武用藝術論(題簽天狗藝術論)

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丹羽樗山
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2026-08-17T19:23:21.165Z
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2026-08-17T19:23:21.165Z
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場所: 大阪府
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丹羽樗山
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日本語
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柏原屋重兵衞
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ブヨウゲイジュツロン
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東北大学
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2025-11-13T06:51:19Z
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2026-08-28T18:53:25.651810+00:00
府上 天狗芸術論上 東都佚齊樗山述 丹州市隠田叟聞 武用藝術論 此書は怪をかり一剱術の気合武術の具儀を説けり 実に武門の標幹うり初心の人流義をゑらはすして 此書に依て心気をねらば武門の六藝速に上達すへし 浪速書林 文苑堂 一 天狗藝術論叙 一深井弥陀寺 以テ購入セル関博士 和野亭吉氏藤蔵画一 大凡ノ為二ルル劔術ノ之業。要レス令令二刀。形ヲ以二刀。形熟支體一ヲ諸 家混混シテ而設二ク表裏数品ノ之形一ヲ矣ス蓋ス蓋テ 而知二リ変化之用ヲ因二リ形體ノ之運轉一ニ隨テ變化ノ之動 静一ニ而覺二ニ彼我ノ之虚実一ヲ正二テ正二テ之思一ヲ而自ラ知二ル未リ 萌ノ之勝敗一セル所謂殺人刀活人劍全ク非下以二テ形體ヲ形體ヲ 論レタモ之ヲ心思手足能ク應スルモ變化ノ之法ニ則生殺ノ之柄 在レテ我ニ而不レ在レテ人ニ矣ク然ルニ近世以二テ刀法一ヲ鳴一ヲ鳴一ク於世ニ之 士多シ焉ニ一流分二万派一ニ雷同テ而教二ニ子弟一。或ハ或ハ或ハ説ヲ以二 高遠ノ之理一ヲ導二キ門ヲ能ク學レ之ヲ則言レ治二セモ天下国家一 或ハ教スル以二左右前後ノ之刀形ヲ而言二一人敵スル十人一ニ 或ハ練正一ルヿハ則居而所レ向所レ向必ス言レ向必ス言レ得ト全勝タ嗚呼 是皆高遠偏僻ノ之教ヲテ而非二刀剣ノ之正術一ニ習フ者 亦受授一カ師伝ノ之謬リテ而因レヲ是以教一ヲ是以教一ル謂一ル謂一ヲ謂一ノ 犬吠レハ虚、而萬犬伝レヲ実ヲ挙而不レシモ歎ヒ哉ノ是ノ故失一テ其 樞紐ヲ而或ハ苦二ミ支體ノ之業タ或勞二ス練心之術一ル者亦 不レ為レ不レ不レト少矣。粤ニ有二佚斎樓山子一ル者一。連年委一ヲ心ヲ心ヲ 於聖賢ノ之域一ニ苦二ハ思テ於武門之林ニ。然テ世ノ之習ヲ刀ノ 剣一ヲ者ニ歎下ステ失二テ其ノ本一リ而馳一セ其ノ末ニ泥ステ其理而捨二テ其ノ業ノ 悉ク違一ヲ刀剣之正理上ニ而綴テ天狗芸術論一帙ヲ以テ以テ 授二ク童蒙ニ始ハ詫二ス天狗ノ之妖言ニ而言ヒ刀法ノ之正理ヲ 終ノ談一ス兵馬諸藝ノ之至理一ヲ遂ニ歸レテ充二養スル心氣ヲ之論二 而止ス實ニ使二ス士人一ヲ知一ヲ其ノ要道二テ且夫自レ淺キ至一リ深ニ自 下至_テ高ニ者ハ則天下ノ之綱リ紀テ紀シス而此ノ書盡サ焉コ焉焉ル士 者ニ依二テ此ノ教一ニ而學レ兵ヲ習レルトハ劍ヲ則恐クハ庶二カ乎其ノ不レル差ハ矣ニ 享保十三歳次戊申臘月良辰 東並江城豊嶋郡隠士 神田白龍子叙 鎗 武用芸術論序 夫志の発る所事となり道となる 気の美つるもの業道徳全く備 時と古人もしば〳〵敷たり今此は 一芸の小妓のためにあらは寿と いへとも其本は志気を立たり士道 に志の少年はこれに就て損す る事なし童蒙の求に依て一 校してまた是に序す 寛政六年次甲寅初冬良辰 市隠田叟書画 武用芸術論 大意 人は動物なり善に動ざる時は必不善に うごく此念此に生ぜざれは彼念かしこに生ず 一種々転変して止ざる者は人の心なり五々か 一心体を悟て直に自性の天則にしたがふこ とは心術に志深く学の熟せるにあらずん はあたはざる所なり故に聖人初学の士にお いて専ら六藝を教て先其うつはものを なし此より修して大道の心法に厚ね入む三 とをほつし給ふ幼年の時より六芸に遊 一ふときは心主とする所あつて自鄙倍の 一秋気に遠きかり玩物戯遊の此心を淫 するなく放偽邪侈の此身を危ふするな し外には筋骨の東を固くして病を生 する事なく内には国家の備へと成つて 其禄を徒しくせず達して心術を證する 時は大道の助となる一芸小きなりとして 是を軽んする事なかれ亦芸を以道とする 誤りあることなかれ 武用芸術論巻一 一剱術者あり曽ておもへし〳〵古へ源義経の 牛若丸といひし時鞍馬の奥に入て当山の 僧坊と参会し剣術の奥意を極めて後 美濃の国赤坂の宿におゐて熊坂といふ 強盗に出合牛若一人にて大勢の悪盗と もを追。払ひ熊坂を討留給ふといひ伝へた り我此道に志深く修行し年ありといへ共 末その奥意を極めずして其こゝろ充ざる 所あり我もまた山中に入僧坊に逢て此 道の極則を伝へんと夜中ひとり深山のお くに入石上に座して観念し天狗をよぶ 事数声毎夜かくのごとくすれ共答家者 なし或夜山中風起つて物すさまじき折 ふし色赤く鼻高くつばさ生してけしから ぬすがたなる者幾人といふこともなく雲中に てたゝき合其こゑおびたゝしく聞ゆ暫く あつてみなおの梢に座して一人の曰理に 形なし呉によつて其用あらは家器なけれは 其理見るへからす太極の妙用は陰陽の変 化によつてあらはれ人心の天理は四端の情三 よつてあらはる剣術は勝負の事なりと いへとも其極則に及ては心体自然の妙用に あらすといふ事なし然とも初学の士にはかに 此に至ることかたし故に古人の教は形の自 然にしたがつて従横順逆のわざを尽し易 簡にして強ることなく筋骨の束ねを 一正し手足のはたらきを習はし用に当り 一変に応するのみ事に熟せざれは心剛なり といへとも其用に応することあたはす事は □□□ 気を以て修す気は心を載て形を使ふ者 なり故に気は生活して滞るごとなく剛 健にして屈せざるを要とす事の中に至 理を含んて呉の自然に叶ふ事の熱す るにしたがつて気融和し其ふくむ所の 理おのづからあらはれ心に徹してうたがひ なきときは事理一致にして気収り神 定つて応用無碍なり是いにしへの芸 一術修行の手段なり故に芸術は修錬 を要とす事熟せされは気融和せず気融 和せざれは形したがはず心と形と二ツに成 て自在をなすことあたはす 一亦一人曰刀は切家物なり鎗は突く物なり 此外何にの所作を力用ひん夫形は気に従 ひ気は心にしたがふ心動ぜざる時は気動 ずることなく心平らかにして物なき時は 気もまた和して此にしたがひ事自然に 応ず心にものあるときは気塞つて手足 其用に応ぜす事に心を住るときは気 此に滞つて融和せず心を容て強む時 は其跡虚にして弱し意を起して治す るときは火を吹き立て薪の尽るがごとし 気先だつときは燥き卜る時は凝る已 を守り待て応ぜんとすれば見合といふも のになつてみつから己を塞て一歩も 進むことあたはず却て敵のために弄ぜ この家態の中の侍待の中の嫌るなどい ふことあしく心得れば意にわたりて大了 害ありこゝを防。なかしこに応ぜんごとする 中に無手にして健なる者にあふて切 立られ清太刀になりて打出す事あたは ざる者多し此みな意にわたるゆへなりか の無手なる者は応用の所作をもしらず こゝを防ぎかしこを打むとする心もなく生 れ付たるすくやか者ゆへに何の慎るゝこ ともなく人を虫とも思はねば心を容て 強むこともなく凝こともなくしまること もなく待こともなくひかふることもなくう たがふ事もなければ動することもなく向ひ たるまゝにて思慮を用ることなく心気 ともに滞ることなし是世間に称する所 の大形の立法。者より気の位は勝れた る所あり然れども是を以て善とする にはあらず彼は大水の推来る勢の如く 一滞なしといへども暗くして血気に任せ て無心なるものなり剣術は心体自然 の応用にして往に形なく来類に諸な し形あり相あるものは自然の妙用に あらず僅に念にわたるときは気にかたち あり敵其かたちある所を打つ心頭もの なきときは気和して平かなり気和してなら かなる時は治達流行して定家形なく剛 を用ひずして自然に剛なり心は明鏡止水 のごとし意念わづかに心頭に横はる時は台 一明是がために塞がれて自在をなすことあた はず今の芸者心体不動の応用無碍自 在なる所をしらず意識の巧を用ひて末 の事に精神を費し是を以みづから得 たりと思へり故に他の芸術に通ずること あたはず芸術は多端なり曲〳〵に是を 修せば生涯を尽すとも得ること有べから ず心能く一芸に徹せば其他は習はずし てしるへき事なり 一亦一人同刀は切るものなり鎗は突物なり といふは勿論の義なり然とも見理に過て 事の用をしらざるものなり切に切。事一 あり突につく事あり事の用をしらざ るときは物に応すること偏なり心剛なり といへども形背くときは中家まじき所へあ たり事の理違へは達すべき所へ幸せず 吾子か言の如きは択て精しからず語て詳 ならずたとへは将たる人我強勢頼みて少し の遠慮なく重地に入て大敵に戦か如し 良敵は好んてこらを人にさせ不敗の地に立 て人の敗をうしなはぬものなれは大悪を迎る 一の妹といふべし応用流行潤達自在 の事を論すといへともかゝる志にては其本 をはからすして其末をひとしらすといふへし 明鏡も地金かあしけれはくもりあしいかほと刀 鎗の神妙を口に云とも石火の桟の発すへき 持満の末に発すとは射手形の志のならす 万芸万逆皆こゝにあり心体開悟したりと て禅僧に政を執しめ一方の大将として放 一を攻むに豈よく其功を立んや其心は塵 労妄想の蓄へなしといへとも其事に熟 せざるかゆへに用をなさず且弓を引て 矢を放つことは誰もしりたる事なり然 とも其道に由らす其事に熟せずみたりに 弓を引矢を発つときは能的にあたり 堅きを貫ことあたはず必其の志正くその 一形直く気悪身に充て生活し弓の性に 悖ことなく弓と我と一体に成り精神 天地に満るかごとく引て殷にみつる時神 定つて念を動ずることなく無心にして 発すはなして後猶本の我なり物に中 て後静に弓をおさむ此弓道の習ひな りかくのごとくんは遠く矢を送りよく堅 を貫く弓矢は木竹を以て作りたる物 なりといへとも我精神かれと一体なると きは弓に神ありて其妙かくのごとし是 意識の才覚を以て得所にあらず其理は かねて知べけれども心に徹し事に熟し 修錬の功を積にあらざれは其妙をうる ことあたはざる所なり内志正しからす外 一体直からざれは筋骨の束ね固からず気 惣身に充ざれは強を引てたもつ事あた はず神定り気生活することなく私意 の才覚を用ひて其道によらず力を以 弓を押弦を引ときは弓の性にさかつて 弓と我と相争つて二つになり精神 相通することなく却て弓の力を妨げ勢 を脱ゆへに遠く矢を送つてかたきを 貫ことあたはず 一白用人事もまたかくのごとし志正しから 一す行ひ直からざれは君に事へて忠なく 父母に事へて孝なく親戚朋友に信なし 一人侮り衆悪み物とならび立ことあたは 一或身体に充ざるときは内病を生じ 心乏く事に当つて惧るゝことあり屈 することあり大義を立ることあたはす 物の性に悖ふ時は人情反く物とはなれて 和せざるときは争おこる神。定らざる時は うたかひたくして事決せず念ニ動する時 は内おたやかならず事を誤ること多し 一心動せざる時は気動することなく事自 然にしたがふといふは理体の本然より説下 して其標的を示すのみ事を修すること は無用の費なりといふにはあらす理は上よ り説下し修行は下より尋ね上ること物 の常なり人心もと不善なし性に率 て情欲に牽れさる時は神困むことなく物 に接つて応用無碍なり故に大学之道 在レ明二ニ明徳ヲといひ中庸には率レ性之謂レ道 といふは其大本の上より説下して学者に其 一棟的をしめすものなり然とも凡情宴心の 惑ひ深く気質を変化して直に自性の 異明にかへることあたはず是を以て格物 致知誠意誠心の工夫を説き自反慎独 の受用を説て修行の実地を踏しむ是 一事の熟せるをまつものなり剣術もまた 然り敵に向つて生を忘れ死をわすれ敵 をわすれ我を忘れて念の動ぜす意を作 さず無心にして自然の感に任するときは 変化自在にして応用無碍なり多勢 の敵の中にあつて前後左右より切かけ突 一かけて此形は微塵になるとも気収り神さ だまつてすこしも変動するごとなく子路 の冠を正すがごとくならば豈手を空く して倒れんじ是剱術の極則なり然共 此れ足代なくして直に登らるへき道 にあらず必す事に試み気を錬り心を修 し困効の功熟するにあらずんは此に至る事 あたはじ吾子か言を以て初学を導ひかば 頑空に成て心頭無物と心得惰気に成て 和と覚る誤あるへし 一又吾子か剛健にして無手なるものといふは諸 流に破るといふ兵法に似て少く異なり 彼は無方なり破といふは気別健治達にし て敵を脚下に蹈みしき鋭気をも通ず虚 をも窺はず一途に敵の本陣を志さし て大石の落かゝることく切こむをいふ然ども 無法にして気溢るゝときは事の功者にあふて 一表裏に陥ることあり形の損得をしらざ る時はあやまちあり故に形にも習あり守 ておのれをうしなはす気こることもなく しまることもなく生死を忘れ進んでう た。かふ事なきものなり気を以破るあり 心を以やぶるありともに一ツなり心気一なら ざれは破ることあたはず此。剣術の初門初 学の入よき道筋なり但し気怯弱なる 一所あつて僅に疑惑する所あるときは此術 一行はるべからず気に修錬あり心に疑惑を 去の工夫あり然とも只一遍の気象にし て心体応用無碍自在の妙術にはあらず 此所において詳かに工夫を用ひ理明かに功 積て鋭気平らかにならは熱して本侍に 至るべし初学より無物の工夫のみなさ 一八骨を失なひ労して功なかるべし 一其中に大天狗と覚しくて鼻もさして 長からず羽翼も甚だ見れず衣冠正し く座上にありて謂て曰各の論ずる所みな 理なきにあらず古へは情篤く志し親切に して事を務ること健かにして屈すること なく怠ることなし師の伝ふる所を信し て昼夜心に工夫し事にこゝろみうたがはし きことをば友に討ね修行熟して吾と其 理を悟るゆへに内に徹すること深し 師は始め事を伝へて其含むところを御 らず自開家を待のみ是を引而不レ発と いふ吝て語らざるにはあらず此間に心を用 て修行熟せんことを欲るのみ弟子心を尽 して工夫し自得する所あれは猶往て師 に向仏其心に叶ふときは是を許すのみ師 の方より発して教ゆることなし唯芸 術のみにあらす孔子曰一隅を挙て三の 一隅を以て反ふせさる者には復せすと是古 人の教法なり故に学術芸術ともに慥 にして篤し今人情薄く志し切ならず 少壮より労を厭ひ簡を好み小利を見て 速かにならんことを欲するの所へ古法の如 教へば修行するものあるべからす今は師の方 より途を啓て初学の者にも其極刻を 説聞せ其帰著する所をしめし猶手を 執て是をひくのみかくのごとくしてすゝ 猶退屈して止者多し次第に理は高上 に成て古人を足らずとし修行は薄く 居ながし天へも上る工夫をするのみこれ また時の勢ひなり人を導く馬を御 するがごとし其邪にゆくの気を抑へて 其みづからすゝむの正気を助るのみまた 強ることなし 一事に心を住むるときは気此に滞つて融和 せす末を逐て本を忘るといふは可なり一 向に捨て修すべからずといはゝ不可なり 事は剣術の用なり其用を捨ては体の理 何によつてかあらはれんや用を修するによ つて体を悟ることあり体を悟てもの 一自在なることあり体用一源顕微間なし 理は頓に悟るべけれども事は習熟にあし ざれは気こつく形自在ならず事は理に 因て生ず形なきものは形あるものたりなり 救に気を以て事を修し心を以て気を 修するは物の序なり然とも事習熟して 気おさまり神シさだまることあり舟人の 一棹をとつて船を走ること大路をはし るがごとしかれ何レの工夫をかなさんや只水 に習熟して大水に入ても死ざることを るゆへて神定つて此自在をなす樵夫一 一の重き薪を荷つく細きそワ洛を伝ひ 瓦卿の天守に登て瓦を敷く皆其事に 習熟してうたがふことなく惧るゝことなし かるがゆへに神定つて自在をなすもの なり剣術もまたしかり此芸に習熟して 心に徹し事にこゝろみてうたがふことなく おそるゝことなき時は気活し神定つて変 化應用無碍自在なり然ども此まで水て 気の修錬にして自ら知ことなり特むこと あつてしかり故に言を以て論ずべし彼の 無心にして自然に応し往に形なく来に 明なく妙用不測なる者は師も伝る事 一巻神前巻一 あたはす弟子も習事あたはす自修の功積てわれ 良能を達し日知の徳実て我良知を明にそれは 一旦豁然として貫通し初学より労する所の 一審弁近思の勤の表裡精粗か刀鎗の説敵合 一の応用に神妙自在なり人一度して能すれは 巳十度し人百度して能すれはおのれ千度する の鉄根に家業を隊こさす君命を辱しめすと いふ大義あれは愚といへとも必明気といへとも必 強迄あれは何ほと無器用人も成就せすといふ事 なし参は魯をいか道を得るとは是なり心体の感通 思ふて得べき所にあらず聞て知べき者にあら ず師も伝ふることあらず自修の功積て 自然に得るのみ価は其道脈を伝類まで 一なり容易に論すへからす故に世に稀也 一向て日然らば我ごとき者の修しく得へ からざるの道歟 曰何ぞ得べからざしん聖人にさへ学びて至 るべし況や剣術の一小芸をや夫剣術は 大体気の修錬なり故に初学には事を 以て気を修せしむ初学より事を離れて 気を修する時は空にしてこゝろむへき所 なし気を修すること熟して心に達すべし 此間の遅速は生質の利鈍によるべし心の 妙用を知ことは易くおのれに徹して変化 自在をなすことは難し剣術は生死の際に 用家の術なり生を捨て死に趣くこと はやすく死生を以二ツにせざることはかたし 死生を以て二つにせざるものよく自在 をなすべし 向然らは禅僧の生死を超脱したる者は 剣術の自在をなすべき歟 曰修行の主意異なり彼は輪廻を厭ひ 一寂滅を期して初より心を死地に投じて生 死を脱却したる者なり故に多勢の敵の 中にあつて此形は微塵になるとも念を 動ぜざることは善くすべし生の用はなすべ からす唯死を厭はざるのみ聖人死生一貫 といふは是に異なり生は生に任せ死は死に まかせて此心を二ツにせず唯義の在所に 随て其道を尽すのみ是を以て自在を なすものなり 一向生死に心なきことは一なり然にかれは生の 用をなさず此は自在をなすものは何にけや 一日初より心を用る所異なり彼は寂減を 主として生の用に心なし唯死をよくす 家のみ故に生の用においては自在をなすこ とあたはず聖人の学は死生を以て二つに せす生にあたつては生の道を尽し死に当 つては死の道をつくす一毫も意を作し 念を動ずることなし故に生においても 自在をなし死においても自在をなす彼は 一造化を以て幼妄とし人間世を以て夢幻 泡影とす故に生の道を尽すをば生に着し て此営をなすと思へりかれ平生の行相を 一以ても見るへし父子を離れ君臣を廃し 爵禄を班ず氏備を設けず聖人の礼楽 一刑政を見ること嬰児の戯遊を見るか如く 思へり平生捨て用ひさるの剣戟何ぞ此 に心あらん只死にあたつて生を惜かす一 一切を間みな心の所変なることを知のみ 一同古来剣術者の禅僧に逢て其極行を 悟りたる者あるは何ぞや 曰禅僧の剣術の極刻を伝へたるにはあら す只心にものなきときはよく物に応ず生を 愛惜するゆへにかへつて生を用しめ三界 一輩窟のごとく一心顛動するときはこの生 をあやまることをしめすのみ彼多年この 一芸術に志し深く寝席を安んせす気 を錬り事を尽し勝負の間において心 猶いまだ聞けす憤満して年月を送 所へ禅僧に逢て生死の理を自得し万 法惟心の取変なる所を聞て心たちまち にひらけ神。さたまりたのむ所をはなれて 此自在をなすものなりこれ多年気を修 し事にこゝろ見て其うつはものをなしたる ものなり一旦にして得にはあらす禅の祖 師の一棟の下に開悟したるといふも此 に同し倉卒の事にあらず芸術未熟の 一者名僧知識に逢たりとて開悟すへき にあらず 武用芸術論巻一終 武用芸術論巻二 一切の芸術放下つかひ茶碗回しにいたる 一まて事の修錬によつて上手をなすとい へとも其奇妙をなすはみな気なり天地の 大なる日月の明らかなる四時の運行寒 暑の往来して万物の生殺をなすもの みな陰陽の変化に過きす其妙用は言 説の尽す耳にあらす万物其中にあつ て其気を以て其生を遂気は生のみ なもとなり此気かたちをはなるゝ時は 死す生死の際は此気の変化のみ生の 原をしる時は死の終る所を知る生死 の道に明かなるとき幽明鬼神通して 一ツなりかるがゆへて今日身を置ところ生 に在ても自在なり死にあつても自在なり 一仏家には再生流転の惧れありかるかゆへ に造化を以て幼妄とし意を断識を 去て不去不来の空にかへるを以成仏と す聖人之学は再生輪廻のおそれなし化 に乗して尽家に帰するのみ気を修す るときはおのつから心をしる 一生死の理はしりやすき所なれとも此生にしば みくの名残のみ足を迷心といふこの迷心妄 一動する故に神くるしんて常に大負をと ることをしらす 一問其極則においては我得て聞べからす願は くは修行の大略を聞む 曰道は見べからす聞へからず其見るへく聞 べき者は道の跡なり其跡によつて其跡な き所を悟る是を自得といふ学は自得にあら されは用をなさず剣術小芸なりといへとも心体 の妙用にして其極則に及んでは道に合す我い まだ自得にいたらずといへともひそかに聞こと あり其聞再を以しばらく汝に語らん汝七の 一聴せふ耳を以て聞ことなかれ夫心を載て形を 御すかものは気なり故に一身の用は全く気 是を掌ざる気の霊是を心といふ天理を 一具へて此気に主たるものなり心体もと形巻 色臭なし気に乗して用をなすものなり 上下に通する者は気なり僅に思ふことあれば 気にわたる心の物に触て動く是を情といふ 思惟往来する是を念といふ心感のまゝにう ごいて自性の天則に率ふときは異明始終を 一貫いて気の妄動なしたとへは舟の流れに従 ひて下るかことし動といへとも舟静かにし て動の跡なし是を動而無動といふ凡人は 一生死の迷根いまた断せす常に隠伏して壺 明乃蓋となる故に喜怒哀楽等か翁の時 は頑空にして濁水を湛へたるがことし一念 僅にうこく時はかの隠伏の者起り情欲妄動 して我か良心に迫る洪水に逆上つて舟 を棹かごとし波あしく舟動いて内安きこ となし気妄動する時は応用自在ならず 剣術は勝負の事なり初学より生死の迷 根を断を以て要とす然とも生死の迷根 にはかには断がたし故に生死の理において心 を尽し気を錬り勝負の事に試み此間に おいて工夫怠たらず殺身修行して事熟し 気おさまり其理心に徹してうたがふ事な く惑ふことなく此一路において霊明塞る 所なきときは此念此に動することなし此念 動ぜざる時は気は霊明にしたがつて活達 一流行心を載て滞ることなく否ることなく 其形を御すること無碍自在なり心の感に 随て応用の速やかなる事申を開いて直 に月のさし入がごとく物を拍て直に声の 応ずるがごとし勝負は応用の諸なり我に 一此念なけれは形に此相なし相は念の影にし て形にあらはるゝ者なり形に相なけれは向て 敵すべきものなし是を放もなく我もなしと いふ我あれは敵あり我なきが故に来る者 の善悪邪正一念の微に至るまて鑑にうつる かごとし我より是をうつすにはあらずか れ来て詣家のみ成徳の人には邪以て向ふ ことあたはざるがごとし自然の妙なり若 我より是を移さんとせば此レ念なり此念我を 塞ぐが故に気滞て応用自在ならず不測の 一妙用思はず為ずして来往神のごとくなる 者是を創術悟入の人といふ 一然とも鼻高く觜あり翅あり故に他の事に おいては異明蛮家取ありて心の応用自在 をなすことあたはざるものは始より偏へに此一路 に志して心を修し気を錬事こゝにあり其 他の事は疾痛身に切なるをも忘れ物耳目にふ るれども眼を開て見る事なし況や心を留 むや故に此には修し得て明かなれとも広く取て他 に用ることあたはず明の及所限あればなりた とへば燈を箱の内に置て一方を開くがことし 其開きたる方は照らせども其他は光およにはず 少しく他に通することある者は其傍光の影 なり故に全き事あたはず初はわづかの穴を 見付て其穴を力を用ひてほりあくれは修行 の力にて次第に穴大くなりて照す所も大也 若天地万物を以て打太刀として修行し此 箱を打破らは曲方八面明かになり心体の応 用む得自在にして富貴貧賤愚難困苦の 大敵前後左右より取巻といふとも一毫も 動念なく処を以て蠅を払ふがごとくみな 前に平伏して頭を出すものあるへからす 此に至て鼻も平らかになり翅なくとも飛 行自在をなすへし 一凡て一芸に達したる者は常に心を用家故 に道理には暁もの守り然とも志し我芸に 専らなる故に此に私して道には入がたし偶 学術を好む者ありといへとも芸術を以て主 とし道学を以て客とする故に聞所の深理 みな芸術の奴と成て広く用をなすことあ たはず況や心術を助ることあらんや芸術を 修するもの此所を自得せは日々修する所の統三 術我か心を助けて其本然の妙用を證す べし是において藝術もまた自在を得べし 然とも初より執する所の一念捨がたき者なり 学術芸術ともに只この私心をさへ去れは天下 我を動す者なくして応用無碍自在なり 私心は金銀貨財情欲偽巧の類のみにあらず 不善にあらずといへとも一念わづかに執する所 一あれば即私心なり少しく執すれは少く心体を ふさき大に執すれは大に心体をふさく芸術に 一達する者は其業の上においては私心の己を 害すること明らかにしるといへども広く心体 応用の間に試てしる事なし心術を修す る者といへども理は頓にしりやすく一念隠 微の間は洛しがたき者なり心術を修す 類ものも我なり芸術を修するものも我な り此心二りあるにあらす此ところまた熱 思すへし 一今事熟し気和し勝負の利を試みてう たがふことなく惑ふことなく神寒つて自在 故なすものおほし其妙用神の如しといへ どもいまだ特む所あることを免かれざるも のは舟人の舷を走り瓦師の天守にのほつ て瓦をしくがごとし是を兵法の上手 といふ 一問如何して今芸術を以て道学を助けん 答心は性情のみ性は心体の天理寂然不 動にして色もなく形もなし情の動く所に 因て邪あり正あり善あり悪あり情の変 化によつて其心体の妙用を見て天理人 欲の分類ゝ所をしる是を学術といふ其 是を知は何物ぞやすなはち自性の霊覚 一己に具つて欺くべからす誣べからざるの神 一明是を知といふ世間の小知才覚をいふには あらず小知の才覚は意識のあいじに出つ意 は心の知覚なり意識し本臺明に因家と いへども情の好悪にふれて発するか故に立 にもまた邪あり正あり善あり悪あり発 て好悪の情をたすけて私のたゝみをなす 是を小知といふ自性神明の知は情の好悪で 一かゝはらず純一にして其理の照らす所 私なし故に善もなく悪もなく唯明らか なるのみ意識是にしたがつて私の巧を用 ひざるときはよく情を制して執滞なく心 体の天則にしたがはしむ情心体にしたがつ て好悪の執滞なく恐惧の動念なき時は意 識神明に和して知の用をなす此に至つ て其識の訟なし是を母レ意といふもし 情欲をたすけて是がために巧をなし偽を なし種々転変してやまざる時は我が心体 一を保縛し我霊明を塞にて是を妄心と いふ凡人は情欲心の主となるが故にこの 妄心のために轉動せられて我か神を用し むることをしらず故ゆへに学術は此宴心の 惑を払しひ去り我心体の天理を認しり其 霊明を開き其天則にしたがふて小知の作 為を用ることなく物はものに任せて物のた めに役せられず事は来るに任せて求ること もなく厭ふこともなし故に終日思惟すれ共 私なきが故に心を累はすことなく終日事 に労すれども神を困むることなし命に委 一ね義に決してうたがふことなく惑ふことなし 我心の誠を立て一毫も志しを曲ること なく害を避んがために偽巧を用ひず利を ゆんとほつして小知を事とせす生は生に まかせて其道を尽し死は死にまかせて 一其帰を安んす天地変動すれども此心を うばゝるゝことなく万物掩ひ来れども此心 を焼さるゝことなく思て執滞せず為して たのむことなし心を存し気を養ひ決然 として立て屈することなくおこたることな く悠然として居て争ふことなく迫るこ となく初学より此志さしを立て応接の 間耳目にふるゝ所の者を以心を修するの うつはものとす理に大小なし剣術の極則 もまた此に過す故に其芸術において略す 家所の業を以て内に省之日用常行の 間に通して心術を證せは芸術もまた内 に徹して相助け相養ふて其益大なる へし浅きより深きに入単を踏て高き に登る是古へ芸術を以て道学を助け 此を修して彼を得の手段なりかく云 芸術も理談に落るやうにて若輩の人理をは稽へ て業をつとむるに怠りなん夫は芸ともに用に たゝす学術も孝悌忠信仁義礼智のわさ をは達して我固有のたことなるときは万事 天則に叶ふ是を至る所に至るといふ剣術動静 一坐立長短淀急の業か我固有となれは症事接物 に滞る所なくして勝負天父叶て常に必勝也 其必勝になり至る所に至る場合から早理か明に なりて富貴貪賤或武武恩難に勧揺せられそ 自由三昧にて欲する所矩をこへすといふ若年 五十以上手足のはたらき自在ならす或は病 身又は公用に暇なくして其事を務る ことあたはす武士の職なれば心を用ひざる もおのれに快からずたとひ手足は叶はず して頭べは二つになるとも此心の二つになら ざる所を修せんと思はゞ前に論する所の志 を立我心の変ぜざる所を修して生死 一貫の理開け天地万物我に碍るもの なくは床に臥ながらも公用は勿論辻番 火の廻りを勤めながらも心に移る所耳目 にふるゝ所の物を以て打太刀として心の修行 はなるべきことなり間眼あらば芸術に達し たる人にあふて其事を習ひ其理を聞て 心に證し敵に向ふときは我なるべき程の君也 たらきをなして死を快くせんのみ何の憂 家ことかあらん士たるもの唯忘しの折けぎ 一家を要とす形には老少あり強弱あり病 身あり公用しけきものありみな天のなす 所にして我か得て私する所にあらす唯志 は我にあつて天地鬼神も是を奪ふこと 一あたはずかるがゆへに形は天の為る所にまかせ て我は我こゝろさしを行ふのみ小人は天の有 所を怨みて我する所を努す天のする所は 我知力のおよばさる所なり其知刀の及ばさ る所をうれひて我と神をくるしむる也 のは愚なり 問家に多子あり年いまだ長せす剱術を修 すること如何して可ならむ 一日古へは油掃応対より六芸に遊むてのち 大学に入いて心術をあしはす孔門の諸賢 四 もみな六芸に長して道学を証する人多し 年いまだ長ぜすして事理に通達する程の 力なき者は小知を先にせず師にしたがつてさし 当り用の足所として事を努め手足のは たらきを習はし筋骨を強ふし其上にて 気を錬り心を修して其極則を窺ふへし 是終行の次序なり二ッ葉の木は柱に用ゆ べからすたゞ添木を立て曲らざる様にやしなふ 一遍したゝ幼年のはじめより志し邪に往し むへからす志邪にゆか。されは戯遊の事とい ふとも邪なきものなり心邪なき時は正を害 するものなし天地の間用をなさゞるもの少 なり邪を以て害するがゆへに其性を傷ふ て用をなさず人心もと不善なし唯有生の はじめよりつねに邪を以て養ふ故に薫習 してしらず自性を害して不善に陥る邪は 人欲是が根となる小人はたゞおのれを利する を以て心とする故に已に利あれは邪なれ ども其邪をしらず已に利あらざれは正なれ共 其正をしることなしみづから其邪正をわ きまへしらず況や其よつて分るゝ所をしらん や故に学術は人々欲の妄動を抑へ心体天理 の妙用を見て邪正の由てわかるゝ所を審かに し其宴心の邪をしりぞけ自性の本体を 一害することなぎのみ天へ上ることにもあら ず地を潜ることにもあらず邪しりぞく時は 天理ひとりあらはる邪少しくしりぞけは て理少しくあらはれ大に退けは大にあら は家みづから心に試はしるへし剣術も亦 然りもし初学より何の弁へしる事も 12673 なくむ心にして事自然に応し柔を以て 一剛を制す事は末なりといひて頑空堕 気になりて足もとのことをしらずんは 現世後生ともに取失ふへし 武用芸術論巻二終 狩川 天狗芸術論下 同 文紀抄 一番所 図書院 女子 武用芸術論巻三 一問何をか動てうごくことなく静にしてしづか なることなしといふ 一同人は動物なりうごかざることあたはず日用 人事。応用多端なりといへども此心物のため に動かされす無欲無我の心体は泰然て して自君たり剣術を以て語らは多勢の 中に取籠られ右往左往にはたらく時も 生死に決して神定りたせのために念を 動せさる是を動いて動くことなしといふ汝 馬を乗者を見ずや善くの家者は馬東西に 一馳すれとり乗者の心泰にして壮きことなく 形しづかにしてうごくことなし外より見ては馬と 人とつくり付たるがごとしたゞかれが邪気をお さへたるのみにて馬の性に悖ふことなし故に 人勤の上に跨て馬に主たりといへとも馬是 に従つて困しむことなく自得して往く 一馬は人をわすれ人は馬をわすれて精神一体に して桐はなれす是を鞍上に人なく鞍下 に馬なしともいふべし是動てうこくこと なきのかたちにあらはれて見易きもの也未熟 なるものは馬の性に悖て我もまた安かしす 常に馬と我とはなれていさかふゆへに馬のは するにしたがつて五体動き心壮しく馬も亦 疲れくるしむ或。馬書に馬のよみたる哥な りとて 打込てゆかんとすれば引とめて口にかゝり てゆかれざるなり是馬に代りて其情を知 らせたる者なり唯馬のみにあらす人を使ふ にも此心あるへし一切の事物の情に悖ふて 春秋詩巻二 小知を先にする時は我もいそがしく人も困る ものなり何をか静にしてしづかなることな しといふ喜怒哀楽未発の跡心体空々 として一物の蓄へなく至静無欲の中より 物来るにしたかつて応して其用きはまり つくることなし静にして動かさる者は心の 体也動て物に応する者は心の用なり体は しづかにして衆理を具へて台明なり用は 動いて天則に従ひて万事に応す体用は 一源なり是を動てうごくことなく静にし てしづかなることなしといふ剣術を以て語らは 刺戟を執て敵に向ふ渾然として悪むことも なく慎るゝこともなくとやせんかくやと思ふ 念もなき中より敵の来るに随て応用す 碍自在なり形はうごくといへども心は静の体を うしなはずしづかなりといへとも動の用を欠 す鏡体静にして物なく万象来我家にま かせて其形をあらはすといへとも去淋は影を 留むることなし水月のたとへに同し心体 の霊明もまたかくのことし小人はうごく時 同同神港巻二 はうごゝにひかれておのれを失なひ静なる時は 頑空になりて用に応することなし 一何をか水月といふ 曰流義によりて色々義理を付ていへとも畢 一竟無心自然の応用を水と月と相うつる 所にたとへたる者なり廣沢の池にて仙洞の 御製に うつるとも月もおもはひうつすとも水も おもはぬ廣沢の池此御影の心にて無心自 然の応用を悟るへし又一輪の明月天に かゝつて万川名一月を具ふるがごとし光を分 て水にあたふるにはあらず水なければ気なし 亦水を得てはじめて月に影あるにあらず万 川にうつる時も一水に移らざるときも月に おいて加損なし又水の大小をゑらぶことなし 是を以て心侍の妙用を悟るへし水の清濁 を以て。語るはすへなり然とも月は形色あり心 には形色なし其形色あつて見やすな者なか りて形色なきものゝ譬とす一切のたとへ 一みなしかり譬に執して心を鑿することなかし 一藝術ノ論奉ル二ヶ 一問諸流に残心といふ事あり不審何をか残心 といふ 同事にひかりことなく心体不動の所をいふのみ 心体不動なるときは応用あきしかなり日用 人事もまた然り打あげてな落の底まて打 入といふとも我はもとの我なり故に前後左右 無碍自在なり心を容て残すにはあらす心を 残すときは二念なり又心体明らかならずして心 を容ずといふばかりならば盲打盲突といふ者 也明は心体不動の所より生す只明らかにうち あきしかに突のみ是等の所かたりがたしあしく 心得れは大に害あり 一諸流に先といふことあり此また初学のために 一鋭気を助を堕気に笞の言なり実は心体 不動にしておのれをうしなはす浩気身体に 一充るときは毎も我に先あり人より先へ打つけ むと心を用るにはあらず畢竟剣術は生気を 一やしなつて死気を去を要とす態の中の待つ 待の中の態といふもみな自然の応用れり 初学のためにしばらく名を付たるのみ動て うごくことなく静にしてしづかなることなし といふの意也初学の者は気の剛柔事の応 用を以て語らざれは固べき所なし故に其所に 就て名を付教ゆるのみ然れとも名を付る時 八名に執して其大本をあやまり名を付され 一は空にして取認なし兎にも角にも其大意 を識得せざる者には語るべきやうなし一切の 事みな然り故に物の師をするもの其人に あらざれは秘して妄りに語らさるも亦宜也 其大意を識得すれば見ること聞こと直に 一分るもの也 前に論する如く一身の動静は凡て気の作 用なりしかふして心は気の臺なり気は陰陽 清濁のみ気清きものは活して其用軽し濁 るものは滞て其用重し形は気にとたがふも のなり故に剣術は気を。修するを以て要とす 気治する時は事の応用かろくして疾にご るときは事の応用重くして遅し気は剛健 一を貴ぶといへとも偏に剛を用て和なきときは 一折けて其用行はれず倚るものは其諸虚 にして用をなさず用は和を貴ふといへとも中 に剛健の主なきときは流れて弱に至る弱 と茶と異なり柔は生気を含んて用をなし 弱は一向に力なくして用をなさず休と惰と また具なり休へ生気をはなれず惰は死気 に近し卜家者は気のよる所あつて解がたき もの也念に因て卜家あり陰気みづからしま 一流あり凡気の由所あれば用に応すること速 ならざるものなり故にしまる気は事の応用 遅し古来文弐に二道なし真の儒学に返し たる人は云すとも武道は明なるものなり乍去此 道小智の才覚にてしかへき事ならす術耳 を洗て慥に聞へし志はいたり気は次といふ事あら 一凝滞する者の不及事也又浮走する者のならぬ事 なり敵か打んと思ふ心か我太刀先にひつかりと移 ると間に髪を容すふみこむか志なり生もなく死 も無く敵もなく我もなく刀もなくて天地に充て 思はすなさす志かとしく是気なり気は清て軽し 形は濁て置し故に気は勝負になり形は跡にの こる只浮走の気は先たつて消業の応用煙く 一甕佛器三 陽にして根なし軽くして濡ひなきものなり 枯葉の風に散かことし湿滞家者は濁気の みづからおもきにひかれて応用の遅きもの也 凝者は気偏に聚り固く鎖して形をなし 止まつて動かざるもの也故に其応用いよく おそし水の凍りて融和せざるがことし是 も亦念の凝気の凝あり念といふも気なりし ることあるを念といふしることなきを気といふ みなみづから試てしるべし 一剛柔変化して自在なるものは応用無碍也 唯剣術のみにあらす学術といへども気の引 柔変化自在なる所を修し得は心の妙用を あらはすべし心体の妙用は述なくして語る べからす故に剣術は気を以て修して心体の 照らす処をしる学術は心を以て修して気 の変化妙用を知然とも只理を以意識の間 に知のみにして身に修し得ることなきときは 心気の噂にして其用をなさ。事剣術者は 気を修するといへども只剣術応用の所にの み修するかゆへに心の壺覚もまた其一方 にのみ達して日用常行に及ふことなし心 気もと一体なりおのれに試て其大意を 識得せば修行未熟なりといふとも分に応 して益あるべし 一諸流ともに其極則に及んては一なり流義〳〵 一は其先覚の人の修錬して吾か入よきと思ふ 門戸より導びくのみ然とも其道すがらの 一風景を愛し此に住してみづから是とする もの多し是を以て其末々の流義多端にし て互に是非を争ふと見へたり其極則は是 一非の争ふべきことなし其中途の風景は皆 一意識の間の見のみ其大本は二ツもなく三 つもなし別るゝ時は善画あり邪正あり剛 柔あり長短あり其末々に至ては論し尽 すべからす吾か知る所人はしるまじきと思ふは 一愚なり我レに異明あれは人も亦異明あり豈 おのれ一人知あつて天下みな愚ならんや 故に隠すことはなきものなり学術といへ共 一亦然り老仏荘列巣父許由か徒も無我 無欲の心体を見ることは一なり故に一毫の 私念心頭を係縛するものなし只其見る 所の風景異なり故にわかれて異学となる のみ聖人の道は天を戴き地を履むで山河 一大地遺すことなし夫婦の愚不肖も興り しるべく能行ふへし天下仁義に服さる者 なく孝悌忠信を非る者なし天竺仏氏の 徒といへと母聖人の沢を蒙りて仁義の 中に浴せずといふことなし異学の風景のよ く及ふ所にあらす天地万物の大本上より 一見下すが故なり異学の徒もみな聖人の 一別派なり大道に背くことあたはす 一問清濁は陰陽なり何ぞ唯清を用ひて濁 を去や 曰濁も用る所あり然とも剣術は其用の速 なるを貴ふ陰陽はなくて叶はす只其清を 用て濁の重きを用ひざるのみ物を乾かす には火を用て水を用す各其用によるのみ 心の聡明痴鈍も亦気の清濁のみ気清きも 一のは自性の霊覚遮るものなり質おのつから 一聡明なり心体もと虚霊にして昧きことな 一唯濁気其霊明を掩ふがゆへに愚をなし痴 をなし鈍をなす昏くして理に通せざる是 を愚といふ滞て遅き是を鈍といふ濁気は なはた重く其渣滓にひかれ念住つて暗 中に迷妄し思ふ所を捨ることあたはずおの れにも決せす人にも従かはす常に苦んて止 す是を痴といふ凡人の生質千差万別な りといへともみな濁気の浅深厚薄のみ心は 気の霊なり此気の在ところ霊あらすと云 ことなし此気なけれは此霊なし又人の船 に乗て水を渡るか如し風烈く波あらき時は 舟風にしたかひ波にひかれて其ゆく所をしらす 一人舟中にあつて安きことなし濁気妄動 して心の静かならざる象またかくのことし風 やみ波しづかなる時は始にかへつて気ものや すきことを得たり人心の邪をなし身を危 ふするみな濁気の妄動のみ其大本は慾の 巌穴より吹出す所の大風なり慾もまた濁 気の偏なり又偏屈にして情のこはきものは 陰気の凝固て力あるなり心騒しくとり 一認なきものは陽気の根なきなり慎るゝ者 一は気の餒て体に充ざるなり心の決せざる 一者は気の弱にして定らさる也亦痴にちかし 是等はみな濁気の病なり又聡明にして篤 実なる者は陰陽和して欠闕なきものなり 知明敏にして行篤実ならざる者は清陽 の気勝て陰精の薄きなり行篤実にして 知明敏ならざる者は陰精の勝て清陽の気 薄き也陰陽の陽陽中の陰其中の過不及 一浅深厚薄千差万別論し尽すべからす類 一を推て細に察する時はみな陰陽清濁に漏る ことなし上は天地の大より下は蚤虱の微物ま でも陰陽の気充ざれば其形の用を成すこ とあたはす今こゝには其大略を語るのみ 一何を以か此気を修せん 一曰唯其濁を去のみ陰陽の気は生々変化し て天地万物の大本たり濁は陰気の渣滓な り渣滓は止つて活せず陽の助を得てうごくゆ 一に其用おもくしておそし清水に泥を加る ときは忽濁水となるか如し既に濁水とな るときは物を浄むることあたはす物に洒げは 一却てものを垢す故に学術は良知の明を以 て気の濁を去のみ濁気去ときは気生活 し心体ひとりあらは家迷心直に本心となる 此心二つあるにあらす 一陰陽もと一気なりといへともすてに分るゝと きは其用千差万別の異なるあり其用の異 なる所を見て其本の一なる所をしらざる時 は道明かならす其本の一なる所をしつて其用 の異なる所をしらされは道行はれす唯心に 試て審しかに工夫すへし言説の尽す所にあ らす今木の葉天狗とも心体に通して解せ さるゆへに有との迹を以て論するのみ 此心の気中に存する魚の水中に游泳する かことし魚は水の深きによつて自在をな す大魚は深渕にあらされは游泳すること あたはす又水涸るときは魚困しみ水尽 るときは魚死す心は気の剛健によつて 自在をなす気乏きときは心慎けこの 気つくるときは心むに帰すかるかゆへに 水うごく時冬魚おどろき気うごく時 は心おだやかならす 一勝負の事にかざらず一切の事天了す かすると運にまかするとの異なることあ り叙術は常に勝負の理を究め人事は 其当然の義理を尽していたくしの物を 用ひす為て特まび思ふて執滞することな き是を天にまかするといふ人事を尽す所 すなはち天に任するなり百姓の農業を つとむるがごとく耕し種まき芸つてその 一長すべき道を尽し洪水旱魃大風は我 か力の及ざるところ是を天に任するなり 人事をも尽さすして天に任すといふ分に ては天道請取給ふへからす只自然に来 類所を期是を運に任するといふ但し さしあたり迷ふて決断せざる者には運 に任せよといふこともあるへし 一問心体は形色声臭なし妙用は神にし て測りしるべかしひ何を以てか心を修 せん 曰心体は言を容べからす只七情のうごく 所意の知覚する所応用の際におゐて 其過所及を制し私念の妄動を去り自 性の天則にしたかはしむるのみ其手を 下す所は良知の発見による何をか良 知といふ心体の霊明是非邪正を照し て天地神明に通する者是を知といふ 凡人は濁気の妄動に掩はれて其照し全 からす罅隙よりわつかに発見する者是を 良知といふ一念頭に於て是をしり非を しり人の誠あるに感しみつから不善をなし て内に快よからさることをしるもの是なり 其情にうこいては牀暢惻隠の心生し親を 愛し子を慈し兄弟相立たしんて已べか らざるもの是を良心といふ其良知を信し て此に立たかひ其良心を養ふて私念を 以て害することなきときは濁気の妄動 おのつからしつまり天理の霊明ひとりあら はるへし私念はおのれを利すかの心より生に おのれを利すかにもつはらなる時は人に害 あるをもかへりみす終によこしまをなし悪を なし身を亡ぼすに至る心を修すると気 を修すると二事にあらす故に孟子浩然 の気をやしなふの論たゝ志を持するに あつて別に養気の工夫なし 一向仏家に意識を悪み去は何そや 曰仏法の工夫は吾しらす其識はもと知 の用なりにくむへきものにあらす只情を助 て本体をはなれみつからもつはしにすか ことをにくむのみ其識は士卒也志気は将 なり何を以て意識を士卒といふそ今三軍郊野 に戦はんに敵の物主以上の首を斬る事多けれは 我軍勝を取る其多くの首を持壱人しては取事 ならす士卒か香付力争分取して功をなす其 功のなる様にするは将也学術芸術も精微に 妙達するは志気なり下学して上達するは聖人 の教なり其下学して上達する長途にて種々の 風景嶮易を越ル時微細に意識を用てこゝを 越されは上返せす其風景嶮易に止りあき故 意識を走と云とも意識にあらされは志気を迎 一同治治廿三 しかたし将の暗弱にして勢なきときは 士卒将の下知ぢ用ひずみづから専にして 私の集を用ひ私のはたらきをなして陣 中和せす妄動して備へ騒ぎ終に敗軍の 禍を取者なり此時にあたつては将如何 ともすることあたはす古より大軍のさは ぎ立たかはしづむることあたはすと云へり 意識みつから専らにして情欲を助け妄 動する時はみつから其非をしるといへとも 制しがたきものなり是其職の罪には あらず将知勇あつて法令明しかなる時は 士卒将の命を慎みて私のはたしきをなさ 歩下知にしたかつてよく敵を破り備をかへ たくして敵のために破らるゝことなし是 士卒のはたらきゆへに将大功を立るなり 然らは意識も心体の霊明にしたかひ自性の 天則によつて知覚のはたらきをなしみつ から専らにするの私なくんは知の用をなし て国家の政をたすく何そ意をにくむこと 一をせん聖人母レ意といふは意みつから専ら にすることなく知覚みな自性の天則にした かひて意の述なし故に母意といふ 一問古へ中華にも剱術の伝ありや 曰吾いまた其書を見す和漢ともに古へは 気の剛強活達を主として生死をかへ りみす力を以て角と見へたり荘子説剣の 篇等を見るにみな然り只達生の篇に 闘鶏を養の論あり全く是剣術の極則 なり然とも荘子剣術のために論するにあら す只気を養ふの生熟を論するのみ理に 二ツなし至人の言は万事に通するもの なり心を付れは一切の事みな学問とも剣 術ともなるべし和朝の古き剱術の書を 見るに曽て高上の論なし只軽業早業の 一術を習ふとみへたり多くは天狗を以て祖 とす惟に生得の勇はみな其身に備つて 語るへき所なし只業を習ひ気を修して 其内にて生得の勇をやしなふと見へたり かるかゆへに論すべきことなし今世間文明 に成て初学より玄妙の理を論すといへとも 預り物のごとくにして其実は古人に及は ざること遠し学問もまたしかり 一問剣術は心体の妙用なり何そ秘する事 あるや 曰理は天地の理なり我か知る所天下何ぞ 知る者なかしん秘する者は初学のためな り秘せざれは初学の者信あらす是おし ゆるもの一ツ乃方便なり故に秘することは みな事の末なり極意にはあらす初学の 一者何の弁へもなくみだりに聞あしく心 得てみづから是とし人にかたるときはかへ つて害ありかるがゆへに其得心すべきも のなしではおしゑすと見へたり其極川に 至つては同門にあらずといへとも広く語 りてかくすことなし秘することは多くは 兵方の方便なり未熟の者に秘して教 へ一旦の勝を取る気然を助る術もある へし又他より見て其意をも知らす浅 間なることなりとて妄りに評を付る ことを厭ふてかくすこともあるべし一概に は論すべからす一切の事正道にかくすことは なきものなりといへとも言の漏て害にな 類ことあるをは品によりて隠密すること もあるへし剣術の事と世間応用の事 と其理替ることなし剱術の事において 一心を用其邪正真偽を精しく弁へしり是 を日用応接の間に試み邪は正に勝こと あたはざる所をよく自得せば是ばかりに ても大なる益なるへし 心は明らかにして塞ることなきを要と す気は剛健にして屈することなきを要 とす心気はもと一体なり分けていへは火 と薪の如し火に大小なし薪不足なれ は火の勢ひ熾ならす薪湿家ときは火光 明かならす人身一切の用はみな気のな す所なり故に気剛健なる者は病生せ す風寒暑湿にも感することなし気柔 弱なる者は病も生し易く邪気にも感し 易し気病ときは心苦み体疲る医書に 日百病は気より生すと気の所変をしら さる者は病の生する所をしらず故に人は 一剛健活達の気をやしなふを以て基本 とす気を養に道あり心あきらかなら されは此気途を失ひて妄りに動く気妄 動するとさは剛健果断の主を失ひ小知を 以て却て心の明を塞く心昧く気妄動す るときは血気盛なりといへとも計自在な らす血気は一旦にして根なし動て其述 虚なり見等の計は剣術の事を以て試 みてしるへし故に初学の士は先孝悌の 人事を尽し人欲を去にあり人欲妄動せ ざるときは気収つて執滞せす断健果断に して能心の明を助く気剛健ならざると 一きは事決せす決せさる所より小知を用ひて 一心体の明を塞く是を惑と云剣術もまた然 り神定つて気和し応用無心にして事自 然にしたがふ者は其極則なり然とも其初は 先剛健活達の気を養つて小知を捨て敵 を脚下に敷鉄壁といふとも打砕く大丈夫 の気象にあらざれは熟して無心自然の 極則にいたることあたはす其無心と思ふ者 は頑空に成り和とおもふ者は堕気なり唯 剣術のみにあらす弓馬一切の芸術といへとも 一先大丈夫の志を立剛健治達の気をやし なはざれは事ならす此気はもと剛健治達 にして生の原なり人只やしなひを失ふ のみにあらすに知を以て害するか故に怯 弱にして胃をなさず世間一切の事みな しかり前に論することく気は心を載て 一身の用をなす者なり自身に試てし 類へし只書を読人の言を聞たるのみに して自身にこゝろみされは道理のう わさになりて身の用をなさす是をうわさ 学問といふ学術芸術一切の事其理を 聞てみな自身に試み心に澄する時はその 一事の邪正難易たしかにしらるゝ者な り是を修行といふ 武用芸術論巻三終 武用芸術論巻四 一問鎗に直鎗十文字鎰管等の伝あり何れ 一の利あらん 曰何そ問ことの愚なるや鎗は突物なり突こ との自在をなすは我にありて器にはあし 一す然れとも或は鎌を付柄に鎰を仕込或は 管をかけて用ることは其先人の得たる 所より其利を工夫し其うつはものゝ働を 極めて此れを用て自在をなしたるものなり 今其流義を学ふ者は初より其器にて仕習 ひたることなれは他の器よりは手に熟したる 器を以てはたらきたるかた利あるべし達し ておのれに得るに至ては棒をもちても鎗と なるべし今後学其門第をあつめて横手 物には此あいしらひにてかち管直鎗には此 通りにかゝり鎰にはかくのことくして勝など いふは我かつ第に化の器に応することを教 へ我かうつはものゝ利を説のみ然らざれは 其流義の器をもちたる得なしもし是を 至極と心得て十文字は入り込シて来り鎰鎗 は直鎗の柄をかしむものなりとのみ思はゞ大 に相違あるへし然とも先師の教ゆる所を もつはらに習熟すべし其上のことなり あしく心得れは初学の迷ひを生す初学の 取入べきやうなき者のためにしばらく収気 の術を記す此れ小童に效すべきことなり 一先あをのきに寝て肩を落し胸と肩とを 左右へ開き手足をこゝろのまゝに仲手を臍 の辺り虚欠の所に置悠〻として万慮を忘 れとやかくと心を用ることなく気の滞りを 一解気を引さけ指の先まても気の往いた るやうに気を惣身に充しめ禅家の数息 観のことく呼吸の息を数へ居に初の内は 呼吸あしきものなり漸々に呼吸平しかに なる時気を活して天地に充がごとくすべし 息をつめ気を張にはあらす気を内に充し めて治すかなり此時に積聚の病ある者 は胸腹のあいだ其病のある所かならずした 家く気味あしきものなり此すなはちあつ 一すり凝たる気の融和せんと欲して動す 家なり腹のうち鳴もの也此時多くは腹の内 の気味あしきにおとろきて止ものなり此時 は頼初の開きて充たる気を改めす掌を以 てやはらかに抑へ揉へし強く捫ときは彼動 する邪気にさからひ却て鎮らざるものなり 甚突上家時は各別なり惣して腹の上一所 に久しく手を置時は気其所へあつまる者也 故に実したる所に手を置すして虚なる 所に手を置こと習ひなり亦背に病ある者 は必せなかしたるくなるものなり只気のこ らざるやうにすべし肩と胸とを開くこと習 ひなり両の肩をぬき出すやうにひらく時は 気伸るものなり○此れ形を以て気を開 の術なり気滞我時は心滞家心とゞこほる 時は気とゝこほる心気は一体なり此術はま づ気の滞りを解て其椅所を平しかに するの術なり譬は惣身に蝶などのたかり てせはしきを払ひ落して身を清くし其 上にて新らしき衣類を着し奇麗なる 所に居家がことし神道に内清浄外清外外浄外清浄外清浄外清浄外清浄妙法 といふことあり内清浄は心を潔くして私 念妄想の穢を去り無欲無我の本体に かへり元来固有の天真をやしなふなり外 清浄は身をいさきよくし衣服居所を改め 気を転して外の邪気の内へ移らさるやう にして内清浄を助家なり内外本一なり 内清浄の外に外清浄あるにはあらす心気 もと一体なり気は形の内を運つて心の 用をなす心は台なりかたちなくして此気に 主たるものなり気を修する時は心おのつ から安し此気妄動する時は心困しむたと へば船しつかなる時は乗者安く波あしく船 危き時は乗者安からざるがごとし故に初 学の手を下す所先気の滞りを舞て心を 平しかにし気を治して心の自在をなす 一へし此迄は寝て散乱するの気を収め 一倚家気を舞て平しかにするの術なりかく のことくすること五七日或は十日廿日のうちに 洛してみつから快きことを覚ゆへし快き時 は猶々此術を行ふへし気収りたらは気を 一活すへし惰気にひかるべからす気惣身にみつる が如くわつかに心を活すれは気活するものな り又昼は起て形を正ふし気を治して惣身 にみたしめ正「三-派の二王坐禅のごとくしは らくの内坐して気を収むへし必しも線 一香を立て時を定め結伽趺坐するにも及 はす常のことく坐して形を正くし気を 活するのみしはらくのうちかくのことくして 一日に幾度も間晦の時に修すへしかくの 如くすれは筋骨の束ね合ひ血脈流行して 滞りなく気実して病おのつから生す形 正しからされは気倚る所あり立て修する も同し人と向ひ坐し或は物に対しまた は事を務る時も同し胸と肩とを開きて 気のかたよることなく滞ることなく惣身指 の先きまても気の充わたるやうに心を付へし 哥謡して声を発する時も飯を喫し 一茶を飲時も路をありく時も常にかくの ことく心を付る時は後は不断の事に成て 自然に気活するものなり不断かくのことく なる時は不意の変に応すること速かなり 惰する時は死気に成て用に応すること生き ものなり落付たると油断と似て異なる者 なりみつから試てしるへし此れ文才なく初 学幼童といへとも心を付れは労することを 一なくして成り易きことなり小子輩の立廻り 茶の湯蹴鞠一切の小芸舞躍の類迄も 気かたよりて生活せさる時は形の動静手 一足の続き美はしからす応用の所作も滞家 ものなり常には惰気になりて何の心もなく 器を執事ある時はかり俄に思ひ出して修 せんとする時は気改り形に心をとられ所 作に意を住家ゆへに気動撥して不意 の用に応しがたし常に心を用ひて修する 時は事ある時に無心にして応する者なり只 常に気を生活して惰すへからす惰気は 死気なり死気は臺なし故に用をなさゝる のみにあらす物に驚き怖るゝことおほし気 惣身にみちて心とともに生活する時はお とろくこともなくおそるゝこともなく不意 の変にも応しまし但浮気は根なし生潤に あらす似る英なり 一宋儒程子の言に心主なけれは動きやすしとい へり能心得へし士気といふ物を忘れたれは 慾心生して金銀色情名聞出世に貪着す 此四病あれは千万年坐したりとも心痛を治 せす今の禅学者心尊着け病をはゝすじて 一定坐する故貧に逢ては恐れてあしきなり 難あれは世の思はくを取なんとして遂に接物 一応用をなさす士たる者こゝに達せば常にふ意を陏 変に応するの業速なり然は世たる者に気御己 するの道をしらされは志気養れぬと知るへし 一昔或る禅僧小童に教へていはく怖しき所を 一通家と支は腹をはりて往過へしおそろしと 事はなきものなりといひしよき方便なり 腹をはる時は気を引下て下にあつまり暫 は気内にみちてつよくなるものなり気虚 欠にして上にあるゆへにおとろきをそるゝ ことあり 一亦歩行する者を見るに常人多は上づりな るか故に頭とつり合て歩行し或は五体を 接てありく善く歩行する者は腰より上は 動くことなく足を以て歩行すか故に体静 にして臓腑を接ことなく形疲ざるものなり 一駕輿丁の歩行するを見てしるへし剣戟を 執て行者気濁つてかたよりときは足を以 て行ことあたはす頭につれて五体をもむと きはかたちに損あり気うごいて心しつかなら 一す刀は右を先にし鎗は左を先にす立時は 一前足を活して立ものなり一切の事みな 常に修すへし路をゆきなからも坐して もねても人と対しても工夫はなることなり猿 楽の太夫共の足つかひを見るにみな瓜先を そらしてすゝむ足を活し踵を蹈てゆくこ れ身の風流はかりにあらすすゝむ足活て足 を使ふに自由なりまた気我にかへりて向ふ へひかるゝことなし鞠を蹴者の身づかひ足 づかひも同し上手の太夫の舞ふ所を後ろ より突に蹶きたをるゝことなしこれ気活し て惣身に充下は定つておもく上は軽く動て かたよる所なく臍下より呼吸して声を出 すかゆへなり下手のむ所へは少し碍りて もつまつき倒れるものなりこれ下軽くし て定まらす気かたよりて生活せす胸より上 にて呼吸し上つりに成て下虚欠なる故也 亦上手の謡物は声を呂へ落す時臍下大に ふくるゝものなり是等の事は常に試て知 へし故に人の歩行するに下軽く上つりな る者は早く疲るゝものなり此等の事に 一限らず目の触る所に心を付て試家時 は天地の間の物みな工夫の種となり天下我 か師にあらすといふことなし我れに主あつ て是を求むるか故なり一切の事我に求 る主なき時は人よりあたふることはなきも のなり軍書に主人の供をしてゆくには 前後左右山川地利の益に心を付へしと いへり古への名将は田夫野人の所作を見て 心付謀術の種として功を立たる人多し 軍中には限るへからす常にも万事に心 一を付は益を得る事多かるへし視空な れは死人に同し得ることあれ共取らす 一向軍学は謀計を以て人を欺くの術なり 此道に習熟せは我か小知を助て心術の害 あしん歟 曰君子是を用家時は国家治平の器とな りに人これを用るときはおのれを害ひ人 を傷ふの器となるへし一切の事みな然る 志し道にもつはらにして私心のましは りなき時は盗賊の術を学ふといふとも 盗賊を防くの益と成て志の害をなす ことなし志情欲利害にもつはらにして学 ときは聖賢の書といへとも小知の助けと 成へし故に先正道の志を立是を変せすし て後万事を学ふへし我に正道の主なく して軍術等を学はゝ功利の言を悦ひて 心此にうこき小知の巧を専らにして是を 以て士の道ことするの誤あるへし剣術を学く ものも此芸に熟して是を以て辻切強盗 をなして男道なりと思はゝ芸術却て身 の害を招くへし此芸術の罪にはあらす志 の違へ家なり熊坂と弁慶と同シ打物の達者 一勇謀兼備へたる大剛の者なり弁慶は是 を用ひて忠戦をなし熊坂は是を用ひて盗 賊をなす故に謀計は士道にあらす是をも ちひて軍忠をなすを士道とす加州安宅 の関にて弁慶か杖を以て義経を打たるは 一忠にはあらす君の難を救ひたるを忠とす述 を以て論し事を以て論するは不智なり夫 一軍法は人数を立て備へを設け敵のため に我か陳を破られす。奇兵を用ひ謀を以て 敵を破家の術なり邪を以て正に敵する者は 一賊なり備を設けす謀を用ひす無法に 戦て敵の謀に陥り賊のために我忠義の 士を傷つて可ならんや我れ謀術をしる ときは予め其備を設て敵のはかりことにお ちいらず其術をしらざる時は敵の擒とな る是をしらずして可ならんや謀は其術多 一端なりといへとも畢竟人情に応して用を なすものなり人情に応せさるの謀は其術 を知といへとも用をなさす医師の多く書 □□□□□□□□ を読薬方はしりたれとも其病の因て起る 所を知らず妄りに薬を施してかへつて他 の病を引出すがことし人情をしることは将の 知にあり将信あり義あり仁あるにあらされは 人情和せさるものなり人情服せざる時は其謀 却て禍となること古今明白なり医師の 妄りに薬を施して却て他の病を引出す のことし敵暴にして我に道あらは人情の 服する所全鉄のことし敵の謀何そ恐るゝに たらん敵道あつて我か軍の人情服せすんは 我かはかりこと用ゆる所なし故に将は人情を得 るを以て要とす今士の学ふ所は名将謀術 の述のみ是古人の糟粕なり其糟粕を学 て精汁を錬り出すは其将の量なり匹夫は 其事を效つて其事の中より時に当家 のはたらきをなすものは士の量なり物頭 一物奉行竹候使番みなそれ〳〵の事あり前 備脇備卜備遊軍皆それ〳〵の法あり鎗前 鎗下崩れ際のはたらきみなしらずして 叶はさることなり或は城を攻城を守り伏 一奸夜討夜込等軍は少の誤にて大崩れになる ことおほし各其事をしらずして其場へ向ふ は水練をしらずして大河を渡らんとするよ りもはなはたし 一問我か謀を以て敵を欺むとせは敵もまゝ謀 を以て我をあざむくへし豈われひとりしるこ とあつて天下みな愚ならんや 一日然り汝の言ふ所は押形の一通なり碁象戯 の手の古来より効ありて其理を尽しつく して此外に余術なきがごとしといへとも又其 上の上手出来ることあり碁の定石を救ひ 象戯の駒組詰物等をならふは其押形を 学ふなり我に自得する時は其中より別に新 しき手湧出て勝負を決するなり凡て世 間一切の事みな押形のことくなることはかり 八なきものなり謀もまたかくのことし将の器 一量によつて古人の押形の中より臨機応 変のはたしき奇兵の謀術は其時にあたり て将乃胸臆より湧出る者なり古の良将は 漁樵賤夫のしわざを見て直に取て新しき 術となし軍中に用ひたることおほし常にこゝ ろを付る時は見こと聞ことみな謀術の助と なるものなり然ともまつ古人の押形を知ら ざれは後学の因へき所なし学術も亦しかり古 人の述によらされは其跡なき道を悟ること あたはす一切の事みな常に心を用ひて耳 目のふるゝ所を以て修行の種とし事ある時 は其時の変に任すへし又軍中は敵味方と もに大勢なれはひとりばたらきの如く自由は 成かたきものなり常に古人の跡を考へて 時変に応し人気に叶ひ天に乗り地に乗り敵 に乗り虚に乗り実に乗りて人を致して人に致 されさるの謀略を発せは近くは君に忠をつくし 遠くは幸を四海万歳に施す但し奸謀あり邪謀 あり是身を亡し国家を失ふ奸佞愚昧の人 と云へし将は智信仁勇俊と孫子にも見へ たり将正しけれは五事七計何とみたりかはしき 事あらんや兵は詐を以か立といふ事は己をとし 慾に耽りて詐るといふ事にあらす君のため敵 を征するに用る道なり誣といふ事と別也心得へし夫 一法を出し士卒を錬り駈引の自在なるやうに 備を立家を以て一安とす 吾人父祖の陰徳によつて今日身に福ありと いへとも一念わつかに差ふときは其より種々の 妄心生して終に天狗界に入り父祖の陰徳を 一削り身に禍あること矢よりも疾し汝等 惧れ慎むへし天狗界といふはおのれか小知に 一慢して人を侮り人の騒動するを悦ひ是を 以て是非得失の境をなして無事を楽むこ とをしらす欲る所を必としておのれを省し ことなし只おのれに従ふ者を是としおのれ にしたかはさる者を非とす世間の是非を己か 我執のしかしみに留めて彼を悪々これを 愛し或は怒り或は困むて常に心のしづか なることなしこれを仏家に一日に三度熱湯 一を飲て惣身より火焔を生すといふ此煩熱の 一苦はより種々転動して邪をなし人を害ふ 汝等よく心を修し気を収め魔界を去り 人間に出て道を求むへし汝等鼻なかく觜あ り翅あるを以て人に勝れりと思て愚人 を誑かす汝の長き鼻尖れる觜軽き翅は 却て心を苦しめ人を害ふの器なり学術 剣術ともに只おのれをしるを以て専務とす おのれを知ときは内明しかにして能慎しむ 故に来つて家に敵すへき者なしたとひ起 足らすして適ちありとも我か罪にあらす 天に任するのみおのれを知らさる者は人を 知らず私心を以て人を欺き勝を取んと欲 する者をは人其私心の虚を討欲を以て人 を襲ふ者をは人其欲を動かして其動の 虚を討勢を以て人を圧者をは人其勢の衰 家所を討つ学術剣術みな同し只おのれ を尽して無欲なる者は討へきの虚なし勢 を以ても挫くへからす欲を以ても動かすへから 奇巧を以ても欺くべからず吾此れを思て常 に慎むといへとも凡情いまた断せす只熱湯を 飲事を少しく免かるゝのみ猶天狗の列に あり何れの日か人間に出て道を悟らんし はしく我か聞所を以て汝に示すのみといひ 既て草木震動し山鳴谷応へ風起つて 面を撲と見て夢悟ぬ山と見へしは屏風に てありし寝所に遽々然として臥たり 武用芸術論巻四大尾 芸術論後 客あり此書を難して曰子か論する所 理を開き情を尽し気の所変を語つ て未た事の應用を審しかにせず老人 病身又は努め繁き者の志を養ふには 一のなり芸術修行の者ためには足ら さる所あり曰吾剣術者にあらず何そ 人を導くことをせんや只弱冠より好むて 芸術ある人に親炙し其事の利を討 禰気の変化を試みて其病を治しその 理を聞て心術を證せんことを求家者な したま〳〵心に黙契することあれは筆 記して予か童蒙に示すのみ官人予か童 蒙によつて頻に請ふ然れとも多言に して識者の謗りを招かんことをおそる 己むことを得すして天狗を傭ふて戯謬 せしむ寝語の小冊予豈みつから是と せんや 寛政六年次甲寅初冬良辰 浪速書林 心斎橋通博労町 柏原屋重兵衛 ○一銘天狗芸術論 書林 江戸日本橋通売丁目 須原屋茂兵衛 同日本橋通二丁目 同芝神明前 山城屋佐兵衛 同本石町十軒店 岡田屋嘉七 英大助 同浅草茅町二丁目 須原屋伊八 大阪南久宝寺町心斎橋南へ入 堺屋新兵衛 同順應及町心哥ノ橋南へ入 堺屋定七