養生長壽祕傳鈔 2巻

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八郎兵衛
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場所: 江戸
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八郎兵衛
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日本語
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岡田屋嘉七
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ヨウジョウチョウジュヒデンショウ
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東北大学
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ヨウジョウチョウジュヒデンショウ
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2026-08-28T18:53:25.651810+00:00
狩り の 長寿伝上 女方 『歌悲』『 以テ購入セル節博士 狩野亭吉氏藩隊畵 序 山不高渕不深鯉魚樹 上に昇り黄鳥水底に 遊ふ恍たり惚たり始は一理 を言終は真寿を謂始終 無二無三の良薬これを 視れとも不見これを聴け とも不聞費にして隠なり 近前来 不学無能謹序 養生長寿秘伝鈔上 一太平の御代に出生し御高恩身にあまり難有 一あんぜんに世渡り仕り候扨世の中の人のあり さま明暮老ひ行候竹馬の友をかぎへ候得は 男女とも愚さが年迄も長命候者二三十人に壱人位 にてまれに相覚候人々養生の御心得天よりうける たる御寿命御保ち被遊候はゞ愚老が寸志届き大 一慶に存候此書御覧被下長寿の御工風出来御安心に 御世わたり可被下候某幼年より至て病身にて親共 殊の外苦労にいたし候ニ付病ひを恐れ身命の大事を 思ひ平日養生仕候効に御座候哉兄弟六人之内四人は三 十歳ゟ四十五六才までに早世いたし候尤兄弟は皆々 私より至て丈夫に御座候処平生身養生心得悪敷由 へと存申候 一身の養生は酒色欲此の三つにあり大酒いたせば酒毒 に中り或は不忠不孝不義も此より出来亦過酒ゟ 一色情おこるは勿論にて酒色の二散銘〻の身をせ 一め命をちゞむる責道具とぞんじ候これまで走賤 一上下の隔なく御懇意の御方今様にも短命のかた 十人に九人までは大酒色欲にて死去いとされ候高貴 の御方様がた又は金銀世宝に不自由無之方今にも御 一養生あしく短命のかた数多く見うけ候某事四 一十才ぐらい迄は至て病身に候ゆへ親ども苦労に致し 私へ申候には四十二の厄年と申事も人間一生五十 一年と申世の諺にて工風して見れば一ヶ年を一生と 一見る時は秋の末冬のそらと同じ事なり能々工風 して身の養生能いたし長寿せよと教訓いたし 一呉候得ども今日の事のみに紛れ暮し居候処ぬ と四十一才の時信友の進めに依て実学の明妙を 得て師の仰にしたがひ日々身の保養一心の持様等 一克巳の伝員を得て当年六十四歳に相成得どもよ うぜうの御蔭ゆへか壮年の時より身体健かにして 一暑寒の憂もなく安心仕候尤それがし病気未平生 ならず候節信友ゟ借受白隠夜船閑話。貝原養生 一訓。沢水法語。月庵法語。亦徒然草。和論語。般若 心経。少宝六門。亦大学中庸和解など拝見し日々 朝夕養生仕候各々様にも右の本など御覧なされ長 一寿御工風可被成候尤右本御覧被成候節は御心を臍 下に静られくり返し御覧被成度則夜船閑詰に 人々いまだねむりにつかざる前に両足をのべ強踏み 揃へ一身の元気をして臍輪。気海。丹田。腰脚。忌。乃 一間に充たしめ此歓をなすべし是養生の専一也と 御合点なされがとき所御座候はゞ其所よく〳〵御工夫 成され度候扨身養生第一日千万人好む処の色欲 一なり是第一番の御慎み無之候ては迚も長命は相成 申間敷候末々高貴の秘借書にて御工夫可被成候御銘 一ヶ御身の一大事の事に候河分御工風出来御長寿被 一遊候はゞ大慶仕候少々若男女の隔なく只々御命大事 一と御慎次第にて父母より請たる天然の御寿命御た 一もち被遊候義は至て安き御事ニ候左候ハヾ点光なきあ とまでも大慶仕候 身の内に身を苦しめるもの 七情なり 自身より病をこしらゆるもの ○喜怒憂思悲恐驚 一この七ツは貴賤智愚男女なく皆発り候所の物候得 共知るある人は片よらずものを止めず暑せず其 物ごとに任すゆへ苦つうなく候愚成る者は身を愛し て万事我にまかすゆへ苦患絶ざれば乍ち病ひの 一本となり候片寄は惜身の作す所なりこの身具 負よりかた露にて候 身をおもふ心ぞみをばしかしむる瓜を思ねば みこそ安けれ これ真の養生に候すつるとは此の所に候か 又外より入る病あり にうかんしよしつ 風寒暑湿 べり 別して大なる病は とんじんちこれどく 貪嗔痴旻三毒也 古歌に 諸病諸苦悩の根 ほん 本なり 長衆は朝おきをして昼寝せず酒食ひかへて 摺りねをせよ 小児驚風をせぬこゝろへの事 小児の親夫婦交合致し候節小児の目を覚し なき候せつ啼候を不便におもひ交合の上直に乳を のませ候事大なる毒なり此のところ能々御慎有之候 得ば小ゆへ狂風の事は一切無之由秘中の秘伝と承り 候為御心得記之 又婬乱の者女房月水中に交り懐妊致候時は出生之 子きわめて癩疾を病と是亦秘伝御心得の為記之 一此難疾必ず田舎に多く繁花の地に稀なるを見て知べし 一和論語に曰世の中の人楽をたのしみとするゆへ苔 み多し。苦みを楽みとすれば楽みつくる事なし と。又明君の御示しに苫は楽の種楽は苔のたねと しるべし。主人と親とわ無理なるものとしるべし。下 部は足らぬものとしるべし。分別はかんにんに有と知る べし。欲と色と酒とは敵はしるべし九分に足らわ 一ぬを十分としるべし小事おどろくべし大事驚く べからず。朝寝すべからず。噺の長座すべからず。子の ことく親をおもへ近きたとへなり。我が職分大切に 一勤むべしとなり有難き御慈教に候 一信友の曰身の養生は一心の知る所なれば急に明妙にたよ りて道之為道真実を知得し我が一大事決定す べしとの儀上なき深切と誠に身心に徹し候へは即 一時道心発り候扨我等如き愚昧文盲の会得致安 く安心成り安は心学実学の教に亦盤珪禅師 仮名法語白隠禅師仮名法語其外古しへ知識方 の仮名法語類手近き御教導と難有覚候 ○愚老義は三十間堀実学家の教示を受て文盲ながら 一わが身の一大事を知得いたし従来の迷妄心得違ひ 発明いたし候事ども数々御座候而即時一心の置き所 を決定いたし身に先立つ大事も無之段得心致 し夫より日々朝夕真の養生懈怠いたさず候諸 事明らめ足る事を知る乃手短き御教道に疎ふ 実学と有がたし存候然ども文盲の愚さに候得ば亦御 銘々御存心も有之義只銘々身の大事を知る義にて 他事なし候皆御自心の上にこれある儀に御坐候御思 慮成され度候 一禅師白山翁二尊師の御道話且御徳者の御遺書 御教誡回答書外に添書心得草等かき写し打之候 みな自己を脩め家を癖ひ主従親子夫婦兄弟 〽和し世間交はり実意を先とし足る事を 一知りて真楽を得よとの心法にて是亦保寿の基 一本皆実学に候得ば即今御銘〻の一大事成る事 一を得と御合点なされ御熟覧なし下さるべくす ぎ去りし事のやう御心得御覧成され候ては御身 の為に相成申さず千載如一日と古人も仰せら れ候よし譬千年二千年過去候事にても何 も今日只ケに変り候義は無之年来過去候とて世上 かわり候得ば古人の仰せ置れ候処も用に立好と申物 にて書物経久もありて益なきと申物に候高家秘 伝書之御教諭はじめ道話遺書教誡問答書 一添がき心得草に至るまで悉皆御銘々の御事に候得 一ば去年今年昨日今日我人身の上の義と聢と 御心得御熟覧くだされ度皆是世人の為の御実 教に御座候得ば御実意を以て御覧なされ御自心 御会得成され御あんどの場に御至り候はゞ愚老本 望に御座候容易に御らん被下間敷候某 心得草 信は天下国家の宝珠 親をおもひうやまふは我が為子孫のため 君をおもひ敬まふは身をおもふなり 一主を敬まひ親を敬まふは忠孝の鏡 一家和順ははん栄の本 倹約質素は家名相続の喜ひ 筋をはげむは本世の本 家職本情するは長久の本 辛抱は万事成就の本 堪忍慎みは其身の間符 一慈悲あわれみは身家の祈祷 富人は世間の重宝 無道の富人は世財の番士 不忍不孝は人非人 不義不如法は悪行の先達 奢りものは先祖親の恩しらず 一家内不和令は不相続の本 義理恥辱を知らぬは人外 一勤職無情ものは親兄弟の厄介 善は急げ悪は延べ 明しめは平かの養生 有の信なるは正直証人 無病はものを貯へぬ証人 持病は明らめなきより生ず 肝症肝積は気随の証人 好き嫌らひ物に飽しは我侭の証人 一短菜は身を損なふ本 我慢我敗は愚知無知の証人 疑ひ謗るは侮らるゝ本 名聞色彩は負ケ惜に陽気もの 手前勝手は飽るゝ本 遊芸は身家を害なふ本 一勿論院立は後悔の本 悪業は我身の仇敵 物識は論に勝て我に負 過ちをつらろへば過を増す 功を賞すればその功を失す 神仏を頼み誓ふものは御罰を蒙むる 神仏を尊み信ずるものは果福を得る 神仏の理生寄持を語るは不信心もの 奇怪不思文を語るは愚痴を触るゝなり 病ひに勝つものは我が病ひを療ず 病に負しものは病根に肥を為るもの 楽を好むは苔を求むる本 苔をきらふは楽に近づしもの 苦労症は持病の種蒔者 各番無慈悲は見雑さるゝ本 大酒大食は短命の下地 色欲は命を削るもの しゆよくしよくよくよくよくよくようぜう 酒欲食欲は平日の不養生 小食寡酒は長命の下地 過たるは皆足らざるなり 武士は竹の如くにして慈悲情を体とすべし 外堅固 中囲に 一百姓は野田を住家とし稼ぎ働しを体とすべし 一職人は一心ふ乱の座を体とすべし 勝んと打ず 一町人は囲碁の如くし得意の心を体とすべし 魚まじと打 食服は飢寒をふせじ為 一住家は雨露をしのじ為 後悔は平日の油断 万事懈怠は不成就の本 足る事を知らぬものは生涯貧者 たる事を知るは身家の良薬 一小事にかゝわるは身の大事を知らぬもの 我が一大事をおもふは大楽を得る下地 善悪知るは智ある愚人 ぜんあく知らざるは愚成る知者 右六十六ヶ条 寝むらずば夢も見まじを朝夕に ねさすや起す見聞覚知 高家御宝物御秘書写 一御舎弟河某殿兼々御病身の御様子扨々たゑがし〳〵 気の毒に存候拙僧儀は医道は不存候得共平日容体見 聞いたし一罷在候医師は何と申やらむ不存候得ども畢 竟此愚痴ゟの病ひにて自作付病と申物に候全体 一朱性は正敷温和成れども狭し小さき了簡より して物毎わきまひ付がたくあだ成心労苦痛多く 心の安き間なし仍る我がすく所の女色を当時 一々の骨散ためしみと思ひ度々に身を削り月 々に惑へ追々虚労し終に内外とも痩枯れ死 一症となる事をもしらず是身しらずの愚人と申 一物に候主君の為に命を果すは武士の常なり愚痴 一病より虚労労痰し命をはたし主思へあと申 一訳相立哉恥辱何を以て免かるべき馬鎗釼 一抔極意に。〽珠なるこゝろは物に染ざりし我ゟ なせる敵をしずめよ。又〽よしあしの色に心の 一そまらずば柳は縁り花は紅ひ。〽挽ぬ弓はなさぬ 真の知恵の箭はあたらず然もはづれざりけり。 と有り如何免許せられしや皆我が心内の敵 一の為に悩まされ恥辱を取らるゝなり又内方 一杯も近来は最前両三人も手子出生致し候由これ 一全く色におぼるの證拠に候また産後抔はしばらく 交りも出来不申候得ばその砌は誰はゞからず忍び所 抔へも参らる由是武士にあらず為主君戦場へ出るに 女を供せらるゝや又近き頭は物覚あしく兎角に退 上いたし手足抔冷候よし尤もあるべし筈に候病気木 の症を名づけば陰虚火動の症と申腎虚糸 きよのなす所にて此症は鍼灸薬にては聊もしる しなき死症に候然れども三ヶ月五ヶ月の内床 につき候様には不相成候得ども何ぞ時段に中るか 又は流行病ひなど病み候得ば左様の時床につき終に 大病と成事必定に候得ども元来愚痴よりして心 一気をいたみ色におぼれ身の虚し労するもし らぬ人物に候得ば何を幾訓申候ても不聞入物候。わ が身を削る事をしらず夫を楽みと思ひ剰へ他 にて心ある者には女色に身命をも替るやとあざけ りを受夫とも心付ず寝ても覚ても色情のみ 一心よる物にてうか〳〵とする心地にて物定あし く是腎虚気虚すかゆへ出たかぶり逆上し 胸中いつも静ならずそれ故取しめなきやうの 心地いたし折節は召遣ひの下男下女の名をも 忘れ又同じ事を一日に四度五度も申様成事抔 一有之物に候是を医家に健志の疱と申候全く病に てはなし虚労より出来候事に候腎虚の性たと へて申時は碁将棊を好むが如く負るにしたがひ 一弥あらそひに進む物なり真その如く腎水減るに したがつて巻々色を好む物にて最早これ大病 一なり人間四十歳は初老なり女色段々うすく成る 年頃に還る好むは淫散にて前段の通り水減る にしたがひ好むなれば虚労し終に死症と成るは 一必定なりこの場に臨み河程の明医を得鍼灸薬を 一以て治せんとするとも寸功無し元来自作自業な 一ればいかんとも致がたく又年子抔と申物は全く亭主 一の色敬なる證拠に候其訳は三年振に出生候得ば母の 一痛みも無之候然るに年子出生はいまだ母の胎内 とゝのひ申さぬ内交合いたす故早く懐妊いたす 一事に候母胎内のどらぐ元々へ納り夫より又初 り候へば早くして三年振ならでは出生なき物に 一候年並と懐妊いたすはいまだ胎内の道具元々へ かたづかずそこらに取散しある所へしかけ候故 一ふきそうじ致す間もなく直に用ひ候様なる道 一理ゆへどうぐ損じ剰へ夫々に元の所へ納りがたく 一候ゆへ金子三四人も出生候得ばつゐには難産出来候か 一胎内いたみ居り候ゆへ産後を疾来候か第一夫の気 一せうを案じ苦労し多勢の子供の養育親の 一心をかねそれを思ひこれを心労し乳なども出ぬ 一様になりてます〳〵苦労多くなり左様の処ゟ 一産労或は労疫などわづらひ終に命をうしなひ 候様になり行もの世間そのためしかずを知ら ず又何某殿義右体病者にて今年四拾三才の よし此後の命三年保ちがたく尤候得ば夫婦とも相 一果多勢の子供老年の親一人のこり候様なり行事 一眼前に候此処いかゞ心得居らるゝやまづ先祖親への 一大ふ孝世間のあざけり又女房子供は不便に無之也 ○わが命大切には不存や主人一人の愚痴心にて女房は たんめいさせ子供をまどはせ我身は不孝不如法 の名を請る事愚痴心のなす処恥かしくなき 一や恥の人に於けるこれより大ひなるはなしと是損 一恥なりたんてき其場に至り候はゞ何程後悔せ らるゝともいかんとも仕方なし候然れば今此虚 一分の症には鍼灸薬にて音しなき時は療治いた しかたもなきかと申せば左にあらず元来皆人病ひ 一無し然るに今自業自作の病者に与へて眼前に病 一即消滅ふ老の一薬あり草根木石獣虫にあらず 信用して服せば即効ある事顕然なり然らば 一薬いづれにか有る他にあらず即今自持せり信 一心力をおこし我身は親の遺体にて然も万徳を 一貝したる金剛の身体なる事を得心し次に先 一祖親より譲り立たる大切成家も身有ての家にて 家にさき立つ我が身命此大事をおもふを先祖 親への孝と云ひ家を思ふ大本にて候武士は実を忘て 一君を思ひ家をおもふ皆信力にて是亦先立大事は命也扨女 一房子供を不便と思ひ今日只今ゟ道心をおこし心 一中に誓ひを立色歌を避け名歌を捨有道の者に立 より身の一大事を知得し自身を明らめば忽ち備 中ひらけ心広く体ゆたかに安楽の切来るべし此外 一療治方一切無之色を慎み命をおもふ身薬に心を 一明らめ気を養ふ心薬此嗅二薬を以療治せば本 一快いたす事的然なり猶寿を保つべしこの療 治いたつてするどく即効を顕はせる事三ヶ月に いたらずしてしるしあるべし世間の人悟道といへ ば我が禅宗ばかりの様に心得るは愚痴凡俗の所存に 一候悟と申は吾が心と云ふ義なり貴賤男女をいわず 一我が身の一大事にて仏道はいふに及ばず神道儒 道武道都て諸道何れの教も只己を明らむる所 一の心法にて一字一句をからず信心を以て我が心体 一を発明するを悟と申事にて是を了知して気 をやし給ふ事人間の才一義なれば益子も浩然 の気を養ふと云ひ老子は彼を捨て此を取る只 無異無事と筆を養ひ足る事を知りて安楽 になれとの義なり我が身は家の本本立ざれば来 一ならず我が安堵ならで妻子下人いかで安心得させら るべき親子夫婦主従一和して安穏なるを家 一斉ふと云ふなり是一家和合するの根元にて愚 一昧文盲と云へどもこれをわきまへ知るを知者道 一者といふなり知不知をいはずたとひ八万余経十 一三経すべて諸道書よくそらんじさとし広学 一博識といふとも神仏聖賢名為都て有徳の心 を取らず只道理義理のみにわたりてこれを 得ざる時は何の学功なく只事知り物知りなれ ば朝夕起臥種々の念慮絶へざれば不如法不法不義 一の汚名をはつし時々に身心をくるしめ終に 一は病を求めたま〳〵請がたき人身を受いまだつ 一きざる命を果し妻子を惑はし家をかたむ けふ孝不孝不義の汚名をうくるも我が一身の愚昧 よりなす事上なき損恥恐るべきなり世間し ゆ〴〵の法は只執着を忌む一切とゞめざれば記 一臆する事なし善悪水中の月是非空裏の 一基河をか取捨せん苦楽本無主思慮分別ゟ おこる是を有為の凡愚といふ一念不生にして 題□ タニノカズ □□□□□□□□□□□□ 一寒来れば若暑来れば脱ぐ心性は月のごとくにし て物にふれども止めずたくみなくして進退し 一止まらずして自在するを無為の真人と云ふ。深 き所の水浅き所の水峯と麓の如く浅深高 下あるとも一水一山なり十方是一顆の明珠自心に 一向て是を得べし文字言句の及ぶ所にあらず是生を 一巻なふ良薬亦是国之本 みぎは 一右はあまりいたはしく存こゝろへを出付進じ 候一通り御演説あり度候迚も心用はあるまじ く候へども併命にかゆべき物もこれなく候得者 □□□□□□□□ はからず心附目覚申間敷物にも無之左候へば 一人の命ならず家続の大事親妻子一門衆中 の安堵なれば貴殿まで申含候御舎弟へ得と御 一物語り可有之拙僧寸志に候用捨は当人御心 中に有之義に候御覧後火中 月日 淮殿 右同某君と申は高家ゟ御入家被成候御方にて則 その時之御主人御弟なり右之通の御病気にて顔 一毛常ならず我意つよく短条にして御家内御一 一統御家来衆中まではなはだ難義の医医師衆も 御療治は色欲うすくならずしては致し方なく 一当時は健忘の症と成らせ候得其外御病など添候時 は甚六ヶ敷よし申に付御袋様大きに御をどろき 成れ兼々右知識御帰依に候へば内々御袋様ゟ相 一願はれ御示の義歎かれ候へば知識もだしがたく 一思召され右の一書相送らせられ候へば一書そのまゝ 一河某君御所持にて御番人もろとも御熟覧候処御 一当人別而感心いたされ是まで親妻子の場へも 一心付ず扨々恥かしく面目なき次第なり御教楽一々 一拙者身心にこたへ誠に我が腹中を御見貫きのやう 一おもはれ赤面し恐れ入る処と御内咄など有之 今日より心中改め変色を慎み愈りを止め我意 一名聞捨つるとの御誓言ありて翌朝より早天に 一御目覚夫より日々怠りなく御自心居間ゟ庭 さき御掃除なされ月に三四度宛右知識の方へ 一御参りあらを道文御咄拝聴なされ折々は御宅へ 御招待なされ候よし平日は仮名法語類又心あ る草本など御覧なされ御いとまある節は浅 草上野目黒亀井戸などへ御歩行なされ候而最 一早整言どうり違ひなく怠りなく彼是五ヶ月 立ざか内顔色うるはしく御心持温和なり御念に 亦名聞ケ間敷事などは跡かたもなき御様子にて 至ておだやかにならせ御仁愛出来候而御家内一統 御家来末々まで御歓かぎりなく御寿命七十 一五才にて終らせ候よし伝承仕候誠にありがたき御 志の御人体にて候御認め置れ候書少くばかり拝 見いたし内々写取候ゆへ末にこれをいだし置候 八郎兵衛 一然に私主人当年四拾二才にて大切なる身分に候所 一右同様の性分にて最早常病人に候依る旦那寺 一長老外さ僧がた又は儒者博学の方熊意間さ 一体の衆中抔内々相頼み親類さ分達は不及申 一種々手を替へ異見を加へもらひ候へども元来若 一年より儒学を好み詩を作り文章をかき人の 一しらぬ義など能ぞんじ居候故か余程心持高く 一候ゆへ誰人の申義も一向信用いたさず然れども身 持は私ども目にあまり候事ども間々有之候へども右の とうりの気性ゆへ河とも致かた無之然るに女色追 々増長いたし右のとうり行状に候へば父子の間はなはだ 一ふ和にて老父今年六十歳に及び候へども主人右体 一行跡に候へばいまだ万事任せられず候得ば主人自 一身不心行不孝の場も不埒も思はず只親を恨みふ 一足にぞんじ候より朝暮顔色あしく亦外苦労 の筋もこれあり候得ば夫是心采をいたまれ候様子 に見うけ候仍て色情深き性分にまた爵を散ぜ ん心持もこれあり夫是河分色欲心労此両様去り 不申而は迚も命は続きがたく存朝暮如何はせんと私 心配仕候折節御出入申御屋敷ゟ風と此旨を伝 承仕候故時節到来やと存早速右御立入仕候御屋 一教へ参り厚く相願ひ誠に一命御助け候事に候へば 何卒御拝借被下候様相願候所手来の御懇意申へ 一早速何某公へ御出被下委細御噺御頼み被下候とこ ろ命にかゝり候と聞候てはもだしがたき事なり然 れども宝物の文に候へば本書は何れにても不相成候 間写させ可被下候旨にて御うつし頂戴いたし 即日主人へ右御屋敷にて傳承仕候始末且御大切の 一訳など演説いたし拝見いたさせ候得ば繰かへしく り返し拝見し善悪の一言もなく側なる文庫に 納め一日一夜食事もせず居間にひき籠り誰人ま いり候ても対面もいたさず御屋敷方御用向相談 に及ひ候ても一向うけ返答なく思慮して居候様 子に見へ候ゆへいかゞやとあんじ機嫌を伺ひ候所野 朝六ツ過右御写本を持私を膝元へよび誤た我が 非今日はじめて知るその方是まていく度となく 一此方身持を申呉候得ども此方に実意なければ 其方実意を実意とも存ぜず只我が好く所の みに心うつりふ行跡こゝろへ違ひもあらたむる場 は差をきいきとうり却て悪行弥増す心持にな り其上二ツ無き命の大事も不孝の切も妻子のふ便 も実心にをもわざれば昨日までは耳にいらず候所此御 一教誡拝見いたし誠に目覚めあり難き儀是まで その方心をつくし呉候実意今日届き無面目仕 一合後悔いたし候其方承知居り候通若年の頃より 書籍をこのみ聖賢之師をかれ候事ども自心には 一会得もいたし候様覚へ人の読ざる物抔よみ亦し らぬ事など知に覚へ或は故事来暦など聊存 じ候よ何となく覚へず知らず高慢の心持に成り 人を見さげ侮る心より其方など申義実不実の場 はさし置只愚昧文盲の分際として此方に向て 何たわ言とるに足らずと心に見下げ候場より聊も 一用ひ候所には至らず文盲の其方などより抜群劣 りたる不心行聊はづる心もつかず数年来読み学 びたる功はなし却て害となり候処今日漸く発明 いたし候此御教書御実意深き段誠に感入いたし 不計涙を浮め候是までの所存にてはか様の書など 半紙も見候了簡は絶てこれなく只久体善悪のみ 見て意味の浅深虚実にはいさゝか心も寄せず女 一童の見るべきものと心もとめざるに風と其方実意 を感じおもわず実意おこり熟覧し信実の場へ こゝろ附候得ば文作の善悪には心も寄らず悉く実 一意深切の段々かんじ入る計に候其方実意ゟして 時を得信の一字を受得し難有是まで愛相も つかさず手来の実意身にしみ忘れおかず候か 様なる結かうの書手に入候も畢竟その方色々 一心配くれ候実意より出来候義に候得ば重々満足 に候仍るまづ別荘の女にはいとま遣し可申間能 ように取はからひ呉とくまた遊女の義急度相 止め可レ申善以後におひて何によらず不心行の義 一聞及び候処も有之候はゞその方一人として押隠居に いわすべく其時聊違背申間敷又妻への交りの義は 一彼れ平生異見を申居候得ば夫婦の間の所は兎角 妻の申通りに随ひいさゝか背き申間敷候尓親人へ 一仕かたこれまで言語同断の不孝何とも可申様こ れなく我がすく所に着し不孝のみならず心 一痛いたし既に危き切に臨み候夫是能得心い たし候間安心くれ候様常にかわりてしみ〴〵 一談じられ誅に心根に徹し落涙いたしあり難 一存じ斯思召の上は一言も可申様御座なく只御身御 家大切とばかり申る跡一言もいてかね其功を立さり 一つよし考へ候に是までの半分にも慎みくれられ候は がまづあり難き義なりと存扨日立月たちいかゞと 日々のようす伺見居候ところ全体生得才智御座候 へば追々万事厳重に相なり聊乱れケ間敷義これ おし半年たゝざる内顔毛見直し色津やいで心 持いりかわり候様菊和になり人あひ穏かに成り候 て老父へも朝夕孝養を尽し懇に仕へられ候得ば 一老父悦びかぎりなし夜の明たるやう思われ広き 一所へ出たる心地いたすよし併もし夢にてはなきか 一と思わるゝ抔申され家内一同申分これなく相成候へ ば翌酉のとし春一切万事主人へ相渡され安 一堵いたしその後三年すぎて老父落命に候 一右体病気世間に多く見聞候へば後世の人だ すけにも成らむかと右御秘書写し且心得の 趣ども書記し置候一覧の方実意を先立 心眼を以て熟読ありて心用あらば必即功あ るべく候高家の御所持に候へば憚り御名あらわ さず候猶二尊師道語ならびニ何某君御遺書 主人一郎遺書の内かき抜野老愚意等次に 記し置候皆此実是のみに候御うたが び有まじく候 月日八郎兵衛 月日 判 愚意書 一主人一郎義聖光同年にて其後三拾余年至て 一健かにて病気前とは万事心行春重となり一 一族はじめ別家出入の者は申に及ばず世間にて 一も徳者ともふし帰服いたし候方多く有之候所 一昨秋初五日ばかり少々不快の様申居候所食紺抔 一も常体にて是ぞ病気と申やう体もこれ無く 服薬もいたさず只道志の方々と昼夜道義を かたり合ふのみにて河の苔しむ様子もこれなく 寝入る如くに終命いたし一同惜み候年齢七十 八才に相成候兼て認置候遺書ならひに教訓問 答書抔御座候得ば所々かきぬきぬ別所に出立置候 随而野老義信州土生と申所出生にて十一歳より 主人家へ出勤いたし高恩を蒙り候生得愚痴 無忽にて瑣細の事も捌けがたし常に心労苦 一痛絶間なく其上すぎ去し事いまだ来らぬ来月 一来年行すへの事まであんし煩らひ心中穏成る 時日もこれなく二十四才の秋大きに心痛いたし候 一義有之ある夜はなはだ苦敷夢を見候より発病 覚へ候夫より強き積気出来候て日々おこり時 みさし込塞ぎ或は痞へ胸痛疝積腰肩など いたみ折々浮腫いたし気力快覚候処は半日もこれ なく甚肉脱いたし常病人に候得は月におびたゞし く灸治いたし勿論数人の医者に懸り服薬い たし其外妙薬名灸亦世間にて信仰の神仏好 一物の食物を断ち塩物をたち或は数十日精進し立願 一をこめ七昼夜つめ候義も有之または神子を頼み 一先祖の事を問ひすぎ去りし両親の文を尋ね所 に祈念祈祷諸神諸仏の専札其外占ひ人相墨い ろまで残る所なく転倒いたし候然るに是ぞ印 あり是ぞ相応いたし候と覚へ候処只一ヶ条もこれおく 尤大医と承り転薬いたし候節亦は名灸或は立 一願などこめ候節当分心地よく覚候処有之候得 ば薬功と思ひ利生とおもふ皆我が心持ゟ作すき にて当分ざんじ心よく覚ゆるまでにて亦元の如 く何も替りたる義無之全く医師がたに恨みなく薬 に科なく神仏に不足なく罪科は只自己一人にあり て神仏医薬鍼灸の知る義にこれなく自化自病 と存ぜず一図に病ひとのみ心得手来苦痛いたし 候も愚智迷妄の作す所にて他のしる所にこれ なく其頃時気に中り熱症或は痢疾腫菜類 など病み候はゞ命も無之所に候今世間人々貴賤男 女をいはず十人には人持病あり病症種類数々 有れば病名は存ぜず候得ども皆こと〴〵く自業 自作に候得ば自心の療治ならでは病根絶ゆる 事有るべからず候却て自作自病を鍼灸薬を以 治せんとするは己が盗み取りし物を他人に価わさ 一んとするがごとし誰か是を用ひ候也自病自苦は 一自心療じ自心除かずして病苦とも去るべからず 只養生平日にあり病時にのぞみ医薬鍼灸を頼 みにおもふは愚昧のいたりにておそく候既に古人渇 に臨みて井を掘る事勿れと。一郎物がたりに惜 一澄虚無なれば真気是にしたがふ精神内に守 らば病ひぬれより来らむと医書に有之よし恰 一澹虚無とは心中一物貯へば安く寂にして万 タヾヨフ サヾ十三 シゾカ 水ウゴク ナガルヽ 事その物ごとに任せつくろひ餝りなく有のまゝにて 病ともおもわず病ぬとも知らず不生にして無 事の文なるよしさあらば病根何れにかある誰か是 病む人元来皆人六松清浄にて銘々心君安寧な れば皆是無病の者。御ふ審あるべし 一聖光義前段の通り数年来妄病にて苦み候得は 一中年まで存命もいたす間前存居候所主人一郎 一妄病野さ幸ひと成り右御教諭書はからず拝読 いたし愚智文盲の野に心耳にいりかんじ奉り 一身骨にこたへありがとく存じ猶又学才有る一郎 一平日の様子とは打替り落涙いたさぬばかり感得 いたし候ゆへ聖さき猶更身にしみ誠に時節到来と 一有がたく覚候兼て承り覚へ居候敵に 古しへは心のまゝにしたかひぬ今はこゝろよ我に したがへ。との一首河の義とも聊合点参らず 候処此時風と心付き候は是までは心のまゝに随ひ我に 一負け病ひに負け万事に負け候。心よわれに随へとは 心の妙とはなるとも心を深とする事勿れと古人 一仰られ候心に克ち我に勝つ義と得心いたし誠に 尊とき御心ばせと只独り感じ入候併愚昧なれば 意味たがひ候哉那さ匁候 右様に解し神道儒道仙 道をはじめ諸道悉く我一人の為の御教道と発 一明いたし心根に徹しありがたし即時心の置所を惜 一身にさきどつ大事も無之と心中決定候得ば万事心 安く河障りなき心地いたし野原へ出候やうの心 一特に相成り苦痛苦患も忘これまでの愚智妄 一心追々顕はれ昨日までの危き事ども今存じ候 得ば身もふるひ我一人心中歓びあり難き義限り 無く数々の持病日々に軽くなり或ひは忘れ数 一月立ざる内顔色常体に相成り日々心地能紛声 一主従両人打寄り未熟の論匁などいたし全く禅 一師の慈悲に依て主従とも危き命を助かり候得 ば命の歌とや申べし然らば台恩には上達致すの 外なく既に禅師何某公へ恩をおもはゞ精進せよ 精進是報恩との御義ともに信力堅固ならでは道は朱 じがたくと朝暮主従語り合ひ居候 一光陰箭の如くにて四十八才の春に至り候所未だ 一善と知て進み難く悪と知て即時去りがたく 一只つとめて善を成し悪を成さずこらへて悪まず 一愛せず思ひ量て好ず嫌かず苦楽無きにて心に 一問へば恥る事のみ多く皆思慮分別を以て成すにて 一拵らへものなれば皆内外表裏有り古人哥に たゞ有りの人は其まし仏なり仏を見ればたゞ ありの人。とのたまひ候へば繕ひかざり無く名 利名聞がましき事なく有のまゝこそ道成るべく と起臥工夫し折を得我が所存主人一郎へ打明ケ咄 一合ひ可申心得居候所ある時にすへ一郎野老に向ひ其 一方は最早何も望みは無哉と問はれ候ゆへ大願望 一有之候と答へ候へば如何なる儀哉最早望みは有るま じく存候に大願とは如何と尋ねられ候故旦那の 御影を以て業病治し身は堅固に相成候得ども未 心病治しがとく朝暮なやみ六根手足も自由相成 らず何とぞ明医を得良薬服用いたし度是のみ 一願望に候と答へ候へば一郎其方誠にありがたき 一しかんじ入候此方も同志にて符を合せたる如くに 一哉何卒時を得明師を求めともに真心決定いた し度本立ざれば末ならず本は一心なり万法の根 元道師を得ずんば予決定なるべきやと。野老料 又かんじ入候愚意所存に安堵いたし候は只心持を惜 じ候ばかりにて決心いたしたる儀は無之夫ゆへ疑がわ しき不審の義抔あまた有之候得ばをきふし心す 一まず罷在候誠に有がたき思召に候道義有るかた御 一聞およびなど無之哉尋ね候得ば急々聞および居候 方も有之よしにて当時知識学僧と承り候禅僧方 一道人と聞及び候方々所々へ立寄り御教示亦講訳な ど聴聞いたし候所多分譬岩金剛経又は法花経諸 経中の要語諸祖の語録聖賢の諸書明語明句抔 にて御示し且御講釈候へば尊き儀に候得ども心根 に聢と徹し候処曽て無之候得ば二度したふ所 一存無之如何せんと朝暮是のみ主歎き居候折 一節白山奥に独居の老翁あり究て道人ならむ と世間の噂承り候得ども誰れかしたふやうすも 一無之近辺の人々に尋ね候得ば翁といふ一人者に て白髪の老人なるよしすべてまのあたりにて翁 とばかり呼び候よし承り候得ば頻りに相見いたし 一度翌日早天に出立主従両人白山の麓へ罷越シ 候所何の借手無く候得ば両人諸とも一心不礼に登 山権参候て案内を乞ひ候得ば内何れの誰なる哉と 一尋られ候故外何国何方の誰々と申入候得ば内さ やうの人物此方へ参るべきやう無之門たがひにて有 らむと外道を踏み惑ひ候ゆへ御尋申度と申入候 一得ば内何れへ通るやと外直路を参り度遥々 御伺ひに罷越し候と御答申候得ば内はる〴〵とは 一何国ぞ外御同国の者にて候と御答申候得ば内国 一の直路はいかで通らざる哉と一郎〽降る雪に神代 の直路埋もれておき臥ごとに踏惑ひける。斯 一応一郎さし出し候得ば内時ならずいかに雪ふるを 一郎〽爰にのみいつしか降て積む雷路ふみ分采 一たまへ神のなさけに。かく読てさし上候得ば 通れとの仰せにて一間の御居間く通り候得ばたばこ 飲まば炉に火あり茶ほしくばわかして飲めとの御 義にて両人とも只慎しみ罷居候得ばその方共遥 々尋来る段笑止也無益なりわれ等事一字一句を しらざればさとし示すべき事も知らず時ならず 降る雪は順気ならざる故の病ひなり一薬ならで 同か是をよく消し癰さんや一薬は是不求自持 一取て服せよと二人礼拝してひとへに御慈救願ひ 一奉ると申上候へば三日の内に来るべしと仰有れば 一畏り立退き帰り候所両人とも夜中目も合はざれ ば明るを待かね翌日早天両人参上いたし銘々 ども愚智盲昧より踏みまどひ方角も失ひ候段申 あげんとするを誰か響路に導くや皆自自己の所作 一昨日の夢は跡なく只是即今の大事皆自心を信ぜ ずして他に求めむとするが故に労して切なく古 一人云く道の為道は常の道にあらず名之為名は 一常の名にあらずと是非邪正皆是空裏の巷あ 一をか取捨せむ神儒仏道も覚へ知りたるは自己を しばる縄索なりいさゝか当席へ持来る事勿れ との御示教にて神儒仏諸道こと〴〵く皆心法な 一る事を御説得有らせ本来自性智愚男女無く 一人々具足し円成して神聖仏我に同体にて尊卑 一なし自己愚迷よりして悟道発明は池世の我々 及所にあらず只神仏を拝礼し願ひ頼み功力によ つて安心すといへば聞ものまた同心して然りとす 是一盲穴育を引也世間に清油なく道に古今 なし信じ守らざるが故に天罰をうし古徳の云 天興不レ取還受一其罪一。と自心を信ぜずして神仏 あるひは経巻を信ずるは名を信じて実体を信ぜず 一影を尊て儀を見ざるが如し影とは色身也備とは 自性なり見聞覚知の主人也リ顔に惑るものは形を 一見るに如かず此主人公に相見せずして迷妄を去る事 一有べからず此公の外尊信すべき物無し書は言を 尽さず言は心をつくさずと。上天の載は無レ声無レ臭。 亦四十九年一字不説言語道断心行所滅。と三日三夜 拝聴し奉り云外教外の御口伝を受。散る花の 咲ぬむかしの隠家を明せよ春の風吹ぬまに。 との一首を頂戴いたし誠に身心に徹し筋骨に しみ有難き義猶禅師の御教諭書且法語何某 公の御遺書等此度はじめて有難く拝読いたし 言舌の及ぶ所になし心を以て心に伝ふのみ。愚昧 之野さ別して及ばざる大事のみ此前段書記し候も 一皆一節加筆を以て斯の如に候由さ認めは申に及ず 一郎遺書都て別書の類文段の類文段の前後又は誤字片 一言始終とも拙なきに心を留めず只銘々一大事を 先立心眼を以熟覧有之候はゞ足る事を知り真楽 を得るの一つの助けとなるべく存じ奉り候て忍意書 添のこし置候 一郎野毛主従とも禅師翁二尊師の大慈大悲の 一高恩をかふむり両人とも危き命を助かり何を以 一てか恩を報じ徳を謝すべくやう無之候へば銘々ども 自作自病にくるしみ悩み悩み候数手来の迷妄愚智 一白地に六しるし候は全く上たるにも下々にも貴賤 男女をいはず自身心に写し是を熱覧有らば 一御心中に通徹候処多少はしらずこれ有るべく候尤 あれば道義に本づき真の養生位とも成らむか と愚昧文盲つたなきも忘れ事残し置候後世の 一人々心用ありて信の養生道寸とも相成候はゞ銘〻ども いさゝかの報恩謝徳とも相成べくとかならず他の義 に無之自身一人の御事に候二師之道教一郎逸 書御熟覧候て信用有らば足る事を知り安堵を 得候事は明日を待たず即時にあらはるべし候心用 して御試みあるべし候 一野老義当年七十九才に相なり候然れども未だ目 一鑑を便りにいたさず一日六七里の歩行は昔号に も不存寒風炎暑も難きにも覚へず飲食差 きらひ無ければ一日も味ひ違はず口に合ひたる品 にても過さゞれば終に障りたる義も無之衣服 一諸具とも美悪を存ぜず候得ば不自由なく日々心地 能く中手ゟ還て丈夫に相成此老年に候へども元気 衰へ候やうにも覚へ申さず元来大病者の愚昧文盲 成る望き時節到来いたし主人の不幸ひ我が幸 ひとなりて不計御道徳の尊諭書拝覧いたし 一心底に徹し候ゟ心中変致し即日ゟ朝暮起臥 一真の養生いたし猶又時節到来を得明師に相見 し奉り古今天下之一大事野老に具足すと得心 いたし今日に至り候四十余歳の頃まで病み苦 しむも自心の所作其病苦を忘れ安体堅固 と成るも亦是自心苦患も自心安穏なるも自 心心忠孝も自心不思ふ孝も自心乱るゝも自心治る も自心短命も自心長寿保つも自心善悪苦 一楽悉皆自心独り知之故に古人心は万法の根元とのた まによし眼前に野寒明白の證人也後世の人順逆苦 一楽万事夢幼成事を知解し身の一大事に心をよ 一せ自然の清浄地に至らむ事を願はるべし皆是 一道義に本づかむ便にも成らむかと愚かなる抔なき文 筆もわすれ斯書記し置候返す〴〵も皆自我 自得して自病を除滅しふ老不死の身と成れ 一との義他事無之聖人曰吾博く学び識とおもふは誤也 一以貫之と宣ひ候由大道には仁義の名も無之皆自然智 一得させむとの御慈侮に候へば広学多智也其人を導き 世の為なる志なきは無益の人に候知識も悟道発明す と云へども衆生済度の志無きは声聞心と申由宣ひ候 一斯言聖老文盲拙なきを必ず侮られまじく候 一五なに如き愚知文盲の者も真実此身の大事を思ひ 一入る志ざし深ければ何の造作もなく此身この信 直に真楽を得安心せむ事疑ひなき事を云ひ 顕はし残さむ為のみ余事無之候古人云山高 故不レ貴以レ有レ樹為貴。人肥故不レ貴以有智為其。 と広学多才にして古今唐土天竺の事をも わきまへ魚鳥虫獣草木石砂まで都て人の知ら ぬ事を能知り詩を作り文章など書を儒者学者 と心得候は大ひなる誤り成るべく候是は人の為に学ぶ 一小人の儒とやらんにて俗儒なるよし儒とは足か事を 一知りて此身を濡す義なるべし我が心性を見得せ ずして聖賢都て有徳の御心見知る事難かるべく候 一古徳の御心も知ず書見候ても益なかるべく一字 一句も知らざる文盲聖人にても自性を見得いたし 候得ば古徳と別体成らざる事を知得し身心安 一穏にして自由なり博学多才なりども国家諸人 の為ならでは何の益か有るべく愚昧文盲成る野を に候得ども即今示談するを心用し守る人は身偽り 一家初合し主従親子夫婦兄弟云ふべき一言無 一く他に交りても何か争そふ事なく皆我が非を見 て人の非を見ず人の是を見て我が是を見ず 物に任せて我にまかせざれば自由自在にして貰 患有る事なし古総の明言明語を拝聞し亦見 一読し覚へ知るとも信用し専らざる時は何の益無 れば既に聖人も従ふて改めざるもの如何とも仕 がたきよし宣ふと承り候 一古今豊きとなく賤きとなく僧俗男女をいはず 一面に銘々具足の信あり信は心にて本ふ二なり信 とも心とも名付けたるにて元来名なく字も無く候 得ども即今兄聞覚知する我が主人公にて六根の主 にて候斯自身尊き事を知らず只此色身に執 一着して外に道を求め種々の苦行をし安楽を 得んと願へども我狐妄想止まざる故見る毎聞 く事毎に流轉し苦を受く事皆自心を信ぜ 一ずして他に向き願ひ求めむとするが故に候生も 死も有も無も善も悪も何も角も打やつて只此 身の一大事を深く思ひ一心一念に信心を得んと 二六時中起臥歩行茶を飲み飯を食し二便を便ずる間 も志絶ぬを信心者と申候不祈して神慮にかないふ願し て仏道に入ると皆是信心の功徳にて別の寄特は無之即今 此身の一大事我が尊き事を自知致候へば凡聖賢愚無く同 一體平等の直心形はれ諸病近付ず無異無事也御不審 候はゞ即今信心を発し信心を以て信心を御自得候て納 得可被成候 釈尊娑婆往来八千度と宣ひ候も無始終を云ふに て暫も不可離の儀也一心は虫魚草木とも一同に て天地同根万物一体也然れども其気の稟る所等 しからねば鳥獣草木万物の心善悪不同し其中 一に万物の霊長なる人間だに等しからず水も交ら 一怒親子兄弟と云へども不同有て善心有り悪心 有れば此善悪を正し改むるは只此一心一心而も 一無体也御中主明徳妙皆一心の異名也全く心外無 別法余念無用 一われひら〳〵ゑ 呑まねとも我は日々酔ひくらすうたふも まふも法の道にて 長寿秘伝鈔上畢 七十九歳 八郎兵衛述 をはり町 小川氏 狩り 養生 仝長寿傳下 真方 をはか町 小川氏 養生長寿秘伝鈔 下 八郎兵衛 一郎遺書之内書抜并に教誡 伊久堂ひか思ひさためてかはるらむ頼むましきはこゝろ なりけり○との古歌よく〳〵思惟あり度老物中年 一病気の砌養生心得且身行の儀出家方学友懇也 間老人方親類老分の者種々深切に異見教訓に あづかると云へどもいさゝか心用所存なく数度に及び てはうるさく思ひ道理無き所に道理を付け聖賢 の言葉を引手前勝手の理屈を云ひ只一図に病 一乗とのみ心得栗随故埒募り只医業のせんさく 一のみ致し日夜朝暮我が望み好む所のみ思慮分 一別し家潰の度も親妻子も思はず我侭不如法 のみ増長し既に家名一命も絶せんとする危き 切に臨み候則別段に演置し如く全く嫡子と 一出生し慈愛寵愛に預り衣食手具まで不足 一無し暑を避け寒をいとひ身行放逸にし其上 壮年より儒学をこのみいさゝか事を知り物を覚 へ詩作文章抔いたすを学文と心得尊き上品の 事とのみ心得て覚へず知らず高慢に成り我 意つよく只ふ学の者を愚昧文盲と見下し取るに 一足らず論に及はずと侮どり身家の大事を心付け 申呉るゝは上無き深切成るに其虚実の翁へだになし只我 一人智有る様存じ心中に聞入る所存絶て無く僧方 一学友などは皆才智も是あると云へども亦其中には何 れ大小私失有れば其矢を見て信ずる心なく我が 大矢はいさらか見ず他の小矢を見るは愚昧の常にて恥 入る事ども面目なき次第なり然るにはら衛儀老お 一同年にて十一歳より本勤し無忽ながらも実体にて苦 年より仮初にも不実成る事を致さずいはず万事 所作皆篤実なれば頼母敷ものとは兼て心得居なが 一ら文盲無忽なれば河ほど実意を尽し異見致す をもいさゝか聞入る躰なければ右数人の異児教訓 も今兵衛所存にて各頼み取はりよふ段寄持とや思 信とや申べき 一然るに不日学成参河角中合ふ内風と五常の義を論 じ無信不立仁義礼智も信之一字信は是懿実仏 道には信心神詠にも。心たに信の道にかなひなは 祈らすとても神や専らむ。と宣ひ只々信の一 一字とたはむれ交りに義論し別れつく〴〵我 一独り存ずるには斯古への聖神仏の教道教化みな 是信なり今我他に向て信の一字と種々理に理を付 て信を説き信を云ひ双ぶと云へども皆学知にて自 一己いまだ信ならず唯信の道理を知覚して他へ口 外するのみにて自心信実なければ日々朝夕身勝 一手のみにて古徳の教意にかなふ義一事も有べからず 一聖賢書籍数万巻有りとも皆信の一字より出ざる は無しさあれば不読ふせの文盲愚昧のは郎念我ら よりは聖賢の御心にかなひたる者ならむと風と心 付けば八郎知種々心配し心を尽す実意感入 しが程にも主をおもふ心ざし世間稀なる忠信 一者と存じ彼が実意をおもひ廻せば我が放逸ふ実の 段々数々心にうかみ心に問へば荅ふ所なし我一人に 一無面目存し何となく身挟り心置き所も無きやう の心地いたし扨世間人情を見るに走きも賎きも智 あるも才有るも広草も博識も信の一字に心を悉る もの無く聖賢神仏都て古徳信の一字を伝ふのみ 成るに此一字を失ひ角で古徳の心実を得べき也 一と風といさしかの疑念おこれば昼夜物事手に付 かず病身も忘れ只忙然として居ける折節八郎兵衛 一参り或御屋敷より秘書を拝借いたし候誠に時節 一到来と存有がたき御儀得々熟覧候様申写本一冊 さし出し候ゆへ河を申儀や時節列来とは仰山ヶ 間敷心得ぬ儀を申事かなと何心なく一覧いたし 十四五行見読しけるに皆是信実なれば仰天し 一手あらひ口すらぎ一通り相覧し誠ニ有り難く身 心に徹しければ繰返し三度拝読し不思未面 一自心を悔ひ扨は郎兵衛飽果もいたさず実意を尽 一す段骨随にしみ言語なく彼れに対し只面 皮なく覚へ右秘書数度拝覧し心中決定致し その旨八郎兵衛へ演説し右御秘書返上し我が思 やうは斯の如き御教諭書入手も前段のぶる所の信 の一字に不審立も亦此御教書尊み信用いたすも 心行あらたむる所存決するも悉く皆八郎兵衛一人の まことより発生しければ今我は郎兵衛おくば一命 を失し父祖主家名も断絶し毒子にも苦患を 見すべしさあれば何を以か此恩八貞念に謝す べきや只先八郎兵衛意を心用し守るの外なく 一是を教恩と心得るのみ右御教諭書道義意旨は 格別身行の儀は兼て心得居義亦御文体平和なが らも麁文なれば前々の心底にては見下し一覧致 所存もこれなき所は兵衛篤実より信の一字に心付き 一姿形を見ず心躰を取る所存ゟして真実の御教に 一と感入し見読いたす事にて全く皆はらゑ影也 恩なりは予念義は実語教童子教の類は習ひ 一読むとも孝経一冊素読いゝしたる者にこれ無く愚 一昧文盲なれども信心堅固の勇は衆人にこゑ稀成 ものに候 八郎兵衛義廿余才の頃ゟ持病発し病数あまた にてせん気治すれば胸ふさがり胸ひらけば亦停 滞し或は逆上して頭痛目まひ立ぐらみ肩 背など痛み心地能き日とては半日も無之様子 なれば数人の医師鍼灸薬名薬名点か持祈祷 一神仏立願など種々手を尽し心をつくすと いへども是ぞ相応し是効と覚ゆる義簡て無 く最前手もつき仕方なければ河卒四十歳ご ろまで長命呉れかしと祈り居ける所実 一徳に依りはからず万病の一薬を拝服し近来 は中年ゟ追々壮健に成り当年七十八才にて 一耳目足腰中年の及ばざる程の達者なり 右数病も本一病にて篤実の気性なれば万事 不実をきらひ違ふ事をきらふと云へども衆人左 は仕向ず既に我等一人の妄病不心行にも同程 か労し只実心一筋にて心中の捌き物事明らめ わきまふ智足らざるより苦労絶へず夫より して右持病を発し昔に苔をかさね古体 一病者と成りたるにて彼も時節を得危き身 一命を助かり両人諸友寿齢をたもつ事不思 義とや言ふへき禅師白山翁二師之御慈恩恩道 恩何をもつてか謝すべき 八郎急道心深く信力強きよりして諸友白山冠に 相見し不求自持の良薬を得禅師の道徳弥尊く二 尊師の慈恩に依て両人とも危命を助かり過去の妄 病苦悩跡かた無く忘却し朝夕起臥只その物にまか せたくはふ一物なければ寒具を覚へす衣食住の美 悪をこらず貴賤貧富も忘れ善悪邪正の分別 せざれば昔楽もなく自由自在なり一大事真の巻 生是なり当巳七十八才なれば最はや明日もはかり がたければ子孫の為且世人真の養生心得の端にもや と幼稚ゟ中年妄病中老屈せし当時までの始 末そこはかとなし有体書残し置く事也諺に 一恥を云はねば理が聞へぬと云へりさ物前段の通り 一若年より年来書見し自身には古今事理余程 一発明し人にも越へたる高上の根性なれば他人の深 一切実義も耳にいらず飽まで不心行不孝の段々論に 一及ばざるに愚昧文盲のは即念数度の虫実風と心耳 に入り我が非我が恥辱を知るより不孝不義の汚 一名を灌ぎ九死一生の危命を助かり主従父子夫婦 一和し相続して斯寿を保つも八ら念徳義成れ ば皆能感得し発明あるべし聖人も書は言を尽さ ず云は心をつくさずと世間志学之徒我等如 き不心行成るは稀なりと云へども異行一激成る学者 亦まれなれば朝暮経伝の書中に起き臥し博学多 一才と云へども言行一致ならざるは元是何が故成るぞ 一言行を観み行言を顧ば自己恥しかゞむ。道に古 一今無く凡聖ふ二賢愚一敬也不審有るべし恥の 一人に於るこれより大ひ成るは無し 一皆人幼少の養育に依て実人ども不実人とも成り長 へば士農工商上下貴賤なく両親祖父祖母或ひは 一乳母経と心得べき也諺に親ではなして敵かやと云ふ 一事愛におぼれ心のまゝに盲成長し教博我侭の ふ身行と成りふ孝の名付き其時にいたり親ふ便に 一思ひ教訓しきびしく折鑑すとも聞入る事は扨を 一き無慈悲の様こゝろへ却て親に恨みを含む他主人異 見教訓の深切も皆己が不勝手なれば用ゆる切に至ら ず行末終に孤と成り侮られ心外に思ひ後悔すと 一云へどもかへらず難義し苦痛の身と成るを云ふ父 ふ父子ふ子と聖人も仰せ置れ亦。可愛とて盲み立 し古しへは世を背しとも思わざりけり。と眼前の愛 にほだされ生涯の大愛を知らずよく試るべし 成長して敦落ふ身行者とも成らざるは大かたは 一内端なる柔性にて病身とも云ふものなり世間に出ては 高声にものをもいはず長敷と見られ家内にては短 宣にてさゝいの事にも怒り物事せ話しくまてしば しなく下人を遣ひ肝症肝積など名を付く全く気 随我まゝにて増長すれば狂栗の如く世間にて肝蔵 一やみと云ふ歌の妄愛ゟ自己と苦しみ命をも縮むる なり上主たる方にては下々の者刃上に居が如く心采 一安ずる隙なく下賤主人にては妻子召仕ひに至り暫 時安堵の間なく心を遣ひ家内一和する時日しも無 く終には短命す是全く両親眼前の愛におぼれ 生涯の大愛をしらざる故なり身を正しく命を全ふ せむとおもはゞ二六時中真の養生すべし養生は道心 にあり道心は志なり志たつ立ぬは親の養育にあり 一小愛大愛のさかひ能こゝろ得べし 一道義志立つたゝぬは幼稚の養育にあれば親として 一真実愛をおもはゞ是をいとわず寒風を避けず善 悪邪正を正し正善なるをば賞美し邪悪成る をば急度糺明し善友に近づき仮初にも悪友に まじはらさず下人小童小童小女遣ふとも無理無慈 悲なる事なくいたわりあはれませ用立藝道をは げましたわむれにも遊芸などいたさせず只朝夕 一我が非を知り他の是を見せ実不実のさかひを能く 正す是親の慈悲にて大愛と云ふべし親の恩主 恩を忘るゝも実意なき故也実意なくして道心起 るものあるべからず道義は是信也亦我に実意あるも のは人の実意を受用し他の実事を心用するは我 に実意あるものにて道志の者成れば亦信友多し 其本皆幼少の養盲にあり戈ふ才有智無智に 依らず 一女子は別して盲かた心得べし愛におぼれ心の侭に 育る時は前段の通り多分気随に成り十余才より 一色取見へ名聞を好み過半陽気になり勝也皆眼 一前の愛におぼれ幼稚より形姿当世を好み目立風 俗をさせ所々物見或ひはたはむれ場所へ達れゆき 一猥になるたはことを見聞せ遊芸など勢はせ帰 気の事のみ見覚させ全く愛にあらざるにはあら 一ねども親の楽みにいたす切多しいづれ当人は何 の念なく陽気に成るとも我儘に成るとも何とも しらずおもはざればいさゝか罪科なく。貴賤とも 毒汝は猥なる戯物などへは行るべからずゆくべからず 古への戯切にては思ふ忠孝不孝貞ふ孝貞ふ貞善悪曲 一直を正し見せ神祇親教恋無常眼前に顕は し感じいる場有り歎き患ふる場もあり笑ふ所も 一有之て実は遂げふ実は遂げず義は立ふ義は不 一立是非を正し見する上下貴賤の身の上の事ども にて実事かとおもへば全く作り物のたはこと戯言 かとおもへば乍ち眼前の事ども有れば戯言にあら ず実事にあらず只見る人の心に依て為不為有り 然るに近来は只猥り成るたはことならでは諸人好か ざるにや逐々作意いやしく熱に成り過半聞 一苦しく兄ぐるしき事ども多ければ毒女などは 一行しべき場所にあらず全く世間男女とも右体猥 り成る事ども好むはいつとなく心中乱れたる故也 一女は従ふと云ふ一言にて事足る身なれば幼少養 一育方只直質第一なり親兄姉を尊み大切にし一言を も背かず弟妹を慈愛し召仕ひをあはれみいたは り心中尊く身を卑く真実を体として貴人 たりとも縫針能為ずんば有べからず是女子弟 一の所作なり手跡は次にすべし古への女子はしゐ て手跡は心がけざるなり故に賢女貞女に達筆と 聞しは稀なり往昔には女子はあまり手跡は致さゞ 一るなり何故なれば親に従ひ嫁しては夫に従がふ身 一なれば也只貞正を心の徳とし温順を美色とし 一静に女事を勤むるを美服として直質に言 葉すくなく内端なる是女の情なり姿形も目立 ず古風に長敷は奥ゆかしけれは男子も自然と 遠ざかり近付ぬなり世間の諺に甘き物過ぐ すれば府生ずると言ふ事給ものゝあまきにあらず 一親の愛におぼれ善悪も正さず心のまゝにさす を甘きと云ふにて夫れよりして気随我侭の 一疳生じて種々の病ものと成るなり愛におほるゝも 一また親の我が楽み先立てば子の行末もおもはざる にて親の薄情ならずや仮にも真愛大愛を思ふ べし 一女子は万の芸に秀づるとも貞心専らになくば女とは 云ふべからず一芸なくとも直質にして親夫の心を 一以我が心とし物にまかせて我なく見聞の色に 移らざるを貞女孝女と云ふ 〇我か軒に鶯のなく梅かほるいづちや人の はるや尋ねそ。 一聖人曰苗而不レ秀者有哉。秀而不実者有哉。と古 一今賢愚無く同性同体にて一同信性を受得したる 者なれは不レ秀と云ふ事なく秀たれば不レ実と云 いふ事有べからず著し秀而不実ば我が不作なり 天をも人をも恨むべからず 唯学ふ学に依らず上智下愚によらず発才無才無才 一利鈍男女に依らず只志の厚薄浅深に依るのみ 古徳云至理絶言教は是言詞実に不二是道一道 一本無言言説是妄なりと。言外也教外也一法の 人に興る無しと。必らず学ふ学の知る所にあらず 一老拙妄迷よりして危きに臨み手来労して切無く 一益なき事を後世に伝通し知らしめんと同意の 一義を幾度となく書記す老屈の聖生なれば始 め書ける事も後に忘れ前にいだしたる事を又 一末にのぶる類間々有るべく重言誤言誤字文 のつたなき等心に寄せず只自己の一大事と思 ひ取て聊か頭を振らず自心に求めて直に見信 終あらば月日を不レ積真楽を得む事疑ひ有る べからず生をやしなふ最第一是也 一大事遺書 一此の身の大事を思はじ即今真の養生を為べし真の 一養生を為むとおもはゞ即今安心快楽を得べし安心 一快楽を得むと思かゞ即今足る事を知るべし足る事 一を知らむとおもはゞ即今我と万宝何か重き何れ か軽き軽重を知るべし軽重を知らむと思はら即 一今欲色名利を去るべし欲色名利を去らむと思は ば即今我が此の四大色牙。夢。幻。泡。影にて有に 似て元来我無き事を知るべし我が。此色身夢。幻 一泡。影。なる事を知らむと思はじ即今善悪の思慮 一分別を去るべし思慮分別を去らむとおもはゞ即 今朝夕立居起臥に起る念の源を見るべし念の源 一を見むと思かゞ即今我が一心の姿を知るべし一心の 姿は是世界の姿なり此姿を自知せむとおもはゞ即 一今生死事大無常迅速の一句擬議無く直に聞 直に見只是生死事大無為迅速貴賤男女一大 事是なり経に云知幼即敵無作方便。ともろ〳〵の 一相は皆是幻にして実無し凡聖賢愚なを是水 一由の影像影を留て実とするは自心を見ざる故 なり有レ善有レ悪心の動無レ善無レ善無」悪心之体むむ き無ければ尊とむべき無く悪無ければ善無く 一嬉悲なければ苦楽無し是心気を養ふ良薬二 一六時中真の養生是なり仮時を待たずいそ ぐべし如何なるか是自心の姿生死事大無常 風東 子々孫々え遺書 一神仏聖賢都て古総の書籍其数を知らざれども只 一己を脩め人を治むるの外他事無し然るに老物嫡子 一に生れ数多の兄弟皆々女子なれば祖父祖母両親 一格別の慈愛に預り我知らず粟随我まゝに育 若年の頃より心の侭の放蕩不身行の段々言語 に絶し難き事どものみ中年に及び色念に犯され 一既に一命も危きにのぞみ時節を得禅師の慈恵を 一蒙り聊発明いたし前非を悔ひ後悔いたせども 一甲斐なく士家は云ふに及ばず農工商のもの子供 養育方尤大切なり人として信志なき時は生涯 一知足の期なし日々明沙道沙道師道海道海道朝夕 相見すとも志なきは手段なく志とは信也人とし て実意無く志なきは全く養育のふ実にあり 故に書に云く里は仁を美とす撰んで仁に処 ずんばいづらんぞ智を得むと古しへ大身大禄 の家々には下臣の内志ある士をゑらみ附人とし或は 一友をゑらみ土地をゑらまれしとこそ幼稚より 善悪邪正慈悲無慈悲実ふ実を正し善事 実事。慈悲心成る時は賞し悪事不実無慈悲な 一る時は急度糺明し起臥に邪正を正し養育い さすこそ真の慈愛にて是又親の慈悲なり幼 一稚無散なれば善悪のわきまへ無く我が気質 の生の住の所作なるに皆眼前の愛に溺れ其 好む所にまかすよりして我知らず粟随我侭に 成り成長後不義不如法ものとなりて不孝の汚 一名を受くるも全く親のふ実にて只眼前の愛に 一ほどされ悪業邪行も免し理非をも分たず全 く皆親祖父祖母の愛は愛にはなして銘々楽みにお ぼれ成長行末を思わざる也是を愛とやいはむ成 一長し不孝たりとも当人罪重からず養盲不実 一の作す所なり亦今時は出産して母の乳ありながら 一乳母を以て養育せる事親の不実にて愛も知らざ るなり高位高禄大身たりとも母の乳は出生に輿 へし所の天扶持なれば無上の良薬なり然るに興 ふ所の扶持あたへざるは何が故成ぞ親自己の身愛名 一聞に抱りて子の愛を忘れたる也天より与ふ所に 高下貴賤差別なさを見て感ずべし上古は腰 一妊すれば目に悪色悪行を見ず耳に淫声をき かず席正しからざれば座せずと斯母の児聞声 一色まで正す是真の愛ならずや篤実博学の師 一に随身すとも猶二六時中側を去らぬ親の示訓 養育肝心にてまた仮りにも友をゑらみ交はら 一すべし皆是親の役なり。聖人の曰君不レ恩臣不 臣。父不レ父子不レ子。感得すべし 幼稚養育心得 一貧賤たりともいやしく育つべからず 一富貴たりとも心のまゝに育つべからず 一上下とも憐み慈悲無欲をおしへ無慈悲気随 利欲戒むべし 一下たるは云ふに及はず貴賤とも正直実意を教へ名 聞無実を戒しむべし 上下貴賤とも善友をゑらみ仮にも悪友に近付べ からず 一上下貴賤とも万事美悪好き嫌らひ聢と戒べし 一常に上を尊み下を哀むを談じ且孝道忠義を 一沙汰し理非を正し心を尊く身を卑く養育すべし 一庭上の樹木我が侭に枝葉しげり蒔々敷なれば木 の間すかさんとて植木職来りて延び〳〵としたる よき枝振りの惜きと思ふを伐りよく栄へ美し く見へけるをも摘み込み若木は右へ延ぶ枝を左へ たわめ前へ出たるを後へ縛り惜げもなく伐込み 一摘込ゆへ翌年よきほどに栄へ生ひたち若木枝 一ぶりも能成るなり其侭に捨置ば己がまゝに栄へ しげり風も通さねば下葉より枯れ或は虫付き 一病棟と成るなり皆兼ての養育に有りけ物薄 水を踏み深き渕に臨み手来危き幼夢に犯さるれ ば斯繰言潰る事容易に心得見るべからず皆人此身 の大事に心を入させ真楽を得させむ為のみ真楽はふ 一老の良薬取て服用せむもの十人は十人こと〴〵く寿 一を保たずと云ふ事無し疑を生ずる事勿れ 張とづる水も水と知り得れば誰が手もからず とくるなりけり。 ○斉木何某に答 一何某問ひけるは人として道を知らざるは人外と古人も宣 ひ候へば何とぞ得道いたし度候得ども一向ふ学久盲の 我等儀殊に多病に候得ば是を自得せむ事難かる べし如何 答道は難きに似て易く安きに似てかたし只道心 一の深き浅き浅き厚き薄きのかわり有のみ教を直 に疑がはず信ずれば安く道を成ず不信なれば転 倒し外道をめぐり長く苦みに沈むされば一代 一蔵経自心即仏なる事を説きたまひ自心の佛を 一尋ぬるを座禅と云ふ神道儒道には是を安座静 座と云ふ也経論委く覚へ知ると云へども旨に於 ては一字をつかしず博学多才還て道義の障りと 成るなり教意は只心體を顕はさんが為也本心だに了 一知せば何ぞ経論用ひむ文字言句皆心の病ひと成 一る古徳云学を為れば益す道を為れば損すと 志ある道人は古人の糟粕をなめず幸ひにふ学 文盲なるは道に入るの便也毎道に志あるものは悪衣 一悪食を恥ぢずと住所衣食を思わず大慈悲心を 一発し世間の助けとならむ事を深く思ひ我が身一つ の為に道を求めず只二六時中心を気海丹田に治 め大事を聞て小事を聞かず立居起臥飲食の間 も怠らず如何成るか是自心如何なるか是本来西 一目と間断なく心源に向ふべし多病の由是全く病根 一知らざる故也元是皆人無病のもの一度相見せば法未 の諸病一時に消滅して安体なるべく万病の一薬是 なり 深山なる岩間がくれの菩清水有とばかりは すむかひもなし ○木林何某に与ふ 一一切経伝胸中に貯へ広く講ずといふとも一度貫 一通せざるは小人の俗儒にて論ずるに足らず故に 一呂子の儒と為れ小人の儒と為事なかれと君子の 儒とは為己の学者にて已身を脩め人を治むる実学。 一小人の儒とは為人学者にて古事来暦を知り詩作文 章を好み博識多才也と云へども脩身癖家の志な く世人の為ならざれば俗儒の記誦詞章。用間に足 らずと為己学者は知二天下一。為レ人学者は自己を知ら 一ず譬へ十三経をさとし五常五倫の道を行ひ或 は五戒十戒乃至数百戒を保一代蔵経に亘り孔 一老の行跡を写し仏祖の徳に似たりと云ふとも私 知学知を除かざれば皆我相人欲の私の法なり只 我なく心無く無レ声無レ臭の自然智に至らずし て分別思慮を以てよくせんと思はゞ汝をむして飯と 一成さんとするが如し千載を経るとも成就すべか らず儒家にて要書は大学中庸武巻なり皆自 一已に求て工夫を成し私知に染ざる不顕の至徳を 了知し充しめよとの尊教也至徳は至心也感心也 一たとへ一切経書を諳じ聖人の行跡をうつすと云へ ども聖意を自得せざれば一句一言も真意を得る 事あたはず神儒仏老の諸書皆是心性を自得 させむとの道器にて文は跡有りと云へども道は跡 一なし形なし以言不レ可レ宜。と云外教外一字一字一句を 借らざればまた難ふして易く安ふして難し急々 一自心に向て見聞覚知手を挙足をはたらしは何 ものゝ所為か暫時免さず是を見究すべし我が 一大事是なり常に心気を臍下に治め立居起 一臥行歩飲食の間も打置ず如何成か是見聞覚知の 一主と疑ひ探るをふ断座禅動中座禅と云ふなり 広草多才と云へども信心力無きもの決定せむも 一及ばす文盲無忽にて信力強きもの決定した る徒多ければ難からず安からざる也我が此身 顔見聞言語何ものゝ所為成ぞ急々一決すべし 一若亦根栗柔弱にして時節因縁来らず決定い たし粗くとも此志怠慢なくばいつしか我を忘れ 一苦楽の外所に遊行し疣を忘れて寿を保つべし 素より此身生ずる時来所なく死るとも実去所 なく万々山来を経るとも増減無し万物一体平等 一之直心生死無ければ往来無し安堵すべし不老 不死之良薬是也うたがふ事勿れ ○道志之者へ物語付問答 一玉殿楼閣に起ふし羽二重綾錦をまとひ山海の 一珍味に飽くはかならす命を縮むる者なり心得べし。 と侍坐の者問ひける 問是ハ衣食住之美也何が故命を縮む哉 答衣食住之美には必らず添ふ物三ツ女色。酒。念慮。 是のみならず厚味なるを食し身体動きはたらくに と稀なれば飲食とも和せず色酒にて内虚し損じ 一念慮は妄想也色酒も妄想より起り身の害と成る 事をしらず眼前心地能きに覆はれ命を縮む と恥辱と損恥の二つ有る事を知らず是皆妄想 一の作す所にて身敵也古人云身体労すれば善心 生じ身体逸すれば悪心生ずと身上足れば心上足 らず 問然らは女色酒を断ち思慮分別の念絶せむ事如何 答是亦三ッに非ず色酒も思慮妄念より起ればたゞ執 一着を忌む着念無き時は科なし著ふ着過不足わ 一連独り是を知る菩楽無レ主従二分別一起る好嫌皆身 愛より起りて身を破る。夏の虫の燈火を愛し渕の 魚の餌を貪りて命を失なふに似たり我が好く所 の執念より起る是を妄念妄想と云ふ皆人苦悩苦 愚絶へざるは妄想の所作也即今此妄恋何れより起り 何れに去るや我が心源に向ひ急々児究すべし此妄 想の源を見得せば望み好む所の諸願の数条即時心 のまゝ成るべし後時後刻をいはず即今起り去る心 一念の源を見極よ此源を見究ずして心のまゝの快 一楽を願ふは無徳無能にして官禄を望むが如し 一我心源を一決せば熱念即時に消失して自由自 一在こゝろの侭なる大安楽を得べし片時も免さず信 力堅固にして一決せよ是真の養生可レ為最上 一禅家語録法話などを見古則公案など推量私 解して修多羅の教は月をさす指祖師の言句は門 をたゝく瓦子なりとて悟道発明して祖仏をも 一越へ我達徳足れるやうおもへる有り是を一盲衆方 を引とや云ふべき終多羅の教は月をさす指祖 師の言句は門をたゝく瓦也然れどもいまだ月を見 ざれば指に依らでいかで月を見む哉いまだ心門写 かざれば瓦もうたでや有べき聞人是を信ずる も又不信の者也師弟共信実無し古人云師たる 人真実為人の者無しと師は針の如くなればいさ さかも邪路に向けば衆弟皆踏みまよふ源氏 一墨中に。法の路と尋る道をしるべにて思はぬ 山に踏み迷ふかな○され四十余歳の頃まで 一儒学を好み聖人の道は天下国家を平治する実 教にて大道也仏道は悉く空言方便にて論に不 一及三世を立てゝ迷妄苦患を明らめさせむとの愚 一知妄昧の者ども教化する所の逕にして儒に比す つれば論ずるに足らずとのみ心得仏意教意尋ね 問ふ所存もなく打過ぬこそ後悔致事也神儒仏 一老荘武道哥道百家衆技皆是人をして銘々 一具足の信を得させむとの道教にして勝劣論ず る場に非ず或ひは弓馬釼鎗茶巷蹴鞠数多 の諸芸道皆無念の心地に至らしめむ為也術者云 芸の極意に至り無妙の妙旨を得ると学ふ学智 愚利鈍も忘却して只いまだ自心発明せざるを念 として暫時懈怠すべからず心性もとより清浄に して赤肉の中に有と云へども染汚する事無く本 一来清浄にして飢る事無く渇する事なく寒熱 無く病ひ無く恩愛なく眷属なく善悪無く本 一来一物なき也只色身有りとおもふに依りて飢渇 寒熱種々の病ひあり此色身本来空也と知得 すれば時々に貪着の心は有るべからず是世間我 人養生の根元也江月照松風吹永夜清宵何所為 道志之者へ物語付問答 二尊師の道草書何某公御遺書老拙書記之類皆 一信の一字のみ他事無れば只々心眼を以熟読有る 一べし人間万事賽翁が馬皆人足る事を知との 義なり足る事を知るは真之養生にて寿を保 つの良薬なり侍坐の者問ひけるは 問寿をたもたん為足る事を得むとする哉 苓経書に云殃寿うたがはず身を脩て命を俟と 命は天にあり我が知る所に非ず足る事を知て妖 寿うたがはざれば自から寿在其中 足事を得るに道有り 問道何所に有り哉 答 答即今其巳 答 問是を得む事如何 答其方来所を知る哉 問いまだ不レ得善来所を知らざれば去所 をしらす此去来所を知る是足る事を知るの要心也 聖人も生を不レ知いづくんぞ死をしらむと宣ひ我 が生死の去来所を自知せざれば善悪邪正に犯さ 一れ苦患苦悩絶間無し。問生死去来所を得む 一時如何して善悪邪正去滅する哉莟生死 事大也生死根源知得せば生死も亦昨日の夢善 悪邪正水中の影河をか取り河をか捨ん自知すべし 問生死去来何れに向て是を得る答其方二六時 巾発る所の心念生死する根元也同心念争生死 する根源なるや答元来ふ生不滅也生ずれども本 一来所無く死るとも実去所なし其方生れ来ると 思ひ息絶れば死し去るとおもふ心念生死して一 切の苦患と成る是を妄想と云ふ此妄相自己を 責むる妄敵也問無生無死成るを心念より生 一死を見一切苦患となれば此念退去せんには如ず如 同して心念去滅する哉答我か此心念去滅 せむとおもはゞ二六時中暫時もさしをかず信力勇 揺の志を属し我が心源に向て時々刻々起滅す る所の心念何れの所よりおこり何れの所にか去ると 起臥立居言語飲食の間もうち置ず一切事 を成さむ時眼をつけて極め見るべし是直指の 一近道何れの道歟是に勝らむや智愚学ふ学 をいはず此念に犯され有相に著し生死に流 惜し苦悩絶間無く此起源を了知せば生死を 截断して去来無く生滅無く是非邪正一時に破 却して安穏快楽成るべし真の養生最上薬こ れなり。〽いづるとも入るとも月をおもはねは 心にかゝる山の端もなし 一田舎辺鄙は飲食とも厚味の物なく麁食麁菜 一なれば飽食飽酒せず夫のみならず野田山畠稼ぎ 一働き強ければ消へ安き麁食麁菜なを和し女 一有ども妻女のみにて自由ならざれば女色におぼるほ どの義絶てなく名聞名利も知らざれば有のまゝ にて物に着する事なければ常に心気を悩みけ ふ事なく安堵も願はず安心も好まずしてひと り安気也勿論苦しとおもふ心なければ楽を願ふ 一所存も無く何の思慮分別なければ心中煩ひ無し故に 一長寿の者多し養生は年月日々二六時中に有り病 一時に臨み良医名薬を求めむとするは戦ひに臨み戈を 鋳るが如く不レ晩哉必死定業は神仏も救ひたまはず 一智婆が主剤も老を留むる術なく扁鵲が薬も死 を助くる徳なし生死医薬の及ぶ所に非ず 官も位も禄にも足れる尊きや賤しもおなじ むじやうじんそく 無常迅速 老少ふ定すみやか 一医道は仁術にて家続妻子の為の医業に非ず著し 家続身命の為にせば職分にして医にあらず今世医 一師まれなり医は意也心智を開き自己の妄病を退 治し世間の苦病をすくひ国病を治せずんば医と云 ふべからず故に明医は未病を治む已病を治めず ○病時に臨み鍼灸薬を以治せむとす是を名号て 痛医と云ふ救ふ事あたはずと宣へり先づ病者の 病症を分明に見分る事第一也是を分明に見むと 一思はゞ各々医家重宝の一ツの金木あり是を得べし 一是を得る時は諸病悉く移り病症明白に見分る 事日中に黒白を見分が如し是医道道道道道道道医道道之要術也実 々是を得むと思はゞ金匱傷寒論等都て仲景の 書類もさし置き我が昼夜出入呼吸数算へ知るべし 一冠経にあらはし有所の欠数に一息もたがわざる事 一を自知する時医之術を得る也是を得て望軍問切 一の四知をもつて病症を察し湯は蕩也散は散也丸は寛 一成るの主剤をもつて病者に与ふ時は十人は十人百人は 一百人的中せずと云ふ事無し衆病を療ずる事芸 芥をひらふが如く禽獣鳥魚に至るまで悩みを助 けずと云ふ事なし是仁術也昼夜寒暑遠近も忘れ 一上下貴賤貧富男女も忘却して只病苦を救はむ事 を思ふのみ余念無きは是意之医也聊も私の思ひ有 一らは利のみにして物無し只自身を療ずべし自 一厄を治めずして他を治めむ事古今曽て聞か ず大医曰當二妄レ神ヲ定ノ志ヲ無レテ無レ欲無レ求ルト雖モ 一高下貴賤なく一夫一妻は天の免ずる所にて世間の定 一道と云へども交はるに過ふ過有て足らざるは身の養 ひ過るは色欲にて身を削り命を縮む亦定道と云 へども其中に人身に強弱あり土地に旱所水切有 一如く涌水に多少あれば只節を自知して交はる 一豊身の大事を知る也亦外婦を好むは淫乱にて 身を削るのみならず夫婦の情合薄くなれば一家 不和合の基ひ也また主としては下段奴僕に色乱 を教へ親としては子弟に好毛を進め家を乱す助 一身としては次席配下に婬事を免し道すくにて 一勤仕の場もまた危く皆身家を損ひやぶる基ひ 愚妄のいたり論に及ばず只節を知て交はり二 六時中身の大事を忘れず寡酒寡欲にして臍 一下に座し心気を養ふ是真の養生にて長生久 一祝うたがふべからず古今なく他人の知るべき所に非ず 只我独り是を知る 〇色とさけ欲にいのちを縮みけり損恥とこそ いふべかりける。損とは命をちゞむる也恥とは世間恥辱也 ○色酒をかむ酒又色を生ず酒毛兄弟の如し命を縮者是也 ○酒心受を動し色情を生じ強気と成り或は中毒身命危し ○欲心の暇なく気を労し或は持病絶へず生涯知足の期無し 心ひの温らず 心上足れば 身心足る 〇無きにのみ身を成し果しこゝろよりあるに任する 世こそ安けれ 一皆人愚痴妄迷より心を苦めて身を互み命を縮み 一先祖親の家名も不相続して汚名を残す物夫三ツ 色欲。酒欲。欲心。淫欲は身を削り内傷虚 す過酒は内を破損し毒に中り臓腑腐損す 欲心は心底に安堵を得る時日なければ持病を発 し或は労疫す是を除き去らむとおもはゞ即今 此身一大事をわきまふべし智と愚は水と水と氷と の如し氷にて有る時は石瓦のごとくにて自在成 らず色欲過酒欲心も我がよきとは思わざれども 好く所の一念愚妄の跡に閉られ自由ならざるが如 しとくれば本の智水にてものにしたがひとゞ こふる事なし惑ふときは冰の如し了知すれば 一本の直心妙体なり冰に水とならざる冰なければこゝを 一以てよく崩知し暫時外事を指置て我が心念 の起る源を見るべし影に惑へるものは形を見るに如 ず何ものか色を好み何ものか酒を好き何ものか欲 心なる只是水と泳冰は命を閉縮む悪毒。水は流 れて跡なく尽きず自在の良薬 道人は身苦をいとはず龍苦をいとふ 一世人は心苦をいとはず身苦をいとふ 道人は身労して心楽をねがふ 一世人は心労して身楽をねがふ 心楽は真楽にて不可レ尽是真養生 一身楽は假楽にて夢幻の如し是ふ養生 一此身心苦楽のさかひを知得し心身不二無苦楽地 一に至るを真楽と云ふ是生を養ふ無上の良方也 或人云自体独朗也生死善悪一切事心の所現我が歓楽困 苦元一道皆愚迷の所為也是を信服得心せば百日にして 病根絶へ寿を得む事不可疑古今天下一薬是也 古徳云 抱レ一ヲ以レ神ヲ為レ車ト以レ気ヲ為レ馬ト 神気相合シシ可二シ二以テ長生一ス ○老の身のまた著がへる微妙剤不思義と計り きゝし御くすり。 ○禅師法話 一人々成仏とは古今無く即今眼前にあつて有のまゝ成る ものを其まゝに安心する義にて別に他方に向き堺界 をかへて外に光りを求むるに非ず各々祖仏古徳に かわらぬもの具足すれども其本旨をしらざる故に凡 愚迷倒の衆生と成る也然れども迷悟各別のこゝろ 無きがゆへに諸仏も説きたまはず大河の水小河の 一水入れ物は別也と云へども水の性は同きが如し祖仏の 一念不生の心と人々思慮分別の妄想の心と微塵 一計りも隔なければ程も伝へたまはずと譬ば峯とひら地 一との如し高き卑きの名は各別なりと云へども土の性は全 く一ツ成るが如し只生と不生と衆生悟れば其侭仏也仏 衆生ふ二の心性迷悟己が知る所にして他にあづからざ るなり 一何志有る人皆工夫を成す理有る事をしらず終に 一一生空敷すごす深く工夫を成す理を尋ぬればた だ此信の一字也生死事大無常迅速の八字を深 く信じ二六時中如何成るか是自心と念々に暫時 も心を放たず工夫すべしたとへば檜の如し檜の中に 火有り火桧をはなれず檜火をはなれず然るに檜の 一中より火出て還て捨を焼き橋よく火と成る一切衆 一生の身中に仏性有り仏性衆生をはなれず衆生 一仏性をはなれず一切衆生の身中より仏性出て還る 一衆生煩悩の林中を焼きつくし衆生能仏と成る也 心即仏なり心の外に仏ましまさず此故に一心を知 るを如実修行と名付く壁に向き目を閉喧し きを避け寂なるを求むるにあらず道義は他人ゟ 得ぬものと深く信じ尊ば譬ひ祖仏目前に現 じ禅道仏法を以て我が胸中にかたむけ入るゝとも 一実道人ならば受くべからず此心を放とず守て正悟を 求めばいまた了解いたさずともみだりに私の見解を 生ぜず工夫を成す志斯の如くならば何ぞ見性了解 吾が掌中にいらざる事を歎かんや 一愚暗の凡夫一字一句を不レ識も亦是仏也自己霊明の心性を 一識らざれば譬ひ身を破り未塵の如く筋骨をも粉に し覚とも終に得べからず仏とは直心也此心無形相一無因 果一無二筋骨一如二ニ虚空取ト不レ得 一山に入り閑所に籠り人里をはなるゝは生死を賜るゝ故也 一生死の源は亡世念なり妄念の源は無念也無念の源は実相無 相之心地なり ○白山翁道語 一静座住二無念一ニ離レレ迷浄シヲ浄レル垢ヲ故ニ生死夢覚万事如二テ如二テ大虚ノ 出離直道無レ如レ如レ如レ如レ如レ之、実輪回源ハ妄想云々々若断生死 一本夢ニ調レ心ク者観レ心無レ心自空罪禍無自空罪禍毎レ主妄念 空故ニ如ク幻化一来無一所住一去ル無二足跡一無心無念不可 思議寂静洞朗 道本空是是良由二良ニ由二テ衆生起一スル 界ニ一若シ欲レ断二際虚妄ノ生死一ヲ領二依テ依レテ本ニ而觀二法性法性一字觀現 節名為二正覚ト一 一此一大事天地に先立古へに過ぎ今に越へ凡聖の中の堺界 にあらず思慮分別も及ばず是を名付て不思義の法 といふ此法即今人々に倶足すれども自から悟らざるに依 て日々に用ひて知らず盲人の終日大道を行て自から 一見ざるが如し自から見ず知らざる故に是を信ぜず 一走びず只眼前の身命を助からむとおもふ計にて 種々の無尽の業をなして日夜に悪業増長すた とひ百年の齢を保ち七珍万宝こゝろの侭自在也と も只是暫時夢中の幻楽也故に経に曰諸行無常是 生滅法と可レ信 一自心心躰元より十方に遍くしていたらざる所無く世 一界一心にして居住せざる所なく万法として具足せざる所 も無し虚空白体也心とは内に非ず外にあらず中間にあ らず唯是自性の心躰は凡夫にあらず仏に非ず名も 無く字も無く姿もなし念には波浪の如く動き 一起滅すれども自性の心体は大海の如く増さず減 ず動かず念相は生死去来すれども法性本分の真 一躰は常住にして自から湛然たり ○静座和讃 書経は直指の道器にて今も昔の真々ながら 道は跡なく形無し 道は跡なく形無し目前ながらあらはれず 信心ふ二の眼以て見れば闇にも明らけく 秘事は胃毛と聞からは 秘事は胃毛と聞からは難きが中にまた易し 無量の宝珠求めずも此身一ッに充満つる 凡愚素より聖者なり水と波との如くにて 水を離れて波も無く凡愚の外に聖者無し 道の近きをしらずして遠きを尋ぬ愚夫鈍婦 譬へば飯櫃の中に居て飯を尋ぬる如くなり 富夫の家に居ながらも 富夫の家に居ながらも貧苦に逼るに異ならず 父母未生前を尋ぬれば何国の誰がかすなるぞや 生滅知らぬ直心成るに 生滅知らぬ恋心成るに生死取るのも自己が所作 何を隔てゝ生死河や 河を隔てゝ生死河也此岸彼岸も只我が分別 ふ生の生不滅の滅来所聞ねば去所も見ず 河国にも暫し止らば住かへよ。筏を指すが如くなり 一切有為の法は夢本来幻化の如く也 無為法性の都には善悪邪正の花も無し 六芸や五欲に耽る因縁は皆愚知無知の響談より 夢路に響路踏重ねいつか覚べき夢うつゝ 皆此中に籠るなり 品も数多の善根功徳皆此中に籠るなり 自から信心廻向して 直に心仏拝すれば 自心の外に仏なく 自心の外に仏なく直に鍛教をはなるなり 善悪ふ二の門開け 善悪ふ二の門開け邪正一如の道すぐに 無苦楽国の里に出て無躰の神を体として 行くも帰るも我知らず問ふも答ふも無言にて 立居起臥し作す業も無念の念を念として 謡はゞ謡へ舞はら舞へ拍子ぶ様子おとも具も 皆是法の御声なり爰に何をか求むべき 心月孤円明らけく当所に現在するなれば 即今即是此の身侭老せず死せず安穏快楽 〇今そしる冬籠りせる草も木も花に 咲べき種しありとは 〇とひ答ふ言の葉ごとにあらわれてそれとも 見へずかくれざり鳬 ○発心和讃 道は国家を濡す霊薬草木団土一時に実のる 悟は吾身の蘇生薬二度生死にあづからず 道は悟りの門より這入悟りは門の外より這入 悟る悟りは悟りにあらず。未生以前の父の声 万経万書道悟の器心上厳沙一字を縦らず 信の一字は国家の財器万徳万法是より生ず 道外にこゝろ有らざれば心外に往来の道も無し 心外に道を求むるは日の出を西に待つ如し 信力堅固の勇無くはいつか越べく生死海 凡聖と成る其西躰をふ改本是山中の樵夫也 本来真向の直心体何れに転ずる方所も無く 一切万法皆如夢幻本性自空河をか取捨す 毫釐も見所ある時は生を曳き亦種々と成る 円明空の世界には仏も住ず凡も居ず 空王は是無相の公不思善不思悪懈怠せず 無性不思義の体なれば独り虚空に住給ふ 云ひ捨しその言の葉の外なれば筆にも 跡をとゞめざりけり 常に住むこゝろの中の隠家を人の問ひ来る 道なかりける たのむそよもしもまとろむひまあらばふき 敦馬ろかせ峯の松風 ○何某君御遺書之内書抜 此方事は幼少より武芸のみ心がけ書見のいとまなくも ちろんふ心懸にて至て文盲也学才あるものゝ人前にては 何となく恥るこゝろ有之後悔に存候事ども間々有之 一所禅師の示教を受候ては少しも恥ならぬ義を恥と存 じ面皮にもかゝるほどの恥づる事をば恥とも不存居候 事こそ後悔いたす也文盲不才成も強て恥辱にも 一非ずまた広学多才有りとも具足の良知を不 得して河の益かある諸学諸道只是を得るのみされ ば古今上下貴賤をいはず是を得るを道人と云ひ 一是を得ざるを人外と云ふ我ふ学なれば外儒仏の 書も見ず只此禅師教諭法語尊信するのみ。人 多き人の中にも人ぞなき人に成せ人人になれ人と の神詠もあれば人々此五尺の体起臥見聞覚知 の自由は何ものゝ所為歟神儒仏武道心懸るもの 此一事を発明せずんばたとへ博識達学と云ふと も其道の似せもの成べし武士道に信心堅固之 一武士犬死無しとの語あり此意を得ずして信心 堅固なるものあるべからず御あらば皆大死なら ずや三略南木武経披見すべし士農工商の人々 知足の望みあらば即今小事を去て大事を取り 一己れを忘れて物を乞ふべし物はものゝ司にて古 今天下の大宝己れに具す古人云有物先天地無 一形元寂寥と是古今凡聖無く男女無く同躰 一同心の謂ひ直に聞直に見余念なくば即時に得べ し是万病の一薬なり我が命ふ思義に古稀 の齢を保つ全く禅師ゟ凡そ三十年余計の 一齢命をあたへたまはりしと覚ゆれば肝膽に徹し 一或時禅師に向て師一命を扶助し給はる広大 の恩何を以か是を報謝せむと云ひければ師云恩 を思はゞ精進せよ精進是報恩と是亦思はず感 一漁す又世間種々の法は執着を忌む一切留めざれ ば記臆すべき事無しと心ふ生なれば自在を得 水の流るゝ如くとゞこほる事なし道志の族暫時 一も懈怠すべからず命は是天下の本何にか忙せん此命 一を思はざるゆへ不思ふ孝ふ義の汚名を取る也真実 一命をおもふものならで忠臣孝子なし真実命を 一おもはゞ生を不惜死を不憎信力堅固ならば陣中 又は水中火中たりとも恐るゝもの無く自由自在 を得て山河大地心のまし成るべし吾四十余歳の 頃虚労の症疾来諸医も手をつがね既に落命 一に及ぶ所禅師の慈恵に依て我が自業自作の病 ひ成る事を知て即日より心中変改して助 命し今年既に古稀に余れり師曰心者万徳之 注と誠に心は万徳万法の根源也神聖仏の明言 一問語ありとも心用せざれば寸功なく命もまた無し 一信用し心行する時は即効あり功徳ありて命も又 寿を保つ皆信不依の知る所信不信は一心の知ると ころにて生もこゝろ。死も心。生死の外に遊行するも 一また是心。これ心は万徳の主ならずや信力堅固 一に精進し我を殺し六親眷属および万物 ともに悉く殺し了て是を見よ○〽爪売がかた 荷のうりを売きつて残る片荷はなすびばか りぞ。是教外以心伝心也また是を見るべし 燈火の消へて行乗も無かりけりくらきか 元のすみ家にもなく 一吾幼年より弓馬を初め武術に心を悉年極意に至り 一無体之体無用之用成事を了知し自在を得たり 哥に これぶだう おのつから移れは移る胸すとも月も思はず水も思はし 草のはに結はぬききの白露は何をたよりに置はしめけむ 豊民遺に限らず諸盞道三才ぬ回教も此哥に明白也又。諸道も一つに帰す る時や来てあかぬ詠の白雲万里○と口すさみて只非情の草 一木風月山水を楽みとして食を厭ず福を親まず貴 一賎と云へど尊敬せず下しまず他に施すと云へども受る 事を思はず天地同根の地に住し口を明かず山海の珍味を 食し古今不変色の衣服を着し何か足らざる事無く 自由自在也武士は諫言を悦び過ては改め仇を赦ずる 一にも恩を以て為る時は天下に敵無し心地能からむや孔 老何人ぞ今日は三日明日は三日明日は八日後時後刻を待た ず明師を求よ道徳に親近せよ是を得れば壽を得是を 得ざる時は命を縮む長短我独り知る 右御達書中書抜に候只ふ生にして変に可レ応と為々御示教 一候よし御道徳奉感候内々書写し置候故出之候心覚迄写 取候へば誤字誤言多かるべく奉レ存候八郎兵衛 長寿秘伝鈔下畢 良薬口に苦くとも病ひに利ある事 は皆御冠へのやう候へども自心取て服 用あらざれば効無く仍て貴き賤き となく誰も彼も手づから取用し て心服有れがしと愚せ所存だけ 平生養生秘決拾ひ書記し進 覧にいれ候御心服あり信用あらば 諸病諸悩一時に除滅して安穏 快楽を得らるべし深寿亦在玄 中若疑ひあらば即時信服して 御試有るべく候あなかしと 経云 是好良薬今留在此 汝可取服勿憂不差 直指亭主人識 一原堂蔵版 京都書林 橘屋嘉助 同 木村吉右衞門 大坂書林 藤屋弥兵衞 江戸書林 須原屋茂兵衛 同 乙三十一日丁岡田屋嘉七