つれつれ草
- creator
- [兼好]
- created_at
- 2026-08-17T19:23:22.651Z
- updated_at
- 2026-08-17T19:23:22.651Z
- field_notes
- 場所: [出版地不明]
- field_rights
- CC0
- field_creator
- [兼好]
- field_language
- 日本語
- field_has_image
- true
- field_publisher
- [出版者不明]
- field_identifier
- 10010000037020
- field_ocr_status
- completed
- field_title_yomi
- ツレズレグサ
- field_attribution
- 東北大学
- field_title_other
- ツレズレグサ
- field_oai_datestamp
- 2026-01-09T15:21:36Z
- field_oai_identifier
- 10010000037020
- field_ocr_updated_at
- 2026-08-28T18:53:25.651810+00:00
書名
十
所蔵者
(備考)
管理番
資料番号
東阿東令日
車
社2
徒然草
置㊃
特別
慶長つれ〳〵草
慶長つれ〳〵草二
つれ〳〵艸乾
慶長板つれ〳〵草二
別9
置町{
特別
つれ〳〵艸札
東火同
鈴木荘司
TOTELEL
荒井泰信氏ノ副諭長ヲ
以テ購入セル竹蘭博士
猶野亭吉阮藩蔵書
作楽
つれ〳〵なるまゝに日くらしすゝりに
むかひて心にうつり行よしなしことを
そこはかとなくかきつくれはあやしうこそ
物くるおしけれいてや此世に生れては
ねかはしかるへき事こそおほかめれ
みかとの御位はいともかしこし竹の肉生の
すゑ葉まて人間の種ならぬそやんことなき
一の人濃御ありさまはさらなりたゞ人も
とねりなど給はるきはゝゆくしとみゆ
その子むまこまてははふれにたれと
顔なまめかしそれよりしもつかたはほどに
つけつゝ時にあひしたり。かほなると
みつからはいみじと思ふらめといと口おし
法師はかりうらやましからぬものはあらし
人には木のはしのやうに思はるゝよと
清少納言かかけるもげにさる事なし
いきほひまうにのくしりたるにつけて
いみじとは見えず増賀ひしりのいひけん
うに名聞くるしく仏の御をしへに
かふらんとそおほゆるひたふるの世
捨人は中〳〵あらまほしきかたも有なん
人はかたちありさまのすぐれたらんこそ
あらまほしかるべけれ物うちいひたる
聞にてからずあいぎやうありてこと葉
おほからぬこそあかずむかはまほしけれ
めてたしと見る人の心をとりせらるゝ
一本性見えんこそ口おしかるべけれしな
かたちこそむまれつきたゝめ心はなどか
噴より晩にもうつさばうつらざらむ
かたち心ざさよき人もさもなく成ぬれば
しなくだりかほにくさぐなる人にも立
まじりてかけず。心をさるゝこそかいなき
わざなれ有かたき事はまことしき文の道
一作文和歌管絃の道又有識に公事先かた
人の鏡ならんこそいみじかるべけれ手なと
つたなからずはしりがき葵おかし
くて拍子とりいたましうするものから
げこならぬこそをのこはよけれ
いにしへのひしりの御代の政をも忘れ
民の悲闘のそこなはるゝをもしらず万に
きよらをつくしていみしと思ひ所せき
御ましたる人こそうたておもふ所なく
みゆれ衣冠より馬車にいたるまで
あるにしたがひて用よ美麗をもとむる
事なかれとぞ九條殿の遺議にも侍る
順徳院の禁中の事共早くせ給つるにも
おほやけの奉りものはをろそかなるを
もつてよしとすとこそ侍れ
別にい見じくとも色このまざらん男は
いとさう〴〵しく玉の色光当なき心ちぞ
すべき露霜にしほたれて所さだめず
まどひありき親のいさめ世のそしりを
つゝむに心のいとまなくあふさぎるさに
思みたれ。さるは独寝がちにまどろむ夜
なきこそおかしけれさりとてびたすら
たはれたるかたにはあらで女にたやす
からずおもはれんこそあらまほしかる
べきわざなれ
後の世の事こゝろにわすれす仏の道
うとからぬ心にくし
前幸に愁にしづめる人のかしらおろし
なとふつゝかに思とりたるにはあらて
あるかなきかに門さしこめてまつことも
なくあかしくらしたるさるかたにあら
まほし顕基中納言のいひけん配所の月
罪なくて見ん事さも覚えぬべし
我身のやんごとなからんにもまして数なら
さらんにも子といふものなくてありなん
前中書王九条太政大臣花園左大臣みな
そうたえん事をねかひ給へり染殿の
おとも子緒おはせぬそよく侍るすゑの
をくれ給へるはわろき事なりとそ世継の
翁の物語にはいへる聖徳太子の御墓を
かねてつかせ給けるときもこゝをきれ
かしこをたて子数あらせじと思なりと
侍りけるとかや
あだし野の露きゆる町なく鳥散山の煙
たちさらてのみ伍はつるならひならは
いかに物のあはれもなからん世は御ため
なきこそいみしけれいのちあるものを
見るに人はかり久しきはなしかけろふの
夕をまち夏の蝉の春秋をしらぬもある
なしつく〳〵と一年をくらすほと
たにもこよなうのとくしやあかすおしと
思はゝ千年を過す共一夜のゆめの心ち
こそせめ住はてぬ世にみにくきあを
まちえて何かはせんとあへなかけれは辱
おほしなかく共四千にたらぬほとにて
しなんこそめやひかるへけれそのほと
過ぬれはかたちをはつるこゝろもなく
人にいてましらはん事を思ひ夕の日に
子孫を愛してさる行するを見んまての
命をあらましひたすら世をむさほる
ころのみふかくものくあはれもしらす
なりゆきなんめさましき
世の人の心まとはす事色欲にはしかす
人の心はをろかなるものかな匂ひなとは
かりの物なるにしはらく衣裳に薫物
すとしりなからえならぬにほひには必
心ときめきするものなり久米の仙人の
ものあらふ女濃はきのしろきを見て
通をうしなひけんはまことに手あし
はたへなとのきよらに肥あふらつき
たらんは外の色ならねはさもあらんかし
女は髪のめてたからんこそ人のめたつ
へりめれ人の程心はへなとは物いひたる
けはひにこそ物こしにもしらされことに
ふれてうちあるさまにも人洗こゝろを
まとはしすへて女のうちせけたるいも
ねす身をほしとも思たらすたゆへくも
あらぬわさにもよくたえしのふはたゝ
色を思ふか故なり誠にか著の道その根
ふかく源とをし六唐の楽題おほしと
いへともみな厭離しつへし其中にたゝ
かのまとひのひとつやめかたきのみそ
老たるもわかきも智あるも愚なるも
かはる所なしと見ゆるされは女の感
すちをよれる綱には大家もよくつなかれ
女のはけるあしたにてつくれる笛には
秋先鹿かならすよるとそいひいたへ侍る
みつからいましめておそるへかくつゝしむ
へきはこのまとひなり
象居のつれ〳〵しくあらまほしきこそ
かりのやとりとは思へと興あるものなれ
よき人ののとやかに住なしたるには
さし入たる月の色も一きはしら〳〵と
みゆるなしいまめかしくきよらか
ならね空木たち物ふりてわさとならぬ
庭の草も心あるさまにすのこすいかいの
たよりほしくうちある詞度も昔覚て
やすらかなるこそ心にくしとみゆれ
おほくのたくみの心をつくしてみかき
たてからのやをのめつらしてはならぬ
調度ともならへをき前裁の草木まく
心のまゝならすつくりなけるは見るめも
くるしといとちひしさてもやはなからへ
住へき又時洗まの煙ともなりなんとそ
うちみるより思はるゝ大かたは家居にこそ
ことさまはなしはしらるれず海大寺の
大臣の農殿に鶴居させしとて縄をはられ
たりけるを西行か見て鶴のゐたらんは
何かはくるしかるへき此殿の御こゝろ
さはかりにうそとて其後はまいらさり
けると聞侍るに綾少説未のおはします
小坂殿の棟にいつそや縄をひかれたり
しかはかのためし思ひいてられ侍りしに
まことや烏のむれゐて池のかへるをとり
けれは御覧しかなしませ給てなんと人の
かたりしこそさてはいみしこそと覚え
しか徳大寺にもいかなる故か侍けん
神む月の比栗栖野といふ所を過てある
山里にたつね入事侍しにはるかなる
苔のほそ道をふみわけて心ほそくすみ
なしたる庵あり木洗葉にうつもるゝ
かき樋のしつくならてはつゆをとなふ
ものなし調仏棚に菊紅葉なと折ちらし
たる御ひかに住人のあれはなるへし
かくてもあられけるよとあはれに見る
程にかなたの庭におほきなる柑子の木の木の
えたもたわくになりたるかまはりを
きひしくかこひたりしこそすこしこと
さめて此木なからましかはと覚えしか
おなし心ならん人としめやかに物語して
なしきことも世のはかなき事もうらなく
いひなくささんこそうれしかるへきに
はる人有ましけれはつゆたかはさらんと
むかひゐたらむは独ある心ちやせん
たかひにいはんほとの事をはけにと
きくかひ有ものからいさゝかたかふ所も
あらん人こそ我はさやは思ひとあらそひ
にくみさるからさそともうちかたらはゝ
つれ〳〵なくさまめとおもへとくには
すこしかこつかたもわれとひとしから
さらん人はおほかたのよしなしま
いはん程こそあらめまめやかの心の友
にははるかにへたゝる所の有ぬへきそ
ほひしきや
独灯のもとに文をひろけてみぬ世の人を
友とするそこよなうなくさむわさなる
ふみは朱遣のあはれなる巻々白氏集
老子のことは南華の篇此国の博士共洗
かけるものもいにしへのは姦なる事
おほかり
和歌こそ猶おかしきものなれあやしの
しつ山かつのしわさもいひ出つれは
おもしろくをそろしき猪のしくもふす
猪の床といへはやさしくなりぬ此頃の
哥は一にしなしくいひかなへたりと
見ゆるはあれとふるき哥共のやうに
いかにそやこと葉の外にあはれにけしき
おほゆるはなし貫之か糸による物なら
なくにといへるは古中集の中の歌くつと
かやいひつたへたれといまの世の人の
よみぬへき事からとはしらすそ洗世の
こたにはすかた詞此たくひのみおほし
此歌にかきりてかくいひたてられたるも
しりかたし源氏の物語には物とはなしに
とそかける新古今には残る松さへ筆に
さひしきといへるうたをそいふなるは
まことにすこしくたくたるすかたにもや
見ゆらんされとこのうたも奇議判の時
よろしきよしさたありて後にも殊更に
恋し仰下されけるよし家長か日記には
かけり歌の道のみいにしへにかはらめ
なといふ事もあれといさや今もよみ
あへるおなし詞哥枕もむかしの人の
よめるはさらにおなしものにあらす
やすくすなかにして姿もきよけに長も
ふかくみゆ梁唐秘抄の郢曲先詞こそ
又あはれなる事はおほかめれ昔の人は
たゝいかにいひすてたることくさもみな
いみしくきこゆるにや
いつくにもあれしはし旅たちたるこそ
めさむる心ちすれそのわたりこゝかしこ
見ありきゐなかひたるに山里なとはいと
めなれぬ事のみそおほかる都へたより
もとめて又やるその事かの事便宜に
ほするななといひやるこそおかしけれ
さやう芝所にてこそよろつに心つかひ
せらされもてる調度まてよきはよく
能ある人かたちよき人も常よりはおかし
とこそみゆれ寺社なとに忍ひてこもり
たるもおかし
神楽こそなまめかしくおもしろけれ
おほかたものくねには笛篳篥つねに
きゝたきは琵琶和琴
山寺にかきこもりて仏につかうまつる
みそつれ〳〵もなくこゝろのにこりも
きよまる心ちすれ
る人はをのれをつゝまやかにしおこりを
退けて財をもたす世をむさからさらんそ
いみしかるへきむかしよりかしこき人の
とめるはまれ也もろこしに許由といひ
つる人はさらに身にしたかへるたくはへも
なかくて水をも手してさゝくて飲けるを
見てなりひさこといふものを人なえさせ
たりけれは或時木泥枕にかけたりけるか
風にふかれて鳴けるをかしかましとて
すてつ又手にむすひてそ水ものみける
いかはかり心のうち涼しかりけんの農は
冬月小衾なくて粟一束有けるを夕には
これにふし朝にはおさめけるもろこしの
人は是をいみしと思へはこそしるし
とかて世にもつたへけめこれらの人は
かたりもつたふへからす
折ふしのうつりかはるこそものことに
長なれものゝあはれは秋こそまされと
人ことにいふかれとそれもさる物にて
て一きは心もうきたつ物は春の望色に
こそあめれ鳥の声なとも事の外に
春かきてのとやかなる日影に垣根の草に
もえ出る比よりやゝ春ふかく霞わたりて
花もやう〳〵けしきたつほとこそあれ
折しも雨風うちつゝきて心あはたゝしく
ちり過ぬ青葉になり行まてよろつに只
心をのみそなやますはな猫は名にこそ
おへれなを梅のにほひにそいにしつの
事も立かへり恋しうゑ出らるゝ山吹の
きよくに藤のおほつかなきさましたる
すへておもひすてかたき事おほし
潅師の比祭の比若葉の梢涼しけに茂り
ゆく程こそ世のあはれも人の恋しさも
まされと人洗仰られしこそけにさる物
なれ五月あやめふく比早苗とる比水鶏の
たゝくなと心ほそからぬかは六月のころ
あやしき家に夕かほのしろくみえて
蚊遣火ふひふるもあはれなり六月祓又
おかし七夕まつるこそなまめかし気礼
やう〳〵夜寒になるほと雁鳴てくる比
萩の下葉色つく程わさ田かりほすなと
とりあつめたる事は秋のみそおほかる
又野分のあしたこそおかしけれいひ
つゝくれはみな源氏物語秋束両なとに
事ふりにたれとおなし事又今更に
いはしとにもあらすおほしき事いはぬは
腹ふくるゝわさなれは筆にまかせつく
あちきなきすさひにてかつやりすつへき
ものなれは人の見るへきにもあらすさて
は枯のけ色こそ秋にはおさ〳〵をとるまし
けれ汀の草に紅葉洗ちりとくまりて
霜いとしろうをくるあしたやり水より
煙のたつこそおかしけれ年のくれはてゝ
人ことにいそきあへる比そ又なくあはれ
なるすさましき物にして見る人もなき
月のさむくくすめる廿日あまりのそら
こそ心ほそきものなれ御仏名荷前の使
たつなとそあはれにやんことなき公事共
しけく春のいそきにとりかさねて
もよほしおこなはるゝさまそいみしきや
追儺より四方拝につたくこそおもしろけれ
つこもりの夜いたうくらきに松とも
ともして夜半すくるまて人の門たゝき
はしりありきて何事にかあらんこと〳〵
しくのくしりてあしをそらにまとふか
暁かたよりさすかに音なく成ぬるこそ
年の名残も心ほそけれなき人のくる
夜とて玉まつるわさは此頃朔にはなき風
あつまのかたには猶する事にてありし
こそあはれなりしかかくて明行空の
けしき昨日にかはりたりとは見えねと
ひきかへめつらしき心ちそする大路のささ
松たてわたしてはなやかにうれしけ
なるこそ又あはれなれ
るにかしとかやいひしよすて人泥このノ
世のほたしもたえぬ身にたく空の名残は
のみそおしきといひしうそまことにさも
覚えぬへくれ
歌のましはほみるにこそなくさむもの
なれある人の月はかりおもしろきものは
あらしといひしに又ひとり露うそ長なれど
あらそひしこそおかしけれおりにふれは
何かはあはれならさらん月花はさらなり
風のみこそ人に心はつくめれ岩にくたけて
きよくなかるゝ水のけ色こそときをも
わかすめてたけれはれは夜東流は恋人の
ためにとゝまること少時もせすといへる
詩を見侍しこそあはれなりしか祇康も
山沢にあそひて魚鳥をみれは心たのしふと
いへり人遠く水草きよき所にさまよひ
ありきたるはかり心なくさむ事はあらし
何事もふるき世のみそしたはしき
はやうは無下にいやしくこそ成ゆくかれ
かの木洗道のたくみのつくれるうつくしき
うつはものも古代の姿こそおかしとみゆれ
文の詞なとそ昔の反古ともはいみしき
たくいふ詞もくちおしうこそなりもて
ゆくなれいにしへは平もたくよ火果くけ
よとこそいひしをはやうの人はもてあけよ
かきあけよといふ主殿寮人数たてと
いふへきをたちあかししろくせよといひ
兼勝講の御聴聞所なるをは御かうのろと
こそいふをかうろといふくちおしとそ
ふるき人はおほせられし
おとろへたる末の世とはいへと猶九重の
かみさひたる有積こそよつかすめてたき
物なれ露臺朝餉何殿何門などはいみし
ともきこゆへしあやし濃所にも水ぬへき
小蔀小板敷高遣戸なともめてたくこそ
きこゆれ陣に夜の儲せよといふこそ
いみしけれ夜御殿のをはかいともし
とうよなといふ又めてたし上野の陣にて
事おこなへるさまはさらなり諸司の
しも人とものしたりかほになれたるも
おかしさはかりさむきよもひからこゝ
かしこにねふりゐたるこそおかしければ
内侍所の御鈴者なとはめてたく優なる
ものなりとそ徳大寺のおほきおとくは
おほせられける
斎王の野宮におはしますありさまこそ
やさしくおもしろき事洗かきりとは
覚えしか経仏なといみてなかこそめ紙
なといふなるもなしすへて神洗社こそ
すてかたくなまめかしきものなれや
ものふりたる森先けさもたゝならぬに
玉垣しわたして其か木にゆふかけたる
なとい見しからぬかはことにおかしきは
伊勢賀茂春月平野住吉三輪
貴布祢吉田大原野松尾鞍宮
飛鳥川洗渕瀬つねならぬ世にしあれは
時うつり事さりたのしひかなしひ
ゆきかひてはなやかなりしあたりも
人すまぬ野らとなりかはらぬすみかは
人あらたまりぬ桃李ものいはねは誰と
ともにか昔をかたらんましてみぬいにしへつ
やんことなかりけん跡のみそいとはかなき
京極殿法成寺なと見るこそ志とくまり
事変しにけるさまは長なれ御堂殿の
作りみかくせ給て庄園おほくよせられ
わか御そうのみみかとの御うしろみ世のと
かためにて行末まてとおほしをきし町
いかならん世にもかはかりあせはてんとは
おほしてんや大門金堂なとちかくまて
有しかと正和の此南の門は焼ぬ金堂は
其後たふれふしたるまゝにてとりたつる
ほさもなし無量奇院はかりそ其かたとて
残りたる丈六の佛九躰いとたふとくて
ならひおはします行成大納言の額
かねゆきかかける扉あさやかに見ゆるそ
あはれなる法華堂なともいまた侍るめり
是も又いつまてかあらんかはかりの名残
たになき所々はをのつからいしすへはかり
残るもあれとさたかにしれる人もなし
されはよろつにみさらん世まてを思ひ
をきてんこそはかなるへくれ
風も吹あへすうつろふ人の心の花に
なれにし年月を思へはあはれときゝし
ことの葉ことに忘れぬものからわか世の
外に成行ならひこそなき人の別よりも
まさりてかなしきものなれされは桑き糸の
そまん事をかなしひみちのちまたの
わかれん事をふけて人もありけんかし
一堀川院の布首先哥の中に
むかしみしいもか垣ねはあれにけり
つはなましりの茎のみしてさひしき
けしきさる事侍りけん
御国ゆつりの節じ会おこなはれて剣画
内侍所わたし奉るゝ程こそかきりなう
心ほそけれ新院のおりさせ給ての春
よませ給くるとかや
とのもりのとものみやつこかそにして
はらはぬ庭にはなそちりしく今の世の
ことしけきにまきれて院には参る人も。
なきそさひしけなるかゝる折にそ人洗
心もあらはれぬへき
諒闇の年はかりあはれなる事はあらし
倚廬の御所のさまなと板敷をさけあしの
御簾をかけて有先もかうあら〳〵しく御
調度ともをろそかにみな人のさうそく
太刀平緒まてことやうなるそゆくしき
しつかに思へはよろつに過にしかたの
恋しさのにそせんかたなき人しつまりて後
なかき夜若すさひに何となきくそく
とりしたゝめ残しをかしと思反古なと
やりすつる中になき人先手ならひ絵かき
すさひたる見出たるこそたく其おりの
心ちすれ此比ある人の文たに久しく成て
いかなるおりいつの年なりけんとおもふは
あはれなるそかし手なれしくそくなとも
心もなくてかはらす久しきいとかなし
人のなき跡はかりかなしきはなし中陰の程
山里なとにうつろひて便あしく遣はき
所にあまたあひゐて後のわさ共いとなみ
あへる心あはたゝし日数のはやく過る程そ
物にもにぬはての日はいとなさけなう
たかひにいふ事もなく我かしこけに
物ひきしたゝめちり〳〵にゆきあかれぬ
もとのすみかに帰てそさらにかなしき
事はおほかるへきしか〳〵の事は
あなかしこあとのためいむなる事そ
なといへるこそかはかりの中に何かはと
人の心は猶うたておほゆれ年月経ても
つゆ忘らるゝにはあらねと去ものは日々に
うとしといへることなれはさはいへと
其きははかりは覚ぬにやよしなし事
いひてうちもわらひぬからはけうとき
山の中におさめてさるへき日はかり
まうてつくみれ程なく卒期婆も苔むし
木葉ふりうつみて夕の嵐夜の月のみそ
ことゝふよすかなりけるおもひ出て
しのふ人あらんほとこそあらめそも又
程なくうせて聞つたふるはかり洗末〳〵は
あはれとやは思ふさるは跡とふわさも
たえぬれはいつれの人登名をたにしらす
年々の春の草のみそ心あらん人はあはれと
見るへきをはては嵐にむせひし松も
千年をまたて薪にくたかれふるき墓は
すかれて田となりぬそ洗かたたになく
なりぬるそかなしき
○雪洗おもしろうふりたりし朝人のかり
いふへき事有て文をやるとて雪の事
何共いはさりし返事に此雪いかくみると
一筆のたまはせぬほとのひか〳〵しからん
人の仰とるゝ事きゝ入へきかはかへす〳〵
口おしき御心なりといひたりしこそ
おかしかりしかけはなき人なれは
かはかり洗事もわすれかたし
九月廿日先頃ある人にさそはれ奉りて
明るまて月見ありてこと侍しにおほし
出るにありてあないせさせて入給ひぬ
あれたる庭の露しけきにわさとならぬ
匂ひしめやかにうちかほりてしのひたる
けはひいとものあはれなりよき程にて
出給ぬれと猶ことさまの優におほえて
物のかくれよりしはしみゐたるに妻戸を
はゝすこしをしあけて月見るけしきなり
やかてかけこもらましかは口惜からまし
跡まてみる人ありとはいかてかしらん
かやうの事はたゝ朝夕の心つかひに
よるへしその人ほとなてうせにけりと
きゝ侍りし
今の内裏作り出されて有識の人々に
みせられけるにいつくも難なしとて既に
遷幸の日ちかく成けるに玄輝門院御覧して
閑院殿のくしかた洗穴はまろくふちも
なくてそありしと仰られけるいみしかり
けり是はえうの入て木にてふちをしたり
けれはあやまりにてなをされにけり
甲香はほら貝のやうなるかちいさくて
口のほとのほそなかにして出たる貝の
ふたなり武蔵国金沢といふ浦にありしを
所の者はへなたりと申侍とそいひし
手のわろき人洗はゝからす文かきちらすは
よしみくるしとて人にかくするは
うるさし
久しく音信ぬ比いかはかりうらむらんと
わかをこたり思ひしられてこと葉なき
心ちするに女濃かたより仕丁やある
ひとりなといひをこせたるこそ有かたく
うれしけれさる心さましたる人そよきと
人の申侍りしさもあるへき事也
朝夕へたてなくなれたる人のともある時
我に心をき引つくろへるさまにみゆるこそ
は更かくやはなといふ人も有ぬへけれと
猶けに〳〵してよき人かなとそおほゆる
うとき人のうちとけたる事なといひたる
又よしとおもひつきぬへし
名利につかはれてしつかなるいとまなく
一生をくるしむるこそをろかなれ財
おほけれは身をまもるにまとし害をかひ
煩をまねくなかたちなり身のちには
金をして北斗をさゝふ共人のためにそ
あつらはるへきをろかなるひとのめを
よろこはしむるたのしみ又あちきなし
大なる車肥たる馬金玉洗かさりもこゝろ
あらん人はうたてをろかなりとそ見るへき
金は山にすて玉は渕になくへし利に
まとふはすくれてをろかなる人なり
うつもれぬ名をなかき世に残さんこそ
あらまほしかるへけれ位たかくやん事
なきをしもすくれたる人とやはいふへき
をろかにつたなき人も家に生れ時にあへは
たかき位にのほりをこりをきはむるも有
いみしかりし賢人聖人みつからいやしき
位にもり時にあはすしてやみぬる又おほし
ひとへにたかきつかさ位を望もつきに
愚なり智恵と心とこそ世にすくれたる
巻ものこさまほしき風つら〳〵思へは
ほまれを愛するは人の聞をよろこふなり
ほむる人そしる人ともに世にとくまらす
つたへきかん人又々すみやかに去へし
誰をかはち誰にかしられん事をねかはん
誉は又譏のもとなり身の後の岩名のこりて
更に益なし是をねかふも次にをろかなり
たゝししゐて智もとめ賢をねねかふ人の
ためにいはゝ智恵ひいてゝはいつはりあり
才能は煩悩の増長せるなりつたへてきゝ
学ひてしるは誠先智にあらすいかなるをか
智といふへき可不不可は一条なりいかなる
をか善と云まことの人は智もなく徳もなく
功もなく名もなし誰かしり誰かつたへん
これ瀬をかくし愚をまもるにはあらす
もとより賢愚得失のさかひにをらされは
なりまよひのこゝろをもちて名利洗要を
もとむるにかくのことし万事は皆非也
いふにたらすねかふにたらす
或人に然上人に念仏の時睡にをかされて
行ををこたり侍事いかくして此さはりを
やめ侍らんと申けれは目のさめたらんほと
念仏し給へとこたへられたりけるいと
たうとかりけり又往生は一定と思へは
一定不定と思へは不定なりといはれけり
是もたうとし又うたかひなからも念仏
すれは往生すともいはれけりこれも又
たうとし
因幡国に何の入道とかやいふ者のむすめ
かたちよしときゝて人あまたいひわたり。
けれ共此むすめたく栗をのみ食て更に
よねのたくひをくはさりけれはかくる
ことやうのもの人に見ゆへきにあらすとて
おやゆるさゝりけり
五月五日賀茂のくらへ馬を見侍りしに
車の前に雑人立へたてゝみえさりしかは
各おりてらちのきはによりたれとことに
人おほく立こみて分入ぬへきやうもなし
かゝる折にむかひなるあふちの木に
法師先のほりて木洗またについゐて
物見るありとりつきなからいたう睡て
落ぬへき時にめをさます事度々なり
これをみる人あさけりあさ見て世の
しれものかなかくあやうき枕の上にて
やすき心ありてねふるらんよといふに
我心にふと思ひしまゝに我等か生死の
到来只今にもやあらんそれを忘て物見て
日をくらすをろかなる事は猶まさり
たるものをといひたれは前なる人とも
まことにさにこそ候けれ尤をろかに候と
いひてみなうし路を見かへりてこゝへ
いらせ給へとて所をさりてよひ入侍にき
かほとのことはり誰かは思ひよらさらん
なれともおりからの思かけぬ心ちして
胸にあたりけるにや人木石にそねは時に
とりて物に感する事なきにあらす
○唐橋の中将といふ人の子に行雅僧都とて
教相の人洗師する僧有くろ気洗あかる
病ありて年のやう〳〵たくるほとに
鼻の中ふたかりて息も出かたかりけれは
さま〳〵につくろひけれとあつらはしくなりて
目眉額なとも腫まとひてうちおほひけれは
ものもみえす二の舞の面のやうにみえ
けるかたゝをそろしく鬼のかほに成て
目はいたゝきのかたにつきひたひのほと
鼻に成なとして後は坊のうちの人にも
みえすこもりゐて年ひさしくめりて猶
あつらはしくなりてしにゝけりかゝる
やまひもある事にこそ有くれ
○春の暮つかたのとやかに艶なるそらに
いやしからぬ家のおくふかく木たちもの
ふりて庭にちりしほれたる花みすくし
かたきをさし入て見れは南面のかうし
みなおろしてさひしけなるに東にむきて
妻戸のよき程にあきたるみすのやふれ
よりみれはかたちきよけなる男のとし
廿はかりにてうちとけたれと心にくゝ
のとやかなるさまして机のうへに文を
くわひろけて見ゐたりいかなる人なり
けんたつねきかまほし
あやしの竹洗あみ戸洗うちよりいと
わかき男づ月影に色あひさたるならねと
つやくかなる狩衣にこきさしぬきいと
ゆへつけたるさまにてさゝやかなる童
ひとりをくしてはるかなる田先中の
ほそ道を稲葉の露にそほちつゝわけ行
ほと笛をえならす吹すさひたるあはれと
聞しるへき人もあらしと思ふにゆかん
かたしらまほしくて見をくりつゝ行は
笛をふきやみて山のきはに惣門のある
うちに入ぬ榻にたてたる車の見ゆるも
都よりはめとまる心ちしてしも人に
とへはしか〳〵洗宮のおはしますころ
にて御仏事なとさふらふにやといふ
御堂のかたに法師共参りたり夜さむの
風にさそはれくるそらたき物の匂ひも
身にしむ心ちひしん殿より御堂の廊に
かよふ女房のをひかせよういなと人め
なき山里ともいはすこゝろつかひしたり
心のまゝにしけれる秋は野らはをき
あまる露にうつもれてむしのねかこと
りましくやり水の音のとやかなり都の
空よりは雲のゆきゝもはやき心ちして
月先晴くもる事さためかたし
公世の二位流せうとに即覚僧正と聞し
しはきはめてはらあしき人なりけり坊の
かたはらにおほきなる榎の木の有けれは
人えの木洗僧正とそいひけるこの名
然へからすとてかの木をきられにけり
そ洗根のありけれはきりくいの僧正と
いひけりいよ〳〵腹立て伐くいをほりすて
たりけれはその跡おほきなるほりにて
ありけれは堀池の僧正とそいひける
柳原の辺に強盗法印と号する僧有くり
たひ〳〵強盗にあひたる故に此名を
つけにけるとそ
或人清水へまいはけるに老たる石のゆき
つれたりけるか道すからくさめ〳〵と
いひもて行けれは尼御前何事をかくは
のたまふそと問けれ共いらへもせす猶
いひやまさりけるをたひ〳〵とはれて
うちはらたちてやゝはなひたる時かく
ましなはねはしぬるなりと申せは
やしなひ君の比叡山に児にておはし
ますか只今もやはなひ給はんと思へは
かく申そしといひけりありかたき
こゝろさしなりけんかし
○光親郷院の最講奉行してさふらひ
けるを御前へめされて供給を出されて
くはせられけりさてくひちらしたる
衝重風みすの内へさし入てまかり出にけり
女房あなきたな誰にとれとてかなと申
あはれけれは有識のふるまひやん事なき
ことなりと返く感せさせ給けるとそ
老来りて始てみちを行せんとまつこと
ながれふるき塚おほくは是少年の人也
はからさるに病をうけてたちまちに此
世をさらんとするときにこそはしめて
過ぬるかたのあやまれる事はしらるなれ
あやまりと云は他の事にあらす速に
すへき事をゆるくしゆるくすへき事を
いそきて過にし事のくやしきなり其間
悔ともかひあらんや人はたゝむ常の身に
せまりぬる事を心にひしとかけてつかの
まも忘るましきなりさらはなとか此世の
にこりもうすく仏道をつとむるこゝろも
まめやかならさらん昔有けるひしりは
人来て自他の要事をいふ時答ていはく
は火急の事有て既に朝夕にせまれりとて
耳をふたきて念仏してつゐに往生を遂
けりと禅林の十固に侍り心成といひける
ひしりはあまりに此世のかりそめなる
事を思ひてしつかについゐける事たに
なく常はうすくまりてのみそありける
応長の比伊勢嘯より女濃鬼に成たるを
ゐてのほりたりといふ事有てその比
廿日はかり日ことに京白川の人鬼見にとて
出まとふ昨日は西園寺にまいりたりし
けふは院へ参るへし只今はそこ〳〵に
なといひあへりまさしくみたりといふ
人もなくそらことゝいふ人もなし上下
只鬼の事のみいひやますその比東山
より安居院辺へまかり侍しに四条より
かみさまの人みな北をさしてはしるゝ
一条室町に鬼ありとのくしりあへり
今出川の邊よりみやれは院の御棧敷の
あたり更にとをりうへうもあらす立こみ
たりはやくねなき事にはあらさめりとて
人をやりてみするにおほかたあへるもの
なしくるゝまてかく立さはきてはては
闘諍おこりて浅ましき事共ありけり
其比をしなへて二三日人のあつらふ事
侍しをそ彼鬼のそらことはこのしるしを
しめすなりけりといふ人も侍りし
亀山殿先御池に大井川の水をまりせら
れんとて大井の土民におほせて水車を
つくらせられけるおほくのあしを給て
数日にいとなみいたしてかけたりけるに
ほほかためくらさりけれはとかくなをし
けれ共終にまはらていたつらにたてり
けりさて字話の里人をめしてこしらへ
させられけれはやすらかにゆひてまいらせ
たりけるかおもふやうにめくりて水を
てみいるゝましめてたかりけり万に其道を
しれるものはやん事なきものなり
〇仁和寺にある法師年よるまて石清水を
おかまさりけれは心うく覚えてある時
思立てたくひとりかちよりまうてける
極楽寺高良などをおかみてかはかりと
心得て帰にけりさてかたへの人にあひて
底比思つることはたし侍ぬきゝしにも
過てたうとくこそおはしけれそも参り
たる人ことに山へのほりし何事か有
けんゆかしかりしかと神へまいるこそ
ほいなれとおもひて山まては見すとそ
いひけるすこしの事にも先達はあら
まほしき事なり
是も仁知寺の法師童の法師にならんと
する名残とて各あそふ事有けるに酔て
興に入あまりかたはらなるあしかなへを
とりて頭にかつきたれはつまるやうに
するを鼻ををしひらめてかほをさし入て
舞出たるに満座興に入事かきりなし
しはしかなてゝ後ぬかんとするに大かた
ぬかれす酒宴ごとさめていかくはせんと
まとひけりとかくすれはくひのまはり
かけて血たりたゝ腫にはれみちて息も
つまりけれはうちわらんとすれとたやすく
われすひゝきてたへかたかりけれは
かなはてすへきやうなくて三あしなる
つのく上にかたひらをうちかけて手を
ひきつえをつかせて京なるくすしのかり
ゐて行けるへすから人のあやしみ見る
事かきりなしくすしのもとにさし入て
むかひゐたりけんあり横さこそことやう
なりけめ物をいふもくくもり声にひゝきて
きこえすかゝる事は文にもみえすつたへ
たるをしへもなしといへは又仁和寺へ
帰てしたしきもの老たる母なと枕かみに
よりゐてなきかなしめとも聞らんとも
覚えすかくる程にあるものゝいふやう
犬とひ耳鼻こそきれうすとも命はかりは
なとかいきさらんたゝ力をたてゝひき
給へとてわらのしへをまはりにさし入て
かねをへたてゝ頭もちきるはかり引たるに
耳鼻かけうけなからぬけにけりからき
命まうけて久しくやみゐたりけり
御室にいみしき児のありけるをいりて
さそひ出してあそはんとたくむ法師共
有て能あるあそひ法師共なとかたらひて
風流の破子やうの物ねんころにいとなみ
いてゝ笛ふせひのものにしたゝめ入て
ならひ洗岡の便よき所にうつみをきて
紅葉ちらしかきなと思よらぬさまにして
御所へまいふて児をそくのかしいてに
くりうれしと思ひてこゝかしこあそひ
めくりて有つる苔のむしろになみゐて
いたうこそこうしにたれあはれ紅葉を
たかん人もかな駒あらん僧たちいのり
心見られよなといひしろひてうつみつる
木洗もとにむきて数珠をしすり印
こと〳〵しく結ひいてなとしていらなく
ふるまひて木の葉をかきのけたれと
つや〳〵物も見えす所のたかひたるにや
とてほらぬところもなく山をあされ共
なかりけりうつみけるを人洗みをきて
御所へまいりたるまにぬすめるなりけり
法師共言の葉なくて聞にくゝいさかひ
はらたちて帰にけりあまりに興あらんと
する事は女あいなきものなり
象のつくりやうは夏をむねとすへし
冬はいかなる所にもすまるあつきころ
わろき住居はたへかたき事也ふかきれは
涼しけなしあさくてなかれたるはるかに
すゝしこまかなる物を見るにやり戸は
一蔀のまよりもあかし天井のたかきは
冬さむく燈くらし造作は用なきに以
つくわたる見るもおもしろく万の用にも
立てよしとそ人洗さためあひ侍し
久しくへたゝりてあひたる人先我方に
ありつる事数々にのこりなくかたり
つゝくるこそあいなけれへたてなくなれ
ぬる人も程へて見るははつかしからぬかは
つきさまの人はあからさまに立いてゝも
けふありつる事とていきもつきあへす
かたり興するなしよき人の物語するは
人あまたあれとひとりにむきていふを
をのつから人もきくにこそあれよからぬ
人は誰ともなくあまたの中にうちいてゝ
見る事のやうにかたりなせはみなおなしく
ほらひのくしるいとらうかはしおしき
事をいひてもいたく興せぬと興なき
事をいひてもよくわとふにそしなの程
はかられぬへき人のみさまのよしあし
さえある人は其事なとさためあへるに
をのか身を引かけていひ出たるいとわひし
人洗かたり出たる歌物語の哥のわろき
こそほいなけれすこし其道しらん人は
いみしとおもひてはかたらしすへて
いともしらぬ道の物語したるかたはら
いたくきゝにくし
常心あらは住所にしもよらし家にあり
人にましはるとも後世をねるはんに
かたかるへきかはといふはさらに後世
しらぬ人なりけには此世をはかなみ必
生死を出んと思はんに何の興ありてか
朝夕君につかへ家をかへりみるいとなみの
いさましからん心は縁にひかれてうつる
ものなれは閑ならては道は行しかたし
そのうつはものむかしの人に及はす山林に
入ても餓をたすけあらしをふせくよすが
なくてはあられぬわさなれはをのつから
世をむさほるに似たる事もたよりに
ふれはなとかなからんされはとてそむける
かひなしさはかりならはなしかはすてし
なといはんはむ下の事なりさすかに
一たひ道に入て世をいとはん人たとひ
のそみありともいきほひある人洗貪欲
おほきににるへからす紙の衾麻の衣
一鉢先まうけあかさのあつ物いくはくか
人のついへをなさんもとむる所はやすく
其心はやくたりぬへしかたちにはつる
所もあれはさはいへと悪にはうとく善には
ちかつくことのこそおほき人と生れたらん
しるしにはいかにもして世をのかれんこと
こそあらまほしけれひとへにむさほる
事をつとめて菩提にをもむかさらんは
別の畜類にかはる所あるましくや
天事を思ひたくん人は去かたく心に
かくらん事のほいをとけすしてさなから
すつへきなりしはし此事はてゝおなしくは
かの事沙汰しをきてしか〳〵の事人の
嘲やあらん行末難なくしたゝめまうけて
年来もあれはこそあれ其事またん程あらし
物さはかしからぬやうになと思はんには
えさらぬ事のみいとゝかさなりて事の
つくるかきりもなく思立日も有へからす
おほやう人を見るにすこし心あるきはゝ
みな此あらましにてそ一期はすくめる
ちかき火なとににくる人はしはしとやいふ
身をたすけんとすれは恥をもかへりみす
財をも捨てのかれさるとかし命は人を
まつものかは無常の来る事は水火の
せむるよりもすみやかにのかれかたき
物を其時老たる親いときなき子君の恩
人洗慎すてかたしとてすてさらんや
真葉院に盛親僧都とてやんことなき智者
ありけりいもかしらといふ物をこのみて
おほくくひけり談義の座にてもおほき
なる体にうつたかくもりてひさもとに
をきつくくひなからふみをもよみけり
あつらふ事あるには七日二七日なと
療治とて籠居て忍ふやうによき芋かしらを
えらひてことにおほくくひて万の病を
いやしけり人にくはする事なし只独
のみそくひけるきはめてまつしかりけるに
師匠しにさまに銭二百貫と坊ひとつを
ゆつりたりけるを坊を百貫にうりて後是
三万疋を芋かしらのあしと定て京なる
人にあつけをきて十貫つゝとりよせて
いもかし羅をともしからすめしける程に
又こと用にもちふる事なくて其あし
みなになりにくり三百貫のものをまつしき
身にまうけてかくはからひけるまことに
はかたき道心者なりとそ人申ける御僧都
ある法師を見てしろうるりといふ名を
つけたりけりとは何物そと人の問けれは
さる物を我もしらすもしあらましかは
此僧のかほに似てんとそいひける此僧都
みめよくちからつよく大食にて能書
学生蘚説人にすくれて字の法燈なれは
寺中にもをもくおもはれたりけれとも
世をかろく思たるくせ者にて万自由にて
おほかた人にしたかふといふまなし
出仕して饗膳なとにつく時もみな人の前
すへわたすをまたすわか前にすへぬれは
やかて独うちくひてかへりたけれは独
ついたちてゆきけりとき非時も人に
ひとしく定てくはすわかくひたきとき
夜なかにも暁にもくひてねふたけれは
昼もかきこもりていかなる大事あれ共
人先いふ事きゝいれす目さめぬれは
いく夜もいねす心をすましてうそふき
ありきなとよのつねならぬさまなれ共
人にいとはれすよろつゆるされけり
徳のいたれりけるにや
御産の時醴おとす事は定れる事には
あらす御胞衣とくこほる時のましなひ也
とくこほらせ給はねは此事なし下さま
より事おこりてさせる本説なし大原流
里のこしきをめすなりふるき実蔵の絵に
いやしき人洗子うみたる所にうみたる所に
たるをかきたり
退政門院いときなくおはしましける時
院へまいる人に御ことつてとて申させ
終ひける御哥
ふたつもし牛のつのもしすくなもし
ゆかみもしとそ君はおほゆるこいしく
おもひまいらせ給となり
後七日の阿闍梨武者をあつむる事いつ
とかや盗人にあひにけるより宿直人とて
かくこと〳〵しくなりにけり一年の霜は
此修中洗ありさまにこそ見ゆなれは
兵をもちゐん事をたやかならぬ事也
車洗五緒はかならす人によらすほとに
つけてきはむるつかさくらゐに至ぬれは
のるものなりとそある人仰られし
此比の冠は昔よりははるかにたかくなり
たるなり古代先冠桶をもちたる人は
はたをつきては用るなり
一岡本関白殿盛なる紅梅の枝に鳥一双を
そへて此枝につけてまいらすへきよし
御鷹飼下毛野武勝に仰られたりけるに
花に鳥つくるすへしりさふらはす一枝に
ふたつつくる事も存知候はすと申けれは
膳ふにたつねられ人々にとはを語て又
武勝にさらはをのれか思はんやうに
つけてまいらせよと仰られたりけれは
花もなき梅の枝に一つをつけてまいらせ
ける武勝か申侍しは栄の枝むめのえた
つほみたるとちりたるとにつく五葉なと
にもつく数のなかさ七尺或六尺返し刀
五分にきる枝の半に鳥をつくつくる数
ふまする我ありしゝら藤のわらぬにて
二所つくへし藤のさきはひうち羽の
たけにくらへてきりて牛の角のやうに
たはむへし初雪のあした枝を肩にかけて
中門よりふるまひてまいる大みきりの
石をつたひて雪に跡をつくすあまおほひ先
毛をすこしかなくりちらして二棟の
御所の高欄によせかく禄を出さるれは
肩にかけて拝してしりそく初雪といへとも
沓のはな渋かくれぬ程の雪にはまいらす
あまおほひの毛をちらす事は鷹は
よはこしをとる事なれは御鷹のとり
たるよしなるへしと申き
花に鳥つけすとはいかなる故にか有けん
長月はかりに梅洗作り枕に雑をつけて
君りためにとおる花は時しもわかぬと
いへる事伊勢物語にみえたりつくり
花はくるしからぬにや
○賀茂の岩本橋本は業平実方也人の常に
いひまかへ侍れは一年参りたりしに
老たる宮司の過しをよひとゝめてたへね
侍しに実方は御手洗に影のうつりける
所と侍れは橋本や猶水のちかけれは登
おほへ侍る吉水の和尚
月をめて花をなかめしいにしへの
やさしき人はこゝにありはらとよみ給
けるは岩本の社とこそうけたまはりをき
侍れとをのれらよりはなか〳〵御存ち
なともこそさふらはめといとうや〳〵しく
いひたりしうそいみしておほえしか
は出川院近衛とて集共にあまた入たる
人はわかくりける時常に百首の哥を
よみてかの二の社は御前の水にて書て
手向られけり誠にやんことなき誉ありて
一人洗口にある哥おほし作文し序なと
いみしくかく人なり
筑紫になにかしの押領使那といふやう
なるものゝありけるかつちおほねを別に
いみしき薬とて朝ことに二つゝやきて
くひける事もひさしくなりぬ或時
一館の内に人もなかりけるひまをはかりて
敵襲来りてかこみせめけるに館のうちに
兵二人いてきて命をおします戦てみな
をひかへしてけりいとふしきに覚えて
日来こくにものし給共みぬ人々のかく
たゝかひし給はいかなる人そと問けれは
としころたのみてあさな〳〵めしつる
つちおほねらにさふらふといひてうせに
けりふかく信をいたしぬれはかゝる
徳もありけるにこそ
書写先上人は法華読誦洗功法もりて
六根浄にかなへる人なりけり猿のかり屋に
立いられけるに豆のからをたきて豆を
煮ける音のつふ〳〵となるを聞給けれは
うとからぬをのれらしもうらめしく我をは
煮てからきめを見するものかなといひける
たかるゝまめからのはら〳〵となる音は
我心よりする事かはやかるくはいかはかり
堪かたけれ共ちからなき事也かくな
うらみ給そとそきてける
元応の御暑堂の御遊に玄上はうせにし比
菊亭のおとく牧馬を弾給けるに圧に着て
先柱をさくられたりけれはひとつおちに
けり御にとうろにそくいをもち給たる
にて冷くられにけれは神供のまいる程に
よくひてことゆへなかりけりいかなる
き趣かありけん物見けるきぬかつきの
よりてはなちてもとのやうにをきたり
けるとそ
名を聞よりやかて面影はをしはからるゝ
心ちするを見る時は又かねて思つるまゝの
かほしたる人こそなけれむかし物語を
聞ても此比の人の家はそこほとにてそ
ありけんと覚え人もて見る人先中に
思かそへらるゝは誰もかくおほゆるにや
又いかなる折そ只今人のいふ事もめに
みゆる物も我心のうちも早くる事の
いつそやありしかとおほしていつとは
思出ねともまさしく有し心ちのするは
あれはかりかくおもふにや
いやしくなる物居たるあたりに調度の
おほき硯に筆のおほき持仏堂に仏のおほき
前城に。草木のおほき家のうちに子緒泥
おほき人にあひて詞のおほき願文に作善
おほくかきのせたるおほくてみくるし
からぬは文車の文塵塚洗ちり
世にかたりつたふる事まことはあい
なきにやおほくはみな虚言なりあるにも
過て人はものをいひなすにまして年月過
焼もへたゝりぬれはいひたきまゝに
かたりなして筆にもかきとゝめぬれは
やかて又さたまりぬみち〳〵の物の上手洗
い見しき事なとかたくななる人の
その道しらぬはそゝろに神のことくに
いへ共道しれる人は更に信もおこさす
なとにきくと見る時とは何事もかはる
ものなりかつあらはるゝをもかへりみす
口にまかせていひちらすはやかてうきたる
事ときこ遊又我もまことしからすは
思ひなから人洗いひしまくに鼻のほと
おこめきていふは其人のそらことには
あらすけに〳〵しく処々うちおほめきよく
しらぬよしして去なからつこ〳〵あはせて
かたるそらことはおそろしき事なり
わかため面目あるやうにいはれぬる
そらことは人いたくあらかはすみな人の
興する虚言は独さもなかりしものをと
いはんも詮なくてきゝゐたるほとに
証人にさへなされていとゝ定ぬへし
とにもかくにもそらことおほき世なり
只つねにあるめつらしからぬ事のまゝに
心得たらんよろつたかふへからすしもさまの
人の物かたりは耳おとろく事のみあり
よき人はあやしき事をかたらすかくは
いへと仏神の竒特権者の伝記者のみ
信せさるへきにもあらすこれは世俗の
虚言をねんころに供したるもおこかましく
よもあらしなといふも詮なけれはおほかたは
まことしてあひしらひて偏に信せす
又こたかひあさけるへからす
蟻先ことくにあつまりて東西にいそき
南北にわしるたかきありいやしきあり
老たるありわかきあり行所あり帰家有
夕にいねて朝におくいとなむに何事そや
生をむさほり利を求てやむ時なし身を
やしなひて何事をかまつ期する処只
老と死とにあり其来る事すみやかにして
念々の間にとゝまらす是をまつあひた
何のたのしひかあらんまとへるものは
これ風をそれす名利におほれて先途の
ちかき事をかへり見ねはなりをろかなる
人は又是をかなしふ常住ならんことを
思ひて変化の理をしらねはなり
つれ〳〵わふる人はいかなる心ならん
まきるゝかたなくたくひとりあるのみ
こそよけれ世にしたかへは心外の唐に
うはゝれてまとひやすく人にましけれは
詞よそのきゝにしたかひてはなからこゝろには
あらす人にたはふれものにあらそひ
一たひはうらみ一度はよろこふ其事
定れる事なし分別みたりにおこりて
得失やむ時なしまとひの上にゑへり
酔の中に夢をなすわしりていそかはしく
ほれて忘れたること人皆かくのことし
いまたまことのみちをしらすとも縁を
はなれて身を閑にしことにあつからすして
心をやすくせんこそしはらくたしふ共
のひつへけれ生活人事伎能学問等の
諸縁をやめよとこそ摩訶止観にも侍れ
世のおほしはなやかなるあたりに歎も
悦もありて人おほくゆきとふらふ中に
ひしり法師のましりていひ入たゝすみ
たるこそさらすともとみゆれさるへき
故有とも法師は人にうとくて有なん
世中にその比人のもてあつかひてさに
いひあへる事いろふへきにはあらぬ
人流より案内しりて人にもかたりきかせ
とひきゝたるこそうくられねことに
かたほとりなるひしり法師なとそ世の
人のうへはわかことくたつねきゝいかて
かはかりはしりけんとおほゆるまてそ
いひちらすめる
いまやうの事とものめつらしきをいひ
ひろめもてなすこそ又うくられも世に
ことふりたるまてしらぬ人は心にくし
いまさらの人なとのある時こゝもとに
いひつけたることくさ物の名なと心得
たるとちかたはしいひかはし目見あはせ
ほらひなとして心しらぬ人に心えす
おもはする事よなれすよからぬ人の
かならすある事なり
何事も入たゝぬさましたるそよき
よき人はしりふる事とてさのみしり
かほにやはいふかた田舎よりさし出たる
人こそ万の道に心得たるよしのさし
いらへはすれされはよにはつかしきかたも
あれとみつからもいみしと思へるけしき
かたくななりよくわきまへたる道には
必口をもくとはぬかきりはいはぬこそ
いみしけれ
尺ことに我身にうとき事をのみそ
このめる法師はつはものゝみちをたて
えひすは弓ひくすへしらす仏法知たる
きそくし連歌し管絃をたしなみあへり
されとをろかなるをのれか道よりは猶
人におもひあるつられぬへし
法師のみにもあらす上達部殿上人加みさま
まてをしなへて武をこのむ人おほかり
百たひたくかひて百たひ勝ともいまた
武勇の名を定かたし其故は運に乗して
あたをくたく時勇者にあらすといふ人なし
兵つき矢きはまりてつゐに敵に降らす
死をやすくして後始て名をあらはすへき
道なりいけらん程は武にほこるへからす
人倫にとをく禽獣にちかきふるまひ其
家にあらすは好て益なき事也
屏風障子なとの絵も文字もかたくななる
筆やうしてかきたるかみにくきよりも
宿洗あるしのつたなく覚ゆるなり大かた
もてる調度にても心をとりせらるゝ事は
はぬへしさのみよき物を持へしとにも
あらす損せさらんためとてしななく
みにくきさまにしなしめつらしからん
とて用なき事ともしそへ暫らはしく
このみなせるをいふなりふるめかしき
やうにていたくこと〳〵しからすついえも
なくて物からのよきかよきなり
うす物の表紙はとく損するかわひしきと
人のいひしに頓あり羅はかみしもはつれ
螺鈿の軸は貝おちて後こそいみしけれと
申侍しこそこゝろまさりておほえしか
一部とある草子なとのほなしやうにも
あらぬをみにくしといへと弘融僧都か物を
必一具にとくのへんとするはつたなき
ものくする事也不くなるこそよけれと
いひしもいみしく覚えしなりすへて
何も皆事のとゝのほりたるはあしき
事なりしのこしたるをさて打置たるは
おもしろくいきのふるわ也内裏造らるゝ
にも必作りはてぬ所をのこす事也宝
或人申侍しなり先賢のつくれる内外先
文にも章段のかけたる事のみこそ侍れ
竹林院入道左大臣殿太政大臣にあかり
給はんに何のとゝこほりかおはせん
なれともめつらし名なし一上にてやみ
なんとて出家し給にくは潮院左大臣殿
此事を甘心し給て相国ののそみおはせ
さりけり元龍の悔ありとかや云事侍也
月みちてはかけ物盛にしてはなとろふ
万の事さきのつまりたるはやふれに
ちかき道なり
法顕三蔵の天竺に渡りて故郷の扇を
見てはかなしひ病に臥ては漢の食を
ねかひ仰ける事を聞てさはかりの人の
無下にこそ心よはきけれを人洗国にて
みえ給けれと人のいひしに弘融僧都
優に情ありける三蔵かなといひたりし
こそは湖のやうにもあらすこゝろにくく
おほえしか
人の心すなほならねは何なきにしも
あらすされ共をのつから正直洗人なとか
なからんをのれすなほならねと人の賢を
見てうらやむは尋常なりいたりて愚なる
人はたき〳〵賢なる人をみて是をにくむ
おほきなる利をえんかためにすこしきの
利をうけす帰りさりて名をたてんとすと
そしるをのれか心になへるによりて
此嘲をなすにてしりぬ此人は下愚の性
うつるへからす偽て小利をも辞すへからす
かりにも賢をまなふへからす狂人先まね
とて大路をはしらは則狂人也悪人のまね
とて人をころさは悪人也騏をまなふは
驪のたくひ舜をまなふは舜の徒なり
いつはりても賢をまなはんを賢といふへし
惟継中納言は風月の才にとめる人なり
一生精進にて読経うちして寺は踊の
国伊僧正と同宿して侍けるに文保に
三井寺やかれし時坊主に逢て御坊をは
寺法師登こそ申つれと寺はなけれ共
いまよりはほうしとこそ申さめといはれ
けりいみしき秀句なりけり
下部に酒のまする事は心すへき事也
宇治に住侍けるをのこ京に具覚坊とて
なまめきたる遁世の僧をこしうとなり
けれは常に申むつひけり或時速に高を
つかはしたりけれははるかなる程なり
口つきのをのこにまつ一度せさせよとて
酒を出したれはさしうけ〳〵よくと飲ぬ
太刀うちはきてかひ〳〵しけなれは
たのもしくおほえて召くしてゆく程に
木幡のほとにて祭良法師の兵士あまた
くしてあひたるに此男たちむかひて
日暮にたる山中にあやしきそとまり候へと
いひて太刀をひきぬきけれは人もみな
太刀ぬき矢はけなとしけるを具覚坊
手をすりてうつし心なく酔たる者に候
まけてゆるし給はらんといひけれは
をの〳〵嘲て過ぬ此男具覚房に逢て御坊は
口惜事し給つる物哉をのれ酔たる事
侍らす高名仕らんとするをぬける太刀
むなしくなし給ひつることゝいかりて
ひたきりにきりおとしつさて山たち有と
のゝしりけれは里人おこりて出あへは
我こそ山たちよといひてはしりかゝりつゝ
きりまはりけるをあまたして手おほけ
打ふせてしはりけり馬は血つきて宇語
大路の家にはしり入たり浅ましくて
をのこともあまたはしらかしたれは
具覚坊はくちなし原にによひ臥たるを
求出てかきもてきつからき命いきたれと
腰きり損せられてかたわになりにけり
或者小野道風のかける和漢朗詠集とて
持たりけるをある人御相伝うける事には
侍らしなれ共四條大納言撰れたるものを
道風かくん事時代やたかひ侍らむ
おほつかなくこそといひけれはさ候へは
こそ世にありかたき物には侍けれとて
いよ〳〵秘蔵しけり
奥山に猫またといふものありて人を
くらふなると人洗いひけるに山ならね共
これらにも猫の縫あかりて猫またに成て
人とる事はあなる物をと云者有けるを
何阿弥得仏とかや連哥しける法師の
行願寺の辺にありけるか聞て独ありかん
身は心すへき事にこそと思ける比しも
ある所にて夜ふくるまて連歌して只独
帰けるに小川のはたにて音にきし
猫またあやまたす足もとへふとよりきて
やかてかきつくまゝにくひのほとを
てはんとす肝心もうせてふせかんとするに
力もなく足もたゝす小河へころひ入て
たすけよや猫またよや〳〵とさ遣へは
家々より私共ともしてはしりよりて
みれはこのわたりに見しれる僧なり
こはいかにとて川の中よりいたきおこし
たれは連歌のかきもの乞て扇小箱なと
懐に持たりけるも水に入ぬ希有にして
たすかりたるさまにてはふ〳〵家に
入にけりかひける犬のくらけれとぬしを
しりて飛つきたりけるとそ
天納言法印の召つかひし乙鶴丸やする殿と
いふものをしりてつねに行かよひしに
或時出て帰来たるを法印いつくへ行つる
そと問しかはやすら殿のかりまかりて候
といふそのやすら殿は男か法師かと又
とはれて袖かきあはせていかく候らん
頭をは見候はすと答申きなとか頭はかりの
みえさりけん一
赤舌日と云て陰陽道にはさたなき事也
むかし洗人是をいますこの比何者のいひ
出ていみはしめけるにか此日ある事
末とをらすといひて其日いひたりし事
したりし事かなはすえたりし物は
失ひつ企たりし事ならすといふをろか也
吉日を撰てなじたるわさの末とをらぬを
かそへてみんも又ひとしかるへし其故は
無常変易のさかひ有とみるものも存せす
始ある事も終なし志はとけす望は絶す
人の心不定なり物皆幻化なり何事か
しはらくも住するこの理をしらさるなり
吉日に悪をなすに必凶なり悪日に善を
おこなふにかならす吉なりといへり
吉凶は人によりて日によらず
或人弓いる事をならふにもろ矢を
たはさみて餉にむかふ師の云初心の人
ふたつの矢をもつてなかれは先交を頼て
はしめの矢になをさり洗心あり毎度只
得失なく此一箭に宣へしと思へといふ
わつかに二の矢師の前にてひとつを
をろかにせんと思はんや懈怠の心みつから
知すといへとも師是をしる此いましめ
万事にわたるへし道を学する人夕には
朝あらん事を思朝には夕あらん事を思て
かさねて懇に修せん事を期すいはんや
一刹那のうちにをいて懈怠の心有事を
しらんやなんそ唯今の一念にをいて
たくちにする事の甚かたき
旱をうる者めり買人あすそのあたひを
やりて牛をとらんといふ夜つまに牛死ぬ
かはんとする人に剰ありうらんとする
人に損ありとかたる人ありこれを聞て
かたへなる者のいはく牛の立まことに
損ありといへ共又大なる利あり其故は
生有もの死のちかき事を知さる事牛
既にしかなり人又おなしはからさるに
牛は死しはからさるにぬしは孝せり
一日の命万金よりもをもし牛のあたひ
鶏毛よりも軽し万金を得て一銭を失はん人
損ありといふへからすといふにみな人
あさけりて其理はこしのぬしにかきる
へからすといふ又いはてされは人死を
にくまは生を愛すへし存我のよろこひ
日々にたのしまさらんや愚なる人この
たのしひをわすれていたつかはして
外のたのしひをもとめこの財を忘れて
あやうく他の財をむさほるには忌みつ
事なしいける間生をたのしますして
死に臨て死を恐れは此理あるへからす
人皆生をたのしまさるは死を恐れさる
故なり死ををそれさるにはあらす死の
ちかき事を忘るゝなりもし又生死の相に
あつからすといはゝ実洗理をえたりと
いふへしといふに人いよ〳〵あさける
○常磐井相国お仕し給けるに勅書を持たる
北面あひ奉りて馬よりおりたりけるを
朝国役に北面なにかしは勅書を持なから
下馬し侍りし者也かほとの者いりてか
君につかふまつり候へきと申されけれは
北面をはなたれにけり勅書を馬のうへ
なからさゝけてみせたてまつるへし
おるへからすとそ
笛のくりかたに緒を付る事いつかたに
つけ侍へきそとある有識の人にたつね
申侍しかは軸につけ表紙につくる事
両説なれはいつれも難なし文の箱は
おほくは右につく手箱には軸につくるも
つねの事なりと仰られき
めなもみといふ草有くちはみにさゝれ
たる人彼草をもみて付ぬれはすなはち
いゆとなん見知てをくへし
其物に付て其物を費しそこなふもの
数を知す有身に虱の家に鼠有國に賊有
小人に財有君子に仁義あり僧に法あり
たうときびしりのいひをきける事を
書付て一言芳談とかやなつけたる草子を
見侍しに心にあひて覚えし事共
一しやせましせすやあらましとおもふ
事はおほやうはせぬはよきなり
一後世をおもはん者は精精瓶一も持
ましき事なり持経本尊に至まて
よき物をもつよしなき事也
一遁世者はなきにことかけぬやうを
はからひてすくる最上のやうにて
有なり
一上臈は下臈になり智者は愚者に成
徳人は貧になり能ある人は無能に
なるへきなり
一仏道をねかふと云は別の事なし
いとまある身になりて世の事を心に
かけぬを第一の道とす
此外もありし事共おほえす
堀川相国は美男のたのしき人にて
其事となく過差をこのみ給けり御子は
基俊をを大理になして庁務おこなはれ
けるに鹿屋の唐櫃みくるしとてめてたく
作りあらためらるへきよしおほせられ
けるに此唐櫃は上古より伝りて其始を
しらす数百年を経たり累代の公物古弊を
もちて規模とすたやすくあらためられ
かたきよし故実の諸官才申けれは其事
やみにけり
久我相国は殿上にて水をめしけるに
主殿司土器を奉りけれはまかりまいらせ
よとてまかりしてそめしける
或人任大臣の節会の内弁をつとめられ
けるに内記の持たる宣命をとらすして
堂上せられにけりきはまりなき失礼なれ共
立帰とるへきにもあらす思わつらはれ
けるに六位内記康綱きぬかつきの女房を
かたらひて彼宣命をもたせて忍やかに
奉らせくりいみしかりけり
事大納言光忠入道追儺先上錦をつとめ
られけるに洞院右大臣殿に次第を申
請られけれは又五郎男を師とするより
外の才覚候はしとそのたまひけるかの
又五郎は老たる衛士のよく公事に馴たる
者にてそ有ける近衛殿着陣し給ける時
戯を忘て外記を召れけれは火たきて候
けるか先戟をめさるへくや供らんと
しもひやかにつふやきけるいとおかし
かりけり
異覚寺殿にて近習の人ともなう〳〵を
作りてとかれける処へてすし忠守参り
たりけるに侍従大納て公明卿吾朝の者共
みえぬ忠守哉となう〳〵にせられにけるを
唐瓶子とときてほらひあはれけ礼は
腹立て退出に重り
荒たる宿洗人めなきに女濃はくかる事
あるころにてつれ〳〵とこもりゐたるを
或人とふらひたまはんとて久つくよの
おほつかなき程に忍ひて尋おはしたるに
犬のこと〳〵しくとかむれは下す女の出て
いつくよりそといふにやかて案内せさせて
入給ぬこゝろほそくなるあり横いかて
過すらんといと心くるしあやしき板敷に
しはしたち給へるをもてしつめたる
けはひのほかやかなるしてこなくといふ
人あれはたてあけ所せけなる豊戸よりそ
入れぬる内のさまはいたくすさまし
からす心にくゝ火はあなたにほのかなれと
物すきらなとみえて俄にしもあらぬ
匂ひいとなつかしう位なしたり行よく
さしてよ面もそふる御車は門のしたに
御供の人はそこ〳〵にといへはこよひそ
やすきいはぬへかめると打さゝめくも
しのひたれとほとなくれはほのきこゆ
さて此程の事共こまやかに聞え給に
夜ふかき鳥も鳴ぬこしかた行末かけて
まめやかなる御物語にこのたひは鳥も
はなやかなる声にうちしきれはあけ
はなるゝにやと聞給へと夜ふかくいそく
へき所のさまにもあらねはすこしたゆみ
給へるにひましろくなれは忘れかたき
事なといひてたち出給ふに梢も庭も
めつらして春ゝみわたりたる卯月はかりの
曙艶におかしかりしをおほし出て桂君
木におほきなるかかくるゝまていまも
見送り給とそ
北の屋かけに消のこりたる雪洗いたう
こほりたるにさしよせたる車のなかえも
霜いたくきらかきて有明の月さやかなれ共
くまなくはあらぬに人はなれなる御堂の
廊になみ〳〵にはあらすとみゆる男女と
なけしにしりかけて物語するさまこそ
何事にかあらんつきすましけれかふし
かたちなといとよしとみえてえもいはぬ
匂ひのさとかほりたるこそおかしけれ
けはひなとはつれ〳〵聞えたりゆかし
高野のせうくう上人京へのほりけるに細道
にて馬に乗たる女の行あひたりけるか
口引ける男あしくひきて聖の馬を堀へ
おとしてけり聖いと腹あしてとかめて
こは希有の狼藉哉四部の弟子はよな
比丘よりは比丘尼はをとり此丘石より
優婆盛はをとり優婆塞よしり優徳夷は
をとれりかくのことくの優婆夷なとの
身にて比丘を堀へ蹴入さする未曽有の
悪行なりといはれけれは口ひきの男
いかに仰らるゝやらんえこそ聞しらねと
いふに上人なをいきまきて何といふそ
非修非学の男とあらくかにいひて
きはまりなき散言しつと思けるけしき
にて馬ひきかへしてにくられにけり
たうとかりけるいさかひなるへし
丹濃物いひかけたる返事とりあへす
よき程にする男はありかたき物そとて
亀山院の御時しれたる女房ともわかき
男達の参らるくことに時鳥や聞給へると
問て心見られけるになにかしの大納言
とかやは数ならぬ身はえきゝ候はすと
答られけり堀川内大臣殿は岩倉にて
聞て供しやらんと仰られたりけるを
これは難なし数ならぬ身むつかしなと
定あはれけりすへてをのこをは女に
わらはれぬやうにおほしたつへしとそ
浄土寺前関白殿はおさなくて安喜門院の
よくをしへまいらせさせ給ける故に
御詞なとのよきそと人洗仰られけるとかや
山階左大臣殿はあやし洗下女の見奉るも
いとはつかしく心つかひせらるゝとこそ
仰られけれ女のなき世なりせは衣文も
冠もいかにもあれ引つくろふ人も侍らし
かく人に恥らるゝ女いかはかりいみしき
物そと思に女濃性は皆ひかめり人我の
願ふかく貪欲甚しく物の理をしらす
たゝまよひのかたに心もはやくうつり
詞もたくみにくるしからぬ事をも
とふ時はいはす用意あるかとみれは又
浅ましき事まてとはすかたりにいひ
出すふかくたはかりかされる事は男の
智恵にもまさりたるかと思へは其事
あとよりあらはるくをしらすすなほ
ならすして拙ものは女なり其心に随て
よて思はれん事は心うかるへしされは
何かは女のはつかしからんもし賢女あらは
それも物うとくすさましかりなんたゝ
まよひをあるしとしてかれにしたかふ
時やさしくもおもしろくもおほゆへき
事なり
寸陰おしむ人なしこれよくしれるか
愚なるか愚にしてをこたる人のために
いはく一銭かろしといへともこれを
かさぬれはまつしき人をとめる人となす
されは商人の一銭をほしむ心切なり
剰那覚えひといへともこれをはかひて
やまされは命を終る期たちまちに至る
されは道人はとをく同月を惜へからす
只今の一念むなしく過る事を惜へし
もし人来りて我いのちあすはかならす
失はるへしと客しらせたらんにけふの
くるゝあひた何事をかたのみ何事をか
いとなまん葉かいけるけふの日なんそ
その時節にことならん一日のうちに
飲食便利睦眠言語行歩やむ事をえす
しておほくの町をうしなふ其あまりの海
いくはくならぬうちに無益の事をなし
無益の事をいひ無益の事を思惟して
時を移すのみならす日を消し月を亘て
一生を送る尤をろかなり謝霊運は法華の
筆。受なりしかとも心つねに風雲の思を
観せしかは恵遠白蓮の交をゆるさゝりき
しはらくもこれなき時は死人におなし
光陰何のためにかおしむとならは内に
思慮なく外に世事なくしてやむ人は
やみ修せん人は修せよとなり
○高名の木のほりといひしをのこ人を
をきてゝたかき木にのほせて木するを
きらせしにいとあやうくみえし程は
いふ事もなくておるゝときに軒たけ
はかりになりてあやまちすな心して
おりよと詞をかけ侍しをかはかりに
なりては客おるゝともおりなんいかに
かくいふそと申侍しかは其事に候
めみるかき数あやうきほとはをのれか
をそれ侍れは申さすあやまちはやすき
所になりてかならす仕る事に候といふ
あやしき下臈なれ共聖人のいましめに
がなへり鞠もかたき所を蹴出してのち
やすく思へは必藤と侍るやらん
衣六の上手といひし人にその行をとひ
侍しかはかたんとうつへからすまけしと
うつへき也いつれの手かとく貞ぬへきと
案してそ洗手をつかはすして一め成共
をそく負へき手につくへしといふ道を
しれるをしへ身を治め身を保ん道も
又しかなり
○囲碁双六好てあかしくらす人は四重
五逆にもまされる悪事とそおもふと
あるひしりの申し事耳にとくまりて
いみしくおほえ侍
明日は遠国へをもむくへしときかん
人に心静になすへからんわさをは人
いひかけてんや俄の大事をもいとなみ
切に歎く事もある人は他の事を聞入す
人洗愁悦をもとはすとはすとてなとやと
うらむる人もなしされは我もやう〳〵たけ
病にもまつはれいはんや世をものかれ
たらん人又是におなしかるへし人間の
義式いつれの事かはかたからぬ世俗の
もたしかたきに随て是をかならすとせは
ねかひもおほく身も苦て心のいとまもなく
一生は雑事の小節にさへられて
むなしく暮なん日暮道とをし吾生既に
蹉端たり諸縁を散下すへき時なり信をも
守らし礼義をも思はし此心をもえさらん
人は物狂ともいへうつゝなし情なしとも
おもへ。そしるともくるしましほむ共
きゝ入し
四十にもあまりぬる人のきめきたるかた
をのつから忍ひてあらんはいかくはせん
ことに打出て男女の事人のうへをも
いひたはふるゝこそにけなくみくるし
けれおほかた聞にくゝみくるしき事
老人の若き人にましはりて興あらんと
物いひゐたる数ならぬ身にて世の覚え
ある人をへたてなきさまにいひたる
まつしき所に酒宴好み客人に饗応せんと
きゝめきたる
とゝお川のおほい殿嵯峨へおはしけるに
有栖川のわたりに水洗なかれたる所にて
さい王丸御牛を追たりけれはあかきの水
前板まてさくとかゝりけるを為けり御車の
しりに供けるか希有の童哉かゝるににて
御牛をはをふ物かといひたりけれは
おほい殿御けしきあしくなりてをのれ車
やらん事さい五丸にまさりてえしらし
希有の男なりとて御車にかしらをうち
あてられにけりこの高名のさい王丸は
太妾殿はおとこ料の御牛飼そかしこの
うつまさなに侍ける女房流名共一人は
ひさゝち一人はことつち一人ははふいら
一人はをとうしと付られけり
雷河原といふところにてほろ〳〵おほく
あつまりて九品の念仏を申けるに
外より入きたるほろ〳〵のなし此御中に
いろをし坊と申外路やおはしますと
たつねけれは其中よりいろをしこくに候
なくのたまふはたそと答れはしら梵字と
申者なりをのれか師なにかしと申し人
東国にていろをしと申ほろにころされ
けりと奉りしかはその人にあひ奉りては
恨申さはやとおもひて聲なりといふ
い路をしゆくしくもたつねおはしたり
さる事侍きこゝにて対面し奉らは道場を
けかし侍へし前の川原へ参りあはん
あるかしこわきさしたちいつかたをも
みつき給なあまたのわつらひにならは
仏事の妨に侍へしといひさだめて
二人河原へ出あひて心ゆくはかりに
つらぬきあひてともにしにゝけり
ほろ〳〵といふもの昔はなかりけるにや
近世にほろんし梵字漢字なと云ける者
其はしめなりけるとかや世をすてたるに
似て我狐ふかく仲道をねかふに似て
闘諍をことくす故逸無慙の有様なれ共
死を軽くして少もなつまさるかた洗
いさきよくおほえて人の語しまゝに
加幾つけ侍るなり
寺院の号さらぬよろつのものにも名を
つくる事むかしの人はすこしも我す
たゝありのまくにやすく付けるなり
此比はふかく案し才学をあらはさんと
したるやうにきこゆるいとむつかし
人の名もめなれぬ文字をつかんとする
益なき事なり何事もめつらしき事を
もとめ異説を好は浅才洗人のかならす
ある事なりとそ
かひとするにわろき者七あり一には高く
やん事なき人二にはわかき人三には
病なく身つよき人口には酒を好人五には
武くいさめる兵六にはそらことする人
七には欲ふかき人よき友三あり一には
物くるゝ友二にはくすし三には智恵ある友
鯉のあつ物くひたる日は鬢そゝけす
となんにかはにもつくるものなれは
ねはりたる物にこそ鯉はかりこそ御前
にてもきらるく物なれはやん事なき
愚なり鳥には雑左右なき物なり雑松茸
なとは御湯殿のうへにかくりたるも
くるしからす其外は心うき事也中宮の
御方洗御湯殿のうへのくろみ棚に鷹の
みえつるを北山入道殿の御覧して帰らせ
給てやかて御ふみにてかやうの物さなから
其姿にて御棚にゐて作し事見ならはす
さまあしき事也はか〳〵しき人のさふら
はぬ故にこそなと申されたりけり
鎌倉す海にかつをと云魚は彼さかひには
さうなき物にて此比もてなすものなり
それも鎌倉のとしよりの申侍しは此災
をのれらわかくりし世まてははか〳〵しき
人の前へ出事侍らさりき頭は下部も
てはすきりてすて侍しものなりと申旁
かやうの物も世のするになれは上さまゝ
まても入たつわさにこそ侍れ
唐の物は楽の外はなく共事かくまし
書ともは此国におほくひろまりぬれは
かきもうつしてんもろこしふねの
たやすからぬ道に無用の物共のみとり
つみて所せて渡しもてくるいと愚なり
遠き物を突とせす共又えかたきたからを
たうとますともと文にも侍とかや
やしなひかふ物には馬牛つなきくるし
むるこそいたましけれとなくて叶はぬ
物なれはいかくはせん犬はまもりふけて
つとめ人にもまさりたれは必あるへし
されとることに有物なれはことさらに
もとめかはすともありなん其外の鳥獣
すへて用なきものなり立るけたものは
おりにこめくさりをせられとふ鳥は廼を
きり籠に入られて雲をこひ野山を思愁
やむ時なし其思我か身にあたりて
忍かたくは心あらん人是をたのしまんや
生をくるしめて目をよろこはしむるは
楽時か心なり王子猷か鳥を愛せし林に
たのしふをみてせうはその友としきとらへ
くるしめたるにあらす凡めつらしき鳥
あやしき獣国にやしなはすとこそ
文にも侍なれ
人の人の才能は文あきらかにして聖の教を
しれるを第一とす次には手かく事
むねとする事はなく共是をならふへし
学問にたよりあらんためなり次に医術を
習へし身をやし給ひ人をたすけ忠孝の
つとめも医にあらすはあるへからす次に
弓射馬に乗事六齊に出せりかならす
是をうかゝふへし文武医の道まことに
かけてはあるへからすこれを学はんをは
いたつらなる人といふへからす次に食は
人の命なりよく味を調しれる人大なる
瀬とすへし次に細工よろつに要おほし
此外の事とも身能は君子の恥る処也
詩歌にたくみに糸竹に妙なるは幽玄の道
君臣是をもくすといへ共今の世には
是をもちて世を治る事漸をろかなるに
似たり金はすくれたれ共織の益おほさに
しかさるかことし
無益のことをなして町を移すを愚なる
人とも僻事する人ともいふへし国のため
君のためにやむ事をえすしてなすへき
事おほし其あまりの晦いくはくならす
おもふへし人の身にやむ事をえすして
いとなむ所第一に食物第二にきる物第三に
居る所なり人間の大事此三には過す
飢す寒からす風面にをかされすして
閑に過すをたのしひとすたゝし人皆
病あり病に侵されぬれはその悲忍かたし
医療を忌へからす薬をくいへて四の事
求にさるをまつしとす此四かきさるを
とめりとす此四の外をもとめいとなむを
驕とす四の事倹約ならは誰のひとか
たらひとせん
是法法師は浄土宗にはちすといへとも
学匠をたてす只明暮念仏してやすゝかに
世を過すあり横いとあらまほし
同人にをくれて四十九日の何事に或聖を
請し侍しに説法いみしくして皆人涙を
なかしけり琴踊かへりて後聴聞の人とも
いつよりもことにけふはたうとく覚え
侍つると感しあへりし返事に或者の云
何とも候へあれほと唐の麹に似候なん
うへはといひたりしにあはれもさめて
なしかりけりさる導師のほめやうやは
あるへき又人に酒すゝむるとてをのれ
先たへて人にしゐ奉らんとするは剣にて
人をきらんとするに似たる事也二方に
はつきたるものなれはもたくる時まつ
我頭をきる故に人をはえきらぬなり
をのれ兄酔て臥なは人はよもめさしと
申き剱にてきりこゝろみたりけるにや
いとおかしかりき
はくちの負きはまりてのこりなくうち
いれんとせんにあひてはうつへからす
立かへりつゝけて勝へき時洗至れると
しるへし其時をしるをよきはくちと
いふなりと感者申き
あらためて益なき事はあらためぬを
よしとするなり
雅房大納言は才かしこくよき人にて
大将にもなさはやとおほしける比院の
近習なる人唯今浅ましき事を見侍つと
申されけれは何事そととはせ給けるに
雅房卿鷹にかはんとていきたる犬の
めしをきり侍つるを中垣の穴より見
侍つと申されけるにうとましくにくゝ
おほしめして日来の御気色もたかひ
一昇進もし給はさりけりさはかりの人鷹を
もたれたりけるは思はすなれと犬の足は
あとなき事なり虚言は不便なれとも
かゝる事をきかせ給てにくませ給ける
君の御心はいとたうとき事也大かた
いけるものをころしいためたゝかはしめて
あそひたのしまん人は書生残害のたくひ
なりよろつの鳥獣ちいさきむしまても
心をとめて有様をみるに子をおもひ
親をなつかしくし夫婦をともなひねたみ
いかり歎おほく身をはし命を惜める事
ひとへに愚癡なる故に人よりもまさりて
甚し皮に苦みをあたへ命をうはゝん事
いかてかいたましからさらんすへて
一切の有情を見て慈悲の心なからんは
人倫にあらす
顔回は志人に労をほとこさしとなり
すへて人をくるしめ物をしへたくる事
いやしき民の志をもうはふへからす
又いときなき子をすかしおとしいひ
はつかしめて興する事ありおとなしき
人はまことならねは事にもあらず思へと
おさなき心には身にしみておそろしく
はつかしく浅ましき思議に切なるへし
是をなやまして興する事慈悲の心に
あらすおとなしき人のよろこびいかり
かなしひたのしふも皆虚妄なれ共誰か
実有の相に着せさる身をやふるよりも
心をいたましむるは人をそこなふ事
猶甚し病をうくる事もおほくは心より
うく外よりきたる病はすくなし薬を
のみて汗をもとむるにはしるしなき事
あれとも一旦恥をそるゝことあれは必
汗をなかすは心のしわさなりといふ事を
しるへし凌雲の額をかきて白頭の人と
なりしためしなきにあらす
ものにあらそはすをのれをまけて人に
したかひ我身を後にして人をさきに
するにはしかす万のあそひにも勝負を
婦人は勝て興あらんためなりをのれか
藝のまさりたる事をよろこふされは
負て黙なく覚ゆへき事又しられたり
我負て人をよろこはしめんと思はゝ更に
あそひの興なかるへし人にほいなく
おもはせて我心をなくさまん事徳に
そむけりむつましき中にたはふるゝも
人をはかりあさむきてをのれか智の
まさりたる事を興とす是又礼にあらす
されははしめ興宴よりおこりてなかき
こらみをむすふたくひおほしこれみな
あらそひをこのむ夫なり勝んことを
思はく只学問して其智を人にまさらんと
おもふへしみちをまなふとならは善に
ほこらすともからにあらそふへからすと
いふ事をしるへき故なり大なる識をも
辞し利をもすつるは只学句のちから也
〇まつしき者は財をもちて礼とし老たる
者は力をもつて礼とすをのか分をしりて
及さる時は速にやむを宵といふへし
ゆるさくらんは人のあやまりなり分を
しらすしてしゐてはけむはをのれか
誤也まつしくて分をしらされはぬすみ
力おとろへて分をしらされは病をうく
鳥羽の作り道は鳥羽殿たてられて後の
号にはあらす昔よりの名なり元良親王
元日の奏賀の如夕甚殊勝にして大極殿
より鳥羽洗つくり道まて聞えけるよし
李都王の記に侍とかや
よるのおとゝは東御枕なりおほかた末を
枕として陽気をうくへき故に孔子も
東首し給へり寝殿のしつらひ或は南枕
常の事也白河院は北首に御寝なりけり
北はいむ事也又伊勢は南なり太神宮の
御方を御跡にせさせ給事いかくと人
申けりたゝし太神宮の遥拝は巽に
むかはせ給南にはあらす
〇高倉院の法華堂の三昧僧なにかしの
律師とかやいふものある時鏡をとりて
かほをつく〳〵とみて我かたちのみにくゝ
浅草しき事を餘に心うく覚えて鏡さら
ことましき心ちしけれは其後なかく鏡を
をそれて年にたにとらすさらに人に
ましはる事なし御堂のつとめはかりに
あひて籠居たりと聞侍しこそ有かたく
覚しかかしこけなる人も人のうへをのみ
はかりてをのれをはしらさるなり我を
しらすして外をしるといふことはり
あるへからすされはをのれをしるをもの
しれる人といふへしかたちみにくけれ共
しらす心のをろかなるをもしらす藝の
つたなきをもしらす数ならぬをもしらす
年の老ぬるをもしらす病説をかすをも
しらす死のちかき事をもしらすおこなふ
道のいたらさるをもしらす身洗うへの
非をしらねはまして外のそしりをしらす
但かたちは鏡にみゆ年はかそへてしる
我身の事しらぬにはあらねとすへき
かきのなけれはしらぬに似たりとそ
いはましかたちをあらため齢をわかく
せよとにはあらすつたなきをしらは
なんそやかてしりそかさる老ぬとしらは
なんそ閑に身をやすくせさる行をろか
なりとしらはなんそ是を思事是に
あらさるすへて人に愛楽せられすして
衆にましはるは恥なりかたちみにくく
こゝろをくれにしていてつかへむ智
にして大才にましはり不堪の芸を
もちて堪能の塵につらなり雪のかしゝを
いたゝきてさかりなる人にならひいはんや
及はさる事をのそみかなはぬ事を
うれへ来らさることをまち人にをそれ
人に媚るは人のあたふる恥にあらす
むさほるこゝろにひかれてみつから身を
はつかしむる也むさほる事のやまさるは
命ををふる六事いまごくにきたれりと
たしかにしらされはなり
資季大納言入道とかやきこえける人
具氏宰相中将に逢てわぬしのとはれん
程の事何事なり共答申さゝらんやと
いはれけれは具氏いかく侍らんと申されは
けるをさらはあらかひ給へといはれて
はか〳〵しき事はかたはしもまねひしり
侍らねはたつね申まてもなし何となき
そゝろことの中におほつかなき事をこそ
問奉らめと申されけりまして爰計の
あさき事は何事なり共あきらめ申
さんといはれけれは近習の人々女房なとも
興あるあらかひなりおなしくは御前にて
あらそはるへしまけたらん人は供給を
まうくらるへしとさためて御前にて召
あはせられたりけるに具氏おさなくより
聞ならひ侍れとその心しらぬ事侍り
むまのきつりやうきつにのをか中くほれ
いはくれんとうと申事はいかなる心にか
侍らんうけたまはらんと申されけるに
大物て入道はたとつまりて是はそくろ
事なれはいふにもたらすといはれけるを
もとよりふかき道は知侍らすそくろ事を
尋奉らんとさため申つと申されけれは
大納言入道まけになりて所課いかめしく
せられたりけるとそ
くすしあつしけ故法皇の錦前に
さふらひて供御のまいりけるにてまいり
侍る供御のいろ〳〵を文字も功能もたつね
下されてそらに申侍らは本草に御覧し
あはせられ侍れかしひとつも申あやまり
侍らしと申ける時しも六条の故内府
まいは給て有房ついてにものならひ
侍らんとて先しほと云文字はいつれの
へんにか侍らんととはれたりけるに
土へんに供と申たりけれは才のほと
既にあらはれにたり今はさはかりにて候へ
ゆかしき所なしと申されけるにとよみに
なりてまかり出にけり
置つた。
特別
つれ〳〵艸坤
同同
花はさかりに月はくまなきをのみ見る
ものかは面にむかひて月をこひたれこめて
春の行衛しらぬも猶あはれに情ふかし
咲ぬへき程の稍ちりしほれたる庭形とこそ
見におほけれ歌のことはかきにも花見に
まかれりけるにはやく藪過にけれはとも
さはる事有てまからてなともかけるは
はなをみてといへるにおとれる事かは
花すちり月のかたふみをしたふならひは
さる事なれとことにかたくなゝる人そ
この枝加の枝ちりにけりては見所なし
なとはいふめる万の事もはしめおはりこそ
おかしけれ男女の情もひとへに逢みるをは
いふものとはあはてやみにしうさを思ひ
あたなる契りをかこちなかき夜をひとり
あかし遠き雲井を思やりあさちか宿に
むかしをしのふうそ色このむとはいはめ
望月洗くまなきを千里洗外まてなかめ
たるよりも暁ちかくなりてまち出たるか
いと心ふかう青みたるやうにてにかき
山洗松の木するにみえたる木先間の影
うちしくれたる村雲かくれのほと
またなくあはれなり雅栄しらかしなとの
ぬれたるやうなる葉のうへにきらかき
たるこそ身にしみて心あらん友もかなと
頓応しうほほゆれすへて月花をはさのみ
めにて見るものかは春は家を立さらても
月の夜はねやのうちなからも思へるこそ
いとたのもしうおかしけれよき人は
ひとへにすけるさまにも見えす興する
さまもなをさりなりかたゐなかの人こそ
色こくよろつはもて興すれ花のもとには
ねちより立よりあからめもせすまもりて
酒のみ連哥してはてはおほきなる枝
こゝろなくおりとりぬ家には手足さし
ひたして雪にはおりたちて跡つけなと
よろつの物よそなからみる事なし
さやうの人の人見しさまいとめつらか
なりきみこといとをそし其程は桟敷
不用なりとておくなるやかて酒のみ
物くひ囲碁奴六なとあそひて桟敷には
人ををきたれはわたりさふらふといふ
時にをの〳〵きもつふるゝやうにあらそひ
はしりてのほりて落ぬへきまて簾はり
出てをしあひつゝ一事もみもらさしと
まほりてとありかゝりと物ことにいひて
わたり也ぬれは又わたらんまてといひて
おりぬ只物をのみ見んとするなるへし
都の人のゆくしくなるは睡ていともみす
ほかくすゑ〳〵なるは宮つかへたちゐ
人のうしろにさふらふはさまあしくも
をよひかゝらすわりなくみんとする
人もなし何となく葵かけわたして
なまめかしきに明はなれぬ程しのひて
よする車とものゆかしきをそれか
かれかなと思よすれは牛飼下部なとの
見しれるもありなしくもきら〳〵しくも
さま〳〵に行かふみるもつれ〳〵ならす
くるゝほとにはたてならへつる車とも
ところなくなみゐつる人もいつかたへか
ゆきつらん程なくまれになりて車ともの
らうかはしてもすみぬれはすたれたくみも
とりはらひ目の前にさひしけになり
ゆくこそ世のためしも思ひしられて
あはれなれ大説みたるこそまつり見たる
にてはあれかの桟敷の前をこゝら行かふ
人の見しれるかあまたあるにてしりぬ
世の人数もさのみはおほからぬにこそ
この人みなうせなん後我身しぬへきに
さたまりたり共程なくまちつけぬへし
おほきなるうつはものに水を入てほそき穴を
あげたらんにしたゝる事すくなしと
いふ共をこたるまなくもりゆかはやかて
つきぬへし都の中におほき人しなさる日は
あるへからす一日にひとりふたりのみ
ならんや鳥部野に思さらぬ野山にも
をくる数おほかる日はあれとをくらぬ
にはなしされはひつきをひさくもの
作りてうちをくほとなしわかきにも
よらすつよきにもよらす思ひかけぬは
死期なりとしるまてのかれ来にけるは
ありかたきふしきなりしはしも世を
のとかにはおもひなんやまくこたてと
いふものをすくろくの石にてつくりて
たてならへたる程はとられん事いつれの
いしともしらね共かそへあてくひとつを
とりぬれはその外はのかれぬと見れと
また〳〵かそふれはかれこれまぬき行程に
いつれものかれさるに似たりつはものゝ
いくさに出るは死にちかきことを知て
家をもあすれ身をもわする世をそむける
草す庵には都に水石をもてあそひて
是を奉にに聞と思へるはいとはかなし
しつかなる山のほくむ常のかたきほひ
きたらさもんやそ洗死にのそめること
いくさの陣にすゝめるにおなし
察過ぬれは後者あふひふようなりとて
或人のみすなるをみなとらせられ侍しか
色もなく覚え侍しをらき人のし給事
なれはさるへきにやと思しかしと周防内侍り
かくれともかひなき物はもろともに
みすの葵のかれ葉なりけりとよめるも
母屋のみすにあふひのかゝりたる枯葉を
よめるよし家の集にかけりふるき哥の
ことはかきにかれたるあふひにさして
つかはしけるとも侍り枕草子にも
こしかたこひしき物かれたるあふひと
かけるこそいみしくなつかしうおもひ
よりたれ鴨長明か四季の物かたりにも
ゐたれに後のあふひはせまりためとそ
かけるをのれとかるくたにこそあるを
名残なくいかくとりすつへき御帳に
早くれるくす玉も九月九日菊にとり
かへらるゝといへはさうふはきくのほり
まてもあるへきにこそ枇杷の皇太后官
かくれ給て後ふるき御帳のうちに菖蒲
くすたまなとのかれたるか侍けるをみて
おりならぬねをなをそかけつると弁の
めのとのいへる返事にあやめの草は
ありなからとも江侍従かよみしなか
家にありたき木は松桜松は五葉もよし
花はひとへなるよしい重桜は奈良の期に
のみ有けるをこの比そ世におほくなり
侍るなる吉野の花左近のさくらみな
ひとへにてこそあれ八重桜はことやうの
物なりいとこちたくねちけたりうへす共
ありなんをそ桜又すさましむしのつき
たるもむつかし梅はしろきうす紅梅
ひとへなるかとく咲たるもかさなりたる
紅梅のにほひめてたきもみなおかし
をそき梅は桜にさきあひて覚えをとり
けをされて枝にしほみつきたる心こし
ひとへなるかまつさきてちりたるは心
ともおかしとて京極入道中物言はなを
ひとへ梅をなん軒ちかくうへられたりける
京極の屋の南むきにいまも二本侍めり
柳又おかし卯月はかり洗わかかえて
すへてよろつの花もみちにもまさりて
めてたき物なりたちはなかつらいつれも
木は物ふり大なるよし草はやまふき
藤かきつはたなてしこ池にははちす
秋の草は蕨すゝききちかうはき女房花
ふちはかましをんほれもかうかるかや
りんたうきく黄菊もつたくすあさかほ
いつれもいとたかゝらすさくやかなる垣に
しくからぬよし此外の世にまれなる物
からかきたる名の聞にくゝ花も見なれぬ
なといとなつかしからすおほかたなにも
めつらして有かたき物はよからぬ人洗もて
興する物なりさやうの物なくて有なん
身死て財残る事は智者のせさる処なり
よからぬ物たくはへをきたるもつたなく
よき物はこゝろをとめけんとはかなし
こちたくおほかるましてくちおし我こそ
えめなといふもの共有て跡にあらそひたる
さまあし後はたれにと心さす物あらは
いくらんうちにそゆへるへき朝夕なくは
かなはさらん物こそあらめ其外は何も
もたてそあらまほしき
恋田院洗尭蓮上人は俗性は三浦の
なにかしとかや左右なき武者なり故郷の
人のきたりて物語すとてあつま人こそ
いひつる事はたのまるれみやこの人は
ことうけのみよくてまことなしと
いひしを聖それはさこそおほすらめとも
をのれは都に久しく泣てなれて見侍に
人の心をとれりとは思ひ侍らすなへて
こゝろやはらかになさけあるゆへに人の
いふほとの事けやけていなひかたくて
万えいひはなたす心よはくことうけしつ
いつはりせんとは思はねとともしく
かなはぬ人のみあれはをのつからほい
とほらぬ事おほかるへしあつま人は
我かたなれとけには心洗きなくなさけ
をくれひとへにすくよかなるものなれは
はしめよりいなといひてやみぬにきはひ
ゆたかなれは人にはたのまるゝそかしと
ことはられ侍しこそ御聖声うちゆかみ
あら〳〵しくて聖教のこまやかなることはり
いとわきまへすもやとおもひしにこの
一言葉の後心にくゝ成ておほかる中に
守をも住持せらるゝはかくやはらきたる
所有て其益もあるにこそと覚え侍し
見なしとみゆるものもよき一ことはいふ
ものなりあるあらえひすのおそろしく
なるかかたへにあひて御子はおはすやと
とひしにひとりももち侍らすと答しかは
さてはものゝあはれはしり給はし情なき
御心にそものし給らんといとおそろし
子故にこそ万のあはれは思ひしらなれと
いひたりしさもありぬへき事なり
恩愛の道ならてはかゝるものく心に
慈悲ありなんや孝養のこゝろなきものも
子もちてこそ親の志はおもひしるなれ
世をすてたる人の万にするすみなるか
なへてほたしおほかる人のよろつに
へつらひのそみふかきをみて此と下に
おもひくたすはひかことなりその人の
心に成て思へはまことにかなしからん
おやのため妻子のためには恥をも忘れ
ぬすみもしつへき事也されはぬす人を
いましめひかことをのみつみせんよりは
世の人のうへす寒からぬやうに世をは
をこなはまほしきなり人つねの産なき
時は常の心なし人きはまりてぬすみす
世おさまらすして凍餒のくるしみあらは
とかのものたゆへからす人をくるしめ
法ををかさしめてそれをつみなはん事
不便のわさなりさていかくして人を
めてむへきとならは上のをこりついやす
所をやめ民をなて体をすゝめはしもに
制あらん事こたかひあるへからす衣食
よのつねなるうへにひかことせん人をそ
まことのぬす人とはいふへき
人の終宮の有さまのいみしかりし事
なと人のかたるをきくにたくしつか
にしてみたれすといはくこゝろにく
かるへきををろかなる人はあやしく
ことなる相風かたりつけいひし言葉も
ふるまひもをのれかこのむかたにほめ
なすこそそ洗人の日来は本意にもあらす
やとおほゆれこの大ましは権化の人も
さたむへからす博学の士もはかるへからす
をのれたかふになくは人洗見きくには
よるへからす
鞍尾の上人みちを過給ひけるに河にて
馬あらふをのこあし〳〵といひけれは
上人立とまりてあなたうとや宿執開発の
人かな阿字〳〵と唱るそやいかなる人の
御馬そあまりにたうとくおほゆるはと
尋給けれは府生殿の御馬に候と答けり
こはめてたき事哉あ字本名生にこそ
あなれてれしき結縁をもしつるかなとて
感涙をのこはれけるとそ
仏随身泰重躬北面先下野入道信願を
落馬院相ある人なり能々つゝしみ給へと
いひけるをいとまことしからす思けるに
信願るより落てしにゝける道に長しぬる
一言神のことしと人思りさていかなる
相そと人の問けれはきはめて桃しりにして
浦艾の馬をこのみしかは此相をおほせ侍き
いつかは申あやまりたるとそいひける
明雲極主朝者にあひ給てをのれもし
兵杖の難やあるとたつね給けれは相人
まことに其相おはしますと申いかなる
相そとたつね給けれは傷害のをそれ
おはしますましき御身にてかりにも
かくおほしよりてたつね給ふ是既にその
あやふみのきさしなりと申けりはたして
箭にあたりてうせ絵にけり
異治あまた所に成ぬれは神事にけかれ
有といふ事ちかく人のいひ出けるなり
格文等にも見えすとそ
四十以後の人身に灸をくはへて三里を
やかされは上気の事あり如灸すへし
○鹿茸を鼻にあて〳〵かくへからすちいさき
虫有て鼻より入て脳をはむといへり
能をつかんとする人よくせさらん程は
なましいに人にしられしうち〳〵よく
ならひえてさし出たらんこそいと心にく
からめとつねにいふめれといふ人一芸も
ならひうることなしいまた堅固かたほ
なるより上手の中にましりてそしり
わらはるくにもはちすつれなくすきて
たしなむ人天性天骨なけれとも道に
なつますみたりにせすして手を送れは
堪能のたしなまさるよりは終に上手の
位にいたりとくたけ人にゆるされて
ならひなき名をうる事なり天下のものゝ
上手といへとも始は不堪の聞えもあり
無下の瑕瑾もありきされ共其人道者
をきてたくしくこれををもくして
放埒せされは世のはかせにてよろつ人の
師となる事諸道かはるへからす
職人の云年五十になるまて上手にいたら
さもん藝をはすつへきなりはけみ習へき
行末もなし老人の事をは人もえわらはす
衆にましはりたるもあいなくみくるし
大かたよろつのしわさはやめていとま
あるこそめやすくあらまほしけれ
世俗の事にたつさはりて生涯をくらすは
下愚の人なりゆかしくおほえん事は
まなひきくとも其をもむきをしりなは
おほつかなからすしてやむへしもとより
望ことなくしてやまんは身の事なり
西大寺の部然上人こしかくまり眉しろく
まことにとくたけたる有様にて内裏へ
まいられたりけるを西国寺内大臣殿あな
たうとのふきやとて信仰のきそくあり
けれは資朝卿これをみてとしのより
たるに供と申されくは後日にむく犬の
あさましく老さらほひて毛はけたるを
ひかせてこのけしきたうとくみえて候
とて内府へまいらせられたりけるとそ
尋兼大納言入道めしとられて武士とも
うちかこみて六波羅へゐて行けれは
資朝卿一条わたりにてこれを見てあな
うらやまし世にあらん思ひかくこそ
あらかほしけれとそいはれける
此人東寺の門にあまやとりせられたり
けるにかたわものとものあつまりゐたるか
手も足もねちゆかみうちかへりていつとも
不具にことやうなるをみてとり〳〵に
たくひなきくせものなりもとも愛するに
たれりとおもひてまもり給けるほとに
やかてその魚つきてみにくゝいふせく
おほえけれはたゝすなほにめつらし
からぬ物にはしかすと思ひて帰りて後
この間うへ木をこのみてことやうに曲折
あるを求て目をよろこはしめつるは
かのかたわを愛するなりけりと興なく
おかえけれは鉢にうへられける木とも
皆ほり捨られにけりさものぬへき事也
世にしたかはん人は先機嫌をしるへし
ついてあしき事は人の耳にもさかひ
心にもたかひて其事ならす御やうの
折節を心得へきなり但病をうけ子うみ
しぬる事のみ機嫌をはからすついて
出しとてやむことなし生住異滅洗うへり
かはるまことの大事はたくき河のみなきり
なかるゝかことししはしもとくこほらす
たゝちにをこなひゆくものなりされは
真俗につけてかならすはたしとけんと
思はん事はきけんをいふへからすとかくの
もよひにくあしをふみとゝむましきなり
春くれて後夏になり夏はて秋のくるには
あらす春はやかて夏の気をもよほし
夏よりすてに秋はかよひ秋はすなはち
さむくなり十月は小春の天気草も青く
なり梅もつほみぬ木の葉のおつるもまつ
おちてめくむにはあらす下よりきさし
つはるにたへすして落なりむかふる気
下にまうけたるゆへにまちとるついて
甚はやし生老病死のうつりきたる事
又これに過たり四季はなをさたまれる
ついてあり死期はついてをまたす死は
前よりしもきたらすかねてうしろに
せまれり人皆死ある事をしりてまつこと
しかも急ならさるにおほえすして来る
おきのひかたはるかなれ共磯よりしほの
みつるかことし
天臣の大饗はさるへき所を申うけて
をこなふつねの事なり宇治左大臣殿は
東三條殿にてをこなはる内裏にてあり
けるを申されくるによりて他所へ行けり
けりけりさせることのよせなけれとも
女院の御所なとかり申故実なりとそ
業をとれは物互く礼楽器をとれは音を
たてんとおもふ盃をとれば酒をおもひ
さいをとれは攤うたんことをおもふ心は
かならす事にふれて来るかりにも不善の
たはふれをなすへからすあからさまに
聖教の一句をみれは何となく前後の文も
見ゆ東にして多年先非をあらたむる
事もありかりにいまこの文をひろけ
さらましかは此事をしらんや是あ
ふるゝ所の益なり心更におこらすとも
仏前にありてすゝをとり経をとらは
をこたるうちにも善葉をのつから修せられし
叡都の心なからも縄床に坐せは覚すして
禅定なるへし事理もとより二ならす
外相もしそむかされは内証かならす熟す
しゐて不信をいふへからすあふきて是を
たうとむへし
盃のそこをすつる事はいかく心得たると
或人のたつねさせ給しに凝留と申侍は
そこにこりたるをすつるにや作らんと
申侍しかはさにはあらす魚道なり流を
のこして口のつきたるにをすゝくなり
とそ仰られし
まなむすひといふは糸をむすひかさね
たるか蜷といふ貝に似たれはいふと
あるやん事なき人仰られきみなといふは
あやまりなり
門に額照るをうつといふはよからぬにや
勘解由小路の二品禅門は額かくると
のたまひき見物洗桟敷うつもよからぬ
にやひらはりうつなとはつねの事也
銭敷かまふるなといふへし護摩たくと
いふもわろし修する護摩するなといふなり
行法も法の字をすみていふわろし謁て
いふと清閑寺の僧正仰られきつねに
いふ事にかゝる事のみおほし
花のさかりは冬至より百五十日とも
時正の後七月ともいへと立喜より七十五日
おほやういたかはす
適眼寺のせうし法師池の鳥を日比かひ
つけて堂のうちまてえをまきて戸ひとつ
あけたれは数もしらす入こもりけるのち
をのれもいりてたてこめてもらへつゝ
ころしけるよそほひおとろくしてきこえ
けるを草かるわらは聞て人につけけれは
村のをのこともおこりて入てみるに
大雁共ふたかきあへる中に法師ましりて
うちふせねちころしけれは此法師を
とらへて所より使庁へいたしたりけり
ころすところの鳥をくひにかけさせて
禁獄せられにけり基俊大納言別当の
時に侍ける
太街の太の守點うつうたすといふ事
陰陽のともから相論の事ありけり
もりちか入道申侍しは吉平か自筆の
占文のうらにかくれたる御記近衛の
関白殿にあり点うちたるを書たりと申き
世の人あひあふ時しはらくも黙止する
事なしかならす言葉あり其事をきくに
おほくは無益の誤なり世間の浮説人流
是非自他のために失おほく得すくなし
これをかたる時たかひの心に無益の事
なりといふ事をしらす
あつまの人の都の人にましはり都の
人洗あつまに行て身をたて又本寺本山を
はなれぬる頭密の僧すへてあり俗に
あらすして人にましはれるみくるし
尺間のいとなみあへるわさを見るに春の
日に雪仏をつくりてそのために金銀
珠玉のかさりをいとなみ堂をたてんと
するに似たりそ洗かまへをまちてよく
安置してんや人の命ありと見るほとも
下より消ること雪先ことくなるうちに
をこなふ事いとなみまつこと甚おほし
山道にたつさはる人あらぬ道のむしろに
のそみてあはれわか道ならましかは
かくよそに見侍らし物をといひ心にも
思へる事つねの事なれとよにわろく
おほゆるなりしらぬへ先うらやまして
おほしはあなうらやましなとかならはさり
けんといひてありなん我智をとり出て
人にあらそふは角あるものゝつのを
かたふけ弟あるものゝきはをかみ出す
たくひなり人としては善にほこらす
物とあらそはさるを添とす他にまさる
ことのあるは大なる夫なり品のたかさ
にても才藝のすくれたるにても先祖の
参にても人にまされりとおもへる人は
たとひこと葉にいてゝみそいはねとも
内心にそこはくのとりありつくしみて
これをわするへしをこにもみえ人にも
いひけたれほとはひをもまねくはたゝ
此慢心なり一道にもまことに長しぬる
人はみつからあきらかに其非をしる故に
こゝろさしつねにみたらすして終に
物にかこる事なし
年老たる人の一事すくれたる才洗有て
此人の後に誰にかとはんなといはるゝは
老のかたうとにていけるもいたつらならす
さはあれとそれもすたれたる所のなきは
一生此事にてくれにけりとつたなく
見ゆ今は忘れにけりといひてありなん
おほかたはしりたりともすゝろにいひ
ちらすはさはかりの才にはあらぬにやと
きこえをのつからあやまりもありぬへし
さたかにもわきまへしらすなといひたるは
なをまことに道のあるしとも覚えぬへし
ましてしらぬ事したりかほにおとなしく
もときぬへてもあらぬ人のいひきかするを
さもあらすとおもひなからきゝゐたる
いとあひし
何事流しきといふ事は後嵯峨の御代
まてはいはさりけるをちかき程よりいふ詞
なりと人の申侍しに建礼門院の右京大夫
後鳥羽院の御位の後又うちすみしたる
事をいふに世のしきもかはりたる事は
なきにもとかきたり
さしたる事なくて人のかり行はよからぬ
事なり用有て行たりとも其事はてなは
とく帰へし久しく居たるいとむつかし
人とむかひたれ詞おほく身もくたひれ
心も閑ならす万の事さはりて時をうつす
たかひのため益なしいとはしけに
いはんもわろし心つきなき事あらん
折は中〳〵其よしをもいひてん、ほなし心に
むかはまほしく思はん人のつれ〳〵にて
いさしはしけふは罰になといはんは
此様にはあらさるへし阮籍かあをき眼
誰もあるへき事なり其ことくなきに
人の来てのとかに物語してかへりぬる
いとよし又又も久しくきこえさせねは
なとはかりいひをこせたるいとうれし
員をおほふ人の我まへなるをはをきて
よそをみわたして人の袖のかけひさの
下にて目をくはるまに前なるをは人に
おほはれぬよくおほふひとは半にまて
わりなくとるとはみえすしてなきなり
おほふやうなれとおほくおほふなり
こはんのすみにいしをたてゝはしくに
むかひなるいしをまほりてはしくは
あたらす我手もとをよくみてこゝなる
ひしりめをすくにはしけはたてたる石
女あたる哥の事外にむきて求へからす
只こゝもとを。たくしくすへし清献公か
ことはに好事を行して前程をとふ事
なかれといへり世をたもたん道もかくや
侍らん内をつゝしますかろくほしきまゝ
にしてみたりなれは遠国かならすそむく時
はしめてはかりことをもとむ風にあたり
湿にふして病を神霊にうたふるは愚なると
人なりと医書にいへるかことし目の
まへなる人の愁をやめ恵をほとこし
道をたゝしくせは其化とをくなかれん
事をしらさるなり禹のゆきて三苗を
征せしもいくさをかへして徳をしてに
しかさりき
わかき時は血気うちにあまり心ものに
うこきて情欲おほし身をあやふめて
くたけやすき事玉をはしらしむるに
似たり美麗をこのみて実をついやし
是をすてゝ苔の袂にやつれいさめる心
さかりにしてものとあらそひ心にはち
うらやみこのむところほらにさたまらす
色にふけりなさけにめて行をいさきとく
して百年の身をあやまり命をうしなへる
ためしねかはしくして身のまたく
ひさしからん事をは思はすすけるかたに
こゝろひきてなかき世かたりともなる
身をあやまつことはわかき時のしわさ也
老ぬる人は精神おとろへあはくをろそか
にして感しうこくところなしこゝろ
をのつからしつかなれは無益のわさを
なさす身をたすけて愁なく人のほ
なからん事をおもふ老て智のわかき
一時にまされる事わかくしてかたちの
老たるにまされるかことし
小野小町か事きはめてさたかならす
おとろへたるさまは玉造といふ文に
みえたり此ふみ御行かかけりといふ説
あれと高野の大師の御作者目録にいれり
大師は承和のはしめにかくれ給へり
小町かさかりなる事其後の事にや
なをおほつかなし
小鷹によき犬大鷹につかひぬれは小鷹に
わろくなるといふ大につき小をすつる
ことはり誠にしかなり人事おほかる中に
道をたのしふより気味ふかきはなし
是実の大事なり一たひ道を聞てこれに
こゝろさくん人いつれのわさかすたれ
さらん何事をかいとなまんをろかなる
人といふともかしこき犬のこゝろに
をとらんや
世には心えぬ事のおほきなりともある
ことにはまつ酒をすゝめてしゐのませ
たるを興とする事いかなるゆへとも
心えすのむ人。洗かほいとたへかたけに
眉をひそめ人めをはかりてすてんとし
にけんとするをとらへてひきとゝめて
すゝろにのませつれはうるはしき人も
たちまちに狂人となりてをこかましく
息災なる人も目の前に大事の病者と
なりて前後もしらすたふれふすいはふ
へき日なとはあさましかりぬへし
あくる日まてかしらいたくものくはす
によひふし生をへたてたるやうにして
昨日の事覚えすおほやけわたくしの
大事をかきてあつらひとなる人をして
かゝるめをみする事慈悲もなく礼義
にもそむけりかくからきめにあひたらん
人ねたく口おしと思はさらんや人の国に
かくるならひ有なりとこれらになき人事
にてつたへ聞たらんはあやして不思議に
おほえぬへし人のうへにてみたるたに
心うし思ひ入たるさまに心にくしと
見し人もおもふ所なくほらひのくしり
言葉おほくゑほうしゆかみひもはやし
はきたかくかくけてよういなきけしき
日比の人ともおほえす女はひたひかみ
はれらかにかきやりまはゆからすかほ
うちさゝけてうちわらひ盃もてる年に
とりつきよからぬ人はさかなとりて口に
さしあてみつからもくひたるさまあし
声のかきりいたしてをの〳〵うたひまひ
とし老たる法師めし出されてくろく
きたなき身をかたぬきてめもあてられす
すちりたるを興しみる人さへうとましく
にくしあるは又我身いみしき事とも
かたはらいたくいひきかせ或は酔なきし
しもさまの人はのりあひいさかひて
あさましくおそろしはちかましく
心うき事のみありてはてはゆるさぬ
物ともをしこりて縁よりおち馬車より
おちてあやまちしつ物にものらぬきはゝ
天路をよろほひゆきてついひちかとの
したなとにむきてえもいはぬ事とも
しちらし年老雲婆かきたる法師の
こわらはのかたををさへて聞えぬ事共
いひつゝよろかきたるいとかはゆし
かゝる事をしてもこの世も後世も
益あるへきわさならはいかくはせむ
此世にはあやまちおほく財をうしなひ
病をまうく百薬の長とはいへと万の病は
酒よりうそをこれうれへほするといへと
酔たる人そ過にしうさをも思いてゝ
なくめる後老世は人の智恵をうしなひ
善根をやく事火のことくして悪をまし
よろつの戒をやふりて地獄に堕し
酒をとりて人にのませたる人五百生か間
手なき者に生るとこそ仏は説給なれ
かくうとましとおもふ物なれとをのつから
捨かたき折も有へし月の夜雪のあした
花のもとにても心のとかに物語して
盃出したる万の興をそふるわさなり
つれ〳〵なる日思ひの外に友の入来て
とりをこなひたるもこゝろなくさむ
なれくしからぬあたりの御簾のうちより
御くた物みきなとよきやうなる気はひ
してさし出されたるいとよし冬せはき所
にて火にて物煎なとしてへたてなきとち
さしむかひておほてのみたるいとおかし
旅のかり屋野山なとにて御さかな何かな
なといひてしはのうへにてのみたるも
おかしいたういたむ人先しゐられて
すこしのみたるもいとよしよき人の
とりわきていまひせつうへすくなしなと
のたまはせたるもうれしちかつかまほしき
人の上戸にてひし〳〵となれぬる又
それしさはいへ登上戸はおかして罪
ゆるさるゝものなり酔くたひれてあさい
したる所をあるしのひきあけたるに
まとひてほれたるかほなからほそき
もとゝりさし出し物もきあへすいたきもち
ひきしろひてにくるかいとりすかたつ
うしろねけおひたるほそはきのほと
おかしくつき〳〵し
奥戸は小松のみかと位につかせ給て
むかしたゝ人におはしましく時まさな
事せさせ給しをわすれ給はてつねに
いとなませ給ひける間なりみかま木に
すゝけたれは黒戸といふとそ
鎌倉の中書有にて御鞠ありけるにあめ
ふりて後いまた庭のかはかさりけれは
いかくせんと沙汰有けるに佐々木隠岐入道
鋸のくつを車につみておほく奉りたり
けれは一庭にしかれて泥土のほつらひ
なかりけりとりためけん用意有かたしと
人感しあへりけり此事をあるものゝ
かたりいてたりしに吉田中納言の
かはきすなこのよういやなかりけると
のたまひたりしかははつかしかりき
いみしとおもひける裾のくついやしく
ことやうの事なり庭の儀を奉行する人
かはきすなこをなうくるは故実也とそ
或所のさふらひとも内侍所の御神楽を
みて人にかたるとて突剣をはその人そ
もち給つるなといふをきゝてうちなる
女房の中に別殿の行幸には昼御座の
御剣にてこそあれとしのひやかにいひ
たりし心にくかりきその人ふるき典侍
なりけるとかや
又宋の沙門道眼上人一切經を将来して
六波羅のあたりやけ野といふところに
安置してことに首楞厳経を講して
那蘭陀寺と号すそ洗ひしりの申されしは
那蘭陀寺は大門北むきなりと江師の説
とていひつたへたれと西域伝法顕伝なと
にも見えす更に酒見なし江師はいかなる
才学にてか申されけんおほつかなし
唐土の西明寺は北むき勿論なりと申哉
さきちやうは正月にうちたるきちやうを
真言院より神泉苑へひして焼あくるなり
法成就の池にこそとはやすは神泉亮の
池をいふなり
ふれ〳〵こ雪たんはのこゆきといふ事
よねつきふるひたるに似たれは粉雪と
いふたまれこ雪といふへきをあやまりて
たんはのとはいふなりかきや木のまたにと
うたふへしとある物しり申きむかしより
いひける事にや鳥羽院おさなくて
おはしまして雪のふるにかく仰られ
けるよし讃波のすけか日記に書たり
西條大納言隆親卿からさけといふものを
供仰にまいらせられたりけるをかく
あやしき物まいりやうあらしと人の申
けるを聞て大納て鞋といふ魚まいらぬ
事にてあらんにこそあれさけのしらほし
何条事かあらんあゆるしらほしは
まいらぬかはと申されけり
御へつてうしをは角をきり人くふ馬をは
耳をきりてそのしなしとすしるしを
つけすして人をやふらせぬるはぬしの
とかなり人とふ犬をはやしなひかふ
へからす是皆とかあり律の焚なり
相模守時頼の母は松下の禅左とそ申ける
守をいれ申さるゝ事ありくるにすゝけ
たるあかりさうしのやふれはかりを禅尼
てつから小刀してきりまはしつゝはられ
気礼はせうとの城の介義景その日の
けいめいして修けるか給はりてなにかし
男にはらせ候はんさやうの事に心えたる
ものに候と申されけれは其男仄か細工に
よもまさり侍らしとてなをひとまつく
はられけるを義茶みなをはりかへ候はんは
はるかにたやすと候へしまたらに候も
みくるしくやとかさねて申されけれは
尼も後はさは〳〵とはりかへんと思へ共
けふはかりはわさとかくてあるへきなり
物はやふれたるにばかりを修理して
もちひる事そとわかき人に見ならはせて
こゝろつけんためなりと申されけるいと
有かたかりけり世をおさむる道倹約を
もとゝす女性なれ共聖人の心にかよへり
天下をたもつ程の人を子にてもたれける
まことにたゝ人にはあらさりけるとそ
城陸奥守泰盛は左右なき馬のりなりけり
馬をひき出させけるにあしをそろへて
しきみをゆらりとこゆるをみては是は
いさめる馬也とて鞍ををきかへさせけり
又足をのへてしきみにけあてぬれは是は
にふくしてあやまち有へしとてのらさり
けり道をしらさらん人かはかり恐なんや
よし田と申馬乗の申侍しはることに
こはき物なり人の力あらそふへからすと
しるへしのるへき馬をはまつよくみて
つよきところよはき所をしるへし次に
くつわ鞍のくにあやうき事やあると
みてこゝろにかゝる事あらは其馬を
はすへからす此用意を忘れさるを馬葉とは
申なりこれ秘蔵の事なりと申き
歌の道若人たとひ不堪なりといへとも
堪能の非家の人にならふ時かならす
まさる事はたゆみなくつゝしみて
かろ〳〵しくせぬとひとへに自由なるとの
ひとしからぬなり藝能所作のみにあらす
おほかたの振舞心つかひもせろかにして
つゝしめるは得のもとなりたくみにして
ほしきまゝなるは失のもとなり
あるもの子を法師になして学問して
因楽の理をもしり説経なとして世わたる
たつきともせよといひけれはをしつの
まゝに説経師にならんためにまつ馬に
乗ならひけり輿車はもたぬ身の導師に
請せられん時馬なとむかへにをこせ
たらんにもくしりにて落なんはこゝろ
うかるへしと思けり次に仏事の後
さけなとすゝむる事あらんに法師の
一無下に能なきは檀那すさましく思へし
とてま哥といふ事をならひけり二つの
わさやう〳〵さかひに入けれはいは〳〵
よくしたくおほえてたしなみける程に
説経ならふへき隙なくて手よりにけり
この法師のみにもあらす世間の人なへて
此事ありわかきほとは諸事につけて
身をたて大なる道をも成し能をもつき
学問をもせんと行末ひさしくあらます
事共心にはかけなから世をのもかに
おもひてうちをこたりつゝまつさし
あたりたる目の前の事にのみまきれて
月日ををくれはこと〳〵になす事なく
して身は老ぬ終にものゝ上手にもならず
おもひしやうに身をももたすくゆれ共
とりかへさるゝ齢ならねははしりて
坂をくたる輪のことくにおとろへ行
されは一生のうちむねとあらまほし
からん事の中にいつれかまさるとこく
おもひくらへて第一の事を案し定て
其外は思ひすてゝ一事をはけむへし
一日のうち一時のうちにもあまたのことの
きたらん中にすこしも益のまさらん
事をいとなみてその外をはうちすてゝ
大事をいそくへきなりいつかたをも
すてしとこゝろにとりもちては一事も
なるへからすたとへは其をうつ人一手も
いたつらにせす人にさきたちて小を捨
大につくかことしそれにとりて三の石を
すてゝ十の石につく事はやすし千を
捨て十一につく事はかたしひせつなり共
ませらんかたへこそつくへきを十まて
成ぬれはおしく覚えておほくまさらぬ
石にはかへにくし是をも捨すかれをも
とらんとおもふ心にかれをもえす是をも
うしなふへき道なり京にすむ人いそきて
東山に用ありてすてにゆきつきたり共
西山にゆきてその益まさるへき事を
思えたらは門より帰てにしやまへゆく
へきなりこゝまてきつきぬれは此事をは
先いひてん日をさゝぬ事なれは西山の
事はかへりて又こそおもひたゝめと
おもふ故に一時の懈怠すなはち一生の
懈怠となるこれをおそるへし一事を
かならすなさんとおもはく他の事の
やふるゝをもいたむへからす人のあさけり
をもはつへからす万事にかへすしては
一の大事成へからす人のあまたありける
中にてあるものますほのすゝきまそほの
すゝきなといふことありわたのへの聖
此事をつたへしりたりとかたりけるを
登運法師その塵に侍けるかきゝて雨の
ふりけるに見のかさやあるかし給へ
かの薄の事ならひにわたのへの聖のかり
たつねまからんといひけるをあまりに
物さはかしあめやみてこそと人洗いひ
けれは無下のことをも仰らるゝ物かな
一人の命は雨のはれまをもまつものかは
我もしに聖もうせなは尋きゝてんやとて
はしりいてゝ行つくならひ侍にけりと
申つたへたるこそゆくしくありかたう
おほゆれ数ときはすなはち功ありとそ
論語といふ文にも侍なるこのすゝきを
いふかしくおもひけるやうに一大事
因縁をそおもふへかりける
今日は其事をなさんとおもへとあらぬ
いそき先出来てまきれくらしまつ人は
さはり有てたのめぬ人は来りたのみたる
方の事はたかひて思ひよらぬ道なりは
かなひぬわつらはしかりつる事は
ことなくてやすかるへき事はいと心くなし
日々に過行さまかねて思つるには似す
一年のうちもかくのことし一生の間も
又しかなりかねてのあらまし皆たかひ
ゆくかとおもふにをのつからたかはぬ
事もあれはいよ〳〵物は定かたし不定と
心得ぬるのみまことにてたかはす
妻子といふものこそをのこのもつましき
物なれいつも独すみにてなときくこそ
こゝろにくけれ誰かしか聟になりぬとも
又いかなる女をとりすへてあひ住なと
聞つれは無下に心をとりせらるゝわさ
なりことなる事なき女をよしと思ひ
さためてこそそひゐたらめといやしくも
をしはかられよき女ならはこの男をそ
らうたくしてあか仏とまもりゐたらめ
たとへはさはかりにこそとおほえぬへし
まして家のうちををこなひおさめたる
女いと口おし子なといてきてかしつき
あひしたる心うしたとこなくなりて後
左になりて年よりたるありさまなき跡
まてあさましいかなる女なりとも明き
そひみんにはいと心つきなかくにてかりなん
女のためも中空にこそならめよそなから
とき〳〵かよひすまんこそとし月経ても
たえぬなからひ共ならめあからさまにきて
とまりゐなとせんはめつらしかりぬへし
夜に入てものゝはへなしといふ人いと
くちおしよろつのものゝきらかさりき
ふしもよるのみこそめてたけれひるは
みとそきをよすけたる姿にても有なん
夜はきらくかにはなやかなるさうそく
いとよし人のけしきもよるのほかけそ
よきはよく物いひたる声もくらくて
聞たる用きあるこゝろにくしにほひも
ものゝ音もたゝよるそひときはめてたき
さしてことなる事なき夜うち更て
まいれる人のきよけなるさましたる
いとよしわかきもちこゝろとくめて
見る人は時をもほかぬ物なれはことに
うちとけぬへきおもふしそけはれなく
引つくろはまほしきよき男の日くれて
ゆするし女も夜ふくるほとにすへりつく
鏡とりてかほなとつくろひて出るこそ
おかし気礼
神仏にも人のまうてぬ日夜まいはたる
よし
わくらき人の人をはかりて其智をしれりと
思はん更にあたるへからすつたなき人の
碁うつ事はかりにさとくたくみなるは
かしこき人の此芸にをろかなるをみて
をのれか智にをよはすと定てよろつの
道のたらみ我道を人のしらさるを見て
をのれすくれたりと思はん事大なる
あやまりなるへし文字の法師暗證の禅師
たかひにはかりてをのれにしかすと思へる
ともにあたらすをのれか授別にあらさる
物をはあらそふへからす是非すへからす
是人の人をみる眼はすとしもあやまるに
有へからすたとへは或人の世にそらことを
かまへ出して人をはかる事あらんに
すなほにまことくおもひていふまくに
はからるゝ人ありあまりにふかく信を
おこしてなをあつらはしくそらことを
心得とふる人あり又何としもおもはて
心をつけぬ人あり又いさゝか覚束なく
覚てたのむにもあらすたのますもあらて
案しゐたる人あり又まことしくは
おほえねとも人のいふ事なれはさも
あらんとてやみぬる人もあり又さま〳〵に
推し心えたるよししてかしこけに
うちうなつきほくゑみてゐたれとつや〳〵
しかぬ人あり又すいし出してあはれ
さるめりと思なから猶あやまりもこそ
あれとあやしむ人あり又ことなるやうも
なかりくると手をうちてあらふ人あり
又こゝろえたれどもしれりともいはす
おほつかなからぬはとかくのことなくしらぬ
人とおなしやうにて過る人あり又この
そらことの本意をはしめより心得て
すとしもあさむかすかまへ出したる人と
おなし心になりて力をあはする人あり
愚者の中のたはふれたにしりたる人の
前にては此さま〳〵のはたる所詞にても
かほにてもかくれなくしられぬへし
ましてあきらかならん人洗まとへる
我等をみんことたなこゝろの上の物を
見んかことし但かやうのをしはかりにて
仏法まてをなすらへいふへきにはあらす
○或人久我なはてをとをりけるに小袖に
おほくちきたる人木つくりの地蔵を
田の中の水にをしひたしてねんころに
あらひける心えかたくみる程に狩衣の
男二三人出きてこゝにおはしましけりとて
この人をくしていにけり久我内大臣殿
にてそおはしける尋常におはしましける
時は神妙にやん事なき人にておはしけり
東大寺の神興東寺の若宮より帰座の町
源氏の公卿参られけるに此殿大将にて
さきををはれけるを立御門相用社頭小て
警蹕いかく侍へからんと申されけれは
随身の振舞は兵伏先承りしる事に供せ
はかり答給けりさて後に仰られけるは
この相国北山抄をみて西宮の説をこそ
しられさりけれ眷属の悪鬼恩神を恐るゝ
故に神社にてことにさきををふへき理
ありとそ仰られける
諸寺の僧のみにもあらす定額の女孺と
いふ事延喜式にみえたりすへてかす
さたまりたる公人の通号にこそ
揚名介にかきらす揚名目といふものも
あり政事要略にあり
○横川の行宣法印か申侍しハ唐土は呂の
国なり僕の音なし和国は単律の国にて
呂の音なしと申き
呉竹は葉ほそく河竹は葉ひろし御講に
ちかきは河竹仁蔵殿のかたによりて
植られたるは呉竹なり
退凡下乗の卒都婆外なるは下乗内なるは
退凡なり
十月を神無月と云て神事にはゝかる
へきよしはしなしたる物なしもとふみも
見えすたゝし当月諸社のまつりなき
ゆへにこの名あるかこの月よろつ洗
神たち太神宮へあつまり給なといふ説
あれ共其本説なしさる事ならは伊勢には
ことに祭月とすへきにその例もなし
十月諸社の行幸其例もおほし但おほくは
不吉の例なり
勅勘の所に勅かくる作法いまはたえて
しれる人なし主上洗御悩大かた世中の
さはかしきときは五条の天神に鞠を
かけらる鞍馬にゆきの明神といふも鞠
かけられたりける神なり肴臂長の負たる
籾を其家にかけられぬれは人出入らす
此事絶て後今の世かは対をつくる事に
なりにけり犯人をしもとにてうつ時は
持器かよせてゆひつくる也折器の横も
よする作法もいまはあきまへしれる人
なしとそ
比叡山に大師勸請の起請といふ事は
慈恵僧正書はしめ給けるなり起請文と
いふ事諸曹には其沙汰なしいにしへの
聖代すへて起請文につきてをこなはるゝ
故はなきを近代此事流布したるなり
又法令には水火に穢をたてす入物には
けかれあるへし
徳大寺右大臣殿検非違使の別当のとき
中門にて使庁の拝定をこなはれける程に
官人章兼り牛はなれて庁のうちへ入て
一大理の塵のはまゆかのうへにのほりて
にれうちかみて臥たりけりをもき怪異
なりとて牛を陰陽師のもとへつかはす
へきよし各申けるを父の相国きゝ給て
うしに分別なし脚あれはいつくへか
のほらさらん慰弱の官人たま〳〵出仕の
微牛をとらるへきやうなしとて牛をは
ぬしにかへして臥たりけるたくみをは
かへられにけりあへて凶事なかりけると
なんあやしみを見てあやしまさる時は
あやしみかへりてやふるといへり
亀山殿たてられんとて地をひかれけるに
大なるくちなは数もしらすこりあつまり
たる塚ありけり此所の神なりといひて
ことのよしを申けれはいかくあるへきと
勅問ありけるにふるくより此地をしめ
たる物ならは左右なく掘捨られかたしと
みな人申されけるに此おとゝ一人王土に
をらん虫皇居を立られんに何のたゝり
をかなすへき鬼神はよこしまなし
とかむへからすたゝ皆ほりすつへしと
申されたりけれは塚をくつして蛇をは
大井川になかしてくろ更に案なかりけり
証文なとの紐をゆふにかみしもより
たすきにちかへて二すちの中よりあなの
かしらをよこさまにひき出す事はつねの
事なりさやうにしたるをは篳厳院の
弘舜僧正ときてなをさせけりこれは
このころやうの事なりいとにくし
うるはしくはたゝくる〳〵とまきて
うへよりしもへわなのさきをさし
はさむへしと申されけりふるき人にて
かやうの事しれる人になん侍ける
人の田を論するものうたへにまけて
ねたさにその田をかりてとれとて人を
つかはしくるに先道すからの田をさへ
かりもてゆくを是は論し給所にあらす
いかにかくはをいひけれはかるものとも
其心とても列へきことはりなけれとも
僻事せんとてまかる者なれはいつくをか
からさらんとそいひけることはりいと
おかしかりけり
よふこ鳥は春のものなりとはかりいひて
いかなる鳥ともさたかにしるせる物なし
或真言書の中によふこ鳥なく時招魂の
法をはをこなふ次第ありこれは鶴なり
万葉集の長歌に霞たつなかきす日のなと
つゝけたり鵜鳥も嗅子鳥のことさまに
かよひてきこゆ
歌の事はたのむへからすをろかなる
人のふかくものをたのむゆへにうらみ
いかる事ありいきほひありとて頼む
へからすこはき物先ほろふ財おほしとて
頼むへからす町のまにうしなひやすし
才ありとてたの此へからす孔子も時に
あはす徳ありとてたのむへからす顔回も
不幸なりき君の寵をもたのむへからす
誅をうくる事すみやかなり奴したかへり
とて頼へからすそむきはしる事あり
人先志をもたのむへからすかならす変す
約をも跡へからす信あるましすくなし
身をも人をもたのまされは是なる時は
よろこひ非なる時はうらみす左右ひろ
けれはさはらす前後遠けれはふさからす
せき時はひしけくたく心をもちゐる事
すこしきにしてきひしき時はものに
さかひあらそひてやふるゆるくして
やはらかなる時は一毛もそんせす人は
天地の霊なり天地はかきるところなし
人洗性なんそことならん寛大にして
きはまらさる時は喜怒是にさはらすして
物のためにほつらはす
秋先月はかきりなくめてたきものなり
いつとても月はかくこそあれとて思ひ
ほかさらん人はむけに心うかるへき事也
御前の火爐に火ををく時は火はしして
はさむ事なしかはらけよりたゝちに
うつすへしされはころひぼちぬやうに
心えて炭をつむへきなり八幡の御幸に
供奉の人浄衣をきて手にて炭をさゝれ
けれはある有識の人白き物をきたる日は
火箸をもちゐるくるしからすと申されけり
惣夫恋といふ楽は女おとこをこふる故の
名にはあらす本は相符蓮文字のかよへる
なり晋の王倹大臣として家にはちすを
うへて愛せし時の楽なり是より大臣を
蓮府といふ廻忽も廻鶻なり廻鶻国とて
えひすのこはき国あり其夷漢に伏して
後に来りてをのれか国の楽を奏せし也
平宣時朝臣老ののちむかしかたりに
西明寺入道あるよひの間によはるゝ事
ありしにやかてと申なからひたゝれの
なくてとかくせしほとに又つかひ来て
直垂なとのさふらはぬにやよるなれは
ことやうなりともとくとありしかは
なへたる直垂うち〳〵のまゝにてまかり
たりしにてうしにかはらけとりそへて
もていてゝこの酒をひとりたうへんか
さう〳〵しけれは申つるなりさかなこそ
なかれ人はしつまりぬらんさりぬへき
物やあるといつくまてももとめ給へと
ありしかはしそくさしてくま〳〵を
もとめし程にたい所の棚にこかはらけに
みそのすこしつきたるを見出てこれそ
もとめえてさふらふと申しかは事
たりなんとてこゝろよく数献に及ひて
興にいられ侍きその世にはかくこそ
侍しかしと申されき
最明寺入道鶴り岡の社参先次に足利
左馬入道の本へまつ使をつかはして
立いられたりけるにあるしまうけられ
たりける様一献にうちあはひ二献にえひ
三献にかいもちいにてやみぬ其座には
卒主夫婦隆弁僧正あるしかたの人にて
坐せられけりさて年ことにたまはる
足利のそめ物心もとなく候と申され
けれはよういしさふえふとて色々のそめ物
三十前にて女房共に小袖にてうせさせて
後につかはされけりその町みたる人の
ちかくまて侍しかかたり侍しなり
或大福兵者のいはく人はよろつをさし
をきてひたふるに幽をつくへきなり
まつしくてはいけるかひなしとめる
のみを人とす徳をつかんとおもはく
すへからくまつ其心つかひを修行すへし
其心と云は他の事にあらす人間常住の
おもひに住してかりにも無常を観する
事なかれ是第一の用心なり次に万事の
用をかなふへからす人の世にある自他に
つけて所願む量なり欲に随て心さしを
とけんと思はゝ百万の銭ありといふ共
しはらくも泣すへからす所願はやむ時
なし財はつくる朝ありかきりある財を
もちてかきりなき額にしたかふ事
うへからす所願心にきさす事あらは
我をほろほすへき悪念きたれりとかたく
つくしみをそれて小要をもなすへからす
次に銭をやつこのことくしてつかひ
もちゐる物としらはなかく貧吉をまぬかる
へからす君のことく神のことくをそれ
たうとみてしたかへもちゐることなかれ
次にはちにのそむといふともいかり
うらむる事なかれ次に正直にして
約をかたくすへし此義をまほりて利を
もとめん人は冨の来る事火のかはけるに
つき水のくたれるにしたかふかことく
なるへし銭つもりてつきさるときは
宴飲声色をことしせす居所をかさらす
所願をなさゝれとも心とこしなへに
やすくたのしと申き抑人は所願を成
せんかために財をもとむ銭を財とする
事はねかひをかなふるかゆへなりに願
あれ共かなへす銭あれ共もちゐさらんは
全貧者とおなし何をかたのしひとせん
此をきてはたゝ人間の望をたちて盆を
うれふへからすときこえたり敵を吸して
たのしどびせんよりはしかし財なからんには
癰疽をやむ者水にあらひてたのしひと
せんよりはやまさらんにはしかしこゝに
いたりては貧富にて所なし寂竟は理即に
ひとし大欲は無欲に似たり
きつねは人にくひつく物也堀川殿にて
とねりかねたるあしをきつねにくはる
仁和寺にて夜本寺の前をとほる下法師に
狐三とひかくりてくひつきけれは刀を
ぬきてこれをふけく間狐二ひきをつく
ひとつはつきころしぬ二はにけぬ法師は
あまた所くはれなからことゆへなかりけり
西條黄門命せられて云龍秋は道にとり
てはやん事なき者なり先日きたりて云
短慮えいたりきはめて、荒涼の事なれ共
よこ笛の五の穴は朝いふかしきところの
侍るかとひそかにこれを存すその故は
干の穴は平調五の穴は下無調也其間に
勝絶詞をへたてたり上髪調次に鳧鐘調を
をきて夕の穴黄鐘調也其次に鷹銃胸を
をきて中洗穴盤陵調中と六とのあはひに
神仙調ありかやうに聞らにみな一律を
ぬすめるに五の穴のみ上の間に調子を
もたすしてしかも間をくはる事ひとしき
故に其声不快なりされは此穴を吹明は
かならすのくのけあへぬ時は物にあはす
ふきうる人かたしと申き料簡のいたり
誠に興あり先達後生をおそるといふ事
此事なりと侍き他日に景茂か申侍しは
竺はしらへおほけてもちたれはたゝ明
はかりなり笛は吹なからいきのうちにて
かつしらへもてゆく物なれは穴ことに
口伝のうへに性骨をくはへて心をいるゝ
こと五の穴のみにかきらすひとへに
のくとはかりもさたむへからすあしく
ふけはいつれの穴も心よからす上手は
いつれをもふきあはす呂律のものに
かなはさるはひとのとりなり器の夫に
あらすと申き
何事も辺土はいやしくかたくなくれとも
天王寺の舞楽のみ都にはちすといへは
天王寺の伶人の申侍し当寺の楽はよく
図をしらへあはせてものゝねのめてたく
とゝのほり侍事なよりもすくれたり
故は太子の御時洗図いまに侍をはかせ
とすいはゆる六時堂のまへの鐘なり
其声黄種調のもなか也寒暑にしたかひて
あかりさかり有べき故に二月涅槃会より
聖霊会まての中間を指南とす秘蔵の
事也此一調子をもちていつれの声をも
とゝのへ侍るなりと申き凡鐘の声は
黄鐘調なるへし是む常の調子祇園精舎の
無常院の声なり西園寺の鐘帯鐘調に
いらるへしとてあまたたひいくられ
けれともかなはさりけるを遠国より
たつねいたされける浄金剛院の鐘の如今
又黄鐘調なり
建治弘安のころはまつり洗日の故見滋
つけ物にことやうなる紺の布四五段にて
馬をつくりておかみにはとうしみを
してくもの井かきたる水干につけて
歌の心なといひてわたりしことつねに
見及ひ侍しなとも興ありてしたる心ち
にてこそ侍しかと老たる有志ともの
今日もかたり侍なりこの比はつけもの
としを送て過巻ことのほかになりて
よろつのをもき物をおほく付て左右の
袖を人にもたせてみつからはかこをたに
もたすいきつきくるしむめりさまいと
みくなし
竹谷の乗願坊東二条院へまいられたり
けるに亡者の追善にはなに事か勝利
おほきとたつねさせ給けれは光明真言
宝篋印陀羅左と申されたりけるを弟子共
いかにかくは申給けるそ念仏にまさる事
さふらふましとはなと申給はぬそと申
けれはわか宗なれはさこそ申さまほし
かりつれともまさしく講名遠追福に
修して巨益あるへしととける経文を
見及はねは何にみえたるそとかさねて
とはせ給はくいかく申さんとおもひて
本経のたしかなるにつきて此真言陀羅尼
をは申つるなりとそ申されける
鶴のおほいとのは童名たつ君なり鶴を
かひ給ける故にと申は僻事也
陰陽師有宗入道かまくらよりのほりて
たつねまうてきたりしかまつさし入て
此庭のいたつらにひろきこと浅ましく
あるへからぬことなり道をしるものは
うふることをつとむほそみち一残して
みなはたけにつくり給へといさめ侍き
まことにすこしの地をもいたつらに
をかんことはやくなき事なりくふ物
薬種なとをうへをくへし
多久助り申ける通憲入道舞の手の中に
興有事ともをえらひていその禅師と
いひける女にをしへてまはせくろしろき
水干にさうまきをさゝせ烏帽子をひき入
たりけれおとこまひとそいひける禅師かは
むすめしつかといひける此藝をつけり
是白拍子の根元也仏神流本縁をうたふ
其のち源光行おほくのこと成つくれり
後鳥羽院洗清作もあり亀菊にをしへ
させ給けるとそ
後鳥羽院の錦時信濃前司行長稽古の
ほまれありけるか興府の御論義の番に
めされて七徳舞をふたつ忘れたりけれは
五徳の冠者と異名をつきにけるをこゝろ
うきことにして学問を捨て遁世したり
けるを慈鎮和尚一芸あるものをは下部
まてもめしをきて不便にせさせ給けれは
此信濃入道を扶持し給けり此行長入道
平家の物語を作りて生仏といひける盲目に
をしへてかたらせけりさて山門先ことを
ことにゆくしくかけり九郎判官の事は
くはしく知てかきのせたり蒲の冠者の
事はよくしらさりけるにやおほくの
事共をしるしもらせり武士の事弓高洗
わては生仏東国のものにて武士にとひ
きゝてかくせけり彼生仏か生れつきの
声をそのひは法師はまなひたるなり
真町礼讃は法然上人の弟子安楽といひ
ける僧経文をあつめて造て勤にしける
其後太秦の善観坊といふ僧にしはかせを
さためて声明になせり一念の念仏の
究初也後嵯峨院の御代よりはしまれり
法事證もおなしく善観坊はしめたる也
千本の釈迦念仏は文永のころ如輪上人
是をはしめられけり
よき細工はすこしにふき刀をつかふと
いふ妙観か刀はいたくたゝす
五條同裏にははけ物有けり藤大納て殿
かたられ侍しは殿上人ともくろとにて
碁をちくるにみすをかくけてみる物
ありたそと見むきたれは狐人のやうに
つゐゐてさしのそきたるをあれ狐よと
とよまれてまとひにけにけにけにけにかに
はけなんしけるにこそ
そのく別当入道はさうなき庖丁者なり
ある人のもとにていみしき鯉をいたし
たりけれはみな人別当入道の庖丁を
見いやと思へ共たやすくうちいてんも
いかくとためらひけるを別当入道さる
人にて此程百日の鯉をきり侍をとり
かき侍へきにあらすまけて申うけんとて
きられけるいみしくつき〳〵しく興
ありて人とも思りけるとある人北山の
太政入道殿にかたり申されたりけれは
かやうの事をのれはよにうるさく
おほゆるなりきりぬへき人なくはたへ
きらんといひたらんはなをよかりなん
何条百日の鯉をきらんそとのたまひ
たりしおかしておほえしと人洗かたり
給けるいとおかし大かた振舞て興ある
よりも興なくてやすらかなるまさり
たる事なりまれ人の饗応なともついて
おかしきやうにとりなしたるもまことに
よけれ共たく其事となくてとり出たる
いとよし人に物をとらせたるもつゐて
なくてこれをたてまつらんといひたる
まことの心さしなりおしむよしして
こはれんとおもひ勝負のまけわさに
ことつけなとしたるむつかし
まへて人は無智無能なるへきものなり
ある人の子の見さまなとあしからぬか
父の前にて人と物いふとて史書の文を
ひきたりしさかしくはきこえしかとも
尊者の前にてはさらすともと覚えし也
又ある人流もとにてひはつの物語を
きかんとて琵琶をめしよせたるにちうの
ひとつおちたりしかはつくりてつけよと
いふにある男の中にあしからすと
見ゆるかふるきひさくの柄ありやなと
いふをみれはつめをおふしたりひはなと
ひくにこそめくら法師のひは其沙汰にも
をよはぬことなり道に心えたるよし
にやとかたはらはたかりきひさくのはは
ひもの木とかやいひてよからぬ物にとそ
ある人便られしわかき人はすこしの
事もよくみえわろくみゆる也よろつの
とかあらしとおもはくなにことにも
まことめりて人をわかすうや〳〵しく
こと葉すくなからんにはしかし男女
老少みなさる人こそよけれともことに
わかくかたちよき人のことうるはしきは
わすれかたくおもひつかるくものなり
よろつのとかはなれたるさまに上手かき
所えたるけしきして人をないかしろに
するにあり
人洗物をとひたるにしらすしもあらし
ありのまゝにいはんはおこかましとにや
心まとはすやうにかへりことしたる
よからぬ事なりしりたる事もなを
さたかにと思てやとふらん又まことに
しらぬ人もなとかなからんうらくかに
いひきかせたらんはおとなしくきこえ
なまし人はいまたきゝをよはぬ事を
わかしりたるまくにさても其人の事の
あてましさなとはかりいひやりたれは
いかなることのあるにかとをしかへし
とひにやるこそこゝろつきなけれ世に
ふりぬることをもをのつからきゝもらす
あたりもあれはおほつかなからぬやうに
つけやりたらんあしかるへき事かは
かやうの事はものなれぬ人の有事也
ぬしある家にはすゝろなる人こゝろの
まゝに入くる事なしあるしなき所には
道行人みたりに立入狐ふくろうやうの
物も人けにせかれねはところえかほに
いはすみこたまなといふけしからぬ
かたちもあらはるゝ物也又かく見には
色かたちなき故によろつ先かけ来りて
うつるかくみに色かたちあらましかは
うつらさらまし虚笠よくものをいる
我なかこゝろにねん〳〵のほしきまゝに
きたりうかふもこゝろといふものゝなき
にやあらんこゝろにぬしあらましかは
むねのうちにそこはくのことはいほ
きたらさらまし
舟波にいつもといふところありおほ社を
うつしてめてたくつくれりしたの
なにかしとかやしる所なれは秋のころ
聖海上人そのほかも人あまたさそひて
いは給へ出雲おかみにかいもちいめは
せんとてくしもていきたるにをの〳〵
おかみてゆくしく信おこしたり御前なる
獅子こまいぬそむきてうしろさまに
たちたりけれは上人いみしく感して
あなめてたやこの獅子のたちやういと
めつらしふかきゆへあらんと涙くみて
いかに殿原殊勝の事は御覧しとかめすや
無下なりといへは各あやしみてまことに
他にことなりけり都のつとにかたらんなと
いふに上人頼ゆかしかりておとなして
ものしりぬへきかほしたる神官をよひて
此御社の獅子のたてられやうさためて
ならひある事に侍らんちとねはらはやと
いはれけれは其事に供さかなきほらんへ
とものつかまつりける奇怪に候事也とて
さしよりてすへなをしていにけれは
上人の感涙いたつらになりにけり
やないはこにすゆるものはたてさま
よこさま物によるへきにや巻物なとは
たてさまにをきて木洗あはひよりかみ
ひねりをとをしてゆひつくすゝりも
たてさまにをきたる筆うろはすよしと
三條右大臣殿おほせられき勘解由小路の
家の能書の人々はかりにもたてさまに
をかるゝ事なしかならすよこさまに
すへられ侍き
請随身近友か自讃とて七ヶ条とて七ヶ条とて七ヶ条とゝめ
たる事有皆馬芸さけることなき事共返
そのためしを思ひて自讃の事七あり
一人あまたつれて花見ありきしに
最勝光院の辺にてをのこの馬をはしら
しむるを見てはゝ一度馬をはする物ならは
馬たふれて落へししはし見給へとて
立とまりたるに又馬をはすとくむる所にて
馬をひきたふして乗る人泥土洗中に
ころひ入そ洗こと葉のあやまらさる
ことを人みな感す
一当代いまた坊におはしましくころ
万里小説殿御所なもしに堀川大納言殿
程修し給し御さうしへようありて
まいりたりしに論語の四五六の巻を
くりひろけ終ひてたくいま御所にて
むらさきのあけうはふことをにくむと
いふ文を御覧せられたき事ありて
御本を御覧すれ共御覧し出されぬ也
歌よくひきみよと仰ことにてもとむる
なりと仰らるゝに九の巻のそこ〳〵の
程に侍と申たりしかはあなうれしとては
もてまいらせ給きかほとの事は児ともく
つねの事なれとむかしの人はいさゝかの
一事をもいみして自讃したるなり
後鳥羽院の御哥に袖と袂と一首の
うちにあしかりなんやと定家卿に
たへねおほせられたるに
秋の秋の野のたもとかはなすゝき
ほにいてゝまねく袖と見ゆらんと侍れは
何事かさふらふへきと申されたる事も
時にあたりて本哥を覚悟す道の冥加也
高里なりなとこと〳〵しくしるしをかれ
侍るなり九条相国伊通公の歓状にも
ことなる事なき題目をもかきのせて
自讃せられたり
一常在光院洗つき鐘の銘は在兼仏先
草なり行房朝臣清書していかたに
うつさせんとせしに奉行の入道
かの草をとりいてゝみせ侍しに
花す花に夕ををくれは声百里に
きこゆといふ句あり陽唐顔とみゆるに
百里あやまりかと申たりしをよくそ
みせたてまへりけるをのれか高名也とて
筆者のもとへいひやりたるにあやまり
侍けり数行となをさるへしと返事
侍りき数行もいかなるへきにかもし
数歩の心かおほつかなし
数行なをふしん数は四五なり
鐘四五歩不幾なりたゝとをくきこ
ゆるこゝろなり
一人あまたともなひて三塔巡礼の事
侍しに横川の常行堂のうち龍海院と
かけるふるき額あり佐理行成のあひた
こたかひ有ていまた決せすと申つたへ
たりと堂僧こと〳〵して申侍しを行成
ならはうらかき有へし佐理ならはうら
かき有へからすといひたりしにうらは
塵つもり虫の巣にていふせけなるを
よくはきのこひてをの〳〵見侍しに
行成位署名字年号さたかにみえ侍しかは
人みな興に入
一那蘭陀寺にて道眼ひしり談成せしに
いひと云事をわすれてこれやおほへ
給といひしを所化みなおほえさにしに
つほねの内よりこれ〳〵にやといひひ出し
たれはいみしく感し侍き
一賢助僧正にともなひて加持香水を
み侍しにいまたはてぬほとに僧正
かへりて侍しに陣の外まて僧見えす
法師ともをかへしてもとめさするに
おなしさまなる文衆おほくてえもとめ
あはすといひていとひさしくて
いてたりしをあなわひしそれもとめて
おはせよといはれしにかへり入て
やかてくしていてぬ
一二月十五日月あかき夜うちふけて
千本院寺にまうてゝたしろより入て
ひとりかほふかくかくして聴聞し
侍しに優なる女洗すかた匂ひ人より
殊なるかわけ入てひさにゐかくれは
にほひなともうつるはかりなれはひん
あしと思てすりのきたるに猶ゐよりて
おなしさまなれはたちぬそのゝちある
御所さまのふるき女房のそゝろこと
いはれしついてにむけに色なき人に
おはしけりとみおとしたてまつる
ことなんありしなさけなしとうらみ
たてまつる人なんあるとのたまひ出し
たるにさらにこそこゝろえ侍らねと
申てやみぬこの事後にきゝ侍しは
かのちやうもんの夜御つほねの内より
人の御覧ししりてさふらふ女房を
つくりたてくいたし給てひんとくは
こと葉なとかけん物そ其有様まいりて
申せ興あらんとてはかり給けるとそ
八月十五日九月十三日は婁宿なり此宿
清明なる故に月をもてあそふに良夜とす
しのふのうらのあまのみるめも所せく
くらふ先山ももる人しけからんにわり
なくかよはん心の色うそ浅からずあはれともふ
にし〳〵の忘れかたき事もおほからめおや
はらからゆるしてひたふるにむかへすへ
たらんいとまはゆかりぬへし世にあり
ほふる女濃にけなき老法師あやしの
あつま人なりともにきはくしきにつきて
さそふ水あらはなといふをなか人いつかたも
心にくきさまにいひなしてしられす
しらぬ人をむかへもてきたらんあいなてよ
何事をかうちいつることの葉にせん
年月のつらさをもわけこし葉山のなども
あひかたらはんこそつきせぬことの葉
にてもあらめすへて奉所の人のとり
まかなひたらんかたく心つきなきこと
おほかるへしよき女ならんにつけても
しなくたりみにくゝとしもたけなん
男はかくあやしき身のためにあたら身を
いたつらになさんやはと人もころをとり
せられわか身はむかひゐたらんもかけ
はつかしくおほえなんいとこそあい
なからめむめのはなかうはしき夜洗
おほろ月にたくすみみかきかはらの露
わけいてん在明のそらもわか身さまに
しのはるへてもなからん人はたゝいろ
このまさもんにはしかし
もち月のまとかなる事はしはらくも
泣せすやかてかけぬこゝろとゝめぬ人は
一夜の中にさまてかはるさまもみえぬにや
あらん病のおもるも住するひまなくして
死期すてにちかしされともいまた病
急ならす死におもむかさるほとは常任
平生の念にならひて生の中におほくの
ことを成してのちしつかに丸を修せんと
おもふ程に病をうけて死門にのそむ時
所願一事も成せすいふかひなくて
とし月の懈怠を悔てこのたひもしたち
なをりて命をまたくせは夜を日に継て
此事かの事をこたらす成してんと
願をおこすらめとやかておもりぬれは
われにもあらすとりみたしてはてぬ
此たくひのみこそあらめ此事まつ
人々いうき心にをくへし所願を成して後
いとまありて道にむかはんとせはに願つく
へからす如幻の生の中に何事をかなさん
すへて所願皆妄相なり所願心にきたらは
妄心迷乱すと知て一事をもなすへからす
直に万事を放下して道にむかふ時さはり
なく所作なくて心身なかくしつかなり
すこしなへに違ひにつかはるく事は
ひとへに苦楽のたりなり楽といふは
このみそする事なりこれをもとむる事
やむ時なし楽欲するところ一には名なり
名に二種あり行跡と才芸とのほまれ也
二には色欲三には味なりよろつのねかひ
この三にはしかすこれ顛倒の想より
おこりてそこはくのあつらひありもとめ
さらんにはしかし
八になりし年父に問ていはく仏は
いかなる物にか供らんといふ父かいはく
仏には人流なりたるなりと又問人は
何として仏には成候哉覧と父又仏の
をしへによりてなるなりとこたふ又とふ
をしへ候ける仏をはなにかをしへ候けると
又答それも又さきの仏のをしへによりて
成給なりと又問其をしへはしめ候ける
第一の仏はいかなる仏にか修けるといふ時
父空よりやふりけん土よりやあきけんと
いひてあらふとひつめられてはこたへす
なり侍つと諸人にかたりて興しき
さにひんもお
を見けて女かの物せとさけてさは一日
正月六一
こうしていることいふ
此風いたに大阪にて入て御用ひて御用ひ
おはしとも心をもむきひて
一人
としふいましてけるきまきは
ヱ
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
同断
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
つれ〳〵草
慶長いれ〳〵草二
一慶長板つれ〳〵草二