪症なきは。二七夜ほど過。 気血とゝなふれば。自然と愈るもの也 ◯産後足に腫みゆれば。母居ずまひあしくして。足をのぶ るゆへなりと。世俗の習ひにて。堅くこれを制する人あり。さ れど予ひたすら試るに。一七夜のあいだも。産椅のうちに坐し 昼夜足をかゞめしもの。かつりて足大にはるゝものあり。これ久し く坐して。足のめぐりあしきゆへ腫る也。足をのばせば睡いゆ ることあり。能々気をつくべし。産後の腫はすべて血へり。気 めぐらずして発るをしらざるゆへ也。懐妊のうち。保養よくして。 気血つねにみちぬるは。たとへ産後浮腫みゆるとも。日を追て自 然といゆべし ○産後の腫は。第一湯行水をいましめ。神をしづかにして保養す べし。俗説に。産後手足に腫はゆるは。塩湯をもてこれをあらへば。腫 よく愈るといふ。これ大なる誤なり。体つよきものは。たま〳〵その害な けれども。虚ものは。それより風を感て。腫いよ〳〵増。終には大病にお よぶ。夏日のあつきにも。かたく湯行水をいましむべし ○懐妊のあいだ。すべて保養をつゝしまず。夏日のあつきには。生 冷のものをむさぼり。冬夜のさむき時は。長湯することを このみ。産前よりひたすら風を感。あるひは食物にやぶられ。 その後瀉下の気味やまず。日をひきて欲身に腫見へ。気色 おもく。手足の心ほめき。身だゆく口かはきて食味をうしな ふものあり。幸に産はやすかりしも。亡血おほきにつれて。体 気つかれ。虚火いよ〳〵うごき。心いきれて湯水をこのみ。終 には腫まして大疵となり。もとより補をうけずといふ場に なりゆけば。薬の験なし。この期にのぞんでおごとろくとも詮な し。たゞ懐妊中の保養を大切と心得べし。薬方数多あれ とも爰にのせず 七前陰疵つき痛む事 出産のとき。前陰損ずるは。初産におほくあるもの也。されど気よ はき女は。あらはにも得いはずして。己ひとり心を労するもの也。 傍なる人よく心得て。この方より気をつけ。急に薬を用ゆべし 洗陰湯家方 一苦参八分蛇床子六分芒硝一匁枯礬五分一 金銀花五分 右五味こまかに刻み。水三合入壱合半に煎じ。土器 に入置火にてあたゝめ。昼夜三度ばかり。絹にひたし 洗ふべし。疵愈がたきは。洗ふて後左の粉薬を ふりかくべし 龍腦散家方 一赤石脂一匁竜脳一分乳香三分没薬三分 麒麟血三分軽粉一分 一右六味細末となし。合せ用ゆべし。いか程疵つきた るも愈ざるはなし ○前陰の損ずるは。多くは出産の時産婆とりあつか ひあしてゆへなり。常によく心得産婆の工拙をえらぶべし 八肛門脱る事 肛門いでば。先ふるかき綿。あるひはやわらかなる木綿をもて。茵陳 湯にひたして蒸洗ふべし。又猪脂をぬりて。心しづかに掌に ておさめいるゝも宜し。みな産婦の心益なき。才覚なる 人になさしむべし。もし一度にていらずとも。必おとろくこと なく。又前のごとく幾度も蒸洗ふべし。自然としほみいら さるはなし しゆつさんときいきむ ○産後肛門の脱るは。多くは出産の時努力ことつよくして 精をもみ気をはり。覚えず翻り出る也常々よく心得て。 産にのぞみ陣疼つよくして。肛門もいづる心地に覚えば。 刀ある人をして。掌をもて肛門をおさしむべし。然るときは 肛門いづることなく。又前陰への張も力ありて出産しやすし 茵陳湯家方 一茵陳一匁五倍子一匁五分当帰一匁五分苦参一匁 一右四味水三合いれ一合半に煎じて用ゆへし 九蓐風の事 この症の発るは。初は何となく気分おもく。寒けありて熱 おこり。汗出るあり。汗出ざるもあり。頭いたみ。起居やすからす 熱去ずして身いたみ。心さわぎて得ねむらず。見るものに おそれ聞ことにおどろき。舌すくみて言語わかりがたく。 あるひは得ものいはず。あるひは人をも得見わかざるかたち にて笑。あるひは腎。物怪のなせる事にやと見ゆるものあり。 又おもき症は。惣身熱つよく。口かはき。唇さけ。譫語おほ く。喉かはきて水をこのみ。呼吸すだき。目を視つめ。口噤て 沫をはき。角弓反張とて。つよき弓のかへりたるがごとくにし て。手足をなげうち。身強直煩乱して死するものあり。又病勢ゆ るくして。一旦死をまぬかれたるも。日をひきて愈かね。終には 癇症鬱症の病を生じて。廃人となるものあり。是みな産後傑 養あしきゆへ也。薬方はこゝに載ず。産後浴をいましむの段合 せ見るへし 十蓐労の事 十一 産蓐に在てやめる労症ゆへ。名づけ蓐労といふ。まづ頭お もくして眩暈。耳鳴。食すゝまず。寒ありて熱おこり。折々 咳し。口中かはき。あるひは大便ゆるみ。あるひは盗汗いで。あるひ は眠りこゝち悪して。何となく気色おもく。あるひは血下りて久 しく止ず身いよ〳〵痩て。脈も次第に数なるもの。これ多くは 救ひかたき症也よく心得て保養を大切にすべし ○産後は気血おとろふるものなれば。すこし風を感じても。 恋去かたくして次第に重り。この症を引おこす事はなは だ多し。すべて産後は。風寒を恐るゝこと。平生に百倍すべし。 ○懐妊のうち色慾をたつと。公気をいためざるとの二ツを。大切 につゝしみぬれば。蓐労とおぼしき症あらはるゝとも。真 元つねにみちぬるゆへ。日を歴てをのづから愈る也 ○蓐労のかたち大抵そなはりたるも。幸に快気のみちに いたりなば。なを〳〵保養を大切にすべし。全体この症は気 血のおとろふるより発るものなれば。二年三年の久しきも かたく色慾をつゝしむべし。たとへ滋味補薬いかほど用ゆ るとも。この慎みなければ。百人。か百人。快気をとぐるものなし。 しかるを誤りて。世俗の浮説にのみまどひ。かしこの霊符。こ この妖祠と。四方にさまよふばかり。まことに籠にて水をつ るといふ諺にひとしくして。善候の見ゆる理あらじ。古人。一 のこと葉にも。沸をやむかに泉をもてせんよりは。まづ薪を 書にはしかず。病をいやすに薬をもてせんよりは。まづ色をた つにはしかず。色をたゝざれば。病ます〳〵甚といへり。蓐労の保 養も。服薬餌食を第二義と心得べし。とかく志ふかき医師を ゑらびて。その数にしたがふをよしとす 十一産後雑症の事 土 産後は。時行病。その外瘡腫といへども。かならず平時の人と同 じ事におもふことなかれ。たとへ病勢ゆるく見ゆるとも。心をとめ て介抱すべし。産後の発病は前段にしるしぬれども。その遺漏 をこゝに出す。前陰ひらきて合ざるあり。前陰突出ものあつ。子宮 いでゝおさまらざるものあり。是みな出産の時。努力ことつよくし てはり出す也。各その治術あれども。こゝにのせず。たゞ産する時 の心得を専要とするゆへなり。また口舌たゞれて痛ものあり。腹中 には食をおもへども。舌いたみて咽へとほりかたく。其かたち大病に 見ゆれども。日を歴て気血とゝなふれば。自然と愈るものなり。 されど懐妊のうち身持あしく。あるひは短慮にして。心の火 のきゆる間なきは。産後血おとろふるにしたがふて身やせて熱 をこり。口舌かはきて痛まし。終には命をうしなふに至るも のあり。すべて女は鬱怒おほくして。心の火もえ易ものゆへ平生 にも口舌あれ。歯牙いたむものおほし。況や産後は血へるもの なれば。虚火うごきて口舌いたみ易し。とかく薬治より。色慾 を慎むと。思慮をすくなくするを専要也と心得べし。産 後の薬方委くは母子方鑑に出す ○産後脈のすゝむもの。喘のごとくにして呼吸すたくもの。 胸いたむもの。この三ツの症一ツにてもあらば。外にあしきかた ち見えずとも。軽く心得る事なかれ。いそぎ医師をこふ て。診察をうくべし。薬をのめば乳の出るを害するとて。 かたく俗説をまもるは大なる誤り也。よき医者の心得た る薬は。少しも乳に害は無き也。症あらば急に薬を用ゆべし。 もし薬を用ひずして。その身むなしく成ゆかば。詮なき ことならすや 十二産後はやく交合するをいむ事 千金方に。産後百日のあいだは。かたく交合をいましむべし。し からざれば。一生身やせて百病を生ずるといへり。されば近世産 婦をこゝろみるに。産後なにの悩なく。起居つねの如きもの。 三四十日すぐる比。にはかに気色あしく。熱をこりて亡血するも のあり。あるひはなにとなく気色おもく。その後次第に身や せて。諸の悪症をこり。蓐労となるものあり。あるひは急症に て蓐風のかたちをあらはすものあり。是おほく産後身持あし きゆへ也。よく〳〵慎むべし ○産後経のめぐるは。乳をのまざれば。はやくめぐるもあれども。 乳児ある婦人は。大抵一年も歴ざれば。めぐらざるものなる。 しかるに百日にもおよばずして。経の見ゆるは。多くは身持 あしくして血うごき。その期をまたずしてめぐるなり。 母その身のためあしきばかりか。血へり乳汁つねにみた ざれば。育へる児まで。力またずしてそだちかたし。是婦 かく心得つき也 ○産後身様をつゝしむこと。百日とかぎるも。大概をいふなり。 もし病あらば。日数にかゝはらずして。堅くいましめつゝしむ へし。千金方に。婦人産するときを恐るべからす。産して後は 恐れて保養をつゝしむべし。しかるにたゞかりそめのこととお もひ。保養を犯し怠りて。わづかに秋毫ほどのあやまりも。 病を生ずるにいたりては。嵩岱の如し。いかんとなれは産後 の病は。他の病より愈かたければ也。大病となり苦み臥して は。告べきかたもなし。たとへおほくの財宝をなげうち四方 に医師をもとむとも。詮なきこと也。志ある人これを精熟 すべしといへり 一果しなきくり言なれども。世の人つねに安産をいの る事は。高きも卑きもおなじ。されど出産は。もと自然 の理にして。その養ひもまた自然の理あることをわき まへず。おほけなくも。かの神功皇后の御安産まします は。懐妊の養ひ道にかなひ。金革をかふむり。風波を犯 したまふ旅路にも無益に聖慮を苦めたまふこと なく。寛厚温柔にして。慎むべき事を慎みたまふ 一故なるべし。古も今も火はあつく水は冷なるがごとく 一天地間の道理において。かはることなし。今の世の 一妊婦といへども。自然の道理をわすれず。その養ひ の道にそむかず。慎べき事をよく慎みなば。朱門のう ちに月日をおくる御身より。茅屋の下に雨露をしの で輩まで。無産うたがひなし。たゞ前にしるしぬる。 戒慎の二字を忘れざるこそ専要なれ。 母子草下終 余が先子艮山世に在せし時つねに人に対し こ貴も賎も父母につかへ妻子ある人は医の道 を学び心得ざればおもほえす不慈不孝になり なんと唐土の書など引て教訓せられしとか その治療のをしへもすべて簡易にして用に 切なるを本とすこのことわきてふかき心ありと いへどもたゞ人の弁へやすく行ひやすきを主と せりさるに近きころとなりては医の風義も 移りかはりぬるを播磨の頤斎児島へしひ とり艮山の人ごとに医をしらしめんの志を 慕ひて母子草てふ書を著せりされば妊娠 は疾病にあらずもとより天地生化の道なる を世の人その理に闇きゆゑに測らざる患ひを まねくぬし深く咲きて摂養をあげ賎夫 賤婦まで理会しやすからしめんと国字を もてねもごろにさとしぬ妊娠の家つねにこ の書をもて戒慎の法とせば幾万の人の鴻益な らん幸に長く世に伝へて艮山のをしへと共に朽 ざらんこそ作者のほゐならめ此ころ梓に繍めん として家にはかるおもふにぬしの為人や廉直 温雅にして常に心を医にひそめ富貴利達 にかゝはらず只一すぢに世をすかふに切に朝な 夕な倦ことなしはたかしこくも余が先子の 意を続るを嘉して我をわすれ数言を領し て巻の尾に証すといふ 寛政八年丙辰の冬平安後藤徽識 ○加賀屋 大也 尚善児嶋先生著 こと 保産心法 近日出来 保産心法合刻近日出来 全嬰心法 書林 江戸日本橋南壱丁目 須原屋茂兵衛 京都御幸町御池下る 菱屋孫兵衛 大坂心齊橋筋北久太郎町 河内屋喜兵衛 同高麗橋通心齊橋 松本屋平四郎