母子草 巻之上
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- パブリックドメイン
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- 児島, 頤斎, コジマ, イサイ
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- 医学
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- 松本屋平四郎
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- ハハコグサ
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- 九州大学
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- 産科母子草
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- 2026-08-28T18:53:25.651810+00:00
一、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、〇〇
母子草
母子草上
尚善児島先生著
一書
くさ
女子草
懐妊
世の戒めと。臨産の心得。并に生児を育ること。
又産後の養生し
王とを記せる書なり。人々常に能よみて。妊める
時がたく此書のと
旨を専らせなば。母子ともに全くして。百年の
寿域にのぼるべし。又志ある人この書を読なば。医を知の便ともならんが。
誠に世に益ある書なり平安書肆林好清謹識
193
浅草上言町
富沢
序
生産一事原是造化自然其有艱険
因閏圃之不慎也唐大中初白敏中
守成都其家有因免乳死者訪問名
医或以咎殷対敏中迎之殷作書以
献従此其後保産専書無慮数十部
先哲立論垂法可謂詳且尽矣奈何
尚善児島先生著
産
科
くさ
母子草
一この書は。懐妊の戒めと。臨産の心得。并に生児を育ること。
一又産後の養生とを記せる書なり。人々常に能よみて。妊める
一時。かたく此書の旨を専らせなば。母子ともに全くして。百年の
寿域にのぼるべし。又志ある人この書を読なば。医を知の便ともならんが。
誠に世に益ある書なり平安書肆林好清謹識
高橋上倉町
一百七文
196423
序
生産一事原是造化自然其有艱険
因閏圃之不慎也唐大中初白敏中
守成都其家有因免乳死者訪問名
医或以咎殷対敏中迎之殷作書以
献従此其後保産専書無慮数十部
先哲立論垂法可謂詳且尽矣奈何
世人多不好読書医士亦不能悉
誡諭故昧乎妊毓之理乖乎時養
之方動輙為倒為横詰々或夜叫烏
霹孰不矜痛哉播磨児嶋尚善常憫
之纂晋諸賢之精要而綴以国字釐
為三巻胎教産前催生護児産後衆
疾賊備無遺雖村媼里婦易読而暁
若其人家常学習是書於倉猝之秋
無所憂畏毎生如達必有説々之歓
也浪華木世粛千里緘書為之徴予
言予大嘉其救俗之婆心与産実之
行於世也遂不辞而序于其端以旌
尚善賛化之功云
寛政十一年歳在已未暮春之初
東都侍医丹波元簡誤
同五十一日
浪速森世黄書
四躍
五番
病危ふして後。薬して奇効をとるは。至れるの術
にあらす。たゝはしめよりやましめさるやうに孝る
こそ。まことの良医なるへけれとは。古き文ともにも
みえたるを。今の世はたゝ己か衣食の資をのみ
貪り求る心より。猛きくすり異なるてたてなと。
目驚すことのみを競ひ行ひて。おのれもこれを
まされりとし。人もまたよしとし誉るより。かの
やましめさるやうにとの教は。湮れ没みて語り伝ふ
る人も稀〳〵なるを。播磨の国なる児島のぬし。
ふかく歎きて。産婦の患ひを預め救ふへき。
母子草てふ。かな文をあらはせり。これは他の病ふ
よりも。産は一しほに常の慎みあるへけれは。先此
かへよりはしめしなるへし。けにや女は慮浅く
惑ひ深きものなれは。つねの慎みおこたりかち
にて。産に臨みて後に。はしめて驚き怖れて。
みたりに治療を求るより。測らさるわさはひにも
及ふそかし。まいて富る家貴たゝはゝ。道心得たるく
すしも剛親みかたければ。つはらに諸教ゆへきよす
かなし。かゝる時そ此文すゝめて。みつから目にも触
たまひ。心の守にし給んやうにせんこと。憚りも一
有へからす。また傍なる人よりも。折〳〵はよみ聞え
まいらせは。おのつから其慎みも医の法にかなひて。
産難の患を免れ給ふへし。されは目驚す
しるしはあるましけれと。貴き賤き。なへて産に
臨む人々の。利益を得んことは深かりぬへし
と。おもふものから。此文のひろく世に行れんこ
とを希ひて。拙き一言をはし書す。一
いたい
寛政九年丁巳の夏伊勢橘春暉
過しころはらみし女のやしなひの道をとふ
人あり。われわかゝりし時。賀川翁にきゝしことのかたは
しなと。のへ侍りしか。退きておもふに。このやしなひの
よろしきと。よろしからぬによりて。生れいつる子の。つよ
きもよはきも。その玉の緒のなかきも。なかゝらさるも
すてにさたまりぬといはんもむへなり。まいて母のやむ
もやまさるも。これにかゝれは。ふかくおそれつゝしみて
ゆるかせにすへからす。因てはらみしうちのやしなひ
を。くた〳〵しくさとし侍る。はた屋の下にやをつく
るに似たれとも。赤子をまもりそたつることゝ。産
母のつゝしみやしなひをも。まめやかに告まほしくて。
遠くはふるき書のおもむきをかうかへ。近くはわかつね〳〵
こゝろ見し事ともをしるしぬ。なにはのうらのよしあしは
しらねし。男もししらぬ女。あるはわかことき田舎人のためには
ひとつのたすけともなりなんやとおもふのみ
寛政八年ひのへたつむつきもちの日
播磨加西郡の民児島恭尚善筆をとる
母子草
目録
上
○懐妊之惣論
○懐妊中之心得
□
夫婦のまりをいむ事六丁を
二
みだりに臥し久しく坐するをいむ事九丁を
三
二寝る時つとめて脚をかゞむるをいむ事九丁を
一怒るをいむ事十丁を
四
五
一みたりに腹を按をいむ事十丁を
一みたりに腹を按をいむ事
腹帯をしむるをいむ事十一丁を
□□□
腹帯の説
妊婦薬を用ゆる事十六丁う
九
一みだりに鍼灸するをいむ事十六丁う
八
七月かさなりては浴するをいむ事十五丁う
七
悪阻の事十八丁を
一産月ちかづきては腹のいたみある事十九丁を
一懐妊諸病の事十九丁う
十一
一食いみの事廿一丁を并に
見るもの聞ものみな。戒あるべき事廿一丁う
土
産婆并に侍婢をゑらぶ事廿二丁を
中
○出産の時の心得
□
一産所をしつらふ事一丁を
一傍なる人心得の事二丁を
二
一産する時産婦心得の事四丁う
三
四
一胞衣下らざる内心得の事六丁を
出産の時食をすゝむる事十一丁を并に
七
一出産の時用ゆべき薬の事九丁を
□□□□
一産して後心得の事七丁を
〔み〕
産後食する心得の事十一丁う
○生児を護り育る心得の
二
一生児をとりあぐる事十三丁を
一臍の帯をたつ事十四丁を
二
一胞衣を蔵る事十六丁を
□□
四四
一産湯をなす事十七丁を
生児にはじめて衣を着る事十九丁を并に
十一
生児にはじめて薬を用ゆる事十八斤を
五
生児をそだつる事廿丁う
七生児に初て乳をのましむる事廿一丁を并に
七
一平生乳をのましむる心得の事廿三丁う
胎髪をそる事廿四丁う
□□
生児の口中に気をつくべき事廿六丁を
九
下
○産後養生之心得
一血暈の事四丁を
E
産後はやく浴するをいむ事一丁を
□
一寒戦の事亭今
三
㊄
崩漏の事九丁を
〔四
腹痛む事八丁を
〔六〕
浮腫の事十一丁を
前陰疵つき痛む事十三丁を
七
一肛門脱る事十四丁を
八
蓐風の事十四丁う
ノム〕
一蓐労の事十五丁う
十
一産後雑症の事十七丁を
十一
一産後はやく交合するをいむ事十八丁う
十二
以上
一この書はもと識者の目にふるべきものにあらず。只お
とこ文字にうとく。又世のならはせに迷へる人をさ
とすべく。言葉の鄙きをいとはず。産育のことを
かさあつめ侍りて。母子草とは名つけぬ。もし予
に與する人ありて。この書のむねを講て。女にきか。
せい〳〵いちじよ
しめ給はゞ。生々の一助ともなりなんか
一産する時の備は急なることゆへ。あはてさはぎて。誤り
やすゝきもの也。因てくはしくその趣意をしめす。また
一生児を護り育るも。ゆるかせにすべきことにあらねば。合
せてこれを記しぬ。たとへば千歳をたもつべき樹も。二
葉なる萌芽の時を養ふが肝要なるがごとく
一医治の活法は。短き筆にはつくしかたきゆへ。常に
一こゝろみし手近なる薬。十の一二をしるす。これ寒郷
一僻壌の医師にとぼしきところ。又は火急の心得と
もならんものか。この書すべて薬を委くのせさるは。これ
病で薬をもとめんよりは。いましめを平生にまもらんには。
しかずとおもへばなり
一この書難産の治術はのせ侍らず。たゞ懐妊のいまし
めと。臨産の心得と。産後の保養とのみしるしぬ。これ
一本をよく慎みなば。治術をたのむ末の患はなかるべし。
願くはこの筆の跡をふみ給はじ。安産のたよりともなら
んかしとぞ。
一この書。はじめ安産道志類邉と名づけて。天明の
初年、すでに世に広めしに。年へざるに。旧板こ
一と〴〵焼失ぬ。この比母子草と改め。再び梓に
ちりばむ。名異に意同きをもて。見る人の疑ひも
あらんかとこゝにいふ。
一しゆ
母子草上
○懐妊之総論
兒島恭尚善編
それ女の子をはらむは。天地自然の常なれば。あめつ
ち開けはじまりしより定りたること也。易経。天地網。
縊萬物化醇男女構精。万物化生すると見えたり。
これ人に男女あるは。天に陰陽あるがごとし。天は上にあ
りて男のくらゐ也。地は下にありて女のかたち也。天はほどこ
し。地は生ずるの理なれば。夫婦和合して子を生ずる
と同義也。すべて生あるもの。生々自然の理にかなはざ
るはなし。ちかくその理をいはんに。草木に花のひらくも。
初てつぼみを結より。日にまし夜にふとりて。それ〳〵
にその形をなす。またその核をうえて芽を生ずるも。
たとへ。石田嗜地といへども。自然にもえいづるものなり。
また野山にすめる狐狸鹿猿。人家になれし牛馬
犬猫にてもしるべし。みな外よりたすくることなく。いと
安々と産する也。諸鳥もまた同じ。しかるに人は万物の
霊長にして。いけるものゝ中にて。いと尊きものなるに。
かへりて自然の理にそむきて。身持不養生に。はらめる
月より。うまるゝ日にいたるまで。起居つねのごとくならず
心のうちゆたかならずして。難産のうれひをまねき。鳥獣
にもおとれるは。はづべき事ならずや。世の人よくこの理
をわきまへて。安産をとぐるこそ専要なるべけれ。
○詩経。誕。弥二厥月一。先生如レ達。不レ埒不レ副。無レ菌。
興レ害といへり。是詩の意は。子をはらみて十月になれ
ば。その生るゝ事。羊の子の産るゝが如くやすくして。母
をそこなひ。いたむる事なしと也。されば出産はもと自
然至妙のことわりなれば。きはめてやすき筈也今の世にて
も僻地の婦は。多くはものごと無為なれば。をのづから思慮の
なやみもなく。その日のいことなみに心のいとまなけれは。身
の重きもわすれ。起居も常とかはらずして。気血のめぐり
よろしきゆへ。出産もいと安し。わが播磨なる塩たく浦
のしづの女は。はらみて月のかさなりても。何いとふことなく。
夏の日のあつき。冬の日のこほれるをもおそれずして。男
とおなじさまにて。塩ませといふものを持て。塩土をかき
ならし。かひ〴〵しくそのわざをつとむれども。出産も
やすく。しかもその子よはからずと。其あたりなる。つねに
親く見る人のものがたり也。又賀川ぬし鴨川のほとりを
とほられしに柴をいたゞける婦人年の頃ほひ三十ばか
りにして。すこやかなりしが。はや産月ほどに見えて。かし
この藪かげにゆきて。柴をおろし暫して安産せり。伴ふ
女一人は傍にて介抱せしが。二人はもとのごとく柴をい
たゞき。その場をさりしとなん。これらの二事は。みな
珍かなることにおもへども。左にはあらず。かけまくもかし
こけれど。むかし神功皇后は。御懐妊の御時。新羅百
済鳥麗を征したまふに。青海原の遠きをもいとひた
まはず。御凱陣ありて。筑前の国糟屋郡蚊田といふ
ところにて。皇子御誕生あらせ給ひし御例あれば。
人みな仰ぎかゞみて。産月のちかしといふとも。恐れ気つ
かふことなかれ。かならず難きことにはあらじと心得べし。
○近世難産するものゝ多きは。懐妊のうち不養生なる
ゆへなり。第一富る家はその害ことに多し。平生めしつかふ
人もおほければ。身をうごかすことまれに。朝夕の膳にも。厚
味のものをすゝむるゆへ。脾胃の気をのづから滞りて。胎のめ
ぐりあしゝ。もとより気分のまぎるゝ手わざなければ。
思はでもすむべきことを心にかけ。あるひはものねたみふかく。
あるひは産の時は。いかゞあらんと。心のあんじたえざるゆ
へ。おぼえず気むすぼれ。血めくらずして。諸のなやみを生ず
るもの也。又あまり大切になしすぎ。あらき風にもあてざれ
ば屏風紙帳をひきまはし。却て欝滞をまねくもの
あり。又病なきにも。胎をやすんずるためとて。つねに薬を
服し。種々のうれひを引いだすものあり。産するにのぞ
んでは。侍婢穏婆。その外かしこぶる人おほくあつまり居
て。子を産は女の大事なれば。青竹をにぎりひしぐば
かりといひ。又あの世この世のさかひを見るといへば。妊婦
はいよ〳〵心ほそくして。おそれうれうれうれふるも唐の
寿といふ人ふかくこの事を嘆て。われ産死するもの
を見るに。おほくは富貴の家也。出産の催しありて。腹の
いたみを覚ゆると。かのあつまり居る婦女のともがら。た
がひに告つ報へつ。かたはら殊にさはがしくして。産婦を
おそれおどろかしめ。痛いよ〳〵強きを見ては。はや時のい
たるかと。髪をくゝるものあり。あるひは腹を出すものあり。あ
るひは水を面にそゝぐものありて。この方よりしゐて努
力せ。やうやく児うまれ出れば。母いよ〳〵疲れて。たちまち
暈絶をいたす。さらに他によるにあらすと。外台秘要
にしるせり。
○懐妊中之心得
一夫婦の交りをいむ事
経水たえて妊りとおぼへば。かたく夫婦の交りをいまし
むべし。保産心法といふ書に。胎をまもるの心得は。色慾
をたつをもて第一義とす。色慾をたてば。心をのつから静
に。胎内もゆたかにして。児の産るゝ事やすく。又産れて
もそたちやすく。かつ病すくなくして寿しといへり。され
ば牛馬のたぐひの交るを見るべし。みなその節ありて
牝はらみてのちは。牡なるものその身にちかづきよれば。
堅くにくみ蹴てこれを遠ざく。よりて交りてはかならず
妊み。妊みてはかならず育つ。これ交るの節あるゆへなり。人
としてそのわきまへなく。獣にもおとれるは。あさましき
事ならずや。婦人この理をしらずとも。男子たるもの
是をしらざるは。愚なるのいたり也。広嗣紀要といふ書
に。いま人家子をもとむるの心は切なれども。胎をまもる
のはかりことははなはだ疎といへり。世の人よく心得て。夫婦た
がひにいましめて。おそれつゝしむべし。
○交りをつゝしむは。まづ夫と寝所をへだてゝ。ちかつき寝
ることなきやうにすべし。聖のをしえにも。月辰におよびて
は。夫いでゝ別の室に居て。蝉のかたへの消息も。人をもて
すると礼記に見えたり。これ月かさなりては。寝所をへ
だつるのみならず。室をも別になして。堅く閨事の情
を制せよと也。又非時におゐて不応行をおこなへば。胎を
そこなひ児をそこなふと。釈氏の書にも見えたり。しかる
に夫婦の交りは。もと嗣をもとむるためなるをさとら
ずして。たゞたはむれたのしむ事になん思ひて。妊み
ても色慾をほしゐまゝになす人あり。たとへ難産のう
れひはまぬかるとも。産るゝ子短命なるか。多病なるか。廃
人なるか。癡なるか。あるひは母蓐労をやむか。その他産後
もろ〳〵の大病を生ず。これ等の例世にすくなからず。
能々心得べき事也。
○夫はよく心得て。ちかづき寝ること。なからんとおもへど
も。妻のねたみふかきは。夫もしや外こゝろ出来て。われ
を疎ずるゆへやと。面にあらはれ心みだれて。いとあさま
しきさまをなすものあり。女ふかくはづべき事也。たと
ひ夫の妾ありて。それにこゝろをかよはすとも。露うらむ
る心なくして。たゝ己が身の養生を肝要とすべし。
○妊婦はまで神仏のたすけをたのまんよりは。身の養生
を大切と心得て。戒慎の二字をかきて。居間の柱にはり。そ
れを札守と思ひて朝夕拝し。神に誓ひて。忘れざるやう
にすべし。かならず安産する也。ある人のうたに。
ひつじ
一羊てふけものゝごとに生いでん
みとのわかれの道ししりなは
みとゝは夫婦のこと也。妊婦つねにこの哥をとなへて。戒の
たねとすべし。
○再三子を産ぬれども。その子そだゝざるものあり。後
また妊める時。はじめて予が教にしたがひ。かたく。戒をま
もりて。産後母子まつたく。しかも児体つよくして。成長
せしものあまたあり。指を折に。二十年にたらざるに。凡
五十人にあまれり。返す〴〵も産し子の病なく。又その
身も産後悩みなからん事を思はゞ。上に説ところを
かたく守るべし。
みだりに臥し久しく坐するをいむ事
人の身の気血のめぐることは。水のながれて止ざるがごとし。懐
妊はなをさら気血とゞこほりやすきもの也。されば妊める
子もまた母の気血にしたがふ。しかるをわが侭にもちなし
て。ひたすら身を横になし。近きにも歩行ことを好ま
ず。手にかなひぬる手業をもなさずして。身をうごかす
ことなければ。胎気も共にめぐらずして。難産のもとゐと
なる也。流水はくちずといふ諺をよく思ひ合すべし。
〔三〕寝る時脚をかゞむべからざる事
近世のならはせにて妊ては寝る時つとめて脚を屈む。
しかせざれば子の居ずまひ悪くなりて。難産するとい
ふ。これたえてなき事にて愚夫愚婦の説也。人は起と
きは脚をたて。行ときは脚をすゝめ。坐するときは脚を
かゞめ。寝るときは脚をのぶる。其のぶるもかゞむるも。みな自
然の理也。されば子を妊も自然の理なれば。起も居も。行
も寝も。たゞ平生の様にて宜し。しかるを寝る時つとめて
脚をかゞむれば。気血のめぐり滞りて。難産のうれひを招
くなり。余が教にしたがふ妊婦は。寝るとき脚をのべたくば
のべさせ。かゞめたくばかゞめさすれども。外のつゝしみよきは。難
産せしものなし。
四怒るをいむ事
妊婦つねにいかることなく。たゞ心をゆたかにするをよしとす。
もし短慮にして。いかることを慎まざれば。気のぼり血うごき
て。胎のやしなひ疎く。多くはもろ〳〵の悩をなす也。もと
よりいかること多ければ。はらめる子もその気をうけて。産
れてのち年たくるに至り。短慮にして病おほからん。
込みだりに腹を按をいむ事
前にいへるへ。懐妊は自然の理にして。十月のあいだ
子のやどるには。子宮といふてそなはりたる場所あ
り。もとより気血のやしなひあれば。日ををひ月を
かさねて。をのづから成長する也。中々うごきかたよる
べきものにあらず。たゞ閨事のいましめと。思慮を
すくなくすると。飲食のつゝしみさへよければ。他の
たすけをまたずして。安穏なるものと心得べし。
もしみだりに腹を按ば。却て胎気をそこなふ。されど
病のためになやみて。胎気やすからざるには。按腹の
法あり。但これは功者をえらふべし。かならす未熟のとも
からにゆだぬべからす。
腹帯をしむるをいむ事并に腹帯の説
腹帯は胎をまもるためになせるものにあらず。懐妊の
いはひごとと心得。ゆるく纏てよろし。されば十月のあいだ。
母も子もそなはりたる自然のやしなひあれば。帯のたすけ
をまたずして安産するもの也。かならず世のならはせに
迷ひて。きびしく帯をしむべからず。たとへていはゞ。瓠の
日にふとるをば。縄にてくゝるがごとし。上をしむれば下
ふとり。下をしむれば上ふとり。上下ともにしむれば。終
には去る事なくしてくち落べし。子の胎内に在も。瓠の
◑和田
第九一
蔓につけるがごとし。瓠は天の雨露を得。子は母の気血を得
て。去るこそ自然のつねなれ。もし私の智恵才覚にて。是
をくゝりて。その太るを悪むは。これ自然を害するにあらず
や。ある人の妻妊て七月なりしが。朝夕のいとなみせはし
くして。起居つねよりもかろけれども。あまり体を労する
ゆへ。心つかれてやうやく腹のおもきを覚え。これは帯のゆるき
ゆへならんと。みづから帯をしむれば。その心地くるしきゆへ。如
何せんと産婆をよびて見せしに。是はやく帯をしめず
して。子のふとるゆへなりと。又つよくしめぬれば。たちまち
腹いたみ目まひしぬ。予これを診するに。他のなやみなきゆ
へ。帯をゆるめ腹をなで。しづかにして寝しめしに。日あらず
して愈ぬ。はじめ診せしとき。帯をしむるの害なこと
を。ねんごろに喩せしかども。なをうたがふて在しか。その快
きにおよびて。始てわが言の虚語ならざることを信せり。こ
れなべて世間のならはせゆへ。帯の害には心のつかぬもの也。
○正保の頃にや。あるやんごとなき御かた。御懐妊ましませ
しが。つねに御つゝしみ深くして。聖の書などよみて。御
こゝろを正くし。寝食起居をほしゐまゝにしたまはず。
御著帯の式礼ありても。まことは腹帯を捨給ふ。侍女い
さめて。腹帯し給はずんば。御身の為あしかりなんといへば。
いやとよ唐土の書には。いまだ暖帯の事あるをきかず
元より鳥獣は。腹帯せざれども。却て産すること安
し。いかでか帯すべき理あらん。ましてわが腹なる御子は。
双なかさ武将の御種なれば。腹帯をもて苦め奉るこ
とをせんやと。肯て聞入たまはず。されど御なやみもな
く。しかも才徳すぐれさせ給ふ、若君御誕生ありしと
なん。難有も世の人よく〳〵鑑たてまつるべし。
腹帯の説
諺にひとつの犬かたちに吠れば。おほくの犬こゑに吠る
といふは。これ万のこと。始は実を見てその通をなせども。後に
は何のゆへなることをさとらずして。終にはあやまりをつた
ふるをいふ。されば懐妊の婦人五月のころより帯すると
て。やはらかなる木綿布。あるひは絹をもて腹をまき。
帯のいはひといふて。親族うちより祝する事あり。是いつ
の代よりはじまりたることゝはしらねども。いひつたへて。神功皇
后三韓を征し給ふ時。御妊娠にて。御鎧のひきあはせあ
はざるゆへ。帯をなさせ給ひ。終にかの国をしたがへ。御凱陣の後。
皇子御誕生あらせ給ふ。応神天皇これ也。その後はいは
た帯ととなへて。吉例となれりとなん。今の世やん事な
き御方々より。賤の女にいたるまで。これをせざるはなし。
しかるに誰がいひはじめけん。妊婦の腹に帯するは。
妊る子の太らざるためのそなへ也。又帯せざれば。その
居ずまゐあしくなる。よりて強く帯をしめて。胎を
まもるといふ。これ声に吠るとこそいふべけれ。よくこ
の理を会得して。妊婦をそこなはざるやうにすべし
唐土の書には。むかしより腹帯あるをきかず。奚嚢便
方。産家達生篇。保産心法等の書に。似たるものをの
せたれども。その製をかんがふるに。わが邦の腹帯とは異
にして。懐妊の時ばかり用ゆるもの也。わが邦のならはせに
は。腹帯するは子のふとらざるため也といひ。又産し
て後は。片時も腹帯なければ。そのまゝ死するとい
ひて。昼夜帯をとかず。胞衣いまだ下らざるにも。つゝ
よく帯をしむるゆへ。却て気とりのぼせ。胞衣いよ〳〵
下りかぬるものあり。又悪露帯のためにせかれて下
り尽ず。つゐには血塊となるものあり。又すこし血暈
あれば。帯のゆるきゆへ也と。其まゝ帯をしめ。いよ〳〵
おこればいよ〳〵絞て。害をそふるものあり。又暑気つ
よきときは。帯のあとに瘡を生じて。はからぬうれ
ひをのこすものあり。すべて産前産後とも。帯のたす
けを待ずして。安穏なるものと心得べし。先輩す
でに腹帯の害あるよしを唱しは。天和に幡玄春。享
保に後藤仲介。明和に賀川玄悦。みな著せる書あれ
ども。かれに委しければこれを略し。あるひは漢字に
て。すべて喩し見するに便すくなきゆへ。今またかくは。
記しぬ。
七月かさなりては浴するをいむ事
千金方。外台秘要などの書には。七月よりゆあみす
ることなかれといへり。しかるに近世の人。夜ごとに腰湯する
をこのむものあり。うまれつき強き嫉婦は。たま〳〵そ
の害をうけざれども。もし虚弱にして食すゝますあ
るひは腹くだり。あるひは身に腫あるもの。ひたすら腰湯
する時は。当座はこゝろよく覚ゆれども。あとにては寒を
うくる事おほくして。害をそふるもの也。夏の日の熱きに
も。ひたすら浴するときは。勝理ひらけて。風に感じ
やすし。いはんや冬の夜の寒気つよき時をや。
みだりに針灸するをいむ事
宿疾ありて。針あるひは灸にて。よく愈ることありとも。
堅くいむべし。もしその症ありて。針灸をなすとも。功
者なる医師の指図にしたがふべし。余あまた妊婦を
こゝろむるに。灸の害をうくるはすくなく。針にてあや
まりしは甚おほし。みだりにほどこすことなかれ。
九妊婦薬を用ゆる事并に
悪阻の事
産月ちかづきては腹のいたみある事
懐妊諸病の事
懐妊はもとより病にあらざるゆへ。悩みなければ。薬する
にはおよばず。されど高貴の人。富豪の家は。妊婦さし
て悩なきにも。たゞ胎をやすんずるため。あるひは胎ふ
とらざるためなりとて。ひたすら薬をあたふるもの
あり。これ大なる僻事也。妊婦つねに色慾をつゝし
み。又心のやしなひよければ。薬せずとも。胎内をのづから
安かるべし。もとより胎気ゆたかに盛なれば。はらめる子
力ありて。産することやすし。しかるを薬をもて胎を安
ぜんといひ。又薬をもて胎をちゞめなば。かへりて力とほし
くなり。その子も亦気よはかるべし。無益に薬を用ゆる
ことなかれ。されど時行病にそみなば。かならず療治の
おくれなきやうに急に薬を用ゆべし。薬は病をいやすも
のなれば。この病にはこの薬。かの病にはかの薬を用ゆる
ものと心得べし。もし胎を害するとて。その薬を服せず
して。病久しく癒ざれば。たとへ死はまぬかるとも。胎気
つかれて。終には堕胎する也。近世民間の説に。妊婦薬
をのめば。産後乳出ずといふ。これたえてなき事也。
必おそれあやぶむ事なく。いそぎ医師をこふて。その指
図にしたがふへし。
○悪阻は。はらみてじきに病もあれども。多くは二ヶ月
三ヶ月の比よりおはる。これ経のめぐりとぢ。胎の座どりし
て。腹のもやうかはるゆへなり。先食の気をにくみ。平生この
まざるものをこのみ。すべて菓のたぐひ。酸きものをこのみ。
嘔気ありて胸こゝろあしく。頭ふらつきて。たゞ寝た
くおもひ。惣身だゆくして。手足をうごかす事をさらひ。
はなはだしきは熱さして。食いよ〳〵すゝまず。其かたち
大病に見ゆれども。月のかさなるに随ひ。胎気しつまれ
は。多くは愈るもの也。
○年わかく体さかんなる女は。妊ても経のめぐり猶やま
ざるものあり。また体よはき女は。つねに経のめぐりす
くなく。その境もしらで妊めるものあり。これらの症は。
もし悪阻のわづらひつよければ。なにの症ともわかちがた
く。療治をあやまる事多し。みだりに薬を服すること
なかれ。また壮実なる婦人は。悪阻をやまざるもあれど。
これはまれなる事にて。十人に八人はみなやむもの也。
○産月にいたりて腹いたむ事。二三日乃至四五日もをり
〳〵いためども。他のなやみなきは僅にあらず。また七月
八月の比。にはかに腹いたみ。もはや産るゝやとおもふ事あれ
ども。をしすえて故のごとくなるあり。これまた催にあらず。
さて胎水の下るあり。くだらざるあり。ともに妨なし。たゞ心
をゆたかにして。自然の時をまつべし。その時いたれば。瓜の熱
して。蔕のおつるがごとし。かならずあはておどろくこと
なかれ。
○妊婦大便とぢ。腹中に熱をおぼえ。何となく心地あし
きは。潤腸丸六分ばかり湯にて用ゆべし。便通ぜば。ふた
たびあたふることなかれ。強て下をとるはあしゝ。産後便
秘をくるしむもの。また用ゆべし
潤腸丸家方
大黄
当帰
一右等分をの〳〵細末となし。糊にて丸すべし
◯懐妊中の病おほくあれども。その大略をしるす。にはかに
白のくだるを漏胎といふ。忽身に腫あるを子腫といひ。又
胎腫ともいふ。胎やすからずして。むねの心地あしくいたむ
を子懸といふ。小便しげくして。しぶりいたむを子淋といふ。
咳つよくしてやまざるを子嗽といふ。胸みち小便通せさ
るを子満といふ。胸のこゝちあしくして。いきれるを子煩と
いふ。胸くるしきかたちにて正気なく。手足ひかさつり。口眼つ
りゆがみ。舌すくみ。歯をくひつめ目すはり。呼吸すたくを
子癇といふ。又何とも名づけがたきかたちにて。たゞ頭おも
くして口眼ひきつり。舌すくみ。半身しびれ。手足ふるひ。
其かたち中風のごとくにして。故なくしてなきかなし
み。あるひは瘤のごとくにして。ものいふことあたはざるもの
あり。又七月八月の比。他のなやみなけれども。たゞ頭つり
て。つねに頭を片方へかたむけ。肩へひきて痛むものあり。
みな試みし治方あれども。こゝにのせず。とかく懐妊の
うち。色慾をつゝしみ。心つねにゆたかなれば。胎のやしな
ひよきゆへ。多くは右等の病も生ぜず。たとへ病のきざす
も。治りやすし。又はらみてのちの病なれば。産すれば多
くは愈るもの也。されど妊婦うまれつき虚く。その上養
生あしくして。色慾をつゝします。心つねに寛ならざ
るは。いかほど薬を用ゆるとも。その験なかるべし。
十食いみの事并に
視もの聞もの皆いましめ有へき事
妊婦つねに口なれたる物は。さまでいむべきにはあらね
ど。時ならぬ物。常ならぬ邪味の物はいむべし。章魚。烏
賊魚。鯖魚鰹魚のたぐひ。わけて油こきものいむべし。
一切辛きもの。蓼。胡椒。芥子。その他。葱。韭蒜のたぐひも
いむへし。その身に害あるのみならず。うまれたる子にまで。
種々のうれひを遺す。巣元方の説に。児胎内にあり
て。月いまだ満されば。臓腑骨節も成足せず。ゆへに
妊てより産するにおよふまですべてみな禁戒ありと
いへり。さればいにしへには胎教とて。妊める婦は。目に邪
色を見ず。耳に婬声をきかず抔の教あり。母のこゝろ
善にうつれば。腹なる子あやかりて善人となり。悪に
うつれば。あやかりて悪き人となると也。しかるに近世の
人かくあやかる理あることをしらずして。かしこの妊婦
は兔の肉をくらへども。その子欠唇にてもなし。こゝの妻
は火災を見ぬれども。うまれし子赤痣なしと。諺に
いふこれ杓子定規にて。すへて忌べきものをいまざるは誤
なり。元録の比にや。碩儒浅見なにがし。江府に居られし
が。失火にあへり。その家に飼る猫妊みて在しが。火の急ほ
れば。にぐるに度をうしなひ。火中にいりぬ。されど幸に
して命をたすかりにげ出。事しづまりて。かの猫を得たり。
惣身の毛みなやけて。赤裸となれり。のち子四ツをう
みしに。その子毛やけて。毛の末こと〴〵くぢゞめりとなん。
是をもて見れば。胎教廃べからざる也。
十一産婆并ニ侍婢をえらぶ事
産婆をえらぶは。生質しづかにして多言ならず。ものごとさ
わがしからず。気力丈夫にして。術にくはしきものをえらぶべ
し。唐土の書にも。産婆は老練のものをえらぶといへり。老練
とは。老功のものをいふ。されど年ばかり老たるものは。気力よ
はくして。万事に心おそれあやぶみて。産婦に気づかひ
なる色を見せ。身ふるふて役にたゝず。まして初産の婦
は。おどろきおそれやすきもの也。産婆もし不功者なれば。
はからぬ悩を生ず。宝暦の比。浪速に采女とやらんいふ
産婆あり。その誉たかゝりしが。ある人奥義いかゞと思ひてた
つねければ。かの産婆こたへていふやう。みだりに伝へまじきこと
なれども。きかせ申べし。先産家にいたりては。第一かたはら
を静にし。又産婦に対しては。急には産れまじ。心をし
つめ。身を自由になして眠りたまへといひ。我もしばらく
息んと。佯りそらいびきして寝て見すれば。産婦は
安堵して。そばなる人もしづまりぬ。われつねにこの術
をほどこして。おほくは安産せしむる也。外に秘すべき奥
義はあらずとなん。けに産婆はかくありたきもの也。
○傍にて介保せしむる婢。壱両人えらびをくべし。これは
も生質しづかにして。おどろきおそれず。ものごとに心
つきて。しかも常々その婦の心にあふものをよしとす。但
身不浄のものあるひは忌服あるもの。あるひは狐臭ある
ものなどは忌べし。
母子草上総
文三ノ正メアリツヽ
十九月
特別紙
つきて。しかも常々その婦の心にあふものをよしとす。但
身不浄のものあるひは忌服あるもの。あるひは狐臭ある
ものなどは忌べし。
母子草上総
文三ノ正メアリツヽ
河木