とりあげばゞ心得草 2巻
- creator
- 池田清年
- created_at
- 2026-08-17T19:23:20.652Z
- updated_at
- 2026-08-17T19:23:20.652Z
- field_notes
- 場所: [出版地不明]
- field_rights
- CC0
- field_creator
- 池田清年
- field_language
- 日本語
- field_has_image
- true
- field_publisher
- [出版者不明]
- field_identifier
- 10010000024877
- field_ocr_status
- completed
- field_title_yomi
- トリアゲババココロエグサ
- field_attribution
- 東北大学
- field_title_other
- ザバココロエグサ
- field_oai_datestamp
- 2025-11-13T06:41:51Z
- field_oai_identifier
- 10010000024877
- field_ocr_updated_at
- 2026-08-28T18:53:25.651810+00:00
将監
一名坐婆必研
一名坐婆必研全
とりあげばゞ心得草
『荒井恭姫氏の歌
以テ購入セル竹関博士
一狛亭吉氏善蔵一
文記次
家震
天保甲午新鐫
革翰著統
一王
ほね
〇
登りあげばゝ
○
こゝろえぐさ
〇
一名油婆必研
同じ
NHEE同日同日回LEEELELEV
上の巻
上の巻
子宮胞衣の形状および懐孕の事をとく
懐妊をしるべき大略をしめす
鎮帯産椅の利害をとく
胎の椅側を整復すべき術を示す
子宮の位置を探て知べきことを示す
生草分娩および胞衣を下し蓐に臥しむべきことを示す
臨産に坐婆の心得べきことをしめす
下のまき
産前後の病に坐婆のこゝろえべきことをしめす
児の頭を露して産かぬるものを救ふ術をしめす
逆産をとりあぐる術をしめす
坐産をうますべき術をしめす
横産を救ふ術を示す
児胎を飜轉し産しむべき術をしめす
攣胎をとりあぐる術をしめす
産後に坐婆の心得べきあらましをしめす
以上十五个條
□□□□□□□□□
昔ひとの国に。草をつかねて人形として。いはきの
めくりになむ。たておまたにしを。中むかし
の頃。木して。其面やうあし手を了て。さたかに。夫と
わくへて造なして。是をなむ物せしかは。くしの
聖の。いたくにくみて。さるわさする人の世継は。
必給ぬへしとなん。の給ける。さるは。天地は。物をお
ほし立簡をしも。其心とすめれは。草木の枝たに。
やうなまには。爰に折紅こと字はましむる習なるに。
上の巻
子宮胞衣の形状および懐孕の事をとく
懐妊をしるべき大略をしめす
鎮帯産椅の利害をとく
胎の椅側を整復すべき術を示す
子宮の位置を探て知べきことを示す
坐草分娩および胞衣を下し蓐に臥しむべきことを示す
臨産に坐婆の心得べきことをしめす
下のまき
産前後の病に坐婆のこゝろえべきことをしめす
児の頭を露して産かぬるものを救ふ術をしめす
逆産をとりあぐる術をしめす
坐産をうますべき術をしめす
横産を救ふ術を示す
児胎を翻転し産しむべき術をしめす
攣胎をとりあぐる術をしめす
産後に坐婆の心得べきあらましをしめす
以上十五个條
門次文文
昔ひとの閉に。草をつかねて人形として。いはきの
めくりになむ。たておまたにしを。中むかし
の頃木して。其面やうあし手を了て。さたかに。夫と
かくへて造なして。是をなむ物せしかは。くしの
聖の。いたくにくみて。さるわさする人の世継は。
必給ぬへしとなん。の給ける。さるは。天地は。物をお
ほし立簡をしも。其心とすめれは。草木の枝たに。
やうなまには。爰に折紅こと字はましむる習なるに。
かり所めにも。人の形しろう。かく土に埋る事は。心
有ものゝ。忍せ難きもなれはなりは。まして。誠に
人と在物字。せため告する所。いとなさそなく。
うたて有わさなるへけれ。今よにとり挙うはと云
て。人の子生ぬるわけを。わたらひとするものもの有。大
方は。口治もいとほしみ。あはれかる心はなくて。おころし
う。道ましけに見あつかひ。ともすれは。さわやか成
人てもそこなひ。徒にもすめ理。かゝれと。おの心一つには。
世にし百人なしところ。思ひたらめと。いかてか。天地の神の
見もゆ事給へき。抑かく。大御いいつくしみ至らぬ
限なき。聖の御代にしも遅くれし。天さかる鄙は更なり。
うち日さめ都あたりにも。またかゝる腹黒きか。
なれ〳〵二は有て。人字あやおくるも多かりとか。是只。
其王さをなりたひとのみ思て。人のひと有道
を。得たとらぬか故なりかし。おのれ若かりし時より。薬
之の有を守な飛たれと。さえつたなく。心愚にして。
人足に病常たるふわさもえせねは。おふけなし。こゝ
らの人をすくはむ事は。懸ても思はす。唯深きあ
やまち少くて。天地の神にもにく馬れ奉らし。親の
かとたゝひもかなと。思心さしのみたゆみなして。としよ所
ち余と云。今に置ぬ。ことか中に。人の児生するわさ
はしも。ゆ敷たはやすからねは。深くものゝあたれし
りて。助にわたはらむ。もはかり。すへかりけれ。こは
薬しの才にも。おくねとあつかふめるかあれは。取たてゝ
かく。おのれかあつかるへき事にしもあらねと。たま〳〵
おもひ得たるももあれは。人にもしとしめ。自も試
てゝ。其しるし有もとも近。過にし頃。かく二巻の
草子には。物せしなりけり。こは唯ひたやこに。彼子の
心もえぬとりあらうはの。あさな事もやめて。深き
あ屋まちあらしめしとはかり。なま手をさへ出して。
曽こはかとなて金縄たるは。返て人わらへ
になむ有へき。い侍や。かゝる王さは。ほと〳〵の
おそむけ。となる物にしあれは。所れよくも思ひ
たとらて。たゝちに是を人に成むとせえ。ようせ
すむ。中々成あやまちもこ処出こめ。彼
人かた造て。むかしの飛し理にあはめられ
し。右せものゝやうに。おのれは。其直くいお
はしやは。そを思へは。又空おころしうなむ。
天保四とその冬。翠の屋のあるしたるめ。
池田御年少し
とりあげばゞ心得草巻之上一名坐婆必研
一人間一生の果福といふものみな定メありて。士農工商僧堅坐婆
それ〳〵の世わたりも。皆未生以前に賦たる天命の免がたき
ものなれば。厭とも厭べからず。求とも求得んや。すべての
こと上は下に佐られ。下は上に治られ。あひともに力を合
て世を濟ものなれば。役丁轎夫の賤きものといへども。なけれ
ば車をかくゆゑに。事業のかく區に別たるも。みな天地化盲
ところの具にして。その一ッをも少べからず。故に賎め侮べき人
とてはなし。まして坐婆のたぐひは。人の死生に係る一ト大事
を任として。容易ならぬ業なるを。人に賎侮るゝこと。そのゆ
ゑいかにといふに。みなその街に拙く。志篤からずして。みづか
からこれをとれるものなり。もとより生命に關る職なれば。そ
の談心の善と悪とによりて。日に福慶をも積。また罪悪をも重
るものにて。たとへ過により母子の命を断ことあるも。もとよ
り故て爲るにもあらず。刃をとりて人を殺のたぐひにあらね
ば。君王の罰は免れども。天道の照臨明察なれば。つひにはか
の定りたる果福のうちにも。おもはぬ災咎にあひて。よから
ぬ終焉をもとげ。その餘殃を子孫にまで及こと。豈畏べきに
あらずや。凡世の中に生とし話るものゝ。いのち惜しとおもは
ぬはなく。そのをしとおもふ心を心とすれば。天坤生々の道に
合ひ。これに逆てその生命を残害は。天地の心に背がゆゑに。
その罪いかでか免得べき。つねにみる瓜葛のはひまつはる
べき垣をたづねて蔓延ゆくことは。眼ありて見るかと
一疑れ。厳の穴に圧迫れ。からうじて発生る草木の。まがり
なりに空をさして直遂をおもへば。手足ありて探索かと
あやしまるゝがごとく。蟲魚鳥獣の命をしみて奔忙。飲食
一を利るのみならず。草木もまたはづから害をいとひ生を。
欲ことかくの如し。まして萬物の長たる人間の命は。その
貴こと鳥獣草木の比類すべきにあらず。されば四民それ
〳〵の世わたり肝要なる中にも。医士蓐母の輩は。かゝる
一貴重の人命に係ところにして。忽略すべきことにはあら
ず。とりわけ収生の媼のつとめは。心を勞するのみならず。不
浄を執業なれば。好で為べきにはあらねども。壮にして
夫にわかれ。託べき子などもなければ。不得己の世わたりと
するものなきにしもあらざめれど。すでに坐婆となりた
らば。これを糊口とのみ心得て。たゞ時のまさへ合ぬれば。車た
れりとおもはんこと。罪いとふかきことそかし。前にもいふ
ごとく。武門に生れ商売となり。或は緇徒坐婆となること
も。これみなこの世に生をうけざるはじめより定たること
にて。その人々に具れる職分なり。又業を轉じて竪となり。
俗を出て僧となり。夫に後て坐婆となるも。たとへおのが
もとより志願ところなりとも。皆冥々中に定りあること
にして。天地の自然によるものなり。ゆゑに世の坐婆たらん
もの。よくこの道理を辨知て。その存心だによろしければ。不
浄をとりあつかふたびごとに。身の罪過を滅し。菩提を植
る種となりて。後生願の珠数つまぐり。称名誦経するよ
りも。はるかにまされる善根となるべく。かへつてかゝる
一活人手段を職となすこそ。もつとも果福の勝因ものにて。
よろこぶべきことにぞありける。さすればもとその報を待て
身の生計とせんがためながらも。いま陣痛はなはだしく。腹剖
類がごとき苦楚を。眼前みるときにあたりては。その報の多寡
いかでか心にうかぶべき。たゞ産婦ともろともに心を悩め。はやく
兎身せんとおもふの外には。薄他なかるべし。しかるをかゝる痛
一苦を視ながら。なほ名利の心をはなれずして。憐忍なる行
一ありては。おもはぬ話辱をとりて。世の話柄となるのはか。天皇
網必漏がたきこと。そもおそろしとはおもはずや。こゝにい
たりて恙心あるものは。百計してその苦を救得させんとお
もひながらも。困渋危険の証にいたりては。その術精到ならで
は。中は救活べきことにあらねば坐これを視のみにて。その
人を殺にいたりては。その罪やくひとしかるべし。世間産婆の為
ところは。たゞ習熟たりといふまでにて。もとより術も法もあ
るにあらねば。たゞ擧子のことのみを。己が任とおもへども。兎乳
の一條においては。その死生を委がたく。もしその處置に随て。
一一たび誤事ば。母子ともに命を殞にいたるゆゑに。もつとも
恐慎て。講究すべき専責ならずや。世に産科医とよばるゝも
のは。そのかみ京師に賀川玄悦子玄子といひし。世にすぐれ
たる者出て。海外にも此方にも。むかしより聞おぼえざる産術
を。おのが創意よりみづから験て。人の危意を救たる。その精妙
一はいふまでもあらねど。回生術といひて。鈎を用て子を探出
すことを秘訣として。高足の門人にのみこれをゆるしたり
と聽り。利ことあれば必害こと従が自然の理にて。今にいたり
てはかへつて人命を財傷ふ不仁の尤なることになりたり。
さればこそ子玄子もこれを恐て。産論といふ書にも釣術は
しるさず。妄に人に伝ざりしを。末流になりては。そのつゝし
みもおろそかになりゆきて。くわしくも不解ものが。一二の説を
一聞とりて。回生の釣を市にもとめ。妄意に用て人をあやまる
こと多く。その惨虐もつとも憎べき輩あり。もとよりこの
回生の釣にて出すものは。死胎のみに止らず。いかにすれども
産れ得ざるものには。止ことを得ず用ることなれば。陰に装
一綿括條を用ることあるにいたるも。釣ゆゑに死たりといはれ
一まじき。聲聞をはゞかる心より出たることなれば。また不仁に
あらずとはいふべからず。近ころは坐婆にもこれを用る
ものありとか聞およぶ。その旨趣は。小の蟲をころして大
の蟲を助るが。道にかなへることぞなど。俗諺を遁辭にす
れども。胎児の賢愚予知らるべきにあらねば。蟲の大小を
一譬んことは。いと不倫ことぞとおもはる。たとへ釣にて失ぬる
一が胎児の命期にもせよ。同くは助起して傷ことのなか
らんにはしかざるべきを。自殺て快とし。それを術ぞと
誘は。人たるものゝ道に戻けり。予は専門にあらねども。この
流弊を矯と思こと有年て。わするゝ暇なかりしが。神明の
一呵護にや。嚮に偶發明たる一術の。鈎にかゆべきものを得
たり。それより後は力をも用ずして。これをすくふことあ
るにいたれり。世の乳医は男子にて。苦きまゝには身を委
一れども。愧かしとおもふ心はわするゝ隙なかるべし。先年難
一産後発狂したるが。医に探茫心たることを口実にして。昼
一夜寝ざるものを見たれば。いかにもしてこれを坐婆につ
一たへて施しめば。産婦の羞恨とおもふ心も浅く。人を救ふこと
一また多かるべしとて。この書を述る志は起れるなり。希は
世の収生婆。よく意を潜て。今述るところを朝夕事実に験
ば。生民を濟こと幾ぞや。かくすれば自家富身栄て悔慢
らるゝこともなく。却て坐婆になりたる宿因をよろこぶ
ことあるにいたるべきなり。必〳〵我慢偏執の心をもて。吾に
一術あり。いかでかかゝる迂遠の説をもちひ。煩きことをもと
めんやと蔑棄て。いよ〳〵その罪を重ことなかれ。これ予が穏
一姿に望ところなり。文政十三寅歳仲春六日。洗心算中に識
一子宮胞衣の形状および懐孕の事を説
救生媼熱の術に巧からんことをおもはゞ。まづ子蔵の位置形状
および懐孕のことを知べし。子蔵は小腹に位て。前には膀胱
後には肛門につゞきたる腸ありて。其間に嵌れり。大さ一寸半
ばかり。その形は壓匾たる梨子のやうにて。いろ真紅なり。口
は陰戸にむかひて。陰茎の横に披口あるものに似たり。月は
あまるところの血を脈中よりわかちきたりて。子蔵中の細管
より洩出て陰戸に下す。この血をもらし出す管のほそきもの
にいたりては。至繊微微にして見とめがたきほどなり。この管より
洩出たる血は。ふたゝびかへるところなきゆゑに。病ありて子
宮口緊縮たるは。凝て塊血となりてなやむなり。人によりて多
少はあれども。そのあらましをいはゞ。一月に百目あまりより二百
目ほどの血をあますが常なりといへり。早ときにはこの血を以
て胎をやしなふがゆゑに月経きたらず。産後はその血が乳汁と
なりて子を盲類ゆゑに。月倍また通ずることなし。しかはあれど
も。懐妊に月経通ずるものと。乳を哺ながらも。月信来るもの
巻上
は。まゝ強健なる婦人にあることにて。病とは称がたきもの多
し。また白帯下といふものは。子宮頸と陰戸の間より洩出る液
にて。慾情を起し。および交接のときにももるゝものにて。粘漕
あるものゆゑに。分娩のときには殊おほく出て。胎児出路の便と
なる。自然の妙理慮べし。孕ときには。子宮意外に開張。月々に膨
脹て。諸臓を推排て。逐次に圓なる。将産には。交骨両方へひらき。
産戸寛濶なりて。胎児うまれ出るなり。胎児母の胎内に舎あ
ひだる。柔軟にして胸腹もしぼみ。産出に凝渋なけれども。一トた
び氣を吸呼てのちは。腹肚四體膨脹て。關節硬なり。頭を出し
て。肩もしくは手足の礙住て。出がたきことあるにもいたる也。
胞衣は。子宮底に着て。受胎のはじめより。月経の血を以て漸
次に成ものにて。微細にわかてば。三膜を層たる嚢にて。そのかさ
なりたる膜にそれ〳〵の受用あり。臍帯は。この胞衣より血をつ
たへて。児を養ふ道路にて。かの月経の。常には子宮へもれて復
ところなき血を。今こゝにうけて。胎を育たるあまりが。ふたゝび
臍帯を伝。胞衣より子宮底にいたり。母の體中にかへるがゆゑ
に。血をおくる管一と。かへす管二ッ乃。三條を糾合たるその間に。
咒の膀光より小水をうけて。胞衣のうちへ泄出し。臍帯の血管の
外脂膜の内を傅て。母の膀胱へ輸す路あれども。微細なるゆゑ
に見えがたく。たゞ燎然に知るべきものは。三合縄を外より膜
にて喪たるものなり。このうちに胎児より母の体へ血をかへす
二ツの管には。脉動あるゆゑに。分娩のとき臍帯を圧ことひさしけ
巻上
れば。児の死ぬることあるも。この動脉をふさぐが故なり。たとへば口
鼻をふさぎて息たゆるがごとし。胞衣の形は。圓扁して中央あ
つく。上面の子宮底に連着て血を受容るところの外は。膜を以
くつゝみまとひ。児をつゝむ膜とは。その間相離こと一寸ばかり。臍帯
の帯は。胞衣の裏面にありて。臍帯は。被膜をつらぬきて児の臍
に連続。この胞衣の膜と児をつゝむ膜とは。我かのあひだに連續たる
臍帯をまとひてあひはなれずといへども胞衣被膜直につらな
りたるものと思ふはあやまりなり。胞衣。温なるあひだはそのいろ
真紅。冷れば紫紅緑黒まじはりて。裏面は絶だ荷葉に似て。惣
て皺襞凸凹あり。その温なるあひだは。中に蓄たる血が凝固ざ
るゆゑに。かくのごとく凸凹あらず。児の被膜は。河脈皮のいろ白
きところにやゝ疑似。しかも透明てうつくしく。その賢はいたつ
て薄く。淡紅色に見ゆるを。水にあらへばたゞ白く。もつとも破やす
きものにて。胎児飜轉のときに。やぶれたる細片を頭にいたゞきて
産出るものあり。この砕片が子宮中にのこりて。後日に月経の障
礙となり。あるひはこの膜の砕片に。月々の血が漸次に粘着ざく。竟に
は療塊となり病となりしを。下たるものををり〳〵みたることあり。
胞衣は。子宮の脉絡と連続たるものが。断て産出るゆゑに。股に
裂がごとき痛の徹をおぼゆることあり。受胎ところの理はしば
らくおく。曽て五十日許になりて小産したるを見たるに。頭面手足
の形具て。頭顱殊大に。その男女をもわかつべきこと。古人の説とこ
ろのごとし。解剖書にも。その初に二小黒点あるもの眼となり。鼻先生
て。月を逐て形をなすといへり。その説の宜然べしと推知は。予知たる
人に。鶏卵のかへりかゝりたるを逐次に破て見たるものありしに。そのはじ
めに。喙とおもはるゝものと二小黒点を見。その後に。それに加るに赤小點よ
り血糸の連続たるもの成て。漸に明になり。形體具成といへり。人もまた
かくのごとく。漸次に形體具て。かの五十日の胎のやうになるものと
見えたり。又鼻は人生のはじめなること。むかしの人のいへるごとく。順
産は必鼻を陰戸にむけて産出て。天地の気を容受ことをいそぐを
見れば。実に其験ありて。自然の理思べし。いづれにもすでに孕た
りと知ころには。かくその形はあるものなれば。たとへ二三月にて堕胎
したりとも。人の體を具たるものを。厠既にすてかへり見ざるもの
あるは。はゞかりあることかと思るゝなり。胞衣は。胎に従て成ものにて
子宮底につきて。たとへば果實の帝を上にして枝に在がごと
く。尻を蓋ものにはあらず。胞衣の被膜中には。粘滑たる水液
充満し。月満ざるあひだは。胎児この水液の中に浮游て。位置定
りなきやうなれども。月を逐て大くなるにしたがひては必子
宮底の胞衣の帝に相対し。母の背へむかひ。頭を下にし尻を上
にし。両手にて腮を柱へ。膝を曲て腹の前へおき。踵を臀につけ。
面と膝頭とをひとつところへよせ。腹上へ相会て弓形になりて。
背を母の腹のかたへむけ。頭は尻より低し。形状具。腸胃機轉か
くるものなきにいたりて。被膜中の水液が児の口中より添入
て。滋養をなすがゆゑに。産出て黒屎を通ずるは。胎内にある
うちの大便なり。児己に活気を得てのちには。自動ことを為
巻上
のみならず。母の運動屈伸にしたがひ。臂をはり脚を伸し。また
は倚斜にもなるゆゑに。母の腰腹に攣急をおぼべ。脚をつり肛
門へはり。或は小水の通利をさへ。浮腫など出ることあり。しかの
みならず。子宮はその人の性質によりて。正中にのみはあらざ
れば。胎児脹犬になるにしたがひ。漸次に倚側もあれば。それを推
て正中へやりても。やがてまた素のやうになるなり。世間に
おもふごとくに。頭を上にし坐たるやうにして居ものにはあら
ぬことは。産論の發明にたがひなけれど。圓き子宮の形に従
ひ。體を屈て方形になり居べき自然の勢なれば。賀川家に
て腹上より按て。頭なりといふもその頭にあらず。臂をはり脚
を伸すことあるは。前にもいふごとくなれば。それらはたし
かに診知るべきことなりと思べし。またむかしより子がへりと
いふを誤なりといへども。その娩出んとするときに。屈縮たる體
を一時に伸し。頭を飜回て膜を衝やぶり。脚底にて胞衣を上へ
突わが身を跳せて。下子宮口にむかふをいふまでのことにて。
頭を上にしたるものが。轉倒て下へむかふにはあらず。ゆゑに子
がへりなしといふは却て非なるべし。この轉身の機動により
て。彼膜を脱出るとき。頭のかたに障ものありて。脚のかたに餘
隙を得れは。頭を陰戸にむかふことならず。まづ脚をのばして
逆に下にむかふがゆゑに。逆生はあることにて。腹を横骨にむ
け。腮をかけて出かぬるが多きは。このゆゑなり。逆生にて。胸
腹を母の背へむけてうまるゝものありとも。そのはじめより
背面上首に孕こと。恐はその理あるべきことにあらねど。事物の
変ははかりがたきものなれば。こゝに疑なきことあたはず。しばらく
後日の発明をまちていふことあるべし。凡て事物の上よりい
へば。胎児の頭は。封の體よりつりあひおもく。天地の條理より
いへば。形をなすに先鼻よりし。呼吸により生活べきものなれば。
口鼻を先出さんとして。自然と頭を下にむかはしむるが。正厚にて
あるべし。ゆゑに先脚を出し。あるひは尻を出しなどするは。笞そ
の変にして常をうしなへるものなれば。順逆の理に拘らず。これ
を救の術あるべきことは。下条に説示を看て明に知べし。こゝ
に胞衣被膜臍帯と連続写真を出して。その大略を示す。
懐妊を知べき大略をしめす
胞衣包胎膜及臍帯連続之図
ゑなのいろあひはおりたるまゝなるは
あかく。しだい〳〵にくろむなり。
ゑなほそのをの大さはまこ
とのものとほどおなじ
一けれども。ふくろはこれ
より大なりと
しるべし。
いとにて
くゝりたる
ところ
このうすかはは。子を
つゝむふくろと。いろ
あひともにおなじ。この
はしは子つぼにつきて
ありしが。さんのときに
ありしが。さんのときに
はなれたるなり。
を救の徒あるべきことは下条に説示を看て明に知べし。こゝ
に胞衣被膜臍帯と連続写真を出して。その大略を示す。
懐妊を知べき大略をしめす
胞衣包胎膜及臍帯連続之図
ゑなのいろあひはおりたるまゝなるは
あかく。しだい〳〵にくろむなり。
ゑなほそのをの大さはまこ
とのものとほどおなじ
〽けれども。ふくろはこれ
より大なりと
しるべし。
いとにて
くゝりたる
ところ
このうすかはは子を
つゝむふくろと。いろ
あひともにおなじ。この
はしは子つぼにつきて
ありしが。さんのときに
はなれたるなり。
○ゑなとふくろは。ほそのを
にてつゞきたり。そのへだたる
こと。ながきもみじかきもありて。
〇あらかじめそのながさをさだめては
いひがたし。
○このふくろにて子をつゝみたるを。
子がへりのときやぶれたるが。ほその
をにつきて。ゑなとともに
おりるなり。
坐婆必研上冊第十一張
一切の事学学より馴よと。俗諺にいふことなれども。実地にかゝり。
てすることは。皆車熟たるものに及ざること多し。姙娠のはじ。
めを定ることは。尋常の医師よりも筆婆に満されるものあるが
ごときも。もと傳べき法則のあるにもあらねば。皆臆揣にて。ま
た謬ことなきにしもあらず。弁胎のことをはじめ惣ての術は。賀
川家の産論および翼などの書にくはしく記て。餘蘊なきことな
れば。志あらん半婆は。そのことをくはしく学たる人につきて。
をしへをうくるにはしかざるべし。しかはあれども。すべての事
は。一人一智の究盡ことはなりがたきものにて。子玄子ほ。どの人
にても。猶臆断に誣たることなきにしもあらず。しかはあれど
も。今の世に産科医とよばるゝものは。皆その流をくみて。その説
によるもの多く。今逆産に対て。鈎をもちひず。児をひき出し。或一
は母子ともに全からしむるにいたるも。實に此人の餘患なり。辯
胎のことも。その者ところの書に詳なれば。こゝにはくはしくも
いはず。たゞ参考にそなふべき数ヶ条を挙たれば。まづかれを知て
後にこれを読べきなり。
二月の末三月のはじめごろの胎をうかがふには。その婦人の翠早
いまだ起出ざるときに。仰に臥たるまゝに。手を懐にさし入て。かろ
く指頭に小腹を按て見れば。臍の下にあたりて。たしかにそれと
知るべきものあり。黴塊の手あたりとははるかに異なるものに
て。まがふべくもあらず。この候を以て験んとおもはゞ。予てその前
日に戒おくべし。若夜中小水たまりたらば。候べき一時許も前
かたに厠にゆきて。またゆる〳〵と一睡して。氣のおちつきたる
ところをうかがふべし。
乳頭黒きは。懐孕の證拠にならぬわけあり。経閉にてもくろく
なるものあればなり。そのうへ懐妊しても乳頭の黒くならぬもの
あり。それは多くは悪阻をやまぬものなれば。このところにて弁べき
なれども。たま〳〵には悪阻をもやみ。乳も黒くなるものあれば。い
づれ一偏にはいひがたく。また艶毒。蓄血にて。乳頭黒くなるもの
をもえたれば。これをたしかなる證拠と心得ては。誤認ことあり。
その別をいはゞ。先乳頭の黒ならぬに拘ず。乳輪にざらつきが出来る
を。大かたは懐孕と心得てよし。年若なるころまでは。乳頭が多
くは内へ引こみてあるものなり。孕と。それが外へあらはれて。乳輪
が粟起てくる。そこに心をとめてよく見れば。必誤ことなかるべし。
悪阻とも見えず。悪心もならで。たゞ唾ばかり吐。食は常に異こと
なきもの。声師あやまりて蛔蟲などゝ見たてゝ。無益の薬をもち
ふることあり。また悪阻を患ずして。たゞ舌眼など爛て。塩味熱
物なとがしみて。甚きは腫出て悩ものあり。懐孕にてこの証あ
るものは。娩身ざればさつぱりとは愈ぬものなり。それを心得た
がひにて。劇剤を與れば。害になることあり。坐婆もよくこれらの
事を心に記得て。たしかに懐妊なりと知ならば。必妄なる療治
を受させぬやうにすべきことなり
悪阻の證もなく。唾も吐ず。たゞ胸腹ひきつり。大小便の通じ快か
らず。乳頭も色づかずして。懐妊なるものあり。これら尤誤察こ
とあればよく心得べし。
懐孕三四月になると。眼中平常とちがひ。さつぱりとして。すゝど
しといふにもなく。はつきりとなりたるやうに見え。その白膜いろ
づくにはあらで。なにとなく黄なる光あるやうにおもはるゝものは。
その産必過なく。母子健なるものなれども。これは一応にてはわか
らぬ候なり。
おと見とおもふときには。乳を吸るゝがいやになり。喫るたびごと
に疼を知るか。またくしきりに痒おもはるゝもの。必懐妊なり。
三四ヶ月も経行の滞たるが。下んとするときには。小腹に服がく
ることあり。多それを懐妊と見あやまるものあり。血塊にて懐
孕四五ヵ月の大さなるは。二年あまりも経行滞らねば。左にはな
らぬものなり。
子宮の中に水液留潴て経行とまり。懐妊のやうに脹がくるも
のあり。これはたま〳〵にある症なれども。まかひやすきものなれ
ば。かねて須知べきことなり。
この外にも辨胎の候とすべきものは。賀川家の書に詳なれ
ども。いづれの候も。それぞとおもひて見れば。己が成心のため
に誤れて。疑似ぬものをそれと定て。人に笑るゝことあるにいた
れば。一端には心得がたかるべし。事熟てののちは。あながちに腹
をも見ず証をも聴ずして。たゞなにとなく懐妊なることを知
その造詣にいたりては。筆にも辞にも述がたきことにて。たゞ
その人の心目の妙契にあるなり。
一鎮帯産椅の利害をとく
鎮帯の胎をさまたぐることは。後藤艮山はじめてその説あり。
然れども人情の廃がたきことをいひおきたりしは確言にて。そ
の子仲介もそのことを述たる文あり。その他にも鎮帯の害を論ぜ
しものありしが。その後はるかにおくれて。賀川子幸子にいたり
ては。自己の発明より。専その説をとなへ。産論中にその害あるこ
とを論じ。帯を尽て用しめざりし。その理は至当せることなれ
ども。世人信疑相半て従ざるもの多きは。旧習のすてがたき
ことをあらかじめ察したる。艮山の遠慮。こゝにいたりて仰べし。
つら〳〵帯の害を為ことあるを考れば。全く坐婆のいくへにも
たゝみたる布を縄のやうに交て。たとへば薪を束るやうに。力に
まかせて緊しく。胸下臍上を紮たるものにのみありて。後藤家
にいふやうにかろく全腹を纏たるものにあることなし。この領
帯のことを。往古神功皇后三韓退治の時に始と世に言伝れど
も。古記には石を挿たまふことのみ見えて。鎭懐石の名はあれ
ど。今の腹帯とははるかに別のものなり。鎮帯のごと〴〵しくな
りたるは。建禅門院御著帯。および平の政子に帯をまゐらせた
ることなど。ものにも見え。そのあたりより貴賤おしなへて。懐孕
五月もしくは七月にいたれば。必帯することを吉例にして。布は
一中の長八尺なるを用ひ。全腹をひきゆふことが治習にはなりし。
なり。そのむかしはいかゞにありけん。侍賢門院の懐妊に帯をめ
されしことを後藤家に論じて。乱離の際なれば。これを用ひて
腹氣を助られたるなりといひしは。左もあるべきことにはあれど。
乱世なればとて如何あらん。またこの帯の古き例とすべきもの
は。つくり物語にはあれど。源氏の寄生の巻に。いとはづかしと
おもひたまへる腰のしるしにとあり。またかのはぢたまふしるし
の帯の引ゆはれたるなど見えて。鎮帯のこととはあきらかに
知れたれども。腹より腰をまとひたる帯の。衣のうへよりたし
かにそれと見ゆるやうに記したるは。いともいぶかしきことな
り。いづれにも本邦の古書に載たるところをかんがふるに。その製
はたしかに金腹をまとひたることあきらかにして。これを用
て腹力を助るたよりにしたるにはあるべし。しかるを俗間に
鎮帯をもちふるを見れば。孕て月をかさぬるにしたがひ。子宮
逐次に膨脹て。腸胃を下より推排て。胸十に余地無ものを。心
なき坐婆の所為にまかせ。胸下を縛紮てそのうへより圧迫せ。
しかのみならず人の體を裾襖聚足のやうにこゝろえて。脚を屈
て寝ざれは。胎児足を母の股へさしこむものぞなど論へ。甚さは
壁に膝をつきつけ。股に蓐子をかひなどして。是非ともに脚を伸さ
せぬやうにさするなり。かく上下よりこれを迫窘ては。窄隘腹中
にて。胎児牽側にならではかなはず。且上は飲食の運化をさゝ
へ。下は両便の通路を妨て。暗に産前後の苦悩となることをさと
らざるは。あさましくかなしきことのかぎりなり。産後の帯も右の
ごとく。産するやいなや。力まかせに紮ゆゑに。胞衣を帯の上に阻て。
いかに捜ども下ぬうちに期をのばし。子宮の口を閉られて。遂には
臍帯を拭たちて。驚愕ことあるも。皆坐婆の朱錯によればな
りけり。その佗畜血。崩漏。眩運などの病の發るも。この帯によ
るもの多ければ。帯を去て用ひざる賀川家の発明は。その理至
極せることにはあれども。数百年のむかしより着帯をいはふこ
と俗習となりたるを。やめよといふともその事必行はるべからず。し
かのみならず。我邦にむかしよりこれを用ること。はじめにいへる
ごとく。腹上胎位の正中より腰へかけて纏たるものなるべしと
は。大略に推知るれど。それとたしかに傳たることあるにもあ
らねど。これを車実に試るに。その全腹をまとひたるは。これに
よりて腹力を助るたよりとなることまゝ多し。熟考に。一向に補
なく害のみあるものならば。かくいくばくの星霜を歴て。その事
の廃ざることはなき理にて。今の産婆の所為をみて。たゞ悪習と
のみはいひがたかるべし。ゆゑに今予が用るところのものは。これを
艮山の説にもとづきて。布の軟薄もの単をもちひ。その全腹を
おほひて。左右より腰へまはして。右は左より左は右より前へ。
とり。その端を両方へはさみてむすぶことなく。必緩ず急からぬや
うに。便服の帯を着たるほどをよろしとす。六七月の間まで腹小
きものは。単の布を摺りてもちふるもよし。いづれにも胎の正
中を纏やうにすることなり。かくのごとくにして。さて両脚をゆる
やかに伸し。手を身に掩て下にたれ。胎動をおぼゆるかたを先は上
にさせて。をり〳〵左右へ轉臥し。たゞ飽食と懶放なるをいましめ。
房労をつゝしみ。思慮をはぶき。身心のつかれぬほどに體を運動
て。両便の通利に心をつけ。夏は暑を避。冬は寒を禦しめ。故な
きに按腹せず。妄に薬を用ひて産前の手あてといふことを為
しめず。しかるときにはこの帯によりて。胎の倚側を防に便とな
り。産の前後の患もなく。必事故あることなし。帯を廃よといは
ざれば。異議も起ず。人も危ず。妊婦の意も穏なり。胸の下にて紮ね
ば。胎が衝く胸を突などゝいふものあれども。これらはあまりに陋見
にて。いふにもたらぬことどもなり。牛馬などが孕ときに。腹帯し
たるためしもなけれど。胎が転て胸へのぼりたることをもきかず。
かたく腹をまかねば。胎が肥太て産かぬるなどゝいひならはせど
も。狗猫などが数多の子を生ときに。ふとりて出かねたるものを
見ず。また股へ脚を没入られて。歩かねたるためしもなし。たとへ
身を横にするとも。その横なるもの倒なるものが。うまれ得た
る天然ならば。害あるべきことはなく。まゝ狗猫などに難産ある。
は。林笹にうたれ。高より落などして。胎位を害たるものにはある
なれども。鳥獣を人に比ぶれば。皆その自然に任るゆゑに。たとへ産か
ねても。人ほどの困病あることなし。人はなまなかに黠慧あるゆゑ
に。やゝもすれば天然に悖て。畜生におとりたる害を招ことあるに
いたるは。嘆しきことにはあらずや。さくその全腹をかろく纏たる
鎮帯も。陣痛至たるときには。先はとり除て産にかゝり。胞衣出を
はりたるのちに。ふたゝび布を二にをりて。胸下臍上にて腹の中ほど
を。左右章門のあたりへかけて。寛ず緊からぬやうにまくべし。これまた
その益あることなり。この帯は自産婆の為ところに委てよけれ
ども。たゞ胞衣下ぬあひだは。決して帯させぬがよし。胞衣下て後に
は必帯して益あるわけは。惣て臨産には。身體攣急甚く。卑脈
振蘯て。上さかんに下はり。子宮ひらきて。胎児産門に臨。その苦悶大
かたならぬものが已に分娩をはり。胞衣も尋て下るの後は。腹裏に
はかに空洞になり。攣急ゆるまり。振蘯やみて。上に迫りし血が。道
を囘て下に進んとすること。たとへば法馬をはづしたる秤盤の。一方
に敵んとするがごとく。この時にあたりて。眩運崩血変證おこる
ことあり。今帯をもちひてこの空洞になりたる腹をかろく
纒絡て力を助れば。この変をふせぐの益を得ことあり。しからば帝
の用もまた少からず。これも生婆の所為にまかせて。緊く腹中
をくゝりては。胞衣下ざるものには。その出路を阻隔の害大な
り。子宮もまた緊縮られて。下べき残血も滞のみならず。腸胃
の伝化をも妨げ。崩血眩運の症も。これよりして発もあれば。
賀川氏のいふごとくに。その自然にまかせ。一向に帯を去て用ざる
こと尤優ことなれども。これまた人情のにはかに更べからざるも
のなれば。予が今いふところに沿べし。さすればその益ありて害はな
く。俗習を改て世間に慄ず。折中宜を得るものなり。また今用
るところの産椅の製。いづれの世にはじまりたりしか。たしかなら
ねど。かゝることは異邦にも聴及ず。全く俗家の意料より出たる
ものにて。産後の出血を。金創とおなじことに心得たるよりの
所為とは。明了に知れたり。邉鄙にはかゝる設為もなきところあ
るに。庫婦の復本もかへつて速なるを見れば。その利害自知るべ
きことなり。近ころ小梅村にて一婦の路頭に産して。その児
を水にて澡浴懐に抱。さてその旁の家に立より。湯一鑑を乞て喫
たるまゝに。律歩て行たりしを。まのあたり見たるものあり。近叡
にもかゝるものあるをきけば。産椅のみにはあらず。混沌之鑿に
よりて。害を為こと。この類世に多ことなり。産後は必子玄子の説
に從て。高枕に右側臥にさするをよしとす。産椅は決して用
べきものにあらず。かゝれば産後の悩も少。遺患ありといへども。治
術を施しやすく。大に利益あることなり。ゆゑに産論には産椅の
八害を示たり。その八害といふ第一は。産すれば腹内にはかに空
洞になるものを。まして起歩て産椅につくゆゑに。やゝもすれ
ば眩運欝冒症を發することあり。二ッには。産椅中に跪坐て横
に臥ざるゆゑに。崩漏脱血などを発しやすく。三ツには。産椅中に
あるもの。かゝる証発ても。之を救べき術を施がたし。四ツには。ひさ
しく跪坐ゆゑに。腰脚の転運あしく。やゝもすれば脚痺痿と
なり。久しく悩ものあり。五ツには。ゆる〳〵と寝がたきゆゑに。精神つ
かれて後日の疾となることあり。六ツには。経脉遅渋。餘血下かね。
蓄て塊となることあり。七ッには。脱肛痔漏発やすく。八ッには。跪一
坐ひさしきゆゑに。産椅を出て後も。なほ行歩進がたく。起居自
由ならずして。自然と懶堕になりやすし。その他大便秘結。或
は下利。肩背弾急。頭痛。面熱。または飲食の消化あしく。乳汁の
質を変じ。乳出たるも缺少なり。或は寒時は寒に怯やすく。暑
月は熱にたえがたく。または子宮腫。及癰を発し。或は癰病小便
不利。腰脚腫て。麻痺などし。黴疫の因を醸て。生涯の患と為の
類も。この産椅の害に由ことかぞへつくしがたし。ゆゑに子玄子
の辞にも。わが術を竒なりと人のいへども。なにの優たることも
あらず。たゞ産椅を用ざるゆゑのみなりといひし。寔にこの翁の大
功は。産椅の大害あることをたしかに知ばなり。なほ産論に参攷
て。通暁あるべきことなり。
胎の椅側を整復べき術をしめす
胎位正からぬは。鎮帯をもちひて胸下を紮。脚を屈て寝るに
由もの多く。また房慾の慎あしきと。起臥屈伸のしとやかならぬ
か。または傷食などに由もあり。或は宿黴。もしくは顛構。または
高より墜などして倚側もあり。いづれにも一たび胎が倚側ば。
くせになりて。整復てもやがてまた倚側ものなり。それよりし
て腰脚引つり。甚きは起ことならず。脾脚はれ。脚弱。痔疾。小便
秘閉など発もあり。産に臨て。児の手や脚を先出し。或は尻をあ
らはし。頭顱産門にはさまりて産かぬるの類皆胎位の正しから
ぬによるものなり。ゆゑに五六月ののちは。日々をり〳〵こゝろづ
けて。すこしにても倚側ことあらば。必正中へ推おくりておくべ
きことなり。病家須知に記べきことは省て。こゝにはたゞ収生媼
のために。警胎の術の筒便もの三ッ条を載るのみ。子玄子は胎右に
倚側やすしといひたれども。左右ともにかたよるものにて。右に
のみはかぎらず。燥屎を分排ことをいへども。それもいかゞあら
んか。整胎術の大要は。胎の下へさがりたるを上へ披挙て。かた
よるかたより正中へ推送が主意にて。外に為べきことなし。ゆゑ
にその意を得たる後には。己が意料を用て。いかやうにも行ふべき
ことなり。このことにかぎらず。惣ての手術に定たることあるには
あらず。時に臨ていかやうにも便宜に從て宜ことく。かねてこゝ
ろえべきことなり。まづ整胎の法といふは。婦を仰に臥せて。ゆる
〳〵と胸より腹へなておろし。その心のおちつくやうにして。或は雨
指頭にて。婦の肋骨に治て。左右章門のあたりへなでおろし。
また股のあたりまでもよく按摩し。後に胎の倚側をよく診て
術を施なり。生婆婦の左に坐たらば。下部にむかひて。坐婆の
両手をかさねて。婦の小腹の下横骨の間へさし入て。胎を上
のかたへ捜挙やうにして。左の手をそのまゝそこにおき。右の干に
て。些の右へ倚側たるは。四指頭を用て正中へ推送り。左へ倚側た
るは。掌後を用くむかふへをして正中へ送り。その後ゆる〳〵と胎
の左右上下を按摩て。すべて支障ものなきに
いたりて。また〳〵両手をかさねて横骨間にい
掌後といふは
このところ
をいふ
なり
れて整頓べし。すべて術を施には。おのが腰に
刀をいれて。指頭はかろ〴〵と車を行べきなり。必〳〵指頭の
みにて力まかせにしては。おもふやうには施がたきことゝ
心得べし。もし胎大に下て。横骨間に指頭いりがたきものは。
婦の膝を竪しむれば。必指ははいるなり。この術を施して後。そ
のまゝにしばらく寝せてよし。また平臥ことならぬものは。
一相対て坐り。生嫗の両手を婦の背へまはして。前腹のかたへ換
摩こと數十遍。その心得は。腹上へなであつむるやうにして。
その後両手の大指を。肋骨に沿て章門の方へ按おろし。さて
両手を仰むけて。横骨のうへゝさし入て拘拳。その椅側たるか
たを正中へ推送こと。前の意味とおなじ。下より整頓に。両掌
後を用るもよし。もし高ところより墜。または轉仆て後。胎の
大に倚側たるは。その胎の倚側かたを上にして。側臥にさせ。
収生媼はその後へまはりて。己が片足をのばして婦の股の間へ
さし入て。婦の脚をおのが膝にてうけ。手を股の間よりまはして。
下より胎を捜挙。かた手は上のかたより正中へをしおくるやうに
するなり。擦撲などにて。大に倚側たるを。正位にかへらしむ
ると。そのまゝに産のけつくことあり。かねて心得居べし。これ
を行には鎮帯は必解脱て。たしかに正位に復たるを診て後。また
〳〵全腹を纏農こと。初にいふごとくにすべし。その胸下を緊紮
ては。帯のために胎のかしぐわけも。この街意にて知るべきこ
となり。
一子宮の位置を探て知べきことをしるす
坐草前に。預胎の順逆横偏をはかり。および産の遅速難易を和得
には。探宮にあらざれば。たしかなることをいひがたし。陣痛たび〳〵
なりとも。子宮の陰戸に臨ぬうちは。産出るものにあらず。子宮己
に産門に臨ても。支障ものあるまゝに破漿したるものは。却て娩出
べき便を失ひ遅澁ことあり。もし然ときには。いかほど努力たりとも。
たゞ疲労をますばかりにて。産出ことはがたく。努梓ゆゑに却て
胎を倚側するか横にさせて。いよ〳〵困難にいたらしめ遂には母子
の命を殞ことあるがゆゑに。陣痛たび〳〵なりとも。自然の努揮の勢
さかんになるまでは。娩期にならぬよしをよく合点させて。産婦の
意を落つかせ。努力をいそがせぬが尤よし。しかはあれども。坐婆は預そ
の娩期を知ざれば。自己も妄に身を労し。無益のことに隙とることあ
れば。生草以前に探宮が肝要なりとおもふべし。妊娠五六ヵ月より
も探て見たきものなれども。苦悶のときにいたりてすら。羞て厭
ものなるを。車なきときには。坐婆にも診がたきことなれども。
腹上より察しかぬるものも。これによれば必その實を知得なれば。
坐婆はかねてよりよく心得おくべきことなり。畢怠なるにい
たりては。羞おもふとも厭がたければ。男子の産科医も探営を一
臨産の第一義として。必これによりて預遅速吉凶を察し知こと
にはなりたり。その法は。陣痛たび〳〵なるときに。産婦を坐せて。
こなたの體へ舞かゝらせ。坐婆の右の手へ綿絮やうのものをたゝみて
のせ。それへ肛門をうけて。陣痛いたるごとに提挙て。肛門を推と
きには。胎の会陰へつきかけて。やゝもすれば会陰の内筋を損ことあ
るの患をふせで。そのうへ児頭の陰戸へむかふやうにするためにか
くすること尤よし。陣痛次第につのり。腰間おもくなりて。裂がごと
き痛をおぼえ。周身熱をもよほし。眼中に花を見。姙婦自身に陰戸の
うちはれたるかとおもはるゝがごときにいたりては。その産ちかきにあ
りと知て。この肛門をうけて提挙はづみに。綿絮をそこへそのまゝに
捨て。まづ中指を用て陰中を探てみるに。胞胎已に産門にのぞみ。膜
中に水漿充満たるは。指頭にてむかふへ推ときは。そのやぶるゝ音たし
かに知れて。漿水下るなれども。妄に胞膜を突破て。漿液を洩ことは。
なるべきたけはせぬがよし。とかくにこなたよりもとめて衝破な
どし。自然に委ぬことには。害あることあるものなれば。必その期いたるをま
つべきことなれども。たまには破では苦痛の堪がたきもの有て不得
止破て水液を逆とあり。賀川家には中指食指にて抓て破といへども。
つよく脹たるは。持光にてむかふへ推たるばかりにても破るものにて。抓
ねば破ぬといふは。努張の至ぬあひだに破ゆゑにて。好きことにあらず。この
水液は。粘消甚しきものにて。これなければ胎の陰戸を出るに苦悩
多く。支障ことあるゆゑに。尤緊切なる液にて。この物さへ洩ざるあ
ひだならば。いさゝかの倚斜支障は。滑脱て自然に跳出るものなれば。分
娩の助となるべき。第一の至宝なり。それがためにこそ。かねて天より賦與
ところの具なれ。ゆゑに子宮口の陰戸に臨ことなくて。胎傾たるまゝに膿士
皮の破たるは。その声の外へ聞るほどのことはなく。いつ破たりとも知ねば。
水液無益に洩出のみならず。胎はます〳〵倚側か。または横骨に障られ
て出かぬるか。いろ〳〵さま〳〵の困難をなすにいたるがゆゑに。胎位正から
ず。陣痛はげしく。下肛門へ徹痛なきあひだは。努力をいそぐこと。尤可
からぬことなり。たとへば大便するにも。時いたらねば。いかほど努力ても
出るものにはあらぬにても揣量すべし。いとゞさへ俗人は狼狽やすき
ものなるを坐婆の心得よろしからねば。それがために大なる苦痛を
増しむることあれば。陣痛ありとて。妄に半草しむべからず。よくその
期を認てあやまることなかるべし。たとへ一陣痛にてそのまゝに産る
ことありとも。それは希なることにて。とかくに坐婆の心がけは。挙家の
驚擾をしづめ。姙婦の意の降やうにすることゞの肝要なり。左なけれ
は。たとへ産は滞なくとも。産後に眩運崩漏などの症発て。おもひもよ
らぬ急変にあふことあるは。皆坐婆の過なり。探宮に先中指を用る
には。餘の四指を屈ずに。中指を用るにあらねば。指頭短なりてたより
あし。食中二指を内るにもおなじ心得なり。二丁指をいるゝには。子宮口己
に臨たるを知て後をよしとす。子宮口二指をいるゝは。分娩の期なほ遠
し。三指を内るにいたれば。已に娩んとするの候とし。四指ならべ内らるゝ
ときには。もはや産の期いたれりとおもふべし。もし子宮口ひさしく開
かぬるものは。子宮白の外邉を中指頭にて循旋こと。硬糞の肛門に迫
たるとき。肛門を指末にて図轉せば。はやく便氣あるとおなじ理に
て。その娩期を促に尤妙なりとす。子宮已に開たるときは。全手を内るに
に足るものなり。殊掌の繊軟なる坐婆は。その術を施に便宜。その妊婦
も男子の産科に委たるやうなる心づかひもあらねば。予が半婆にこの街
を傅たしとおもふはこれがためなり。膜のいまだ破ざるものは。蝋びきの絹に
水をつゝみたるやうなる手あたりにて軟なれば。指頭がさはると凹もの
ぞ。児頭は硬して髪あれば。抓てみればたしかに辨別なり。児頭已に臨もの
は。その頭を指さきにて摩旋か。またはむかふへすこし推やるやうにす
れば。その勢にてはやく娩るものなり。子宮の倚側ことは。蔵府の推排れ
て。倚斜かたの一方になるゆゑに。左とも右とも定てはいひがたきことなり。
臨産前には。腹上より按てこれをしり。妊婦はその傾かたに胎動を知る
ものなり。これを整復しても。やゝもすれば傾屋すく。たとひ正中にあ
るも。陣痛の努揮によりて。また倚側こともあるものなり。それも子
宮口さへ産門に臨ときには。自そのはづみにて正位に復うまるゝもあり。
児正く飜轉し。頭を下にして産出べき勢を得ても。子宮倚斜てその
口産門に向ざるときには。これを探てもその口を得がたく。その傾かたをあ
らかじめ知にあらねば。指を及こと難がゆゑに。その以前に胎の倚側べきかた
と。胎動を知るかたをよく認おきかく。この時の用にそなふべし。胎の倚側か
たの腰脚に攣急をおぼへ。腫あるもそのかたにおほ〳〵。腹状もたしかに知
るゝものなれば。倚斜の明白ならぬものはなけれども。探ざれば知がたきこと
あるは。子宮口の前後左右いづれへ傾側たるやとおしはかりて。その口を
もとむるも猶かたきことにて。子玄子はこれを不治と定たれとも。ふかく
探ば必得らるゝものゆゑ。決しく娩がたしとて捨べきことにあらず。このとき
にはその口を肛門のかたへ向たるが多ければ。陰戸の下邉に沿て手をさし」
入。指頭に心を注て探もとむれば。必その口をその所に得べし。その口を得
たらば。指頭をさし入て。産婦をおのれが肩へ靠たるまゝに。臀をおとしつけ
さするやうにすれば。そのはづみにて子宮の口陰門へむかふなり。もし努
梓によりて。子宮の下墜甚く。指をその間に内がたきものは。姙婦をして
胎の椅側たるかたに臥しむるか。手を席へつけて蒲伏せしむれば。胎の重
にてかゝりたる骨をはなるゝときに。坐婆の指を入べし。くれ〴〵も子宮口陰
戸にむかはざるあひだに。破漿をもらせば。児の頭顱を横骨に壓つけられ。い
よく礙住うちに。陰門やく牽縮。いかにすれども出かぬる。或は手足を
先出し。または背もしくは腹を陰門にむけ。或は尻を出すの類の難産
も。悉皆努力をいそぐ坐婆の過によるもの多し。それらのことは下條に
いたりて。これを救の術を一々に説解て示べけれども。そのはじめより胎
の椅側をふせぎ。あらかじめ子宮口の必陰戸に向やうにさへすれば。困難の
患にいたることもなく。必過ことあるべからず。ゆゑに陣痛きたるとも妄に坐
草をいそぐことを制るはこれがためなり。世間庸愚の坐婆が。心得もなき
鎮帯にて。胸下を縛紮て。そのうへをば拗せ。脚を屈て臥しめて。下よりは
壓迫づひには胎を倚側せ。今また坐草努揮を促て。いたづらに苦悶しめ。再
産椅に跪坐て。その熟睡を苛貴して。こと〴〵〳〵自然に背所為のみなれ。
ば多は妊婦をして病ある身とならしめ。甚さは横夭せしむる。その陰悪の報
は。皆己が身に及べきことをも覚ず。こゝろえがほに。愛重の人命を口腹のた
めに艶こと。年々にいくばく。惚とも痛しともいふべきことのかぎりなら
ずや。もし世の坐姿。いさゝかも天道をおそれ。職業のおろそかにすべからざ
ることを知ば。必〱固執をすかく。予がいふところを細心に味て。これを日用の事実
に検ば。小補なしといふべからず。
一坐草分娩および胞衣を下し蓐に臥しむべきことを示す
陣痛のときに。手の十‾指頭に脉はげしく應と。間もなく免身るを知る。これ
を見るには。坐婆の五指頭を孕婦の五指頭にあはせて診べし。もし陣痛が
腰および肛門へ次第に及し。眼中ちら〳〵して。腹も裂かといふやうなる痛あ
りても。猶うまれかぬるものは。前条にいふやうに。探宮にて診のみならず。をり
〳〵腹へ手をやりて。その椅側たるやいなやをこゝろむべし。努棹によりて
正中にありし胎が。その期におよびて傾ことあれば。よく診得て。すこしにても停
側たることあらば。腹上よりも前の撃胎の意を帯て。これを正中へ推送やうにす
れば。それなりにうまるゝことあり。児頭已に産門を出るときには。両手を仰て。
大指を児の肩へかけ。餘の八指を。平かに児の胸へあてゝ。指頭をそろへ必肋骨を
指頭にていためぬやうに。細心にかたくとらへて。陰門の上邉へむけてこれを
捜出すなり。もし下へむけてひきぬけば。會陰の肉薄脆して傷やすし。登れ
をよけて。必上辺へ向て拭ぬ〳〵を法とす。平産はその自然に委せて。うまれ
落るをまつもよけれども。已に頭を出したるは。かくするもまたあしからず。
あとより出る血を。児の口中へ入ぬやうに心がけてよし。胞衣はつゞひて直
に下べきものなれば。平産ならば患なけれども。すこし澁滞たらば。これ
を産門までぬき出し。しばらくとゞめおき。とりたきときに手をかくれ
は。速に下るなり。胞衣のこりてあまりに遅疑うちには。子宮口を閉るゆ
ゑに。いかに捜ども下がたきことあり。前にもいへるごとく。世間の坐婆のやう
に。児の娩出るとそのまゝに。鎮帯にて腹中をかたく紮て。胞衣を帯より上
隔絶たるは。とり分て下がたく。鎮帯ゆゑとはこゝろもつかず。力まかせに
臍帯をとらへて捜断にいたり。はじめておどろくことまゝあることなり。
惣て胞衣を捜出すには。胎とちがひて。陰門の下邉へむけてそろ〳〵と捜
ねば。やゝもすればひききることあれば。以上邉にむけて拭ことを厳制るな
り。その法は。坐婆の両手を畳のうへく伏て。頭を下げ両臂を地に據両手の
大指食指を用てすこしづゝ捜出したるものを。小指に纏ながら。捜ごとに
臂をうかせて。指頭にてあしらひ〳〵捜出すなり。臍帯あら〳〵出をはり
たるときに。左の手の食中二指を。臍帯に沿て陰門中にすゝめ。胞帯のと
ころにいたりて。胞衣をしかと指頭にはさみ。右の太指食指を。その左
の指の表よりかけて力を加。逐次に左指をすゝめ。はさみかゆること両
三次にして胞衣いづるなり。胞衣はもと子宮の底にあるはづなれど
も。倚側ごともあれば。妄に捜ては臍帯を断ことあり。靭強ものは子宮を
ともに捜出して悩となることなどあるも。皆坐婆の術にくはしからぬ。男
ゑなり。生婆よくこゝに述る趣を心得ての後は。その手の柔軟にして繊
きものは。指さきよりも全手を入るに支障なきことなれば。胎娩出てまもな
く。生婆の右の全手を入て子宮のうちを探れば。胞衣の取在明かに探知
るべく。もし子宮底に滞着てはなれがたきものなりとも。その間に指
を入てこれをはなし。指の間に胞衣をはさみ。掌をすぼめて。外にあ
る左の手は臍帯をとりて。これをもろ引に捜出し。再手を子宮中に入
て。麋積のあひだの片膜凝血なとあるを。指頭にて探りあつめてとり
出すべし。片膜といふは。冒膜を児の衝突ときに破裂たる小片にて。偶
には児頭にこれを冒て出るものあり。かゝる類のものを子宮の襞積の
あひだにとゞめて。そのまゝに出ざれば。月経不順。蓄血。崩漏。腹痛。攣り急
などの症を患る因となり。後日の害を為ことあれば。とり除にはしか
ざれども。児生下てまもなく手を入るにあらざれば。施がたく行ひがた
し。ゆゑに尋常坐婆のごときは。後術をよくこゝろにとめて。胞衣の下
がたきものをひきとるべし。胞衣下ざる症大要五分あり。その第一は。胞衣子
宮古にいたりて。上より減出る血を盛て。底ある嚢のことくになり。下り
来らざるものは。臍帯をつよく捜ども必下がたく。強て捜出さんとすれば。
その胞帯のところより臍帯を捜きりて。車患を招ことあり。ゆゑにかくの
ごときは妄に捜ことなく。その臍帯に沿てさし入たる指頭にて。胞衣の帯
のところを。便宜よきかたへ匾圧ときは。その旁に空隙を得。蓄血その手をつ
たへてきたるなり。さて子宮中にたゞへたる血あら〳〵つきたりと思ときに。
両指頭にてはさみて。前のとほりに捜出すなり。第二は。胞衣もし子宮
口にはさまり。崩血などにならんかとするものは。その胞衣を拭こと尤速
ならざれば。婦の命を殞ことあれば。全手を送入て探とらるべくは。前に
いふごとくにして手ばやくとり出し。あとは崩漏をふせく街にて血を
止るやうにしてよし。もしそれも行がたくば。胞衣の下たるやうにとりな
し。産婦を説てはやくその心の降やうにし。胞衣は日数過て自然に
下るを待たるもよし。いづれにもその便宜にまかすべし。あるひは脾衣
の子宮口にはさまりたるゆゑと知ども。崩血已に甚きものは。妄に手を
下しがたきことあり。いかにとなれば。下さんとする胞衣につれて。血山
の崩がごとくに下り来て死ぬるものあり。その見わけは。周身の經脉
甚く鼓動。胸腹の動悸波濤のごときもの。および昏眩。頭痛。上衝つよ
きものなどは。決して忽視はならず。もしそれらの症あるものは。た
とへ胞衣を子宮より捜とりたりとも。陰戸よりかならずぬき出さ
ず。しばらく留おくこと。第五の體憊たるものとおなじあしらひにし
て。いつにても穏になりたるときに取がよし。または直にぬきとり。綿
をかひ手ばやくふせくも。時の宜に従べし。第三は。臍帯をつよくひき
て。胞帯のところより断たるものは。細き筆管かまろき枚箸など
の。木理緻密にして折まじきものに稜あるをもとめて。右の食指頭
に添てともにふかくさし入て。胞蒂のところをはさみ。箸の稜を胞
衣をへだてゝ指のはらにてしかと推て。胞衣の脱ざるやうにして
しかと握つめ。左手の力を添て捜出すなり。第四は。膀胱中に小便
充満たるせり合にて胞衣の下ぬものあり。それは先小便を通じさ
せて。後に胞衣を下すがよし。第五に。坐婆の殊心得べきことは。難産に
にて體憊たるものゝ胞衣を。にはかに捜出せば。つゞひて血漏下てそ
のまゝに死るか。または衝逆氣絶することあれば。それらの胞衣は陰中ま
で捜出してとゞめおき。必とり出すことなく。腹上は布にてゆるやかにま
き。高枕に右側臥させて。白湯魔粥などをすゝめ。薬などをもそろ〳〵との
ませ。肩背腰脚などを按おろし。こゝろの転べき談などして。一時あまり
も消息。もし催睡たらば。一トねむりもさせて。のちにとりたるが尤よし。
いづれにもはじめに陰戸まで出しおかざれば。ほど過ては子宮の口
を閉るゆゑに。妄にぬきとりがたきものなり。疲たるものをかんがへもな
く捜とりて。あしもとから鳥のたつやうなる急変にあひ。臍を
噬の悔あることなかれ。この事を心得ずして。人を害もの世に多け
れば。くどくもことはるなり。かゝるものゝ胞衣は。ぬきとるときに
も心を用て。綿を炭堅の大さにかたくまるめたるを。予こしらへお
きて。腕とりたるあとへはさみて。聊をかさねて陰肉のあふやうに
して。側臥にさすることは。病家須知にくはしく記載て。俗家に示べ
し。これ血の暴下んかとおそるゝゆゑに。かくはすることなり。胞衣い
よ〳〵下ずとも。婦人にいひきかせて安心さへすれば。衝逆。昏眩の変
は決してなきものなり。暑月は六七日。寒時も二十日あまりを過せば。
必腐爛て下るものにて。害にならぬことは。毎もためしあることにて。決
して恐べきにあらぬを。生婆の心得あしければ。あはて躁て非命に陥
しむることの多きは。なげかはしきことにあらすや。また児いまだ娩出
ざるに。臍帯先出るは。熱の臍帯を壓挾て。血の運輸を閉塞ことあ
れば。其児は分娩ざる前に死ぬることあり。故に臍帯先出て兎身が
たきは。速にその臍帯を子宮中に推かへして。これを救べし。それ
は産婦の枕のかたを高して仰に臥せ。児頭已に子宮に臨たるは。
児頭とともにその臍帯を推かへしてよし。しかはあれども後條に
説明す術によれば。かくするにもおよばず。速に児を捜出して。そ
の難をまぬかれしむるがゆゑに。この術は用るに及ぬことゆゑに。くは
しくはいはず。また児頭已に産門を出るときに。臍帯を頭にまとふこ
と三四匝におよぶものあり。これをそのまゝに捜出すときには。得て
は児の吃をしめて殺ことあり。そのときには。食指にて頸に繞た
る臍帯を。一ト匠づく左と右へかはる〴〵ひきて見るべし。そのゆるみた
るのつりあひをよくかんがへ。解べきかたをよく弁。児頭をうちこしてこれ
巻上
を解べし。かくしても解かぬるものは。速によろしき所にて。その間一寸あま
りをへだてゝ両ところ紮て。その中間より夾断べし。さてその後に児を
分娩しむる手段を為べし。惣て臍帯を紮には。細麻綿を用ふ。外科の
金創に用るものなど尤よろしけれども。今俗間には紅木綿糸を用
るが常のことなれば。あかき繭糸などにて紮などもよし。これらの
ことはすべて俗意にもとらぬがよければ。しひてかゝはるところにも
あらねど。木綿にてはかたく紮にたよりよからず。ゆゑに繭糸などが
よし。たゞ世間坐婆の為やうに。臍のかたへ長く剪のこしたるは。乾こと
おそく。暑月は必腐爛やすく。その腐壊より児の病をひき出すこと
まゝあれば。決して長を好べからず。臍より二寸ばかりをのこし。臍の
かたよりむかふへ血をよくしごきてかたく紮。また一寸ばかりもおきて
紮。その中間を剪切なり。竹力にて切がむかしよりの習なれば。それ
に従もくるしからず。胞衣のかたを紮ことは。後に胞衣を捜ことあるに。
血を瀉出しては。臍帯ほそりて力を用かたければなり。臍へのこりたる
かたは匾にして。臍の上へ折かけて。その上より単の布にてかろてまきお
くべし。紙などにてあつくつゝむはよろしからず。臍帯退器後灸する
ことは。はやく乾しむるためにて。病をふせぐたよりにはならず。それを
謬會たるもの。火氣の児體に徹までにするは。かへつて病をひき出す
もとゐとなることにて。よろしからぬことなり。艾灰五倍子などを
ふりかくるは。詮なきことにはあれど。これらは人〴〵の心にまかせて
もくるしからず。たゞ熊膽を水にてときたるを貼るは甚あし。苦水臍
常をつたへ。腹中に浸入て害となり。それよりして腹痛搖搦などを發し。遂
には児を殺ことあれば。決して為べからず。また臍口いまだ乾ざるものを。冷て
のち。腹痛て悩。あるひは指搦を發し。或は卒死したる児を見たることあれ
は必そのあとの乾涸ざるうちに浴させまじきことなり。さて胞衣已に出たらば。
先冷水一盞をあたへてのち。布にて全腹を纏こと。はじめにいふがごとくにして。そ
の後蓐にうつし。枕をたかくして先右側臥さすべし。この産後の帯は。布をたく
みて臍上を紮こと。世間坐婁の為やうにしたるもまたよし。生草ひさしく憊
たるものは。産門に綿絮をあてく。坐婆の手をそえて。そのまゝに匍匐にさせ
て辱へうつし。導上にても。猶あてたる綿絮をはなさずに。人にいひをしへて。
婦のうしろより抱て體を舞かゝらせ。しかととらへてうごかぬやうにして。
さて左の乳の下より鳩尾のあたりへ手をやりて。動悸をうかゞひ見て。あら一
〳〵しづまりたりとおもふときに。横に臥てよし。産後に水を喫せよと
いふとも。聞入まじき輩もあることなれば。黒薬といひて麻の嫩苗を黒焼
にして懐中し。それを水にて服しむべし。あさがらのほくちもよし。
麻苧もよし。百草霜もくるしからず。伏龍肝とて数十年をへたる
竃の下の通赤になりたる土塊あり。いづれの薬舗にもあるものな
り。それらを細末にして用るもまたよし。いづれの薬もたゞ冷水一盃を
喫しめんためのみにて。その効をたのむにあらず。これ賀川家などには
秘訣とすることなれども。近來の經驗にはあらずして。はやく千金
方といふむかしの書にも出たることにて。その後支那にても用るもの
あり。甲斐の徳本などは冷小便を服せたりしといふも。その意は似よ
りたることなれども。不浄のものはいかゞあらん。たゞ湯を服ては決
して効なく。必新汲水一盃を喫しむるばかりにて。時過てはいむべき
ことなり。この水を用るときには。昏眩崩血などの変をふせぐに。その効
挙て数がたく。その佗効用多場ことにて。胸腹動悸劇。血大に下て止
ざるものなど。症によりては。湯液を冷服しめなどして奇効を得ことも
この意なり。すべてこれらのことをも坐婆心得居ときは。人を救ことの
もつとも多からんと。此に諄ものなれば。必疑惑ことあることなかれ。産椅
を用ず高桃の蓐をつくり。そのうへに右側臥さすることは。俗家にも示
たければ。病家須知に載べし。産後の熟睡を戒ることは。尤あしき心
得にて。快寝ものは。必喚覚ことなく。そのまゝに睡すべし。體をゆく
るやかにしてよく寝たる後は。残血も滞なく下て。復粛こともはやきこと
は。前條にいふがことし。たゞ難度後にて。眼をみつめなどしたる後。ある
ひは息のはづむものは。寝たりとも忽視のならぬこともあれば。旁
に人をつけて。その眼面と息あひをこゝろづけさせてよし。産後
直に薬湯或は塩湯にて陰咳を慰ことなどは。分娩時日を過し。困
艱ひさしきものには。必為てよろしきことあれども。平産はそれま
でにはおよはず。とかくに懐妊するも分娩も。自然のものにて。産前
故なきに。熟錬もせぬものなどに腹を按摩させて。かへつて胎のさ
はりとなることもあり。すべてあまりに人の作意を加れは害あるこ
とを。つねに審辨おくべきなり。
臨産に坐婆の心得べきごとをしめす
臨月になりて。腹の形上張大に。下のかた狭小ものを。順孕とし。下張大
に上狭小を。逆孕とすれども。これは拘がたきことなり。はじめにも
いふごとく。順逆は必飜轉の機によりてしかるものなり。こと〳〵く
はじめよりそのなりに孕ものとはおもはれず。横骨の上際に両指を容
べきは難産とし。胎偏側て股に没がごときは横産とするは。しかる
べきことゝおそはる。これら尤手術の在ところなり。
七八か月ごろに。脇腹いたみ。或は股など引つり。または腰かゞみて伸か
ぬることありて。水血併下ものゝ。正産にあらぬめあては。腰のいた
み甚からぬものなり。これは多くは胎のかたよりたるによるこ
となれば。それを正中にすれば。その痛は必休ものなり。ゆゑにそのみわ
け肝要なりとこゝろうべし。
一孕たびことに小産するものは。房労と飽食をいましめくよし。もし
小産したらば。子宮の餘血を残ぬやうに掃除して。後日の害をふ
せぐべし。
九か月ごろに。腰忽痛。あるひは血下り。水を交などして。かへつて産せざる
もの。正産にあらず。腰痛甚く陣痛止がたきものは。多くは半産なり。半産
のいたみは。刃にてゑぐらるゝやうにおぼゆるものなり。
臨月ちかきか。または産に臨て乳汁の出るを。子が乳をはなすとて。胎
児の死たるなりとするはさることにて。多は死胎なれども。児の
膿中にあるときに。乳にて盲ものとおもふは。おろかなる臆摘なり。
胎内の児をやしなふ用なくなりし血のあまりが。しばらく乳汁とな
りて出るなりとこゝろうべし。
七八か月のころ。痢病の努迫にて。偶と分娩あるもの。多は死胎なり。
臨月のものはしからず。
傷寒。荊病。または麻疹など。惣て熱はげしき病にかゝりて。日を経
たるもの。陰中より血を下すものは。胎の死たるが多し。水腫などを
患ことひさしきは。やゝもすれば堕胎するものなり。ゆゑに傷寒。痢病な
とにて。下すべき症あらば。手まはしよくせねばならぬことにて。有身
ゆゑに下たくも下されぬなどゝいふやうなる医師にかゝりたるは。生婆
よく心づけて。後害を受させぬやうにすべし。
産にかゝりて。腹痛心下脹満て。苦悶するものは。飲食の停滞による
もの多し。こゝろえあしき坐婆は。陣痛にかゝりたるときに。産婦の力
を生といふて。湯漬などを強に喫するものあり。このときに喫たるは。
多は滞て降がたく。それよりして嘔逆などを促。大なる害となる
ことあり。しかのみならす。胸下痞て。気血の運輸あしければ。分娩か
ぬるものにて。食滞より子癇となり。産後も昏冒崩血などの急に
変にて死にいたるも。食を強に喫たるが。停滞したるより発こと。
まゝあることにて。その腹満痛ものを。医師もそれと知たらば。一
はやく停滞たるものを。ひらかするやうにせねばならぬことなり。
妊婦みづから空腹なりといひて。食をもとむるならば。やはらか
にて温なる湯とりやうの飯を。すこし肉ばにあたへたるがよし。必
此方より強るは可からぬことなり。
食傷霍乱の悩より。むしけづきて産る児は。多は盲かぬるものにて。
先は死胎が多ものぞ。
産にかゝりて。面色のあまりに赤は。産後脱血することあらんかと。か
ねておもふべし。
一臨産。背冷もの。或は面色脣まても青白く。呼氣冷るもの。産後。
の変あらんかと。かねてこゝろうべし。
悪寒戦慄て。乳房の痿軟になりたるものは。胎児に変あることを。予
いひてよし。
産にかゝりては。身に微熱あるをよしとす。汗出るもよし。しからざる
は。産後のこゝろづかひあらんかと。気をくばるべし。
産にかゝりては。虚里の動といひて。左の乳の下びくつき劇ものは。
産後に変證あらんかと。かねてよりこゝろをもちふべし。
臨月になりて。崩漏ことあるは。子腹中に死ぬるにあらねば。産後
変証出ることあり。
産に臨て。その腹石のごとく堅く。つやなきものは。胎の死たるにや
とかんがふべし。
産にかゝりて。腹ばかり痛てうまるは。死胎にかぎることなり。たとへ逆産に
ても。活胎なれば。その痛腰肛門へおよぶが常のことなり。惣て死胎は。その
腹を按て気力なく。指のおちいるをめあてとしてよし。
妊婦の腹にはかに重なりて。二三貫目もあるものを負たるがごとくおぼゆる
は。胎の死たるなり。
陣痛にはかに止ものは。腹中の児死たるにはあらずやと先おもふべし。
陣痛のにはかに止ものに。水便の通じかぬるよりしかるものあり。それをあ
やまりて死胎とすれば。大なる害をひき出すことあり。よくこゝろえて。小
便閉たるは。はやくその小便を通じさすれば。陣痛またそよほすなり。
臨産に。小便の通じかぬるは。児頭が横骨の正中へつきかけて来るゆゑに。尿
道自塞く。通利あしきなり。これは常のことなり。もししからずして。小便の
通じいさゝかも渋閉なく可は。逆産か。横産か。死胎にはあらぬかと慮べし。」
陣痛のあひだに眠ものを。ねふりごしといひて。産の気いまだ到ぬものなり。
必促て努力せず。静に寝させたるがよし。
陣痛時うつりて娩かぬるに。旁にありて小声にてさゝやきなどするは。よ
ろしからぬことなり。高声にてはなしなどするも必制すべし。産後もよ
く寝させねば。大に損あることにて。それも側臥にせねば。おもふやうに
は精神の鎮らぬものなり。このことかねてこゝろうべし。
倒産。横産は。破漿きたりて迸ぬものなり。
臨産。陣痛をり〳〵来りて。産かぬるのち。その痛忽止て。たゞ腰間おも〳〵。
腹に微痛をおぼゆるものは陰中を探て見るべし。被膜いまだ破ざる
ものは。五六日を過したりとも。必死胎にあらず。産の期自然に来るをま
ちてよし。あせりて膜を衝破などして。強に娩身んとするは。大に害と
なるなり。もし膜皮已にやぶれ。臭液流出て。臍下攣痛のみにて。肛門に
およばざるものは。死胎の候とす。はやく児を出してよし。
胞水の破るときに。腹中たしかに音ありて。産婦にそれと知るゝは。産必やすし。
音もなく。傷たるときも知ぬものは。おほくは難産なり。
順産と知たるものゝ。児の娩ぬさきに。胞叉の先出るは。必死胎にかぎることなり。
横産逆産。生産のものは。胞衣先出たりとも。死胎とはいひがたし。順産にてた
しかに死胎と見きはめたらば。先その胞衣を断とるべし。
児頭の子宮口にむかひたるを。指頭にて探て。その口中を診に。舌動とな
く。臍帯に脈動なきは死胎なり。
その腹常に冷て。なにともいひがたき痛をおぼえ。陰中より黄汁または
赤小豆の煮汁のやうなるものを下して。臭気甚きゝて。胎の腹中に死たる
なれば。はやくその胎を捜出すべし。
燥屎産路を妨く。娩かぬることあり。それは指にて陰中を探て見れば。
肛門のかたにあたりて。堅こと石のごとく。指先にあたるものあり。しからは。
その産婦にいつ大便したりととひて。たしかにそれと断たらば。油を
食指にしたゝかにぬりて。肛門へふかくさし入。いくたびもかくのごとく
して。おくまでも油のよくとゞくやうにしてのち。肛門の縁を摩旋し。
大便を導。やがて指にてかき出すべし。蜂蜜膠飴の類も可ども。に
はかなるときには得がたきのみならず。油のかたはるかにまされり。いづ
れにも時の宜に従て用ふべし。もしこれにても通じかぬるものは。
油にても。また蜜にあつきゆをすこしさしたるにても。烟管の頭を
とりたる竹の方を口にふくみ息をきはめて肛門へふかくふきこむべし。
喞筒にて注射こと尤よし。
児頭陰戸に出て。ひさしく動ことなく。頭皮ゆるみたるものなりとも。
臭液のしたゝり来るものなくば。妄に死たりと為べからず。陰内膨脹膿
中の水汲乾燥つき。陣痛にて逼壓らるれども。脱出ることならず。揺
動をすることならず。進退きはまりて。死たるやうにみゆれども。鼻を
出して太気を吸入たるのちにあらねば。ひさしく口鼻をふさぎても。
妄に死ぬるものにはあらず。かゝるものを尋常の産科に諮ば。必鈎
を用て曳出すゆゑに。非業の死をさするなり。むかしよりこの産を
ことの外むづかしきことに心得て。難理とすれども。予が後條に説
あかすところの発明を聞得は。その時日過ず。交骨再閉あはざる
ものは俗人にも救得らるべく。たとひ児が死たるにもせよ。釣にて
破傷。あるひは截断などして出たらんには。その父母も後〳〵はさぞ
追恨ことにおもふべし。生婆も俗家もよく心得て。はじめよりこ
れを釣かけ医者に委ことなかるべし。
妊婦大に浮腫たるものが。産にかゝる二三日前に。水下りて間歇なき
は。多は死胎なり。浮腫なくて。たゞ水を下すものあり。それはいとふべ
きにあらねど。その水に色のつきたるは。そのまゝ産にかゝることある
ものにて。すら〳〵とはいかぬものぞと先こゝろうべし。
壮尾胎は。順産にて女子が多きものぞ。これは母が水腫をわづらひ
て。その水氣が胎におよぼし。児の周身浮腫たるを。娩出るときに。頭一
胸の水を下へしごきて。腰以下大になりて。かくなるものなり。ゆゑに
逆産にて。脚より出るものは。その水を上部へしぼりあげて。頭胸が大に
なりて産るなり。多は死胎なり。炎燠のころとり分あることにて。體士
内にて死て。暑熱により。ほどなく腐敗。その皮肉がきれ〴〵になり。水
を多く下して。母もあやふきことあるものなれば。水腫甚き孕婦など
は。意を留て胎の死生をうかどふべきことなり。胎児の手足疲て。腹ばか
り大なるも。その内にあるものは水なれば。もし産に臨て。産かぬる
とき。死胎なりとたしかに知たらば。児の腹部のよろしきところにて。
爪を以て皮をやぶり。水を出して。のちにうますべし。
まづ手を出すものを見るに。ほそく疲かしけたるは。死胎なり。その
血の運輸なきゆゑに疲なり。活胎の臂は。その色白青く。肥て動ぬ
やうにても。なにとなく活気あるものなり。
児頭子宮口にいたるときにごれを探て頭骨かたく。とがりあるやうに
て。皮なき骨にあたるやうにおぼえ。嚢に物を入て振やうなる音あ
るかとおもはるゝもの。死胎なり。かくなりたるをひまどると。その胎が
腐壊て。皮肉はなれ〴〵になりて下るものぞ。さあるときは。母もまた穏
ならぬことになりゆくなれば。よくこゝろえさせてよし。
児うまれ出て。声をたてぬうちは。冷るものなり。それにかはりて温なる
は。日數歴ぬまに死ぬるものなり。よく心得べし。死胎などは湯氣のたつ
ほどあたゝかなるものなり。
此三十三ヶ條は。もつとも切要のことにて。坐婆よく記得て。事実に
こゝろみて。これを拡充。そのうへの発明を得て。人を救こと多からば。
仁恵はかりがたかるべし。しかるに世の坐婆人命の貴重なることを
おもはずして。その職に疎に。惨酷なることをなして人をあやまり。
天命の畏べきことを悟ざるは。いと蠢愚ことなり。まして都下には
なきことなれども。貧聲して多産家は。無事にうまるゝ児をもころ
すことを委れて。これをもまた世わたりなりとうけがひく。絞殺ま
たは口鼻をふさぎて息をとめ。あるひは圧ころしなどする坐婆が。
寒郷には今もおほしときく。もししからんには。かの竊に釣を用て
生児を捜出す医師には。はるかにまさりたる巨罪なるべし。すべて
人には天禄といふもの具て。児一人には一人数人には数人だけの衣
食を。必天よりうけて産出るものなれば。貧倹にて数多の児を養育
せんからに。飢寒て死るまでにはいたらぬものなり。しかのみならず。
親となり子となる宿縁のほどをおもへば。閑事にはあらぬを。い
かに貧窮にてやしなひがたければとて。みづから殺などするは。そ
の類をわきまへぬ禽獣もせぬことなり。かゝる心を起しては。たとひ現
罰なしとも。貨のために人をころす盗賊にも。まざりたる大罪人なり。
天の譴いかばかりぞ。いとおそろしきことにあらずや。
阿波国文庫
とりあげばゞ心得草巻之上終
坐婆心得草巻之下
一名坐婆必研
阿波国文庫
不忍文庫
一産前後の病に坐婆の心得べきことをしめす
産前後に病あるとき。医師をまねくは常のことなれども。悪阻な
どさへ。薬はおもふやうにはきかぬものなり。まして胎のかたよりて
腰脚攣急。または小便を閉。あるひは子懸。妊癇などを発し。もしくは
産後の欝冒。崩漏の類は。手術を先にし薬を後にすべきもの多き
を。ましてや胎児の産門に臨て娩かぬるもの。或は胞衣下かぬる
ものなどが。薬にて効を得べしと思は。たとへば歒兵に囲れ
たるものを援んとて。先その敵を解ことをせずして。たゞ糧粟
を運んとするがごとく。却て損害を増ことあるべし。かゝる理を
も弁知ぬ医師は。呷物湯を血の薬とこゝろえ。仲條本味は産前
後には妙なるものぞ。黄芩白木は安胎の良薬。当歸川芎は催生
剤中に必配合べきとおもひ。折衝飲は賀川家にて製たる方
にて。血の薬と心得。射副覧は紅夷の血を治る薬といひ。半夏は
胎を堕の。芒消は胎を水にするのと。薬の効能も。方の腎由も實
と審知ぬ。俗家同様の愚昧なる臆見より。産前後の劇症に。たゞ薬のみ
を託にして。もし偶に自然に治ことあるを見れば。一途にこの薬か
の病に効ありと執強て。生涯を過す輩が多ければ。庸人は薬を聚
に委せ。産婦のあつかひを坐婆に任るが。先は世間の習しなり。尋
常の医師は大かたかくのごときものなれば。なか〳〵倚頼になる
ものにあらず。ゆゑに坐婆にその心得なければ。母子の生命に係るべ
大事を誤ことありて。その責辭べからず。腰を擁て努力するば
かりが。職分にてもあるまじ。胎児を浴さすることなどは。貧民の
たび〳〵産したるものは。なれて常にもすることにて。それらの
ことを本業と心得ては。たえて坐‾婆なしといふとも。事缺るこ
とあるまじ。いかにや世の収生媼。いさゝかもこゝに愧る志あらば。
その家に招ところは。かの薬もり医師にて。釣を懐にしたる産科
盛にあらぬこそ。吾人互の太幸なれ。難證なりとも。いでや兎身
て見せんと。力の及たけをつくして。天道のつとめをかゝぬやうに。心
がくべきこと第一なり。ゆゑに今産前後の病に。坐婆の心得て
益あることをのべ。末に至てはいかなる難産なりとも。やす〳〵と
分娩らるべき。千古未發の妙術を。洩さずこゝに説あかすなり。上
巻にもいふごとく。すべてのこと学より慣よとは。俗諺にいふことな
れども。世間の坐婆よくこの書に述るところを。日々の事実に験て
怠ことなくば。徒に精神を費し。筆研を労て。書記たる予術にも。
超まさりたることは勿論。さきにもいふごとく。産の一くだりは。あれ
を男子に傳んよりも。坐婆に教て。世の益となること多く。産婦も
恥とおもふ念もおこらねば。もつとも事を處やすかるべし。近き
ころは釣街の害を聞こと多く。いよ〳〵妄なることのみになりた
れば。それらの弊を救ひ。世の害を除んとて。思を起し。力てこの書
を着て。その術を世につたへ。子玄翁の産術の羽翼とならんと希ふ
のみ。もし人かゝる主意をも弁ず。たゞ名利の心を以てこの篇を読
予が志に背ものあらんかと。たゞそのことを恐るのみ。
〔悪阻〕つはりは。薬を用ても速に効なきものぞ。まして世間に用
る四物湯。順気散。龍手湯。實母散などの類は。かへつて悪阻のさ
はりとなることもあれば。妄にこれを服ものあらば。先は制止て
よし。この症は食物の停滞ぬやうに。ひかへめに喫せ。身體をよき
ほどに運動し。半婆は。をり〳〵その胸腹より。背の六七槌のあたり
の二行どほりを。指頭にてこゝろしづかに揉やはらげ。その家の人に
もをしへてかくなさしめ。胎位定て。自然に止を待たるがよし。ま
た嘔逆なくしてたゞ食を悪ものに。その尤嗜好ところの物を。心の
まゝに喫せて。食づくことあり。すべてなにごともなきに。懐妊の
食禁は無益なり。平常のとほりに心得てよし。支那人のいふこと
も。詐妄のみ多ものにて。こと〴〵く従べからず。世間にいふ食禁の
たぐひも。皆その實なきこと多しと心得てよし。たゞ飽食させ
ぬやうに。よく誡べきことなり。飽食にて胃府膨脹ば。胎椅側て血
の運行も遅渋。つひには難産のもとゐとゐとなることあればなり。
争癇この病候は。病家須知に載べければ。此には省く。この記は
諸蔵を上のかたへ牽引て。身體攣急。人の見さかひなく。その患が
子宮へ及て。甚ければ堕胎することあるにいたる。九月臨月ごろに
発て。そのまゝに活胎をうむことあれば。病発やいなや。胎児いか
にと陰中を探て見るべし。子宮口が開て児頭已に手に中ば。は
やくその胎を搏尽べし。姙婦は前後を知ざれば。いかやうにもな
るものにて。術を施やすし。手足を動し躁亂ものは。人に捉させ
て治するがよし。月かさなりたるは。死胎のみにあらざれば。妄意
なることは決して為べからず。瘰癧甚く黄色なる臭汁を吐も
のは糞なり。これを吐糞といふ。此證あるを難治とすれども死にき
はまりたるものにはあらず。妊癇を救ふ術は病家須知に載て。廣
く俗家に示べし。其大旨は仰に臥たる婦の左のかたへ居て。右の
膝を婦の李肋にあて。挙にて上へ唐突ものを緊抑定て。その勢を
摧やうにするなり。劇ものは。女の力にては及かぬるものなれば。
男子によく教諭て為しむるがよし。陣痛の催ありて発ものあり。
それは陣痛ごとに頭中にその痛が及やうに思れて。手足振棹。挿
搦もあり。頭痛眩連などもして。物音に驚やすく。わけもなきこ
とを恐。とかくに精神の安定かぬるやうなるが。子癇の發きざし
なれば。決して忽視すべからず。此證と眩運昏冒と痒病とは。その因は
なはだ近ものにして。證候に差別あるまでなり。然るを子舌子は。左
腹下を血室とし。血塊は必左にあるものとし。右を委食の府といふて。飲
食及屎は右に在がゆゑに。便下後は空虚になることあれば。胎は右に偏やす
しといふことを持論にし。姙痼を救には。右の不容の辺を按。眩運鬱冒を治
には。左の不容を推べしといふこと。かの著書に記載たれども。これは全く病
因を知に疎ゆゑに。かゝる僻説をいはれたるなり。予もはじめはこの手術に
倣たりしが。その後数試に。その右を按よりも。左のかたを心窩へかけて推
が。効あるやうにおもはるゝなり。ゆゑいかにといはゞ。胃の府俗にいぶくろと
稱は。飲食を受容る臓にて。上口は咽につゞきて。心窩のやく左方不容の邉
にあり。下口は左へよりて。下の方腸に連續たり。この胃府は。たゞ飲食を蓄
るのみにて。腸に傳送て漸に屎になりて。肛門に泄出るなり。故に子玄子
の言る如く。燥屎ゆゑに妊癇を發することもあるべけれど。すべて胃管は。
殊感觸の甚き部なるがうへに。蔵躁。妊痾。眩運。皆冒の類は。産の前後に發
と。其婦の性質に由て。病證に差別あるまでのことにて。いづれにも胃管の
攣急を鎮止得れば。その患は治なり。假令ば。頭痛劇ときは嘔逆悪心を
患。嘔逆悪心甚ければ。頭痛すると。同一理にて。頭は精神の府とすれば。
七情鬱結過度ゆゑに。頭の餘響が下胃管に及し。飲食停滞及燥屎下
降ざる病が。上頭部に及こともあるべく。また経脉の躁擾より。この諸症を
一も発すべく。今手術はしばらくその唐突ものを按までのことなれども。予
は諸症ともに。左方胃管を推かたが。効を得の捷疾ことをたしかに試たるまで
なり。これあながちに古人に戻て。自己が意を主張んとにもあらず。かゝる術
はすべて人々の練熟にあることにて。いづれなりとも可やうなれど。たゞかの左
右分配之説は。決して拘泥がたきことゝおもふべし。妊痛たび〳〵発れば。十が八九
は小産するものなれば。収生媼も予その用意をせねばならぬことなり。
産前後濃閉このことは俗家に伝て為しめ。その急を免得させん
と欲がゆゑに。病家須知に記べければ。半婆もよく記得て人を救べ
し。しかはあれど。懐妊の小便通ぜざるは。胎の膀胱茎を圧閉て。小便
の不利が多ければ。それを治べきためのみの街にして。水腫などの
小便が膀胱まで滲来ぬものには詮なきことゝ。まづ知べし。また胎
の膀胱に迫ものも。苦悩て日数を過その體疲たるは。法のごとく便
器に跨ことのならぬがあり。それは仰に寝せて股をひらき。食中
二指を陰中にさし入て。膀光へ迫ものをおしつけながら。上のかたへ
摸挈やうに力をいれて為べし。片手にて功なくば。左の手にて右の
手腕上を握て力を添べし。また胎の右か左へ倚側て。小便の通じを
礙ものは。右へ傾ものは左側臥にし。左へ側ものは右側臥にし。坐婆
はその後に坐て片膝をのばし。婦人の上になりし脚をその膝上へあ
げ。股の間より手をさし入て。児胎を推て。尿道をすかすやうにし
て。小便は綿絮にてとるべし。すべてこれらの術を行にも。子宮
と膀先の位置を知ねば。その意を得がたければ。下に出す圖をよく
見て。その旨趣を辨たるの後はいかやうにも時に臨ての酌用あるべ
きことなり。もしまた法のことく胎を提起て。膀胱茎を寛鬆こと
のおもふやうにならぬものには。近来世に専用ところの〽かてして類
といふものを用て。通利を取がよし。この管を施には。妊婦の枕のか
たをすこし高して。蓐上に仰に臥せ。両足を開せて。半婆はその前
へまわり。左手の指頭にて陰門唇をひらき。右手に管梢に油をぬ
子宮膀胱直腸連続たる図
かくのとほりにつゞきたるものなれば。
一臨産ときに。釣などをあやまり
用て。陰戸の下邉を傷て。大便を
陰戸より出し。上辺を損て。小便
一常に陰戸より洩て。終に愈ざる
ものあるは。これがためなり。
よく〳〵こゝろえべし。
膀胱といふて。小便の
たまるふくろなり。
〽かてしてる」を
さすなり
し陰門のうへのかたにあたりて。
一別にちいさき孔ありて。これ
より小便もれいづるなり。〽かて
してる」は。このあなより上のか
たへむけてさしこむなり。
陰門なり
かてしてる
の図
子宮または
子蔵とも名て。
俗にこつぼといふは
これなり。はらむと。これが
一漸に大きくなりて。ひろがるなり。
一銀にて造ものもつともよし
直腸といふて。
大べんのいづる
みちなり。
このあたりにかたき大べんかたき大べんかた
まりたるが産のさまたげに
なるなり
いますこしみじかく
ても。まにあふなり。
〽このはりがねをさしたるまゝに。小便のいづるあなへさしこみてのち。
まるをあてがいてから。はりがねをぬきとるなり。
りたるを持て。尿口より横骨の後面を。上のかたへ向てさしこみて
後。便器を前へひきよせ。さて銀線をぬきとりて。膀胱中に留潴た
る尿をこと〴〵く輸寫べし。婦人の尿口を男子に比れば。させる屈曲
なきゆゑに。大に術を施やすしとす。よくこの管を用ることを心得
れば。胎を提挈にも及ず。娩後の小便閉の子蔵腫と子宮の下墜より
来る症にも。施て効を得べく。はなはだ便利よろしけれど。男子の
医士に対しては。恥厭ふ婦人が多ければ。半婆よく記得てその
病苦を救ふべし。
<昏眩)産するやいなや。頭痛眩運甚く。或は鬱冒昏沈。呼ども應
ず。そのまゝに息絶るものあり。後世これを血運と名づく。俗家に
は血がのぼりたりといふ。この證は産すると直にあゆませて。産椅に
坐しむるものに多し。産後にはかに快暢になりたるやうに慮れ
ど。分娩前には身體諸部膨脹て血脉漲だちたるものが。児を産
出し。胞衣も下り。血も多く瀉去て。腹中空隙になりたる體を。起黄せ
て椅子に跪生せては。鬱冒の変あるも宜ならずや。この病發て。急
に医を招たりとも。その間にあひがたく。また薬ばかりにては。決して
治らぬものなれば。坐婆よく心得て救ざれば。見ながらに人を損なり。かく
急劇症なれば。世人のために救べき術を。病家須知に大略記載て
示べきなれば。収生媼よく会得て急変の用にそなふべし。その術は
右の手にて胸の下を按が法なれども。婦の左のかたへまはりたるが
便宜よきときは。右の手を婦の肩へかけ。左の手にて按ても同意
なり。下からむく〳〵と貴起ものを。手の下にたしかに知ば。婦を抱
ながら。片手の拳にて推下てもよし。いつまでも椅中に坐ては。決
して静かぬるものなれば。按たるまゝに婦の身をひき出して。高桃
にしたる蓐の上へ。右側臥にさせて。息をまつまでは。按たる手を
しばらくも放べからず。この術をおこなふには。婦の體のすこし
も動揺ぬやうにしてぴき出すにも。蟲の這やうに。脚の指さきに
て。そろ〳〵とあとへ引ながら歩ねばならぬことゝ記得てよし。こ
の昏冒の因に三種あることも。かの書に詳にすべきなり。坐婆ははや
くその陰戸に手をあてゝ見るべし。脱血のものは。はやくその崩漏を
止ねば。いかほど胸下を推すくめたりとも。その功あることなし。胞衣下
ずして発ものは。まづ昏眩を鎮て後に。胞衣を下すべし。昏眩をさ
まらぬうちに。胞衣をぬきとらんとすれば。血大に下て死ぬるものあり。
ゆゑに胞衣にかまはず。まづ昏眩を鎮るなり。昏冒發れば。その面まづ仰
て。發初より直に頭を垂ものは。必治せず。産論にいふ。脱血は僥し。血
は仰ぐといふは謬なり。この證あるものは。横に臥させても。よく
熟睡するまでに。按て居らねば。安心はならぬものなれば。病勢静
なるときに軽按て。力のつゞくやうにすべし。太氏右側臥て。暫時の
あひだ按て居れば。十が八九は復本ものなり。もし寒戰咬牙症を
かねたるものは。心下を按ながら。旁人にいひつけて。手巾をたゝ
みて熱湯に浸し。しきりに顕項と両肩を慰べし。さすれば速に功
あるものぞ。また水を用ることもあり。熱醋を鼻に噴射て効ある
もあり。臨機て応変あることなり。
〖痺病〗痺病は。小産後に多くあることにて。はやく浴などして。慎あ
しきより発る症にて。本産にはまづは稀なることなり。これを救
ふ術は。病家こゝろえ草に載べければ。洗嫗もよく会得すべし。発と
きは。今まで坐たるものがおぼえずをつくと起て。旁人も大に驚駭
ことあり。その漸は頭項強。或は腮などつる氣味ありて。やがて胸
肋諸部に攣急をおぼえ。ほどなくこの症になる。もし病発てぼう
だちになりたるは。そのまゝにかた〳〵の脚にて病婦の足跡をふ
まへ。かた〳〵の膝にて後よりその脚をはさみ。隻手は胸下を按。鼻
手は頂へかけて。ひつたりと身を添て。そのまゝもたれかゝらせて。
引仆べし。病勢やゝ鎮たらば。頸より膝へ帯やうのものにてつりを
かけ。熱湯をしたゝかに喫するか。温泡薬やうのものを用て。両脚を
塩湯の熱ものにてよく熨あたゝめ。被襖数枚をかけて。はやく汗を
とるべし。その内に医を招て薬を與るなり。これ一應のことにて。この病
を治するには。医者も大に手叚のあるところなれども。たゞ手ばやく汗
を発と。速に下すとの差別を心得るばかりにて。処置さへよければ。死ぬべし
き病にあらず。その下すべき症にても。よく温暖て。肌表の冷ぬやうに
せねばならぬなり。もし痘を治に。坐婆の力かひなくば。健夫に敎て為
しむるがよし
崩漏血のどかおりすると。そのまゝにひきいるもまゝあることにて。
救べき術は。病家こゝろえ草に載べけれども。甚だ捷疾にせねばなら
ぬことなれば。坐婆の心にとめて。よくその急難を免しむるやうにす
べし。心ある医師を招とも。その間には死生のわかるゝ。おそろしき症
なり。この症殊冷水を頻に服せて。大に効を得ものなれど。旁人首
肯せずば。用るところの煎剤を器に容て。水中に冷し用さするがよ
し。なれどもこの症に。香竄品と辛辣味の物を先は禁べきことなり。
これを救ふ街は。陰肉の閉あふて。漏血の止やうにするが主意なれば。
それさへこゝろうれば。いかやうにもなることなり。或は右側臥させて。
右の脚を伸し。左脚を屈て。前に引よせてもとらせ。坐婆はその前
に在て。おのが右の脚にて。婦の両膝相交ところを按つけて。微も
緩ず。両手にて。その臀端の肉を。會陰のかたへむけて推つけてよし。
または後より隻手にて。下になりたる膝を上へひきあげながら。臀を
肉を按てもよし。その時には左右に拘らず。上になりたる脚を伸し。
下になりたる脚の膝頭に手をかけ。屈撓ながら。了戻つけるやうに
するなり。この症産椅中にあるものは。速に引出さねば。術を施
しがたし。尤陰戸には綿絮をあてゝおさへながら。速に産椅を出し。
側臥さするなり。胞衣下ずして崩漏發ものは。上巻に記たるを見
るべし。その胞衣を曳出しかけて。陰中にとゞむること能ずば。換に
睡綿を用て陰中に錮て。法のとをりにすべし。すべて木綿を用ざるも
のは。その小片を陰中に遺く。後の害となることあるを畏てなり。この
證尤危き患にて。手まはしあしければ。救がたきゆゑに。その用意ある
べきことなり。昏冒。痘病。崩漏の三症は。いづれも急卒に発て。中〳〵軽
視のならぬ患にて。たとひ隣家の医者なりとも。間にあはぬほどの
卒暴ものなれば。居あはせたる坐婆が会心ありて。人を救ことあら
んこそ。自己もおもはぬ降徳になることなれ。故に俗家のために記
ところの病家須知をも。必求て之を読。この編と参考て。その術意
を會得せしめんとするが故に。その車複は省るなり。これより以下
は。難産を分免る術に。古今未曽有の秘訣をつたへて。萬民の助と
なし。草野微忠を致すのみ。世の浮浅輩の。妄にその術をうり。虚名
を釣類と。日を同くして看ことなかれ。
一児の頭を露して産かぬるものを救ふ術をしめす
難産のうちに。尤国苦のきはまれるものは。児の頭を陰中に出して。こ
れを探に。たゞその髪のところわづかに指頭にあたりて。陰肉固閉く。
その周圍に指を容るところなきものにして。わづかに指を容るこ
とを得といへども。口鼻を探得こと能ず。出すところの髪も。いづれ
の部なるや知べからず。かれ是遅廻うちに。母の勢力もつきて。努
力こともならず。その児の死たるや否も。しかととさだめがたく。半
婆のてだてにもおよばねば。病家はこの時にあたりて。産科医を招
ば。これは死胎なり。このまゝおかば。母もともに危険ん。出すべしとい
ひて。竊に鈎を用て曳出す。その釣は。かねて懐にかくして持たる
を。先食中二指を陰戸の下邉より。胎にそへてさし入。鈎はその指間
をすべらせて。兒の躁骨にかけ。力にまかせてひき出す。かれ術ありと
いふといへども。外に死胎の便なきものを。一診直に死胎とさだむる
からは疑べきことなるを。挙挙家鼎の沸がごとき躁擾のときにて。た
だ闇の夜をたどるが如く。母の命いかゞあらんと。おもひわづらふを
りなれば。児はいかになりゆくとも。是非なきことなり。丁刻もは
やく母を助て給はれと。医に請の外あることなし。この時かの釣
を用る医師。母の命の続まじとおもふて。止ごとを得ず。手を下す
ところの鈎ならば。あながちに惜べきことにもあらねど。多はな
ま兵法大疵のもととか。俗諺にいふべき輩が。名利を貪るこゝろよ
り。施し行ふ術なれば。予が専門にあらぬものも。いかでかこれを視
に忍ん。爾言ばこの頭にいかにして手を下し。損傷ことなく。分免べき
や。これに一ツの術あり。乃天地自然の道に従ひて。發明し得たる術な
り。よく其意を會得せんには。事なれたる坐婆はいふまでもあ
らず。僻境にて。然るべき坐婆もなく。招べき産科医も乏しきと
きに。俗家なりとも。やく果断あるものならば。分免らるべく。い
かなる難産なりとも。あながちに釣を用ひ。或は頭顱を破。腦髄
をぬき出すにも及ずして。すら〳〵と捜出さるゝ妙術なれば。廣こ
れを丁天下に伝て。母子の横夫を救んと。おもふ心の止がたく。遂には
その蘊奥を洩さず記して。世に告んとす。その微妙の事件にいた
りては。下条において詳に説鑿べし。こゝには先これを曳出すべ
き手術を示すなり。その法はまづ蓐子もしくは被襖数枚をか
さねて。枕のかたを高したる臥床をまうけ。枕はその蓐の中ほ
どにおき。腰をむかふへすこしさし出るやうにして。蓐の下端にあら
しめ。蓐の左右よりありあふ衣巾の類をかひあてゝ。婦の體のすこ
しも動揺ぬやうにし。その股をひらきて仰に臥しめ。半婆はそのむ
かふへ坐り。両膝をのばし。脛にて婦の股をうけ。前後左右ゆるぎ。
なきやうにして。衣被を四脚相交たる上より覆て。旁人に見せし
めず。術を施すべし。さて筆婆の右の大指に食指ををりそえて。頭
皮を両方よりよくあつめ。たるみをつけて。大指食指にてはさそ
にぎること。たとへば肥たるものゝ臀肉を。力まかせにつめるやうにして。
そのまゝむかふへ送て。左の手をそのうへより添て力をたすけ。右へ左へあち
らこちと振摘し。頭顱のたしかにゆるみたるを見て。それより漸〳〵にぬ
き出すなり。頭已に出たるときには。両肩へ手をかけ。上邊へむかひてひきぬ
くこと。初にいふが如し。かくのごとくにしては。頭皮を裂傷んかとの貴心も
あるべけれども。必裂ものにはあらず。そのゆゑは。頭底は佗部よりも皮
あつく。そのうへ髪ありて。皮を摘に便となれば。手足腹骨の皮のごときには
あらず。純出てこの曳たるあとか。瘤のやうに腫あがることあるは。
針を以て横に刺て水を瀉べし。速にいゆるものなり。これ頭顱を露
て産かぬるものを救べき一應の術なり。もしこれにて出ざるものは。
児頭をむかふへおし送。その脚を探べし。その説は後條においてよ
くつくさん。其佗筆端の及がたきことあるは。識者よくこれを察す
べし。かく頭顱の凝て出がたきは。その面を伏て頂を下邉へむけて。
全く飜轉の機を差しものなり。ゆゑにかの陰處の下邉よりさし入
く。かけたる鉤痕が。頭頂にあるは。このゆゑなり。かゝる類も。陣痛に
あはてゝ。努力をいそくに由もの多く。半婆の心得よければ。こゝに
いたらぬさきに救得べきものなれとも。その拙き心より。時いたらぬ
に坐草。つひに活たるを死たりといひて。鈎を用る罪過を。医に科し
むるにいたること。その初はこれ誰が為たることぞ。そも恐きこと
にはあらずや。
一逆産をとりあぐる術をしめす
痞生は。その頭を上にして。まづ脚を陰戸に出すゆゑに。これを探て
その踵を得ものなり。そのはじめより逆に孕るものとすれとも。予おも
ふに。これ翻転して胞衣を脱出るときに。母腹の前部に空隙を得。そ
の脚を産戸に臨しむるものか。または懐孕のはじめより。頭を母の腹
のかたにし。脣を背のかたにしたるが。まづその脚を出すものかは。知べ
からず。出婆もしこの足附を探得ば。指頭にてこれを送入て。前の如
くに高枕に仰しめて。衣被をおほひて。陰所を旁人に見せしめぬ
やうにして。車を行ふこと。いづれもおなじ。さて隻手の食中二指
を容て。その出すところの足の大指を捫て。その左右をたしかに
知て。それを挟持て。膝の下まで曳出し。すこしねぢりむらきて。
隻手にもちながら。再隻手を陰處の下邉より送入て。脚の内側
に添て。児の陰處に及し。それに従て。隻脚をも探得て。そろ〳〵と
曳出すべし。両脚全くそろへて。その脛の間に食指をさし入て。全手
にかたく根持て。股まで曳出し。両股を布にてまき。滑脱ざるやう
にして左手をかけ。右の手は脛をもち。両手一脊に力を用て。これを陰門。
上邉にむかひて。疾速に捜とるべし。陰門および児體を傷んかとて。
猶豫することなかれ。前にもいふ如く。下邉の皮は。膽薄して破裂
やすく。上邉は。横骨ありて皮あつく剛ければ。破裂ことなし。かつ
上邉にむかひてこれを拭ぬくものは。横骨に腮をかけぬやうに。攪
骨に沿て回轉し。支障なからしめんがためなり。それを下邉に
むかひて曳ときには。仰ものは腮を横骨にかけ。伏ものは項をかけ
て碑住られ。大なる悩となれば。このところの意趣をよく会得べし。
横骨に沿て。児體を回轉ながら洩ぬくときには。すこしも支障
ものなく。破傷の患あることなし。またこゝに用心べきは。初の一脚を
捜。出すこと。もし膝を過れば。のこる一脚は。必横になりて。妨となる
ゆゑに。必はじめの集脚を。膝を超て捜出すことなかれ。隻脚を得て
のち。すこし曳出し。今一ッその隻脚を求れども。操あたらぬものは。そ
の脚屈曲て。腹のかたに沿て在が多ければ。そこにこゝろをもちふべし。
この心得は。先捜出し。たゞ脚の踵に掌をかけて。すこし推て。児體
をむかふへ送入やうにすれば。子宮口に空隙のところを得る。そのとき
に隻手の二。指を用て。出たる脚の股に沿て。のこれる脚の股に及し。
脚尖に摩いたりて。これを捉得るなり。もしその脚尖にいたること
難く。いかにしても得べからざるものは。さきに出したる一脚を。坐婆の
腰とともに。捩り出して股に及し。中指頭をのこれる股と腹との間に
さし入て。餘脚の股に釣て。はね出してもよし。これらは時のよろしき
にしたがふべし。膳生を収に。隙どるときには。その臍帯を把。圧ことひさし
く。血の運転を閉るゆゑに。児を害にいたる。死ぬるまでにいたらずとも。その
児娩出て。元氣衰憊。聲音稀微なるか。呼吸のかよひもなきがごとくにて。
やがて死ぬるか。左なくとも。病を得て。つひには生盲がたきにいたるが
ゆゑに。疾速に産することをよしとす。もしその両脚を得て。捜出すと
きに。胸肋もしくは髀枢骨が。母の横骨に阻留れて出ざるものは。
その児體をむかふへ一おくり〳〵こみ。そのはづみにてすこし轉戻な
がら。力をいれて曳ぬくべし。もし両臂の礙て出ざるときには。
持たる児體とともに。坐婆の腰をいれ。緩ながら児の肩体を斜に
曳かけて。片体をあらはし。中指をさし容て。隻臂を指にて擦出
し。今一臂は出すに及ず。そのまゝ正中にして。法の如く上邉にむかひ
て曳とるべし。その曳臂を頭に添ては。出がたからんとおもはる
れども。左にはあらず。一臂を中にのこして捜ときには。児の頬額に
添て。頭を滑脱て。腮を横骨に礙らるゝの患をまぬかれ。産門を出る
に却て便宜を得るなり。もし児の胸腹を下にして。項の横骨にかゝる
ものは。食中二指にて児の項を按ながらぬきとるべし。耳を探得た
るものは。耳に指を容て釣出すべし。下邉より指を容て。児の口へ
かけてとることもあり。いづれも時の宜に従べし。近生の脚を挺す
は。驚駭べきが如くなれども。車を行ふこと速にして。臍帯を圧し
逼ことなければ。頭より産出すの艱難よりも。大に易ことあるは。
後條に述るところを覧て明むべし。然を逆生の胎までをも。鉤に
て曳出したる産科医あり。かゝることは。黄川家にても絶てせぬ
ことにて。大なる過。鹿漏の所為といふべきことなり。
一坐産をうますべき術をしめす
探て臀尻もしくは前後隠を出すなり。または腰体骨のあたり
を得るものは。逆産の児體を両に折て。脚を胸にあて。努棹につれ
て尻を陰中に見するものなれば。困難のかぎりなるものなれども。
かの頭顱を陰戸に挟てうまれかぬるものよりも。大に易こととお
もふべし。これを出す法は。先その婦によくいひきかせて。努構せぬ
やうにして。横に臥しめ。その後より坐婆の一膝を股の間にさし入て。
婦の上になりし脚をのせ。脚の先を人に提させて。婦の股の間を
よく開せて。その陰戸の下辺より半姿の食中二指をならべ容
て。上になりし児脚に拘てはね出しまく。臥がへらせて。もとの如く
のこりの脚を拘出し。それより仰にねかして両脚をもち。捜出すこと
逆産を出が如し。また婦を横に臥しめたる前へまはりて。その脚を坐婆
の肩へかけて。児胎を捜出すもまたよし。尻臀已に産門におよふも。
のは。児股の腹に添たるあひだへ。右は左へ左は右へ。中指頭をさし入て。
その手を相接。鉤にして曳出す。尻臀いよ〳〵下り来り。旁より
股縫の曲折見ゆるものは。その両股の外麁より。左右の中指頭を挟
て。鉤にして曳出すなり。これも出たる尻をむかふへ推かへし。陰戸
中に手をさし入て。脚を探て曳出す術あり。こゝにいふ指を釣にすること
ばかり記ては。猶及ざることあるは。下條にいたりておのづから瞭解
ことあるべし。この生産には。活胎多こと。逆生におなじものなれば。
必〳〵釣かけ聾者に殺れぬやうに。坐婆よく心得て救べきこと也。
一横産を救ふ術をしめす
探て手を得るものは。児胎の横になりたるなれど。頭のかたをもとむ
るは。難ことにて。たとへ探得たりとも。なか〳〵頭を下にして。順産には産
せがたきことなり。故にこれを分娩するには。必その脚をもとめて。逆
に曳出すこと。前の逆産の法にならふべし。かゝるたぐひもみな囘生
鉤を用たるものなれども。死胎のみにこの産あるにあらねば。そのまゝ
疵つけずに出すことを。譯得ねばならぬことなり。ゆゑに繊悉に説
明をきけ。その法は。出たる臂の左右をよく弁別て後に。それに沿て
腋下へ食中二指をさし入て。推てむかふへ入て後にその出るかたの脚
をもとむるなり。これにて臂を推とも入がたきものは。その婦を蒲
伏にさせて股をひらかせ。半婆その後へまはりて。出したる手を推容る
ときは。入ざるものなし。後高枕に仰に臥せて。児の出すところの手。右な
りと知ば。半婆の左手は陰中より。児の腋下へかけて推容。右手は膿上
より胎を按て。平位にかへして後。脚をもとめて曳出すなり。蒲伏にさ
するものは。児胎の重力によりて。臂を推容るに。腹中の余隙を得るため
なり。仰に臥して陰中より胎児の腋下を推ときに。膿上よりも手をか
けざれば。正中に到しむることかたく。そのうへ努力あるときに。手を下
ては。労して功なければ。婦によく誠。なるたけ努揮せぬやうにす
べし。出したる臂のいろ白青く。肥てうごかぬやうにても。なにとなく
活胎なること知るゝものなり。死たる胎の臂は。血の運行なきゆ
ゑに。痩かしけて見ゆるものなり。その佗死胎の候は。初にくはしく
説示すごとくなれば。よく心に認てかんがふべし。臂を出して日数を歴。
梟液したゝりて。肛門にいたるの痛なく。腹石のやうに堅なり。出したる
手も痿耀。たしかに死胎なりと知とも。推て容がたく。いかにするとも
力に及ざるものは。止ことを得ず切て出すこともあれど。刃を用て切
断たるは。骨尖が陰戸にさはりて。痛堪がたきものあり。母命に恙な
きものも。産後に悩ことなり。然んときには。出たる臂を肩まで。抽出
し。肩と臂と相交る骨闕にて捏り切べし。然ときには骨尖にて陰肉
を刺螫の患なし。なるべきたけは。かゝることはせぬものなれども。
また心得居ねばならぬことゆゑに。こゝに記おきたるのみ。いかやうなる
死胎にても。脚をもとめて曳ときには。その胎を傷破ことなく。
分娩るものと心得て。下條に述るところを読得て後明に知べきな
り。横産の手を出ことなく。ふかく探て背を得たるものは。釣にて
曳出すことに定たれとも。これをも逆生のやうに心得て産すべし。
その他難産の頂期しがたき。いかなるものあらんも慮がたく。知がた
きことにはあれども。障礙なく頭面を出し産出ることのなら
ぬものゝ。或は逆なる。或は横なるもの。或は両に折て尻を見の類。こ
と〴〵く脚より出すに勝ことなし。その脚を探には。全手を容るに
あらざれば能ず。これその変に応ずるの妙術にして。千古以来いま
だ發明せざることなれば。秘して己が有となし。術を衒名をもとむ
る輩ならば。いかでか予が如くは説明べき。そのうへ胎産一科は。やく機
警よき婦人の坐婆も。為得べきものなるを。丈夫たらんものが。こと
ごとく専門なりとて。誇がほならんは。愧がましく。聴もをかしき
ことなりとおぼゆ。偶人と生て。医業なんどに生涯を経過もいかゞ
なるに。まして帯下医なんどゝ稱れんは。好しきことにあらず。然は
あれども。子玄翁世に出てより。その竒搆無比。産科の一術は。大凡漢
土西夷にもはるかに優ことゝなりたるは。その賜魔大なれども。豈
慮んや同生の鈎。妄に残忍の手にわたりて。人を害ふことの多き。今
の世のごとくなるべしとは。翁もまた預知るべきにあらず。功あ
れば害従ふが。自然の理なり。予もこれを懼るがゆゑに。釣にかゆべ
き秘訣を洩して。世の助に為んとすれども。世の坐婆これを事
賞に驗るに。仁愛の念を先にして。慎で術を行はず。もし疏忽なる
ことあらば。これもまた人を損ふことなしといふべからず。その罪を予
に誘ことなかれ。
一児胎を翻転し産しむる術をしめす
初に述るが如く。破漿自然に避て。子宮口大にひらきたるときは。四
指を容るを已に娩むとするの候とす。また児脚をもとめて抽出す
に。二指にして足ずば。全手を以て探をよしとす。若坐婆の掌大にし
て肥たるは。分娩の前後。子宮口全く開たる。いさゝかの間に。速に術
を施すに非れば。得がたきことなり。惣て指もしくは掌を容るに
も。児の手または脚の出るは。陰戸の下邉より。兒胎に沿て。陰肉に
觸ることなく。産婦にもなるべきたけは。知さぬやうにして。子
宮中に在ものを振にも。指を子宮と児とのあひだに容るやう
にすべきことなり。軟手はこれを探に便よくして。脚尖を求
にも易し。兒腹に沿て脚に及し。一-脚を得ば。また秋の脚に沿て。
餘脚をもとむべし。已に両脚を得ての後。これを指間にはさみ
て。捷疾抽いだすときは。児胎飜轉て。頭を上にし。その胸腹を母の
かたへ向しむるを。再その出たる脚をもちかへ。股に手をかけ。上辺
にぬきとること。前の逆生の條下に述るがごとし。両脚を具て出
すをよしとすれども。遅澁ては車をあやまらんかとのおそれあれ
ば。産論に。其一邉の脚は索に随て。自嗇挺て出る。とある法に
従てもよし。然ども。それは巧手ものにて。一應には施がたきこと
なり。大かたは出たる脚を送かへし。餘脚をも拿て。ひとしく併
て出すかたをよしとす。横産の先手を出し。背を見し。順産の陣
痛日をかさねて分免がたく。母子の命危険に浜もの。宰胎の娩
期遅澁て苦悩もの。孕痾。崩漏の危急證發たるもの。或は児胎
倚側になりて。漿水已に下り。苦迫甚しく。眩運し。死ぬべくみゆる
もの。あるひは臍帯の胎児に先だちて出るを。納めんとしても入がた
きものゝ類は。必その脚を捜索く。飜轉て産むるを妙とす。この街に
從ときは。児臂外に出て。おしても入べからざるものも。その臂をつた
ひ。児體に沿て。脚に及し。その脚を坐婆の右手にて曳。左手は出た
る臂を送入るれば。児體飜轉て。頭を上にするに随ひ。出たる臂は自
然と収るなり。臂を出すものゝ脚を索るには。先その臂の左右を
認て。出すところ左ならば。脚も必左を索め。右ならば。脚も右をも
とむ。児脚の左右を知には。拇指を探てたしかに明なるべし。かく
はいへども。心のまゝにこの術を行はんとせば。その自然にかへりて
求べき一-物あり。いかにとなれば。胞衣中の水液は。至て粕滑にし
て。児胎の支障なく。陰戸を出るも。我の滋液あるによるがゆゑ也。
しかのみならず。子宮口と陰門中より洩出るところの液も。その
質膩滑にして。児の跳脱ところの道を妨害なからしむる。賊與の
妙おもふべし。しかるを。産の苦憑ものは。みな胎の位置正からず。
分娩の期にいたりて。胎児活激令地勢を得て。自屈撓し身體を翻轉
跳脱んことを欲るといへども。子宮口向ところを失錯によりて。支
障もの多く。隙どるゆゑに。つひには臆皮破裂。漿水むなしく迸下
たるまゝに。その粘液もみな燥竭ぬれば。子宮は已に収縮ことをも
とめ。胞衣臍帯ともにまつはれて。出べき妨となる。このときにい
たりては。子宮産戸の間は。たとへば。亢旱の地上に。甘雨を待がご
とく。ふたゝび水液の滋潤を以にあらざれは。産出べきの便を得る
ことなく。艱困虚憊を致て。つひには母子ともに死ぬるにいたる
なり。ゆゑに紫の一物をもとめて救ずんばあるべからず。これすな
はち秘中の秘なり。それはいかなるものを用るぞといふに。一切の物
の中に。粘滑甚しきものを索に。油にしくものなし。かの難産には。こ
れを用て。陰門中より子宮まで。おくふかくこれを注こと。一人
より二合にいたれば。掌を子宮中に及しむるも易く。聊をもとむる
にも。坐産を抽にも。頭顱を滑脱しむるにも。あながちに力をい
れずして。その術を施し得るの妙。これに過たるものあること
なし。その油を注いるゝには。獣の膀胱を以て造たる器。尤便利よし。
之に換には。河豚魚皮を以て造ものあり。その他外科の喞籠および
小児の弄具に。竹にて製たるところの水銃なども。また急卒の用に供
べし。もし人のこと〴〵しくおもはんことを懼ならば。強てそれ
らの器を用にも及ず。半婆の掌を油中に浸し。または綿などに漬
たるを紐入もよし。惣て油を用るには。出かゝりたる児胎を。向のかたへす
こし送納るか。または右へ振り左へねぢり。空隙をもとめ。ぬりつけ添入て。
その油がおくふかく児胎をつたへて。子宮に及べうにすべし。とき油椰子
油なども。折にふれては用るもよし。至極の難産になりては。水銃など
の類にて弾射にあらねば。急に應がたし。よく心得て。時の宜に従べし。
世間の収生嫗この油をよく用ひおぼえなば。たとへ死胎なりとも。そのまゝ
に兎身らるべし。臨産。その母癇を發して死たるにも。はやくその胎
を抽出せば。児の活べきものあり。また母子ともに死たりとも。腹を
決て出すにもおよばず。活たるものよりも。かへつて曳出しやす
油を灌ふくろは。野猪。家猪。鹿などの
膀胱を用て造。その觜は。角
もしくは水牛の類にて。
この形にこしらへ。絲にて
くゝりつくるなり
このくだをぬきて
あぶらを入る
この図は。油を入たるところを画るなり。陰戸に
一灌入るには。これを掌に握もちて。緩急その宜
に適べし。嚢大なるものは。ほどよきところに
てくゝりてのち。油を入べし。
こゝにちいさきあなあり。こなたよりあぶらをもち
ゆくには。へつにあななきくだをさしかゆるなり。
大きこのくらいなるよし。ふくろも
大きこのくらいなるよしに
それに準ずべし。
「この口より油を入るなり
一近世小児の玩具に。河豚魚の皮を
一用て。かやうの物を造出せり。その大
なるものは。油二合を容ものあり。もし
〃
一獣の膀胱にはかに得がたきときには。
これを換用てよし。
こゝに接たる
一竹の管に小き孔あり。
このくだをぬきて水をいれ。ふたゝび
くだをさし。さてふくろを掌にてしぼ
れば。水はしり出るを以て戯とす。
廿三
外科及漑導剤に使用ところの。真鍮にて製たる喞筒なり。その大なるものは。
二丁三合を容るものあり。この器を以て。油を陰戸に灌に。最便利よろしとす。
小児の玩具に。竹を以て造たる水鉄なり。あれらまた倉卒の用に供べし。
Q
もしこれをもちふることあらば
このくちを。とくさなどにて。よく
すりてつかふべし。
に
し。ゆゑによくこの意を會得してからは。いかめしげに釣を用て恬視な
る輩にも。はるかに優たることあらん。しかるときは。産にて婦人の死
ぬるも少なく。胎児の横死を免しむべし。かへす〴〵も。天然におのづ
から。漿水の粘滑ある舟楫を失ひ。それゆゑに多く淹死はあるもの
なる理を弁知なば。その生命にあづかる。坐婆の職業に疎漏なるは。
罪ふかきことなど心得て。朝夕勉励て。一人なりとも多く救得せし
め。困苦の少からんことを。庶幾べきことにぞありける。猶くどくも
こゝに心得しめたきことは。予が右に述ところの術を会得した
りとて。陰中を探り。水膜いまだ迸ざるものをも。やぶりなどした
るも。油を用なば。子細はあらじ。いかなる難産なりとも。脚を拿
て飜轉せば。支障なく産べしなどく。術をたのみて妄意なること
を為べからず。且全手を子宮中に容るの苦艱なることは。陣痛来
ごとに。その掌を緊迫られて。麻痺ことあるにいたり。脚尖を探索
ることも闇夜に路をたどるよりも難。ゆゑになるべきたけは。自然
に順て。妄に膜を衝破。脚を拿て抽しなどして。でかしがほなる
ふるまひを為ことあるべからず。たとへ児胎倚側ことあるも。破漿
努揮の勢につれ。粘液ある水液に導れ。兎ノ出ことあるものなり。
されば水膜既に傾瀉て。児體壓迫られたるものを。飜轉さんと
するには。困苦ても。その両脚を得がたきことあるがゆゑに。止
ことを得ず。その股に従ひ。窄狭うちにも。指頭に捜。その脚を得
て。解わけなどするの。為がたきこともあるなれば。必〳〵妄なる
ことを為て。母子の苦痛を益べからず。また惣て。脚と面と相對
し。いさゝかも倚斜せぬやうに。抽いだすこと肝要なり。また児頭已に
子宮に臨。手を入るに艱渋甚きものは。その児頭を一側に排遣し。児
の腋下に治て。脚を索にあらざれば。得がたきものありて。容易からぬこ
となり。またいかにしても。脚を得がたき時に。その婦を前に侘せて。臥褥
を高く層て。両臂を靠らせ。膝頭を地に拠。股をひろげ。背を偃くして。蒲
伏にならしめ。坐婆はその後へまはりて。手を陰戸の下邉に送て探と
きには。児胎は母の背を離れ。上よりは壓ものなく。脚を索ることを為や
すし。已に脚を索て後は。法の如くこれを陰戸へ抽して。再仰に臥しめ
て。これを上邉に向て抽ことあり。かくはいへども。この術は妄に施がた
きことにて。なるべきたけは。仰に臥たるまゝに。股上より衣被をお
ほひ。隠建を人にみせしめず。掌を入るにも油を灌にも。皆その婦に
にも知せぬやうにすれば。旁人も驚怪ことなく。穏便に車をおは
るべし。たゞ術の機変を知しめんがために。こゝにその一端を記まで
也。たゞ何事も麁忽に心得ては。たとへ鉤を用ることなくとも。人命
に關係。世間の害となることありて。天の譴遁がたかるべし。坐婆よ
くその旨を会得して。施行べきことにぞありける。
攣胎をとりあぐべき術をしめす
攣胎を。一順丁逆のものとするは。一應の意料にて。惣て。胞衣は子宮
上底にありて。胎はそれにむかひて。頭を下にし。彎弓状になり。
産るときに筋斗て。頭にて膜を破り。産門に臨が。天理の自然に
て。かねてもいふ如く。逆に脚を挺すものは。かの飜轉のときに。
前のかたに空隙を得たるがゆゑに。脚を先伸して。下に臨ものと。
胎の位置の正からざるところあるによりて。下になるべき頭翻
て。脚を下にするとの外には出ざるかとおもはるゝなり。攣胎に一順
丁逆のもの多きも。またかくのごとく。一児産しおはりて。腹中空隙
を得るゆゑに。のこれる児脚を下に臨しむるが多くして。後に出
るものに逆産多し。ゆゑに双順なる産を正となし。その他は変と記
てよし。胎位を論ことも。両胎相並ものとするは然べし。重もの
といふは謬ならんか。然ども伊脈窪て溝道を成を。攣胎の候と
するも。確したる證拠に為がたく。いづれにも月かさなりたら
ば。たしかにそれと知ることあるべし。また胎動あるころに
いたりて。一児ならば。その周圍左右ともに動を覚べきに。しか
らざるものは。攣胎と心得べしなどいふ人あれども。これまた
碑證とは為がたし。たゞ七八月以上にいたり。その腹やゝ大になりた
るころ。両手を背後より腹上へまはし。相会んとするときに。どつ
かりと持ごたへあるものを。その候と定てよし。いづれにも肝生を
預察知ことは。おのれ〳〵が私断にて。人に伝てたしかに證拠と
せよといひがたきことのみ多く。ゆゑに欒子をたび〴〵とりあつ
かひて。おのが心に認たることあるにあらずば。先は攣胎なること
をいはぬがよし。一児先出て後。その胞衣を探索るときにあたりて。
別に水膜あるか。児の頭面手脚を得にいたりて。はじめてその実
をいふべきことにて。はじめの一児破漿のときに。直に攣胎なる
べしといふも。實はあて揣量なり。たゞ一-児己に産出て。陣痛丹
来こと以前の如くなるときには。学胎なることをたしかに知
ことあるべし。ゆゑにこの編に攣胎の圖を載さるものは。臆想杜
撰なることに。差謬をひきいださんことを懼ればなり。攣胎の前に
向ものを。いなたより破て漿を泄せば。その勢を挫て。後にあるものが。かへ
つてともに進来て。困苦することあるものなり。とかくにこなたより
破漿を促るは。多は害あることにて。なるたけは自然に決をまちた
るがよし。一児已に出て後。また一児あることを知ならば。これを膜上
より按排て。正中にむかはしむべし。然ときは自然に破漿して分娩
が多し。雙生産にて。同一に漿水破て後に。それを探得たるは。相競意
あるを見あはせ。先に出んとする勢あるものを上にし。側臥にさせて。
手を下辺より入て。脚を索て抽。楚の後仰に臥しめ。のこれる胎を正
中に排やりて。またこれをも脚をもとめて抽てよし。逆生のものは
いふまでもあらず。半産も。はじめにいふごとく。指を鈎にして股より
一抽す術もよけれど。掌を容らるべくは。脚を索て抽すかたがよし。また隻
児娩て後。隻児の水膜いまだ迸ざるは。しばらく休ませて。その娩期い
たるをまちたるがよし。されども攣胎一胞衣にて。中間に隔膜あるが多
ければ。あまりに遅引はならぬことゆゑ。時の見はからひにて。胎を正中へ推屋
りてのちは。指にてつきやぶり。陣痛のいたるをまたず。飜轉し脚よ
り抽したるをよしとすることあり。すべて学子を挙ことは。もつとも
捷速にせねば。害あることにて。前條にもいふごとく。先に出たる児の臍
帯を紮断ても。胞衣は決してひきとることなきをよしとする
ことは。胞衣一ッより児の臍帯両條生出て。両児をつゝむゆゑに。妄に
胞衣を抽しがたきは。これがためなり。欒胎一ッの胞衣なるは。尋常
より大なるものなれば。両児已に出て後は。必遅緩することなく。
速に出すをよしとす。一-順丁逆のものと。また攣胎双逆生のものは。そ
の脚をたしかに弁て。誤認ことなかるべし。〽順一逆のものといへども。一
は手一は脚をあらはしたるは。横産と誤認ことあるものなれば。よく心
得べし。それは出たるところの手を。絲にて紮て記となし。脚のかた
を捜てこゝろむるときに。出たるところ一児の手脚ならば。出たる手
は。その脚を曳に随て。陰中にひき入べし。また一児を娩せて後に。
その記に紮たる糸のあるなしにて。初に出たる手は。この児のか。
後る児の手なるかを察べし。またすべて。脚を索て飜轉し出す
には。児胎の手の小指に沿て。脚の小指に及さば。左右をあやまる
ことなかるべし。これらのこと。よく〳〵心契目識。錬磨の功を
つまば。おのづからその妙にもいたるべし。
産後に坐婆の心得べきあらましをしめす
産後残血泄ること少く。臍の上下攣急。硬満もの。六七日を歴
たるにても。痛を忍しめて。それを指頭にてこゝろしづかによく
〳〵捏捺やはらぐれば。蓄血ふたゝび下るものあり。
思露已に下尽たりとおもへども。楚の臍下猶堅實ものは。子宮の
腫がいまだ解ざるものなり。悪露の多少を見はからひ。医師がい
かにいふとも。蓄血ならずと切に知たらば。破血剤などは用させ
ぬがよし。
いたつて平産なりとも。七夜を過るまでは。決して浴させぬが
よし。難産は三五七日以上もいむべし。腰湯も無用なり。暑月な
りとも厳禁べし。もし堪ざるものは。熱湯に手巾を淹し。腰以
下を拭て後。風にあたらぬやうに裹まとひて。後に面部腹背手掌
などを拭せてよし。
産児臍帯退洛の後臍の中を上下へひらきて見るに。いまだ乾ざる
ものは。必浴せしむることなかれ。初にもいふ如く。浴したる湯の臍
帯より浸入て。腹痛を為し。搖搦衝逆発て。卒に死たるもの。常一
に多く見るところなり。よく〳〵心得させてよし。
産児。肛門の竅なきものは。はやく巧者の外科に見せて。竅をあけ
させてよし。鉄屑も。六指も。兎身て日数歴ぬまに。療治をうくれ
ば。さしたる悩もなく治るなり。
産後初出の乳を。去ずして児に喫しむれば。よく黒屎を蕩滌する
一効ある。造化自然の至妙なることは。病家須知中に載を見るべし。若其
母の乳を速與んと欲ば。先乳房を揉和て後。手巾を熱湯に滞て。乳頭を
よく〳〵拭。さて乳の泄出る孔に。黒色の垢填て。小点やうに見ゆるものを。
こと〴〵〳〵取去て後。再乳頭を揉。そのまゝ児に喫しむれば。乳汁漸に出もの
なり。いつにても母の乳汁の出るを期として喫しむるを可とす。たゞ始て
乳を喫しむるに。他人の乳を以るは。後害最甚とす。近世富貴の家の
児の。多病横夭を致もの。十が七八はこれに因もの多を能悟者のな
きは。嘆しきことならずや。
産後乳汁出ること少ものは。日々によくその乳房を摩ほぐし。蓄
たるだけを。餘残なく喫尽やうにすべし。かくすれば必効あるもの
なり。一ツ二ども喫て見れば。さのみ喫にくきものにあらず。乳の傳輸る
管あるところを。よくこゝろえてよし。これらのことは。坐婆のあづ
からぬことながら。人のためになることなれば。こゝにしるして示すな
り。俗間に傅る乳の薬と。乳の餌食といふものは。一切皆効なきものぞ。
心下支結には。その支結をひらき。蓄血はその蓄血を下し。其他いかな
る症も。乳の出ざるその因となる病を治すれば。乳は自然と出るものなり。
産児色青白。呼吸微にして。声を発ることならぬものを救こと。
は。病家須知に記載べければ。生‾嫗もよく心得て。これを救べし。
すべて虚弱なる児は。そのはじめ冷水にて洗たるがよきもの
なり。世間に湯浴をさせねば。痘瘡かろしといふは。むかしの書に
も見えず。道理にもあたらず。全く輓近の俗人のあしき意料に
り出たることにて。いふにもたらぬことゝ心得べし。すべて以上
の数件。自己の預ざることなれども。かならず伝授て世の裨益
ともなるべければ。かゝる清平の聖時に生あひて。おり〳〵その
職業に世をわたる。報恩にもかなひなんことをねがふ老婆心より。
その拙劣をかへり見ず。おのが心手に試得たることゞもを。その次
序もなく記て。つひにはこの上下の巻となしぬるなり。あなかしこ。
おのが術を衒となみ給ひそ。
一難産をとりあぐるに
坐婆と婦人と
むかひあひたる
かたち
このあしと
あしとくみ
あはせたる
うへより。
きるものをかけ。
人に見せぬやうに
するなり。
ばゞのしりへかいものを
して。そのからだの
すこしたかくなりたる
もよし。すべてちからを
もちひよきやうに
みがまへすべし。
ふとんの下より
ありあふきるものゝ
るゐをかひあてく。
をんなのからだの
すこしも
うごかぬやうに
すべし。
このかゝとにて
をんなのこし
ぼねをしかと
おさへて
うごかせぬやう
する日
なり
〽〽のてしてるをさすにも
このかたちにてよし。
児の頭を露て
産かぬるを抽ところ
□□□□
〇〇
これにてうまれかぬる
ものは。あしよりひき
いだすこと。本文にくはし。
よくみあはすべし。
ひだりの手を
そえて。ちからを
たすくるなり。
一病生を収るところ
本文にしるしたる。
うへのかたへむかひて
ひきいだすことを
わするべからず。
〇
□□
手をかた〳〵のこしたる
まゝひきいだすがよろしき
こと本文十六丁の
おもてにくはし。
一坐産の臀頭やゝあらはれ
たるをうまするかたち
一同もゝのつけねやゝあら
はれたるを抽いだすかたち
ひだりの手の中ゆびも
またかくのごとくに。児のうち
もゝへさしこみてのち。両手を
もゝへさしこみてのち。両手を
くみあはすなり。
手をくみあはせたるかたちは。
一次のてうのうらにのせ
たる。うへの図をこゝに見あは
せてかんがふべし。
一逆生よりこれまでの三ッの図は。みな正位
のまゝさかしまになりたるものをのせたれば。
その面を母のはらのかたへむかはしむるなり。
またこれとはちがひて。うしろむきにうまるこその
あり。それはもとりたるがうへにもとりたるなれど。とり
あぐるにはさしてかはりたる術もいらず。一〳〵に図を
出さんもわづらはしければ。みなはぶけるなり。
これも中ゆびをそと
よりさしこみてのち両
手をくみあはするかたち。
うらの下にのせたり。
ごのゆびさ
き児のわき
よりもゝの
つけねへ
さしこむ
なり。
しりのさきのみあら
はれたるに。そのうち
もゝよりゆびをさし入て
のち。くみあはす手の
かたちはかくのごとくなり。
かたちはかくのごとくなり。
もゝのつけね見ゆる
ものに。ゆびをさし入て
のち。くみあはす手の
かたちはこのやうなり
横産をとり
あぐるかたち
このあひだへ児の両もゝを
はさみこみ。なかゆびを
もゝのつけねへかけて。ひき
いだすなり。
一難産の状。かならずしもこゝに尽
さず。且図はそのあらましを
のせてつくさゞること
一おほし。本文をよくよみて
かんがふべし。
巻下
この手をしだい〳〵に
くりこみてのち。あし
をもとめてひき
いだすなり。
卅四
兒胎を飜轉して
産しむるところ
一坐婆こゝろえぐさ巻之下終
吾革谿先生。学之詳贍。術之精
詣。人所共知。嚮著病家須知如
干巻。既梓行于世。若此編所述。
特産科之急務。坐婆所未究。哲
匠所未發。而先生盡叩其底蘊。
欲俾天下之人。兎産難之患。奚
翅坐婆必研而已。若把両編通
観。則知先生平日。手與心應。技
経肯祭者。足相信符矣。固與夫。
挟姦鬻奇。以要利眩俗者。不可
同日而論也。
天保癸巳嘉平月
及門淺見讓謹跋
阿波国文庫
電姿
3882